魔法使いの孤独   作:飛び回る蜂

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5 The end justifies the means.

 僕達は今、四人でテーブルを囲んでいる。

 時間的にはお昼、この際だからみんなで昼食を取ろうということになった。

 

 

 

 

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ…………」

 

 

 

 食べ始まって数分。僕には最早誰の言葉も届かなくなってしまった。

 

 

 

 

「美味しそうに食べてくれるねぇ!」

 

「多分、私達の声も届いてません。……本当に元気そうでよかったです」

 

「本当にな。これであと一日遅かったらと思うとぞっとしない……」

 

 

 

 メインは若鳥のから揚げ。ジューシーで噛むと肉汁が出てくる。

 ニンニクと生姜、醤油でしっかりとした味がついていてとても美味しい! 

 ご飯のおかずにピッタリなこの塩梅は、家庭料理への慣れを感じる。

 これを作った人が振る舞いたい人にとって、一番の味付けなのだろう。

 添えているキャベツの千切りも鮮度がいいのか頬張りたくなる。

 

 

 

「箒ちゃんなんで敬語なの……? それにこないだまでお姉ちゃんって言ってくれたのに……お姉ちゃん悲しいよ……?」

 

「泣きそうになる程ですか!? 私だって成長してるんです!」

 

 

 

 次は鯖の味噌煮。一緒に添えられているのは大根とネギ。

 身がとても柔らかくトロッとして、味噌の味の優しさにホッとする。

 大根は箸で切れるほど柔らかく、ネギは長ネギを一口大に切ったものを一緒に煮たのかな。

 味がしっかり染みていて箸が進む。アツアツなのも嬉しい。体が温まる。

 

 

 

「束? お前は散々家族に迷惑をかけておきながら、娘と世界旅行に行っていたんだぞ。拗ねられても仕方ないだろう」

 

「よ、よもや私ともあろうものが箒ちゃんを蔑ろに……っ! 箒ちゃんごめんっ!!」

 

「す、拗ねてなんかいません!」

 

 

 

 中くらいの皿に置いてあるのは小エビの唐揚げ。

 脂取り紙の上に置かれたそれは塩がまぶしてあり、一口食べると旨味が湧き出る。

 しょっぱさで言えばお酒のつまみのような味の濃さだが、疲れが残る体に染み渡る。

 

 

 

「……迷惑はかけられましたよ。友達は出来ないし、習い事もできないし、帰り道はずっと誰かがついてくるし。……姉さんは助けてくれないでどっかに行っちゃうし。その癖どっかの国のお土産ばっかり寄越してくるし」

 

「……ごめん。寂しい思いをさせちゃったね。これからはそんな思いさせないからね」

 

 

 

 おかずと一緒に食べるご飯はつやつやして光り輝いてる。

 かつて米は銀シャリと呼ばれていたようだがその名に恥じない。

 味の濃いおかずと食べるともう止まらない。

 

 

 

「さっ、ご飯食べよ! このままじゃアランに全部食べられちゃうよ!」

 

「そう言えば束。お前はクローリスと親交があるのにあだ名で呼ばないな。何故だ?」

 

 

 

 味噌汁は赤味噌を使った豆腐とネギと油揚げのシンプルなもの。

 しっかりと鰹節で出汁を取っているのか香りが素晴らしい。

 後味が尾を引かずいくらでも飲めてしまう。

 

 

 

「むぐむぐ。……んー、私そっちの感性に疎いからその辺説明するの難しいんだよねー。アランが言うには、彼らのような存在にとって「名前」って凄く大事なものらしくてってね? 本名や通り名を言うにも結構厳しいマナーがあるらしいのだよ」

 

「ね、姉さん。どういうことかさっぱりわかりません。いえ、名前が大事だというのはわかります。しかし、「彼らのよう」というのは?」

 

 

 

 サラダは玉ねぎと大根のスライスに和風のドレッシングがかかっている。

 二種類の野菜はどちらも瑞々しく、味の濃いおかずの後に食べるとさっぱりして最高だ。

 そうなるとついつい、次のおかずに箸が伸びてしまう。

 

 

 

「箒ちゃんも見たんでしょ? アランは正真正銘の魔法使い。彼らからしたら本名は存在を縛る言霊になりかねないから軽々しく扱っちゃいけないんだよ」

 

「既に互いの名前を知っていてもですか?」

 

「箒。了承を得ているからと言っていきなり家の中に入ってくる方と、ちゃんとチャイムを鳴らして本人の了承を得てから家に入る方、どっちの方が印象がいい?」

 

「……なるほど?」

 

 

 

 

 

 水、そう水もいい。いやお腹空いてたらなんでも美味しく感じるのかもしれないが、水は意味合いが違う。

 コップ一杯の水に氷が二つ。僕個人としてはこれくらいがとてもちょうどいい。

 飲み終わるころにちょうど氷が溶けきるからだ。

 その冷たさで口の中を洗い流し、次の料理への期待を高めてくれる。

 

 

 

 食べた分が胃に満ち、魔力になっていくのが分かる。身体に活力が湧く。

 

 今になってわかる。

 

 僕は日本料理が大好きだ。

 

 

 

 

 

 

 楽しい食事の時間は過ぎ、残らず皆で食べきって手を合わせる。

 

 

 

「ご馳走様でした。……その、ロクに会話もせずごめん。あまりにも美味しくてつい……」

 

 

 

 食後の片づけを手伝いながら謝る。随分夢中になってはしたなくがっついてしまった。

 

 

 

「えっへへー。束さんと箒ちゃんが頑張ったからねー! ちーちゃんは……うん! ちーちゃんも頑張った!」

 

「笑ってくれ。わたしはサラダしか出来なかった……。君との誓いを守れなかった……」

 

「気にしなくていいよ。携わっているだけでもちゃんと契約の履行はされているからね。……っと、君が箒さんで合ってるかな? ここまで挨拶もなしに食事しちゃっててごめん。僕がアラン・クローリスだよ。よろしくね」

 

「い、いえ。篠ノ之箒です。よろしくお願いします。この度は助けていただきありがとうございます」

 

「うん、どういたしまして。敬語は無理して使わなくていいからね」

 

 

 

 とても大人びた子だ。いや、そうならざるを得なかったのかもしれない。

 身内が束だと苦労するね。気持ちはよく分かる。

 

 

 

「そういえば僕が眠ってる間何があったのか聞いてもいいかい?」

 

 

 

 そのあたり気になるなぁと思い、食後の話題にと聞いたんだけど……

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

「え。なんでそんなお葬式みたいな雰囲気醸し出すの。こうしてごはん食べれるってことはそう悪いことは起こってないんだろう?」

 

「ああ、うん、そうだね。悪いことは起こってないし、むしろ状況的には好転してるよ。でもね……」

 

 

 

 

「……そこに至るまでの経過が悪すぎたと思うと、な。特に私は……ああ……すまない……」

 

「大人数に誘拐されかけ、目の前で犯人の手足が裂かれて、その実行犯兼、恩人らしき人の胴が分かれて……。助けていただいた身で、その、本当に申し訳ないんですが。あまりに多くのことが起きすぎて夢に出そうです……」

 

「皆をそこまで追いやったのは私がきっかけだしぃ……」

 

 

 

 ……箒さんに関しては、専門の医療機関に一度行くべきかもしれない。

 今後フラッシュバックでもしようものなら日常生活に差し障りそうだ。

 

 

 

「千冬さんは状況が悪すぎたよ。僕はあの場じゃなくても不審な恰好ではあったし、箒さんの手を引いてその場を去ろうとしていた。過剰な攻撃ではあったものの、僕が疑われるようなことをしていたのも事実。恨みはしないよ」

 

「ああ、ありがとう。だがしばらくは自分を戒めるとするさ……」

 

「とりあえず簡単に纏めるよ。あの後束さんが現場に到着、あいつらを全員捕縛。一人尋問の為に残して全員牢屋にぶち込んだよ!」

 

「……彼かぁ。ご愁傷様」

 

 

 

 十中八九彼だろう。他の仲間のことは知らないが、彼はあの中で一番マシだと思う。僕だってそうする。

 

 

 

「国で保護を謳っておきながらあのザマだったからね。直接乗り込んでいろいろ権利を勝ち取ってきた! お母……母親と父親も今こっちに向かってるからね、褒めてくれていいよ箒ちゃん!」

 

「……ありがとうございます。でもちゃんと母さんと呼んであげてください」

 

「今更どの面下げて言えばいいのさ~~~……。自分が親になって、自分のやってきたことが全部自分に返ってきたよぅ……」

 

「親の心子知らず、だね。ちゃんと謝ってくるんだよ」

 

「はい、分かりましたぁ……じゃなくて! まぁ、状況はそう悪いもんじゃないよ。君のことは国に知られてないし、ちーちゃんはいっくん……一夏くんっていうちーちゃんの弟ね、を待たせてるからこの後帰らなきゃだけど」

 

「そうか。ならその子が帰る前には帰ってあげた方がいい。おかえりと言ってあげてほしいからね」

 

「……そういうものか。分かった。夕方までには帰ろう。感謝する」

 

「うん、弟さんにもよろしく言っておいてほしい」

 

 

 

「……クローリスさん。少しいいでしょうか」

 

 

 

 談笑を続けていると箒さんから声が上がる。

 

 

 

「ん? どうしたんだい箒さん」

 

「貴方は姉さんたちよりも年下みたいに見えるのに、凄く大人びて見えます。いえ、日本人は若く見えるとかそういうのではなくて。どうしたら貴方のようになれますか?」

 

 

 

「えっ」「あっ」「ん?」

 

 

 

 僕の呆けた声、束の何かに気づいた声、千冬さんのよく分かってなさそうな声が重なる。

 大人びても何も、僕は年齢的には老人一歩手前。

 魔法使い的にはまだまだ若輩だけども、大人も大人だ。

 

 

 

「アラン、君見た目と年齢が一致してないの忘れてない?」

 

「……あっ。そうか、そうだったね」

 

 

 

 しまった、束には電話で話す時に教えていたから、つい皆知ってるものだと勘違いしていた。

 

 

 

「束、どういうことだ。彼は同い年か下くらいではないのか?」

 

「あー、うん。本人に聞いて? 私正直ね、自分の身体のスペックに自信あるけどこうはなれない気がするし」

 

「……つかぬことを伺うが、おいくつで?」

 

 

 

「……もうすぐ50になるね」

 

 

 

「なっ50!? 青年、下手したら少年だろうその顔はっ!!」

 

「女の敵だ……」

 

「まっそうなるよねー。魔法使いって皆そうなの?」

 

「どうなんだろう、個人差が大きいと思うけど。お世話になってる道具細工の人とか僕と同じくらいだけど僕よりずっと大人らしい外見だし」

 

「アランはねー、薬の調合とかもやってるし、私たちが思ってるよりずっと大人だよ? 地域ごとに住民をリスト分けして患者のカルテも作ってるんでしょ?」

 

 

 

 僕はこの世界でちょっとした薬剤師のようなことをしている。

 羽鳥さんやエリアス殿のやってることに近い、僕の数少ない収入源だね。

 

 山奥の農村、言ってしまえば田舎の方では未だ信心深い人はいる。

 そういった相手にひっそりと商いを続けている。

 

 ……薬機法? 詐欺? 違う、それは違う。

 ちゃんと効果はあるし副作用も無い。

 指定医薬品だって使っていない。

 使ってるのは魔力と呪文、栽培してるハーブだけ……聞くだけだと非常に外聞が悪い。ここは言わないでおこう。

 

 

 

「さて、僕はそろそろお暇するよ。薬を待ってる人もいるし、魔力を使い切ったから一度家の設備も確認しないと」

 

 

 

 危惧してるのが、家のマーキングが外れて座標が分からなくなること。

 家は絶えず違うチャンネルの中を移動しているから、定期的に確認しておかないと見失ってしまう。

 

 

 

「そっか。……ねぇねぇ、相談なんだけどさ。その家って私とか箒ちゃんも行けたりする?」

 

「ん……そうだね。調べてみないと何とも言えないけど、魔力をある程度保持、かつ「あちら側」への敬意と理解があるなら連れて行けるんじゃないかな」

 

「ほんと!? じゃあさじゃあさ! 箒ちゃんとクーちゃんに見せてあげたいんだ! お願い!」

 

「調べてからならいいよ。その時はちゃんとした魔法も見せてあげよう」

 

「うっ、魔法ってあれですか。斬ったりする感じの……?」

 

「ああ違うよ! 安心して、ちゃんと魔法使いっぽいことするから!」

 

「箒ちゃん、本格的に病院行くの視野に入れとこうね。ついでに政府からいろいろ踏んだくろうね」

 

「程々に、ね。それじゃあ、また。何かあったら束が家の番号を知ってるからそこに」

 

 

 

 

「この恩義は忘れない。いつでも会いに来てほしい」

 

「ありがとうございました!」

 

「まったねー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……いけないな……」

 

 

 

「いつか帰ると決めたのに」

 

 

 

「また、こちらにいる理由が出来てしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。良かった良かった、そこまで座標はズレてなかった」

 

 

 

「……ん? なんだあれ。家の前になにか、人かな?」

 

 

 

「……もしかして子供? 参ったな、この家は妙な()()()()()()のかな」

 

 

 

「君、こんなところで寝てたら風邪を───」

 

 

 

「……ッ! 冷たい。これは雨の匂いか」

 

 

 

「こんな小さな子が雨の中裸足だなんて、いったい何が……いや、考えるのは後にしよう」

 

 

 

「この香りはキク、()()()()()()かな。となると……忙しくして悪いけど束に聞いてみよう」

 

 

 

 

 

 




「目的は手段を正当化する」

「嘘も方便」
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