ドラゴンクエスト~世界は砕けて千切れて混ざる~   作:鈴亜サクサク

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シズニアンの町、夜、酒場

 ギルドを後にした竜仁が腹ごしらえをする為として連れてこられたのは近場にあった酒場。

 場所柄か、あるいは酒に煽られたせいなのか血の気が多い人間が多い。

 店の扉を開けた時には、既に店内で取っ組み合いの喧嘩が勃発していた。

 

 「あれはそんな珍しいもんでもないよ。冒険者にとっては日常茶飯事だ」

 

 二人がテーブル席に座ると、店員の女性がメニュー表を持ってきてくれる。それが中々に分厚い。

 パラパラとページをめくってみれば分厚さ相応の種類のメニューがあるのが見えた。

 

 「店員さん、先にビールを頼むよ。竜仁も飲むか?」

 「俺はいいや。そもそも飲めないし」

 

 ビールは注文後間も無く木製のジョッキに入れられて運ばれてくる。

 竜仁には冷水がこちらも木製ジョッキに入れられた状態で提供された。

 中身は酒ではないにしろ、自分がゲーム内でしか見たことないような酒場で飲んでいるのだとより感じさせてくれる。

 

 それから種類豊富なメニューの選択に悩ませながらも、竜仁はビーフシチューとチーズフォカッチャを注文。

 サザレはポークチョップとパンプキンパイを注文した。

 

 「それでさ、さっきの逃がすつもりはないってのはどういう事なの?」

 

 竜仁は水を飲んで一息ついてから聞く。

 

 「うぇ? そのまんまの意味で捉えもろていいよぉ。君の旅路に付いていくんだ。よぉは暇潰しぃ」

 「酔った?」

 「そんな訳ないじゃん。クヒヒ」

 

 真面目に言ってるのか酔いどれの戯言か。

 サザレは既にジョッキのビールを飲み干し、顔を赤らめている。

 竜仁は聞き流すことにした。

 

 しばらくして料理が運ばれてきて、そのタイミングでサザレはビールのおかわりを頼んだ。

 料理の味は普通に美味。だが、日本でも店に行けば普通に食べられそうなものだった。舌に合う味だったのは竜仁にとって良き事である。

 

 料理を堪能している間にも新たな客が店の扉を開く。

 それだけなら変な話ではないが、竜仁が思わず手を止める程に気になったのは客の様相。

 三十、四十代位の男で、サラリーマンような紺色のスーツを身に纏っている。それだけでも酒場ではミスマッチなのだがその男、静かにだが怒りを抱いているように見えた。

 そこへ絡みに行ったのは若く柄の悪そうな酔っぱらい。

 

 「よぉ、おっさん。湿気た面してんじゃえねぇか。酒も不味くなっちまうぜ?」

 

 そう言って馴れ馴れしく肩を組む。

 仲間なのか数人の周りの男もやいやいと囃し立てる。

 

 「止しとけ」と思った竜仁が次に見たのはスーツの男が酔っぱらいの組んできた肩をナイフで突き刺すところだった。

 ナイフは本物のようで、刺さった箇所から血が垂れる。

 そして酔っぱらいは声を出す前に力無く、床に倒れた。

 

 「え!? さ、殺人現場!?」

 「落ち着きなよ。寝かされてるだけだからぁ」

 

 冷静になって見ればわずかに体が動いているのが分かり、ひとまず死んだわけではないと確認できる。

 

 「ラリホーでも食らったのか?」

 「今のはスリープタガーだ。呪文ではないよ」

 

 スーツの男は自分が刺した酔っぱらいには興味も無いのか全く見向きもせず、お気に入りの席でもあるのか迷い無くカウンターの前まで歩いて行った。

 

 倒れた酔っぱらいを起こそうとする仲間に対しては他の客から「あいつが機嫌悪い時に近寄っちゃあいかんよ」「最近ここに来たばっかかい? なら知らんくても無理はねぇな」と、からかわれている。

 有名人のようだが、竜仁は当然知らない。

 

 「実際あのおじさん、誰なんだ?」

 「私達が会おうとしたタムオーンさんだね」

 「それマジな話?」

 「マジマジ。酒場にはしょっちゅう入り浸ってるらしいけどお偉いさんだよ」

 

 竜仁は正体を知って、もう一度タムオーンの方に目を向けた。

 彼は一言も喋らず、ジョッキの酒を煽っていた。

 さっき繰り広げられた光景を見て声を掛けに行く勇気はない。

 なので今日は夕食を楽しむことにして、物語が進むのはまた翌日

 


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