ドラゴンクエスト~世界は砕けて千切れて混ざる~ 作:鈴亜サクサク
ゆうべは おたのしみでしたね。
昨日出会った男女がそんな仲になるわけないが、宿屋でぐっすり眠った二人は朝からギルドへと足を運んでいた。
早く来たおかげか昨日アポを取ったおかげかギルドマスターのタムオーンの元へはすぐに案内される。
「タムオーンさん、お客様ですよ」
案内してくれた女性が扉をノックしながら呼び掛けると、中からしゃがれた声で「入れ」と一言返ってくる。
それから扉を開くと一番に入ってきたのは鼻への煙草の匂い。
「し、失礼します」
「おう。まぁそこに腰かけてくれよ」
タムオーンは空いているソファを煙草で指す。
竜仁とサザレはそこに座り、案内の女性は閉められていた窓を解放してから部屋を後にした。
部屋には三人になり、タムオーンが煙草の火を消してから話を切り出した。
「用件はなんだ?」
「あっとですね。新しい旅の扉を発見したのでその報告に来ました」
「へぇ? そりゃどこだ」
暑くてじめっとした森の茂みの中。
竜仁が持つ情報はそれだけで、森の地図が頭に入っておらず明確な位置を言えない為、言葉に詰まる。
そこを代わりに説明を繋げてくれるのはサザレだ。
「場所は熱森林ハテラ。扉の位置は……地図が欲しいです」
「分かった。ちと待ってろ」
タムオーンは本棚から一冊の本を取り出し、その場でパラパラとページをめくってから間も無く、二ページに渡って書かれた地図、熱森林ハテラの地図を竜仁達の前へと差し出す。
「この中腹の……道が上と左とで分かれる所の茂みを通った先にありましたね」
「あぁ、その辺か。行くの面倒だし暇な奴に向かわせるとするかね」
タムオーンは地図を手に一旦部屋を出る。
3、4分経って戻ってきた時、地図は誰かに渡してきてるのでその手には無かった。
「さて、今さらだが小僧。お前何者だ?」
竜仁はそう言えばまだ名乗っていなかった事に気付く。
手遅れかも知れないが、後の交渉の為にも最低限の礼儀として名乗ることにした。
「竜仁です。この町には昨日来ました」
「道理で見た記憶がねぇわけだ」
タムオーンが疑問に思ったのは竜仁が冒険者としてはあまりにも弱そうだという点。
冒険者を束ねる立場上、ある程度は街を拠点とする冒険者の顔は把握しており、もし竜仁のようなのがいればいやでも記憶に残るはずだ。
そもそもただの町民ではないか?
だったらはじめからこんな所には来ない。
「例の旅の扉の先から来て、サザレ姉に案内されて……今に至りますね」
「あっ、その呼び方で定着したんだ」
「となると訳アリっぽく感じるな。あれか、家出でもしたか?」
「家出はしてないっすけど、頼みたいことはあります」
「聞いてやろう」
「安住の地を求める魔物達をここに住まわせたいなと」
それを聞いてタムオーンは困ったような表情で頬をニ、三回指で掻く。
「お前の気持ちを無下にするようで悪いが、そりゃ無理だ」
「えー!?」
先に驚いたのはサザレ。
竜仁はあっさり断られたのよりもそっちで驚く。
「タムオーンさんなら何とかしてくれると思って連れてきたのに……」
「お前は俺を何だと思ってんだ」
「権力者です」
「……その通りだな」
タムオーンは親指だけを立てて、壁に並んだ本棚を、北の方角を指す。
「俺はともかく、ウィンターの頭でっかちが許してくれねぇだろうな」
「ウィンターって誰?」
竜仁の頭の中には冬の景色が思い浮かんでいる。
「正義ギルドのマスターだね。町の平和を第一に考えてるよ」
「だから魔物は絶対住まわせてはくれないだろうな」
「そうなると……」
「次を考えるのはまだ早い。ここから近い魔物が住める所を教えてやる」
この作品モンスターか魔物かの呼称が安定してねぇな。草