ドラゴンクエスト~世界は砕けて千切れて混ざる~   作:鈴亜サクサク

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死霊が支配したアレフガルド
死霊が蠢く町


 旅の扉の出口。そこは影に覆われた町だった。

 ただし、人の姿は無いし、気配すらもない。悲しくなるほどに静かな町だ。

 だが建物には破壊されたような跡はなく、探せば人の一人や二人はいそうな雰囲気でもある。

 

 上を見上げれば、ひたすらに巨大な紫色の物体が浮いている。正確には何処からか伸びる糸のようなもので持ち上げられていた。

 もし支える糸が千切れでもして紫の物体が落ちてきたら竜仁もゴーレムも逃げることは叶わず押し潰されるだろう。

 それよりも危惧すべき驚異はすぐそこにあった。

 

 「話合いは……出来そうもないか」

 

 そこかしこから生気なくゆらりゆらりと湧き出る死霊達。

 がいこつやドロル、ボーンバットなんかもいる。

 そいつらは自分達とは種族が異なる竜仁達を排除すべく行軍を始めた。

 中でもボーンバットは空を飛べることを活かして直接竜仁を襲う。

 

 「散れ散れっ!」

 

 追い払おうと闇雲に腕を振り回すも、ただの一少年の抵抗はお構いなしに頭突きをかまそうとした。

 

 「ゴーレム! こいつら追い払ってくれ!」

 

 竜仁が命令するとゴーレムは拳を構え、向かってくるボーンバットに強烈なパンチを食らわせた。

 硬い拳からの一撃でボーンバットは軽々とふっ飛び、地面に落下した所で青い光となって消える。

 

 「ってうおっ、危なっ!」

 

 もう二匹が竜仁目掛けて突進。

 身を屈めて回避したところに、地面のドロルが毒液を打ち上げた。

 竜仁に直撃はしなかったものの、ゴーレムの肩に毒液が当たり、飛び散った飛沫を浴びてしまった。

 

 「うげぇっ、汚ねぇ」

 

 物理的なダメージは少ないが、妙な生臭さとネバネバが竜仁の精神面に大きなダメージを与えた。

 しかし、ネバネバを気にしている暇なんてものはなく、追撃はまだまだ終わらない。

 ゴーレムが竜仁に攻撃が届かないよう何とか凌いでいるが、上下左右からの攻撃に対処が追い付かなくなるのは明らかだった。

 

 「早く離れよう! 正面突破だ!」

 

 竜仁の頭の中からどの方角に新たな旅の扉があるのかは既に抜けていた。

 死霊の包囲網が比較的薄い箇所を指差すと、ゴーレムは両腕を左右に広げ、そのまま突進。

 圧倒的な力で建物ごと死霊をなぎ倒し活路を切り開いていく。

 進む先にも死霊が待ち構えていたが、戦車のような勢いで突進するゴーレムに敵う者はいなかった。

 

 いよいよ包囲を抜けて町から脱出しようとする竜仁達に立ち塞がったのは外周を囲う強固な壁。

 本来ならモンスターの襲撃から町を守るための物だろうが、今はその強固さが仇となっている。

 

 「ゴーレム、突き破れ!」

 

 ここまで竜仁の命令には従ってきたゴーレムだが、今回は壁を前にしばらく立ち止まった後、進路を左に変えて猛進を続けた。

 進む先には一ヶ所、壁が広範囲にかけて崩れている所が存在している。そこから町を脱出しようとしてるのだろう。

 

 「壊したくない感じか」

 

 この行動で竜仁はこの町はメルキドであること。初めてゴーレムを見た時に浮かんだ情景は実際の出来事であったと考える。

 同時に襲撃の跡もなく、建物が綺麗な状態で残っているのに人間が全くいないのは何故か、という疑問が新たに頭の中に浮かぶ。

 

 その疑問を消化する暇は与えられず、次の襲撃者が現れた。

 屋根の上に乗っていた四匹のがいこつ。

 ゴーレムが近付くとカタカタと音を鳴らしながら、竜仁に斬りかかろうと屋根から飛んだ。

 その内の三匹は無様に落下し地面に打ち付けられたが、残りの一匹がゴーレムにしがみつき、竜仁に攻撃をくらわせようと剣を振った。

 

 「うぎぁっ!」

 

 切れ味の悪いなまくらの剣だったが、鎧も装備していない人間に血を流させるのは難しい話ではない。

 縦に下ろされた剣は竜仁の胸から腹を斜めに切り裂いた。

 傷は浅く命に別状はないが、生暖かい血が体を伝う感触、それと痛みのせいでゴーレムから転げ落ちそうになる。

 なんとかこらえて体勢を整え直すも、がいこつは再度竜仁を斬ろうと剣を構えていた。

 

 「てめっ! 止めろ!」

 

 竜仁のがむしゃらな体当たり。

 がいこつは体勢を崩し、そのままゴーレムから落下する。

 竜仁も勢いあまり共に落下してしまう。

 この高さから地面に叩き付けられたらただでは済まない。

 打ち所が悪ければ……死もあり得る。

 眼前に迫った死の恐怖に竜仁は目を瞑った。

 

 「あ、あれ? 意外と近い?」

 

 次に目を開けた時、竜仁はゴーレムの掌にうつ伏せで転がっていた。

 起き上がるのを確認したゴーレムはすぐに壊れてしまうような物を動かす手つきで竜仁をまた己の頭の上に乗せる。

 

 「ありがとな」

 

 出口まではあとわずか。

 死霊達の剣が、毒液が、呪文が竜仁達に襲い掛かるがダメージになるような一撃が届くことはなかった。

 

 そして既に壁が開けた箇所から町を抜ける。

 町の外には広い大地が広がり、遠方には禍々しい城が聳え立っていた。

 死霊達はもう追っては来ていなかった。

 


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