デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第一章 序章
第一話 父を目指してみる


 物心ついたときには、自分のことについてはっきりと思い出せるようになっていた。

 

 17歳という若さで、草原の王国フォルセナ随一の剣士と謳われた青年。

 

 そう、聖剣伝説3に出てくる6人の主人公の内の1人、デュランになっていた。

 

 以前の自分については思い出せることは少ない。

 

 聖剣伝説3の物語についてや、かつての日本の文化などは、不思議と頭に思い浮かべることができるが、前世の自分に関する情報はまったくわからない。

 

 聖剣伝説3についても、デュランルートしかプレイしていないというちょっと曖昧な記憶なわけだが、世界が崩壊の危機に陥るって知ってるだけでも儲け物だと考えるべきだろうか。 

 

 さて、今の年齢は4歳。恐らくだが、17歳のときの剣術大会後に、紅蓮の魔道士が攻めてくるはず……。

 

 そのときの襲撃で生き残れる気がしないんだが?

 

 紅蓮の魔導師さんの舐めプで偶々見逃された感しかなかった記憶。

 

 だって瞬間移動みたいな真似するし。あのシュシュンってやつ。

 

 カッコいいけど、現実だと笑えないから困る。どうやって剣で斬りつけんのかって。

 

 ってか、あの魔法は何だって感じなんですが。

 

 ……やめよう。前向きに考えるんだ。

 

 でないと、こうして必死に木刀で素振りしてんのが馬鹿らしくなってくる。

 

「やってるな、デュラン」

「父さん、遠征は終わったの?」

「ああ、またしばらくはゆっくりできそうだ」

 

 声をかけてきたのは、茶髪のナイスガイ、黄金の騎士ロキ。

 

 後に竜帝と刺し違え、ドラゴンズホールの谷底に落ち、黒耀の騎士として竜帝に操られてしまう運命にある俺の父親だ。

 

 できることなら助けたい。

 

 しかし、良い手が浮かばない。そもそも戦いに行くときには、俺はまだ5歳だ。

 ウェンディが生まれて、元気にハイハイしてたのを考えると、誕生から8か月くらい。

 

 あと1年ほどだ……。今の俺にできることはほとんどない。

 

 いや、少しでもこの黄金の騎士から技術を吸収することだけか。

 

 どうしようもできない中で歯痒い気持ちはあるが、何もできないなりに足掻いていたい。

 

「父さん」

「どうした?」

「基礎だけでもいいんだ。剣を教えてくれないかな? 父さんがいない間にも、俺強くなりたいんだ。家族を守れるくらいに」

「……そうか。だが、お前にはまだ——」

「早くなんてない。1日でも早く、父さんを助けたいんだ」

 

 そうだ。俺は父をむざむざと死なせたくない。その慈愛に満ちた瞳に、ありったけの気持ちを込めて視線をぶつけた。

 

 家族を残したことを最後の戦いで後悔させたくない。

 

 俺がいるから大丈夫だと、そう思わせたい。

 

 例え小さくても、ロキの息子であることに胸を張って父を送り出したい。

 

「少し見ない間にも、成長するものだな……。お前の覚悟、父はしかと受け取った。やるからには、息子であろうと手加減はせん。全力でついてこい!」

「はい!父さん!」

 

 

 

 

 

 4歳の身では、多くの技術を習得することが難しかったが、理論や知識は身体を動かす以外のときにも聞いて記憶していく。

 

 ゲームではあまり知的な面は少なかったが、デュラン自体の頭はかなり賢いらしい。これで知性と精神が低いとかどういうことだ……。

 

 それとも転生の影響だろうか。

 

 修行に明け暮れ、あっという間に1年が過ぎ、父との別れの日が近づいてきた。

 

 ウェンディが生まれ、家族の幸せを噛みしめていた頃から、竜帝の活動が街でも噂されるようになってきていたのだ。

 

 嵐の前の静けさというか、父が家を空けることは少なかったが、母のシモーヌは、そんな父を心配させまいと明るく振る舞っていた。

 

 原作のデュランよりも、子どもらしくなかったかもしれないが、剣の修行もこなしつつ、ウェンディの世話を第一にし、母への負担を減らすよう努めた。

 

 しかし、少しずつ母の病は進んでいるようで、最近体調が優れないようだが、そのことを隠している。

 

 父にこのことを話さなくていいのか?

 

 母は、わかっている。そのことを知れば、父が戦いに赴けないことを。原作知識などではなく、同じ家族として、仲睦まじい2人を見ていればわかる。

 

 俺は、2人ともを失いたくない。

 

 最悪、俺のことはいい。だが、ウェンディはどうなる。父も母の顔も知らないなんて、そんなことがあっていいのか。

 

 いや、なんとかしないと。

 

 

 

 それからまもなく、リチャード王子とともに竜帝退治へと旅立つ話が出た。

 

 母さんは、気丈にも何も言わずに見送るつもりだ。

 

「父さん、待ってください!」

「デュランよ。待つことはできん。多くの人々が、竜帝の悪事により苦しんでいるのだ。黄金の騎士として、私は王子とともに務めを果たさねばならんのだ」

「ならば、一つだけお願いがあるのです。どうか何も言わずに、リチャード王子と話をさせてください」

「王子と?」

「それが叶うのならば、父さんに私は、二度と我がままは言いません。騎士として、二言は無いと誓います」

 

 正確には、まだ騎士ではないが、この言葉はきっと父に届く。そう思った。

 普通の身分なら無理だろうが、ロキの息子で、そして、父はやれる範囲のことはやってくれるのだ。

 

 ……そういう真っ直ぐな父だからこそ、死なせたくないのだが。

 

「わかった。ならば、騎士として誓いを立てよう。シモーヌ、見届けてくれるか?」

「ええ、でもあなた、いいの?」

「王子も嫌とは言わないだろう。前から会ってみたいとは言っていたのだ。それに——」

 

 父は、真っ直ぐに俺の顔を見た。何て優しい顔をしているんだろう。

 

「デュランが騎士を志してくれることが、嬉しいのだ。まだ5歳だが、この子の意思は本物だ。親馬鹿だと、私を笑うかい、シモーヌ」

「ふふっ。なら、私も親馬鹿になるわね。見届ける証人となること、誇りに思うわ」

 

 な、なんだこの甘い空間は。

 

「2人とも、ちょっと恥ずかしいんだけど」

「すまないな、デュラン。さて、私はお前を王子に会わせることを約束しよう。代わりに、私からも頼みがあるのだ。聞いてくれるか?」

 

 俺に頼み?

 

 と、一瞬疑問が浮かんだが、この機会を逃すわけにはいかない。

 

「わかった。俺ができることなら」

「お前にしかできないことだ。デュラン。私が留守の間、家族はお前が守るんだ。ウェンディは、産まれたばかりで1人では何もできん。それに母さんも我慢強いが、こう見えて人に頼るのが苦手でな、心配なんだ」

「あなた……」

「だが、お前が守ってくれるというなら、私は心置きなく戦いに赴ける。どうだ、この父の頼みを聞いてくれるか」

「全力を尽くします、父さん」

「ありがとう、デュラン」

 

 

 

 

 

 リチャード王子との謁見は、出立の前日となった。翌日の国を挙げての盛大な見送りを前に、人々が湧き立っている日だ。

 

 フードを目深に被り、家のドアを叩いたのはリチャード王子その人だった。

 

「王子!護衛も連れずにお一人で来るなんて!」

「ははっ、ロキよ。これから竜帝と戦おうというものが、そう簡単にやられるわけがないだろう!それに、明日のパレードのことであれやこれやと準備が面倒になってな。逃げてきたわけだ」

 

 悪びれもなく豪快に笑って見せた彼は、ゲームのあの王様と同じにはあまり見えない。

 

 だが、立ち居振る舞いや、服から押し上げられた筋肉を見るに、ロキと肩を並べる強者であることは間違いない。

 

「リチャード王子、紹介いたします。この子が、王子への謁見を申し出た我が息子デュランでございます。将来、この国や王子のお役に立つと思っております故、お見知り置きを」

「ほお、まだ年端もいかない童だというのに、あの黄金の騎士ロキにそこまで言わせるとは……。なるほど、瞳の輝きはお主に負けず劣らず、良い面構えをしておるな」

 

 父はそんな王子の言葉に満更でもなさそうだ。俺も嬉しい。

 

 さて、喜んでばかりではダメだ。ここからが正念場だ。

 

「お褒めにあずかり光栄です、リチャード様。黄金の騎士ロキの息子、デュランと申します。この度は、私の願いを聞いてくださり誠にありがとうございます。無礼を承知で申し上げます。私と2人きりで話をすることはできませんか?」

「デュラン何を……」

「ほお、父を前にしていては話しにくいことなのか?」

「その通りでございます」

「いいだろう。ロキよ、しばらく席を外せ」

「——御意。デュラン、くれぐれも失礼のないようにな」

「わかってるよ、父さん」

 

 静かに退室した父を見送ると、王子が口を開いた。

 

「して、何用かな」

「王子、これから話すことは他言無用です。父にも黙っていていただけますか」

「……ふむ、男同士の内緒話ということか、懐かしいな。いいだろう、申してみよ」

 

 なんかここまですんなり過ぎて怖いくらいだが、5歳児の話だからと思われてるのかもしれない。

 

 実際はもっとヘビーなんだが。

 

「マナの女神様から、神託を受けました。信じていただくために申し上げますが、今のリチャード様には、フェアリーが憑いていますね」

「——!」

 

 リチャード王子は二重の意味で驚いただろう。

 

 しかし、これから話すことを、前世で知ったことだと言われても、妄想として一蹴されてしまうだろうし、何より父の顔に泥を塗ることになる。

 

 ならば、この世界で最も信仰の厚いマナの女神様からの言葉としてしまえばよいと考えたのだ。

 

 あの方が自ら下界に関わることなどないから、これが露呈することもないし、信じられる情報と一緒に話せば信憑性も増すからだ。

 

「なぜ、というのは先ほどの言葉通りです。続けます」

 

 父が竜帝と刺し違えて谷底に落ちてしまうこと。それから何年か後に一度は死んだ竜帝がとある魔道士のせいで復活し、父が竜帝に呪いで操られること。

 母が病を患っており、父に知られないように医者を手配しておいてほしいこと、さらに。

 

「古の都ペダンで、きっとデュランと名乗る青年に会うはずです。その者から何か有益な情報を得られるはずです。父は冗談だろうと笑い飛ばすと思いますが、無視せずに必ず会話に応じてください」

「まさか、マナの女神様はそこまでのことを見通せるのか?」

「フェアリーに聞いても答えは出ないと思います。今、私が話したことで未来が変わったかも知れません。馬鹿げた話かも知れませんが、リチャード様には母のことと、ペダンでのことをお願いしたいのです」

「……にわかには信じ難いが、フェアリーのことを知っていたのが何よりの証、か。まだ誰にも話をしていないのだからな。他に女神様はなんと?」

「武運を祈る、と」

「そうであるか。なぜ、フェアリーの憑いた我ではなく、其方に神託を授けたのか、という疑問はあるが……」

「……」

 

 で、ですよねー。

 

 やっぱり未来の英雄王相手では、苦しすぎたかな。

 

 でもこうする以外、方法思いつかなかったし。

 

 と、冷や汗が滝のように流れ出てきたところで、王子がふっと息を抜いた。

 

「きっと、そこにも我には思いもよらない、女神様のお考えがあるのだろうな。——安心しろ、其方の父も母も簡単に死なせはせん。だからそんな顔をするな、必ずロキを連れて戻ると約束しよう」

 

 そっと、温かな手が頭に添えられ、優しく撫でられる。

 

 そこでやっと自分の顔から強張りが解けたのがわかった。

 

「どうか、お願いいたします。リチャード様」

 

 

 

 

 

 出立の日の朝。

 

 家の入り口に立つ父の背中が遠くに感じる。

 

「シモーヌ、デュラン、ウェンディ、私は必ずここに帰ってくる」

「あなた、気をつけてね。約束よ」

「あーあー、パー、パー」

 

 まだ話ができないウェンディは、母に抱かれながら、無邪気に父へ手を伸ばしている。

 

 父がウェンディに視線を合わせ、その小さな手をそっと握った。

 

「デュラン、お前に言い忘れたことがあった」

「——?」

「この間、二度と我がままを言わないと約束したな」

「はい、忘れていません」

「それを聞いて思ったのだ。それではまるで私とお前の今生の別れのようだとな」

 

 そうか。そんなつもりはなかったが、今から竜帝と命懸けで戦う父からすると、そう思わせてしまっても無理はないかもしれない。

 

 それとも、そうなるかもしれないと予感したのか。

 

「……ごめんなさい、そんなつもりじゃ」

「わかっているさ。あのときした約束だがな、実はもうひとつ私からお前にお願いがあるのだ。デュラン、聞いてくれるか?」

「俺にできることなら」

「ありがとう。では、あー、その、なんだ。『二度と我がままを言わない』という約束を破棄してほしい。私が帰ったら、たくさんデュランの話を聞かせてくれ。ウェンディとも一緒に遊ぼう、母さんとデュランの好きなものが並んだ食卓を囲もう」

「父さん……」

「私は、黄金の騎士ロキは、そう易々と死にはしない。必ず、竜帝を倒し家族の元に帰ると約束しよう。だからデュラン、男として、騎士として、それまで家族を頼んだぞ」

「ああ、任せてくれ!」

 

 力強く返事を返した俺だったが、たぶん今の顔は泣き顔なんだろうと思う。

 

 父は優しく微笑んで、俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。

 

 大きな手だ。この手によって、これから世界は救われる。

 

 

 

 ただ、そのときこの偉大な騎士はこの世からいなくなってしまう。

 

 

 

 父の温もりが名残を惜しむようにそっと離れていく。

 

 彼の背中がはっきりと、何倍もの大きさに見える。

 

 子供の俺とは違う、大きな歩幅で、だんだんと遠ざかっていく。

 

 もう帰ってこないのだと、思わされてしまう。

  

「父さん!」

 

 気付けば叫んでいた。

 

 頭によぎるのは特訓の日々。笑顔で食事を共にしたとき。家族で眠りに落ちるとき。

 

 もう、家族がそろうことはないかもしれない。

 

 その背中に、父がきっと安心できるだろう言葉をぶつける。

 

 まだ伝えていなかった思いをぶつける。

 

 これが最後かもしれないから。

 

「父さんを、黄金の騎士を超える男に、俺は絶対になる! だから、何も心配しないで、思い切り戦ってきて! 俺が、竜帝なんかよりももっとずっと強くなるから、だから‼︎」

 

 ——安心してくれ

 

 建前ではなく、かけがえのない本音だった。

 

 涙があふれそうになるのをこらえて、父を見つめていた。

 

「いってくる。愛する家族たちよ——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから半年後、父が竜帝と刺し違えて谷底に落ち、亡くなったことをリチャード王子から報告された。

 

 リチャード王子は、俺の方を見て何か言いたげな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかったし、俺も聞こうと思うほどの気力がわかなかった。

 

 運命は変えられなかった。

 

 今以上の戦力を揃えるのは無理だったにしろ、ペダンで未来の俺に会えなかったのだろうか。

 

 何か装備を渡すなり、竜帝の弱点なり教えなかったのだろうか。

 

 何も竜帝を倒す助けになるものがなかったのか?

 

 それとも何かトラブルが起こったのか。

 

 ——考えても答えが出るものでもない。王子に聞くべきだが、あれから何日も経ってしまったし、戦後のことで慌ただしい今、ロキの息子といえど簡単には会えないだろう。

 

 わからないことばかりだけど、一つだけ変わったことがある。それは、母の病が早い治療のおかげで治ったことだ。

 

 原作では父の後を追うように亡くなる未来だった。確かに父を亡くした衝撃は計り知れないが、身体を壊すことはなかった。

 

 それは大きなことかもしれない。とても嬉しいことだ。

 

 でも、たったそれだけ、とも取れる。

 

 今の俺にはこれだけしかできないと、初めて現実を突き付けられたようだった。

 

 未来を知っていても、力が無ければ何も変えられない。

 

 力が無ければ、竜帝を倒し、父の仇を取ることもできない。

 

 いや、竜帝を倒すのは『デュラン』だってやったじゃないか。母の運命を変えたように、もっと大きな力で世界の運命を変えてやる。

 

 そうだ。竜帝の好きになんてさせてやらない。

 

 

 

 マナの樹を守りきって、俺が世界を救うんだ——

 

 

 

 

 

 

 

 

 




需要があったら続きます。。
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