デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

10 / 28
第十話 下山後、考えてみる

 

 

 

 

 まったく無茶ばかりする。

 

 自分のことは棚に上げて人に説教するなんて、間違ってます。

 

 私が、デュランの家族にその死を告げることになるとは考えなかったのでしょうか。

 

 でもきっと、それすらも理解した上であの手を離そうとしたんですよね。

 

 国のためだろうか。

 

 いや、約束の話をしてたし、エリオットのためかな?

 

 それとも、私のため?

 

 ほんの一秒にも満たない時間だったけれど。

 

 私は手を離せなかった。

 

 ちょっと違うか。手を離したくなかった。

 

 だってまだデュランとは出会ったばかりで、もっと知りたいことがたくさんあるから。

 

 だから、風のおかげで彼が助かったとき、本当に安心してしまった。

 

 言いたかった言葉が出てこなくて。

 

 ただ素直にお礼の言葉がこぼれた。

 

 こんな抱き合ってるような体勢、もしアマゾネス隊のみんなが見たら、なんていうかな。

 

 ちょっと恥ずかしい気もするけど、意外とそんなに嫌じゃない。

 

 むしろ……、なんだろ?

 

 

 

 ジンと話しているときのデュランは、お父様と話をしているときと同じ顔をしていた。

 

 何が彼をそこまで必死にさせるのか。

 

 たかが、一国の王女に過ぎない私には、理解が及ばないことなんだろうか。

 

 私に何か、力になれることはないの?

 

 でも、彼は目的の一つを達した。

 翼あるものの父にはまだ会えていないけど、神話のような存在だ。もともと会えるかも賭けだったのだ。

 近いうちにまたどこか遠くへ精霊を探しにいくのだろう。

 

 遠くに行ってしまう。

 

 手が届かないところへ。

 

 何故だか胸が締め付けられた気がした。

 

 ——加護の目印は、風のマナの使い方に習熟すれば相手の居場所も察知できるダス。これでデュランの兄ちゃんと離れることもないダスね。

 

 なっ、頭の中に風の精霊の声が!

 

 ——ちょっとだけ先の話をすると、デュランの兄ちゃん、これから苦難の連続ダス。頼りになって、側で支えてあげられる人が絶対に必要ダス。

 

 側で支えられる人。

 

 例えば、同じ騎士の仲間とか。

 

 何の問題もなく、楽しくやってそうだ。

 

 そこに魔法使いの女性とかも加わるんだろうか。

 

 彼の腕をとっている女性の姿を想像する。

 

 なんか、それは少しやだ——って

 

 え、なんで嫌なんだろ?

 

 ——その点、リースの姉ちゃんは、兄ちゃんに気があるみたいだからぴったりダスな。早めに手をつけとかないと、あとから後悔するダスよ。その想像みたいになることもあるかもしれないダスし。

 

「じゃ、お二人さん。末永く仲良くするダスヨー」

「なっ、何言って‼︎」

 

 なんてこと言い捨ててくの!

 

 顔に熱が集まるのを感じる。

 

 まるで私が意識してるみたいじゃない!

 

 いや、そりゃ、いろいろあって気にはなってるけど。

 

 あー、もう!

 

 考えるのやめやめ!

 

 今は、生きて会話ができることを楽しめればそれで——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

 

 

 結局、夜を明かした後、俺たちは下山の判断をくだした。

 

 リースの武器がないこと。

 

 二人とも重傷でないとはいえ、戦闘に支障が出るかもしれない負傷をしたこと。

 

 滞在することで怪我が悪化し、安全に下山できる可能性が減るのを避けるためだ。

 

 フラミーに会うというもう一つの目的は達成できなかったが、今はまだ会えないんじゃないかと思ってる。

 

 それは、ジンが言っていたやらなきゃならないこと、だ。

 

 精霊に仕事があるとすれば、マナストーンを守ることだと思う。

 

 だから、原作でもマナストーンを解放させない為に、守るべき場所すら離れて旅の共になっていたのだ。

 

 今、マナストーンを脅かす存在がいるのか。

 

 それはないと俺は考えている。

 

 ジンのやるべきこと。

 

 もしかして、フラミーを育てているんじゃないか?

 

 確か彼女はまだ子どもだったはず。産まれたばかりなのか、それとも産まれてすらいなくて、それを見守っているとか。

 

 まぁ推測に過ぎないから、答えはわからないけれど。

 

 ただ、気になったことがある。

 

 あのジン、どこまで俺の事情を分かったんだ?

 

 まず、名前だ。

 

 俺とリースの名前はジンの前で名乗っていないのにあいつは知っていた。

 

 考えられるのは二通り。

 

 一つは、天の頂に入ってからか、それ以前、この山に来たときから、監視されていた説。

 

 だから俺がフラミーとジンを探しに来たことも知っていた。

 フラミーのことは言わなかったが、わざわざやることがあるなんて意味深なことを言う必要があるだろうか。

 

 二つ目は、俺とリースの記憶をテレパシーで読み取ったから名前を知っていた説。

 

 この際、どこまでの記憶を読み取れるのかは不明だが、この可能性もある。

 

 どっちにしろ、次にジンに会うときに教えてもらえるだろう。

 

 今は精霊の加護をもらえたことで良しとしておく。

 

 ……フラミーのことを聞く余裕がなかったことだけは悔やまれる。

 

 

 

 

 下山中の雰囲気は、登りと比べたらだいぶ過ごしやすかった。

 

 二人とも疲労と怪我もあり、口数は少なかったが、精神をすり減らすような思いはしていない。

 

 下山したら、まずは陛下に事の成り行きを説明しないとだな。

 あとはしばらくの間、怪我の治療に専念させてもらえればいうことはないが。

 

「デュラン」

「なんだ?」

 

 前を歩いていたリースが不意に足を止めた。

 ローラント城まであと一時間くらいだろうか。もたもたしてると日が暮れてしまう。

 

「どうした?」

 

 黙ったままだったリースがこちらを振り向いた。

 どこか躊躇うような、言葉を探している様子だ。

 

「その、あのですね」

「ああ」

「デュランさえ良ければですが、しばらくローラント城に滞在しませんか?」

「えっ?いいのか?」

 

 それは願ったり叶ったりだが、甘えていいのだろうか。

 

「え、ええ!もちろん!その、肩の傷のこともありますし、それが治らない内に出発するのは、危ないというか」

 

 先ほどまでの表情と一転して華やいだ笑顔を見せた。

 しかし、少し歯切れが悪い口ぶりに引っかかりを覚える。

 

 なんだ、何か裏があるのか?

 

 しかし肩の傷か。確かに利き腕ではないとはいえ、戦闘に支障が出ることは間違いないわけだし。

 

 そこまで考えてピンと来た。

 

「そうか、ありがとうリース」

「へ?何がですか?」

「とぼけなくたっていいさ。この傷はリースのせいなんかじゃない。俺の弱さが原因だ。でも、その申し出は本当に助かるからさ、傷が治るまでお言葉に甘えさせてくれ」

 

 根が真面目なんだろう。

 

 一国の王女として、誠実なのは大事だが、責任感が強いのも少し心配かもな。

 

 何でもかんでも一人で背負い込まないように助けてやらないと。

 

「……まぁ、それでいいですけど」

「なんだって?」

「何でもありません‼︎」

 

 えっ?怒ってる?

 

 なんか間違えた?

 

「ほら、もたもたしてると日が暮れます。急ぎますよ」

「あ、はい」

 

 そのあと傷に響くようなペースで一気に下りきった。

 なんか、女の子の扱いって難しいなって思いました。

 

 

 

 

 

 

 ジョスター王に事の仔細を話し、しばらくの滞在の許可を得た。

 

 そして、俺は一つの約束を果たす為にエリオットを訪ねた。

 

 もちろん、気軽に会っていい相手ではないから、リースを仲介としている。

 

 ……まぁ、リースもこんな風に使ってはいけないわけだが、事情を知っているから協力してくれているわけだ。

 

 何をというと、約束のもの。

 

 そう、もっっっと甘くて美味いものだ。

 

「わあ!お兄様、これは何ていうの?この間のよりももっと甘くて美味しい!」

「だろ?それはぱっくんチョコっていう非常食さ」

 

 なお、ぱっくんチョコもまんまるドロップと扱いは同じだが、溶けやすいこともあり、その点は旅人よりも町人に好まれる傾向が強い。

 

 しかし、手軽なエネルギー補給手段としてはまんまるドロップと並び重宝されているものでもある。

 

 溶けても美味さには影響ないぜっ!って人は、わりとこぞって買っているわけだが、まんまるドロップよりは値が張るので俺もそんなにはストックはない。

 

 本当に疲れたときの自分へのご褒美としている。

 

 その点、今回は十分に食べるに値する働きはしたわけだが、この分の消耗を考えると、次回に持ち越しだな。

 

「エリオット、良かったわね」

「うん。ねぇ、お兄様。姉様にも食べさせてあげたいんだけど、ダメかな?」

 

 姉思いの弟だな。まぁ確かにリースにも世話になったし、あげるのは構わない。

 

 それに、さっきからぱっくんチョコへ熱い視線を向けているし。

 

「リースも食うか?」

「ほんとですか⁉︎でも、貴重なものなんじゃ」

「大抵、大きな街なら流通しているものだから、大丈夫だ。ほら、食べてみて」

「あ、ありがとう」

 

 恐る恐るといった感じで、その細く白い指で丁寧に包みをはがす。

 

 桜色の健康的な唇に視線が吸い寄せられる。

 

 一口で含めそうなところまでめくったところで、こちらを上目遣いで見つめてきた。

 

「ほんとに、いいんですか?」

「ああ、味わってみてくれ」

「わかりました。遠慮なくいただきます」

 

 その控えめな口から、可愛らしい舌が見えたかと思うと、ためらいを捨て思い切りぱくっと口に咥えた。

 

 最初はゆっくりと舌の上で転がし、その甘さを味わっていたようだが、やがてこらえきれなくなったのか。

 

 パキッと噛み切って咀嚼を始めた。

 

「ん〜〜ッ!」

 

 言葉にならない美味さだったようで、頬に手を添えて悶絶していたリースが見れたのは、かなり貴重な経験だったと言っておこう。

 

 というか、うん。

 

 なんでチョコ食うだけでこんなに——ああ、いや変な意味とかじゃなくてね?

 

 美味しかったみたいで何よりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『常識に囚われるな』

 

 この言葉の意味を常に考えてきた。

 

 常識とは何か。

 

 いつも念頭にあるのは、転生前の原作知識だ。

 

 これから起こること、敵は誰なのか、強さの基準は……それらは、だいたいは正しい。

 

 これは予言みたいなものだ。

 

 ただし、これからは予測と少しずつずれていくだろう。

 

 俺が積極的に事態を変えようとしているからだ。

 

 当然、予想される動きは、この動きに対抗してくる勢力が現れることだ。

 

 まだ、俺はこの世界に小さな波紋を呼び起こしているに過ぎない。

 

 それが全てを塗り替える大きな波になるのはまだ先の話だ。

 

 奴らが動き出すのも、まだ先だろう。

 

 少し話は変わるが、ここで、一つ常識を疑ってみようと思う。

 

 先の戦闘で倒したハーピー。あいつはどうやって飛んでいたのか。

 

 翼があるからだろ、と思うだろうが、あの巨体でぶつかってきたとき、かなりの重量だった。

 

 鳥は空を飛ぶのに、必要な筋肉以外はあまりなく、軽いと聞く。

 

 あいつが飛んでいるのは、前の常識に当てはめると不自然なわけだ。

 

 しかし、ここにはあるエネルギーが存在している。

 

 マナだ。

 

 やつが風のマナを利用して揚力を得ていたと考えるならば、あり得ることだろう。

 

 魔物としての体格にマナを使っていたとなればあの強さにも納得がいく。

 

 対して人は?

 

 俺は、今までかなり鍛え込んできたと思っていた。

 

 黄金街道ではゴブリンに苦戦することもなかったし、それなりに強いという自負もあった。

 

 原作主人公の一人、素質の塊のリースにも勝ったわけだし、自信はあった。

 

 まだ鍛える余地はあるだろう。

 

 磨ける技術もあるだろう。

 

 この時点で極めただなんて、そんなこと口が裂けても言えないし、父さんを超える騎士などにはなれはしない。

 

 だが、魔物に対してあまりにも今のままでは人間が不利すぎる。

 

 こちらの伸び幅が、体を鍛えたり、技術を磨いたりすることしかないからだ。

 

 しかし、今回の件でも分かる通り、魔物は体格、重量ともに人より遥かに大きい場合がある。

 

 蟻が象に勝てないように、とまではいかないかもしれないが、武器を駆使しても人という種はあまりにも脆弱だ。

 

 変わり種のハーピーとはいえ、そんな奴に苦戦している時点で竜帝を倒すなど、何回転生しても無理だとすら思う。

 

 でも、リチャード陛下や、父さんのような存在もいる。

 

 彼らはなぜ強いのか。

 

 体格は人の範疇だ。技術も卓越したものを有していることは間違いない。

 

 だが、人だ。

 

 出せる出力は、魔物達のようにそう大きくはないはず。

 

 最初は鍛えていくうちに、英雄王や、黄金の騎士のようになれるとばかり考えていた。

 

 だが、そうではない可能性に気付いたのだ。

 

 ここで、あのハーピーが飛んでいた話に戻るが、やはり人を強くする要素の中でも最重要なものがあると考えた。

 

 それがたぶん、マナだ。

 

 では、人がマナを得る為にはどうすればいいか、という疑問が生じる。

 

 考えられるのは三つ。

 

 一つ目は、リースのようにマナの濃い場所で、修行を積むことだ。

 

 これである程度マナを扱えるようになるのだろう。

 

 二つ目は、精霊から力を借りる、加護を得ることだ。

 

 たぶん、自然にマナを身につけるよりも早く馴染むだろう。何せ彼ら自身が各属性のマナの化身のようなものだからな。

 

 三つ目は、マナストーンから力を得ることだ。

 

 中には神獣が封じられているほどのマナの塊だ。影響はこの中でダントツだろう。

 

 推測だが、マナストーンに念じることで、クラスチェンジしていた描写があった。

 

 念じたときに、何かしらマナストーンに作用する現象が起きることで、主人公たちは更なる力を手に入れているわけだ。

 

 原作では、その現象の一つ目のキーはレベル18であることだった。だが、この世界にレベルはない。

 

 では、クラスチェンジの基準は?

 

 存在するかもしれないが、レベルではなく、別のことではないかと考えている。

 

 マナストーンに念じることで、クラスチェンジできたのは恐らく、マナストーンからマナの力を得たからだ。

 

 人の通常持つマナの容量よりも、さらに容量を大きくさせた状態に強制的に引き上げる、と推測している。

 

 だから、ひょっとするとクラスという枠組みすら、後付けでつけられているだけなのではないだろうか。

 

 クラスチェンジをしたから、その技や、魔法を扱えるのではなく、技や魔法を使いこなせる強さになったから、そのクラスと呼ばれるのではないだろうか。

 

 クラスチェンジという概念はこの世界にはなく、マナストーンからマナを得るだけなのでは。

 

 そして、そのマナをうまく使いこなせれば、魔法などの奇跡や、基礎身体能力を強化できる、と考えたわけだ。

 

 長くなったが、マナを扱えることが、これから先での戦いにおいて最重要となり、次点で体を鍛え、技術を磨くこととなるわけだ。

 

 この可能性に気付いたとき、こうしてはいられないと思って、すぐに指導を頼んだ。

 

 すでに風のマナを扱えるリースだ。

 

 彼女は元から使えることもあり、加護を得てさらにパワーアップしたようだ。

 

 今戦ったらどうなるかわからないかもしれない。

 

 ただ、どうやらリースは感覚派な面が強いらしく……。

 

 風のマナの使い方を教えてほしいと言ったら、「では、風と対話できるようになりましょう」とか言われて、今は城の外の広場で黙々と風と対話を試みているわけで。

 

 今こうして俺が座禅を組み、集中するフリをしながら思考に没頭する羽目になっているわけだ。

  

「デュラン、何やら言いたいことがあるようですね」

「いや?何も」

「そうですか。風がそう言ったような気がしましたが、気のせいでしたか」

 

 風、こわいっす。

 

 

 

 

 








なぜかお気に入りと評価がすごいことに…
リース人気にひたすらびびってます。(あとはわずかなデュラン君支持)

こんな感じなら面白いよなーとか、考えてはいますが、期待に添えなくなったら許してくだせぇ。

あとリースのチョコ食いに他意はないです。何か思うことがあったあなたは、闇のクラスに適性がありそうですね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。