デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる 作:縁の下
二話分の長さです。切りが悪くなるんでこのまま。。
今週はこれ1話やもしれんです。
あれから、居心地の良さと、ジンの言っていたマナの扱いのとっかかりを掴んだことも相まり、一ヶ月もローラントに滞在してしまった。
怪我自体は二週間ほどでほぼ治っている。
だが、風のマナが濃いこの山でないと修行がはかどらないことを懸念し、長く滞在することに決めたのだ。
旅のできる期限も気にしなくてはならないところだが、最後に必要になるのはやはり力だ。
旅の目的と照らし合わせて考えても、マイナスにはならないだろう。
そして、この選択は正しかった。
二つも有能な技術を習得することができたからだ。
一つは風のマナを生かした高速移動だ。
これで剣速なんかも上げることができる。技術を磨いて綺麗に斬れるようにしなくてはいけないことが今後の課題となった。
ただし、力にはさほど変わりがないため、鍔迫り合いとなると力不足になる可能性があるだろう。
原作リースのスピードアップに近いだろうか。他人には使えないが、自分オンリーでコントロールができる。
速さしか変わらないのは風の属性を纏うからだろうか。それとも修行不足故か。
もう一つは、一番可能性が高いと思っていたセイバー魔法が使えるようになったことだ。
地道に座禅を組み、風の声に耳を傾けていた甲斐があった。
もっとも風の声は未だに聞こえはしないが、瞑想を続けたおかげか、精神力がついたのだろう。
剣に雷を纏うセイバー魔法、サンダーセイバーを習得した。
ちなみに風のマナを圧縮してぶつける魔法、エアブラストの習得は無理みたいだ。
やはり、剣を使うイメージが強すぎる為か、それとも魔法という概念を理解し切れていない為か、風のマナを感じ取れるようになったが使える気配がない。
もっとも、サンダーセイバーが使えるだけで戦略の幅はかなり広がったといえる。これは今後の切り札となるだろう。
原作では、クラス1のファイターの状態では習得できなかったわけだが、やはり、この世界では関係ないらしい。
つまり、セイバー魔法、ヒールライトの両取りが可能なパターンが考えられる。
あくまで希望ではあるが、十分にその可能性があると思っている。
これにより、クラスとは、その存在の格を示す一つの基準であることがわかった。
だから、ニンジャなどのクラスが原作でもいっぱい敵として出てきたのだろう。
どいつもこいつもマナストーンに行列作って念じまくっていたはずがないわけだからな。
修行を積んだ結果として、ニンジャと呼ばれるだけの力を得たから、クラス2のニンジャと呼ばれていたんだろう。
そこから考えると、クラスチェンジと呼ばれていたものは、手っ取り早く強くなるための儀式だったと思われる。
マナの力を得ることで、一気にその存在の格を上げることができるわけだ。
うん。そりゃマナストーン巡って戦争が、起きるはずだ。
キーとなる現象が何かはわからないが、マナストーンを解放する禁術があるくらいだからな。
個人に作用する術があってもおかしくないし、古代で禁術指定されずに見逃された可能性は十分ある。
まぁ、それが分かっても風のマナストーンには近づけないから試すこともできないわけだがな!
強くなれる可能性がすぐそばに転がっているのに、みすみす逃すことになるとは。
世知辛い。
しかし、ローラントで無理でも、まだ他の場所で強くなれる可能性は十分ある。
次の場所へとそろそろ向かうべきだな。
それにあんまり長居すると離れ難くなってしまうし。
まだ一年と少しはあるといえ、決してゆっくりはしていられないしな。
当初の予定通りに行くならエルランドに向かって、またマイアの方へと戻るわけだが、ある情報が入っている。
それは、パロから砂の都サルタン経由でエルランドに向かうことができるということだ。
原作ではブースカブーでサルタンに向かうことになる。
何故かというとナバール盗賊団が美獣に支配されて、好き勝手に暴れていることから治安が悪化し、サルタンの港が封鎖されるからだ。
現在はそんなこともなく通常営業なので、来た道を戻って、マイアから入り組んだ内海を通るよりも近いというわけだ。
というか、パロから直接エルランドに行けると思っていなかったことが大きな誤算だったわけだが。
フォルセナにあった地図からの情報と、原作の知識をもとに計画を立てたため、そういう発想にならなかったのだ。
フォルセナからパロじゃ遠すぎて、交通情報なんて調べようがないからな。
パロからエルランドへは、サルタンを経由するルートしかないらしいので、選択としてはそれが最短だから他に選択肢はないだろう。
直通でエルランドに行かないのは、補給の問題なんかを考えると、きっと妥当な航路だからなんだろう。
北は寒く、南は暑い砂漠と、一月はかかる距離だけ離れているとはいえ、なんだかちぐはぐな感じではある。
しかし、この世界の全てはマナによる影響が大きいため、その常識は忘れることにする。
常識に囚われてはいけません。戒め。
予定していた期間よりも早くエルランドに行けるのならば、ついでにサルタンでやることをやってしまおうと計画の前倒しを画策しておく。
それは火の精霊、サラマンダーに会うことだ。
ジンの加護を得た今、他の精霊も話を受け入れやすくなったのではないかと考えている。
ウンディーネは涙もろいから、それっぽい話をすれば仲間になってくれそう、とか思っていたが、サラマンダーは暑苦しい性格だ。
どうやって説得しようかと、悩む手間がジンのおかげで省けたといえる。
問題は火炎の谷への攻略をどうすればいいかだが、いろいろ考えながら、現地で情報を集めていこうと思っている。
この選択がどうなるかは未知数だ。
あまり火の精霊攻略に時間をかけ過ぎると、エルランドの環境が悪化していってしまうからな。
スピード攻略を目指す。
でも、良い前倒しとなりそうかな。プラスに考えて行こう。
出発を決めてからは早かった。
陛下への挨拶を抜かりなく行うと、フォルセナへの書状を預かった。
ただし、届くのが一年後になることもきちんと伝えた上での内容となっている。
その辺は事情を汲んでくれたのでありがたい。
「デュランよ、そなたが来てからというもの、少し城内が活気付いたように思う。何か心当たりはあるか?」
「はっ……と、言われましても。強いていうのなら、アマゾネスの皆さんが私に模擬戦を挑んできてくださっていたことでしょうか」
「聞き及んでおる。何やらリースともよく相手になってやったそうだが、どうだ?」
「はい。殿下の腕前は日に日に上がる一方で、いつ私が敗れてもおかしくはないと内心肝を冷やしておりました」
実際、お互いに風のマナを使いこなすようになってから今までの実力とは、段違いとなっている。
主な理由は戦闘が高速化したことだが、魔物相手に短期決戦は悪い選択ではないので、確実に強くなったといえる。
「……ふむ。それもそうなのだがな。余が聞きたいのは……まあよい。フォルセナからの使者デュラン、まことその武といい、精霊に認められたことといい、そなたには驚かされてばかりだ」
「はっ、お褒めにあずかり光栄です。全ては陛下の英断があればこそです」
「そなたの姿勢は余の好むところではあるが、謙遜しすぎるな。そなたのような者が低く見られるのは気に食わん」
「……!ありがとうございます。陛下、我らの話をゆめゆめお忘れなきよう」
「貴殿の忠告、しかと胸に刻んだ。決してこの城を落とさせはせん」
この様子なら、きっと何かしらの対策をしてくれるだろう。
あとはこの国とリースを信じるのみだ。
「最後にお主にとっておきを用意した。選択はお主に任せるが、あと腐れないようにしてくれよ。次の来訪を期待して待つ。以上だ、達者でなデュランよ」
「あっ、はっ!失礼いたします」
とっておきってなんだ?
まさか、風の太鼓か?
いや、さすがにそれはないか。でも、決してあり得なくはないのかな?
うーん、何の話だったんだ。
「デュランッ!」
「リース殿下」
廊下に出ると、壁にもたれかかっていたリースに声をかけられた。
周りに衛兵もいるため殿下呼びだ。人がいるときには基本、そう呼ぶように心がけているのだ。
というか、他国の姫を呼び捨てにする使者なんて聞いたことないしな。
あれ、それは盛大なブーメラン——
まぁいい。
いつもの服装だが、なぜか少し息があがっている。急いでいるのか?
「明日、旅立つというのは本当ですか?」
「ええ、殿下の心遣いのおかげで怪我も治りましたし、風のマナの扱いもあとは一人でもなんとかなるところまで修行できましたからね」
「……その、もう少し、居ることはできないのですか?」
「えっ?」
「あの、ほら!エリオットも寂しがるし、アマゾネス隊のみんなだって、次こそあなたに勝つって意気込んでいるし」
——そうか。いつの間にそんなに打ち解けられていたのか。
思わず笑みがこぼれた。
「ありがとうございます、殿下。しかし、決めたことです。それを覆したのでは、優柔不断と取られ、陛下からの信用をなくしてしまうでしょう」
「お父様はそんな器の狭い王では……」
「何より、私自身の決めたことです。お声をかけていただいたことは嬉しく思いますが——」
「もう!だったら勝手にすればいいわ!今まで世話になったのに急にいなくなる人のことなんて知らない!」
踵を返し、走り去ってしまうリースの背中を俺は呆然と見送る。
そばに控えていた衛兵も突然のリースの豹変に驚いた様子だった。
確かに、つい先日サンダーセイバーをものにしたからか、早く行かねばと思う気持ちが先走ってしまっていた。
よく考えると、世話になった人たちにお礼の一つも言えていないことに気付く。
こんなのはフォルセナの騎士がやるべき礼儀ではないだろう。
かと言って、明日出発することを変更する気はない。
そして今の俺にできることは、そう多くはない。
今日は一日修行を控え、今までのお礼を言って回るとしよう。
気付かせてくれたリースにも謝らなくては——
旅支度を整えて、いよいよ出発のときが来た。旅費として、またいくらかの資金を陛下から得たので、これを使って砂漠やら雪原やらを攻略する装備に充てようと思う。
城門前には何人もの人が集まってくれた。
昨日、出発の話をしたからか、昼食の他にも旅に使えそうな道具類やら、日持ちのする食糧やらをプレゼントされた。
なんか自分が媚びて回ったような気になったが、純粋な好意からの頂き物だ。ありがたく使わせてもらおう。
リースは、どこか不機嫌そうに腕を組んでいた。昨日から一言も口をきいていないが、見送りには来てくれたのだ。
そばにはエリオットがいるから付き添って来ただけかもしれないが。
後腐れのないように、という陛下の言葉が胸に刺さる。
「お兄様、本当に行っちゃうんだね……」
「ああ。すまないな、エリオット。少ししか相手をしてやれなくて」
ときどき、木製の武器を使った稽古をつけてあげるほどに懐かれていたのだ。
まだ幼いとはいえ、筋が良かったのはさすがリースの弟と言える。
エリオットの目がウルウルと涙をため始めた。俺は膝を折って、両手でエリオットの顔を挟み込む。
「エリオット、よく聞くんだ」
「うん?」
「これから先、どんなことがあっても、城の風を止めるな。お前が風を止めない限り、大好きなお姉様や、お父様を守ることができる」
「風を?」
「そうだ。絶対に、誰に何を言われてもだ。約束できるか?」
「うん、約束する!」
無邪気に笑うエリオット。あともう一つ。
「ただし、お前の命や、命より大切なものを守るためだったら許す」
「命より大事なもの……お姉様?」
「それは自分で考え、大切にするものだ。俺に答えを求めるな」
そんな無責任なこと、俺にはできない。
いや、そもそもこの忠告ですら、エリオットの人生を狂わせているかもしれない。
これは俺のエゴだ。
ナバール盗賊団の団員であるビル、ベンに出会ってしまったときのエリオットの身の安全を考えて、こんなことを言っているに過ぎない。
一番いいのは、風を止めないことだ。
最悪、エリオットが死ぬことを許容すれば、ローラントは守られ、黒の貴公子も代わりの体が見つからない可能性が生まれる。
マナの樹を守る、それだけのことを考えるなら言う必要のないことだ。
それでも、俺はエリオットに肩入れする道を選ぶ。
「風を止めて、それでも見逃されずにエリオットがどこかに連れて行かれたとしても、決して忘れるな。心が挫けそうなときはこう叫べ。いいか?『僕はローラントの王子だ』、とな。そう言い続ける限り、必ず俺がお前を助けてやる」
「お兄様が?ほんとに?」
「エリオット、忘れたのか?俺はお前との約束をちゃーんと守っただろ?」
「えへへ、忘れてないよ!わかった、僕はローラントの王子だ!だね!」
わしゃわしゃと頭を撫でてやる。
そうだ。これでいい。これで売られてきても必ずバイゼルで救ってやれる。
「ああ、絶対に助けてやる」
「デュラン……」
リースが、どこか切羽詰まった様子で呼んだ。
俺から言うべき言葉はきっと、仲間になってくれ、なんだろうな。
俺が今からやろうとしていることは、もしかしたら未来デュランに背くことになるかもしれない。
というか、そうなるだろう。
下手をすると予定が大きく狂う。
だが、もう決めたことだ。あとから辛いと思っても、苦しいと思っても、自分で何とかすると決めた。
父さんもきっと、それでいいって言ってくれるはずだ。
——俺はここでリースを仲間に誘わない。
「殿下、今までお世話になりました。数々のご無礼、お許しください」
「……」
俯いて何も言わなくなってしまった。
まぁ、言うべきことは言えた。これでいい。
あまり長くなると、出発しにくいしな。
「ありがとう、ローラントの皆さん。また会いましょう!」
前に向かって歩き出す。盛大な、とは言い過ぎかもしれないが、温かい拍手と、エリオットの別れを惜しむ泣き声が聞こえてきた。
「僕は!ローラントの王子だああ!」
やめてくれ、こっちまでちょっと泣きそうになるわ。
橋を渡り終え、見張りの兵からも旅の無事を祈る言葉をかけられた。
すぐそばの短い洞窟を抜けたところで、背後から誰かが近づく足音が聞こえて——
「待ちなさい、デュラン!」
「殿下?」
全力で走ってきたのか、リースが肩を弾ませるほど息を乱していた。
「どうしてここまで?」
「……名前」
ん?
「名前で呼んでくれなきゃ言わない」
「いや、あの」
「名前」
周りを見回すが、人の気配がないことを確認する。
「……リース、どうしたんだ?」
先ほどまでの表情から一転し、花の咲いたような笑顔を見せる。
機嫌直してくれたのか?
ちょっとだけ安心する。
後腐れが残るところ、だったわけだな。やっぱり。
「さて、どうしてでしょう?」
明るく言い放つリース。
なんだ、何かあったっけ?
頭を回転させ、ある一つのことを思い出す。
陛下の言っていた、とっておきのものか?
「何か陛下から預かっているのか?」
「ぶっぶー。違いますー」
「じゃあ何だ?」
「なんでそんなにぶっきらぼうなんですか?物じゃなかったからですか、あんないっぱいもらったのに?」
ちょっとだけ眉が下がり、悲しそうな顔をする。
「すまない、そういうつもりじゃ——」
「嘘ですよ、デュラン。では、単刀直入に言います。私をあなたの旅に連れて行ってください」
誰が、誰の旅に?
「リースを、か?」
「ええ。お父様から許可もいただいてます」
どこで仲間フラグが、とか考えるのは意味がないからやめとくか。
というか、とっておきってこれかい!
このままリースが仲間になってくれる。
隣で支えてくれる人がいる。それがリースだったら——
「それは、正直に言うとすごく嬉しいな」
「うれっ!何言って——」
でも、俺は決めたんだ。
「嬉しいが、連れて行くことはできない」
えっ、と虚を突かれたように呆然とするリースに対し、静かに理由を語る。
「リースにはエリオットを守ってやって欲しいんだ」
「エリオットを?」
「そうだ。あのとき、陛下の前で話した内容は覚えているだろ。エリオットがいないことに真っ先に気付くのはリース、お前なんだ。そして、その襲撃者と対面するのも——」
ビル、ベンをまともに相手にしてリースが逃げ切れる保証はない。あのときは拉致する対象のエリオットがいたから見逃されただけかもしれないのだ。
いや、その可能性の方が高い。
そうなったとき、先程エリオットに言った内容が実現してしまう恐れがある。
つまり、リースの命と引き換えに風を止めてしまう可能性だ。
その後、やつらの行動を予測するに、そう長いことあの場にとどまるような真似はしないだろう。
見逃される可能性が生まれる。
もしかしたら、リースが予想を超える強さとなって返り討ちにできる場合もなくはない。
だが、もし仮に、やつらに合体忍術を使用されれば確実に命を落とす。
本来三人がかりで倒す相手だ。それくらいを想定した方がいい。
だから。だからこそ、本当は仲間として連れて行きたい。
自分の手の届かないところで、少しでも心を通わせた人を危険な目に合わせたくはない。
しかし、それはエリオットにも言えるのだ。
彼は俺の中で、エリオットという記号のような存在ではなくなっている。
甘い物を食べて喜び、姉と話して笑い、お兄様と無邪気にじゃれついてくる、俺にとって、ウェンディとどこかだぶる存在なのだ。
死なせたくは、ない。
「リースにしか、頼めないんだ」
声が、震えたかもしれない。
「——じゃあ、あなたのことは誰が助けるの?」
「えっ?」
「ううん、何でも……何でもなくないか」
一度俯いたリースが顔を上げた。どこか諦めたような、吹っ切った様子がうかがえる。
「デュラン、私決めたよ」
力強く言った。
「エリオットを守ったら、今度は私があなたを助けるの。だから、今はまだ行かない」
「リース……」
「なんであなたがそんな泣きそうな顔をしているんですか。大丈夫です。私たちにはジンの加護があるんですよ。悪いことにはなりません」
そうか、確かにそこは少しだけプラスだ。そして、原作時点よりもリース自身強くなっているはずだからな。
少しだけ気持ちが軽くなる。
不思議な感覚だ。
「だから——」
トンっと胸の中に温かいものが飛び込んでくる。ふわりと甘く優しい匂いが鼻をくすぐった。すぐ目の前にはリースの鮮やかな金糸のように美しい髪がうつる。
表情は、胸に顔を埋めていてわからない。
え、なな、なんだこの状況。
あれか、これはぎゅっとするのが正解なのか?
待て待て、そんなこれ、えっ?
両手を宙に彷徨わせて、一瞬を長い時のように感じていたとき。リースの声に、はっと意識を戻す。
「絶対に死なないでね、私の——」
「私の、なんて?」
ぱっ、と胸の中からリースがいなくなった。
後ろに手を組みながら、悪戯っ子のように舌を出している。
透き通るような碧眼と視線が絡んだ。
ちょっとだけその温かさを名残惜しく思うのは、やっぱりまずいだろうか。
「ひみつです!」
リースさん、なんかあざとい!
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デュランは大事なローラントのお客様としてもてなされている。
当然、専属の使用人がいるのだが、そこから、デュランが明日には旅立つと言っていたことを聞いた。
聞いたときはなぜか何も考えられなくなった。
ついにきてしまった、とも、やっときた、とも思った。
お父様を説得して旅立つ許可はもらっていた。時間はかかったけど、そうしたいと思ったのだ。
フォルセナに挨拶に行くという名目だ。ライザやアマゾネス隊を率いる話も出たが、それは断った。
自分の実力を試したいと思う気持ちもあったからだ。彼女たちがいては、絶対に甘えてしまう部分が出る。
それはデュランが居ても変わらないかもしれないけど。
でも、デュランなら許してくれそうな気がしている。
あれ、そういう問題じゃないか。
それにしても急すぎて、全然準備ができていない。
そうだ、見送りの会だってできないし、もう少し出発を遅らせられれば。
そう思っていたけれど、彼が一度決めたら曲げない性格なのを忘れていた。
頑固者め。
でもみんなで旅の無事を願いたかったのは本当だ。
この唐変木は、そんなことにも気付いていないみたいで……ああ、もう!
「もう!だったら勝手にすればいいわ!今まで世話になったのに急にいなくなる人のことなんて知らない!」
やってしまった。
これから一緒に旅をしようという相手に、出発前日に喧嘩を吹っかけるなんて。
なんでこう、デュランに対して感情が波立ってしまうんだろう。
でも、デュランも悪いんです。私を今まで一言でも一緒に来ないかって、誘ってくれなかったんだから。
やっぱり唐変木です!
一夜明けて、結局デュランと話ができなかった。
目が覚めると冷静に考えられた。
もともと私がいつ出発するかを聞かなかったことも悪かったのです。
それなのにデュランばかりを責めてしまった。
合わせる顔がない。
でも、いつ発つのかくらい言ってくれればいいのに。
だってそんなの、私たちとはいつ別れても平気みたいで寂しいじゃないですか。
旅の支度はなんとか間に合ったけれど、彼になんて言えば……。
「お姉様!お兄様の見送りに行くよ!」
我が弟ながら、本当によくできた可愛い弟です。
エリオットをきっかけに見送りに来たけれど、私も行くの一言が絞り出せなかった。
私よりも他のみんなとばかり話している。エリオットにはことさら真剣に話をしている。
あの神託のこと、だ。
お父様も真剣に考えていたから心配はしていない。
なのに、デュランはエリオットを心から心配してくれている。
一か月の時を共に過ごしたとはいえ、まるでエリオットの本当の兄のように思える。
デュランがいる間は、私に甘えてくる回数も減ったみたいだったし。
少し成長したようにも思えた。
エリオットは、デュランの話にいつも通り素直に頷いている。
そんな姿を見ていて、エリオットにばかりかまけているデュランに、なんだかちょっとだけ気持ちがささくれだった。
えっ。私、エリオットに嫉妬してる?
「デュラン……」
絞り出した声に、あと一言がのってこない。
一緒に行きたい、そう言うだけなのに。
「殿下、今までお世話になりました。数々のご無礼、お許しください」
「……」
なんで、そんな一生の別れのように言うの?
私たち、友人でしょう?
「ありがとう、ローラントの皆さん。また会いましょう!」
「あっ……」
行ってしまう。少しずつ遠ざかる背中を目で追うしかできない。
諦めるしか——
「リース様、いいんですか?」
「ライザ……」
「その後悔を抱えたまま、アマゾネス隊の隊長が務まるんですか?」
ぐっ、と拳に力が入る。
こんな中途半端でいいの?と問う自分がいる。
私の憧れる騎士なら、こんなとき——
「行ってください。何も考えず、走るんです、さあ!」
言葉が背中を押した。
「ライザ、ありがとう!」
そうだ、後悔したくない。
——これから苦難の連続ダス。頼りになって、側で支えてあげられる人が絶対に必要ダス。
ジンの言葉が脳裏を駆け抜けていく。
——早めに手をつけとかないと、あとから後悔するダスよ。その想像みたいになることもあるかもしれないダスし。
別にそんなつもりじゃないし!
ただ、もっとあの頑固な騎士のことをよく知りたいだけなんです!
そんなに遠くには行ってないけれど、その姿が見えてきて、さらに加速した。
鼓動が激しい。そんな大した距離を走ったわけでもないのに。
心臓がうるさい。
「待ちなさい、デュラン!」
「殿下?」
この唐変木はいつまで殿下って呼ぶつもりなの!
少し拗ねてみたら慌てて名前で呼んでくれた。
やっぱり、こっちの方が好きだな。
自分でも驚くくらい簡単に、一緒に行くことを伝えられた。
あんなにためらったのが嘘のようだ。
「それは、正直に言うとすごく嬉しいな」
「うれっ!何言って——」
何を急に!それって、どういう——
「嬉しいが、連れて行くことはできない」
目を見て分かってしまった。先ほどまで浮かれていた気持ちが沈んでいくのがわかる。
——ああ、本気なんだな。
でも、デュランは真剣に話してくれた。
それはエリオットのためだと言う。
そこまで弟のことを考えてくれて嬉しい気持ちは嘘じゃない。
でもなんでそんな辛そうな顔をするの?
他人の為に一生懸命で、頑固者で、でも約束を守るあなた。
なら、そんな優しいあなたを誰が守ってくれるの?
——側で支えてあげられる人が絶対に必要ダス。
うるさい。そんなこと、誰が見たって分かってる!
何も支えがないんだったら——私が守る。
デュラン自身も、彼の心も。
その為に、今よりももっともっと強くなるから。
約束するから。
だから。
気付いたら、デュランの胸に飛び込んでいた。
顔が熱に浮かされたみたいに赤くなってるのがわかる。
ちょっぴり恥ずかしいけど、でも、悪くない。
なんで私、こんな大胆なことしたんだろ。
一緒にいられなくなる分、デュランが長く私を覚えていてくれるように、かな。
それとも、近くにいたいだけ?
わからない。
——ううん、うそ。
風のマナに想いを託す。
私の代わりにデュランを守って——
「絶対に死なないで、私の騎士様」
お気に入り登録、評価、感想ありがとうございます。
なんか、たくさん読んでくださる方がいて恐縮してます。。
そして、新着感想があるたびに実はドキドキしています。いつも温かいコメントをありがとうございます。
さて、この話でローラント編終了です。
リースがログアウトすることで読者が離れていく姿が見えます(笑)
当初の予定とは外れますが、予定とはそんなものだと思っていただければ。。
次はサルタンに向かうわけですが、いったいホークなにがしが現れるってんだ⁉︎
しかし、作者のアンジェラ書きたい欲が高まるとなにがしアイさん編が一瞬で終わります(白目
これからもよろしくお願いします。
これは蛇足なんですが、リメイク版でブースカブーに乗ってパロからエルランドルート、サルタン経由ルートを加速無しで時間計ってみました。
パロ→エルランド 46秒
パロ→サルタン 25秒
サルタン→エルランド 33秒
1秒一日と考えるとそこそこ距離ありますよね。
これがフラミーだと…めっちゃ早い…