デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第十五話 精霊ってのはつくづく謎な存在だとちょっとだけ考えてみる

 

 

 

 

 

 

 ——ヒュー、ヒュー。

 

 どこかで聞いた音だ。

 

 どこだったか?

 

 ——ヒューヒュオオー。

 

 最近聞いた覚えがある。

 

 そうだ、天の頂で聞いた。

 

 風の音だ。

 

 うっすらと目を開ける。視界一杯に真っ白な雲海が広がる。

 

 どこまでも先へ。世界の果てまで通じているかのように錯覚する。

 

 俺が立っているのは、ハーピーと死闘をした場所だ。

 

 風が体にぶつかり、髪をかき上げていく。風の爽やかさに心地よさを覚えた。

 

 そして、当然の疑問に思い当たる。

 

 

 なんで俺はここにいる?

 

 

 ——まったく。兄さんとことん不器用ダスな。

 

 

 ジンか?

 

 

 周りを見渡そうとして、首が回らないことに気付く。

 

 手足も、まるで金縛りにあったように動かせない。

 

 しかし、不思議と不安は感じなかった。

 

 空が見えているからだろうか。

 

 なおもジンらしき声は響く。

 

 ——ちょっとだけ力を貸してあげたダス。もうちょっと風をうまく使いこなしてもらいたいダスね。こんなサービスは、一回きりダスよ。

 

 最後の一撃のことか?

 

 ——そうダス。

 

 全力を込めたつもりだったから、ジンの力を借りてるなんてまったく気付かなかった。

 

 それも加護の恩恵なのだろうか。

 

 ——まぁ、力を貸すって言い方だと、少し語弊があるダスな。兄さんの中に眠ってる可能性をちょっと刺激した結果ダス。

 

 俺の可能性……もっと強くなれるのか?

 

 ——それを望めば、どこまでも高みにいけるダス。

 

 その言葉を聞いて。

 

 なんでこんなにも剣を握りたいと思うのか。

 

 そうだ、俺の剣は無事なのか。

 

 バレッテを斬った感触は覚えている。ただ、最後の瞬間をいまいち覚えてない。

 

 ——自分の可能性を信じるダス。

 

 答えになってねえよ、それ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと目が開く。

 

 そこに雲海はなく、見慣れない木の天井が上から俺を見下ろしていた。

 

 立ってすらいない。少し固い感触が背中に伝わってくる。

 

 ベッドの上だ。

 

 変な夢だったが、夢ってこんなにはっきりと思い出せるものなのか。

 

 風の音や、感触、匂い、雲のリアルさ、どれをとっても本当にあの場所にいたような気がしてならない。

 

 本当にジンと会話していたのだろうか、だとすると気になることを言っていた。

 

 俺の可能性、か。

 

 少しは風のマナを使えるようになって、強くなった気でいたけども。

 

 バレッテとの戦いを振り返ってもまだまだなことが多かった。

 

 より高度な技術、効率的なマナの運用を身につけないとな。

 

 今のままではあまりに力不足だ。

 

「ん?なんだやっと目が覚めたのか」

「ホークアイ……」

 

 部屋に入ってきたホークアイの両手には、薄く焼いたナンのようなパンがあった。香ばしい香りがすぐに部屋に充満する。

 

 目が覚めたばかりだけど、腹が減った。

 

 腹が減ってるってことは健康だな。

 

「食うか?」

「ああ、ありがとう」

 

 そばにあった水差しに入った水を一口飲んでから、パンを頬張る。

 ほのかな甘さと焼きたての香りに食欲がより刺激され、気付けばあっという間に平らげてしまった。

 

「呆れるくらい元気そうだな。その様子だと、医者にかかる必要はなさそうだ」

「心配してくれていたのか?」

「まさか。持ち主のいなくなった荷物の引き取り手になれるかと期待していたのさ」

「……ひどい言いようだな」

 

 本心なのか、冗談なのか。半々といったところだろうか。

 

 深く考えるのはやめておこう。

 

「ここはディーンなのか?」

「そうだ。ここまでお前を運ぶのは一苦労だったんだぜ〜?」

「すまない、迷惑をかけたみたいだな」

「そりゃ今さらだな」

 

 呆れ顔で返された。

 

「あれからどうなったんだ?生きてるってことはバレッテを倒したんだよな」

「何アホなこと言ってんだ。お前が倒したんだよ。そのあとぶっ倒れてんのを必死こいてここまで運んだってわけ。お分かり?」

「あ、ああ。大変だったみたいだな」

「大変だったみたいだな、だって?他人事みたいに言いやがって!オレが何度お前を砂漠に置き去りにしようと思ったことか!何食ったらそこまで重くなるんだってーの。このっ、筋肉達磨がっ!」

 

 一気にまくし立てるようにホークアイは言い放つが、声色は落ち着いたものだ。どうやら口で言うほどには怒っていないらしい。

 

 彼の表情からはこちらを探るような様子もなく、どこか素の姿であるように見え、今までになかった親近感を感じさせた。

 

 だからだろうか、こちらも素直な気持ちで言える。

 

「ありがとう、本当に助かった」

「……ふんっ、勘違いするなよ。目の前で死なれたら寝覚めが悪いだけだ。それにまだ依頼も途中で、もらうもんももらってないんだ、当然だろ」

「盗賊なのに真っ当な仕事の考え方だよな。気絶してる俺から盗もうとは思わなかったのか?」

 

 少しだけからかい混じりに聞いてみる。

 そんな気がないことはこちらも当然理解している。

 

「ナバール盗賊団はそんなせこい真似はしないんだよ。ったく、急に馴れ馴れしくしやがって」

 

 腕を組んで舌打ちをする様子に、思わず笑みがこぼれた。

 

「何笑ってんだよ」

「ははっ。いや、敬語の方が良かったかと思ってな」

「勘弁してくれ。お前さんの薄気味悪い言葉遣いにゃ鳥肌が立つ。素のままの方がまだマシだ」

「そうか。ならこのままいかせてもらうよ。俺も余計な気遣いをする必要がなくなるしな」

「最初からそうしろっての」

 

 どかっとベッドのそばにある椅子にホークアイが座り込んだ。

 まだ話を続けてくれるつもりらしい。

 

「そうだ。ホークアイ、俺はどのくらい寝てたんだ?」

「あれからぶっ倒れて、ちょうど丸一日くらいだな」

「丸一日、か。ずいぶん寝てたんだな」

 

 本当にホークアイがいるときで良かった。

 マナの使い過ぎで倒れたのなんて初めてだからな。これが一人のときだったとしたら、そのへんの魔物の腹の中だったかもしれない。

 それに使いすぎるリスクも知ることができた。

 

 今は頭痛もないが、体にはまだ怠さが残っている。あまり無理はしたくない。

 

 だが。

 

 無性に剣を握りたい。

 

 強くなれると言われたら、誰だってそうなる。ましてや、その太鼓判を押したのが精霊様だ。

 

 その衝動を抑えられるわけがない。

 

 夢かどうかは置いておいて、上がったモチベーションはそのままにしておきたい。

 

 そうなると、肝心の物が見当たらないことが気になって仕方ないのだが。

 

「で、俺の剣はどこにあるんだ?また回収したのか?」

「あ?あー、お前の剣な、あー」

 

 ぎくりと肩を震わせる様子を見て、嫌な予感がした。

 目が泳いでいるのを見るにかなり動揺している。

 

 こいつ、盗賊のくせに感情出し過ぎだろ。

 

「返すのは別にいいんだけどな、何というかだな」

「なんだ?もったいぶってないで、早く出してくれよ」

「それが実は、手元にないんだ」

「は?」

 

 何言ってんだ。どういうことだ。

 

 えっ?

 

 混乱する俺に割り込むように、木の軋む音が部屋に響く。ドアが勢いよく開いたのだ。

 

「あなたは……?」

 

 そこにいたのは、今回助けた男性だ。髭面が似合う渋い顔に、火傷の治りきらなかったような傷が袖をまくった腕にいくつか見受けられた。

 

「ああ、デュランさん!目が覚めたんですね!ちょうど良かった!」

「えっと、何がですか?」

「あなたの剣ですよ!いったいどんな手品を使ったんですか⁉︎」

「だからなんの話だって」

「あのブロンズソードでバレッテを斬ったというのに少しの刃こぼれで済むなんて、何か魔法的な処理を施されてるとしか思えない!だというのに、私にはこの剣の仕組みがまるで分からないんです!」

 

 興奮して今にも手を握ってきそうなほど接近してきた。鼻息も荒くてちょっと怖い。

 

 おい、ホークアイ。いつの間に椅子をそんなに下げたんだ。一人だけ逃げんな。

 

 視線を向けたが、オレは知らんとばかりに顔を背けやがった。

 

 というかこいつ、知っててわざとはぐらかそうとしたな。迷惑をかけた分の仕返しのつもりだろうか。

 

 子供かって感じだが、命を助けてもらったのだ。こんなからかいくらい水に流してやろう。

 

 俺の剣の話らしいし、自分で対応するのが筋だしな。小さくため息をついて、気持ちを切り替える。

 

 ホークアイがニヤついているのが見えたが無視だ。

 

 きっと彼に剣を渡した段階でこうなることがわかっていたのだろう。もしくは同じ目にあったか。

 

 まぁいい。話を進めよう。

 

「何か変わったことでも?」

「いや、それが分からないんですって。私には至ってごく普通のブロンズソードにしか見えないんです!」

 

 仕組みも何も、父さんが駆け出しのときに使っていた剣としか聞いていないけれど。

 

「特別なことは何も聞いてないですが」

「そうですか……。私は鍛治師としてそれなりに長いと思っていましたが、まだまだ勉強不足というわけですね。一つだけわかったのは、使い込まれて年季が入った剣だということだけです。よほどデュランさんは大切に扱っているんですね」

「それは、もちろん」

 

 分かるものなのか。大切にしているのは事実ではあるが、なんだか急に褒められて、ちょっと照れ臭い。

 

「ホークアイさんから火炎の谷へ向かうと聞きました。私にできることはせいぜい剣を手入れするくらいでしたので、綺麗に研ぎ直しておきました。どうぞ、お使いください」

「本場の鍛治師にやってもらえるなんてな。ありがたい」

 

 ベッドから降りて剣を受け取ると、早速鞘から刀身を抜いてみる。

 

 前に使ったときよりも、さらに磨きがかかり、とても刃こぼれしていたとは思えない仕上がりだ。

 満足して剣をしまう。

 

「うん、すごく綺麗だ。感謝します」

「礼を言うのはこちらの方です。家族共々無事でいられるのはあなた方二人のおかげです。サルタンへの商売を兼ねた旅行が悲惨なものにならなくて本当に良かった」

「ええ、あなたや、あなたの家族が無事で本当に良かった」

 

 本心から言葉がこぼれる。

 その言葉に、男性は破顔した。

 

「世界にあなたのような騎士が増えたら、もっと平和な世の中になる気がします」

「それは……褒めすぎです」

「そうだぜ親父さん、こんな変わりもんがそう何人もいてたまるかって——」

 

 じろっと睨みつけるように視線を向けるとホークアイが口をつぐんだ。

 

「ふふっ、いいコンビですな」

「「どこが」」

 

 声がはもる。それを聞いてまた男性が笑った。

 

「そういうところですよ。さて、もう一つお礼をさせて欲しいのです。もしよろしければ、店にある好きな品を一つずつ持って行ってくださいませんか?」

「いいのか⁉︎やったぜ、人助けはするもんだな!」

 

 その言葉に飛びついたのはホークアイだ。

 

 お前さっきまで我関せずだったくせに。調子のいい奴だ。

 

「……いや、俺はこれ以上頂けません。もう十分にお礼はもらいました」

 

 剣の手入れと、感謝の気持ちだけで充分だ。

 

 それ以上は欲張りというものだろう。

 

「おい、何言ってんだよ。この際だから貰っときゃいいだろうが」

「使う気もないのに剣を持つのは、剣に失礼だ」

「馬鹿かお前は。だったら予備として持ってりゃいいだけだろ」

「予備として持っていられるほど荷物に余裕があると思うか?」

「まぁ、そりゃそうかもしれないけどよ。ブロンズソードじゃ不便もあんだろ。より質の良い剣を手にしてこそ、剣士ってのは強くなるんじゃねえの?」

 

 それは一理ある。というか、正論だろう。使い手が同程度の技量同士なら、装備の差で決着がつくのは、想像に難くない。

 

「……そうかもしれない。でも、今はまだこの剣以外を使う気にはなれない」

「はぁー?わかんねえやつだな。バレッテだって武器が違えばもっと簡単にやれただろ」

「こいつでも倒せたことに変わりはない」

「だから——」

「ホークアイさん、いいんですよ。デュランさんがそう決めたのなら、私からは何も言うことはありません」

 

 なおも続けようとしたホークアイの言葉が止まった。

 

「いや、だけどよー」

「剣の良し悪しは、やはり相手を倒すことを目的とする武器にとっては大事なことだと思います。ですが、使い手がこれと決めたものが一番強いのも、また一つの真実。その剣からは、不思議と何か力を感じるような気がするのです。私の店にはデュランさんのお眼鏡に適うそれ以上の品はきっと見つからないでしょう」

「いやいや、ただのブロンズソードだろ?そりゃ親父さんいくらなんでも言いすぎだって」

 

 半笑いのような、呆れをにじませてホークアイは言った。

 問題の剣の持ち主である俺とて、そう思う。

 

「かもしれません。しかし、デュランさんがいいというのに無理に押し付けるわけには参りません。ですので、ホークアイさんに二品お譲りいたします。どうですか?」

「それで気が済むのなら、俺は構いませんよ」

「……なんだかオレがごねたみたいな感じになってねえか?」

「ははっ、そんなことはありませんよ。さぁ、ではデュランさんはゆっくりお休みください。ここの支払いは私が責任を持ちますので。ホークアイさん、今から来ていただけますか?」

「ん、ああ。じゃ、いってくる。出発は明日だ。準備はこっちでやっとくからお前は休んでろ」

「いいのか?」

 

 まだ目が覚めたばかりだが、やはり体は本調子とは言えない。ゆっくり休めるならそれはありがたいことだが。

 

 甘えてもいいのだろうか。

 

「慣れない奴がやる方が時間がかかる。料金は後で請求するから安心しろ」

「……その図太い要求を聞いて罪悪感がなくなったわ。任せたよ、ホークアイ」

「素直にそう言っとけ。オレが良い品をもらってきても羨ましがるなよな〜」

「誰がそんなこと——」

 

 最後まで言い終える前に部屋を出て行ってしまった。

 

 まぁいいけどさ。

 

 この剣への思い入れはそう簡単に捨てられるものなんかじゃない。

 

 理屈ではない、こいつが俺のパートナーなのだ。

 

 サンダーセイバーが使えることでブロンズソードの可能性だって広がったわけだし。

 

「剣は己を写す鏡、だよな。父さん」

 

 なんの変哲もないと言われたこいつに、鍛治師が秘めた力があるって思うくらいだ。

 

 それは、俺にも眠っている力があるということだと思う。

 

 今回みたいな危機だって、また起こるとも限らないし、その対策は武器の質を上げることが近道だと理解はしている。

 

 それでも。

 

 まだ、限界はこんなもんじゃない。

 

 もっと強くなれる——強さの限界を武器の質で決めたくない。

 

 ほんの些細な、ちっぽけな意地だ。

 

 これからぶつかる強敵のことを思えばこそ、どこかでブロンズソードと離れることになるのはわかっている。その覚悟だけはしておこう。

 

 ただ、それはきっと今じゃない。

 

 スーッと滑らせるように剣を鞘から抜き出す。

 

 もう少し、そばにいてくれよな——相棒。

 

 まるで応えるように陽光が剣身にきらめいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくり一日休み、朝から半日の道のりで火炎の谷まで来ることができた。砂漠だらけだったのが、岩山が多くなり、次第に気温が高くなっていることをはっきりと認識した。

 原因は何かと探っていると、周囲の岩場が熱を帯びているということに否応なく気付かされる。

 

 荷物の大部分はディーンの宿屋に置いてきたので、いつもよりはかなり身軽だ。

 もしも金属製の装備を身につけていたとしたら、この暑さには耐えられなかったかもしれない。

 

 砂漠育ちのホークアイも、少しげんなりした様子だ。

 

「なあ、お前の風のマナでなんとかならないのか?」

「そんなうまい話があるわけないだろ」

 

 そんなことはとっくに試みていたが、暑い環境で風を循環させても、結局は熱風を浴びるだけで、疲れる割に効率が悪いから早々に諦めた。

 

 それに、こんなところでマナ不足になる事態も避けたい。

 

 口数も少なくずんずんと進んでいくと、だんだんと横穴や地面から火が吹き出してくる頻度が増えてきた。

 

 ホークアイが先行して、そういった箇所を的確に回避してくれている。

 それがなければ今頃何度丸焦げになっていただろうか。

 今の俺ではそういった部分は感知できないので、素直に感心している。

 

 口には出さないがな。

 

「おい、見てみろよ」

「ん?」

 

 ホークアイの視線の先、煮えたぎる溶岩の真ん中に円形の広場が見える。そこまでをつなぐ橋のように、一本道が通じていた。

 溶岩までは高さ十メートルはあるだろうに、顔にかかる熱量は火傷しそうなほどだ。

 

 そして、その道の先に淡い輝きを放つ不思議な結晶を見つける。

 

「まさか……!」

「あっ、おい、一人で先行するなよ!」

 

 ホークアイの制止も聞かず、自然と歩調が早くなり、ついには駆け出していた。

 

 はっきりと結晶の大きさが認識できるところまでたどり着く。

 

 俺の体よりも遥かに大きな存在が、宙にふわふわと浮く姿は現実離れしていた。

 

 そんな風に輝く石は、この世に一種類しかない。

 

「これが、マナストーン——」

 

 美しい。

 

 ただただ、その幻想的な光に目を奪われる。

 先ほどまで感じていた暑さなど、気にもならない。

 今まで見てきたであろうどんな宝石よりも強く目を惹きつけて離さない。

 時を忘れ、ずっとここにいてもいいと思えるくらいだ。それほどまでに、このマナストーンの存在感は圧倒的だった。

 

「こいつは、確かにすごいな」

「そんな感想こどもでも言えるぞ、ホークアイ」

「うるせえ、お前だったらなんて表現するのか言ってみろ」

「そりゃ、すごいとしか言いようはないが」

「ほら見たことか」

 

 くだらない会話の応酬に、少しだけ興奮が落ち着いた。

 まずは、このマナストーンで試してみたいと思っていたことを実行してみよう。

 

 そう、考えたときだった。

 

 

「——そこにいるのは、誰だ?」

 

 

 突如響く第三者の声に、俺は確信をもって応えた。

 

「火の精霊サラマンダー様!」

 

 ぼうっ、っと勢いよく溶岩の中から全身が燃えているタツノオトシゴのような生き物が現れた。

 

 予想した通り、火のマナの化身、サラマンダーだ。

 マナストーンのそばに居てくれたのはありがたい。ジンのようにいろんな場所に出歩かれると予測できないからだ。

 

「ほ、ほんとに精霊が⁉︎」

「ややこしくなるから少し黙っとけ」

 

 こいつやっぱり信じてなかったのか。それとも信じてたけど、実在してることに驚いたのか。

 

 半々ってとこかな。

 

 サラマンダーに視線を戻すと、様子がどこかおかしいことに気付く。

 

 風がひりついている。先ほどまでの自然な暑さではない。

 

 攻撃的な熱さ、というのか。

 

 実際、サラマンダー自身がメラメラと炎を踊らせている。

 

「てめぇら、こんなところまで来るってこたぁ、マナストーンに何かする気だな‼︎許せねぇ‼︎」

 

 なんか誤解してる!

 

 マナストーンにも用事はあるし、ある意味あってるけど。

 

 ここまで来て出会えた幸運を逃すわけにはいかない。敵になるなんてことになったら目も当てられない。

 

 なんとか交渉しないと。

 

「待ってください、サラマンダー様‼︎」

「問答無用だ!ファイアボール‼︎」

 

 マジかよ!

 

「避けろ、ホークアイ‼︎」

「言われなくても!」

 

 高速で迫る火の玉をなんとかかわす。

 ただでさえ空気が熱いというのに、今ので肌がちりちりと焼けた感覚がある。

 

「ほー!やるじゃねえか!これはどうだ!」

「まだやる気かよ!こんなところで死んだらジェシカに顔向けできねぇ」

「泣き言は後だ!来るぞ!」

 

「ファイアボール‼︎」

 

 くそっ!——風よ、力を貸してくれ。

 

「むっ、てめぇ……」

 

 サラマンダーの様子が変わるが、それどころではない。

 風を纏い、手を伸ばせば届く距離の地面に火の玉が激突した。それを尻目に、サラマンダーに一気に接近する。

 

 敵対する意思はない。

 

 だったら——

 

「どうか、話を聞いてください!」

 

 宙に浮いているサラマンダーの下で、膝をつき首を垂れる。

 

「……どうやら、敵意はなさそうだな」

「最初からそうだ——って、わかったよ、黙ってる」

 

 遠くで警戒態勢をとっているホークアイを睨みつけて黙殺する。

 

「長いことここにいるが、マナストーンにちょっかいをかけるような奴らしかこんなところに訪ねてくるやつはいない。どういう事情があるか聞かせてもらおうか。相応の理由がないときには……わかるな?」

 

 敵対する意思をほのめかしているあたり、まだ油断はできない。

 

「突然の訪問を許していただき、ありがとうございます。実は——」

 

 世界の危機について説明し、精霊に力を貸してもらっていることを伝える。

 ジンのようにテレパシーは使えないのだろうか。そうすれば信用も得やすいが……。

 

 一通りの説明を終えると、サラマンダーはしばらく黙り込む。やがて。

 

「……それを証明できるものはあるのか?てめぇのいうフェアリーが来るという保証は?」

「時期が来たら、としか。ですが、風の精霊ジンからは加護をいただいています」

「ジンだって?ジンの加護なんざ、あいつの気まぐれとしか思えんがな」

 

 まぁ、そこはあんまり否定できない。

 

「だがしかし、最近気になっていることがあるのも事実だ」

 

 うーん、とどこか考える様子を見せる。もう一押しか?

 

「マナの変動、ですね?」

「何だと?」

「モンスターの今までとは違う行動、気温の上昇、マナのバランスがおかしくなってきているってことはありませんか?」

「……精霊だったら気付いていても不思議にゃ思わねぇが、人間でマナのことに気付くやつがいるとはな。てめぇ、なにもんだ?」

 

 やばい、警戒心を抱かれてしまったか?

 

 一瞬緊張が場に張り詰めるが、意外な援護が入る。

 

「こいつが言ってんのは、こないだバレッテの群れの中に好戦的な奴が複数いたことを言ってるんだ。返り討ちにしたけどな。それに、最近の暑さが変わってきてんのは砂漠に住んでる誰もが感じてる。オアシスの水量の調査も始まったしな」

 

 ホークアイ、ナイス補足だ!

 

「ほぉ、それをマナと結びつけたわけか。人間にしては、良い勘してやがる」

「それをマナと関係してるなんて考えるのは——よっぽど昔から生きていて、寝物語に聞くような話を今でも信じてるような年寄りだけだがな」

 

 その一言は余分だろうが。ニヤニヤしながら露骨に視線逸らしやがって。

 

「伊達に女神の使徒を名乗っているわけじゃなさそうだな」

「女神の使徒?」

「違うのか?まぁどちらでもいいがな。話を聞いて気が変わった!世界の様子も気になるし、ついていってやる」

「本当ですか!?」

 

 やった、これで二体目——

 

「ただし、オレ様は一切てめぇに力は貸さねぇ」

 

 と、思ったら……。

 

「……それは、どういう意味でしょう」

「言葉通りの意味だ。フェアリーが来るとも限らねー。無駄足を踏ませるようならいつでも後ろから丸焼きにしてやるからな——」

 

 ええー……。やっとホークアイと打ち解けたと思ったらこれか。

 

 言うだけ言うと、火のマナの燐光だけが空間に漂う。姿を消したようだ。

 

 ——いつでも近くにいるから安心しな。それから、マナストーンには触るんじゃねえぞ。指一本でも触ったら、この話はなしだ。

 

 頭に声が響く。

 

「うへぇ、なんかきもちわりぃ!」

 

 ホークアイが舌を出して間抜け面をしているのを見て気が抜ける。

 

 ——テレパシーが使えるなら最初からそうしていただければ、話が早かったんですが。

 

 ……?

 

 反応がない。

 

 小言混じりだったから無視されたのか?

 

 それとも、これはテレパシーとは違うのか、頭の中で語りかけても反応がない。

 一方的な語りかけだけしかできないのかもしれない。

 

 精霊のことはよくわからん。いろいろ謎な存在だ、ということだけ再認識しておく。

 

「デュラン、お前ただでさえ変な顔がさらに変な顔になってるぜ」

「やかましいわ」

 

 とりあえず、念じたところで反応がないのだ。サラマンダーは、テレパシーが使えないという前提で考えていこう。

 もしくは、俺のことを見極めて信用するまではコミュニケーションを取る気がないのかもしれない。

 

 どっちにしろ精霊の助力を得られないことだけはわかった。加護がないのは痛いが、ひとまず目的は達したと考えよう。

 

 惜しむべくは、マナストーンを使ってのクラスチェンジ理論を試してみたかったのだが、それが叶わないことか。

 

 サラマンダーからの禁止令がでてるし、致し方ない。アルテナにもチャンスはある。

 

 ひとまずは。

 

 火の精霊サラマンダーが仲間(仮)になった!

 

 ってことに満足しておこう。

 

「おい、用事が済んだならとっとと帰ろうぜ!こんなところにいたら干物になる前に黒こげになっちまう!」

 

 お前は気楽でいいよな、ほんと。

 

「ああ、行こうか」

 

 ホークアイとの旅もあっという間に終わりだな——

 

「ホークアイ、良いアシストだった。ありがとな」

「やめろよな。柄にもないこと言われると鳥肌が立ちやがる!」

「美人に言われるのは?」

「そりゃべつもんだ」

 

 このやろう。

 

 目的をすんなり達成してほっとした空気の中、歩いて帰ることに二人で顔を見合わせてげんなりしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










デュラン君が寝てたの一日ですが、現実では一月以上流れてました。。
遅くなりましたが、時間のあるときにぽつぽつと投稿していきます。
(ペースが上がるとは言ってない)

この話は一月以上寝かせたのを加筆修正してたのですが…
なんかどつぼにはまるというか、これでいいのか?みたいな感じになったので、作者もふて寝してました(笑
いや、すみません。
感想をくださってる皆様ありがとうございます。励みになります。
要望とか話の筋を変えたりとかはしないと思いますが、先の予測は控えてわくわくしつつ、後から読んでみて、「おっ、予想通りやんけ」ニヤニヤとかしてもらえるとありがたいです。

ちなみにこの話でいつもの二話分くらいです。

評価、お気に入り登録もありがとうございます。楽しく書けるうちは頑張ります!
よろしくお願いします。
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