デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第十六話 出航の際に思ったことを叫んでみる

 

 

 

 

 

「明日にはここを出るのか」

「予定が詰まってるんで、長居はしないんだ。世話になったな、ホークアイ」

 

 俺たちは、ディーンで荷物を回収してサルタンまで戻り、目的達成の祝杯をあげていた。

 

 店は、俺が名前を伝え忘れた場所だ。

 

 あのとき、ホークアイが見つけてくれなければ、サラマンダーにも出会えてなかったと思うと奇妙な縁だと思う。

 

「そうだ、ホークアイ。約束の報酬の話なんだが……」

「ああ、そうだったな」

 

 言い値を支払うとの約束を忘れてはいない。精霊の協力を取り付けることに成功した対価と思えば安いものだ。

 

 が、あまりふっかけられても困るというのは都合が良すぎるだろうか。

 

 いろいろ考えはあるが、決して表情には出さない。

 

 男が一度言った言葉に責任を持つのは当然。

 

 うじうじ考えるのはやめだ!

 

 さぁ、いくらでも提示してくるがいい。我がパトロンである英雄王の財源が枯れることなどないと知れ!

 

「考えたんだが、今はもらうのを保留させてくれ」

「……保留?」

 

 ああ、とどこか思案するような顔を見せるホークアイ。

 こちらとしては、覚悟が決まったところでのその反応に、なんだか肩透かしを食らった気分である。

 

「それは、いいのか?情けない話、ここからは減る一方だから、後からだと払えなくなってしまうかもしれないぞ?」

「そんときあるだけもらうさ」

 

 こいつ鬼かよ。

 

「冗談だ。わかりやすい顔だな」

「やかましい。どういう風の吹き回しだよ」

 

 言ってはなんだが、ホークアイは人並みにがめついというか、もらえるものはもらっとく主義だと思っていたのだが。

 

「単純さ。お前さんの話を信じる価値があると思ったんだ。実際、精霊を仲間にしちまうなんて、常人にできないことをやってのけたんだからな」

 

 確かに、この世界を支えるマナの根源にもっとも近い精霊と接点を持つなど、一生経験のないまま人生を終える者がほとんどだろう。

 

 そんなありえない体験をした後だからこそ、1%でも起こりうるかもしれない可能性を視野に入れることになったわけか。

 

「美獣イザベラだったか。奴が来たら警戒しておく」

「警戒だけでは足りない、逃げるんだ!」

 

 思わず語気を強めてしまう。

 

 だが、言わずにはいられない。

 

「大切なものを失くす前に、判断を誤らないでくれ。頼む」

 

 ホークアイにとって兄弟分であるイーグルを失うことの意味は大きい。

 

 事前にそれが防げる可能性があるからこそ、救えるものなら救ってやりたい。

 

 ただの自己満足なのは分かっている。本気で救うなら、ここに滞在し続ければいい話だ。

 

 だが、無責任にも俺は自分の目的を優先している。

 

 わかっている。だけど、それでも手の届く範囲でなんとかしたいと思ってしまうのだ。

 

「……引き際を間違えることはない。気をつけておく」

「ありがとう、ホークアイ」

「よせよ。別にお礼を言われる筋合いはない。本当に変な奴だな、お前さんは」

 

 ホークアイは視線を背け、ぐいっとグラスを煽る。その表情は、言葉ほど刺々しくはない。

 

「信じてくれたついで、といっては何だが、一つ頼まれてくれないか?これはホークアイにとっても悪い話じゃないんだが」

「なんだ?また依頼か?」

「まぁ、そんなようなものだと思ってくれていい。これを」

 

 ホークアイに差し出したのは蝋で封をした手紙だ。

 

「これは?」

「見ての通りだ」

「誰宛だ?まさか、ジェシカとは言わないよな?」

 

 少し警戒した目をしている。こいつ、どんだけジェシカが好きなんだろうか。その割には女性に対して態度が軽いわけだが。

 

「そんなわけないだろ。美獣が現れて、風の王国ローラントを襲う計画を企てていたら、これをその国の姫に渡して欲しいんだ」

 

 手紙には、ホークアイが信用できる人物であることが書いてある。それから、俺が差出人である手紙だと信じられるような内容も書いておいた。

 

「これを渡して、襲撃の計画について伝えるんだ。そうすれば、きっと力になってくれるはず」

 

 襲撃のタイミングが分かれば、ローラントだって対応しやすいし、何よりエリオットを守る人は多いに越したことはない。その点、ホークアイなら安心だからな。それにリースの負担も減るから一石三鳥だ。

 

 いや、ホークアイの面倒を見るという点ではマイナスなのか?

 

「……おまえって、頭が回るようで、実は馬鹿だよな」

「あ?何か問題があるか?」

「一国の姫にコソ泥ごときがあってもらえると本気で思ってるのか?」

「ん、うーん。会えないかな?」

「無理だろ」

 

 無理か。というか、あの門番の人達にはフォルセナの国印がある封書を見せたっけ。

 

 当然、そんな国印なんて持ってるわけない。

 

 詰みかな。いや、待てよ。

 

「別に直接会う必要はないから、手紙だけ渡せればいいだろ。中を見れば分かるしな」

「百歩譲って、手紙を受け取ってもらえたとしよう。それでなんでオレに協力してくれることに繋がるんだ?情報だけ提供して、はい、さようならってオチは勘弁だぜ」

「安心しろって。リースはそんな人じゃない」

 

 あのリースがそんな風に簡単に人を切り捨てるわけがない。

 むしろ、不遇な目にあっているホークアイに力を貸してくれるだろう。情報提供はそういった意味では関係を作りやすくする架け橋でしかない。

 

 まぁ、自惚れでなければ、多少は俺の口添えも役に立つはずだ。

 一応はフォルセナの使者として信頼を得たはずだからな。

 

「リースってのは、まさか、ローラントの姫か?」

「そうだが、それがどうした」

「なんで一国の姫に対して、そんなに親しげなんだよ」

「そんなつもりはなかったが、なんかおかしいか?」

「いや、なんかもうお前さんならあり得るか……。待てよ、もしかして……」

 

 少し宙に視線を彷徨わせたかと思うと、急にこちらの顔を覗き込んでくる。

 

 どうした、挙動不審すぎるぞ。

 

「ははーん。そういうことか。てんでそういうことには興味ありませんが?って顔してる癖に、やることはやってんだなあ」

「……何の話だ?」

 

 こいつ酔ってんのか?

 急になんなんだ。にやにやといやーな笑顔を浮かべて。

 

「つまり、この姫さんとお前はいい関係なんだろ?」

 

 いい関係?

 共にハーピーと死闘をくぐり抜けたしな。悪い関係にはなってないだろう。

 

「まぁ一月以上一緒にいたからな」

「なっ!」

 

 ホークアイが目玉が飛び出るかのような表情で、テーブルに身を乗り出してくる。

 乗っていた料理の皿が軽く宙に浮いた。

 行儀の悪い行動に一瞬眉をひそめる。

 

「だから、この手紙なわけかー!かー、なんていうか、健気というか、女々しいというか!で、どこまでの関係なんだよ!」

「どこまでの関係って何が」

「はー⁉︎ここまで喋っといてそりゃないぜ!いろいろあんだろ、ほら、どこまで踏み込んだんだ?お兄さんに言ってみ?ん?」

 

 どこまで。何を以てどこまでなのかまったくわからん。

 しかし、目の前の男、完璧に酒が回っていそうだ。なんなら答えるまでずっと同じ話題が続きそうなほどだ。

 面倒だな……。

 

「とりあえず、俺はこの旅の間に16になった。お前をお兄さんと呼ぶような歳じゃあないぞ」

「そんなことはどうでも……良くないな、おめでとう!というか、オレと同い年だったとはな!」

 

 そうなのか。まぁ、どっちが上か下かなんて大した問題じゃないわけだが。

 

「で、実際どこまでいったんだ?」

 

 誤魔化し切れてなかったか。夜が長くなりそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あーだこーだと適当にはぐらかし、ホークアイとは支払いのために、再会を約束して別れた。

 

 全てのことが済んでローラントにたどり着いたとしたら。そのあとジャドに向かうはずだ。

 

 そううまくいくかは分からないけれど、タネは撒けたはずだ。

 

 なんだか締まりのない別れになったのは心残りだが、近いうちにまた会えそうな気がしているから不思議である。

 

 砂漠の都でもいろいろあったし、暑いし、環境はなかなか厳しいものだったが、いざ出立となると寂しさも感じていて驚く。

 

 神獣が解放されない限りは、もう来ることはないだろう。イーグルとジェシカをホークアイが救えることを願っている。

 

 船着場に到着し、エルランド行きの船を探す。

 

 いくつもの船が並んだ中で、すぐに目的の定期船は見つかったのだけれど、ここでトラブルが起きた。

 

「すいやせん、名前は?」

 

 頭にターバンを巻き、こんがりと焼けた肌を見せている船乗りが言った。チラチラと剣を見ているのが気になる。

 

「デュランだが」

「……そうですかい。悪いけど、にいちゃんは乗せられねぇんでさぁ」

 

 言葉のわりにあまり申し訳なさを感じ取れない。

 むしろ、厄介なものが来たとでもいうような顔をされている。

 

 この時点でそんな対応をされる心当たりはない。

 

「何故だ?金なら払えるが」

「いや、依頼主の意向で、剣士風の男が来ても乗せるなと言われてるんでさぁ。他をあたってもらえますかい」

「そうか……倍支払うと言っても?」

「こっちができるのは乗せないところまででさぁ。報告までは言われてねぇんで、これで勘弁してくだせぇ」

「わかった。無理を言ってすまなかったな」

 

 厄介ごとに首を突っ込みたくないとでも言わんばかりの態度だ。まぁ、向こうにも事情がありそうだから、気にしないようにしよう。

 

 さて、一旦状況を整理しようか。

 

 なぜかは分からないが、剣士風の男に限り、乗船できなくなっている。というか、そのキーワードが「デュラン」の可能性は高いだろう。

 剣を気にしたことから、条件は「剣士」「デュラン」といったところか。

 

 俺以外の理由があるかもしれないが、俺に関わることだとすると、思い当たるのは一つしかない。

 

 依頼主と言っていたことから原因は金持ちか、権力者だ。俺がサルタンで関わったことがあるのは、ホークアイ達の手から一回守り通したあの商人ぐらいだ。

 

 つまり、そいつがなんらかの理由で手を回している、かもしれない。

 

 何が目的かは不明だが、嫌がらせだろうか。

 

 これでもし、俺が暴力に訴えるような人間だったら、どうなっていたことか。

 そのへんの損得勘定ができないから、ナバールに狙われるような稼ぎ方しかできないのだ。

 

 なんてな。

 

 そんなふうに知ったようなことを考えながら、渋々船から降りる。

 

 しかし、さて。

 

 困ったぞ、これは。

 

 マジで解決策として思いつくのは出航間際に無理矢理乗り込み、脅迫して運ばせる案が、濃厚になってきた。

 

 でもこれは最悪の場合だ。

 

 できれば真っ当な手段で解決したいし、騎士としての尊厳は最低限守りたい。

 

 だが、せっかく予想より早く解決したんだ。こんなところで足止めはごめんなのだが。

 

 うーん、と頭を抱えていたときだった。

 

 

 不意に、後ろから、声をかけられた——

 

 

「お困りですか……。今ならエルランド行きの船に……無料で乗れますぜ……」

 

 

 低く、ねっとりとした男の声。

 

 まさか。

 

 いや、え?ここで来るのか?

 

 恐る恐る、ゆっくりと振り返るとそこには——

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ。有名人」

「なんだホークアイか……脅かしやがって」

 

 てっきり幽霊船イベントが始まってしまったのかと思ったわ。冷や汗が半端ないぜ。

 

 というか有名人ってなんだよ。

 

「随分と早い再会だが、どうした?やっぱり支払いをした方がいいか?」

 

 半分呆れたように肩を竦める。その態度を見ても、ホークアイはにやにやと笑っているだけだ。

 というか、少し楽しそうだ。

 

「お前さんな、今はどこの船にも乗せてもらえなくなってるみたいだぜ」

「剣士は入船を制限されてるってか?」

「なんだわかってるようだな」

「ついさっき知ったのさ。なんでそんなことになったのかはわからん」

「お前が一度護衛をした商人の八つ当たりさ。どうも一回盗まれただけじゃ懲りなかったらしい。あわよくば、自分のところに直談判に来たところをもう一度雇い直して、飼い殺しにする算段みたいだぜ。そうなったら金が思うままだから、案外悪くないかもな?はっはっは」

 

 そう言いながらも、まったく名案だと思っていないことは表情からよくわかる。

 

「昨日今日でよくそこまでの情報を集めたな」

「酒場で飲んだくれてる剣士を探すよりは簡単なことだ」

 

 皮肉か?いや、しかし自分へも痛烈なブーメランになってるような気もしないでもないが。

 それとも、もしかして謙遜してるのか?

 

「……なんだよ?」

「いや、根に持ってるのかと思ってな」

「そりゃあんだけ意味深なこと言っといて店の名前を言わないまま消えるようなやつだ。こっちの情報収集能力を試されてるって思うだろ」

 

 そんな意図はまったくなかったが、そういえばそんなこと言ってたな。

 

「あのときはうっかりしてたんだよ。まぁでも、ホークアイの腕にかかれば何の問題もなかったがな」

「あ、ああ。そうだな。多少手間取ったが、見つけられないことはないと思っていたしな」

 

 あれ?照れてんのか?

 

「照れてんのか?ホークアイ」

「んなっ!そんなわけないだろっ!それで、エルランド行きに乗りたいんじゃなかったのか⁉︎」

 

 そうだ。ホークアイをからかっている場合じゃなかったな。

 

「乗りたいが……船があるのか?」

「あるから提案してるのさ。なんで持ってるか知りたいか?」

 

 原作でそんな設定はなかったから、予想の範疇だが、たぶん理由はアレだろうな。

 

「密輸用か?盗品を国内で売り捌くのはリスクが高いし、足元を見られたら安くて商売にならない。だったら、商船に混じって堂々と国外で捌いた方が値も上がるしな。どうだ?」

「……面白味のないやつだな」

「言ってろ」

 

 だいたい当たったのかな。まぁ、細かいところまで全部説明するはずもない。そんなに簡単な話じゃないだろうしな。

 

 今肝心なのは、船に乗れるか、乗れないかだ。

 

「で、俺は本当にただで乗せてもらっていいのか?」

「ま、このホークアイ様の紹介なら無料どころか、朝飯に新鮮な魚までつけてくれるだろうぜ」

「お、おう。そいつは嬉しいな」

 

 何をこんなにはしゃいでるんだって感じだが、助かったのは間違いないからな。余計なことは言わないようにしよう。

 

 二人でナバールの船が停泊してある場所まで向かって歩き始める。ぽつぽつとホークアイが話を振ってきた。

 

「なぁ、お前さん、これからも旅を続けるつもりか?」

「そうだが。なんだ、藪から棒に」

「少し気になっただけさ。で、本当に全ての精霊を集めるつもりなのか?正気か?」

「正気じゃなかったら火炎の谷なんて行かないさ」

「……それもそうか」

「ああ」

 

 それきり無言の時間が続く。

 港にはそれなりに人はいるが、今、俺たちの周りに話を聞いているものはいない。

 

 またもや口火を切ったのはホークアイだった。

 

「世界の平和のため、と言ったっけ?一体何のためにそんなことするんだ?」

「今日は質問攻めだな」

「いいから。——答えろよ」

 

 ホークアイが足を止めた。俺もそれに合わせて少し前で止まった。

 

 その声音から、この質問によってこれからのホークアイとの関係が変わることになると予感する。

 

 立ち止まって、ほんの少しの間に思考する。

 

 何のためにそんなことをするのか、か。

 

「自分のためだ」

「オレにはまったくそんなふうには見えないね」

「泥棒は嘘に敏感なんだろ」

 

 振り返り、ホークアイの瞳を覗き込む。

 

「自分のためだ」

 

 先ほどより低いトーンで繰り返す。

 

 その言葉に、ホークアイは息を呑んだ。

 

「何が自分のためなんだ?はっきり言って得られるものなんてない。せいぜいが名声だろうが、お前はそんなもん求めてないだろう」

「どうだろうな」

 

 本当のところ、自分でもよく分からない。何を一番に考えてこの旅をしているのか。

 

 初めの頃は一つだったはずだが、だんだんわからなくなってきた。

 

 というか、こうして動いていた方がいいと思う理由の方が多いくらいだ。

 

 だからまぁ、最後は結局マナの樹を枯らさない、マナが無くならない世界になれば、自分のためになる。そういう感じだろうか。

 

 本当にそうだっただろうか。

 

「いいだろう。話せないなら、エルランド行きは諦めてまたあの商人に雇われるんだな」

「待ってくれホークアイ」

「いいや、待たないね」

 

 後ろを向いて立ち去ろうとする姿に焦りを感じる。

 

 なんて答えたらいいのか。

 

 正解があるのか。

 

 ごちゃごちゃと頭の中がまとまらない。

 

 でも、彼が聞きたいのはたぶん、そんな理屈じゃない。

 

 そうなんだよな?

 

 だったら。

 

「——正直、お前に聞かれて分からなかった。たぶん理由はいっぱいあって、そうした方がいい、そんな気がしてるんだ」

 

 ホークアイの足が止まる。肩越しにゆっくりとこちらを向いた。

 

「そんな漠然とした理由でこんな過酷な旅ができるわけないだろう。精霊がいるようなところは火炎の谷のような厳しい自然の中のはずだ。生半可な覚悟じゃ、お前さん——」

 

 ホークアイが口を噤む。代わりに小さく舌打ちをして地面を蹴った。

 

 ああ、そうか。

 

 ここでようやく気付く。

 

 まったく自分の鈍さ加減にほとほと呆れ果てる。

 

「もしかして、心配してくれてるのか?」

「ばっ!はぁっ!んなわけないだろっ!こんな旅をしてたら命がいくつあっても足りないから、死ぬ前に荷物をもらってやろうかと思っただけだ!」

 

 こいつ、勢いよく縁起の悪いこと言い切りやがったわ。

 

 でもまぁ、本心を暴いてしまった申し訳なさもある。ここは、黙って乗ってやるか。

 

「まあ、そんなこったろうと思ったけどな」

「けっ、人を見る目がないんだよ」

「でもこれだけは言わせてくれ」

「なんだよ、改まって」

 

 ぶっきらぼうに言い放つホークアイ。まったく、いい歳の男が拗ねても可愛かねえぞ。

 

 だけどな、また一つ旅の理由が増えた気がするよ。

 

「ありがとう、ホークアイ」

「……礼を言われる筋合いはねえよ」

「そうか。じゃあ、その分はとっとけよ。いつか返してもらう」

「やな奴だよ、お前ってやつは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 港の外れに一隻の船が停泊していた。

 ナバールの船はその辺の商船と比べてもまったく見劣りしない物で驚く。

 ちょうど出航の準備を済ませたらしい。

 

 タイミングが良すぎる気もするが、ホークアイに尋ねるのも癪だからな。素知らぬ顔で乗り込むとしよう。

 

「世話になったな」

「まったく最後まで迷惑なやつだったよ」

 

 呆れたと言わんばかりの表情に、いつもなら一言二言、言いたくなるところだが、不思議とよぎったのは名残惜しさだけだった。

 

 互いに多くは語らない。

 視線が交錯したが、思うことは同じだったように感じる。

 

 口には出さなかったが。

 

 死ぬなよ、と言われた気がした。

 

 そのあと鼻で笑われたがな。

 

 俺が最後の客だったのか、連絡橋を渡り終えると同時に、乗組員全員にとどくようなバカでかい声がかかる。

 

「船が出るぞー!」

 

 出発の声が響き、錨が上げられていく。

 ガラガラと耳障りな音の中、ホークアイが声を上げた。

 

「おいっ!」

 

 桟橋からホークアイが袋を投げつけてきた。高さは二階建てくらいあるのだが、なかなかの強肩具合である。

 弧を描いたそれをキャッチするとずしりと重さを感じさせる硬い感触だった。

 中を見るより早く、ホークアイの補足が入る。

 

「あの親父からもらったガントレットだ!防具だが万一剣がなくなっても、素手よかマシだろ‼︎」

 

 やばい。ほんとにいいやつじゃないか。ちょっと一瞬涙腺を刺激されたぞ。

 

 ってか、戻ってくる間ずっと持ってたなら早く渡してくれればいいのに。余計な荷物で重たかったろう。

 

 とことん不器用なやつだな。

 

 船が少しずつ加速していく。桟橋からぐんぐん距離を取っていく。

 

 もうすぐ声が届かなくなるだろう。

 

 言わなければ、ホークアイに。

 

 俺の本当の気持ちをっ!

 

「ホークアアアイ‼︎俺、本当はお前のこともっとがめついやつだと思ってた!すまあん!」

「おまっ!それ嘘じゃなくて本気のやつだろ!謝れー‼︎」

 

 いや、だから謝ったやんけ!

 

「デュラーン‼︎いつか——」

 

 何かを叫んでいるが、もう声は届かない。最後になんて言ったのか、それが少しだけ気になる。

 

 いつか、周りの大切な人を守った後には、俺に力を貸してくれるかな。

 

 そのときを楽しみに待つとしよう——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

 

 

 酒場で祝杯をあげているときだ。

 

 こいつの顔が少しだけ柔らかくなったのを感じて、なんだか面白い予感がしたんだ。

 

 ただの堅物で、人助けに命を顧みない、おまけに目的のためなら躊躇わずに危険に飛び込んでいく……そんなオレには到底理解できない男がだ。

 

 しかも相手はローラントの王女だという。

 

 なんだこれは。

 

 そんな寝物語で聞かされるような甘酸っぱい話があっていいのか?

 

 まったく。そんな嘘みたいな話に、このオレの好奇心が刺激されるはずが……。

 

 

 

 

 

 

 ——いいぜ、いくらでも聞いてやる。というか教えろや!

 

 はっきり言ってしまえば、王族に憧れなんて微塵もないし、興味の一欠片すらない。

 

 興味があるのはただの一点。お前のような男が惹かれた女が、どんな魅力の持ち主なのか、それだけだ。

 

 場合によっては……いや、それはやめとくか。

 

 少しの付き合いだが、なんだかこいつを嫌いになれないから……なんて訳はないが、単純に王族に興味が湧かないからな!

 

 とにかくだ。

 

「どこまで進んでるのか話してみろやー!」

 

 この男の口を割らせるのは、一筋縄ではいかないということだけはわかった。

 

 

 

 

 

 昨日は飲み過ぎた。

 

 再会の約束をしたのはかすかに覚えているが、気付いたら宿の部屋だった。

 

 ナバールの仲間でサルタンの状況を把握している仲間に、噂やブツの流れについて聞き込みをするとある話があがってくる。

 

 デュランだ。

 

 どうやらヤツを封じ込める包囲網を敷かれてるらしい。

 

 オレには関係のない話だ。

 

 だが、ムカつく。

 

 無性に腹が立つ。

 

 あの商人、オレたちが盗み出したもの以外の隠し財産があったこともそうだ。だが、下調べが甘かったのは情報班の失態だからまだ許せる。

 

 なら何にこんなに感情が波立つ?

 

 気付いたら港に走っていた。

 

 まず、ナバールの船乗りにエルランド行きを待ってもらう。本当に偶然だが、今日が出発だったのだ。これを逃したら半年は状況が変わらない限りここから動けなかっただろう。

 

 次は問題の騎士バカだ。

 

 定期船乗り場にあたりをつけて、探し回ると、すぐに見つかる。ぶつぶつと考え込んでいるところを後ろから驚かせてやる。

 

 予想以上にびびったらしい。

 

 冷や汗すら流しているから、驚かせたこちらも満足だ。

 

 気分が良くなって、少し余計に踏み込んじまった。

 

 聞かなくても良かったことだってのに。

 

 こいつは世界の危機を救う旅を自分のためだという。

 まぁ、本当かどうかはまだ分からない。しかし、こいつは嘘を言っていない。

 そうオレの勘が告げていた。

 

 本当の理由は話さなかった。

 

 それでも旅は一人で行くという。

 

 馬鹿だ。正真正銘の気持ちのいいくらいの馬鹿。

 

 命がいくつあると思ってる?

 

 一つだ。

 

 なんでそんな何の得にもならないことに命を懸けられるのか。

 

 それじゃあ、お前ばかりが損をしているだろう。

 

 そんな不平等が、オレは嫌いだ。

 

 頑張ったやつが頑張った分だけ報われるような——そんな当たり前のことが許される世界であって欲しい。

 

「もしかして、心配してくれてるのか?」

「ばっ!はぁっ!んなわけないだろっ!こんな旅をしてたら命がいくつあっても足りないから、死ぬ前に荷物をもらってやろうかと思っただけだ!」

 

 まったく。ムカつく野郎だ。

 

 別れのときに、お互い言葉はなかったがデュランはたぶん、生きろ、と伝えたかったんだと思う。

 

 甘ちゃんらしい考えに、鼻で笑っちまった。

 

 そうだ、ずっと渡すタイミングを掴めなかったガントレットを投げ渡す。

 

 いつかいつかと思って渡せなかったが、今渡さなければ転売することになる。

 

 いくら盗賊と言えど、純粋な感謝に対する礼品を使わずに売り払うなど鬼畜の所業だ。

 使われるべき者にもらわれた方が嬉しかろう。

 

 と、思ったが、このあとのめちゃ腹の立つ一言はイラッとしたぜ。

 

「デュラーン!いつか——」

 

 だが、お前のような男に少しだけ憧れる自分がいることをオレは自覚している。

 

 どこまでも真っ直ぐで、お人好しで、危うい一面があって。

 

 ちょっとだけ助けてやろうかって、思わされちまう。

 

 いや、この先の道でどんな面白いことをしでかす気でいるのか。

 

 盗賊の好奇心が疼くのかもな。

 

「——再会したときにはお前の旅にオレも連れて行ってくれえー‼︎」

 

 

 

 

 

 











お気に入り、評価、感想ありがとうございます。
こんくらいのペースでぼちぼちやっていきたいと思ってます。。
未だにたくさんの方が読んでくれているみたいなので、頑張れそうです!
今回も二話分くらいの分量。読みにくくないかが少し心配です。

さて、ホークアイとはしばらくお別れで、次回からエルランドに舞台を移します。
登場するのはなんと…、いったいアンなんだってんだ⁉︎お楽しみに。
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