デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第五章 草原の国フォルセナ編
第二十四話 「えっ——あ、うん。覚えとく……」


 

 

 

 

 

 

 

 長い航海を終えて、マイアを経由した俺たちはようやく我が故郷フォルセナへと辿り着いた。

 

 さすがに海を越えてからは追手の心配をすることもなく、平穏な旅路だった。

 

 旅の間、相変わらず船上では修行に明け暮れ、水のマナをコントロールすることができるようになった。

 もっとも、あんなピンチが早々起こらないように立ち回るし、自分の力を過信などしない。

 なぜなら、未だあの数秒のうちにサハギンを全滅に追い込んだ剣技に達していないからだ。

 

 あのレベルに至るには、肉体から離れたマナですら剣に纏うのと同程度に扱うことができねばならない。それに純粋な肉体の強度を高めなければ、あの威力は出せないだろう。

 そう悠長に構えていられる時間がないだけに、自分の実力不足に不満しか湧いてこない。

 

 ただ、水のマナを使いこなす中で、マナの持続力、出力はかなり伸びたように感じている。マナの許容量が増えた、ということだろうか。今の状態ならサハギンが数十匹来たとしても何とかなる気がしている。

 加護を受けるごとに強くなっていくのかもしれない、という仮説もあるが、陛下や父さんが精霊の加護を受けたなどという話は聞いたことがない。

 

 これは推測だが、一人で闇雲に修行を積んだだけではこのスピードで強くなることはなかっただろうと思う。そこに少なからず加護が影響を与えているはずだ。だからこのまま順当に精霊から加護を得られれば、今以上に強くなれる可能性があると考えている。

 

 もっとも、使いこなすための修練は必要だろうが、その程度どうということはない。伸びしろがあるというだけで、この上ないモチベーションなのだ。むしろどこまで高みにいけるか楽しみですらある。

 高みに到達出来なかったときは破滅があるかもしれないプレッシャーもあるが、後悔しないように努力していく方針だ。

 

 

 一方のアンジェラの方は、未だに魔法が使えないままだ。本人なりにはいろいろと試行錯誤しているようだが、なかなかモノにならないらしい。

 何かきっかけが必要なのだろうか。原作では、精霊を仲間にした後のレベルアップで魔法を覚えたような記憶がある。純粋に戦闘経験が足りないのか、とアンジェラと考察したこともあったが、アルテナの魔法兵達はモンスターと戦って習得したわけではないと、一蹴されてしまった。

 

 実戦ではないとしたら、願う強さだろうか。しかし、それなら誰にも負けていないはずだ。

 それともやはり技術的な何かだろうか。俺自身は加護を受けてからリースと訓練を積んで習得できたわけだが、攻撃魔法はどうやっても使えていない。早々にセイバー魔法に絞ってしまったからというのはあるが、相性のようなものはあると思う。相性という点では、アンジェラが習得出来ないような特別な何かがあるとは思えないのだが……。

 

 と、考えるのはここまでだ。

 久しぶりの故郷の匂い、懐かしい街並みを感じながら、俺たちはフォルセナの城内へと入っていく。まずは、陛下の勅命に関する報告があるからだ。

 

「長い旅だったんだから、先に家族に会うのかと思ったのに」

「大事な手紙を預かっているんだ。まずはそっちが最優先なんだよ。国際問題になっちまったら目も当てられん」

 

 そう言って、懐にしまわれたローラント王国の国印のついた手紙を叩く。

 味方になってくれるかもしれない国と国交が絶えるなんて、マナの剣を狙う奴らにとって好都合なだけでこちらに得はない。

 

「こんな少しの時間の差で怒るほど、小さな器の国王じゃないでしょうに」

「おまっ!不敬だろうが!」

 

 慌ててアンジェラの口を塞ぐ。幸い、見回っている衛兵に見咎められることはなかった。

 確かにアンジェラの言うことも分かる。決して口にはしないが。だが、筋は通さねば落ち着かない。

 

「責任を果たすのが務めなんだよ」

 

 ふーん、とまるで興味のなさそうな反応が返ってきた。

 まぁいいさ。

 

 そうこうしている内に謁見の間まで来てしまった。久しぶり過ぎて、なぜだか緊張してきた。

 息を吸う、吸って吐く。

 

「ちょっと、早くしなさいよ」

「だーっ!あのなあ、お前には心の準備ってもんがないのか!」

「はぁ?なんで?」

「一国の王に会うってんだから少しくらい緊張しろ!」

「そういうものかしら」

 

 今まであまり表舞台に立たなかったからだろうか。それとも同じ王族だからだろうか。何の緊張も見せないアンジェラに対して、今日何回目か分からないため息をこぼす。

 

 謁見の間を守る守衛に一声かけて、扉を開けてもらう。重厚感のある音が、その先の王の偉大さを表現しているようだ。

 静かに王まで歩み寄り、首を垂れる。

 二年近く会っていなかったが、その姿は変わりなく威厳に満ち溢れている。

 そして、今だから分かる。陛下から立ち昇る圧倒的なマナの力強さを。

 

 そして、今だからこそ強さの根源を理解することができるし、俺の中で一つの確信を持つ。

 

 ——この人は間違いなく世界最強の一角である、と。

 

「陛下、ただいま戻りました」

「よく無事に戻ったな、デュランよ。……その者は?」

 

 ちらっと、アンジェラの方を陛下が確認する様子が伺えた。

 

「こちらはアルテナの王女です。訳あって私と行動を共にしています」

「お初にお目にかかります。紹介にありました通りアルテナの王女アンジェラと申します」

 

 ふわりと優雅に一礼する様はそれだけで絵になる美しさだ。さすがは王族だと内心で見直す。

 

「——まさか、理の女王の子か?」

「? ええ、母は女王です。英雄王の二つ名は我が国でも有名なほどです。陛下にお会いできて光栄ですわ」

 

 ですわ?

 聞き慣れない言葉に違和感をもつが、表情に出さないように意識する。

 

「噂は聞こえていたが……本当だったとはな」

「国交もありませんし、知らなくとも仕方のないことです」

 

 陛下らしからぬ、どこか煮え切らない反応だ。陛下の情報網でもアルテナの情勢を知り得ないなどあり得るのだろうか。だが、明確に敵対していなければ、積極的に関わろうともならないのかもしれない。アルテナは完全な雪国であるし、食糧の生産や鉱石を掘る山が充実したフォルセナと比較したら、魔法学問くらいしか交易の旨みがないからな。

 

 会話の切れ間とみて、疑問を横に置いて話を進めることにする。

 

「少し時間がかかりますが、彼女のことも含めて報告をさせていただきます」

「分かった、聞かせてくれ。お前の旅路を」

 

 そう前置くと、今までの旅の経緯を全て話す。ローラントから始まり、精霊の加護、アルテナでの暗殺未遂、アンジェラを保護していること。

 

 時折質問を挟むこともあれば、眉間に皺を寄せて考え込む場面もあった。

 精霊の加護については、聞いたことはないということだった。何か強くなる手掛かりになるかと思ったが、英雄王の知識にもないとなると、フェアリーに尋ねるのも期待は薄いな。

 

 しかし、加護がなくても自力で強くなることは可能だということは分かった。そして、陛下や父さんの強さは常人では考えられないものだということも。

 

 陛下が特に反応したのは、アルテナの情勢についてだ。終始険しい顔つきで、何を考えているかは読み取れなかった。

 

「ふむ、ご苦労であった。して、アンジェラ殿下。自身の身の振り方は考えているのか?」

「わたしは……」

 

 突然、今まで蚊帳の外であったアンジェラに水を向けられ、言葉に詰まったようだ。困ったようにこちらを見ている。

 仕方ない。

 

「恐れながら陛下、我が国で保護することは可能でしょうか」

「可能か、不可能かで言えば可能だ」

 

 何だろう、陛下にしては歯切れが悪い。

 

「だが、それは明確にアルテナと敵対する道を選ぶということ。それほどの価値があると、そう考えているのか?」

 

 戦火に巻き込まれて困るのは国民達だ。俺の意思一つで、そこまでの重い決定はできない。

 

「それは——」

「その価値を連れてきたお前が証明できないのであれば、保護する価値はないであろう。が、長く滞在しないのであれば、軽々しく我が国に攻め入る口実にはなるまい。しばらくは骨身を休め、自分の身の振り方を決めることだ」

「しかし陛下」

「他に報告はないのか?」

 

 有無を言わせぬとはこのことだろう。俺はこの件でこれ以上の話をすることをやめた。どの道、フォルセナに保護して欲しいというよりは、後ろ盾になってもらえればという程度で持ちかけた話ということもある。

 アンジェラには、このまま旅に同行してもらいたいしな。ただ、アンジェラ自身がそれを望まなかった場合の選択肢が欲しかったというだけだ。とりあえず、現状アンジェラがどうするかは、一緒に考えてやればいい。

 

 最後にこれは本命だ。

 

「最後に、大事な報告があります。アンジェラ、いったん出ていてくれるか?」

「分かりました。それでは陛下」

「退室を許す。何かあれば、こやつを頼れ。こう見えて、何でもそつなくこなす男だ」

「存じ上げております。ただ」

「ただ?」

「女性の扱いだけは、合格とはいい難いですが」

 

 おい、余計なこと言うんじゃねえ!

 

「ふははは!そうかそうか、なかなかよく分かっているようだな。しばらくはよく手ほどきをして男を磨いてやってくれ!また会おう、アンジェラよ」

「はい、お任せください。それでは、失礼いたします」

 

 特に気にした風もなくアンジェラが退室していく。元々分をわきまえているし、聞かせられない話があることくらい察したからだろう。

 最後のは本当に余計だったが、陛下が笑ってくれたから良しとしておこう。良くないけど。

 

「良い信頼関係を築けているようだな」

「そう見えたのであれば、陛下の中では女性の扱いは合格をいただけると?」

「お前は余の価値観で合格を貰えたら満足するような、そんな小さな器ではあるまい?」

「それを言われては、返す言葉もございません」

「くくっ、励めよデュラン。それで、あやつを外してまでのこと、余程の内容であろう。申してみよ」

 

 頭を切り替える。アンジェラのおかげで少し和んだが、そんな空気のまま話せる内容ではないからだ。

 そんな俺の雰囲気を読んでか、陛下も笑っていた口元を引き締め、鋭い眼光でこちらを見つめている。

 

「アルテナ国、零下の雪原で父に会いました」

「それは真か!」

 

 椅子から思いきり立ち上がり、大声を出した陛下に驚く。

 これほど取り乱した陛下は初めて見た。

 

「すまぬ。余としたことが。それで、ロキは?」

「私のことをデュランだと認識していたようでした。しかし」

「……神託の通りになってしまった、と」

「はい。私の命の危機を救ってくれましたが、漆黒の鎧に身を包んだ父は姿を消しました。このことから、恐らく竜帝は復活している可能性が高いかと」

 

 そこまで話すと、陛下がどかっと勢いよく椅子に体を預け、天を仰いだ。

 

「分かった。竜帝の動向だが、今は警戒以上のことはできない。無闇に復活の前兆を仄めかすことは、世の混乱を招くからだ。だが、何か情報が入ればすぐに伝えよう。お前も何かあれば、報告をするように」

「御意」

「辛い思いをさせてすまない。余があのとき……いや、やめておこう」

 

 何を言いかけたのかは気になったが、陛下が言わないのならば詮索無用だ。

 

「報告は以上です」

「うむ、ご苦労。次に会うのは剣術大会だな、当然出場するのであろう?」

 

 そうだ、もう一つ大事なことを伝えないとだった。

 

 女神からの神託として、剣術大会の日の夜、アルテナの紅蓮の魔導士が城に侵入し、夜間警備の兵を残らず焼き殺すかもしれないこと。

 それに備えて城内の警備を手厚くすることを進言した。

 

「デュランよ、それはやはり確定した未来なのか?」

 

 ロキ以来の死を予告した話だからか、陛下は動揺されているみたいだ。

 俺は自分の手を見つめる。以前は何もできない小さな手だった。だが、今なら。

 顔を上げて、陛下に真っ直ぐ向き直る。

 

「いいえ、陛下。この未来を変えるために、神託を授けられたのだと、そう考えています」

 

 今度こそ自分の力で変えてみせるさ。原作のようになんてならない、誰も死なせない結末を掴んでやる。

 

「……そうか、あのときとは状況も違うしな。来ると分かっていれば、やりようはある。対策はこちらに任せて、お前はひとまず休め、そして大会に備えよ。表彰式で会うのを楽しみにしているぞ」

「はい。ご期待に添えるよう、全力を尽くします‼︎」

 

 少しでも陛下を安心させたくて、俺は気合いを入れて返事をした。

 そんな気持ちが伝わったのか、陛下の表情が和らいだ気がする。

 

「今後については、大会後にまた時間を作る。そこで、お前の考えを聞かせよ。それまで何か不自由があれば、城の者に何でも言うがいい。可能な限り手を尽くす」

「はっ!ありがとうございます、陛下」

 

 

 

 

 

 城を出て、実家に向けて歩み始める。

 

 アンジェラの対応についてだけ、普段の陛下らしからぬ態度に違和感があった。

 やはり、他国の姫だ。外交的に戦争のきっかけとなるという判断に間違いはないが、それ以外にも何か引っかかる。

 それが何なのかは分からないが。最後には少し打ち解けたように思えたのが幸いか。

 

 にしても、アンジェラのブレないメンタルは尊敬に値する。あのくらいのやりとりは王族、貴族の中では当たり前なんだろうか。陛下も笑ってたし。

 

「ねえ」

「なんだ?」

 

 考え事ばかりで城を出てから無言で歩いていたことに気付く。

 

「私は今日の宿をどうすればいいわけ?まさか、案内もせずにその辺で野宿させるわけじゃないわよね」

「あー、そうだな……」

 

 ご機嫌はよろしくないらしい。

 それもそうか、アンジェラからしたら国から出て行け、厄介事を持ち込むなと言われたに等しい。その上見知らぬ土地でもうすぐ陽が落ちるのに宿もないのでは、ナーバスにもなるだろう。

 

 しかし、自分の実家で寝泊まりするのが当たり前の故郷で、懇意にしている宿などあるわけがない。

 その辺の宿を適当にとることはできるが——

 

 まじまじとアンジェラを見つめる。

 

「な、何よ」

 

 旅の途中、どこにいてもアンジェラの存在は目立っていた。俺が側にいることで不逞の輩に絡まれることはほとんどなかったが、これが一人になるとするとどうだろうか。

 

 これだけの美女だ。魔が差して普段ならば犯さないであろう過ちをしてしまう者もいるかもしれない。

 

 一人にすれば余計な問題が生じるだろうことは予想される。

 

 というわけで、特に悩むこともなく結論へと行き着く。アンジェラを一人にはできない。

 

 なら今まで通り、一緒に行動すればいい話だが、俺は久しぶりに実家へ帰りたい。

 路銀は長旅の報酬としてそのまま受け取っているが、無駄にしていいわけではないし、宿に泊まるのはよろしくないだろう。

 

 ってことは、必然的に実家にお誘いすることになるわけだが。

 だが、待てよ。このあとの展開は、さすがの俺でも想像がつくぞ。

 

 長旅からふらっと帰ってきて、こんな美女を泊めるってなったら家族はどんな反応をする?

 

 まあ、ホークなにがし風に言えば、いい関係ってやつに勘違いするのは間違い無いだろう。

 

 俺は誤解されようと気にならないが、果たしてアンジェラがそんな屈辱に耐えられるのかが問題だ。

 シミュレーションしてみよう。

 

『誰がこんな奴と‼︎』べチーン(ビンタ)。

 

 もしくは。

 

『誰がこんな奴と‼︎』バゴーン(殴打)。

 

 あれ、なんで俺悪くないのに殴られてんだ(白目)

 

「さっきから一人で面白い顔してるけど大丈夫?」

「全然平気だが何のことだ?」

 

 すぐさまキリッと顔面を引き締める。

 どうやら表情に出ちまったらしい。こんな情けない考えを読まれるわけにはいかん。

 

「ははーん、もしかして」

 

 えっ、俺声にも出してた?

 

 スキップで俺の前に回り込んだアンジェラが、得意げな顔で尋ねてくる。

 

「あんたが何を悩んでるか当ててあげようか?」

 

 手を後ろ手に組んでこちらを覗き込んだからか、揺れる豊かなものに自然と視線が吸い寄せられそうになる。

 本人はまったく気付いていないだろうが、意志の力で俺は強引に目線を上げた。

 

 段々とこういった素振りにも見慣れたつもりだったが、上目遣いプラス不意打ちのコンボにどきりと心臓が跳ねたのを自覚する。

 

 絶対分かっててやってるよな、あざとい!

 

「いや、聞きたくはない」

「こんな美女が一人で宿を取るなんて危険すぎる、俺が守ってやらないと!って思ったんでしょ?」

 

 そっちか。まぁ、俺の心配の方が斜め上過ぎた感はある。

 アンジェラの言う推測もなくはないが、全部を肯定するのはなんだか負けた気がするわけで。

 

「……半分は当たってるな」

「あら?半分当たったなら上等ねー。その通りって言えないところはマイナスだけど」

「世の男が染めなくてもいい犯罪に手を出してしまわないか心配してただけだっての」

「じゃあ私が美女だって部分は認めてるってことね?」

 

 片手を口に添えながら、にやりと擬音がつきそうな笑みを浮かべるアンジェラ。やっぱり素直に認めたくない。

 

「さあな」

「素直じゃないのね。でもどうせならもう半分の方が良かったかな……なんてね!」

 

 これまた予想外の言葉でアンジェラを直視できない。自分が可愛いことが分かっての態度なのが、また腹が立つポイントだ。

 しかし、先ほどとは一転して機嫌は直ったようだ。

 ごほん、と咳払いをして話を進めることにする。

 

「俺は実家に帰る。客間があるからアンジェラも泊まるか?宿代も浮くしな」

「あのねぇ、誘い文句にしてももっと気の利いたセリフが言えないものかしらね」

「一人でいるよりは楽しいんじゃないか?」

「なんで疑問系なのよ」

「一人の方が好きだって人間もいるからな。まぁそれでも断りたいってなら、どっかの宿を紹介してもいい。実家の方が安全だし、万が一にも対処しやすいからおすすめだぞ」

 

 あとは飯もうまいし、可愛い妹のおまけ付きなんだが、余計な事言って後から変に家族に吹き込まれるのは恥ずかしいからやめておく。

 一方のアンジェラは、少し迷っている様子だ。なんだかんだ言いながら決めかねているらしい。

 

「で、どうする?もちろん宿代はとらないし、三食昼寝付きでいいぞ」

「そんなとこ心配してないし!……その、万が一があったとき、あんたは後悔しないわけ?」

 

 ん?ああ、そうか。

 俺の家族を心配してくれてるのか。

 

 言われてみれば、フォルセナに来たから100%安全だとはならないわけだし、アンジェラの心配は当然と言える。

 だが、アンジェラを一人にさせたくないってのが、俺の考えだ。決めた路線は譲らない。

 

「情けないところを見せたこともあったが、俺の強さも知ってんだろ。気にせず来いよ」

「別に情けなくなんて……でも、分かったわ。せっかくだから、あんたの家族にも会ってみたいし」

「あ?そりゃどうしてだ?」

「さあ、なんででしょうね?」

 

 ふふ、と薄く笑うアンジェラは、どこか楽しみな様子が見てとれる。

 変に気が回るところがあるからな。楽な気持ちで休めればそれでいい。それから、訂正が一個。

 

「あとさっきのもう半分の話だけどな、おまえのこと守ってやらないと、なんてのは常に意識にあることなんだよ。だから守るか、守らないか、なんていちいち悩むようなことじゃないから。そこんとこよく覚えとけよ」

「えっ——あ、うん。覚えとく……」

 

 頷いたかと思うと、目線を逸らして艶のある紫紺の髪をくるくると指先でいじるアンジェラ。

 あれ、なんか思ってた反応と違う。しかし、言っとかないと、また変なとこで意地張って命懸けられても困るしな。普段から刷り込んでおかねば。

 

 にしてもこれは、照れているのだろうか?

 

「な、何よ、まだなんかあるわけ?」

「あー、いや、もしかして、照れてんのかなーって」

「はあ⁉︎んなわけないでしょ!変なこと言ってんじゃないわよ!」

 

 おっと失言だったかな。

 アンジェラはというと、言うや否や顔を伏せると、スタスタと早足で先行していく。

 

「なあ、場所分かんのか?」

「ッ!分かんないわよ!ちゃんとエスコートしなさいよね、この……‼︎」

「この?」

「何でもないわよ!バカ‼︎」

 

 えー、そんな理不尽な。

 変に揚げ足を取るようなことを言ってしまったせいか、アンジェラは頬を赤く染めて怒っている様子だ。

 どうも俺は女性の気持ちを汲み取るのが苦手らしい。まぁ、今更だけど、合格をもらうまでの道のりは遠そうだな。

 

 彼女に歩く速さを合わせて、改めて肩を並べながら俺の実家に向かう。

 何故だか少し、先ほどより帰るのが楽しみな自分がいた。

 

 

 

 このときは、まさかあんな事が起きるなんて、想像すらしていなかった——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新章開始しました。
お久しぶりです。年内に投稿できて良かった。
やっとこさスタート位置なんですが。遅筆で申し訳ない。
早く仲間そろえー!って皆さん思ってますよね、ええ、作者も気持ちは同じです笑
頑張ります、きっと来年の作者が(白目)

お気に入り、評価、感想等ありがとうございます。読み返してモチベーションになってます笑
いつも読んでいただきありがとうございます!
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