デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第二十七話 「ただ、今から話すことは決してあの子に伝えてはいけません」

 

 

 

 

 

 帰宅した俺たちを待っていたのは、母シモーヌでもウェンディでもなく、ステラさんだった。その表情は誰の目から見ても青ざめていて、ひどく取り乱していることが分かる。

 俺の顔を見るなり、今度は怒りの形相を浮かべ、俺の肩に激しく掴みかかってきた。

 

「デュラン!こんなときにいったいどこへ行っていたの‼︎」

 

 ただ事ではない切羽詰まった様子に、緊急事態を悟る。肩に痛みはないが、できるだけそっとステラさんの手を握り、語りかける。

 

「……何があったのか話せますか?」

「どうしてあんたはそんな冷静に!妹が連れてかれちまったんだよ、ウェンディが‼︎」

 

 ウェンディに何かが起きた、そう聞いた瞬間冷静でいたはずなのに動揺してしまう。

 だが、ここで俺が焦っても事態は変わらない。

 息を吸って、吐く。ステラさんから話を聞くのが先だ。

 

「落ち着いて、ステラさん。状況の把握が最優先だ。でないと……」

 

 でないと、何だ?

 

 この状況だ、ウェンディが危ないなんて分かりきっている。俺はとっさにそれより先の最悪なイメージを避ける。

 

「ゆっくり息をするんだ。大丈夫、一つずつ質問に答えて」

 

 俺は全神経を集中させ、努めて静かにゆっくりと声を発した。

 ステラさんの荒い呼吸がだんだんと穏やかに変わっていく。

 

「ウェンディが連れ去られたのはいつ、相手は何人だったか分かる?」

「……まだ三十分と経っていないよ。相手は三人だった。このあたりじゃ見たことない男たちさ。流れの傭兵……だと思うけど」

 

 傭兵——ウェンディを連れ去る意味は何だ?

 単なる人攫いならもっと金のある家の子どもを狙うだろう。わざわざ騎士の身内を襲ったのはなぜだ。

 

「そうか。どこでウェンディは連れ去られたんですか?」

「うちの前さ。買い物から帰って来たときに後ろから襲われてね。それで、あんたに伝えろって……」

「俺に?」

「……剣術大会を棄権しろ、衛兵に伝えたら命はない、って」

 

 そうか、そういうことか。なんて分かりやすい連中だ。

 

 裏で糸を引いてるのは誰だ?

 

 どこかの貴族の手勢が出場でもするのだろうが。

 

 誰の妹に手を出したのか、分かっているのか?

 

「デュラン、あんた——」

 

 マナが、体の内側で荒れ狂っている。家が震えるほどの風が巻き起こると、小さくステラさんが悲鳴を上げた。

 不意に体がぐらつく。

 

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!」

 

 アンジェラが俺に体当たりの勢いで抱きついたのだ。平時なら変な気持ちが湧いただろうが、今の俺にとっては乱れかけた感情を整えるきっかけになる。

 

 視界が怒りで狭くなっていたことを自覚すると、徐々に自分の状態を把握できてきた。

 

 荒ぶっていたマナを体内に収めるために呼吸を意識する。

 

 一度、大きく深呼吸して気持ちを整えよう。

 頭に血が上ってたらウェンディを救えなくなっちまう。怒りをぶつけるべき者はこの場にはいないのだ。

 

 冷静になれ。

 

 風が止んだ。家の中は多少物が散乱してしまったが、今やるべきことに集中することにする。

 

「すまなかった」

「気持ちは分かるわよ。だからこそあんたの力が鍵になるわ」

 

 こういうときのアンジェラは意外と冷静なのか、と観察する余裕が出てきた。

 

 さぁ、やるべきことに思考をフル回転させよう。

 

「サンキューな。アンはこのまま家にいてくれ。ステラさん、母さんはどこに?」

 

 こんな事態だ。妹の次は母も、なんてことになったら目も当てられない。そう思い問いかけたのだが。

 

「シモーヌは……ウェンディが攫われてまいっちまったみたいでね。今は自室で休んでいるよ」

「家にいるならいいさ。あとは俺が何とかする。アンとステラさんは家から出ないで母さんを見ててくれ」

「どうやって探すつもりだい。この広い城下町で見つけられるはずがないよ」

「大丈夫、方法ならある——」

 

 そう告げたとき、ステラさんの表情がまた変わった。

 

「そんな、そんなこと言ってるんじゃないよ‼︎あんた、ウェンディと剣術大会とどっちが大事なんだい⁉︎」

 

 取り乱したステラさんの悲痛な叫びに一瞬思考が止まる。

 どちらが大事かって、そんなものは決まってる。

 

「ウェンディだ。それ以外ない」

「だったら、剣術大会なんてやめちまえばいい。そうしたらあの子は無事に帰ってくるじゃないか!それでいいじゃないか!」

「それじゃあダメだ」

「何が、何を言ってるんだい」

 

 ステラさんの顔に理解できないとはっきり書いてある気がした。

 

 理解されないとしても、俺は最善を選びたい。

 

 そうやって、旅をしてきたんだ。きっと、これからも。

 

「今、この瞬間にもあいつは助けを求めてるはずだ。俺は、すぐにでも助けたい」

「だけど、下手に動いたら命が……」

「いや、殺せないさ。脅すことでしか、俺から勝ちを拾えないような連中が俺より強いはずがない。であれば、万一俺が約束を守らなかったときの保険とするはずだ。生きてなきゃ俺がどういう行動に出るかわからないだろうしな」

 

 それに、生きていても酷い目に遭わされる可能性はある。

 そうだとしたら、俺は今この瞬間に助けに動かなかったことを一生後悔するはずだ。

 

「そうね。だから今の最適解は、見つけられないほど遠くに行かれる前に見つけること、かしらね」

 

 俺の発言をアンジェラが補足する。

 

「ああ、そうだ。そして、俺ならそれができる。信じて待っててくれ」

「目的はあんたなんだから、相手はあんたが探しに動くことも織り込み済みなはずよ」

 

 アンジェラからの忠告も想定している。

 

「百も承知だ。だけど、俺がその辺のごろつきに負けると思うか?」

 

 少し下手な芝居すぎただろうか。これでちょっとでもステラさんの心配が減るならと思ったが、あまり効果はないかもしれない。

 

「ウェンディちゃんがいるんだから、さっきみたいに短気を起こさないようにね」

 

 それを言われると何も言い返せない。

 

「分かってる。それじゃステラさん、行ってきます」

 

 何かを言おうとして、ぐっと両手を胸元で握りしめるステラさん。今は、気にしてる場合じゃない。

 

「気をつけてね、デュラン!」

 

 アンジェラの声は、信じているとでも言うような、どこか勇気づけられるものだった。

 

「ああ、そっちは頼んだ」

 

 アンジェラに家族を任せ、俺は勢いよく玄関から飛び出していく。

 

「デュラン‼︎」

 

 振り返ると、ステラさんが今にも泣きそうな顔をして俺を見ていた。

 

「あたしがついていながら、ほんとに——」

「大丈夫だよ」

 

 謝罪なんていらない。その表情からステラさんの想いは全部伝わってるから。

 

「必ず助け出す。心配しないで、待っててください」

「ありがとう、頼んだよ、デュラン」

 

 にっ、と笑いかけ、親指を立てる。

 誰も悪くなんてない。悪いのは、私利私欲のために他人を傷付ける奴らなのだから。

 

「風のマナよ——」

 

 さすがに全方位をサーチしているような時間的余裕はないし、そもそも負担が大きすぎる。

 

 だから、相手がどう逃げるか、それを予測してサーチ範囲を絞っていく。

 

 北方面は最初から捨てた。わざわざ城に向かって行くような逃げ方はしないだろう。

 となると、商店や飲食店、遊楽街のある中央か、西方面か。

 だとしたら厄介だが、人目につく可能性は無視できないはず、そっちは避けるよな。

 であれば、住宅が多いこの辺りの地区にあえて潜伏するか、あるいは街道に向かう南か。

 今、最悪な展開は街の外に出られるパターン。

 

 南だ。

 

 そう判断するや否や、南方面に向けて重点的にマナの風を奔らせる。

 

 風が街を駆け抜け、建物の輪郭から人の動く気配まで事細かに伝えてくれる。

 以前にも増して、精度が上がっていることが修行を欠かさなかった証だ。

 

 

 

 いない。

 

 

 

 いない。いない。

 

 

 

 大会間近なこともあり、人は多い。路地など人目につきにくいルートの捜査に集中する。

 

 もっと、もっと遠くだ。

 

 

 

 この近辺にはいない。

 

 

 

 サーチ範囲の限界だ。ここから先は自身も移動しなくてはならない。

 

「風よ——」

 

 肉体に纏った風のマナの力を借り、一息の間に景色を置き去りにして走る。

 

 マナのサーチも並行させていく。負担を度外視し、自分が動くことで捜査範囲を広げていく。

 

「ウェンディ、どこだ!」

 

 叫んだ瞬間、頭を鈍い痛みが襲う。

 

 自身の制御しうるマナの限界に近いという身体の反応だ。

 

 何、この程度の痛み、ウェンディの感じている不安や恐怖に比べればどうってことない。

 

 ステラさんが感じている自責の念とは、比較にもならない。

 

 俺には痛みを感じている暇なんてないんだ。

 

 探す情報量の多さを適切に判別していかなければならないのだから。

 人、物、とにかくあらゆる雑多なモノの触感が風を通して伝わってくる。

 

 頭が割れそうだ。

 

 サーチに加えてマナの加速による移動。人を避けることにも神経を使いながら、捜索も並行している。

 全力疾走しながら、違う種類のゲームを二画面で別々に操作し続けているようなものなのだ。

 

 考えただけで吐き気がするような所業。

 

 だが、やらねばならない。見つけなければならない。

 

 見つけられないことなんて考えたくない。

 

 こんなことは原作で起きていないのだ。つまり、これは俺が未来を変えたことによる影響。

 

 どこかの血管が切れたのか、鼻から血が流れ出る。服の裾で乱暴に拭いながら、それでも止まらない。

 

 だから、ウェンディがどうなるかは誰にも分からない。焦っても仕方ないことなんて分かっている。

 

 分かっている、俺はきっと。

 

 ここでウェンディに何かあったら。

 

 この先戦えなくなってしまうかもしれない。

 

 止められない、止めるわけにはいかない。

 

 自分がどうなろうと、知ったことか。

 

「ウェンディ!」

 

 いた、たぶんこの反応。

 

 三人と一人の集団にあたりをつける。

 

 南西方面に急いで移動している不自然な気配。やはり人気の少ないところを選んで進んでいる。一人は担がれているのか、動きがないにも関わらず、移動している。

 

 見つけた、見つけたがぎりぎりだ。

 

 このままだと城下町を出ちまう。

 だが、そう簡単に門を通れないはずだ。この夕暮れ時に街の外に出るような輩を引き止めないはずがない。

 

「間に合うか⁉︎」

 

 大体の進行方向は定まった。サーチを止め、風のマナをさらに纏い、一気に駆ける。今の街にはあまりに人が多い。もうすぐ夜だというのに、まだまだ賑わいはこれからだと言わんばかりだ。

 

 まともに道を走っていては、せっかく捉えた気配をまた見失ってしまうだろう。

 

「あまり目立ちたくはないが、今更か!」

 

 一歩を力強く踏み込み、跳躍。立ち並ぶ建物の屋根伝いに移動するためだ。石畳の床が蜘蛛の巣状に破壊されたが、今は非常事態だ。仕方ない。

 目の前の爺さんがあんぐり口を開けていたが、長く生きてりゃそんなときもあるだろうさ。

 

 ある程度距離を詰めただろうところで、走りを止めないまま、もう一度サーチを試みる。

 

 先ほどよりもさらに方角は絞られた。一方向の範囲に狭めた分、負担は少ない。

 

 今度はすぐに同じ気配を捉えられた。

 しかし、追っていた気配のいる場所に驚きを隠せない。

 

 そんなバカな!すでに城下町を出ているなんて。

 門番は何をしてんだ⁉︎

 

 門の前へと建物の屋根から飛び降りる乱暴な着地。突然降ってきた人物に対して、何事かと咎められるかと思ったが、そんな声はなかった。

 いや、声どころか衛兵の姿すらない。

 

 理由をすぐに察する。

 

 衛兵は四人。そばに作られた詰め所の中でそれら全員眠りに落ちている。

 どんな手段か分からないが、なかなかの手練れの可能性がある。もしくは、そういった工作ができるような組織か。

 

 くそっ!余計な手間をかけさせやがって‼︎

 

「おいっ!しっかりしろ‼︎」

 

 残念ながら、今はプイプイ草の持ち合わせがない。

 強引だろうが何だろうが、手近な一人の胸ぐらを掴んで往復ビンタをかます。容赦なく叩き続け赤く腫れ上がった頃にようやく目を覚ました。

 

「いっ、痛い!……一体何が」

「いいからさっさと他の仲間を起こせ!」

 

 起きた衛兵は、眠りこけている仲間の姿を見て、慌てて起こしにかかる。

 

 余計な時間をとってしまった。

 街の警備も不安だが、今はウェンディが先だ。

 

「妹が危ないんだ!俺は先に行かせてもらうぞ‼︎」

 

 大声でそれだけ言うと、すぐに詰所を飛び出す。

 サーチをもう一度、今度は街の外に向けて広範囲に展開する。

 

 街道に沿って進んでいる?

 

 いや、この方向はモールベアの高原だ。

 徹底的に人目を避けるってことは、当たりなのだろう。

 

 俺としては余計な人の気配がなくなる分、追跡がしやすくて助かる。

 風のマナを使ったサーチでは勘付かれる可能性があることから、ここからはサーチを控え、向かった方向へと進んでいく。

 

 相手の進行速度から考えると、距離はそう遠くないところまで来ているはずだ。

 

 あと少しで追いつく——

 

 そう思った瞬間。

 

 全身が警戒すべき危険を感じ取り、地面の土を巻き上げながら急制動をかける。

 勢いを殺すことに必死で、後先は構っていられなかった。

 

 殺気だ。それも恐ろしく強い。

 

 明らかに、追っていた俺に対して放たれたものだった。

  

 追っている中にこれほどの実力者がいたのか?

 

 だとしたら、これは完全に罠だ。

 

 俺を殺せるはずがないという予想の片隅にあった、俺よりも実力が上の者がいるかもしれないというわずかな可能性。

 

「だとしても」

 

 やることは変わらない。ウェンディの救出こそが最優先だ。

 

 相手からバレているのなら構うまい。サーチをかけて相手の居所を掴む。

 

 が、人の気配は二つ。

 

 一つはウェンディだ。恐らく地面に横たわっている。あともう一つはウェンディのそばに立っている。これが新手か?

 

 だが、さっきまでの三人はどこへ消えた?

 

 不可解な状況に、警戒度をさらに引き上げる。いや、三人の状況はサーチによりある程度推測はできている。

 

 仲間割れか、第三勢力か、あるいは味方か。

 

 頭では思考を回しながら、体はすでにウェンディの元へ動き出していた。

 

 慎重なこちらからの接近に対して相手からの反応はない。

 

 やがて、視界に二人の姿をおさめる。

 

「ウェンディ!」

 

 一人は、最愛の妹だ。地面に横たえられている。この距離でははっきりと分からないが、大きな怪我は見受けられない。

 だが、それがより周囲の惨状とのミスマッチさを感じさせている。

 

 ウェンディを連れ去った連中は、残らず胴から真っ二つにされ、血の海に沈んでいるからだ。

 

 しかも、ウェンディを中心とした円内には一切の血の痕跡がないことが異様さを際立たせている。

 

 争った形跡もないことから、恐らく、抵抗する間もなく、一閃のもとに斬り伏せられたのだろう。

 

 唯一の救いはウェンディが気を失っているため、この現場を見なくて済んだことか。

 

 戦場でも、そう見ることがない。これは一方的な蹂躙だ。

 

 そして、ウェンディのそばで返り血一つなく、漆黒の鎧で身を固めた存在から放たれる威圧感に俺は息を呑む。

 

 黒耀の騎士と呼ばれる竜帝の手先だ。

 彼は黄金の騎士でありながら、竜帝によって操られている存在。

 

 そう、俺の父親ロキ、その人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アン、さっきは取り乱してしまってごめんなさい」

 

 玄関からゆっくりとステラさんが入ってくる。先ほど見せた動揺もなく、今は初日の食事会で見た落ち着き払った大人の姿だ。

 

「誰だってそうなっちゃいますよ。あいつだって」

 

 自分の懐にいる人を大切にするあいつだもの。家族のことであれくらい怒るのは想定の範囲内だ。だから、私としては何も不思議に思うことはない。

 

「……そうね。でも、あんなデュランを見たのは、初めてかもしれないわ」

「そうなの?」

 

 思わず、素の反応が出てしまう。いつもあいつは自分の感情は表に出すタイプだと思っていたのに。

 

「ええ、あの子、幼い頃から周りの子と違ってすごく大人びていたの」

 

 それは、なんとなく想像できる。少なくとも、私の幼少期とは重ならないだろうなって。

 

 もし、小さいときにあいつと知り合っていたら、今とは何かが変わっていたのかしら?

 

「ウェンディが産まれて一歳にも満たない頃に父親を亡くしてね。それからはずっと父親代わりというか、家族を支えてくれてね」

「そう、なんですね」

 

 私にも父親はいなかった。それを母に一度だけ尋ねたこともあったが、そのときの母の悲しそうな表情を見てからは尋ねていない。

 ステラさんの口ぶりからは、どこか切ない、やりきれない気持ちが込められている気がした。

 

「そうそう。だからかしらね、心配かけないようにデュランなりに背伸びしていたんじゃないかしら」

 

 そういうところは、もしかしたら今でも直ってないかも。

 人に心配かけないように自分一人で抱え込んでさ。それが周りから見たら心配なのだと、どこかで気付かせてやりたいくらいだ。

 

「あんな力を持ってることも全然知らなかったし、きっと父親の血ね」

「それは、どうでしょうか」

「え?」

 

 血、という言葉に反応してしまった。自分でも無意識のうちに。

 

「あ、その、あいつは、剣に目がないと言うか、修行バカって感じだし。たぶん、自力であんな風になったんじゃないかなって」

 

 なんで私があいつのために言い訳みたいなことを話しているのか。

 

 でもまぁ、あいつの剣の腕は勝手にできるようになったものではない。風のマナの力だってそうだ。

 

 確かにお父様は立派な騎士だったのだろう。それはあいつもそう言ってたし、尊敬していることもよく分かっている。

 その一言であいつはもしかすると喜ぶのかもしれない。誇りに思うのかもしれない。

 

 だけど、私はデュランの努力をこそ、みんなに見て欲しい。

 

 そこまで考えたとき、私が本当に否定したいことがデュランのことなのか、分からなくなってしまった。

 

「……アンはデュランのことをよく見てるのね」

 

 ごちそうさま、と言いながらふぅ、と息を吐くステラさん。

 私はその反応で自分の発言の恥ずかしさを自覚した。

 

「違いますよ!目についちゃう、っていうか、まぁ、一緒にいる時間が長かっただけで」

 

 そんな風に評価されると思わなかったからか、やっぱり言い訳みたいな言葉しか出てこない。

 

 これじゃ肯定してるのと同じじゃない!

 

「ふふ、いいのよ。あの子を見てくれてありがとう、アン」

 

 柔らかく微笑んだステラさんを見て、どこかあの優しかったときの母の面影と重なる。

 

 同時にはっと気付く。

 

 この大切な人達を守れるのは、今は私だけだということに。

 あいつには恩があると思ってるし、あいつの家族なら私にとっても無関係なんかじゃない。

 大切な、守りたいものの一つだと。

 

 あいつだったらこの後どうするだろうかと思考を巡らす。

 

 確かに家にいるようにとは言われたけれど、それが本当にベストな選択なの?

 

 家の守りを固める?自分自身が家の外で見張る?

 

 それをあいつがやるならきっと効果的なんだろう。だけど、私はあいつじゃない。

 

 私にできることは限られている。

 だけど、私は私にできる最善の手を打ちたい。

 

 あいつが笑顔で帰ってこられるように。

 

「ステラさん、提案があります。すぐに城に行って、陛下に保護してもらいましょう」

「そんな急に……いくらデュランと知り合いだからって、聞いてくれるはずがないわ」

 

 そう、普通だったら。

 だけど、ここにいるのはちょっとだけ特別な事情を持っているのよ。

 

「私、実はシモーヌさんが言う通り、アルテナの女王の娘なんです」

「へっ?」

「だから、英雄王との面会はご心配なく」

 

 クールな印象だったステラさんでも、思考が止まるくらいの衝撃だったようね。

 あいつの気遣いを無碍にしてしまうことになるけれど、今は説得している時間が惜しい。

 

「私は、あいつからステラさんとシモーヌさんを任されたんです。でも、悔しいけど、今の私には二人を守る力なんてありません」

 

 相手が一人ならまだなんとかなるかもしれない。でも複数人で来られたら、今の私では力不足。

 そんなこと、分析するまでもない。

 

「この家に無理矢理押し入ってくる、そういう可能性を考えているのかい?」

「十分あり得るでしょう。むしろ、デュランがいない今だからこそ、危険かもしれません」

「そう、でも……」

「シモーヌさんにもこの話をしてきます。寝室に案内してもらっても?」

 

 有無を言わさぬ、とはこのことだろう。悩んでいる時間は少ないほどいい。もうあたりも暗くなり始めている。完全な夜となって人の往来が減ってしまえば、外へ出ることも危険になってしまう。

 

「シモーヌは、今……ええ、分かったわ。あなたの言う通りにしましょう」

「ありがとうございます」

「ただ、今から話すことは決してあの子に伝えてはいけません」

 

 どこか、覚悟を決めたステラさんの顔に、嫌な予感がした。

 

「そんな——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










久しぶりの投稿にも関わらず、皆さん読んでくださって嬉しい限りです。温かい感想、評価もいただき本当にありがとうございます。
まだまだ書きたいことがあるので亀更新ですが頑張ります。
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