デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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母とのやりとり&陛下の独白(後半)







第三話 ちょっと早めに世界に飛び出してみる

 

 

 

 毎日毎日、剣を振り続け、疲れては休み、また剣を振る。

 何度突きを放ち、幾度袈裟斬りをしたのか。

 手の平のマメはできては潰れ、めくれた皮膚が、赤以外に染まる日の方が少ない。

 

 しかし、決して無駄な時間などではなかった。父からの教えを忘れることなく、ただ愚直なまでに繰り返すことで、成長を感じていた。

 

 三十分と保たずに休みを入れていたものが、半日以上持続するように。

 か細く、小さかった手は、皮膚が剥ける度に頑丈に、剣の柄を安定して握り込めるほどに。

 そして、少年らしかった小柄な体躯は、15歳となった今では大人ほどまでにたくましく、力強さを感じさせるほどになった。

 度々剣の勝負を挑んでくる同年代の剣士を、勝ち負けを繰り返した末に、今では必ず返り討ちにする程度には実力をつけた。

 未知の土地への知識を仕入れるために、国立図書館へと足繁く通い、知識すら貪欲に取り込んできた。

 

 そう。全ては旅立つ今日のために。

 

 俺はペダンでの話を聞いたあの日から、原作の始まる二年前に旅立つことを決めた。

 

 理由はいくつかある。

 一つは、世界を周るためには、それなりに時間がかかることがわかったからだ。原作と違い、一日二日の距離では船旅で港町へ到着することができないと当たり前のことに気づいたのだ。

 

 ここから一番近い自由都市マイアまで行くのに歩いて二週間。そこから城塞都市ジャドまでさらに二週間かかるらしい。それだけで一ヶ月だ。移動だけでもこれだ。あっという間に二年経ってしまう。

 

 元の世界の地球よりも広くはないらしいことは何よりだが、だからといって、時間に余裕が生まれるわけではない。

 

 そして、全てを自分一人でこなすのは無理だとも判断した。

 

 なので、今回陛下(リチャード様が史実通り王となった)に、聖都ウェンデルの光の司祭へフォルセナからの遣いを出してもらう予定だ。

 

 王からの遣いと、一筆書いた書状付きだ。無碍にはしないだろうと思っている。

 その書状に、ビーストキングダムからの襲撃に備えることや、ヒースへの警告を書いてもらった。

 本当であれば直に俺が説明すべきだろうが、この件に関しては、光の司祭の判断に任せても悪いことにはならないだろうという希望と、旅の時間短縮などを考えての決断だ。

 優先順位をつけた結果ともいえる。

 

 じゃあ、俺はどこに向かうのかというと、目的地は二箇所だ。

 

 一つめは、風の王国ローラントだ。

 ここに決めた理由だが、風の精霊ジンのいる場所がはっきりしているからだ。

 これまた陛下からの書状を添えれば、風の回廊への入り方を教えてもらえるかもしれないし、俺自身は原作主人公の一人、リースに会って話をしておきたいと思っている。あわよくば、と考えていることもある。

 

 ……変な意味ではないぞ。

 

 二つめは、魔法王国アルテナだ。

 これも水の精霊ウンディーネの位置がはっきりしているからだ。

 

 ただ、寒い。氷壁の迷宮にたどり着く前に死ぬ可能性すらある。

 だが、マナのバランスが崩れ始める前なら、エルランドやアルテナがまだ女王の魔力によって、温暖な気候である可能性が高い。であれば、零下の雪原の攻略も多少マシなのでは、と考えている。そっちまで影響してるかはかなり微妙ではあるが。

 

 ただ、最悪なのは、行ってから港が閉鎖されることだが、アンジェラがエルランドからジャドに来れたように、それまではギリギリ港から船が出るであろうことも考えた。

 そして何より、ここは寒さの障害以外は何もない上に、紅蓮の魔道士の出現が判断できることが決定打となった。

 

 紅蓮の魔道士のことだが、ドラゴンズホールへの出入りを、陛下に見張ってもらえるか聞いてみたことがある。だが、竜帝を倒したとはいえ、竜種の多い危険地帯であることは変わらず、兵士を駐留させるのは難しいとのことだった。

 

 世界の危機の要因になる可能性でもあるが、国に忠誠を捧げた兵士をむざむざと死地に送りたがるわけもない、ということだろう。それに、生半可な戦力では現地の魔物相手に駐留などできはしないだろうし、並の兵士でそれができるなら父の捜索を陛下が諦めるはずもない。

 

 それ以上はどうしようも無かったので、紅蓮の魔道士は十中八九現れるだろうと思って、行動することに決めた。

 

 魔法を使えない奴がどうやってドラゴンズホールまで行き着いたのかは原作で語られていないため、もしかしたら現れないのでは、という淡い期待もないことはない。

 だが、竜帝の精神体が、偶然ドラゴンズホールに行き着いた魔道士の心を見透かし、自身の死体まで導いたのでは、という推測もできる。

 もしかしたら、それすらも偶然ですらないというところまで考えてみた。だとしたら、竜帝の存在はまったく侮れないと思った方がいいだろう。

 

 とにかく、精神体と呼ばれるものが、どこまで現世に干渉できるかはわからないが、幽霊船に本当に幽霊がいるような世界だ。竜帝ほどの存在が、それくらいのことをできてもおかしくは無いだろう。

 

 話を戻すが、以上二カ国を巡ったらフォルセナに帰国するくらいの時間になるのでは、と予測した。

 少し余裕を持った予定になるが、あとは原作と似たような旅路になるかもしれない。

 

 ちなみに、他の精霊について。

 月の精霊ルナも場所は月読みの塔だとわかっているが行けないのは獣人の強さが未知数だからである。

 慣れない森で、人間を憎む獣人に囲まれたら、さすがにひとたまりもないだろうしさ。無理して死にたくは無いという判断だ。

 なので、森に慣れているケヴィンを仲間にしてから行く予定だ。

 

 土と光はジュエルビーストとフルメタルハガーと戦いになる可能性がある。これも一人では極力戦いたくない。

 原作の一年前くらいに食べられていたんだっけ?

 それとも、直近の時期だっけ?

 とか曖昧なこともあるが、何より今の時期だと見つけられない可能性の方が高い、というのが判断の理由だ。

 食べられた頃に助けに行こうと思う。

 

 ……ちょっと考えがゲスいけど仕方ない。

 

 ああ、木の精霊ドリアードはランプ花の森にいることは分かっているが、シャルロットがいないと花畑の国ディオールでエルフから情報を聞けないだろうから、除外する。

 そもそもドリアードがいる道への目印が金の女神像ですらないのでは、と疑っているところだし。

 というわけで、シャルロットがいることが必須条件となる。

 

 火の精霊サラマンダーに行かないのは、時間の都合だ。精霊の位置がはっきりしていることは、アルテナと同様だが、片道が長くなる分、帰りの時間が減ってしまうことを考えた。

 

 であれば、紅蓮の魔道士の出現を確認する方に天秤が傾く。

 その存在の有無で今後のことを一から考え直す必要もあるし。

 何より、紅蓮の魔道士が単独で攻めてくることが確定したなら、早めに帰国し、陛下を守る必要もあるだろう。

 

 ——たぶん俺よりも遥かに強いだろうが。(陛下)

 

 まぁ、守りを固めさせるためにいると思えばいい。

 

 と、いろいろ考えたわけだが、これがベストな方法ではないんだろうな、きっと。

 もっと早くに旅立てば、とも思うかもしれないが、1人で旅をする自信がなかったことや、ウェンディのことがある。

 家にいるのだから、身の安全は保証されているが、今までは父親代わりだったこともあり、10歳になるまで待とうと考えたのだ。

 

 父との約束もあったしな……。

 

 そんなこんなで、今日ようやく旅立ちの日を迎えた。家族との別れも先ほど済ませた。

 長い下積みを終え、ここから更なる下準備をしていくわけだ。

 考えていたとおり、陛下からウェンデルとローラントに書状を書いてもらうことができた。

 途中マイアとバイゼルの別れ道である黄金街道までの間は、ウェンデルへの遣いの人と時を同じく過ごすことになるわけだが——

 

「おい、何で俺様が、ライバルであるお前との旅なんかに付き合ってやらんとならないんだ?」

「ブルーザーか……」

 

 この選抜は間違えていないだろうかと、少しだけ陛下を疑ってしまった。

 

 ここ数年勝ち越し続けて、他の同年代剣士からは勝負を挑まれることはほとんどなくなった。

 しかし、こいつだけは例外だ。

 あの若手剣術大会で決勝戦を争うことになるブルーザーだ。

 旅支度もバッチリと終え、王国兵士に支給される鎧兜を着込んでいる。

 

 普段であればムスッとした不機嫌顔が拝めるわけだが、今日は兜からくぐもった苛立ち混じりの声が聞こえてくるだけだ。

 

「これから王国の騎士となろうって奴が、任務を果たした後に悠長に旅に出るだなんてよ。いい身分だぜ、まったく」

「お前、悪態をつくのは構わないが、陛下の勅命だからな。このこと報告したら、次に陛下に会う前に首と胴がさよならしちまうが……いいの?」

「なっ、脅そうってのか!」

 

 一応ローラントへは友好のための使者という体裁であるので、陛下からの勅命となっている。そのあとは世界を巡る旅に出ると、周りには伝えてあるのだが、どうやら気に食わないらしい。

 実際は、陛下に二回目の神託があった、という風に話をして協力を仰いでいるわけなので、勅命も形だけではある。

 マナの樹を守るためという途方もない話をよく信じてくれたな、と思うが、一回目のことと、ロキの息子であることが決め手なんだろうな。

 

「ははっ、冗談だよ。そんなに熱くなんなって」

「てめぇ……。ふんっ、まぁいいさ。黄金街道に着くまでに勝ち逃げしてる分をチャラにしてやるからな」

「お前、旅の最中もやる気なのか……」

「当たり前だろ。そのくらいやらないと、黄金の騎士のようにはなれんからな。てめぇより先に絶対に俺が次の黄金の騎士になってやる」

 

 ちょっと勘弁してくれよって、思ったところだったが、父さんの話が出るなら話は別だ。

 それに強くなる分には悪いことじゃないしな。いろんな地形で戦う経験も必要になるだろうから、今の俺にとってはさほど悪いことではない。

 陛下はそこまで見越していたってことなんだろうか。

 

 まさかな。

 

「まぁいいさ。何回連勝記録を伸ばせるか、楽しみだな」

「てめぇ言ったな!絶対負かしてやる!」

 

 俺たちはフォルセナの大門をくぐった。

 次にここを通るのは、ひとまずの目標を達成してからだ。

 

 気分的にはあのプロローグで流れるBGMが聴こえてくるような、そんな胸の高鳴りすら感じている。

 

 なんか、わくわくしてきたぜ!

 

「何感傷に浸ってんだ!早く行くぞ」

「まったく台無しだよ、お前ってやつは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

 

 

 

「デュラン、行くのね」

「ああ、母さん。これは決めていたことなんだ。今行かないと、絶対に後悔する。ほら、ウェンディもそんなに泣くなって」

「だって、だって……」

 

 グズグズと泣いている妹の頭を優しく撫でてやる。一時とはいえ、愛しい家族との別れを名残惜しく思う。

 

 父さんもこんな気分だったのだろうか。

 

「こうと決めたら曲げないところは、父さんにそっくりね……。いいわ、ただし、中途半端は許しません。あなたは、ロキの息子で、ウェンディの兄なんだからね。やるべきことをやり通してきなさい」

「ああ、ありがとう……」

「ウェンディのことは任せて、安心して行きなさい。あなたが思うほど弱い子じゃないわ」

 

 本人も必死に涙を止めようとしながら、こくっと小さく頷いた。

 この歳になるまで待って正解だったのかもしれないな。強くなったと思う。

 

「わかってるよ。あのさ、ひとつだけ約束してくれるかな?」

「なに?」

「俺が帰ってきたら、みんなで母さんのご飯を食べよう。旅の土産話をいっぱい聞かせるからさ、だから——」

「あなたが思ってるようなことはないわ。身体のことなら心配しないで、無理が出たら姉さんに頼るから」

「見透かされてたか」

「当たり前よ。あなたは、私の息子なんだから。——父さんの剣が、きっとあなたを護ってくれるわ。必ず帰ってくるのよ」

「にぃに、ちゃんと帰ってきてよ!」

「ああ、母さん、ウェンディ、行ってくるよ!」

 

 

 

「デュランの旅路に、マナの女神様の加護があらんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

 

 

「まったくデュランのやつ、とんでもない要求をしてくれたものだ」

 

 デュランに二回目の神託がきたというのは半年前のことだ。

 まるで、これから起こることを見てきたかのように語るのだ。

 それが壮大な妄想とは思えないほど具体的であるし、何より余ですら知らぬウェンデルの神官の名を出されれば、あやつの今までの行い、立場を鑑みても信じざるを得ない。

 

 何せ、ペダンでの一件もある。本当に起きうることを見てきたのやも知れん。

 

 とにかく、デュランのいう世界の危機を回避するためならば協力を惜しまぬと決めた。

 

 だが、心配もある。

 

 聖都ウェンデルへの書状なら、友好の意味でも何の問題もない。あそこは絶対中立を貫いているからだ。

 

 ただ、風の王国ローラントか。お互いに交流はあまりないわけだが、果たしてどの程度信じてもらえるか。

 

 デュランは同年代と比べてかなり聡い子ではあるが、国家間にある複雑な事情まではさすがに知らないだろう。

 

 ことさら、マナストーンに関することなど、国家の存亡にすら関わる機密情報だ。それを一国の王が害を与える気など毛頭ないとはいえ、マナストーンの関わることに協力を請うなど、聞くものが聞いたら即戦争になりかねん。

 

 それを世界のためとはいえ、この英雄王に一筆書かせることの重大さをきちんと理解しておればよいが。

 

 まぁ、幸いジョスター王は温厚な性格で知られ、かなりの知性を兼ね備えていると聞く。即処刑という荒っぽいことはないだろうし、フォルセナとの戦争という不毛なことも起きないだろう。

 

 そして、もう一つの目的地アルテナ。

 あの国への書状は頼まれていないし、くれぐれもフォルセナの名を出さぬようにする、ということだ。

 アルテナとの間に何かが起こる可能性があるのだろう。

 恐らく、竜帝の復活に関わる魔導師関連で間違いない。が、最後まではっきりとは言わなかった。そのことに関わる情報を集めに行くという予想はつくが……。

 と、なれば、余の方からもそれなりの支援をしてやらねばな。デュランでは拾いきれない情報もあるであろう。

 

 ここまで考えて、ふと水差しに入った水をあおる。喉を通り抜ける温度はぬるかったが、様々な考えがめぐる頭を少し冷静にさせてくれた。

 

 王となり、できることも増えた気でいたが、まだまだ及ばぬこともあるものだな。

 

 しかし、荒事となろうともあやつならば、その難局も乗り越えてくれるのだろう。

 いや、それすらもあやつの予想の範囲内なのかもしれん。

 

 女神から選ばれた麒麟児、親愛なる友の息子よ。

 

「デュランめ、ますますロキに似てきたものだな」

 

 ふと親友の姿が頭に浮かび、思わず、笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 





父さんのブロンズソードと取り替えていきな!

SFCでは2つあるけどリメイクではちゃんと取り替えて1つだけでしたよね。
あれ?記憶違いかな。自信はないけど確かそんな感じ(笑


ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

思ったより読んでくれる方がいるみたいなので、
自分も楽しめてるうちはぼちぼち書いていきますね。
次からジャンプ間隔くらいを目処に更新予定です。
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