デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第四話 大地の裂け目 & バイゼルで怪しい買い物をしてみる

 

 

 

 

 

 大地の裂け目といえば、あの底無しとも思える谷を思い浮かべ、かつ、印象深いのはゴーレム自爆イベントであろう。

 どちらかというと、人なんて全くいない閑散としたイメージをもっているかもしれないが、現実は、そこそこの交通量がある、ということ。

 

 まだ世界に魔物が増え始める前だからだろうか。それとも増えてはいるが、問題になっていないからなのかはわからない。

 

 吊り橋を何人かの商人が行き来しているのが見える。横幅はかなり広く、人が五、六人は並んで歩けそうだが、さすがに馬車で渡ろうとする無謀な者はいないらしい。

 

 あらかじめ待機していたキャラバンが、反対側にいるキャラバンと交渉して品物のやりとりをしている。

 それをせっせと運んでいるわけだ。

 

 フォルセナへの輸出入は、ここで行われていたというのは知らなかった。

 まぁ、バイゼルもマイアもフォルセナ領ではあるから、輸出入というと少し語弊があるかもだが。

 

 そんな吊り橋を、今は2人でゆっくりと渡っている。時折吹き付ける強風に橋と体が揺れるが、それに動じない体幹の修業と思いバランスを取る。

 

 というか、何か考えていないと体がすくみそうだ。

 

 初めての者はみなやるのだろうが、吊り橋を渡る前に手近な石ころを谷に投げ込んだのだが、着地音が全く聞こえないくらいに深かった。

 

 つまり、落ちたら終わりだ。

 

「うへぇ、ムシャ……この下に落ちたらいくら俺様でも……ムシャムシャ……助からないかもな」

 

 ブルーザーが商人から買ったばかりの干し肉を美味そうに頬張りながら、橋の下を覗き込んだ。

 やめてくれ、下を見ただけで身震いするんだ。他人のことでも気が気じゃない。

 

「ブルーザー、悪い事は言わないからもっと内によっとけ。ただでさえ重量があるんだからよ」

「へっ、ばあか、そんな簡単に俺様が落ちるわけが——」

 

 そのとき、一際強い風が吹いて、ブルーザーの体が体勢を崩した。

 

「ブルーザー!」

「ああっ!」

 

 瞬時に腕を掴んで引き戻したものの、先程まで手にしていた干し肉は、奈落の底へと落下していき、あっという間に見えなくなった。

 一歩間違えたらブルーザーもこうなっていたかと思うと、身も心も震え上がる瞬間だった。

 

 そして、こうも思った。

 

 俺、フラミーに乗ったら死ぬんじゃないだろうか、と。

 風のマナストーンだけは絶対に守りきろう。空中戦に剣士の出番はない。うん。

 

 気合い入れて守るようにジョスター王に進言せねば。

 

「俺様の干し肉……」

 

 このやろう……!

 

 

 

 

 

 大地の裂け目といえば、もう一つ確認したいことがあった。

 

「やっぱりここにもないか……」

 

 確認が済むと、すぐに落胆した。

 

 それは、女神像の有無だ。

 

 フォルセナ城にもないことから、その可能性を視野に入れていたわけだが、どうやらそういうことらしい。

 

 つまり、セーブなんてものはないし、女神像で回復しておこう、という発想もないってこと。

 

 当たり前だろって思うだろうが、これはかなり大きい。

 聖剣伝説3では、ほぼ必ずボス戦前には金の女神像で回復が可能だった。これで道中気にせず進んで行けたユーザーも多かったはず。

 消耗を考えながら先に進まなければならないなんて、もはや別ゲーだろう。

 

 ……もちろん、生半可な気持ちでマナの樹を守ると決めたわけじゃないが、難易度が一つ上がったことを再確認した。

 

 それともう一つは、ウィル・オ・ウィスプがいないと、ドワーフ村の入り口を見つけられないということ。

 

 光の屈折率を利用して、入り口を巧みに隠しているって言っていたが、そんなもん常人には全く見つけ出せない。

 俺には全部ゴツゴツした代わり映えのない岩壁にしか見えないのだ。

 片っ端から手探りしていくのも日が暮れてしまうだろうから、ウィスプを仲間にしてから、もう一度来る必要がありそうだ。

 

 まぁ、仮にノームが見つかっても、女好きの彼が、むさ苦しい男についてきてくれるかは微妙なこともあって、さほど落胆はしていないのが救いか。

 

「なあ、デュランよお。ここらで今日はキャンプにしようぜ。商人もいることだし」

「そうだな。……明日にはお前ともお別れだな」

「ま、そうなるわな」

 

 淡白な反応を返して荷物を下ろし始める。まだ、大地の裂け目を抜けきっていないため、屋根に困る事はない。

 商人たちの声や、そこらから明かりが漏れてきていることもあり、あまり不自由しなさそうだ。

 

「結局お前の旅の理由ってなんなんだ?」

 

 どさっ、と寝袋を広げてブルーザーが不意打ちのように聞いてきた。

 真剣に話す気があるのかないのかはわからないが、今まで何にも聞いてこなかったわりに気にしていたようだ。

 

「そうだな、いろいろ理由はあるが、一つは父さんを超えること、かな」

 

 マナの樹を守るのは、誰に課せられたものでもない、自分自身の目的だ。

 だけど、旅をする理由はそれだけじゃない。

 

「あの黄金の騎士を超えるってか?」

「ああ、そうだ。その為には世界を見なくちゃいけない。父さんはフォルセナだけで終わるような騎士じゃなかったんだ。きっと世界にもそんな人たちがいるはずだからな」

「そいつらに勝負でも挑もうってか。まったく、お前ってやつは。とんだ迷惑野郎だな」

「……いや、ブルーザーには一番言われたくないんだが?」

「はんっ、俺様はいいんだよ。そうだ、寝る前に最後の一戦、勝負しておくか」

「最後のって言うと縁起が悪い。まぁ、そうでなくても遠慮しておく……。明日からお互いに一人旅なんだ。余計な疲れを残したくない。それに」

「あん?」

「勝負は後にとっておかないか?」

「どういう意味だよ」

「俺はこの旅を2年で終えフォルセナに帰郷する。そして、そのときに開催される若手剣術大会に参加するつもりだ。そこでブルーザー、お前が勝ったら、今までの負けはチャラってことにしてやる」

「なんだとぉ!? それは、俺に今日の勝負を我慢させる方便じゃねぇだろうな!」

「違うさ。俺は楽しみにしてるんだよ。俺よりも先に黄金の騎士になると宣言した男が、黄金の騎士を超える予定の男とどんな勝負をするのかを、さ」

「…………」

 

 ブルーザーは原作でも『デュラン』と決勝争いをしたほどの実力者だった。つまり、若手の中では主力となる。

 あの紅蓮の魔導師と戦うのに戦力はあったほうがいい。それに原作とはだいぶ流れが変わってしまった。俺がフォルセナを離れたことでブルーザーが弱くなってしまった結果、紅蓮の魔導師のいいようにやられてしまうのでは困る。

 

 上から目線かもしれないが、ブルーザーには強くなって欲しいのだ。

 何より、父さんという同じ目標を見てくれているライバルだから、余計にそう思うのかもしれないな。

 なんかこの旅でちょっと感化されちまったかも。

 

「あー、あー! わかったわかった。2年後だな! てめぇ、1日でも遅れて不参加にでもなってみろ。その瞬間お前の負けだからな!」

「必ず間に合わせるさ。その間、俺以外の誰にも負けんなよ」

「けっ、誰にものいってんだ。お前の方こそ、俺様がギタギタにしてやるんだからな。魔物に食われて死ぬようなつまんねぇことになんじゃねぇぞ」

「まさか、心配してくれてんのか?」

「だぁー!うっせーな!ちげぇよ、てめぇやっぱ今から勝負するかー!」

 

 うるさい奴だが、悪い奴ではないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 翌日。ブルーザーと何の感傷もなく別れた俺は、1人での野宿にも慣れ、黄金街道を抜けた。

 

 途中数回ほどゴブリンに襲われることがあったが、危なげなく撃退することができた。モンスターを殺すことに抵抗がなかったことにも少し驚いたが、向こうから襲ってきた以上、慈悲はない。

 

 この程度のモンスターを苦戦することなく倒せるということは、原作的には今のレベルは10付近だろうか。

 

 もっとも、レベルやステータスといった概念が存在しない為、そんな推測はまったくあてにならない。しかし、こいつらに苦戦していたらクラスチェンジなど到底できないだろうから、そういう意味では多少のバロメーターにもなるだろう。

 

 さて、俺がやってきたのは、商業都市バイゼル。ブラックマーケットで探し物と、あることをしに来た。

 しばらく船旅になるだろうから、そんなに長居するつもりもない。ちょうど出るという明日の定期船に乗って、パロへと向かうつもりだ。

 

 夜。俺は宿泊する宿に荷物を置き、ブラックマーケットまでやってきた。

 入り口に立つ強面スキンヘッドのおっさんが鋭い眼光で睨みつけてきたが、なんてことなく受け流す。この程度の暴力に怯えるようなら、魔物と戦うなんて無理だし、まして世界など救えやしない。

 

「まだ坊主みてぇだが、肝が座ってやがる。金はあんのか?」

「おっさん、誰に口聞いてんだ。金がない客がここに来るのか?」

 

 暗にコソ泥の類が紛れ込むのかと挑発してやる。

 

「はっ、生意気な野郎だが、金があるなら話は別だ。入んな。ただし、中で揉め事でも起こしてみろ。後悔させてやるぜ」

「……そりゃどうも」

 

 なんでこう、血の気の多い見張りなんだろうか。まぁ、別のVIP用らしき入り口では、へこへこしているこれまた強面2が見えるわけだが。

 

 かくして、無事に入場を果たした。

 屋内は中央の舞台が煌びやかに輝いているが、全体的に薄暗く、いくつもの布のしきりがあり、かなりの店舗が構えているらしいことがわかる。

 

「原作じゃあ、こんなに店なかったけどな」

 

 思わず呟いてため息がこぼれた。

 目的のものを探して店内をうろつくが、フードを目深にかぶった商人ばかりで、本当に後ろめたいことがあるような雰囲気だ。

 

 ブラックマーケットって、街の商人がそれっぽい名前で始めただけだなんていう、ゲームキャラのセリフなかったっけ?

 

 まぁアレを売ってる時点で、やっぱりそんなわけないかと思い直すわけだが。

 

 広い屋内ではあったが、だいたいの店を回ることができたが、一番の目的の店はまだない。

 やがて、仕切られた空間の中でもより一層暗く、カビの生えたような床のある空間まで来た。かなり奥まっているから空気が悪いのか、それとも、この奥に存在するものから発せられるすえた臭いのせいか。

 

 正直、かなり臭う。

 

 そして、目的の場所、人物が見つかったことを悟る。

 幸いにして、どうやら目的のものを扱っているのはこの一件だけらしい。それは尚都合が良い。

 

「おい、商品について聞かせろ」

 

 威圧的に、殺気すら交えて低く唸るように尋ねる。

 この薄暗さでは、体格、表情からも俺のことは15歳には見えないだろう。ましてや、今にも剣を抜きそうな男が現れたら——

 

「へ、へい!なんなりとお申し付けくだせぇ、若旦那!」

 

 商人はへりくだり、媚びた顔つきで反応した。人を見る目はあるらしい。それとも、暴力の匂いを的確に嗅ぎつける嗅覚か。

 

「この奴隷の中に、自分を王子だと名乗る男児はいるか?もしくは、いたか?」

「お、王子?いえ、そんな奴隷は入ってきていやせんな。若い男をお求めなら、若旦那におすすめが——ひぃ!」

「黙ってろ、首と胴が離れてもいいならな」

「は、はひ」

「今からだいたい2年経ってから、もしここにそのような子供が来た場合、そいつを買い取りたい」

「は、え?」

「予約というやつだ。ただし、奴隷を仕込んで騙そうとしても無駄だ。前金はこれで足りるか?」

「こ、こんな額を!うちの奴隷を10人は買える値段でっせ!若旦那はいったい——」

「不服か?ならこの話は」

「めっそうもない!商談成立です若旦那!自分を王子だと名乗る男児ですな!他に条件は!?」

「……そうだな、ローラントにまつわる物も所持していれば、さらに今の額の倍の値段を支払おう。ただし、貴様が自ら手引きしたことがわかった場合——どうなるかわかるな?」

「へっへぇ!もちろんですとも!あっしは仕入れはしても、狩りをするようなそんな仁義には反しませんで!」

「なるほど。商人として最低限の誇りはある、と」

「もっ、もちろんです」

 

 奴隷商人にそんな誇りがあってたまるか。今すぐにでもこいつを手に持った剣で痛めつけてやりたい、そんな思いが出てくるのをこらえる。

 まったく反吐が出る。

 

「ならば、その商人の鑑であるという貴殿を信じることとしよう。俺の顔は覚えたな? 他に同じようなことを言ったり、俺の出した条件に当てはまる奴隷を買いたいという奴が出てきたとき、そいつがいくら払うと言っても必ずキープしておけ。その倍を支払おう」

「しょ、承知いたしました!」

「では、くれぐれも約束を忘れるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つ、疲れた。これで仮にローラントの王子エリオットが売られてきてもなんとかなるかな。

 

 路銀をだいぶ消費したが、必要な出費だし、陛下からかなりの価値になる宝石類も賜っている。

 旅に大金を持ち歩きにくいから、『必要な分を売って現金化するといい』、という陛下のご配慮だ。

 

 商人に契約書を書かせたりすることとかも考えたが、そんなもの何の役にも立たないと気付いた。

 何せ真っ当な商売じゃないんだ。闇の商人に対して、信頼信用なんて意味がないだろう。

 それよりも、単純に金になるかどうかだ。あいつの目は、最初から最後まで、俺が金になるかそうでないかを気にしていた。もちろん、命も天秤にかけて考えていただろうが、それよりもどこに活路があり、金が生まれそうかを生き汚く見ている目だった。

 

 って、そんな大して深い闇を知ったわけでもない俺が言うのも何だけど。

 

 金になることがわかっているなら、エリオットを救える可能性が少しだけ生まれる。

 もっとも、あの商人にとって命の危機があればその限りではないだろうが。

 赤い目の男、邪眼の伯爵だったか。手段を選ばずに手に入れにかかるだろうか。その可能性は高そうだが、それよりも別の心配がある。

 

 その心配事——俺が考えている仮定の通りだとすると、今回のことは無駄骨、無駄金になるわけか。

 

 それは、王子を攫ったビル、ベンが、この世界で本当に王子を売り払うのかどうか。

 

 もともと、黒の貴公子が必要としているから手に入れたはず。ならば、わざわざ売ってまた買い戻す意味は何だ?

 

 考えられる流れとしては、最初は王子の存在はまだ必要ではなかった可能性だ。

 だから売って資金に変えた。

 しかし、その存在が後から必要であることがわかり、買い戻した。

 

 この推測の通りなら、俺の準備が多少は生きてくる。

 しかし、そうではなく、最初から王子もローラント襲撃の目的だったとするならば、売り払うなんて無駄な行動はしないだろう。効率が悪い。

 

 わずかな可能性としては、ナバールと邪眼の伯爵が表ではつながっていないから、そんな面倒な手間をかけた、ってのもあるか。

 いや、美獣にみな操られていることから、この可能性はほぼないか。

 

 はぁ。なんか悪い方にばかり気が回るな。

 しかし、打てる手は打っておいて損はないはずだ。前向きに考えよう。

 

 さて、最後の用事だ。もう少し、必要なものを買ったら宿に帰りますか——

 

 

 

 

 






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