デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第二章 ローラント編
第五話 オカルト信者になってみる & 使者になってみる


 

 

 

 

 

 潮風が心地よく感じられたのも、船旅が始まって3日ほどぐらいまでだろうか。自分で歩いて旅をしていたときは、夜にぐっすり眠れないことを苦に感じていたが、航海の間は船酔いもなく、快適だ。夜も何に怯えることもなく眠れるし。

 

 しかし、一つ致命的なことを挙げると、退屈なのだ。釣りに没頭する船客もいるのだが、釣竿を持参することまでは頭が回らなかった。

 

 剣の素振りだけはしておこうと、甲板の邪魔にならないスペースで鍛錬をするくらいしかやることがない。

 

 ただし、水が貴重なためだいぶ汗臭くなってしまうのがきついんだよな。

 

 かといって、暇つぶしにどこぞの船室で行われる賭け事に参加するつもりもない。陛下から頂いたお金を無駄にはできないからな。

 

 必然、強くなることに時間を費やすこととなる。

 

 と、旅程も残り半分を切ろうというときだった。

 

 まさか、こんなところでこいつに会うとはな。

 

 造形は一般NPCと大差なかったから、容姿の印象は原作とだいぶ異なる。

 

 ひょろっとして少し不健康そうな顔つきをした青年が話しかけてきたのだ。

 

「どうも、幽霊マニアのマタローです。あなたは、幽霊信じますか?」

 

 いや、信じませんけど。

 

 日本ならマルチか宗教かと疑うようなセリフだ。間違いなく危ない人種と判断する。

 

 しかし、悔しいことに信じないけど、この世界には存在してることを知っている。

 

 ってことは、信じてるわけか……。

 

 なんか知りたくなかった現実を、一番言われたくない人から突きつけられた気分だ。

 

 世界の真実の一端をこんなヤバめな人が知っていることにもちょっと動揺する。

 

 それを知ってる俺って、同類?

 

 いや、いやいや。

 

 でももしかして陛下からそう思われてるんじゃ——

 

 まぁ、今はそのことは置いておこう。

 

 マタローは、この時期はまだ幽霊船にいなかったんだな。どのタイミングから乗ってたのかは知らないけど。

 とりあえず、気付きたくなかった思いを述べておく。

 

「……不本意だけど、信じてるな」

 

 えっ、何そのパァーッて感じの笑顔。

 

「同士よっ!」

「いえ、違いますけど」

「共に幽霊になろうじゃないか!」

 

 全然話聞いてないし。何気に腕掴んできてて、振り解けないくらい力強いんですが。

 

 どんだけ理解者を求めてたってんだ。

 

 なんかずっとぶつぶつうんちく語り始めたし……。

 

 ってか、幽霊信じてても、幽霊になりたいとは一言も言ってない。

 

 あれ、でも待てよ。

 

 マタローは幽霊船で幽霊になる呪いにかかるわけだよな。

 

 ということは、こいつの足取りが追えれば、闇の精霊にたどりつける?

 

 というか現状では、俺がシェイドを見つけるには偶然幽霊船に乗り込むしかない。

 

 原作の流れではローラント奪還後のパロから幽霊船に乗るイベントがあるわけだが、そもそもこの世界でローラント奪還イベントが起きるのだろうか。

 加えて、そのイベント後のパロから幽霊船に乗り込めるかどうかは確定じゃない。

 

 もちろん、フェアリーの力でなんとかできるかもしれないし、運命とかってのもあるかもわからん。

 

 でも、そんな楽観視もしてられないだろう。

 

 打てる手は打っておくか。俺にはそれしかできないしな。

 なんか最近の合言葉みたいになってる気もする。

 

 まぁいい。マタローに会えたのは、かなりラッキーだ。

 

 そう思ったら切り替えてやることをやろう。

 

 未だにトリップしてるこいつに一番効果のある一言は——

 

「俺、幽霊になる方法、心当たりあるけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうデュランさん!おかげで良い船旅になったよ!」

「いや、こちらこそ、楽しかったです。見つかるといいですね、幽霊船」

「ああ!僕が幽霊になった暁には、同士である君を必ず幽霊にして見せよう!そのために僕は少しでも多くのネタを集めなくてはいけない!しばしの別れではあるけれど、幽霊になるまでに死なないようにね!アデュー!」

 

 ぶんぶんと腕がちぎれそうなくらい手を振って立ち去っていくマタロー。

 

 死んだら幽霊になるし、幽霊になったら死ぬんだけど、それは言ったら野暮なんだろうなぁ。

 

 まぁ、幽霊になっても死なない方法もあるからあながち間違いでもないか。

 

 マタローには、存在の情報だけは流して、幽霊船を見つけてもらうことにした。

 

 餅は餅屋。幽霊船は幽霊マニア作戦。

 

 俺のために幽霊船をしっかり探しといてください。

 

 あとは、その情報が俺のとこまでちゃんと届くのかという問題があるが、マタローに必ず見つけたらメッセージを残して欲しいことと、パロかバイゼルの宿屋に言伝するように頼んだ。

 こういうとき、この世界には携帯とかがないと不便だと思う。

 

 ——幽霊船見つけても、伝言残す前にのこのこ乗り込みかねない予感しかないが、考えるだけ無駄か。

 

 

 

 それはそうと、やっと着いたな漁港パロ。船旅が長かったせいか、まだ少し体が揺れているような感覚があるくらいだ。

 しばらくは海の旅は遠慮したい。

 

 パロの雰囲気だが、活気がある。当然、ナバールの支配は受けていない。平和そのものだ。

 

 そして、見上げるとそこには頂上が雲に覆われて見えない巨大な山がそびえる。

 

 とうとうローラントの真下まで来たか。

 まだ旅も序盤といったところだが、原作の場所を巡るのはちょっと胸が高鳴る。

 

「よぉーっし、いっちょ山登り」

 

 スンスンと鼻を鳴らす。

 

「——の前に宿でゆっくり風呂に浸かるか。ちょっとにおうかもだしな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天かける道。

 俺は朝露に濡れた木々や、そこらに生えた花に目を配りながら、せっせと登っていた。

 まだ登り初めて半刻も経っていないが、見渡す景色には息を呑む。

 

 きっとこうして多くの旅人が足を止めたのだろう。

 

 少しだけ目的を忘れ、その景色に魅入っていた。

 山に登りたがる人の気持ちを、ほんの表面だけ理解したつもりになる。

 

「さて、行くか」

 

 誰に言うでもなく、登山を再開する。口うるさいあいつがいたら、干し肉を食いながら、『さっさとしねぇと置いてくぞ!』とか、台無しになることを言うに違いない。

 

 少しだけ笑えてくる。

 

 

 

 

 山道は物資の運搬もあるからだろうか、比較的歩くのには困らなかった。

 道幅が広い分、魔物に襲われても対処できそうだが、今のところその気配もない。

 

 まだ魔物の動きは活発になっていないということか。

 

 こうして歩いている間にも商人とすれ違った。馬車はさすがにこの険しさでは利用できないからだろう。どの商人も歩き慣れているのか、ひょうひょうとした顔で下っていく。

 

 こっちをチラッと見て笑顔でうなずいた後、何事もなく通り過ぎていった。

 

 なんだ?と首を傾げたが、どうやら息が荒くなっていることを馬鹿にされたと気付く。

 

 騎士が商人にバテた顔など見せられん。

 むんっ!と気合いを入れて歩き始める。

 

 言い訳をさせてもらうと、長い船旅で体力が少し落ちていただけだい!

 

 しかし、船での移動後に毎回こうなると困るな。何か対策を立てないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝早くから登り始めて、現在日が沈みかけた時刻。これも修業と思い、休憩を挟むことなく一気にここまで上がって来た。

 

 かなりのペースで登ったような気もするが、商人とすれ違ったのは昼前くらいのときだけだった。

 

 ムキになっていたのは確かだが、昼食もろくに取らなかったせいか、お腹が空いている。

 息をゆっくりと吸って、吐いて。呼吸を整えてみるが、心なしかそんなに息苦しくもない。

 最初の息切れはあれか。ランナーズハイの前みたいな感じだろうか。長距離を長く走ってると途中から苦しくなくなるやつだ。

 それとも、高山トレーニングのつもりだったが、船旅でも意外と体力は落ちなかったってことかな。

 

 それから。途中、誰かから監視されているような気配を感じていた。

 

 気のせいだった、わけじゃないよなきっと。

 

 手を出して来なかったから、山賊ではなくローラント兵だったのだろう。さすがに城までの道をまったくの無防備にするわけもないことに思い当たり、少し安心する。

 

 ともあれ、何事もなくローラント城の前までたどり着くことができたので、深く気にしないことにする。

 

 確か、風の護りによって門以外から敵を寄せ付けないんだったか。

 

 守りには自信があるだろうが、仮にパロが占領され、食料の補給がままならなくなったら不利になりそうな気がする。

 

 それは今気にしてもしょうがないか。

 別にローラントと戦争しにきたわけでもないし、そんな対策を思いつかないほど馬鹿でもないだろう。

 

「さて、城の中に入れてもらえればよし。門前払いなら野宿か……。やだな」

 

 最近はベッドで寝ることが続いていたので、できれば野宿したくないなっていうわがままだ。

 

 ってかこの時間に訪問って、よく考えると失礼かな。

 

 いや、待てよ。そもそも俺はこの格好で合ってるのか?

 

 髪は原作デュランと違い、適当に短く切り揃えているから、多少はマシだろう。というか、原作のあの長さは旅には向かないし。

 

 ただ身につけているものが、あのザ・ファイターって感じの装備だ。インナーとして黒いシャツを着て、キルテッドレザーの胸当てと肩当てで動きやすさ重視の装備。頭には兜ではなく、ヘッドギアをつけ、額を保護している程度だ。

 

 うん、フォルセナからの使者感が0だな。

 

 それを思えば、ブルーザーの格好は暑苦しかったが間違いではなかったわけだ。

 

 ブルーザーめ。なんか腹が立ってきた。

 

 そもそも陛下がいっぱいくれた旅費って、この衣装代込みだったのかな。

 

 いや、でもバイゼルでの出費があったから、ここは準備できなくても仕方なくないか?

 

 ああ、仕方ないな。

 

 気持ちよく開き直ったところで覚悟を決めて、城へ続く橋に立つ衛兵さんに声をかける。

 

「夕暮れどきにすみません」

 

 2人いるが、どちらも女性だ。槍を持つ姿にも違和感がない。

 というか、隙がないな。こちらを油断なく睨みつけてくる。

 

「何者だ。行商の予定はもう終わったはずだが?」

 

 警戒心が一段階上がったのが分かる。

 

 やはり、時間と格好は大事だったかな。いや、大事ですよね、わかってた。

 

 それとも、今の感じからするとアポ無し訪問が問題なのか。

 

 ええい、気にしてもしょうがない!

 紳士的な対応で信用を勝ち取ってみせる!

 

 勝負だ、アマゾネス!

 

「——フォルセナから来ました、黄金の騎士ロキの息子デュランです。我が敬愛する英雄王、リチャード王より、風の王国ローラントを統べる偉大なるジョスター王へ、親書を届けに参りました」

 

 懐から準備していたフォルセナの国印が押された封書を見せると、衛兵の警戒していた顔が驚きに染まる。

 

「何分、旅慣れない者故、朝早くからパロを出たもののこのような時間となってしまいました。失礼であることは承知しておりますので、お目汚しとならなければここで夜を明かし、明日また伺わせていただくつもり——」

「な、何をおっしゃるか!すぐにお通しいたします!」

「えっ?いいんですか?」

「フォルセナの英雄王と言えば、世界を救った英雄です!その使者をないがしろにしたとあっては、ローラントは世界に恥を晒すことになります!さぁ、中へ」

「あ、ありがとうございます」

 

 えっ、陛下って、世界での扱いこんな感じなのか。

 あまりにもあっさりと通されたことに拍子抜けしてしまった。

 

 英雄王の呼び名は伊達じゃないな。

 いや、これ口に出したら不敬だから言わないけど。

 

 ってか、何。勝負だアマゾネスって。はっずいわ。

 目の前に人がいなかったらごろごろしたくなる恥ずかしさだわ。

 

 そんな俺の気持ちには気付かなかったのか、案内されるままに堅固な城門をくぐり抜けた。万が一にも侵入を許さないよう、城門前にもさらに二人兵士がいた。

 

 中は、意外と広い。というか、城のスケールがフォルセナとはまた違う。

 自然要塞とも言えるのだろうが、地形を生かした城の造りが、ここからでもわかる。

 もちろん、これはほんの一端に過ぎないのだろう。

 

 ほーん。と田舎者丸出しで城を眺めていたときだった。

 

 案内してくれた兵士さんが、ちょっと困り顔をしていることに気づき、赤面する。

 

「す、すみません。あまりの壮大さに呑まれてしまいました」

 

 思ったことを素直に口にした。

 初めての方は皆そうなります、と気を遣われたのか、さりげなく自慢されたのかはわからない。

 

「あの、先程パロから日を跨がずに登ってきたというのは」

「あ、はい。すみません、山には登りなれていなくて時間がかかってしまいました。商人の皆さんは苦もない様子で降っていったので、本当に感心しました」

 

 偽りのない本音を話してみる。ここまできたら今更だしな。

 

「……そ、そうですか」

 

 えっ、何その感じ。なんか引かれてない?

 

 こいつしょぼいなって思われたかな。

 

 いや、気にするな。これ以上恥をかくことがないと開き直ろう。

 

「本日は、デュラン様もお疲れだと思いますので、陛下への謁見は明日とさせていただきたく思いますが、いかがでしょうか」

 

 えっ。別に全然行けるんだけど。

 

 もしかして、気を遣われているのだろうか。

 

 いやでも、王との謁見だから、時間をもらって少しでも綺麗に見えるようにしておこう。

 

 というかいくら他国の遣いと言っても、そんな今日来てすぐにほいほい王様に会えるなんて話があるわけないか。

 

 王の尊厳にも関わるだろうし、あえて一日置くことで、どちらのメンツも保っているのだろうな。

 

 やはり、女性はその辺の忖度が上手いな、うん。

 

「はい。構いません。お気遣いありがとうございます」

「では、そのようにさせていただきます。客室を用意してありますので、本日はゆっくりお休みください」

「あー、重ね重ねありがとうございます」

 

 

 

 

 

 夕食は豪勢な肉料理が振る舞われた。一言でいうと、美味かった。あのから揚げみたいなのは何の肉なんだろうか。

 

 ま、まさかアレじゃなかろうな。

 

 いやいや。まさかね。

 

 用意してもらったお湯で、体を拭いて身なりを整えることもできた。

 さて、明日の謁見が本当の勝負だ。

 

 今日は、久しぶりの緊張で精神的にだいぶ負荷がかかったからな。気力を充分に回復させておこう。

 

 ふかふかのベッドで早く寝たいからとかではない。決して。

 

 それじゃ、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

 

 

「——という事がありました」

「ふむ、報告ご苦労。下がってよいぞ」

 

 パロからこの城までを、わずか一日で登ってくる使者か。

 登り慣れた商人でさえ、一回はどこかで体を休めて二日かけて登る道のりであるというのに。

 初の登頂で、あまつさえ、疲れを微塵も感じさせないとは。加えて、歳も我が愛娘とそう変わらない、と。

 

 秘密裏に監視していた別の兵からも、一日で登ってきたことは報告が上がっている。見栄を張ったわけでもなく、ただ淡々と謙虚に事実を述べたあたり、誠実そうな印象も受ける。

 

「少し興味がわいてきたな」

 

 フォルセナからの遣いであるから、どんな用件かも気にはなるが、その人物に会うのは少々楽しみだ。

 

 おお、そうだ。

 

 娘のリースも同席させてみるか。

 他国の使者と交流する機会ともなれば、学ぶことも多かろう。

 それに、同年代同士、もしかしたら気が合うこともあるやもしれん。

 

 ……嫁にはやらんがな。

 

 

 

 

 

 




お気に入り登録、評価ありがとうございます。
四話から両方ともなぜか一気に増えて震えてます。
三話時点で、60件くらい登録いただいて喜んでたのに、いつの間にか190件に。。
プイプイ草でも震えが止まりません(笑)

感想もたくさんいただきありがとうございます。応援励みにさせていただいてます!ありがたや

いろいろ独自解釈とか、実は敢えて書いてないこととかありますが、今後ともよろしくお願いします。

次回リ○スが登場予定。
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