デュランに転生したから、本気でマナの樹を守ってみる   作:縁の下

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第六話 王族に振り回されてみる

 

 

 

 

 

 翌日。

 気力も体力もマックスになった俺は、今現在ジョスター王の御前で、リース殿下と向き合っていた。

 

 玉座の間ではなく、もっと開放的な青空の下で。

 

 お見合いのような甘い空気などではなく、場に張り詰めた空気が満ちていた。

 

「デュラン様、準備はよろしいですか?」

「はい。いつ始めても構いません」

 

 リース殿下が構えているのは刃を潰した槍だ。当たりどころによってはかなりまずいことになる。

 

 こっちも刃を潰した両手剣を構える。

 

 長く艶やかな金髪に、どこまでも透き通って見える碧い瞳。まだ少女のあどけなさを残しているが、目鼻立ちが整った容姿は人を惹きつけること間違いない。

 

 まさか、原作主人公とこんな形で出会うことになるとは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少しだけ遡る。

 

 案内された部屋に通されると、立派に装飾された玉座に座るジョスター王と視線が合う。

 

 いや、彼は過去に負った傷のせいで盲目なはず。しかし、気配を確かに感じ取ったかのように俺の方を向いていた。

 

 その隣には、可憐な少女がこちらを窺うような顔をして立っている。

 

 あの二つ縛りの髪型、頭についた羽付きリボン。額にはあの緑の宝石はないが、しかし、王の隣にいるということは——

 

 間違いない、リース殿下だ。

 

 原作のような緑をベースにしたドレスを着ている。違いと言えば、上は白いブラウス、下はドレスの内側に白のスカート姿だ。

 さすがにあの胸元や足を大胆に晒した格好ではない。

 

「陛下。フォルセナよりの使者、デュラン殿をお連れいたしました」

 

 紹介とともに膝をつき、首を垂れる。

 

「うむ。下がっていなさい。デュラン、といったか。遠方から長旅ご苦労であった。昨晩はゆっくり休めたかな?」

「はっ、陛下の御心遣いにより、心身ともに充実しております。私のような者に過分なもてなしをいただき恐縮です」

 

 ほお、とどこか感心した様子を見せるジョスター王。

 

「聞けば、初登頂にも関わらず、パロからここまで一日で来たというではないか。フォルセナの騎士はみなそなたのように屈強なのであろうか?」

「はっ?いえ、その」

 

 ん?

 

 これは盛大に挑発されているのか?

 

 フォルセナの騎士が軟弱者であると、そう言いたいのだろうか。

 

「謙遜するでない。慣れた我が兵達でも一日で踏破できる者はそういない。なかなか見所がある、と言いたいのだ」

「それは……光栄です」

 

 褒められてたのか。勘違いしてたのも恥ずかしい。

 

 なんか微妙な顔になったかもしれん。

 

「陛下、早速ではありますが、フォルセナからの書状をお受け取りください」

「うむ」

 

 懐から書状をそばに控えていた案内役の女性兵士に手渡す。

 

 彼女は書状を開き、陛下の隣で静かに読み上げた。

 

「ほお、作り話にしては面白いが——しかし、無視するには少々具体的すぎる」

 

 さすがにリチャード陛下のようにはいかないか。

 

 当たり前だが、信頼関係がない。

 

 見ず知らずのものから言われて、鵜呑みにする方が国王としては心配だ。ある意味有能ともとれる。

 

 ローラントへの書状の内容はこうだ。

 

 まず、神託による未来への予言を授かり、ローラントへ警告を出したことだ。

 

 一年から二年後あたりに、ナバール盗賊団によるローラント襲撃があること。

 

 王子のエリオットを利用して、城の守りの要、風を止めさせる侵入者が現れること。

 さらに、その者たちにより、エリオットがさらわれること。

 

 また、風のマナストーンのエネルギー解放を狙って動き出す者たちがおり、そちらにも警戒する必要があること、だ。

 

 あとは、マナの減少による世界崩壊を防ぐため、俺が精霊を探しているから力を貸してほしいことも書かれている。

 

 うん。盛り沢山すぎてついていけないね。

 あっ、最初の方には友好を深めたいって書いてあるはずだ。

 

「そもそも、この話、神託を受けたというのがどうにも信じきれん。何かそれを示すような物があるのだろうか?」

 

 物か。物は当然ない。

 

 というか、神託を受けた証など聞いたことがない。悪魔の証明みたいなものだ。

 

 それともマナの女神様の聖痕でも刻まれるのだろうか。

 

 まぁ証はないが、ここで何かしら信じられる一押しができればいけそうか?

 

 神託を受けたのが自分であり、リチャード様の時のように、知っていることをそれっぽく話すか。

 

 いや、だが、これは諸刃の剣だ。神託と言えるような内容じゃない気もするし——

 

 ダメだ。迷ってる場合じゃない。疑われて終わるより、そう思わせない突き抜けた行動が必要。

 

 ここはGOだ。

 

「私が、マナの女神様より神託を受けた者です。具体的な証拠はありませんが、女神様より伝え聞いた話で良ければ」

「お主が⁉︎……聞かせてもらおうか」

「陛下の傍らにいらっしゃるリース殿下が今身につけていらっしゃるリボンは、亡くなられたミネルバ王妃の形見である、という話を知っていたら信じていただけるでしょうか」

「どうしてその事を!」

 

 リース殿下が食い気味に反応するが、ジョスター王は動じていない。もう一押しか。

 

「そしてエリオット様の誕生と同時に王妃様がお亡くなりになられたことも」

 

 動揺していたのはジョスター王よりもリースの方だったようだ。

 

 だが、これで信じられるのだろうか。

 

 どれも調べればわかる事だ。形見のリボンのことも一見信じられそうではあるが、城内から情報が少しずつ漏れたともとれる。

 

 逆の発想になるが、神託はこの際信じられなくてもよいと思っている。

 

 これらの情報を遠方にいるはずの俺が調べてきた、と取られてもいい。

 

 なぜなら、それだけの情報網があるのならば、やはりこの警告も全くの嘘とは考えにくく、何かしらの根拠があるように思えるから、だ。

 

 まぁそうなると、なんで神託なんて回りくどいこと言ってんだ?みたいなことにもなりかねないリスクはあるわけだが——

 

「——なるほど。嘘をついた様子はない、か。わかった。我はそなたと、そなたの王の警告を、国を守るために尊重することとする。また、ローラントはフォルセナとより友好的な関係になることに前向きである、とも」

「はっ。我が王もお喜びになります」

 

 これは、かなり上手くいったか。

 

 神託を信じたのだろうか。いや、半信半疑といったところか。

 

 しかし、フォルセナにローラントへの害意はないと判断したと考えられる。

 

 俺としては、まったくその通りだし、何も文句などないが、こんなに簡単でいいのだろうか。

 

「ただし、そなたへの協力に関しては条件をいくつか出させてもらおう」

「条件……ですか?」

 

 ですよねー。そんな楽なことあるわけない。

 

 いや、転生してからわかってたことですけどね!

 

 致し方ないが、協力してもらうためには条件を吞む以外にないだろう。

 

 というか、こっちから情報は提供したが、不確かな情報で国を惑わせたとも言えるわけで。

 

 これ、断ったら国際問題になるやつやん。

 

 拒否権は最初からないわ。

 

 というか、友好を結ぶ上で、どこまで条件呑めるかとか、陛下と何の打ち合わせもしてないよ。やばいよ。

 

 今さらだけど、リチャード様どんだけ俺のこと信じてるのさ。

 

 それとも逆に見放されてるのか⁉︎

 友好?どうせ無理無理って感じで。

 

 いや、陛下に限ってそれはないか。

 

 ってことは、俺の裁量でいいの?

 えっ、責任重すぎるんですけど……。

 

 思考の迷路にハマっている間、渋い顔をしていたのか、ジョスター王は朗らかに言った。

 

「なに、そう構えなくとも良い。一つは、我が娘リースと武を競って欲しい。この結果によっては、協力を取り消す可能性もある」

「なっ、お父様何を勝手に!」

 

 それ、そんな微笑みながら言うことじゃないです。

 

 なんか変なことになってきたな。

 

 リース殿下も急なことに大分取り乱してるし、陛下の独断なことは明らかだ。

 

 だが、俺にとっては好機でもある。

 

 もっと、食料輸出の関税がー、とか、兵士の駐留をー、とか、戦争時の協力体制についてーなどなど、そんなんかと思ったわ。

 

 そういう重さに比べたら、楽勝楽勝。

 

「私は構いません。それでジョスター王の信頼を得られるのならば」

 

 迷いなく言い切った俺に対し、リース殿下もどこか諦めた様子だ。

 

 その空気を感じ取ったのか、ジョスター王がニヤリと薄く笑った。

 

「さすが、騎士たる者として潔い!表に出て早速始めよう。二つ目の条件は、一つ目の条件をクリアした後に話すこととしよう。それでもよいか?」

「御意」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで冒頭に戻る。

 

 ジョスター王が何を考えてるのかはさっぱりだが、それでこっちの要求が通るのならば安いものだ。

 

 使者への扱いや、条件の出し方が普通の国同士だとやっちゃいけないような対応じゃね?とか思うけど、こっちも大概だから何も言わないことにしてる。

 

 というか分かりやすくて大変嬉しいくらいだ。

 

 しかし、この勝負思ったより厄介で——

 

「でやああ!」

 

 リース殿下の気合いの入った突きを両手剣でいなす。

 

 怒涛の連続突きに、防戦一方を強いられる。

 

 強い。

 

 たぶん、ブルーザーといい勝負だろうか。初見ならブルーザーは負けるかもしれない。

 

 突きをとことん極めてきたのか、攻撃の後の隙を見つけにくい。

 

 さて、そろそろ適度に反撃していくか。

 そう思った矢先だ。

 

「なかなか上手くかわしますね。これならどうですか!——風よ!」

 

 ゴウッと俺の周りを強風が包む。

 

「なに!」

 

 魔法?いや、必殺技⁉︎

 

 『旋風槍』か!

 

 強風で足が止められたところへ、目の前にリース殿下が現れる。

 

 馬鹿の一つ覚えのように、また突きだ。

 

 ただし、今回は体勢を崩されてる。

 まともに受け流せない。

 

 仕方ない——ちょっと本気出すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

 急なお父様の申し出に戸惑ったり、諦めたりしながら、結局勝負を始めてしまった。

 

 フォルセナの騎士デュラン殿。私と歳はそう離れてはいないだろうけど、一国の王を前にあれだけ堂々としていられるなんて。

 それに神託の話も、驚きの連続だった。

 

 私が同じ立場で、同じことをしろと言われてできるだろうか。

 

 アマゾネス隊の隊長に来年からなるというのに、その覚悟も決まらない私が?

 

 きっとできないだろうと思ってしまう自分がいる。

 

 なんだかもやもやする。

 

 両手剣を構える騎士を目の前に、何を考えている!

 

 頬を叩き、勝負に集中しきれない自分を叱咤する。

 

 こういうときは思い切り体を動かすに限る。

 

 そう、ひたすらに突き詰めてきた槍技で、お父様の考えも、なんでもできそうなこの騎士も、全部全部吹っ飛ばす!

 

「でやああ!」

 

 何も考えず、とにかく速く。

 

 一撃一撃に渾身の力を込める。

 

 狙うは短期決戦。実力を出し切らせない内に、一気呵成に攻め立てる!

 

 相手に攻撃させる余裕なんて与えない。

 

 いける!

 

「——っ!」

 

 いなされた!

 

 押しきることができない焦りがチリっと首筋に奔る。

 

 決まると思った瞬間ですら、いつの間にか勢いを逸らされている。

 

 まさか、私の槍が負ける?

 

 ——そんなことはない。

 

 だったら破壊力を上げる!

 

「なかなか上手くかわしますね。これならどうですか!——風よ!」

 

『旋風槍』

 

 アマゾネスがこのローラントで修業を積むことで会得できる奥義だ。

 

 風のマナを集め、相手を風の檻に閉じ込める。

 

 そして、全力の一突きを叩き込む!

 

 ぐんっ、と自分の体が前のめりに加速した。

 

 狙いは腹部。相手も初めて見る奥義に目を見開いている。

 

 完璧に虚をついた。

 

 勝った。

 

 そう、確信した瞬間。

 

 ギィィンッ!

 

 鈍い金属音が響いた。

 

「——っ!」

 

 音とともに自分の両腕が振り上げられていることに気づく。

 

 なぜ?

 

 下から掬い上げられた両手剣の存在が目に映る。

 まったく見えていなかった。

 

 腕が今の一撃でビリビリと震えている。槍を手放さなかった自分を褒めてあげたい。

 

 そう思った瞬間。

 腹部に衝撃が襲う。

 

「かはっ!」

 

 耐えきれず、空気が口から漏れ出した。

 

 振り上げた剣を器用に持ち替え、体当たりの要領で柄の先端による強打が決まったのだ。

 

 それでも槍を手放すことはなかったが、衝撃で顔が地面を向いた。

 

 動けない。体がまだいうことをきいてくれない。

 

「終わりだな」

 

 剣が振り上げられた気配を感じる。ダメだ、避ける気力がない。

 

 ああ、この勝負、私の——

 

「姉様を殺さないでー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 ————————————————

 

「エリオット……来ては、ダメ!」

「つっ!」

 

 振り上げた剣は寸止めするつもりだった。いつもブルーザーとやってるときもそうだった。

 

 そのつもりで振り下ろそうとした瞬間、小さな体が俺にぶつかってきたのを感じる。

 

 痛くも痒くもなく、むしろ動揺していた。

 

 えっ?なんで乱入してきた?

 

 まだ4、5歳くらいだろう、リース殿下と同様、金髪碧眼の将来イケメンを約束された男の子がいた。

 

 エリオット殿下だ。

 

 君を助けるために、俺は大金を支払ったわけだが、その仕打ちが体当たりとは。これは許されるのだろうか。悲しい。

 

 しかも、困ったことに場が硬直してしまった。

 振り上げられた剣が行き場を失ったので、ゆっくりと下ろす。

 

「姉様から離れろ!姉様、今のうちに逃げて!」

 

 太腿をボカボカと殴りだす始末。大した力なんてないが、それでも少しは痛い。

 

 側から見たら、これ俺が悪者?

 

 えー。

 

「……そんなに姉様が大事か」

「ひぃっ!」

 

 威圧したつもりはないが、そりゃ怖がりもするか。初めて見る男が剣を持って大事な家族と戦ってて、その知らない男に体当たりをしたわけだからな。

 

 膝を折ってエリオットの正面に向き直る。

 

「そんなに大事かって聞いてんだ。いいから答えろ。でないと姉様を酷い目に遭わせる」

 

 エリオットを押し除けて、再び立ち上がりリース殿下に剣を向ける。リース殿下もなんとか立とうとしているが、さっきのはクリティカルだろう。まだ無理そうだ。

 

「だ、大事だよ、だから姉様を殺さないで!」

「エリオット……」

 

 リース殿下はエリオットの必死な様子にじーんと来てしまったらしい。

 

 いや、いいんだけどさ。

 

 もう決着でいいのかな。

 

「だったら早く姉様よりも強くなるんだな。相手が俺でなければ姉様は死んでいた」

「う、うぅ。姉様より強くなんてなれないよ……」

 

 まだこんな小さいんだ。無理もない。

 だが、このままではダメだ。

 この性格を変えなければ、ローラントの運命も変えられない。

 

「そんなことはない。お前の心は誰よりも強い」

「ほんと?」

「ああ、そうだ。この場にいる誰もが、動けなかったときに、お前だけは姉様の危機に体を張って立ち向かった。それは、お前の心が大事なものを守るために強さを発揮したからだ」

 

 実際は御前試合と理解していたから誰も動かなかったのだが、そこは言うだけ野暮ってやつだ。

 

「僕の、心が」

 

 これからエリオットに降りかかる事を考えると、弱いままではいられない。彼の成長の為に、少々この場を利用して芝居をしてみたわけだが、少し話に熱を入れすぎてしまったかな。

 

 と、ジョスター王の視線が俺を射抜いた気がした。

 

 ん?なんだあの視線は。

 あっ。

 やばい。そうか。ついつい年下だと思って敬語を忘れていた——

 

 不敬罪。極刑。

 

 の文字が一瞬で脳内をめぐる。

 

 まだだ、まだ雰囲気で誤魔化せるはず。いや、誤魔化すしかない(反語)

 

「……そうです、殿下。これから先、どんな逆境に立たされてもその心を忘れないでください。あなたはローラントの王子なんですから」

 

 チラッとジョスター王の方を見ると、ニヤニヤと笑っている。

 は、腹立つな。さては分かってて、わざと威圧したな。

 

「そこまで!決着はデュランの勝ちでよいだろう。リースも文句はあるまい」

「……悔しいですが、完敗です」

 

 俺はその一言を聞いてほっと息を吐いた。

 

 冷や汗が止まんなかったぜ。別の意味でな!

 

 そんな俺の様子を知ってか知らずか、リースがゆっくり近づいてくる。

 

「あの、まだ無理に動いては」

「このくらいならもう大丈夫です。……それより、あなたは強いんですね」

「あ、ありがとうございます。殿下もかなりの腕前だと——」

「エリオット、おいで。私を庇ってくれてありがとう。でも、本当の戦いをしていたわけではないから安心して。無理をしてあなたが怪我をしなくて良かった」

「姉様……うわーん」

 

 リース殿下はエリオットをそっと抱きしめ優しく語りかけていた。

 

 何この空気。

 というか、リース殿下がしれっと俺を無視したんだが。

 

 一応他国の使者って立場忘れてないか。

 

「わはは、面白くなってきたわい」

 

 いや、楽しんでるのジョスター王だけですよ。

 

 

 

 

 






読んでいただきありがとうございます!
評価、お気に入りも励みになります。
ぽちぽち感想返しもし始めました。

さて、物語の方はしばらくリースのターンです。
ジョスター王が、ローラントを建国するよう神託を受けた、とかって設定があるようなんですが、今作ではスルーしています。。
これからもよろしくお願いします。
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