私が本を読んでいると、母親から声を掛けられた。
「アイシャ。今日はお父さん……じゃなくてお祖父ちゃんが久しぶりに来るんだって。だから夕飯はお祖父ちゃんも一緒に食べることになったからね」
「ふ〜ん。分かった」
私ことアイシャは、本へ目を通しながら適当に返事をした。
ライムギ村で雑貨屋さんを営む我が家は村の中ではそれなりに裕福で、アイシャは時々店番をする以外はこうして暇をしているのだ。
「お祖父ちゃん赤ん坊の頃のアイシャとしか会ったことないから凄く楽しみにしてたわよ。色々と豪快な人だけど失礼のないようにね」
「分かった〜」
話によれば、私の母方の祖父は海軍に所属している将校クラスのお偉いさんらしい。
普段はグランドラインで活躍しているらしくイーストブルーへは中々来れない。そして来ても他に用事があるため、ここライムギ村へはあまり立ち寄らないそうだ。
そして、これは裏の話なのだが、立ち寄らない理由はそれだけではなく、どうにもお父さんが祖父を毛嫌いしているそうで雰囲気が悪くなるからと、お母さんが祖父にどうか来ないでほしいと頼み込んでいるらしい。
え…?
なんで子供である私がそんな事を知っているのかって?
それは私の耳が生まれつきとても良いから、お母さんとお父さんが昨晩に話していることをこっそり聞けたからだ。
まぁ、私のこれは耳がとても良いと言うよりは広い範囲に渡って物体や生き物の気配を感じ取れると言うか…。どう過小評価しても生まれ持っての見聞色の覇気なのである。
しかも鳥のフンなどが脈絡もなく頭に落ちて来るときなんかは、未来が見えてしまうほど無駄に高いレベルの見聞色の覇気だ。
はっきり言ってこんなものは平穏な日常生活においては不便っちゃ不便なので普段は意識的に力を抑えて、何とか家全体を感じるくらいまでにしている。
なにせ、この能力と来たら、両親やお隣の若夫婦の夜の営みを感じ取ったり、村の誰かへの悪口を聞いてしまったり。
さらには感情も読めるので私(6歳)を性的な目で見ている奴なんかも分かってしまうのだ。
たしかに私の見てくれは母親譲りで将来有望かも知れないが、流石に未成熟すぎると思う。
近所のおっさんの性癖なんぞ私は知りたくなかったぞ。
……まぁ、話が逸れた。
とにかく何にしてもだ。
お父さんが毛嫌いするその海軍将校の祖父が原作キャラでもない限り私は何でも良かった。
いや、孫に何か色々と買い与えてくれる甘い人だったら良いな。
それと冒険する気など更々ないが、グランドラインの話も聞いてみたい。
と……アイシャは何やかんや祖父が来るというのを多少は楽しみにしながら、家で本を読み続けた。
その人がその原作キャラだとも知らずに。
☆ ★ ☆ ★
アイシャが呑気に本を読んでいると、その時は唐突にやってきた。
見聞色で検知される今まで感じたこともないような力強い気配。
人知れず無意識に姿勢を正してしまうアイシャ。
つ…強い…。
そうか…これが漫画やアニメで言う強いなのか…。
アイシャの耳へこちらへ近づいて来る母と祖父の会話が耳に入る。
「ここへ来るのも久しぶりだな! 4年ぶりくらいか!」
「全く…我が儘って自覚して大人しくしてねお父さん。それと絶対にドラゴンの話題は出さないで。あの人はドラゴンの親戚って周りに知られるのがとても怖いみたいだから」
「言われなくとも分かっとるわい! 全く! ワシの娘を娶っておきながら小さいことを気にしおって!」
「お父さん! そんなこと言って本当に分かってるんでしょうね!」
「お前もドラゴンは実の兄じゃろうが!」
「そんな会ったこともない人を実の兄だなんて言われても…。ドラゴンは私からすればただの犯罪者よ」
は…? ドラゴンの親戚?
お母さんがドラゴンの妹?
は?
アイシャの思考が固まる。
私の見聞色の覇気バグってんのかな。
いや…そうに違いない。
やがて、玄関に入ってきた二人の話題はアイシャのことへ移る。
「アイシャはどこなんじゃ! 久しぶりに孫娘の顔くらい見させてくれ!」
「はいはい分かってるわよ。アイシャならたしか居間で本を読んでいたかしら」
「そうか! 居間だな!」
ドカドカと足音が聞こえると、リビングの扉が開くのはあっという間だった。
「アイシャ! 久しぶりじゃな! ワシのこと覚えとるか!」
アイシャの記憶より若々しく、髪も白髪混じりの黒髪だったが、彼の名前は間違えようがなかった。
「ガープ!?」
思わず言葉に出してしまう。
「ぶわっはっはっはっは!! まだ赤ん坊だったんじゃが覚えていてくれたか!」
いや、覚えてねーよ!
アイシャには前世の記憶があるとはいえ、脳が未発達なせいか赤ん坊の頃の記憶は曖昧なのだ。
アイシャが顔を引き攣らせていると、母が隣に来て耳を引っ張って小声で注意してくる。
「こら! あんまり覚えてないかも知れないけど呼び捨てじゃなくてちゃんとおじいちゃんと呼びなさい! それとおじいちゃんが遊びに来たんだから本ももうしまいなさい!」
アイシャは言われた通り本をしまいにいき、戻るとニヘラとガープへ笑いかけた。
ガープは本をしまっている間に席に座って、お母さんから出されたお茶を飲みながら何処からか取り出した煎餅を齧っていた。
「おじいちゃん久しぶり…。その…さっきは名前で読んじゃったけど、実はおじいちゃんの事はあんまりよく覚えていないんだ。おじいちゃんの顔は本で見て……。ほ…ほら、おじいちゃんって有名な海兵なんでしょ?」
「ワシも昔は海で海賊相手に大暴れしとったからのう……。まぁ、大昔の大したこともないような話じゃ。そんなことより、ほれ。煎餅くうか? うまいぞ!」
「あはは…。あ、ありがとう…。」
半ば無理やり手渡された煎餅を手に、アイシャは苦笑いしながら齧り付いた。
すっごく…熱苦しいし…気配が強くて気が休まらない…。
アイシャにとってガープは、完璧に苦手なタイプの目上の人だった。
★ ☆ ★ ☆
その後ガープはお父さんが店をしめて帰ってくると、アイシャ達と夕飯を食べて、部下を待たせているからと言って帰っていった。
お父さんは終始不機嫌そうな顔をしていて、アイシャがグランドラインの話を聞こうとすると、それを止めた。
ガープも仕事のことは余り話そうとはせず、話題はアイシャの趣味や好きな物などを質問してくる程度だった。
恐らく、何かお父さんはこういった話も嫌っているのだろう。
平穏と堅実を望む人だから…。
まぁ、そこはいい。
お父さんは義理の息子なのにそんな態度を取っていて大丈夫なのだろうか。など気になるところはあったものの、1言だけ言わせてほしい。
アイシャは心の底から叫んだ。
完璧に油断してた!
私の姓はプラネットで、名前は姓が後に来るこの世界では珍しいものでアイシャ・プラネット。
原作にプラネットなんてキャラはいなかったから、ガープが祖父であるなんて夢にも思わない。
だけど、まさか母方の祖父とはなー。
予想できなかった……。
その後も、ガープはちょくちょくとライムギ村へアイシャと母の様子を見に来るようになった。
アイシャはルフィが関わってくるイベントが来るのではないかと身構えていたものの、何も起きることはなく、あまり前と変わらない平穏な日常は2年も続いた。
そう。あの事件が起きるまでは。