没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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第十話 ウィンター・ツイーンドリルル、風を切り裂き、空を目指しますの!

 

 

 

 …………かなりノリノリでやってしまった。ぐだーと俺は、後悔していた。どうにもテンションが上がるとこういうのの抑えが効かなくなる。なんなんだ……。これもこの体になったのが原因だろうか……。

 

 いや、そんなことよりも今は、もっと大事なことがある。俺は、その場で反転してから、オフェーリアの元に向かった。無事で居てくれよ。と思う傍ら、俺は、出力が大幅に増加しているのに驚いた。速度が違う。ただ、感覚的に小回りが効きそうにないというのも理解した。一点突破に優れている分の欠点、代償という事だろう。

 

 つまり、パワーに優れるポニーロールとテクニックに優れるツインロールってことだ。後は、手数を増やしていきたいな……。

 

 なんて思考を巡らせているとさっきの瓦礫の山まで戻ってきていた。遠目だがオフェーリアの姿が見えたから安堵の息を吐いて、俺は、ポニーロールの回転を止めて、その傍に着地した。突然現れた俺の姿に驚いたような人々の視線が向けられるがとりあえず、オフェーリアへと声をかけた。

 

 「オフェーリア、無事ですか?」

 

 「はい! こちらは問題ないです! ウィンター様も……イメージチェンジですか?」

 

 間違いなく後ろに垂れ下がってるポニーロールの事だ。思わず俺は、苦笑いが浮かぶ。

 

 「え、ああ、ちょっと色々ありまして……」言葉を濁し、「それよりも無事でよかったです」

 

 「ええ、皆さんも大事に至る怪我も特に無いみたいです。少しの間、ここに避難できそうです。風も不思議と弱まっていますし」

 

 「そうですわね」

 

 想像以上に、パワーが出るようだな。背中に垂らしたポニーロールをたぐって、指で弄り、空を見上げる。

 

 「後は、あれをどうにかするだけですわね」

 

 「ええ……」

 

 俺たち、二人揃って見上げる。瓦礫の隙間からでも空を覆う風の隕石は、見えた。圧力が強烈だ。もう時間がない。

 

 『ウィンター!』

 

 『ホワイト、どうかしました? 何か分かりましたか?』

 

 『一つ発見! あのトルネードと上の王都を覆ってる風の隕石、繋がってるみたいなんだ。なんていうかトルネードのある場所に、誘導しているというかトルネードが引き寄せてるみたい』

 

 『ふむ……そうなると』

 

 俺は、瓦礫の隙間から出ると強風になびく髪を押さえ、トルネードの方を見やった。

 

 「あれを掻き消せばいいのでしょうか?」

 

 『それもありだけどちょっと難しいかな。風の砲弾とかと違って、トルネードは、常に制御されてる。力が注ぎ込まれ続けてるんだ。だから弱まることはあっても掻き消すのは難しい』

 

 『答え出てるんでしょう? 早く言ってしまいなさい』

 

 『トルネードと接続している風の四天王は、トルネードの向こう側に居る。魔力の流れ、改造コードの侵食度合い。それから見当がついた。直接の、つまり映像での観測はちょっと無理だけど、間違いないよ。つまり、トルネードを伝っていけば必ずたどり着ける』

 

 『――理解しましたわ。ホワイト。今、わたくしが居るところに来ていただけますか? 守ってもらいたい人々が居るのです。全ては、難しくとも今この瞬間、ここにある生命を絶やしたくありません』

 

 『了解したよ。そっちに向かう。すぐ行くから待っていて』

 

 そこでぷつりとホワイトの声が聞こえなくなった。少し、待つとしよう……。傍の瓦礫に腰をかけて、俺は、辺りを見回した。瓦礫、瓦礫、瓦礫。まただと思ってしまう。また犠牲を出してしまった。憂鬱だ。今回で、二回目。まだ最低二回。さらに、魔王も残っている。

 

 ……ちょっと肩から力を抜くとすぐにこうなる。体が強くなっただけで、中身が伴わない。嫌になるな。この調子で、戦っていけるのだろうか。またこうやって犠牲の出るのに、耐えられるだろうか。俺は、自嘲気味に唇を歪めた。

 

 ――騎士として、故郷で活動していた頃。その時だって、大小問わず犠牲があり、目の当たりにしてきた。魔物に襲われ、全滅した村。飢えに苦しみ殺し合った家族。魔物の毒で、冷たくなっていく同僚。どれも憶えている。酷い様だった。忘れられない事の一つだ。でもそれでも俺は、まだ剣を持てた。戦えた。だというのに、今は、どうしてこうなのだろう。弱くなったんだろうか。

 

 炎の四天王サラマンドロス・エコーフィアー。抗う事を許されない暴虐に晒されたからか? そうじゃない、そうじゃないと思う。では、何故だろう。

 

 「お隣、構いませんか?」

 

 「――ええ、どうぞ」

 

 オフェーリアだ。物思いに浸りすぎて、反応が遅れてしまった。腰掛けるオフェーリアを横目に見る。今気づいたが寝間着のまま叩き出されたらしい。彼女もかなり薄着だ。体のラインが見て取れてしまうし、谷間にも目が吸い寄せられてしまう。

 いけないいけない……と空に視線を上げた。相変わらずの空模様。また近くなった気がする。空が落ちてくる。今、この王都に生きている人々がどれだけいるかは、分からない。皆がそれを見ている。皆がその恐怖を味わっている。そう思うと憂鬱も掻き消せそうだった。どっちにしろ不純だ。

 

 「不躾なご質問で、恐縮なのですが……ウィンター様、何か悩まれていますか?」

 

 「へ? え? 口に、出していましたか? わたくし」

 

 「ああ、いえ」オフェーリアは、微苦笑を浮かべ「お背中が何か寂しげでしたので」

 

 「なるほど……? まあ、その通りです。少し時間ができましたので、考え事をしていました。大した内容では、ありませんので気にしないでいただければ助かります」

 

 オフェーリアの方に視線を向け直し、なんでもないと微笑んでみせた。

 

 「……なんていうかその、やはり、ウィンター様は、男の子なんですね」

 

 「え、ええ! 勿論! わたくし、ウィンター・ツイーンドリリルは、体こそ女性ですが魂は、男ですので!」

 

 立ち上がって、勇んで見せる。……誤魔化せただろうか。

 

 「ふふ、ウィンター様のお背中、騎士団の子やお父様にそっくりでした。男性の方って皆、抱え込んでしまうんですよね。私としては、話して欲しい。相談して欲しいと毎度思うのです。ですけど、男性の方は、それが格好悪いなんて思っちゃうんですよね。困ったものです。

 ……如何でしょう?」

 

 上目遣いに、そう言われてしまった。駄目だ。駄目駄目だな……。はぁと溜息一つもらし、腰を元の場所に下ろした。

 

 「どんな悩みでも幻滅しないとおっしゃって頂けるなら……「勿論ですっ」食い気味ですわね……。分かりました」

 

 情けない条件だなと自分に呆れつつ、俺は、言葉を作る。

 

 「非常に情けない話ですが、勇者としてやっていけるか悩んでいました。……これ、貴方に話すのなんだか当てつけみたいですわね。そういう意図はないですから、気にしないでくださいまし」

 

 「何故か、伺っても?」

 

 「この有様です。故郷と変わらない惨状……――わたくしは、また守れませんでした」

 

 情けない。陰鬱が唇を突く。ちょっとばかし腰を落ち着けただけなのに、弱さが吹き出てくる。だから止まるべきではなかった。

 

 「『何もかも守る』――なんて傲慢極まりない。愚にもつきませんわね。それでもわたくしは、守り、倒す為に勇者となりました。なったのです。自分の為、なにより傷つくべきではない誰かの為。とどのつまり、そういうエゴがわたくしを勇者として仕立て上げたのです。成果ではなく、やりたい。やるべきだと思ったから……」 

 

 だというのに、このざまです。俺は、吐き捨てるように言った。

 

 「……ウィンター様は、私を守ってくれました。それだけでなくて、皆も守ってくれています」

 

 「それは、そうですが……」

 

 「ウィンター様を責める人なんていません。いても私が許しませんっ! これでも騎士団長で、王女やってますからね、私」

 

 オフェーリアは、ふんすと両手を胸の前で握り締めた。職権乱用もいいとこだな。と内心苦笑していると伸ばした手が俺の手を握った。細くじんわりと温かい手。指が絡む。

 

 「責めないでください。誰も貴方を責めません。だから自分で自分を責めるのは、やめてください。それを喜ぶ人は、どこにだっていません。少なくとも私は、喜びません」 

 

 なにより。と一拍置いて。

 

 「貴方は、貴方を誇りに思っていいと思うのです。いいえ、誇りに思ってください。やりたいことも、やるべきことも。全部、全部、ウィンター様が胸を張って、掲げて上げてください。そうしたらきっと、もっともっと輝いて、暗い部分も吹き飛ばしてくれます」

 

 「……本当です?」

 

 「本当です。案外そういうの気にするんですね。少し意外です」

 

 「元々、そういうタイプなんですの。故郷でもお兄様の影にいましたから。日陰者……と思っていたのは、わたくしだけでしょうね。そんな風に、後ろ指さす人は、故郷に居ませんでしたから。

 わたくしは、そうやって、勝手な思い込みで自分を追い込んでいたのです。滑稽でしょう?」

 

 「そうですね」

 

 「そこは否定しないんですね……」

 

 「過去の事実なら仕方ありません。もう覆せませんから。正直、私もそう思います。だから、下手に否定するより肯定して前に進む方が幾分、生産的ですよ」

 

 「合理的ですわね」

 

 「騎士団長で、王女ですから!」

 

 「説得力に溢れてますわね……――と、待ち人が来たようですわね」

 

 再びふんすと胸張ったオフェーリアから軽い足をたてて、現れたのは、桃と銀の髪をなびかせるホワイト。

 

 「やあやあ! ウィンター! いとカワカワイイ、つまること絶世の可愛いこと、ホワイトちゃんが来てあげたよ! 待った?」

 

 「それなりに」俺は、肩を竦め、「では、後、頼みましたわね」

 

 立ち上がった俺は、バトンタッチとばかりにホワイトとハイタッチして、すれ違う。短い期間だがなんとなく信頼関係が気づけてきたようだ。心地よく響く乾いた音に、そう感じた。

 

 「ほいほいさ! って、え!? なにそれ…………?」

 

 「え? ポニーロールですけれど? ご存じなくて?」

 

 声を上げて驚くホワイトに、何を今更と背中に垂れたポニーロールを振るように振り返って、俺は言った。

 

 「え……なにそれ……。知らない……こわ……」

 

 「えぇ……。まあいいですわ。ちゃんとオフェーリアや皆さんを守ってくださいね」

 

 「ああ、うん。それは分かったよ。だから後でそれじーっくりと見せてね? いじいじさわさわさせてね? めっちゃ気になるから! 約束だよ!!」

 

 「はいはい」

 

 「ウィンター様!」

 

 「はい、なんでしょう?」

 

 なんか僕と対応違くない!? とかいうのを耳から追い出して、再び振り返った先には、オフェーリアの姿があった。

 

 「ちゃんと、帰ってきてくださいね。朝食、一緒に食べましょう。ロールパン(・・・・・)など如何です?」

 

 まったくもう、なんだよそれ。ぷっと吹いてから、こほんを俺は咳払い。ばっと髪を払って、キリッと。

 

 「いいですわね。素敵ですわ。ぜひ、ご同伴させていただきたいですわね」

 

 「絶対、ですよ? 約束ですからね? ウィンター様」

 

 じっと見つめるオフェーリア。ああそうだな。これを無碍になんてできるわけがない。それに、なにより。

 

 「勿論ですわっ!」

 

 不敵に唇を持ち上げ、胸を張り、高らかに!  今度は、誤魔化しじゃない!

 

 「わたくしは、ウィンター・ツイーンドリリルは、勇者ですから頼まれごとは、破りませんわよっ!」

 

 俺は、そうして、再び空に舞い上がる。目指すは、風の四天王。貫くは、トルネード! 処女膜ぶち抜いてひーひー言わせてやりますわよ!!

 

 …………もうだめかもしれんね、俺……。およよとしながらも、加速する俺は、あっという間に、地上をぶっちぎり、空を引き裂き、トルネードへと突入した。

 ――ここが正念場だ。という確信を胸にした俺の視界は、一瞬で、トルネードの色に染め上げられた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「完全に、言い忘れてたけど成層圏で、生きてられるのかな……。どうだったかな……まあ、大丈夫か!」

 

 不安げな表情も能天気な笑いで吹き飛ばしたホワイトは、空目掛けて、ぴっと敬礼を飛ばした。

 

 「グットラック! 頼んだよ、勇者様!」

 

 

 

 +++

  

 

 

 成層圏。風を纏い、引力を物ともせず浮かぶシルフィーリベア・メランコリックボルトは、違和感に、片眉を跳ね上げた。それから「ああ……」と呟いて、ねとりと唇を舐めた。獲物を目の前にした肉食獣の仕草だ。

 

 「来ているようね、勇者」

 

 眼下に視線をやり、シルフィーリベアは、笑みを深める。そして、何より込める力を強める。

 

 「そのトルネードは、決して、風を放つだけではないのよ? その内側に潜り込んだということは、自分から食われに来たのと同じだっつ―の!! キャハハハ!!」

 

 そうして、第二、第三、何度目かの風の砲弾が彼女を取り巻くように、浮かび、回り、落ちていく――その時だった。シルフィーリベアは、怪訝と眉を潜め、目を見開いた。来る――落とすのを止め、シルフィーリベアは、明確な武器として、その切っ先を気配へと向け、放った……着弾。しかし、弾き飛ばされた。

 

 「甘い! 甘い! 甘い! ベリー! ベリー! スウィーティーでしてよっっ!!」

 

 雲海をぶち抜き、トルネードを穴だらけにした黄金の閃光――勇者、ウィンター・ツイーンドリリルは、紫の双眸をシルフィーリベアへ凛と鋭く細めた。

 

 「っ!!」

 

 驚愕はしたものの、怯むこと無くシルフィーリベアは、新たな風の砲弾をいくつも生み出し、ウィンターに放つ。

 しかし、盾とばかりにシルフィーリベアに向けたポニーロールの先端がウィンターへと届かせない。先程と同じくものの見事に明後日へと弾き飛ばされた。ぐるんとウィンターの背中に回ったポニーロールが回転。盾から一転、推進力となる。すれば、

 

 「チェストォ!!」

 

 気合一声の拳撃! しかし、シルフィーリベアのまとう風が受け止める。反射より早い、ほぼ無意識の自動防御(オートガード)だ。勿論、防御があるならば逆もまた!

 

 「もう! うっとおしいですわね!」

 

 ポニーロールの先端で弾き、同時に後退して、ウィンターは、距離を取ると頬を膨らませた。腰に片手、もう片手の人差し指をぴっとシルフィーリベアに突きつけた。

 

 「貴方が、風の四天王で間違いありませんわね!?」

 

 「……思った以上に、蛮族のようね。あんた、判別もせずに殺しにかかって、違ったらどうするのよ」

 

 飽きれたように鼻を鳴らしたシルフィーリベアに、ウィンターは、やれやれと首を振る。

 

 「こんなところで生きてる方がおかしいですわよ。普通に考えてまして、貴方が風の四天王であるという選択肢しかありませんわ!」

 

 まっ、そうね。とシルフィーリベアは、肩を竦め。

 

 「あたしは、風の四天王がシルフィーリベア・メランコリックボルト! 名乗りなさい、勇者! 戦の作法くらい知らないわけでもないでしょう!」

 

 「はんっ!! 魔物がほざきますわね! わたくしは、勇者、ウィンター・ツイーンドリリル!! 貴方方を滅ぼすもの!!」

 

 「大層な妄言を!」

 

 「魔物が作法など!」

 

 空気が密度を増す。それは、殺意が空を満たすから。空気がうねる。それは、殺意が空気を乱すから。空気が震える。それは、殺意に空気が怯えているから。

 

 「押して参りますわっ!」

 

 「行くわよッ!!」

 

 王都上空。決戦が、今、幕を上げた

 

   

 

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