没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!! 作:クルスロット
風の四天王死す!
第十三話 ウィンター・ツイーンドリルルと慰めの報酬、でしてよ
「わたくし、思うのです」
風の四天王の襲撃から数日後、オフェーリアに借りたツナギを着たわたくしは、瓦礫の山にいました。そう、わたくしです。頭の中でも口調がこうなってしまいました。なんだそりゃ? って思うでしょう? わたくしも最初は思ったんだ……あ、一瞬治りましたわね。元に戻ってしまいましたけど……。こんな風に、時折元に戻るというわけです。
あ? 怪我とかです? 勇者ですので美味しもの食べたら治りました。勇者ですので。“勇者”ですからっ!!
「何を思うのさ。胸元開けすぎじゃない? 指突っ込んでいい? いや、手を突っ込むね!」
「だまらっしゃい!! ツッコミロール!」
ツインロールの片方で、ホワイトにツッコミを入れました。これの操作にも慣れてきましたから、手加減の一つくらいお茶の子さいさいですわよ。胸元までチャックが上げられないんですわよね……。無理やり上げようとすると壊れそうでちょっとしづらいですわ。
「いつつ……愛が足りてないよ、愛がさあ……。んで、何を思ってるのさー」
「わたくしのツインロール、及びポニーロール、前から後ろまで、愛たっぷりですわよ。ええ、わたくし、思うのです」
手元のスコップを地面に突き刺し、ぐっと片方の拳を胸元で握り、
「受けにばかり回ってはだめだと。攻めなくては、と……!!」
「……十分攻めてるよ? 僕の体はぼろぼろ。夜ももうちょっと加減……いや、もっと激しくして「存在しない記憶を垂れ流すのやめていただけます?? 聴かれたら勘違いされますから」ちっ……既成事実にしてやろうと思ったのに」
「なりませんわよ……。勿論、魔王軍とのことです」
「ああ、分かってるよ。まあ、確かにこう何度も先手を取られると癪だよね」
瓦礫の上で、天地ひっくり返ったホワイトからわたくしは、周囲に視線を向けましたの。瓦礫、瓦礫、瓦礫。周囲一帯、瓦礫の山。あの綺羅びやかな王都の街並みがここにあったと聞いて、誰が信じるでしょうか。
「悔しいですわね」
「……そうだね」
「今後の課題ですわね……。早急に解決しなくちゃいけませんけれど」
ふうとわたくしは、息を吐き、傍の瓦礫に腰を掛けました。働き詰めだから休憩です。正直、体は、元気ですけれど。精神的疲労ってやつですわね。
「ところで、ホワイトに、一つ聞きたいことがあるのですが」
「うんー? なにさ」
「他の勇者の話、前にしましたわよね?」
「え? ツインロールは、捨てらんないよ? 捨てさせないよ?」
「もうそれは、いいですわよ……。剣や槍の勇者譚は、諦めました……。他の勇者のいる他の世界の事です。他もこんなに一方的だったんですの?」
「……正直、そんなことはない。決して彼らの道のりが穏やかであったわけではない。上から――外から僕は、最後まで見てたしね。本当だよ?」
だけど……。ホワイトは、そう前置きをすると天地を正して、瓦礫の上から足をぶーらぶら。
「僕が見てきた世界で、最大レベルに“ヤバイ”よ」
流石のホワイトも真剣そのもの。冗談ではなさそうです。これは、重みがありますわね。
「そうでしょうね。多分、わたくしの知っている勇者譚なら仲間を集め、道中で強くなり、」
勇者譚。わたくし、いいえ、この世界の人々が皆々知っているであろうお伽噺です。お伽噺では、ありませんでしたが。勇者と仲間たちの戦いと勝利の物語。わたくしも幼い頃、夢中になったものです。
「そして、魔王城に攻め込む」
――そうだ。それです!
「わたくしも攻め込みましょう! 将を射んと欲すれば先ず将を射ましょう! つまるところ、カチコミですわよ!」
「頭打った?」
「めちゃくちゃ正常ですが??? 現実的でない事は、重々承知です。しかし、これが一番早いと思います」
「やっぱり打ってない? 大丈夫? 気が狂った?」
「失礼ですわね!? ……いえ、本当に今、おかしかったですわね」
焼けた石を大量の水に沈めたようでした。一瞬で、熱が消え、冷たい思考がわたくしの隅々まで行き渡っていくような感覚。どういうことでしょうか。今の言動、間違いなくおかしいですわね。
「申し訳ありません。少しばかり、気分が高揚していましたわ。休憩致しま――「お話は、聞きました!!」――この麗しき美声は!」
「そう私、オフェーリア・メルティ・アンブレラです!」
ばっと声の方に振り返ったらわたくしと同じようなツナギ――わたくしは、黒ですけれどオフェーリアは、白のツナギ――胸元までチャックが上がりきってないのは、お揃いですわね。そんな彼女は、しゅばっと私の傍に駆け寄ってきて、物欲しげに見上げていた。
「ウィンター様のお声を聞き、職務を終わらせ、参上いたしました! 通常の255倍速です! 疲れました! とってもすごく疲れました! 褒めてください!!」
「ええ、ええ、とっても偉いですわね~~」
「ふへへへ~~」
キャラがだいぶ崩れてますわね。大丈夫ですの? これ。でも、わたくしとしては、オールオッケー!って感じですわね! 本当に大丈夫でしょうか。後で不敬罪とかで処刑されません?
「王女様が1人で外出なんて大丈夫なの?」
「大丈夫です! 私、この国で一番強いですから」
「そういう問題じゃないんだけどな……」
撫でられながらサムズアップするオフェーリアに、ホワイトは、苦笑いを浮かべましたわ。実際、そうですけれどちょっと周りに目をやれば瓦礫の影や離れた建物の屋上に、護衛らしき影が見ますし、問題無いのでしょう。歴戦の騎士や若手の兵などなどが全員揃って、肩で息をしているのは、実にご愁傷様ですが……最強は、伊達でも酔狂でも無いみたいですわね。
「それで、君に、何かアイディアでも?」
「ああ、そうですね。勇者様、私、いいえ、アンブレラ王国としても先程の名案を採用させて頂きたいのです」
「名案……えっと……カチコミでしょうか?」
「かちこみ……ああ、そうです! カチコミです!」
「カチコミ、ですわねっ……!!」
「……つまり魔王城に攻め入る方法があるってこと?」
ノリノリで掛け合うわたくし達の横で、ホワイトが話をまとめてくれましたの。え? マジですの? とホワイトを見て、オフェーリアを見るとうんうんと強く頷くオフェーリア。
「
「ま、まじ……?」
「こほん……本当のことでしょうか?」
聞き慣れない言葉に、きょとんとするオフェーリアを見て、わたくしは、言い直しました。自分でもよく分からない語彙が最近混じりやがりますわね……。なんなんでしょうか。
「ええ、勿論です。……ここでは、ちょっとお話できませんね」
「それは、そうですわね」
目立ちすぎたみたいですわね。オフェーリアかわたくしの美貌か分かりませんが、視線の数からして結構な人数が集まってきているのは、分かります。移動するべきですわね。
「では、どちらに行きましょうか?」
「王城へ参りましょう。損害が少なかったので、内緒話をするお部屋くらいは、空いていると思います」
「なるほど。それでは、失礼しますわね」
「へっ? ひゃっ!?」
わたくしは、オフェーリアをお姫様抱っこして、垂直に飛び上がりました。ツインロールも快調快調。下から向けられる視線が心地良い。それから一気に王城の方へ向けて、わたくしは、加速しました。
「ウィンター様、と、飛ぶならそう言ってください!」
「あら、こういうのは嫌いでした?」
「そういうわけではありませんけどっ! ちょっと、その! 心臓に悪いと言いますかっ! いいえ、それよりもですね……!」
なんでしょうか。口ごもるオフェーリアを見て、首を傾げましたわ。びっくりさせたのは悪いとは、思いますけれど……。
「こ、心の準備をさせてもらいたいんですっ!!」
ぷいとへちを向いたオフェーリアに、なるほど……? とわたくしは、内心納得したような納得してないような心情になりながらも。
「わたくしと飛ぶのは、嫌かしら?」
「……嫌いじゃありません」
「じゃあ、ちょっと遠回りしましょう!」
わたくしもどこまで飛べるか見てみたかったところですしね!! ぐるんと回って、上へ上へ。雲は、超えないくらいに空を駆ける。ああ、空は広い。高くて、遠い。そして、青い! 青空! 王都の空も中々捨てたものではありませんわね! ノッてきましたわ! 胸元のオフェーリアを見ると彼女も笑ってる。そうですわよね! ですわよね!
「どうかしらっ!!」
「好きです!!」
「わたくしも空を飛ぶのが好きです! いえ、好きになりました!」
初めて飛んだ時は、空も何も見えませんでしたし、楽しむ余裕も無かったもの。これくらいの約得を頂いても
「ああいえ、そうじゃなくて――きゃっ!?」
「速度あったほうが楽しいでしょう!!」
少なくともわたくしは、そうです! 早いほうが良くないです? 良いですよね。分かりますわ……。スピードの先、ごうごうと耳を打つ風切りが心地いい……。たまりませんわ……!
「ウィンター様! 速度!! 速度!! 早いです! いくらなんでも速度出しすぎです!!」
「ええ、出し過ぎくらいがいいのですわよねっ! めっちゃ分かり味フカフカ丸ですわ! ぶっちぎりますわよ!」
「そういう話じゃあーりーまーせーんーーーーー!! 法定速度守ってくださいーーーー!! キャー!! はーやーいー!!」
「何をおっしゃりますか! 空は自由でしてよ!」
ああ、気持ちいい!! これこれ! こういうのですわ! ご機嫌ハイテンションですわね!! このまままた成層圏まですっ飛んでいくのも――。
『ノリノリのところ悪いけどあんまり高度上げると普通の人間は、生きてられないから気をつけなよー? 王女様暗殺犯で指名手配なんてされたくないでしょ?』
『……あ、そうなんですの?』
それは、残念ですわね。帰り際に見たこの星は、とても綺麗でしたから一緒に、見てみたいと思ったのですけれど。しょんぼり。テンション萎え萎え丸でしてよ。
「キャーー……あ、あれ……? どうかしました? ウィンター様」
「あー、いえ、少しばかり頭が冷えました。調子に乗っていましたね、申し訳ありません――」
思わず言葉を止めてしまいました。ただただ、速度を求めて空を駆けていた時には、気づかなかった。空の青とはまた違う美しさをわたくしは、見落としていました。なんとまあ節穴なのでしょう。ガラス玉二つ入れているのと変わりませんわね。
夕暮れに輝く街並みは、広く美しい。痛々しく刻まれた破壊の爪痕を埋め、形を取り戻そうとする人々の働きもまた美しい。わたくしは、目を奪われていました。
「今は、瓦礫が多くて普段通りではないです。失ったものは、街並みだけではありません。しかし、これもまた王都の姿です。私が誇り、愛してやまない故郷と人々です」
オフェーリアの切なさと悲しみ、そして、誇らしさをないまぜにした笑みが丁度、わたくしの方を向いていました。
「貴方は、私の愛する故郷と人々――誇りを守ってくださいました。本当に、ありがとうございます。感謝してもしきれません」
「いえ、わたくし一人で守ったのではありません。オフェーリア、貴方や他の民や騎士、様々な人々と共に守ったのですわ」
「それでもあの嵐を沈めたのも四天王を倒したのは、倒せるのは、ウィンター様しかいませんでした。ですから……私は、何もしていません。私こそ、何もできずあんなにも簡単に……」
言葉尻が段々と小さくなっていく。オフェーリアは、くしゃりと顔を歪めていました。痛々しい。見ていられない。
「ああもう、ウィンター様を慰めておいて、これは無いですね。本当に、情けない……! 私は……!」
「わたくしは、やれることをやっただけですの。貴方だってそう。だから出来ないことを責めることも、貴方が貴方を気を咎める必要は無いのです。だから胸を張って、オフェーリア」
胸元へオフェーリアを抱き寄せると背中に回された手のひらに、力がこもるのをわたくしは、感じました。
「……それに、今は、誰も見ていませんから」
「――――……ぁあ」
沈む日に、茜と染まる街並み。静かに灯る篝火。微かに漂う夕餉の香り。それらがどうしようもなく染みて、堪らなくて。
自然と頬が濡れるのを感じながらわたくしは、腕の中の声が止むのを只々、待ち続けていました。