没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

16 / 25
第十六話 ウィンター・ツイーンドリルルと仁義なき戦いですの!

 「な、なんですのこれ~~!!」

 

 二回叫びましたわ! 二回目ですわよ!! 先程の海中のサメを皆殺しにしてからメインビーチに戻ったのですが、あらやだ、ここにもサメさんがいっぱいですわね。全く笑えませんが?? あらやだ、人だったものが辺り一面に散らばってますわよ。全く笑えませんが?? 重要なので二回言いましたわ。

 

 「いや、なにこれは……」

 

 わたくしの後ろに隠れたホワイトが困惑したような顔で、周囲を見回しています。わたくしもそんな気分です。

 

 「何故に隠れてるんです?」

 

 「いや、サメ……というかサメ映画は、ちょっと……グロいし……」

 

 「映画……?」

 

 「……まあ、苦手ってことだよ」

 

 「なるほど」

 

 とりあえず納得することに致しました。話し進みませんし、ホワイトがよく分からないことを言うのはいつものことです。今は、そんなことよりも目の前のサメ共です。皆さん抵抗は、していますがわたくしがやったほうが早い。

 今、ビーチで暴れているのは、コウソクハイハイ・リクオオザメ――四足歩行のできる両生種ですがあれを放置していれば街の方まで行ってしまいます。そうすれば甚大な被害になるでしょう。

 

 「とりあえず、さっさと片付けてしまいますか」

 

 「チョット待ってください!」

 

 片手をぐるぐる回し、気合満点で踏み出したわたくしの前に割り込んできたのは、メアリさん。真剣な表情。どうしたのでしょう。

 

 「あのサメの相手は、あたし達に、サンシェルの人間に任せてほしいんです」

 

 「そう言いますと?」

 

 「あーしら、海の人間は、古来からサメと戦い続けてきたんすよ。サメは、海の試練。サメは、海の戦士。サメが挑んできたなら当然、あーしら、人間海代表が戦わなきゃいけないんすっ!」

 

 「なるほど……。理解しましたわ」

 

 力説するジュピーさんに、わたくしも納得するしかありませんでした。ぶっちゃけ理解はしていません。死にゆく人々を助けないなど意味が分かりません。しかし、ここで言い争いしてもきっと平行線です。

 価値観というか宗教観というか。まあなんでもいいです。だいたいそんな理由です。

 

 「……まあ、しょうがないか」

 

 ホワイトは、何か言いたげでしたがそう言って、口を閉じました。思うところあるのでしょう。実際、サメとの戦いは、人間絶対有利ではなく血で血を洗う凄惨なもの。丁度、足元に手足が飛んできたり、サメの頭が飛んできたりしていますもの。決して、笑って見ていられるものではありません。

 

 「――しかし、」

 

 飛びかかってきたコウソクハイハイ・リクオオザメ。一頭ではなく、三頭。視線の先には、ホワイト。先を争うように迫っていました。わたくしは、庇うように前に出て。

 

 「降りかかる火の粉は、払わらせていただきます!」

 

 一閃! サメごとき、ツインロールの前には、無力ですわっ!! 空中でばらばらになったサメの死骸が地面に降り注ぐ中、着地したわたくしは、ジュピーとメアリの方に振り返ります。そこには、それぞれ剣を握った二人の姿がありました。先程まで持っていませんでしたから、魔力で作られた剣なのでしょう。つまり、実体の無い魔法の剣。緑と青のラインが剣に走っている。風と水の複合魔法ですね。

 

 「では、武運を」

 

 「「はい(っす)!!」」

 

 わたくし達の脇を抜けて、二人は、サメと人間の戦場へと駆けていきます。黒髪の揺れる背中は、一瞬で、遠のき、サメとサメの合間に飛び込んでいきました。多分、心配は必要ないでしょう。緑と青の斬撃が煌めいて、サメを解体していくのが見えましたしね。

 

 「……ねえ、ウィンター」

 

 「? どうかしま……あっ……」

 

 「……もうやだ」

 

 呼ばれて見れば血塗れ、肉片塗れ。真っ白な肌も、綺麗な銀髪も可愛らしい水着も赤く染まって、生臭くなったホワイトが半泣きでした。可哀想に……。ちょっと興奮しました。

 

 「シャワー、浴びましょうか」

 

 「……うん」

 

 

 

 +++

 

 

 

 海上200キロメル地点。海面立つ人影あり。否、人であらず。身長は、三メートルを有に超え、力強い胸板の前に組まれた両手、踵を合わせた不動の両足、海面を軽く叩く尾を覆うのは、鍛え上げられた筋肉の鎧。厳しい海の環境で、海と血が研ぎ澄ませた剣。それが生み出す推進力が合わされば、海を裂き、海中にそびえ立つ絶壁を砕く。

 

 彼は、そういうものだった。

 

 じっと見つめるのは、サンシェルの浜辺。サメと人の戦いが今、繰り広げられている。手を出す気はなかった。これらは、人とサメの戦いだ。魔族としてではない。

 故に、魔王四天王が水を司る、彼――メガロシャーク・P・グッドフィーリングは、そのつもりだった。

 

 「――シャシャ」

 

 一本筋の合間から真っ白な牙が覗いた。陽光が反射する。幾多の強敵を屠り砕いた牙が外気に晒されただけでメガロシャークの雰囲気を変えた。例えるならば鞘から剣が抜かれたよう。戦いの空気だ。臨戦態勢。それだけで波が荒れ、()が荒ぶ。

 

 「シャーックックックックック!!

 

 高笑い。ギロリと血走る瞳が捉えているのは、揺れるツインロールと競泳水着に身を包んだ少女の姿――ウィンターだ。

 

 「勇者! 勇者! 勇者! おお、勇者!!」

 

 声を上げれば、海も風も彼の高まりに同調していく。海と風は、メガロシャークそのものだった。

 

 「殺りあおうぜぇ、勇者ぁ……!!」

 

 天を仰ぎ、彼は、吠える。見知った竜の子のように、吠えた。もう拳を交えることのない友を思うメガロシャークの葬送に、風が抱きしめるように寄り添った。喉が裂けんばかりの彼があまりに悲痛だったからか。

 メガロシャークには、今、二つの改造コードがある。水と欠損した風――シルフィーリベアの半身。彼女の意志の欠片も彼と在る。 友愛――などと可愛らしいものかは知らぬが彼女もまた勝利を願っているのは、確かだった。

 

 「クックックックック!! シャックックックック!!」

 

 応えよう――メガロシャークは、海へ飛び込んだ。

 静かに、何より速く。そして、軽やかな歩みで、メガロシャークは、陸へ向かう。その後へ付き従うようにサメ達もまた陸へ陸へと向かっていく。

 海が紅に沈む。彼らの歩みの後ろに、生は残らず。根こそぎ何もかもが砕かれ、貪られ、死んだ。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「……風が強くなってきましたわね」

 

 シャワーを浴び、疲れた様子のホワイトを王室名義で借りた部屋に寝かし、わたくしは、またビーチに戻ってきていました。

 さらりと軽い砂浜は、見る影もありません。血、血、血。赤く染まって、どろりと重く。散らばった肉片は、人とサメどちらかも検討がつきません。酷い惨状です。

 それでも杯を掲げ、散った者らを讃えている人々がいる。この土地の風習、文化、信仰なのでしょう。

 王国は、宗教を弾圧しませんでしたからこうして、各地に様々な信仰が残っています。

 それが争いの火種になることもありますが、王国がこうして健在です。正解か間違いかなんて、二択で決められることでもありません。わたくしとしてもことさら興味を沸き立たせる対象でもありません。なにより。

 

 「この星は、青くて丸かった」

 

 平べったい大地なんてどこにもありませんでしたから。唯一天神教が嘘をついていたとは言いません。今の時代、わたくしほど飛べたのは、きっとあの風の四天王、シルフィーリベアくらいでしたでしょう。

 星の外には、黒と光がありました。あの先には、何が在るのでしょうか。ふふ、好奇心がくすぐられますね。

 

 「しかし、この風……不吉な――」

 

 呟き、風上を向いて――不味い。気づいたわたくしは、目を見開きました。

 

 「そこの貴方!! そう、そこの騎士!!」

 

 「へ、え、な、なんでしょう……?」

 

 結構な剣幕で詰め寄ったせいで、呼び止めた騎士は、目を白黒させている。そんな動揺している暇はありません。

 

 「今すぐこの場の全員を避難させなさい!!」

 

 「ええ……? 貴方は……?」

 

 「わたくしは、勇者ウィンター・ツイーンドリリル!! 勇者の名において命じます! 即刻避難を!」

 

 益々困惑する騎士の視線は、同時に疑念がこもっていました。なんだこいつは、と。思わず歯噛みをしてしまう。そんな場合ではない。そんな下らないことで時間を消費している場合ではないのです。

 

 「いや、勇者って……「その人の言ってることは本当です」メアリさん! え、じゃあそれなら……」

 

 ジュピーさんとメアリさんです。怪我一つなさそうで良かったです。何より、助かりましたわ。説明が省けました。

 

 「そういうことですっ!! わたくしが勇者です! いえ、そんなことよりも早く避難を!!」

 

 「勇者様、どうしたんスか?」

 

 「時間がありません。言う通りにしていただけませんか? ただこのビーチから避難していただくだけで構わないのです」

 

 首を傾げたジュピー。わたくしは、冷静になるようできるだけ務めました。語気を荒げないよう、乱暴にならないよう。いくら焦っていてたとしても。

 

 「落ち着いて聞いてください――今、このビーチに、サメの群れが向かってきています」

 

 「サメ……?」

 

 ええ、そういう顔をするのは分かっていました。ええ、ええっ!! サメ! サメ! サメ! 貴方達のサメへの感情は理解してます! その表情も予想していました! ……落ち着きましょう。ビー・クールです。ええ、はい。ええ。

 

 「一つ言っておきます。先程の比ではありません。わたくしは、貴方達に比べればサメに対して、きっと素人でしょう」

 

 しかし、断言します。

 

 「わたくしは、水平線まで埋め尽くすサメの大群を貴方達にどうにかできると思いません」

 

 ……嫌な沈黙ですね。これでなんとか理解(わか)ってもらえると助かるのですけれど。時間もあまりありませんから。わたくしが目視可能な距離を正確には理解していませんが感覚的には、もう一時間とないでしょう。

 

 「……皆さんの避難誘導をお願いします」

 

 これで駄目な時は……どうしましょう。あまり考えたくありませんね。永遠の様な沈黙が続きました。破ったのは、いいえ、破ってくれたのは、

 

 「――勇者様の言うとーりにして。早く避難誘導を」

 

 「ええ、しかし……「あたし達の責任にして構いません。だから」――……かしこまりました」

 

 「ジュピーさん、メアリさん……」

 

 「勇者様は、あたしらのために、自分を曲げてくれました。そんな人が必死に頼み込んでいるのを無視できるほど人間捨ててませんよ」

 

 「後で、お礼して差し上げませんとね……」

 

 「え、マジっ「ジュピー調子に乗らない」うっす……。あ、でもこれだけお願いっす」

 

 「? なんでしょう」

 

 と、ジュピーさんは、わたくしの耳元に口を寄せて、

 

 「あーしらのサボり、内緒にしてもらえないっす?」

 

 なんて言う。あまりに突然のことで、ジュピーさんの顔を見て、わたくしぱちくりして――吹き出してしまいました。

 

 「ふふ、なんだそんなことで良ければ喜んで」

 

 「よしっ!」

 

 ガッツポーズしたジュピーさんは、振り返って、メアリさんとハイタッチ。微笑ましいですわね。

 

 「後、あたしらは、残りますよ」

 

 「あーしら、こう見えても騎士っすからっ!」

 

 「では、海岸沿いを、上陸するサメたちの相手をお願いします。わたくしは、その間、沖を叩きます。よろしく――」

 

 お願いします。と言えませんでした。

 

 「よお、お前が勇者でいいよな?」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。