没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!! 作:クルスロット
わたくしたちの間にいつの間にか現れていた直立二足歩行のサメ頭は、牙を剥き出しにして嗜虐的に笑い、陽気に声をかけてきました。反応は、悪くなかったと思っています。
声を返す事もなく即座にツインロールを機動、回転、その推進力を上乗せた拳を放つ。距離なんてほとんどありませんでしたから並の相手では、回避すらできず中身を潰せたはずです。
そうこの通り、相手が並ではありませんでした。しかし、
「ぐっ……!!」
気づけば海上を飛び石のように、飛び跳ねていました。わたくしは、この時悟ります。不味い。サラマンドロスとシルフィーリベア。あの二体の四天王を相手にした時もわたくしがおいていかれる事はありませんでした。
頬、腹、ガードした左腕。滲む鈍痛に顔を顰めて、わたくしは、どうにかツインロールを回し、海に落ちるのだけは防ぎました。海面を見ればわかるようにこの下には、サメが詰まっています。跳び上がって来ることも考えられますが落ちるよりマシですわ。
それに、この荒れ狂う波間に叩き落されて、無事で済む気がしません。なんですのこの大しけ! さっきまでこんなんじゃありませんでしたのに!!
「シャッシャァ!!」
「こんのぉ!」
奇声を上げ、現れた青い影――件のサメ頭!! 声の方に振り返りつつカウンター気味にツインロールを放ちます。対するサメ頭もまた両腕で挟むこむような攻撃。まるで上顎と下顎のギロチン。ツインロールとそれが激突、拮抗。高速回転するツインロールとサメ頭の両腕が火花を散らします。
鋭い呼気――お腹がお留守ですわよ!! 右と左でラッシュを打ち込んで、思わず唇が歪む。
「硬ったいっ……!! 全く、なんなんですの!! 貴方!」
「水の四天王、メガロシャーク・P・グッドフィーリングッ! よろしくなぁ!!」
「ええ、自己紹介どうも! 長い名前ですわね、サメ頭!!」
「シャシャ!! 随分な返答だよ、勇者!」
「喋るサメ頭なんてけったいなものが存在している事自体が随分ですわっ!
「まーた随分だ!!」
笑うメガロシャークの腕に、一層強く力がこもって――あ、やばいですわこれ。わたくし、嫌な汗が背中に出たのを感じました。ツインロールの回転を逆に、一気に後ろへ退避――なんて逃げに徹した後、目の前で、メガロシャークの掌がぱしんと鳴りました。
「あっぶないですわね!!」
その衝撃波に、よろめきながらわたくしは、空中で姿勢を直す――暇もありませんわっ! メガロシャークの脇から立ち上がる水柱! 1、2、3、4――数えるの面倒くさい! 多い! 多いですわよ!
――沖で戦おうなんて考えたバカに、お仕置きして差し上げたいですわっ……!
過去の浅はかさを頭の片隅で反省しつつ、ローリングと上昇で回避、回避、回避。上へと距離を取ろうにも水柱が小器用に、塞いできやがりますわね。キィ~~!! 鬱陶しい!! シルフィーリベアといいサラマンドロスに、このメガロシャークといいどいつもこいつも遠距離攻撃もっててズルイですわ!
『ウィンター、生きてる!? 大丈夫!?』
「生存確認、毎回されてませんか! ええ、生きてます! まだ体も欠けていませんわよ!」
『よーっし! どういう状況!! ホテルの外は、サメ! サメ! サメ! って感じだけど!」
「それ貴方も大丈夫ですか?! 沖で、水の四天王と戦闘中ですっ! それで一つ相談です!!」
『今ん所ね! はいはい、なにさ』
「わたくし、飛び道具ないんですの!?」
……まあ、ダメ元です。ないでしょ、普通に考えて。いやいや、あってたまるものですか。
『あるよ』
「まあ、そうですわよね……。無い物ねだりでし……今、なんて?」
『あるよ』
「あるんですの……?」
『うん、あるよ』
当然とばかりの声が聞こえて、
『寝てる間につけといた。あったほうが便利そうだし』
次に口にした台詞は、流石に聞き逃しできませんでしたわね!
「いや、許可とってくださいます……?!」
『サプライズのつもりだったんだよー。ほら、この前の風の四天王時も苦労してたっぽいしさー。許して、ね?』
そんな可愛らしく言われても困るのですが? いやほんと。は~~ほんとめちゃくちゃ困りますわね~~。そんな上目遣いで言われましてもね~~(妄想)。はー!! まったくもー! ほんとー!
「許しましょう(早口)」
可愛いは正義。
「それでっ!」
進路上を下からぶちぬく形で飛び出てきた水柱を横へローリング回避して、その表面を突き破って、細い水柱が追いかけてきました。ああ、切りがない! 下に大量の水があるから当たり前ですけれど! 上下左右、どこまでも追ってくる気ですわね! あ、よく見たら中にサメ居ますわね! サメミサイルって感じかしら? ああもうっ!
前門のサメ、後門のサメ! サメ! サメ! サメ!!
「どう使うんですの!!」
『叫んで! コード:〈ロール・ミサイル〉!』
技名どうにかならなかったんですの!? つっこむ暇がないですわね、ほんとっ、しょうがありませんわっ!!
「ロォォォォォォル」人差し指と中指でターゲットインサイト「ミサイルッて、ウッソマジ?!」
ツインロールが横に裂けて、その中から大量のちっさいロールがいっぱい、それはもういっぱい飛び出て、あっ、細い方の水柱と相殺しましたわね。便利ですわ~~。
「ホワイト」
『へへ、すごいでしょ~~』
「後で、お尻ペンペン」
『え、僕、そっちの性癖無いよ!?』
精々気持ちよくなる心構えしておくことですわね。でもこれ。
「結構便利ですわね」
飛び出すロールミサイルによって、爆散していく水柱を見ているとこう、心がすっとしますわね。お尻ペンペン、優しめにやってあげましょう。
それはそうと今がチャンス! メガロシャークへとツインロールを回して、接近!
「御機嫌よう、サメ頭!」
挨拶ついでのツインロールラッシュは、淑女の嗜みィ!
「この程度じゃあ、餌にもならんよな。そりゃそうだ。なられたらサラマンドロスとシルフィーリベアの格がガン下がりだぜ。シャーッシャッシャッ!!」
「餌になりたくありませんからね」
いつの間にかビーチが見えないくらいには、沖合に出ていたようです。
ラッシュを平然と受け流し、海に立つメガロシャークへ軽口を叩きました。余裕綽々なのがムカツキますわね。
ついでに、わたくしは、周囲を見回しました。海の中には、相変わらずサメだらけ。殺意マシマシであられますわね。
……共食いしてますけれどいいんでしょうか。
「弱いやつは死ぬ。それくらいだ」
「――他の四天王も当てはまりますけれど?」
「ああ、そうだ。だが死んだやつの仇討ちをするのは、自由だ」
「貴方がた仲間意識とかあったのですね」
「ぼちぼちだよ」
「ぼちぼちですか」
「ああ、俺は、仇討ちもしたいし、
「……リベンジ?」
「ああ」メガロシャークは、笑い「そうとも。リベンジ、だ」
その時、海が黒く染まりました。日が沈んだ? サメの魚影? 違いますわ。何かが日差しを遮って――ばっと空を見上げたわたくしの瞳に映ったのは――――。
+++
少し時間を遡る。
魔王領国境付近、ツイーンドリルル領土跡地。
薄汚れた茶色の、小さなローブが雪の上を進んでいる――その跡も瞬く間に消えていく。北方のこの地は、猛烈な吹雪に襲われていた。しかし、茶色のローブの主には、関係がないようだ。雪の積もり具合を気にもしない。
ひどい天気だ。これもまた風の四天王の影響に他ならない。この土地がの冬がいくら厳しくてもここまではならない。
しばらく進んで、ローブが足を止めた。黒く焦げ付いた廃墟がある。炎の四天王、サラマンドロス・エコーフェアーの生んだ地獄、その残骸。この地にあった死体と数多の記憶は、炎に焼かれ、雪に埋もれている。顔を覗かすのは、きっと春の目覚めの頃だ。
「…………――――」
立ち止まった茶色のローブの中の何かが何事かを囁いた。だがそれも即座に吹雪が掻き消した。聴く誰かも他に居ない。雪風が巻き上げ彼方に消える。それっきりだった。
ゆっくりとローブの裾が持ち上げられた。ローブの奥、暗闇から姿を現したのは、人のものではなかった。捻じくれた枯れ木に見えた。極寒に震えることもなく負けることもないのは、きっとこれが通常の生き物ではないからだ。
裾の中で、枯れ木が回りだした。くるくると緩やかな回転から一瞬で、強烈な回転へと至った。腕が唸る。強風に負けることもない強烈な採掘音。それが外気に晒されていたのもほんの少しの間のこと。空を向いた回転する枯れ木は、次の瞬間には、地へ、その奥に潜り込んでいる。
「………―――」
また小さく何事かを茶色のローブが言葉を作った。回転を受けたものが撹拌されていく。
大地を満たす土。この地で燃え尽きた火――サラマンドロス・エコーフェアーの殺意。空で散り、世界に散らばった風――シルフィーリベア・メランコリックボルトの怨念も水――今まさに、海上で激闘を繰り広げるメガロシャーク・P・グッドフィーリングの喜悦とまとまりこの地に吹く雪風としてやってきていた。
そう今、この瞬間、四属性が一つにまとめられていようとしていた。
「デュッルッルッル……」
ローブの奥に、三日月が浮かぶ。上手くできたと満足気に頷いた。
世界を作る元素、火と水と風と土が撹拌されていく。
パレットに、赤、青、緑、茶を並べ、掻き混ぜていく。
到達するのは――――黒。
「ま、こんなもんじゃろう。メガロシャーク。好きに使うがいい」
茶色のローブの中にあるものが崩れていく。乾ききった樹皮が触れるだけで砕けるように、撹拌していくそれが起こす風に撫でられ、乗って、取り込まれていく。
彼の名は、土の四天王、アンデリッチ=MF=スプリームスクリーム――四天王最弱であった。
誰よりも弱く。誰よりも壊れやすく。誰よりも臆病で、誰よりも知恵を持ち、そして、古かった。
賢者と呼ばれたこともあった。森を護り、森と共に在り、森の命を護り、あらゆる命の移り変わりを見てきた。それ相応に、永い時を過ごしてきた。
しかし、それもまた過去の話だ。
今の彼は、言うならば枯れ木の枝。いつかあった巨大な力は、もう無い。
土の改造コードを受け入れられたのは、彼だけだった。その彼も改造コードの侵食でこのざまだ。彼の時間でいえばほんの一瞬のことだった。なのに、ここまで劣化している。千年の時を得た古く強大な魔種も改造コードの侵食に耐えきれなかった。
「受け入れたのが駄目だったのかもしれんのう。まあ、過ぎた話じゃ」
最古の森の王は、ある日、一人の少女と少年に出会った。少年が言った言葉を彼は、憶えている。
「王の器、のう……」
目をつぶり、アンデリッチは、思い出す。丁度その頃、人間の言う魔王領は、地獄であった。かつての魔王がこの世を去り、新たな魔王の座を求めて、あらゆる悪鬼羅刹が鎬を削り、殺し、殺されと悪夢を築いてた。その中で、彼の統べた森は、中立だった。だがそんなもの当時、暴れ回っていた魔族達が気にする事もなく殺戮の魔の手は、すぐそこまで迫っていた。
そんな時、アンデリッチの前に現れた少女と少年――現魔王、そして、その下僕たるブラック。
「何故、ワシは、応えたのじゃったか」
アンデリッチの記憶の中、配下に下るようブラックは、言っていた。隣の魔王は、じっと見ているだけだった。あの赤い瞳。ルビーのように、ガーネットのように、只々赤く染まった瞳。血よりも赤く、深い赤。小さく幼い瞳で、見つめていた。
「ああ……そうじゃった……」
小さく微笑んだアンデリッチは、思い出した――森が彼らを受け入れていた。あの日、森では、誰も死なず、誰も泣いていなかった。誰も怯えず、誰もが彼女に惹かれたのだ。
「あの透き通った赤に、幼い赤に託してみようと思ったんじゃ」
土の改造コードによりアンデリッチの得た
土の属性は、あらゆる属性に接点を持つ始点である。そして、アンデリッチ自体がかつて、大地に根を張り、天を突く巨木だった。つまり、天地の架け橋。
そう、“絆ぐ”ということに、特化したのだ。
先の言葉を最期にに、アンデリッチは、自身の生み出したものの渦中へ消えていった。その代わりに、彼が絆いだ“それ”は、雪降中、産声を上げた。