没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!! 作:クルスロット
現在へ、時計の針を推し進める。
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「な、なんですのあれ!?」
「シャーッシャッシャッシャッ!! 言ったじゃねえか、リベンジだよぉ!!」
メガロシャークが哄笑を上げます。けれどわたくしは、空を覆うそれに視線を吸い寄せられていました。
――サメ。しかも大きい。体長何メルトルです? は? 空が埋まってる。空全てが一匹のクソデカサメで、埋まってる? いやいや、スケール狂ってますわよ。しかもこの方向、ビーチから来てません? え、嘘でしょう? じゃあ、それじゃあ。
『え、なにあれ!? ちょっとよく分かんないのがそっち行ったんですけど!!』
「あ、無事でしたわね。よかったですわ」
ちょっと一安心。ホワイトの声は、相変わらず元気なまま。
『外は、相変わらずだけどね。え、あれなに?』
「サメ……サメですわね、多分。めちゃくちゃ大きいですけれど――まっ、余裕ですわね」
「頼もしいよ、ウィンター!!」
ふふんと胸を張りました。シルフィーリベアの風の隕石、あれに比べれば可愛いですわね。それに生きているのなら別に殺せますし? 的がでかいだけですわよ。特に問題ありませんわ! わたくしの脅威スケールも大概、狂ってますわね。
「甘い! 甘いぜ!! 人間の膵臓みてえにスイーッティーだぜッ、勇者!!」
「な、な、なんですって……!?」
上空の巨大サメに目を取られていたわたくしの目の前を通過するメガロシャークの姿には、驚愕と困惑を隠せませんでした。
サメが、無数のサメが寄り集まって、メガロシャークを空高く持ち上げていたのです。イルカのショーをご覧になったことは、お有りでしょうか? 飼育員が鼻先に立つ芸があると思うのですがああいう感じです。ただ絶句するほど多量のサメが次々と下から下から押し上げていく……なんですこれ?
「このサメは、俺たち四天王の全てだ! いいや、これから全てになる! 俺がパズルの最後のピースってわけだ! シャーッシャッシャッシャッシャッシャ!!」
「させませんっ! ロォォォォル・ミサイルッ!!」
相手がやりたいことをさせないのが戦いの鉄則! ロールミサイルで足場を崩して、差し上げますわッ!!
「シャシャシャ!! 無駄無駄ァ!!」
横合いから飛んできたサメやホーミングコバンザメの亜種、チャフコバンザメがロールミサイルの邪魔をっ!?
「ならば、直接!」
ポニーロールへ
「ポニードリルロールライナァァァァァァァァァァァ!!」
「それは、知っているぜ! なら、こうだァ!!」
メガロシャークの振り上げた片手が一気に、振り下ろされます。何をする気で……光――上ですわっ! 炎……!? 逆巻く炎が無数に、しかもサメの形で空中を泳いでくる……!! いやいや、なんですのそれ!
「貴方、水の四天王ではなくって……!?」
「シャシャ!! 何度でも言おう! 俺たち四天王のリベンジで、あると!! つまりだ!」
「サラマンドロスの炎、それに、シルフィーリベアの風ですわねっ!」
「Exactly!! シャシャシャ、
「ええ! それでもやることは、変わりませんわよ!!」
追いすがる炎と風の渦巻くサメ達を引き連れて、海面近くを駆け抜けます。引き離せない。下からも狙われている……でしたら! わたくし、一気に急上昇をかけました。突然の方向転換で、わたくしにも負担がかかりますが構いません。追ってきてますわね。ええ、ええ、その調子ですわ!
「相手のやりたいことをさせないのが戦いの鉄則でサァ!!」
奇しくもわたくしと同じこと――いいえ、常套手段ですわ。人でも魔物でもきっと戦いとなればそう考える。上を覆う巨大サメからおかわり! 炎と風のサメが迫ってきます。メガロシャークもその巨大サメに辿り着く寸栓、何が起こるか分かりませんが時間がありませんわね
「……上等ですわ」
だからこそわたくしは、笑ってみせます。逆境こそ笑うべきですの!
上と下。挟むようにして、わたくしの逃げ場をサメ達が奪っていきます。しかし、こんな単純な策に、殺られてあげるほどわたくし優しくなくってよ!
「ポニードリル」
またしても急停止。次は、下! 突っ込んでくる炎と風のサメ! サメ! サメ! サメ! ええ、全部串刺しにして差し上げて!
「ロール! ライナァァァァァァァァアアアアア!!!!」
熱い、痛い。痛い、熱い。風の刃がわたくしの腕や足に傷をつけ、炎が上から炙っていく。とても痛い。ヒリヒリします。けれどその程度ですわ!!
「何を――……まさか!!」
轟音の中でも聞き漏らさないお嬢様聴力(仮名)がメガロシャークが勘付いたのを捉えました。今更気づいたところで! わたくし、不敵に笑って差し上げます。
「その、まさかですわよ!!」
大きく息を吐いて、吸い込んで、海へとダイブ! 勿論、他のサメのターゲットにもなりますが関係ありません!
いつものように回転。回転。回転です! しかも只々、回るだけじゃないです! ここは、海! ならば海ごとかき混ぜて差し上げます! つまるところ、わたくしの狙いは、
「
……締まりませんわね。
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サメというサメが皆、ウィンターにより生み出された巨大な渦潮に翻弄され、互いに衝突していく。風と炎のサメは、空中に居たというのに引き込まれ、多量の海水に呑み込まれて、消え失せていた。海中に居たサメは、自分たちの庭である海中だというのに、まともに泳ぐことができず、強烈な海流で、ウィンターのポニーロールへと導かれると粉々になった。
「……すまねえな。同士よ」
メガロシャークは、全てのサメに黙祷した。彼の都合に、私怨に付き合ってくれたサメたちへの感謝と哀悼だ。
「そして、ありがとう」
ウィンターの渦潮が弱まり、消えていく。海が元の姿を取り戻す。すぐに、ウィンターは、メガロシャーク目掛けて飛び出すだろう。だが遅い。事は、もう成される寸前だ。
「いっくぜぇ!!」
メガロシャーク・P・グッドフィーリングの叫びは、名前に似合わず実に爽やかだった。
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「遅かった……!!」
わたくしは、海中から飛び出して、巨大サメの中に消えるメガロシャークを見ながら、すぐそう呟いていました――見上げる先、笑うメガロシャークが空を覆うサメの中に消えていきます。メガロシャークの思惑通りに進んでしまった。何が起こる? 何を起こす? 分かりません。しかし、嫌な予感はしますわ。
「邪魔者が消えた。今なら……!!」
ポニーロールの最大出力で、巨大サメの方へと接近して叩く――!! わたくしは、そのつもりでした。けれども上手く行かない現実は、実に歯がゆい。わたくしは、歩みを止めてしまったのです。目の前に展開されたあまりにも現実離れした現実に、思考と体が止まっていました。
「ちょ、ちょっとなんですの、これ……!! ぶ、分裂……?」
『ウィンター、どうしたの? ちょっと視覚情報もら――ええ……』
空中のサメが頭部、胴体、尾に分かれて、頭部が赤、胴体が緑、尾が茶に色を変えます。ああっ、あれは!!
「シャーッシャッシャッシャッシャッシャ!! まだまだ! まだ、これだけでは無いぞぉ!!」
「あれは、メガロシャーク!?」
青い光を身にまとったメガロシャークの姿――ってそうですわ! 今なら隙だらけ! ぼーっと見ている場合じゃなくてよ! ツインロールにチェンジ!
「ロォォォォル・ミサイッルッ――!!」
「効かん!!」
ツインロールから打ち出されたロールミサイルが届く前に、何かに遮られて爆散してしまいました。一体何が!?
『ば、バリアっ!? なんだよそれ! バリア……? え、まさか……合体妨害妨害……?』
「はっはぁ!! がぁぁぁぁぁたぁぁぁぁいいいいいい!!!!」
ホワイトの抗議の声など気にも止めず、声を張り上げるメガロシャーク。合体……? どういうことでしょう。困惑を隠せないわたくし達の前で、その“合体”は始まり――正直言いますと絶句しましたわね。
メガロシャークを中心に、上に頭、胴体が割れ、割れた!? 縦に割れましたわ! ……失礼、取り乱しました。割れた胴体は、メガロシャークの左右。その下に、尾が配置――え、ええ? そこから手!? スペースありましたか? あ、そこが足になるのですね。構造的におかしくありません? まあ、細かい事は良いでしょう。そういうことにします。
「これが……“合体”……?」
『このアイディア、絶対ブラックのやつだ。間違いない。あいつはそういうことする』
なんだかぶつぶつ言ってるホワイトは、置いておいて、わたくしは、目の前に立ち上がった人型を見上げました。めちゃくちゃでかいですわね。あの巨大サメがそのまんま変形して、その上、新たに手を生やしてるのですから元より大きくなっていますわ。
赤緑茶を全身に振り分け、各部を青のラインが入った人型のサメ、一言で言い表せばそうなりますね。
「人類撃滅スーパーゴーレム〈ビッグフォーシャーク〉!! 超絶合体完了ッ!!」
なにやら盛大な効果音と共に、巨人は、その異様をわたくしの前に晒しました。
――しかし、わたくしは、エコーがかったメガロシャークの宣言を聞くか聞かないかの内に、そのビッグフォーとやらに肉薄。わたくしサイズから見れば大股になった足の合間を抜け、がら空きの背中に回り込みました。こんな隙だらけのデカブツさっさとスクラップにして差し上げます!
「シャーッシャッシャ!! シャークミサイル!」
「! ロールミサイル――!!」
背中の各部が開き、中から――サラマンドロスとシルフィーリベアの顔をしたサメがそれぞれの属性をまとって、襲いかかってきます! 誰が考えたんですのこれ!! ロールミサイルと正面衝突して、爆炎と悲鳴を上げるシャークミサイルとやらに、顔が引き攣りました。
『もっと視聴者のお子様に配慮しろー!! サイコなんだよデザインが!!』
「よく分かりませんけれど、もうちょっとアドバイスとか言うことあるでしょう! ホワイト!!」
『あ、はは……ごめん。ついね?」
お尻ペンペン以外にも色々考えておかなくてはなりませんわね……! 迎撃に放ったロールミサイルで相殺――できていない! 爆炎の中からシャークミサイルが顔を覗かせました。
「ツインロール、トルネードォォォォォォォォォォォォォ!!」
前方後方に向けたツインロールをそれぞれ左と右の回転をかけて、回る! シルフィーリベアのトルネードから着想を得たものをシルフィーリベアっぽい何かに使うことになるとは、思いも寄りませんでしたわね。
ミサイルを薙ぎ払い、改めて、ポニーロールへ
「この一撃で、終わりにして差し上げますッ! ポニードリル――――!?」
―――――あれ? ありゃ? 今、
「シャーッシャッシャ。ロケット・シャークパンチ」
あ、これ、墜ちてますわね。どうして? 何故? あれ、完全に勝ちでしたわよね? あ、腕飛んでますわね。あー理解しました。完全に理解しました。なるほど。あれで撃ち落とされた。そういうわけですわね。腕を飛ばすとか卑怯臭くありません? 読めませんわよ、それ。
「トドメだ」
――今、わたくしを見下しましたわね。エンジンが再び動き出すのを感じました。思考は、くすんだまま。動きも鈍い。しかし、感情は、走り出している。やる気、気力、怒り。何でも構いませんわ。この瞬間、動けるのならばなんでも。s
「……ツインっ、ロール」
迫る拳。巨大で、壁のよう。しかし、まだですわ。
「ストライクッ――!!」
今できる全力全開を放った直後、腹が消し飛んだ様な感触と全身を衝撃が叩いて、冷たい何か――海、ああ、そうそれですわね。
しょっぱい、苦い。暗い、深い。底の方へ引かれるように、沈んで、沈んで、光に手を伸ばせても体は動かなくて。そのまま降り注ぐ
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「まさかあそこで腕を持っていかれるとはな。シャッシャッシャ」
〈ビッグフォーシャーク〉の中で、メガロシャークは、嗤う。〈ビッグフォーシャーク〉の片腕、ロケットパンチとして射出したそれは、今まさに海の藻屑になりつつあった。
油断してはいない。見くびってもいない。なら純粋に、あの勇者の力だ。メガロシャークは、そう分析した。
『ドュリュリュ……トドメを刺すべきじゃろうのう』
「そうだな。しかし、サメ《同士》達を勇者に、皆殺された」
メガロシャークにだけ聞こえる声がアドバイスをする。頷き、思考し、笑う。
「
死体になってれば、ついでに人間共を海に沈めてやればいい――メガロシャークは、そうほくそ笑んだ。
次回多分一ヶ月後