没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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お久しぶりです。
一ヶ月なんて言ってたら二ヶ月経ってましたね…いけない。
今日から毎日更新していくんですがそれでこの作品は完結です。
短い間ですがお付き合いください。
よろしくお願いします。


第十九話 ウィンター・ツイーンドリルルと漂流、夢、そして魔王ですわよ

 

 

 

 ――さざなみが浜辺をざあざあと撫でて帰って、また来て、柔らかな砂浜は、留まること無く海へと旅立っていく。そして、いつの日か戻ってくるだろう。この世のありとあらゆるものは、たゆたい巡るのだから。

 

 「~~~~♪」

 

 押しては返す波音に、不思議と掻き消されず響くメロディーがあった。穏やかな音色。子守唄のように聞こえた。黒髪の女性が口ずさんでいた。ワイシャツにスラックスは、浜辺には、不似合いに見えた。

 けれど腰まで先を届かせた艷やかな黒髪を海風に遊ばせ、スラックスの裾を捲くりあげた足を濡らしながらぺたぺたと砂浜を歩く彼女は、様になっていた。

 

 「~~~~――――?」

 

 メロディーが止んだ。彼女が歌うのを止めて、一点を見つめていた。それは、丁度彼女の進行方向にあるもので、砂浜に何かが転がっている……いや、倒れている。そうだ、人だ。気づいた彼女は、ぱしゃぱしゃと海水を蹴って、駆け寄り。

 

 「……綺麗」

 

 眠ったように瞳を閉じた横顔に、黄金を細く束ねたような濡髪に、彼女は、そう呟いていた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 青い空! 青い海! 燦々と輝く太陽!! やっぱり夏の海は、最高だな!

 身につけていたシャツを脱ぎ捨て、砂浜を駆ける。熱い日差しが肌を照らす感覚が心地良い。貸し切りのビーチには、俺と家族くらい。貸し切りだ! 波を上げる水面を蹴り上げ、濡れた砂浜に足跡をつけながら俺は、先を走る兄貴を追いかけていた。

 

 「おーい、兄貴! 待ってくれよー!!」

 

 「早く来いよ―! ウィンター!」

 

 「いやいや、兄貴。足早すぎるだろ!」

 

 「お前が遅いだけだろー!」

 

 「なっ、言ったな! 待てこらー!!」

 

 一瞬で沸騰した俺は、全力で追いかけた。それも魔力を体に走らせて全力疾走。これなら流石に追いつけるだろうと高をくくっていたら兄貴が薄く緑に光るのが見えた。野郎魔法使ってやがる!! 大人気ねえ!

 兄貴は、こういう時、大体大人げない。特に俺がある程度張り合えるようになってきたこの頃は、更に大人げない。子供の頃見てたあの大人っぽさはどこにやった。

 

 キレましたね。キレちゃいましたね。俺もやってやろうじゃないの。使い慣れた魔法を起動させる。

 魔法は、頭ん中に浮かべた魔法陣をばらして、体へラインとして展開させてから魔力を走らせると起動する。模様を一本の線にバラす。元が複雑なほどイメージが難しくて、分解が難しい。

 兄貴ほどじゃねえが俺だってやれるさ、これくらい。

 

 「あらあら、喧嘩しちゃだめよー」

 

 「ははっ、二人共立派な騎士だ。この程度で怪我などせんよ」

 

 アロハシャツは、流石に浮かれすぎだろ父さん、母さん。苦笑を浮かべてしまう。いやまあ、仕方ないか。家族水入らずなんて久しぶりだし。海もかなり久々。皆テンションが上がっても仕方ないだろうな。

 

 「ははは! ついてこいよ! ウィンター!」

 

 「あ! 二重属性って、そこまでやるか!?」

 

 青と緑、水と風を身にまとった兄貴が「ははははっー!!」と笑い声だけ残して爽やかに走っていく。童心に帰るにもほどがあるぞ!! しかも早いし、波音より静か。俺ができないことをするなっ!

 

 「だーちくしょう!!」

 

 チクチク劣等感を刺激するんじゃないよ。ぴきりと青筋が額に浮かぶのを自覚しつつ。ムキになった俺が選んだのは、砂浜を蹴り飛ばす。

 

 「って、ウィンター!? リゾート地だぞ!!」

 

 赤と緑。炎と風の超加速。肉薄すると兄貴の驚愕が二重で耳に痛い。だけどさ、俺も言い返すよ。

 

 「ムキになったのは、兄貴からだぜ!!」

 

 「かー! 言うようになっごふっ!」

 

 加速を乗せた回し蹴りで、海に蹴り飛ばす。おっ、よく飛んだな。まあ、ガードされてたし、後ろに飛んで、インパクトもずらされてる。派手な見た目ほどダメージはないだろ。

 そりゃ全力でやってはないけど普通にいなされたのは、なんかむかつくな……。

 

 「ふっふ、やるじゃないか。ウィンター」

 

 あ、やべ。びしょ濡れで歩いてくる兄貴は、満面の笑みだ。いや、目が笑ってない。笑顔で人を威圧する人種がいる。兄貴もそういうところがある。ああいう顔をしている時の兄貴は、かなり怖い。つーか逃げよ。回れ右――。

 

 「どこに行くんだい?」

 

 「げぇ!!」

 

 「げぇっ、じゃないわぁ!!」

 

 振り向くと眼と眼があった――かと思えば世界が回ってる。あれ? あっ、これは……海面が下にある。俺が回っていて、海の上に居る。つまり、投げられた。あ、すげえ高速回転してる。これ止めれなっ――なんて思ってたら次の瞬間には、海面に叩きつけられて、海の中にダイブ。

 

 「うぼぼぼぼぼぼぼ!! 溺れ"る"!! 」

 

 なーんてな。泳ぎは、それなりにできるほうだ。海に突っ込んだついでに海中を見て……うん?

 

 ――泳げない?

 

 水をかけない。足で水を蹴れない。なんだ? 魔法――使えない。魔法陣が一つも浮かばない。魔力も走らせられない。海面が遠のいていく。息苦しい。海面へと伸ばした腕がひたすらに重い。重りが体を下に引っ張っている様な感覚。だけどここの海はそんなに深くない。そのはずなのに、ちらりと向けた海底は、暗黒が口を広げている。見えない。底なんてどこにもないんじゃないか――? そんな事を思ったら冷静では居られなかった。

 

 溺れる。溺れる。溺れて、死んでしまう――無理矢理手を伸ばす。どうにかもがく。光を目指す。

 

 「がっ…………!?!?!?!」

 

 水を――かけない。当然だ。かく為の手が無い。無くなった。どこに? どこへ? 赤い。海が赤く染まる。もぎ取られている。荒い断面から白い骨と肉、揺らぐ皮が見えた。とめどなく血が溢れていく。痛みが暴れまわる。歯を食い縛る。酸素が足りなくなる。堪える。耐える。けれど酸素も血液も俺をおいて、去っていく。上に、上に。俺は、下に下に。

 

 「ひっ……」

 

 無機質な瞳が見ている。サメだ。俺の腕を貪っていた。もう無い。今度は、足を咥えている。俺は、自分の足だと分かった。何故なら俺の足は、あるはずの場所になかったから。

 

 もがくこともできなくなった。只々、無力な芋虫と化した俺は、落ちていく。光が点になる。そうして、やがて光の粒子になり、見えなくなった。あっという間の出来事。呆然と沈む。

 どうして兄貴は、父さんは、母さんは、助けに来てくれないんだろう。俺は死にかけているのに。どうして、なんで?

 

 「酷いよ」

 

 呟き、小さな手を伸ばした――誰も掴んでくれない手は、噛み砕かれ、俺もろとも引き裂かれた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「――――っ!!」

 

 わたくしは、跳ね起きると全身を走り抜ける怖気と吐き気に襲われました。腹の底、胃から食道を伝って、何かが込み上げてくる。どこかの部屋、誰かの部屋。綺麗で豪奢な部屋が視界を横切って、隅に置かれた鏡と洗面台を見つけました。後はもう一直線。

 

 「…………はあ……はあ……」

 

 最悪の目覚めですわ。酷い夢。噛み砕かれる感触が嫌にリアル。あの絶望。あの暗闇。思い出すだけで身震いがします。

 胃の中から何も出なかったのは、不幸中の幸いとでも思っておきましょう。とりあえず流しておけますからね。

 鏡に映る顔は、酷いの一言。あれだけボコボコにされて、負けたのならこんな顔にもなるでしょう。

 この姿になって、最初の敗北。許されない敗北。わたくしの敗北は、人類の敗北を意味します。負けることは許されていなかった。負ければ死に、皆死ぬ。

 その筈だった。だけどまだ生きている。

 

 「それにしてもここは……?」

 

 蛇口から流れる水を見てから我に返ったわたくしは、周囲を見回しました。一言で言い表しますと綺麗な部屋。清掃が行き届いている客室というところでしょうか。ベッドに、この洗面台。カーテンのかかった窓。後、扉が三つ。片方は……トイレですわね。合わせて、シャワールームもありました。水垢も見当たらない。持ち主は、実に几帳面で、綺麗好きのようです。

 部屋に戻ると壁を見上げると時計が一つ。時刻は、8時半頃。

 

 「探索も終わりましたし、外でも見てみましょうか」

 

 カーテンの隙間から陽差しが見える。午前8時半。天気は、晴れ。ばっと開いたカーテンの向こうには、

 

 「あらあら……」

 

 一面のオーシャンビュー。なだらかな丘の上から砂浜と海を見下ろすことができました。雲一つ無い青空、キラキラと輝く水面。見渡す限りの水平線。

 

 「いい眺めですわねえ」

 

 なーんてしみじみ呟いていると背後の扉がノックされました。「どうぞ」と返事すれば静かに扉が開いた。そこには、メイド服姿の女性が一人。メイド服姿。袖も長く、スカート丈もまた長く。慇懃に頭を垂れ、目を閉じた彼女の印象は、

 

 「失礼致します。お目覚めになられたと伺いましたので」

 

 「……わたくし、何か騒がしくしましたかしら」

 

 「いえ、まったく。主からのご命令です。お目覚めになられた貴方様をお連れするように、と」

 

 「なるほど……」

 

 人の動作に過敏か。もしくは、魔力の動きを感知したか。まあなんでも構いませんが。

 

 「着るものを頂けませんか?」

 

 そうわたくし、今、全裸です。いえ見せて恥ずかしい体ではありませんが何か着ていたほうが文明的じゃないですか? ええ、間違いありませんわ。……何故かいつものドレスが出せないというのが一番の理由ですけれど。

 

 「そちらのクローゼットに入っているものをお使いください」

 

 「あら、そこクローゼットでしたのね。分かりましたわ」

 

 「では、外で待機しておりますので、お着替えが終わりましたらお呼びください」

 

 これまた丁寧なお辞儀をするとそのメイドは、退出していきました。扉が閉まるのを見て、わたくしは、クローゼットを開けました。

 

 「あら……」

 

 クローゼット一杯に、衣服がぶら下がっている。色様々なドレスに、スーツ。シャツにワイシャツ。まあよりどりみどりというところです。……どれにすればいいんでしょう。眉根にシワを寄せて、むむっと考えていると。

 

 「お悩みですか」

 

 「ぴっ!? 急に話しかけないで頂けます?!」

 

 け、気配が無かった……。いつの間にかさっきのメイドが背後にいました。おののいているわたしを尻目に、クローゼットの衣服に手を伸ばし、わたくしと衣服を交互に見るとそのうちの一着を差し出されました。

 

 「こちらなど如何でしょうか」

 

 「……派手じゃありません?」

 

 「お似合いになるかと」

 

 「そうです?」

 

 紫のドレス。裾と袖にたっぷりとレースがあしらわれています。似合うかしら。

 

 「とりあえず、着てみますわね。手伝ってもらえます?」

 

 「かしこまりました」

 

 

 

 +++

 

 

 

 「サイズぴったりですわね……」

 

 いつの間に採寸を……? まあ、それはそれとして。ここに、この屋敷の主がいらっしゃるという話ですわね。ここまでの道のりから見て、三階建て、部屋数は数えてませんがそれなりにあるでしょう。よい屋敷ですわね。

 さて、この大きな両開き扉。場所からして、食堂でしょうか。

 

 「では、お入りください」

 

 「ええ、失礼致します」

 

 重い音と共に、扉が開いていく。どのような方でしょう。かつんと大理石をヒールで鳴らして、踏み込んだ食堂には、白く長いテーブルが一つ。その奥に、人影がありました。

 

 「やあ、おはよう」

 

 女性。濡烏の髪を長く伸ばした紅の瞳をした女性が一人、グラスを片手にわたくしを迎えました。

 

 「私がこの屋敷の主、エレオノーラ・チェイン・ピースメーカー。よろしく頼むよ。ドレス、よく似合っている」

 

 「この度は、大変お世話になりました。わたくしは、ウィンター・ツイーンドリルルと申します。ありがとうございます」

 

 「いい。かしこまらなくて構わない。ほら腰をかけてくれ――ああ、そんな遠いと話しにくい。近くに」

 

 「え、ええ、では、失礼致します」

 

 エレオノーラさんの手招きに従って、その隣にわたくしは、腰をかけました。すると先のメイドが空のグラスに氷とオレンジジュースを注がれました。んー爽やかな香り。

 

 「うちの畑で取れたものの搾りたてだ。味は、保証する。朝はやっぱりこれだ」

 

 ぐいっと飲む彼女につられて、わたくしも一口。甘酸っぱく飲みやすい。香りの通り、後味も爽やか。

 

 「美味しい……」

 

 「だろう? ああ、オムレツもいけるぞ。こいつの料理は、絶品だからな。食材も全部うちで取れたものだ。味わって食べてくれ」

 なんて言いながらフォークとナイフを手にとったエレオノーラは、オムレツを食べ始められました。では、お言葉に甘えて。

 

 「いただきます」

 

 こ、これは…………。

 

 「美味しい」

 

 「だろう?」

 

 にこやかなエレオノーラさんが上機嫌にオレンジジュースをお代わりしました。これは、ちょっと絶妙な焼き加減……ふわとろで、ボリュームのある卵とバターの風味がたまらない。ソースが絡めばまた一段と味のランクが上がりますっ……! 

 

 「パンもいけるぞ」

 

 グラスを揺らしながら囁く彼女の言葉に、わたくし、抗えませんでした……。美味には勝てない。わたくし、負けてしまいましたの……。

 

 「ところで、時に勇者よ」

 

 「え、はい。なんで……なんて?」

 

 流石に、手が止まりました。ゆっくりとフォークとナイフを置いて、皿から顔を上げると笑うエレオノーラさんの姿。

 

 「勇者と言った。勇者ウィンター・ツイーンドリルル。これから貴様がどのような方針を取るのか気になってな」

 

 「わたくし、そう名乗った覚えはありませんが……」

 

 「そうだな。まあ、些事だ。貴様が敗北した水の四天王が今、何をしているか教えてやろうか?」

 

 「っ!! お願いいたします!」

 

 「そう焦るな。あれは、これから海を引き剥がして、人間界を滅ぼそうとしている。引き剥がした海――この星の水のほとんどを大陸に叩き込む。さながら神話の光景がこれから起こるだろう。君がやつを止めなければな」

 

 「そんなことが――いえ、サラマンドロスもシルフィーリベアも異常でした。極まった改造コードならこれくらい可能……?」

 

 「さあ、どうだろうな。私は、見たことを言っているだけだ。それで、どうする?」

 

 試すような視線を受けたわたくしのする行動は、ただ一つ。いえ、そんな視線を受けなくとも一つです。

 

 「行きます」

 

 勢いよくわたくしは、立ち上がりました。色々こう、気になることはありますが今は、そんな余裕ありませんっ!

 

 「お食事に、色々お世話頂き大変ありがとうございました!! またお礼に伺わせて頂きますので、何卒ご容赦ください!!」 

 

 「いい。また近い内にまた会う。その時に、茶の一つでも貰えればいいさ」

 

 「かしこまりましたわっ!」

 

 エレオノーラさんに答えて、わたくしは、食堂を出ました。まっすぐ行けば外に出れますわよね? と思うわたくしの視線の先で、エントランスの扉が開き始めました。外の風景が見え、あのメイドの方が。

 

 「こちらからどうぞ。それとそちらのドレスは、プレゼントとのことです。お持ち帰りください」

 

 「分かりましたわ! ありがたく頂きます!」

 

 外へ一気に飛び出て、そのまま飛び立つ。ツインロールの調子は、問題ありませんわね。ドレスもいつものに。

 

 「しかし、どちらに……!」

 

 ここに来て気づきましたけどここ島でしたのね! 道理で水平線が綺麗なこと! とりあえずホワイトです。ここは、あの子に頼る他ありません。

 

 『ホワイト! 聞こえますか!』

 

 『う、ウィンター!! 生きてたんだね! ほんと僕心配したんだよ!!!!』

 

 『ええ! ええ! ご迷惑は大変おかけしました! とりあえず今は、水の四天王――メガロシャークの場所へと案内して頂けませんか! できますか!?』

 

 『ああ、勿論だ! 君じゃなきゃあれは止められない! 視界に案内出すからその通りに!』

 

 『かしこまりましたわっ!!』

 

 待ってなさい、メガロシャーク! ホワイトの出した矢印の向く方へ加速したわたくしは、リベンジを固く誓いました。

 

 

 

 +++

 

 

 

 ウィンターの居なくなった食堂に、ナイフとフォークの音が微かに響く。エレオノーラは、黙々と朝食を口に運んでいた。

 

 「いいのかい? あんなことを言って」

 

 「構わない。メガロシャークもとどめを刺せねば不完全燃焼だろう」

 

 「なるほど。部下思いだね。ところで、我が魔王」

 

 そんなエレオノーラの隣、先程までウィンターが座っていた椅子に、メイド服をまとったブラックが腰掛けた。

 ブラックの言葉通りだ。エレオノーラ・チェイン・ピースメイカー、彼女こそが現魔王である。

 

 「今日の朝食、味はどうだい?」

 

 「悪くない」パンを一口砕いて、嚥下して「お前の料理に不満があったことだけはこれまで一度とない」

 

 「そうかいそうかい。それはよかった」

 

 ふっとブラックは、笑うと膝をついて、魔王を見上げた。

 

 「ならご褒美の一つでも頂けないか? 我が魔王」

 

 「……内容による」

 

 「せっかくのメイド服だ。いい感じに折檻してくれると助かるよ。膝を折り、見上げ、涙ながら貴方へ許しを請う! そんなシチュエーションでお願いしたい。小物はすぐに用意できる! 頼む! 靴を舐めさせて欲しい、我が魔王!!」

 

 「スープをぶっかけてやろう。遠慮するな」

 

 コンソメスープの入った熱々の鍋を片手で持ち上げたエレオノーラは、薄く笑っていた。やばい。本気だ。ブラックは、恐怖と共に股を濡らした。熱さは、痛さ。ブラックは、全身やけどの痛みを知っている。そして、その快感も知っている。

 

 「あ、それは、不味い。いや、ちょっ熱い、熱! 熱! 熱! あっあっあっあ―――――!!!!」

 

 甲高い音がした。食堂の隅々まで響く唸りが一瞬して、一瞬で止んだ。

 

 「……ふん」

 

 茹でダコのように、真っ赤になったブラックが恍惚とした表情で床に転がったのに、笑みを浮かべ鼻を鳴らしたエレオノーラは、スープをお代わりした。

 

 

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