没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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没落(炎上)(物理)


第二話 ウィンター・ツイーンドリルルは、何故没落したのか?

 

 

 

 王国へと魔王軍が侵攻を開始したのは、ひとえに新魔法の開発からにあった。

 新魔法――この世に存在するあらゆる可能性、確率、因果への干渉式を書き込まれた魔法。通称、改造魔法(カスタムマジック)。あまりに強力で、あまりに絶大。人類に抗うすべはなかった。

 

 四天王。魔王軍にて、新たに出現した改造魔法の適合者である強大な存在。魔物から人の形をとった魔王の仔ら。彼らの戦場がここにある――いいや、違う。戦場なんていう可愛いものではない。

 彼らが戦端を開いたのは、王国北端、ツイーンドリルル辺境伯の統治する領土。年中領地のほとんど雪に埋もれており、豊かとは言い難く、突出した特産物もなく、さらに魔王領と隣接しているため、魔物の出現も絶えない厳しい土地。それでも領主と民衆は、良好な関係の上、たくましく暮らしていた。

 だが、殺戮の炎上舞台となってしまった。盛る炎は、雪を舐め溶かし、大地を焼き焦がすとともに、生きとし生けるもの何もかもを焼いて殺した。ツイーンドリルル辺境伯の愛した大地は、瞬く間と陵辱されたのだ。

 

 侵攻開始は、突然だった。真夜中、魔王領との境であるエンブレース山脈の麓で、立ち上った火柱。出火元は、王国軍の軍事施設、王国軍魔王領国境部隊の拠点であった。だが夜襲を受け、あっという間に燃え尽きたのだ。

 魔王領からの侵略者は、夜を昼間に変えてしまうほどの炎を放ち、一瞬で領土を塗り変えていく。村を街を焼き払い、立ち塞がる兵や騎士、民を殺し尽くした。夜中の0時に開始され、ついに領主城の城下町に到達したのは、丑三つ時。わずか三時間で、ツイーンドリルル領のほとんどを焼滅させたのだ。当時の王国を震撼させたのは、言うまででもない。

 

 「死ね! 死ね! 死ね! ギャハハハハハハハ!! 死ね! 燃えて溶けて、欠片も残さず死んじまえよ!」

 

 男が一人いる。四天王は、改造魔法に適応したと同時に、魔導における四属性の支配者に与えられる称号でもある。彼が纏うのは、炎。司るのは、炎。つまり、彼こそ炎の魔人。天に反逆せんとばかりに無数と突き立つ鋭い赤髪、今は無き、原初の王族の一種族、竜族の子孫たる彼の肌は、赤銅色の鱗がある。瞳もまた鋭く、竜の面影が見え、真っ白な牙が並ぶ口は、哄笑を上げていた。

 名は、サラマンドロス・エコーフィアー。炎の四天王である。

 

 「ギャハハハハ! あーくっそ楽しいなぁ!? やっぱり焼くのは、人間に限るぜぇ!」

 

 動作無く、炎が吹き乱れる。石積みの塀もレンガで組まれた家も燃やし溶けていく。サラマンドロス・エコーフィアーは、四天王随一の戦闘狂だ。殺戮に生を見出し、興奮し、絶頂する。吹き出る炎は、彼の生理現象に等しい。

 ここ十年。魔王軍と王国軍の正式な戦闘は、数えるほどしか確認されていない。彼が改造魔法を受け入れ、人型となり、四天王となったのは、約五年前の事。それ以降は、訓練と調整の日々。炎を放ち、殺す事が生きがいにして、呼吸であるサラマンドロスには、とてもフラストレーションがたまる日々だった。

 それも今日で終わり――サラマンドロスの本日の絶頂回数は、人間が500人テクノブレイクしても足りなかった。

 

 「そこまでだ! 炎の四天王、サラマンドロス・エコーフィアー!!」 

 

 「アァン?」

 

 気持ちよく燃え盛るサラマンドロスに立ちふさがったのは、六角形にスノードロップ――ツイーンドリルル家の紋章を胸に刻んだ軽鎧を身に纏った男たち。彼らは、ツイーンドリルル領の騎士団の生き残りにして、サラマンドロスの炎禍をしのいだ精鋭。領主と領民、領土に忠誠を誓った彼らは、各々の得物を構え、サラマンドロスを捕捉と同時に囲んでいた。

 

 「ギャハッ!」とサラマンドロスは、嗤い「まぁだ生きてたのかよぉ! 鎧の蒸し焼き、後で食ってやろうと思ってたのに、これじゃあ直火になっちまうなあ? ギャハハハハ!! まっ! 男の肉なんざ不味くてしかないけどな? ギャハハハハ!!」

 

 「……許しがたい」

 

 「殺す……!!」

 

 「我らの同胞への屈辱、血で贖わさせる……」

 

 騎士達は、歯軋りし、武器を握りしめると呟いた。怒気が彼らの中に膨れ上がっていく。今にも斬りかかりそうな雰囲気だ。サラマンドロスの言う通り、彼らは、騎士団の生き残りだ。最初に遭遇した際は、全身甲冑で挑んだため、騎士達の大多数が蒸し焼きか全身火傷で死亡した。今、比較的彼らが軽装なのは、経験からの教訓だ。速度がこの相手には、重要だと少なくない犠牲を払って得た答えだった。

 

 「なんだよ! お前らビビってるのかぁ? ギャハハハハハ!!!! おいおいおいおい! 騎士団様だろぉ? ここがどこかしらねえが辺鄙など田舎でも一応、騎士団だろ~~?? 泣き叫んで、ションベンにクソに漏らして死んだ仲間の仇討ちだとか雪辱戦とかしにきたんだろ~~? ほらほら、ビビってないでかかってこいよ、なあ? 手加減してやるからよぉ!! ギャハハハハハハ!!」

 

 「ふざけるな!!」

 

 一際大きな声が騎士達の中から上がった。騎士達が避け、生まれた道から現れたのは、壮健な男が一人。鮮やかな金髪に、整った顔。日焼けした顔の瞳は、青く、若々しく輝いている。今宿っているのは、明確な怒り。眉尻を釣り上げ、サラマンドロスを睨みつけていた。

 

 「皆々、勇敢に立ち向かった! 皆帰る家があって、待ってる家族がいた!! だが振り向かなかった! 涙も零さなかった、勇気あるもの! そんな皆を侮辱するのは、この私が絶対に許さんッッ!!」

 

 突きつける他の騎士より豪奢なロングソード。刃はミスリルで、実に鋭利。滑らかな切れ味は業物の証拠で、魔法への耐性を持つ。柄頭にあるのは、ツイーンドリルルの家紋。背負う覇気は、並々ならない。

 

 「我が名は、コールドベイン・ツイーンドリルル! ツイーンドリルル辺境伯が長子にして、騎士団長! そして、次期当主! なにより、貴様を殺す男だ!!」

 

 「はぁ……」と耳に突っ込んだ小指を引き抜いて「前書きがなげえよ、クソ猿が」サラマンドロスは、つまらなさそうに指先を吹いた。

 

 「…………は?」

 

 ――ただし、コールドベインの背後だ。その時、一陣の熱風が吹き抜けていた。頬を撫でた熱さが、コールドベインを即座と消し炭にした。コールドベインだけではない。他の騎士達も剣や鎧の一つすら残していない。

 

 「ギャハハ、雑魚どもが。つまらんことばっか抜かしやがってな。口ばっかでつまんねえ。興ざめだ。あ~あ、萎えちまった~~」

 

 くだらなさげに口端を歪めたサラマンドロスは、また一歩城下町の奥へと足を進めていく。

 

 「しっかし、これは何かで埋め合わせしなくちゃなあ……。つまらねえ真似をして、俺を萎えさせたあいつに償わせなきゃな。殺しちまったから、あいつには出来ねえ……なら?」

 

 極悪非道としか言いようがない発想だった。最高の考えだとサラマンドロスは、自画自賛した。

 

 「……奥の方がいい匂いがするんだよなぁ。女子供が恐怖する臭いだ。ギャハハハハ!! 久々の人間のメスとガキは、味わって食わねえとなあ。あいつらは、甘くて美味えんだぁ~~。楽しみだなぁ~~」

 

 心底楽しみだとスキップを踏むサラマンドロスは、ぐるりと一回転すらしてみせる。ご機嫌斜めもご機嫌良くなったらしい。

 

 「なにより、さっきのあいつが守るだなんだ言ってたやつらだ! 存分に楽しくしてやろう! 天国で泣きながらマス掻いて、悔し絶頂でもしてるんだなぁ!? ギャハハハハハ!!!!」

 

 サラマンドロスは、三日月型に口を歪め、舌舐めずりした。その隙間から唾液を多量にこぼし、これから舌で踊り、脳で暴れる甘露に思いを馳せた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「兄貴……」

 

 物陰で震えて、息を殺しながら俺は、立ち竦んでいた。家屋の影から俺とよく似た顔をしたコールドベイン・ツイーンドリルルが完全に燃え尽きるのを見た。騎士団が壊滅したのも見た。親しいものが死んでいく。優しく共に過ごした領民、騎士団の者たち。それに、兄貴……。

 

 俺の名前は、ウィンター・ツイーンドリルル。さっき炭になった騎士団長の弟だ。よく出来た兄貴だった。誰よりも優しく、誰よりも自身に厳しく。そして、騎士団長でツイーンドリルル家の次期当主。俺は、背伸びしても届かないくらいに立派な人で、憧れだった。

 だけど死んだ。死んでしまった。俺は、物陰に隠れて。兄貴の盾になることもできなかった。俺なんかよりずっと必要な人なのに。

 

 「俺は……どうすればいいんだ……?」

 

 足が動かない。震えが止まらない。思わず俺は、両腕で肩を抱いてその場にうずくまりそうになった。心は、ばきばきに砕けている。立たせているのは、なんだろう。

 俺ことウィンター・ツイーンドリルルは、出来損ないだ。ツイーンドリルル家の面汚しと言っても過言でない。……自称だ。他称ではない。家族も友人も、騎士団もよく行く飯屋の店長も顔だけ知ってる婆さんも誰も俺の事を後ろ指ささない。兄と比べて、勝手に出来損ないぶってるのは、俺唯一人さ。勉強、運動、顔に体格。センスに、性格。なんであれ完璧な兄貴に勝てる部分はなかったからな。仕方ないだろう。

 だからこそ俺は、盾になるべきだった。なれなかった。生き残ってしまった。だから、

 

 「どうすればいい……?」

 

 今から走って、あの怪物を追い抜き、人々を逃がす? もしくは、逆走して生きている人を探す? あるいは、立ち向かう? 騎士達を一瞬で、灰にしたあの怪物に? はは、冗談も良いところだ。自嘲気味に、俺の唇がつり上がった。

 人の波に押され、足を絡ませ、頭を打って、今の今まで気絶していた俺が? お笑い草もいいとこだ。

 

 「――なあ、お前。何か笑えることとかあったかよ?」

 

 息が止まった。比喩じゃない。実際に、呼吸を止めていた。それから、静止した体が声の方に、ギシリギシリと動いた。見たくないのに、脇目も振らず逃げ出したいのに、体と首が動き、視線が吸い寄せられてしまう。

 

 「ほら、お前、笑ってるじゃねえか。教えてくれよ」

 

 「なんで、ここに?」

 

 「ギャハハハハ!! おいおい! 親に習わなかったかぁ? 質問に質問を返すんじゃねえってよぉ」

 

 あの怪物が目の前にいた。なんで? どうして? 分からない。理解できない。混乱する俺の前で、怪物は口を開く。殺される。なんて脳裏に過ぎったけれど。

 

 「まあ、いいや。教えてやるよ。俺に与えられた命令は、皆殺しだ。全員殺せだ。一匹残らず。全部な? お前みたいなのもそのうちだよ。殺し介はないが仕方ねえ」

 

 ぺらぺらと怪物は、口を動かすだけだった。上機嫌だ。隙だらけに見える。兄貴ほどではないが、俺も騎士達と共に剣を振るってきた。だから、少しは、見る目があると思ってる。ただ。隙だらけでも問題がないのかもしれない。なんたってこいつは、一瞬で兄貴と騎士団全員を消し炭にしたんだ。だけど、今こそ『どうする』の答えを出すところだ。ここでどうする? 俺は、どうすればいい?

 

 「ほら、教えてくれよ。お前みたいな物陰から見てただけの弱虫がこんなところで笑ってる理由をよお」

 

 バレてたのか……。それに、弱虫か……。間違いではない。確かに間違いではないが。

 

 「それは……――」

 

 お前にだけは、言われたくない……!! 言葉の代わりに、立ち上がると同時に、逆手で鞘から片手剣を引き抜き、斬りかかる!

 

 「いやいやおいおい……」

 

 ――わけがない! 抜いた勢いで投げ捨てて、踵を返し、全力で俺は、逃げ出した。呆れた声が背中を叩く。気にしない。兄貴が一瞬で殺された相手に俺自身勝てるなんて毛頭ない。

 逃げ出したのは、時間稼ぎだ。俺自身を捨て駒にして、父さんに母さん、領民達が逃げる時間を作る。今ある俺の使い道なんてそんなもんだ。

 

 「……萎えたわ」

 

 「……?」

 

 揺れる視界、落ちる視界、ぐらっとずれて、地面に真っ逆さま。何が起こってる? 俺は、何をしている? 逃げなければ。あいつは、課せられた任務に忠実だ。言動よりもずっと忠誠心があるんだ。だから俺一人を逃さないはずがない。中心、皆が避難している方から反対に逃げれば、少しは時間稼ぎになるだろう。

 ――なんだろう。眠い。とても、眠い。寒い。眠い。瞼が落ちてくる。寝ている場合ではないのに。暗い。寒い。眠い……。

 

 「はーくっだらねえなあ」

 

 足音が遠ざかっていく。聞こえなくなる。炎が燃え盛る音がぼんやりと輪郭を無くしていく。眠い。遠い。眠い。寒い。熱いくらいの炎がとても遠い。動けない。感覚がなくて、気怠い。

 

 「遅かった!! ガッテム!! あーもうどっちだよー!」

 

 誰かの声。甲高い、声。女の子……? 逃げろ……逃げてくれ……。ああ、でも眠いな……。もう、いいいかな?

 

 「ここから反応がって、嘘……!? これで生きてるの……? ああああ、駄目駄目! 待って! 待って! 聞いて! 答えて! ストップ―――!! 死なないで―!! 生きて―!!」

 

 その後の記憶はない。ただ俺は、確かに頷いた。俺は、何かを答えたはずだ。多分、悪くない答え。多分、良いこと。そう、信じてる。

 

 「よしよし! 死にたくないよね! 僕が今から――おっきなおっぱいにしてあげるからねっっ!!!!」

 

 ……信じていいよな?

 

 

 

 

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