没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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第二十一話 ウィンター・ツイーンドリルルと勝利の明日へレディゴーですの!

 

 

 

 (どう来るよ。シャシャシャ)

 

 メガロシャークは、内心顔面共に中々愉快な気分だった。見下ろす先には、ウィンターの姿。魔族的にも見目麗しい――魔王を美しいと感じる感性があるから当然――容姿がキッとよく研いだ刃物、メガロシャーク的には、自身のの背びれのような視線を送ってきている。情熱的だとも思っていた。

 もっとも背びれに例えられたことをウィンターが知ればマジギレ間違いないが口に出さないことは、伝わらない。

 

 リベンジなんだとも言っているがメガロシャークもサラマンドロスの同類だ。バトルジャンキー。血に飢えた怪物。

 ただ違うとすれば、過程、理由。そういうところだ。

 サラマンドロスは、性的快感と闘争がイコールになってる。血肉を裂き、焼き、鼓膜を震わす悲鳴と鼻孔を突く血の香りに震え、息の根を止める。

 メガロシャークにとって闘争は、手段だ。リベンジ、何も出来なかったいつかの弱さを帳消しするためのリベンジ。リベンジという言い訳。笑みという柔らかな殻の中に隠した臆病さ(きょうき)

 自覚が有無は兎も角、ブラックがメガロシャーク・P(サイコパス)・グッドフィーリングと名付けただけはある。

 

 ――改造コードに適応した四天王達は、ブラックから名を作られ、魔王により与えられている。

 

 彼らは、元々自然そのものか精霊に近しい存在だ。だから元々、名を持っていない。彼らは、個を定義しないからだ。

 風は風で、炎は炎。木は、自然と集い森となる。精霊であったメガロシャークもまた名を持たない。

 故に、一つの個体として成立し、なおかつ改造コードを受け入れた証として、名をつけられた。

 

 「来るかよっ……!」

 

 呟いたメガロシャークは、構えた。ウィンターに動きがあるのを感じ取ったのだ。起こりを見た。始まりの直感を得たメガロシャークは、口を開き――眼の前に現れたウィンターの顔に、目を見開いた。

 

 「ええ! 来ましたわよ!!」

 

 ウィンターの言葉とツインロール――いや、違う。違わなくはない。ただ多い。違和感どころではないくらいに多い。何がといえばそう――。

 

 「なんだよ、それ!!」

 

 「見ての通り――フルロールドレス(・・・・・・・・)でしてよ!!」

 

 風に揺れる黄金を身に纏うウインターの笑顔は、実に眩しかった。

 

 「なんだよ、そ――」

 

 困惑したメガロシャークは、同じことを口にしようとして、思い切りぶん殴られた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 ――ツインロールを鎧にできないかな。とかなんとか真剣に何を言いだしたかと思いましたが!

 

 「やろうと思えばやれるもんですね!」

 

 ふわっふわと優美に空を泳ぐのは、幾層とレイヤードされたスカート。いつもより強めにきゅっとウェストを締めるコルセット。普段より思い切り肩や胸が出てるのは恥ずかしいですけれど。

 

 「殴りやすくて、“あり”!」

 

 あっ、このロンググローブ。手甲になるんですのね。へえ、いいですわね。回転もつけ心地もいい感じでご機嫌ですわ! 

 

 『いやいや、違う! ドレスになってる!!』

 

 「乙女が纏う鎧といえばドレス以外、ありえませんわっ!!」

 

 『あっ、そっか……。君がそれでいいならまあ、文句はないかな……うん』

 

 なんか含みのある言葉ですけれど! この際、気にしませんわ! ワンツー! ワンツー! メガロシャークの頬と鼻っ柱に、ワンツー! そして、おまけに!

 

 「チェイッ、サー!」

 

 回し蹴りィ!! いい感触。振り抜いた右足を伝わる衝撃と耳を打つ鈍く確かな音。これは、入りましたわね。間違いありませんわよ。

 

 「シャシャッ、いい蹴りじゃね――「息が生臭いですわよ。おだまりになって」――ッ?!!?」

 

 斜め後ろに反った首を鳴らしながら元の位置に戻そうとするメガロシャークに、ぐんと伸ばした足を振って、ハイキックをお見舞い。さっきより更に反ったメガロシャークは、ぷるぷると震えています。その口元からつっと垂れた赤。

 

 「あらあら、痛そうですわね」

 

 「シャシャシャ……痛いぜ? とってもよォ……」

 

 ごきりごきりと首を鳴らして、正面を向いたメガロシャークの顔面には、血の跡はあれど傷は見当たりませんでした。ぺっと吐き出したのは、牙の破片。にっと牙を剥けばこれもぐんぐんと再生。早いですわね。やるじゃないですか。

 

 「なあ、お前よ。こりゃ俺だけのリベンジじゃないのよ。だから俺ばっかり構ってると」

 

 海面を突き抜け、水の玉を引き裂き、巨大ゴーレムの中から吐き出されたのは、サメ。世界を敵に回したような無数も無数のサメ、サメ、サメ! 大群なんて生温いと思わせるほどの軍勢がわたくしを四方八方上下左右前後から睨みつけてきていました。

 

 「足元、手元もなんもかんも無くなっちまうぞ?」

 

 ……ここまでして、このざまはちょっとどころじゃないくらいかっこ悪いですわね。

 

 「はん、群れなくては、わたくしに立ち向かえもしませんか? 一人になろうと手足をもがれようとわたくしは、立ち向かいます。貴方のはた迷惑なリベンジを成し遂げさせるわけにはいきませんからねっ!」

 

 「死ねェ!!」

 

 メガロシャークの合図と共にサメたちが一斉に、わたくしへと襲いかかってきました。勿論、ただ受け入れるだけではありません。返り討ちにしてやる気概で、ツインロールを構えました。この圧倒的物量相手に、どこまでやれるか分かりませんが只々食われるだけなのは、わたくしのプライドが許しません。

 徹底抗戦――浮かぶ言葉を実行せんと空を駆ける、「ウィンター!!」――寸前のことでした。

 

 「――ホワイト!?」

 

 わたくしの首に手を回したホワイトの姿を視認した直後、爆音。わたくしの四方八方で、それは炸裂していました。赤と青、緑と茶。四属性の輝きを目にしました。

 

 「複合式の爆裂魔法……! これは……」

 

 「君は、一人なんかじゃないってこと! ほら!」

 

 ホワイトの指差す方、サメたちがばらばらになって落ちていく血霧のカーテンの隙間から見えるそこにあるものを見て、わたくしは、目を見張りました。

 

 「あれは……!」

 

 『ウィンター様ーー!!』

 

 聞き慣れた声――オフェーリアですわ。まだ距離はあります。けれどわたくしの目には、しっかりと映っていました。僅かに残った海を掻き分け、海原をゆく巨大な蒸気船の姿。無数の鋼と木で組み上げられ、膨大な熱量が動かす船。なるほど。あの時言っていた秘密兵器とは、あれのことですね! 魔法を用いた蒸気船、確か魔導蒸気船という名前だったはず。開発途中だと小耳に挟んでいましたが完成していたとは……!!

 ブンブンと手を振り、声を上げているオフェーリアがその船首に見えました。普通なら届きませんけどお嬢様イヤーは、地獄耳ですので。

 

 〈お待たせしました! 貴方のオフェーリアです! オフェーリアですよー!〉

 

 〈いけません、姫様! 前に出すぎです! 危険ですので後方に!〉

 

 〈何を言います! 一番強い私が駄目なら皆耐えられませんよ! ならむしろ私が前に出たほうがいいのでは? どう思います?〉

 〈偉い人なので後ろに居たほうがいいと思いまーす〉

 

 〈偉い人権限です。前に出ます!!!〉

 

 〈困った。あーしらは、権力と暴力に勝てない。これ、国勤めの辛いところね〉

 

 〈ジュピー! あっさり敗北宣言しないで!! 姫様~~!〉

 

 オフェーリアの両脇にいるのは、メアリとジュピーですわね。あの子達も来ているのですね。

 

 「ま、そんな感じ」

 

 「なるほどですわね」

 

 と納得したように頷いてからわたくしは、メガロシャークへと視線を戻しました。フルロールドレスを大きく払い、びしりと指差すと不敵に笑って差し上げました。

 

 「というわけですわ!! 貴方の相手は、わたくし()ですわよ!」

 

 「シャシャッ、まあ、構わねえよ! 水で流して殺すんじゃ物足りないと思ってたからなあ!!!! この手で、縊り殺すほうが楽しいよなぁ!?」

 

 「はんっ! その魚眼をかっぽじってよく見るがいいですわ!」

 

 突きつけた手を振り上げ、風になびく髪を払った後、胸下で腕を組んだわたくしは、口の両端を持ち上げました。

 

 「勇者ウィンター・ツイーンドリルルに、わたくし達、人類に敗北するご自身の姿を!!」

 

 そう、わたくしが言い終わるか終わらないかの内、言葉無く、唸りを上げたサメたちが次々と現れ、突進してきました。蒸気船から放たれる砲撃と魔法がサメ達を吹き飛ばし、粉砕していきます。視界が血と硝煙に覆い隠されていく。それらをどうにか掻い潜ってきたサメには、ロールミサイルをお見舞い。

 

 「ウィンター!」

 

 声で応えず、行動で――わたくしは指を、それを覆うフルロールドレスを、メガロシャークの妨害を受ける前に水の玉へ突き立てていました。

 

 「ここからどうすれば!?」

 

 時間はない。真下から強烈な圧力が、あのゴーレムの腕が再び迫ってきている。

 

 「回して引き千切る! 細かい制御だとかは、僕がやる。君は、いつもの通り行ってみよー!」

 

 「かしこまりまして、よ!」

 

 回りだしたフルロールドレスの手甲は、その姿をロールに変えました。両手を突っ込んだので、ツインロールですわね。ぎゅんぎゅんと水の玉の中で回って、中に残っていたサメたちを叩き出します。そして、出来上がるのは、日差しを捻じ曲げ乱射し、青く輝く渦一つ……そうですわね。

 

 「ポニーロール:タイプ・マリンブルー。ツインロール、ですわ!」

 

 『……長くない?』

 

 『いいんですの! かっこいいですから!』

 

 なにより見るだけで分かるこの決定力! 海をまとめて生み出されたポニーロールからは、ひしひしと勝利の予感を感じさせました。

 

 「ハァッ!」

 

 天から地、迫るゴーレムの腕に向け、わたくしは、そのまま落ちていきます。重力とこのポニーロールの推進力を使った突進。

 

 「っ!!」

 

 メガロシャークが目を見張ったのを見ました。当然でしょう。自信満々と放ったゴーレムの腕が一瞬で粉砕されたのですから。わたくしとしては、とても良い気分ですわね。なにせ散々殴ってくれましたから意趣返しとしては、十分でしょう。そして、ポニーロールの先端は、ゴーレム本体へ。

 

 「海の藻屑と、なりなさい!」

 

 ポニーロール:タイプ・マリンブルーの先端がゴーレムの頭に触れ――粉砕。

 

 「うおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」

 

 メガロシャークがポニーロール:タイプ・マリンブルーをどうにか押し返そうとしているのが見えました。無駄ですわ。制御を奪い返そうとしている感触もあります。けれどそれも無駄。

 この回転は、わたくし達のものです。

 

 「貴方の蔑ろにした海を受けて、圧潰しなさい」

 

 呟き、わたくしは、両手に力を込めました――それから、ポニーロール:タイプ・マリンブルーが海底を打ち抜くのに、さして時間はかかりませんでしたわ。

 

 「何か、言い残すことは」

 

 水平線の彼方へ日が落ちゆく中、わたくしの目の前には、両手足を失ったメガロシャークが浮いていました。夕日に照らされた彼の瞳は、曇り無く、澱みなく。絶望の様子は微塵とありません。

 

 「いつか必ずぶち殺してやる」

 

 「それでは、お元気で」

 

 嗤い、立てられた指を見たわたくしは、伸ばした掌を一閃。ぱっと飛び散り、水面を汚すものもすぐにさざなみに消えていきました。水の四天王、メガロシャーク・P・グッドフィーリングを殺した。これで四天王は、打ち止め。

 

 「……お疲れ、ウィンター」

 

 ホワイトの労いに、わたくしは、笑みを浮かべ。

 

 「では、オーラスと行こう」

 

 聞こえた声に、凍りつきました。いつの間にか。そういつの間にかです。わたくしの目の前に(・・・・)、女性が一人。つい半日ほど前、随分とお世話になった人です。その彼女が水面に立っていました。何故、ここに? どうやってここに? わたくしの頭をハテナマークが埋め尽くし、言葉も出ませんでしたの。

 

 「ウィンター……君、彼女と知り合いかい……?」

 

 「え、ええ……。とてもとてもお世話になりました」

 

 ホワイトの声が震えている――すっと横目に見た彼女の横顔は、青を通り越して、白。何? 彼女を知っているのですか?

 

 「ああ、そうだ。ちゃんと名乗っていなかったね」

 

 思い出したかのように、彼女――エレオノーラ・チェイン・ピースメイカーは、穏やかに微笑みました。

 

 「ウィンター、逃げ――「いいや、駄目だ」ぁ――!?」

 

 「え?」

 

 金属が擦れるような唸り声を聞いた気がしました。次の瞬間、何かがホワイトを通過して、ホワイトがバラバラに? 次に世界がズレて、いえ、バラバラになっているのは、わたくし……?!

 縦、横、斜め。手足の感覚が吹き飛んで、聴覚が飛び飛びに。何か熱いものが抜け、エレオノーラの微笑みが映る視界を黒墨が塗りつぶしていく――冷たい。全身が冷たくてたまらない。寒い。

 

 「私は、現魔王(・・・)エレオノーラ・チェイン・ピースメイカー。決着をつけにきた」

  

 

 

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