没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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第四章 VS魔王エレオノーラ・チェイン・ピースメイカー
第二十二話 ウィンター・ツイーンドリルルとラストバトルですわ!!


 

 

 

 「また、落ちていますわね」

 

 呟いた口元から出た水泡を見て、海に沈みゆくのをわたくしは、理解する。水色と藍色のグラデーションが綺麗。沈みゆく体は、徐々に藍に染まっていく。抵抗は出来ません。

 二回目――いや、三回目。夢でも落ちたはずです。細かい事は忘れてしまったけれど、確かそう。

 だけどおかしい。バラバラにされたはずだ。沈むんでいるのを自覚しているのは、おかしい。

 人が死ぬと沈むのかも知れません。実際、息苦しくもなく、水を呑んでも喉を落ちて、腹に溜まる感覚もありません。死後の世界は、海の形なのかもしれませんね。

 

 「死んだのでしょうか……?」

 

 今度こそ完全無欠に死んでしまった――そう考えるとどこか納得も行くように思えた。

 

 「いいや、ウィンター。君は、まだ死んでない」

 

 「ホワイト……どこにいらっしゃるの」

 

 「ここさ。僕は、今、君を包んでいる。君のすぐ隣であって、とても遠く。触れているけど触れていない」

 

 「小難しい話は無しにしましょう。どうなっています?」

 

 「ばらばらになった君と僕が海に沈んでるとこ。後、数秒で絶命かな」

 

 「死にかけなのは変わりませんね。んで、こういうことをしてるってことはまだ起死回生の策とかあるんでしょう?」

 

 「そうだね。一応ある。最終手段で、僕としては使いたくない」

 

 「じゃあ、それです。それでいきましょう」

 

 「理由を言うくらいの時間はあるよ。端的に言えば君を元に戻せなくなる。男の子と永遠にさようならってこと」

 

 「もう今さらですわよ」

 

 「い、いや、それだけじゃないから! この世界に、君がいれなくなる可能性もあるの!!」

 

 「それは、どういうことですの?」

 

 「君と僕を繋いで一つにするからだよ。僕は、ブラックを追いかけるようにできている。僕と君が合体して、ブラックを逃せば必然、僕らも追うことになる。ブラックは、多分ここには戻らない」

 

 「……構いません」

 

 「ウィンター……」

 

 「貴方との旅もそう悪くないでしょうしね」

 

 いたずらっぽくくすりと笑い。

 

 「それに、わたくしは、二度と大切なものを失いたくありません。ここが正念場ならなおさら立ち竦んでいる場合でもないでしょう?」

 

 「君を世界が失うよ?」

 

 「……それは、その、オフェーリアや皆さんには、我慢してもらいましょう。それにここで終わらせれば旅に出る必要はないのでしょう?」

 

 「いやまあ、そうだどさー……」

 

 「だったらそうすればいいんですっ!」

 

 「――ま、確かに、君の言う通りかも」

 

 「決まりましたね! ほら! ハリーハリー! ハリーアップ! こんなとこでグズグズしてずにいきますよ!!」

 

 「って、いつのまに動けるように!? いや、そのままじゃ出れないって! 待ってー!!」

 

 話が決まれば早いです!! わたくしは、藍を掻き分け、蹴りつけ。上に、水色に向かって進み始めました。なんとなくこうすればいい。頭とか体より直感的な動作でした。ぐんぐん光が迫ってきます。

 

 「置いていくなんて酷いよ!」

 

 「あら、追いつけたならいいじゃないですか」

 

 わたくしとホワイトは、隣り合うと軽口を交わし合ってから目の前まで来ている海面に、手を伸ばしました。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「ピースメイク。随分とあっさりな手応えだった」

 

 片手のピースサインをぱちぱち鳴らしたエレオノーラの瞳には、色濃い失望見えた。それなりの期待をしていたらしい。魔王としての挨拶のつもりだったようだ。

 その挨拶で、この一帯の海は、海底の岩盤ごと大きく引き裂かれている。海水は、裂け目に流れ落ち巨大な滝となっていた。それがいくつもある。折角元通りになったというのにこのざまだ。

 

 「ホワイトもやったのかい」

 

 音も無く現れ浮かぶブラックに、エレオノーラは、何の気負いもなく言う。

 

 「ああ、神殺し(・・・)は、そのうちやる予定だった。異世界のものとはいえど神は、神なのだろう?」

 

 「まあ一応ね。愚妹さ。黒白混然一体の灰色の神だった私達は、ある日、突然分かたれた。それが私達兄妹ってところさ」

 

 「ふむ、なるほど。まあいい」

 

 あー我が魔王興味なさそーとブラックは、内心思った。自身としてもどうでもいい話だから興味もたれても困っただろうから丁度良かったといえば丁度良かった。

 

 「四天王も皆散った。そして、勇者は期待外れ。こうなるともうやることは一つ――……おや」

 

 「我が魔王」

 

 「分かっている」

 

 エレオノーラは、壮絶に嗤う。なんだ根性あるじゃないか。と内心呟いた。

 正直なところ、ウィンターが生来持ち合わせていたのは、根性しか無い。勇者としての心だけは、彼生来のものだった。力無くとも彼は誰よりも騎士らしくなにより勇者らしかった。それは、勇者としての力を手に入れても変わらない。

 故に、これは必然だ。

 

 ――直後。

 

 海が吹き飛んだ。距離をとった魔導蒸気船の上で、ウィンターを探していたオフェーリアは、少なくともそう思えた。揺れる船上、誰もが足をもつらせ、誰かは、海に落ちそうになり何かに掴まる。オフェーリアは、傾ぐ体をどうにかこうにか支えている。

 そして、見た。

 

 「――ウィンター様……?」

 

 語尾につく疑問符、彼女の表情が物語るように、確信ができていなかった。

 

 「勇者、様……?」

 

 メアリとジュピーもまた同じだった。

 

 「ホワイト……。そうか。君は、そうすることを選んだのか」

 

 見上げるブラックは、夕日を受けて煌めく水飛沫の中、まばゆい程の光景に目を細め、呟いた。

 

 「どうだい、我が魔王。私達もやっておくかい?」

 

 「気色悪い」

 

 「はは、知っている。じゃあ、頑張ってくれ。君の世界の命運は、君以外に打開できないんだろう?」

 

 「言われなくとも」

 

 エレオノーラは、決して笑みを崩さない。嗤い、夕焼け空に浮かぶ、黄金と白を真っ直ぐ見上げる。彼女を中心にして、唸り声が上がる。熱量が上下して、氷結と蒸発が巻き起こる。

 上空に浮かぶのは、勇者ウィンター・ツイーンドリリル。黄金と白――ウエディングドレスだ。足を覆う長い裾に、フルロールドレスから引き継がれて、大きく出た肩に胸、肘まで覆うロンググローブ。無論、ツインロール製。

 ツインロールが巨大化している。一つでポニーロールと同じ大きさはある。つまり元から先まででウィンターの身の丈ほどはあった。太さもまた彼女の細いウエスト二つは、収まりそうだ。その黄金螺旋を走り抜ける濃い白。ついさっきまで無かった色合いだ。ツインロールを沿うように駆け巡っている。ドレスにもまた同じく。それに、双眸の色が違う。片や紫、片や緑(オッドアイ)。きりりとした強い瞳がエレオノーラを見下ろしていた。

 

 「来い、勇者。ピースメイクだ。戦火なき世界の礎にしてやろう」

 

 そう言い、彼女は、右手を前に、左手を胸の下にして構えた。すると片手を指を伸ばした手刀、いや、両腕自体に変化が生じた。

 横に裂けた。直後、中から何かが飛び出たチェインソーだ。この世界に無いはずのものが飛び出した。長い。彼女の腕一本分はある。

 魔王に施された改造コードは、こういう形になった。司った元素を強める、世界に在るものを強くするという形にした四天王とは、真逆だ。

 土の四天王が居た森が穏やかに彼女を迎え入れたのは、単に彼女がどうしようもなく天敵だったからだ。抗うことすら止めてしまうほどどうしようもなく。

 

 世界にない概念をもたらすのは、いつだって世界にある存在だ。

 

 しかし、チェインソーの存在が生まれるには、まだ早すぎる。世界の歩みに即していない。つまりこれをもたらしたのは、世界より早いものだ。

 そう、ブラック。この世界を加速させる異物にして、世界の歩みより早いもの。ブラックの見せたいくつかの動画データがこの結果を作った。死体にサメ。さらに悪魔、ついには神を。あらゆるものを斬り刻んだ無双の刃をチェンソーだとエレオノーラは、認識してしまった。

 強烈な自認と魔王としての膨大な魔力。これらに後押しを受けたチェインソーは、ものの見事に成った。

 

 そして、今、チェインソーとツインロールが激突する。

 己の世界を焼かれた者らが二度と焼かれぬ世界を作るため、意地と力をぶつけた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 突進(ランスチャージ)――わたくしが初手に選んだのは、それ。最速で、最高火力になりますから当然ですわね。空を蹴り、背後に向けたツインロールの片方の推進力のままにエレオノーラ様へ……いいえ、魔王へとツインロールの片方の切っ先をたたっきつけますわ。やはりこれに限りますわね。

 

 「逃げずに、立ち向かって下さるのですね!!」

 

 「無論。私の覇道に後はない」

 

 回転と回転が擦過して、強烈な火花がわたくし達の合間に、花を咲かせました。魔王の腕を割いて現れた駆動する刃。盾のように構えられ、ツインロールと鍔迫り合いしてますからいいですけれど、食らったら痛そうですわね……。

 

 『あれ、まともに受けたら負けだから気をつけて』

 

 『やっぱりです? 嫌な感じしてますものね。……ああ、あれにさっきバラバラにされたのですね』

 

 『そう、君と僕をバラバラにできる刃だ。神すら切り裂く刃であることは間違いないさ。それは、“僕ら”になっても変わらない。掠るのはまあ、僕がどうにかする。直撃だけは避けてよ』

 

 「ええ、任されましたわっ!」

 

 声と勢いで、魔王を弾き飛ばそうとしましたぐぐっと押し返されました。ぬぬっ……腕力無駄にありますわね。ていうか押し負けそうですわよ。

 

 「そうそう。わたくし一つ聞きたいことがあるのです」

 

 ここは、言葉で惑わしていきましょう。その程度で油断する相手ではないと思いますし、ほんとに聞きたいだけですけれど。

 

 「どうして、わたくしを助けてくれたんです? 起きる前に殺してしまえば終わりではありませんか」

 

 「私は、メガロシャークの勝利を信じていた」

 

 わたくしは、ほんの刹那、ここが戦場であることを忘れていました。朝日に瞳を煌めかせ、微笑を浮かべる魔王は、それほどに美しかったのです。見とれてしまいました。

 

 「サラマンドロスもシルフィーリベアも、その身を捨て、巨大なゴーレムへと体を変えたアンデリッチも。私は、皆を信じ、戦場へと送った。そこで私がお前の首を横取りにすれば、彼らの覚悟を彼らの想いを踏み躙ることになる」

 

 「だから、助けた?」

 

 「そうなるな」

 

 「なるほ、どっ!」

 

 押し込み返ってきた力を利用して、わたくしは、魔王から距離を取りました。距離はリセット。再び、海上と上空で睨み合うことになります。

 

 「貴女達の互い互いへの信頼、尊重。尊敬に値しますわね」

 

 「しかし」呟きと同時に、加速。ツインロール――それぞれがかつてのポニーロール一本分になったのもあって、出力がかなり増しています。故に、最高速の到達は、一瞬。接敵もまた一瞬ですわよ。

 

 「これは、これ! わたくしを始末しなかったこと後悔させて差し上げます!」

 

 「やってみるがいいさ」

 

 ちょっと負けフラグじゃない……? ホワイトが何やら微妙な顔で呟いていますがいいえ、気にしません。わたくしは、気にしません! ドレスの袖口をロールして、両手をロールします。つまりツインロール。これでラッシュを――!?

 

 『動かないって、これ!!』

 

 「凍っている!?」

 

 両手にあるツインロールが凍りついてしまっていました。回転しようとしていますがガチガチに固まっていて、まともに動きません。あ、ギシギシいってますから回ろうとはしてますね。ていうか手の周りが冷たぁいですわ!! あ、やべ。

 

 「ッ――! 危ない!? 手首叩きられるとこでしたわ!」

 

 「チェイン・トゥ・フロストエッジ」

 

 詰めた距離をまたして離したわたくしの前で、魔王が何事か口にしました。すると吐く息も白く染まり――海が凍りついていっていました。いえ、既に凍っていました。ほんの一瞬で、海が底までカチカチに凍りついています。

 見下ろせば永久凍土かとばかりに分厚い氷の平原があり、少し先では、重力よりも強固な氷結の檻に、滝が閉じ込められていますわ。オフェーリア達の乗っている蒸気船も分厚い氷と霜の中。

 これはちょっと想定外。いえ、だいぶ想定外。

 

 「チェインソーって凄いのですわね……!」

 

 「ああ、そうとも。チェインソーは、凄い」

 

 驚愕し、眼を見張るわたくしの感想に、魔王は、微かに唇を緩めると首肯されました。あら意外に素直な方。

 

 『いや、チェンソーの機能じゃないでしょこれ。僕知らないよこんなの……』

 

 そりゃ、そうでしょうね。わたくしの知ってるツインロールも回りもしませんし、ましてや空も飛べませんわよ。

 

 『どういう原理か想像つきまして? 魔法じゃないと思いますわよ。一応、これでも魔法齧ってますから分かります』

 

 『……回転かな。手から生えてるチェンソー、さっきと回転が逆だと思う。反転してる。普通のチェンソーは、そういうことしても意味ないだろうけど、多分あれには意味があるんだと思う。反転したら凍りつく。物質の状態を操ってるのか熱量の推移を……うーん、まだ判別つかないや』

 

 『分かったらお願いします。とりあえず良い感じにやりやってみますわ!』

 

 『報告連絡相談!』

 

 『そういう感じで!』

 

 ツインロールの回転を最大にします。髪を解き、ドレスに戻して、氷結を振り払います。うーん寒いですわ。気温もかなり低いですわね。空気が重たいのも水分が凍りついてるせいでしょうか。

 

 「っ!!」

 

 突如、氷原から襲いかかってきたのは、巨大な氷の杭。太く長く、切っ先鋭く。それが何本もわたくしの下方から襲ってきました。なんという圧! 空中機動するわたくしの視界に、一瞬映った魔王が上げた右手、その指が細かに動いていました。

 

 「凍らせるだけじゃない! 氷を操れるのですね!!」

 

 魔王の周囲につららが現れました。ええ、何をするか分かって――まだ言い終わってませんわよ! ぎゅんっと加速したつららの先端は、あっと言う間に直ぐ側に。ツインロールを振りかざし、叩き落とし、反らした顔すれすれを飛んでいってたのは、Uターン。追尾機能付き! 面倒ですわ!

 

 「しかし、この程度!」きゅんとコマの様に全身を回して「面倒なだけですわよ!!」粉砕っ!

 

 「まあ、そうだろう」

 

 ぼっそと言ったのちゃんと聞いてますわよ。お嬢様イヤーは、地獄耳ですからね。

 

 「――チェイン・トゥ・フレイムエッジ」

 

 ぼんっ! って音がしたと思ったら真っ白な水蒸気が視界を塗りつぶしていました。あっつい! たまらずツインロールを回して、あっつあつの水蒸気を吹き飛ばしてました。反射でしたわね。

 

 『さっきと今の言葉での予想なんだけど! 多分、今、魔王のチェインソーは、正転してると思う』

 

 『蒸しますわね……。それで?』

 

 『逆転で、氷結。そして、正転で、氷が一斉に蒸発してるとする。しかも熱い。熱がこもっているんだ。すると水の形態を操ってるんじゃない。ただの水蒸気は、熱くないからね。多分、彼女は、チェンソーの回転で熱を操作して……やばい』

 

 『え?』

 

 『ウィンター、早く離れて! できるだけ上に飛んで! 全速力! 全・速・力!!』

 

 一回で良いですわよ! なんて内心文句を吐きながらわたくしは、ぶんとツインロールを回し、急上昇。水蒸気に穴を開けていくと透き通ったスカイブルーが視界に広がる、寸前です。

 わたくしの視界の隅を焼いた光、次に背中を叩いた音。遅れてやってきたのが衝撃。ツインロールの制御が、取られてしまう……!! 荒ぶる視界に、わたくしは、眉を顰めながらも制御を取り戻そうとしました。

 

 「嘘っ――!?」

 

 目の前に、チェインソーの刃が無ければきっとわたくしは、空を飛ぶことが出来たでしょう。

 

 

 

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