没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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第二十三話 ウィンター・ツイーンドリルルとデッドエンドですわよ!?

 

 

 

 「殺ったかい?」

 

 宙に浮いて、傍に控えているブラックへ、魔王は首を振った。

 

 「仕留めそこねた」

 

 空高くを貫いていたチェンソーがガシャンと音をたて、元の長さに戻った。その刃先をブラックに見せると「なるほど」と納得したように頷く。少なくない鮮血と肉片が貼り付き、金色の毛髪がチェンソーには、絡まっていた。

 

 「しかし、そんなに手間取りそうにはないな。我が魔王」

 

 「私は、四天王の実力を過小評価していない。やつらを破った勇者を私は、過小評価しない」

 

 「つまり、どうするんだい?」

 

 「全力で殺す」

 

 二回目のなるほどを口にして、ブラックは、流石だと笑った。いやその寸前、衝撃波を被って、どこかに吹き飛ばされていった。魔王は、平然としている。うねる風に巻かれる髪を押さえもせず、叩きつけられる暴風に赤い瞳は、瞬き一つとしない。ただ真っ直ぐ、震源地を見ていた。

 

 「やってくれましたわね……!」

 

 「遅いぞ。待ちくたびれた」

 

 空からウィンターが降ってきていた。降ってきた、だ。着地というには、荒々しかった。氷原に大きなクレーターを作り、膝をついたウィンターは、顔面を赤く濡らしていた。ぽたりぽたりと頬から顎を伝って、落ちる鮮血は、雪を赤く溶かす。その源泉である頭部に痛々しく走っている傷の再生は、遅い。ウィンター達をやすやすとバラバラにしたチェインソーの凶悪さは、依然健在のようだ。

 だがウィンターの戦意は、全く絶えていない。瞳は、キッと魔王を睨んでいた。

 

 「嫁入り前の、いいえ! 乙女の顔に、傷など! それにわたくしでなければ千回以上しんでましたわっ!!」

 

 ノーモーションでウィンターは、加速した。大きく舞い上がった氷の粒子が朝日に照らされ、きらきら輝いた。

 

 「許せません!!」

 

 「良いじゃないか、傷物(スカーフェイス)。私が貰ってあげよう」

 

 「かーー!! 減らず口!!」

 

 そもそもだが近接での手数には、ウィンターに分がある。ツインロールと両手両足。魔王は、チェインソーで両手が埋まり、後は足だけだ。取り回しがいいと言えないチェインソーの内側でのインファイトとなれば必然――。

 

 「ちぇりゃあ!!」

 

 天秤を傾かせるのは、ウィンターだ。両拳のラッシュが魔王へ放たれた。ジャブ、ストレート。フックにアッパー。ボクシングにおけるコンビネーションだ。軽やかに迫る打拳に、魔王は、両腕をクロスしてガードを選んだ。肉を叩いたものをはいえない音と感触に、ウィンターは、次手を取った。

 彼女の姿が魔王の視界から消え、代わりに現れたのは回転する黄金――右のツインロールだった。上に視線を運べば、それを支えにしたウィンターがいた。ガードを乗り越える踵落とし(ヒールストライク)

 

 「チッ……」

 

 舌を打った魔王がバックステップと共に氷壁を生やす。ガードと仕切り直しだ。だがウィンターは、氷壁を蹴り砕き、魔王の眼前に現れた。

 振り下ろしたままの無防備なウィンターへ唸りを上げるチェインソーが向かう。魔王もまた前に出て、迎え撃ったのだ。

 反射的に、ツインロールを盾のようにかざそうとするウィンターへ、彼女自身が砕いた氷が絡みつく。初動の遅れたウィンターに、魔王は、唇を歪めた。

 チェインソーは、吸い込まれるようにウィンターの鳩尾に食い込み――止まった。

 

 「……!?」

 

 ドレス? 骨? 肉? いや、どれも簡単に引き裂けるはずだ。魔王は、引くことも押すことも出来ず歪な音を上げるチェインソーに眉を顰めた。すると笑い声が聞こえた。魔王が視線を持ち上げるとウィンターが青い顔に笑みを浮かべ、

 

 「ふ、ふふ……回転を止めてしまえばこっちのものですわ……。このドレス、ツインロールですしてよ」

 

 青い顔のままウィンターは、キメ顔をした。

 

 「……まあ、よく分からないが髪を絡めて、回転を止めているというわけか」

 

 「もう一本ありますが、それだけでわたくしを倒せまして?」

 

 ツインロールが左右から魔王を睨む。片手を抑えられている以上、元々少ない魔王の手札がさらに切り詰められてしまうこととなった。少なくともウィンターは、好機だと思っている。そう、ウィンターは。

 

 「私がチェインソーにより熱を操作しているのを見破り、導いた回答としては、悪くない」

 

 「だが、」

 

 魔王のもう片手のチェインソーが唸る。正転。愚直に回転速度が上がっていく。ものの一秒とフルスロットルまでかからなかった。

 「一度たりとも両方必要だとは言っていないぞ」

 

 魔王は、一瞬たりとも追い詰められたと思っていない――直後、ウィンターが一気に燃え上がった。

 

 「――――ッ!!」

 

 布を裂くような……というには、生温い絶叫が空を割らんばかりに響いた。だがその声も徐々に小さくなっていく。熱された空気が気道から侵入し、喉と肺を焼き尽くすからだ。

 黄金色を見る陰もないほどに溶かし、皮と肉を、臓腑を焼き焦がした挙げ句、血潮を蒸発させる。そんな想像を絶する痛みがウィンターを支配しているだろう。

 白い炎が彼女という存在を舐め溶かす。

 ――しかし、ウィンターは、倒れない。

 

 「素晴らしい」

 

 魔王は、称賛を思わず口にしていた。炭化し、ポロポロと今も崩れていく足で立つウィンターの瞳は、死んでいない。一歩、一歩。また一歩と体が崩れ落ちるのも、激痛にも構わず魔王への短くも遠い距離を詰めていく。

 

 「どうする? 次は、何を見せてくれる? 見ているだけじゃないだろう? その歩みは、無策と苦し紛れではないのだろう?」

 

 チェインソーが右と左で、別の回転を始める。右が正転、左が逆転。魔王の周囲で、空気が煮え立ち、白く砕ける。次で終わらせる。そういう殺意がチェインソーを回していた。

 

 「――――」

 

 掠れた音が魔王の耳朶を叩いた。来る。確信と共に、薙ぎ払ったチェインソーが鞭の様にぐにゃりとしなった。極限の熱、それは極低温と極高温が同時に出現したことによる空間の乱れがチェインソーをそう見せた。

 その一閃に、まず海が耐えられなかった。氷原が消滅した。そのエネルギーはそれだけで済まさない。大陸全土に波及し、砕き、壊し、終わらせる。残るのは、大穴。星の重力が全てを底へ叩き落とすだろう。

 

 

 

 

 ……いや、そうなるはずだった。

 

 

 

 

 「なに、を……!?」

 

 両腕を左右にクロスし、チェインソーを振るう寸前の体勢で、魔王は小さく呻いた。チェインソーに宿った熱とその回転が精彩を欠いたことからか揺らぎ、回転数を下げていく。

 彼女の胸に、一本、実に小さく細い何かが刺さって、反対側からその先端を外に出していた。髪だ。螺旋を成す黄金の髪が魔王を貫いている。

 

 「ぁー……あ"あ"ーー……あーあー……ふう、やっと喋れますわぁ~~。本当に全く、やってくれましたわね」

 

 ウィンターが色を取り戻していく。言葉を作り出した唇が鮮やかな桜色に、燃え尽きたツインロールが元の黄金を。数秒としないうちに、ウィンターは、健全な肉体を取り戻した。その珠肌には、火傷も傷も痣も見当たらない。

 

 『ウィンター! 服! 服! なんか着て!!』

 

 『へ? え? あ”っ、ああああああああああああ~~!!」

 

 全裸だった。大きな胸に、つるつるのお腹と太もも、あまり人に見せしないところまで全部。気づいたウィンターの顔が真っ赤になって、一瞬で、フルロールドレスが巻き付いた。

 

 「ししし、し、失礼! お、お見苦しいものをお見せしましたわね!! 忘れていただいて、結構ですわよ!!」

 

 「何を今更。貴様の体は、隅々まで把握している」

 

 「!? って、ああ……助けていただい――隅々まで把握する必要ありますの?」

 

 「良い女がそこにいたからしょうがないだろう?」

 

 「こ、ここここ、この人……!! い、言っておきますけどわたくし、こう見えて男ですのよ!! それを、そんな……!! 変態!! ド変態! ドスケベ!!」

 

 平然とした魔王に、ウィンターは、叫んだ。

 

 『ウィンター……もう無理だよそれ』

 

 「いや無理があるだろ」

 

 丁度、ぷかぷかゆらゆら空から降りてきたブラックとウィンターにだけ聞こえたホワイトの意見が偶然一致した。ウィンターは、聞かなかったことにした。お嬢様イヤーは、都合のいいことしか聞こえない。

 

 「なるほど。貴様、男だったか……」

 

 「ええ、ですわよ!!」

 

 少し驚愕したような魔王に、ウィンターは、どうにかなったと内心安心した。ついで、仕切り直しとばかりに拳を構えて、

 

 「私は、一向に構わない」

 

 「なにがですの????」

 

 本当に、何を言いたいのかが分からなかった。

 

 「私は、一向に構わないと言っているんだよ。問題ない。お前は、美しい。私と来い」

 

 「どういうことですの!?」

 

 ウィンターは、叫んだ。

 

 

 

 +++

 

 

 

 『ホワイト、まずいですわ! 言葉が通じません!』

 

 『ラスボス系ヒロインかぁ……。ここに来てこれかあ……属性強いなあ……』

 

 『聞いてます!?』

 

 『ん? ああ、聞いてた聞いてた。それでどうするの? 求婚されてるけど』

 

 「あっ、これ求婚だったんですのね!! これっぽっちも気づきませんでした!」

 

 「最初からそのつもりだ。私と共に来い」

 

 声に出てましたわね……。まあ、めっちゃくちゃびっくりしましたから仕方ありません。いやいや、どうするんですのこれ。それにそもそもですが。

 

 「わたくしと貴女、敵ですわよね?」

 

 「そうだな」

 

 「さっきまで殺す気でしたわよね?」

 

 「ああ、もちろん。今だってそうだ。部下の敵討ち。魔王としての職務。諸々理由がある」

 

 「どういう心変わり……いえ、変わってないんですね。どういう風の吹き回しですの? 正直、ついていけていません」

 

 「私は、どうやら……」

 

 口ごもった魔王の目がわたくしから逸れました。どちらもらしくないというか普段はしない、しなれていない反応に見えましたわ。

 「お前に、一目惚れをしていたらしい」

 

 「は、はあ……。あ、でも過去形……」

 

 「先の戦闘で、更に惚れ込んでしまった。焼き尽くされても立ち上がったのは、貴様だけだ。皆が燃え尽き、体が残っていても再生しても痛みと恐怖に屈した」

 

 そう。と一拍置いた魔王は、わたくしへ手を差し出しました。

 

 「こうして私の前に立っているのは、貴様だけなんだ。だから来い。私の物になれ」

 

 「お断りしますわっ!」

 

 間髪を入れずに、わたくしの口をついて出ていました。ああ、駄目ですわよ。そういう口説き文句。だって。

 

 「わたくし、男の子ですので! 運命は、この手で掴み取ってナンボですわ! そして、わたくしは、次男! 長男にはできませんが次男にはできますの!」

 

 「ふむ……。男の意地というやつか」

 

 「そんなところですわ!」

 

 ぴしりと人差し指を突きつけて、わたくしは、宣言いたしましたの。すると魔王は、納得したように頷きました。ただしその後に、舌舐めずりがつきましたが。

 

 「それは、屈服させがいがあるな」

 

 「しませんわ。そもそも貴女は、ここで死にます。そう、この場で」

 

 「いや、どうだろうな?」

 

 「チェックは、かけていますわよ」

 

 胸を貫いた超極細ツインロールは、健在です。チェインソーで、断ち切るより早く彼女の改造コードを粉砕することは、可能です。何より心臓を穿ち抜いていますから、改造コードを砕かれればまず耐えられないはず。

 ……不気味な余裕ですわね。内心わたくしは、呟きました。

 

 「いくつか貴様が勘違いしているであろうことを教えてやる」

 

 「勘違い……?」

 

 「ああ、そうだ。勘違いだ……」

 

 『ウィンター』

 

 『分かっています。けれど何をするか予想がつきませんから見て決めますわ』

 

 『行きあたりばったり……って言いたいけど僕も分かんないからそれでいこう』

 

 「私は……」

 

 ぷつんという音――というよりそういう感覚をわたくしは、感じていました。何かが切れた感覚。魔王の胸に繋げたツインロールから伝わっていたのです。つまり、それは。

 

 「1つ。別に、両腕からしかチェインソーを出せないわけじゃない」

 

 ツインロールの作った小さな傷跡を内側から押し上げるように現れたのは――チェインソー。唸る刃先に、残ったツインロールがぶつぶつと斬り裂かれて、ぱっとわたくしの髪が散っていきます。

 その最中をダンッと地を蹴り、わたくしは、魔王目掛け一気に駆けました。行動させてはならない。ここで仕留める。

 そういう気概で放ったのは、ツインロールを纏わせた右の突き。目標は、その喉笛。

 

 「2つ。貴様は、既に、私のキルゾーンに入っている」

 

 氷結の魔の手がわたくしの体を鷲掴みにしていました。踏み込んだ足と捻った腰、放った突きが見事に氷漬け。よく見れば胸から突き出たチェインソーが逆転をしていましたわ。迂闊! 焦り過ぎました。歯噛みしてもどうにもならないのです! 今すぐ離脱を……!

 

 「最後にだが……回転の向きと熱操作は、関係がない」

 

 わたくしの最大の過ちを指摘しました――氷結が全身に広がり、わたくしの体と心と意思を閉じ込めていく。

 

 「傷をつけないのには、これしかなかった。貴様がどれほど再生できるか分からなかったものでね」

 

 「貴女……! こんな、こんなの……!」

 

 「では、また会おう。次は、」穏やかに微笑んだ後、「人類と魔族両方の消えた世界で」魔王は、額にキスをしました。

 

 「こんな、決着……わたくしは、決して――!!」

 

 

 

 +++

 

 

 

 「終わったね」

 

 「ああ、終わった。今度こそ終わりだ」

 

 魔王は、感慨深げに呟いた。目の前には、氷像とかしたウィンターがいる。氷を隔てた向こうの瞳は、魔王を強く見つめている。口もまた開かれたままだ。

 普通ならこれで死ぬだろうが、全身を焼き尽くされても死ななかったのが勇者ウィンター・ツイーンドリルルだ。解ければ蘇るだろう……おそらく。

 そこだけは、やや魔王の見込みは甘い。しかし、彼女は、確信している。

 

 「ブラック。私は、これから人も魔も全てを滅ぼそうと思う。来るか?」

 

 「ああ、我が魔王。君の思うがままの魔王としての振る舞いをやりたまえ。その先に何があろうと私は、付き従おう。私は、混沌(ブラック)であるが故。君のあるがままを肯定しよう」

 

 浮かんだままだったブラックは、降り立つと大仰にお辞儀をした。胡散臭い。芝居がかっている。魔王は、そう思いつつも長年付き従ってくれた従者の思いが偽物でない事を理解していた。

 長い付き合いだ。魔王は、珍しく追想していた。

 思い起こすのは、出会いの日。それより前の記憶を魔王は、持ち合わせていない。灰色の空、燃え盛る大地。家屋は崩れ、無数の魔族が泣き喚き、犯され、死ぬ時代。その片隅。ブラックに出会ったのは、そこだ。忘れもしないターニングポイント。

 

 そこで私は、産声を上げたのだ。それまでの仮初を捨て、私となる一瞬。今を得る為の代償――魔王の口端が歪んだ。

 

 「この瞬間のために、私は、生まれた」

 

 見るに堪えない人に魔を、何もかもを斬り刻むため、魔王は、ウィンターから背を向け、一歩踏み出し、

 

 「認めて、ませんわよ……!!」

 

 勢いよく振り返った魔王は、目と耳を疑った。

 

 「こんな終わり方認めていませんわッ!! なーに勝手に終わりにしてんですの!! このおたんこなす!!」

 

 凍らせたはずだ。骨の髄まで、完璧に。けれどしかし、魔王の目の前には、またしても勇者(ウィンター)が立ち塞がる。

 ――幻覚ではない。濡れた髪、震える体。爛々と戦意に輝く双眸。勇者(ウィンター)は、確かにそこにいる。恐ろしいまでの大音声を放ち、立っている。

 

 「今度こそケリを付けてやりますわよ。魔王エレオノーラ・チェイン・ピースメイカーッ――!!」

 

 そして、その手とその声で、火蓋を切って落とした。

 

 

 

 

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