没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

24 / 25
第二十四話 ウィンター・ツイーンドリルルとエンドマークですわ!!

 

 

 

 ――わたくしに残っていたのは、気概だけでした。『まだだ』と諦めていない事を力に変える。折れない心で貫くこと。最後の力を振り絞って、振り絞って。ぎゅーっと絞ったオレンジの最後の一滴が今のわたくしです。後は、地面に落ちるだけ。落ちきったら終わりです。わたくしは、きっとそのままバタンキューですわ。

 

 さてと、どうしましょう。魔王のチェインソー。熱操作。どちらも驚異に他なりません。既に、三度殺されているのですから、それはもう身に沁みていますわ。

 この瞬間、今、この時、一秒一秒が愛おしく、実に惜しい。この時を噛み締めて、わたくしは、答えを出さなければなりません。どうします? どうするんですの、わたくし……!!

 

 『ウィンター。君が魔王に対して勝っていること、有利を取れること。それしかない。それしか勝つ方法はない』

 

 勝っていること。有利を取れること。頑強な氷を砕きながら頭の中で、整理致します。

 1つ、空。飛行性能だけは、わたくしが勝っているところでしょう。魔王は、飛んでまで追って来なかった。来れなかった、と思いたいところです。では、ここで問題です。

 

 ――どうやって、空に上がりましょうか。

 

 上がり切る前に、斬り刻まれるのは目に見えています。刻まれて、焼かれて、氷の中に閉じ込められるフルコースになるかもしれません。ただ、これ以外選択肢がない。

 でしたら、これを通せる確率を上げる。それですわね。そうしましょう。それでいいでしょうか、ホワイト? ホワイト! ああもうほんと一人にしないでください。いつも通りハイテンションなアドバイスを下さいまし。

 

 『君を一人なんて、しないさ』

 

 『びっくりするので急に黙らないでください! ……それはそうとありがとうございます』

 

 ――2つ、魔王とブラック。勇者たるわたくしとホワイト。この戦場は、わたくしだけのものでは、ありません。つまり。

 

 『爆撃魔法最大火力でわたくしを撃つようオフェーリアへ伝えてください。できます?』

 

 『できる。タイミングは?』

 

 『これから叫ぶので、間に合わせてくださいっ……!』

 

 最後の薄氷を拳で打ち砕き、わたくしは、第三ラウンドのコングもついでに思いっきり叩いて差し上げました。

 新鮮な空気ーー!! なーんて喜んでる暇も無く、降ってきたのは、光と衝撃。後は、爆風。オフェーリア、完璧でしてよ……! 今ならおっぱい揉ませて上げても構いませんわ!

 

 『ふふ、それ伝えとく?』

 

 『勘弁してくださいまし!?』

 

 黒煙を引き裂いて、空へ。ぐんぐん登っていきます。置き土産に、ツインロールミサイルを最大限ばらまきながら上がっていけば下方の魔王も点になってました。いつチェインソーが追いかけてくるか分かりませんから油断はできません。

 

 『後は、どうする? ウィンター』

 

 「――決まっています。ツインロールです」

 

 ええ、いつだってそう! 真っ黒な空と星の境目で、白い息を吐いたわたくしは、魔王の視線を感じる中、唇の両端を持ち上げました。

 

 「ツインロールは、無敵ですので!」

 

 何度否定されようと諦めなければ勇者(ツインロール)は、負けないのです――! 

 そして、わたくしは、落下を開始しました。これが最後になるという予感を胸にしながら、真っ直ぐに。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「逃げた?」

 

 「いや、来る。離れていろ」

 

 小首を傾げたブラックの疑問に、魔王は、首を振るとまたブラックも首を振る。

 

 「いいや、遠慮しておこう。私は、行き末をここで観測する。」

 

 「言っておくがお前の妹のようなことはしない」胸に手を当て、「私の領土は、私だけのものだ」

 

 「分かっているさ。あの子と僕のスタンスは違う。私は私さ。あの子は、寄り添い。私は、導く者であるから」

 

 「ふん……ならいい」

 

 横目にブラックを見ていた魔王の視線は、空へと向けられた。

 魔王は、決して逃げない。魔王は、追い詰めるものだ。魔王は、逃さぬものだ。回り込み、立ち塞がる。故に、背中を向けない。不退転こそ魔王の在るべき姿。それは、勇者もまた同じ。

 

 チェインソーが獲物を求め、回り、唸る。

 

 魔王の瞳が細まり、半身で足を開き、右腕を上へ。左もまた上、しかし、右より下に、顔横に添えるように構えた。意味するのは、カウンター。魔王がその人生で、初めてとった構えだった。本能と経験が導き出したカウンターは、功を奏するか。

 

 ツインロールの推進力がウィンターを瞬く間に地上へと到達させた。カッと空で輝いたと思えばウィンターの姿は、瞬き一つで魔王の直上にいた。その突き出した足には、開花前の蕾が如しロールが黄金の煌めきを放って、大気を削る。先端が魔王に届く。

 

 けれど魔王のチェインソーがそれを阻む。チェインとロールが互いに噛み合うことを拒否して、回る、周る、廻る。

 

 天地の激突に、全身全霊の一撃に、世界は、悲鳴を上げた――氷結した海は、圧潰する。ひび割れが逃げる羽虫のように不規則に疾走し、風は、彼女らの合間から逃げ出そうとする。しかし、回転と回転のぶつかりは、渦を成して、風を逃さない。

 

 嵐が起きる。魔導蒸気船上、甲板では、褐色の騎士姉妹、ジュピーとメアリは、目を見開き呆然と見つめていた。あまりの光景に声も出ない。他の兵士や魔法使い、船乗り皆一様同じだ。

 

 「ウィンター様……!」

 

 オフェーリアは、祈っていた。出来ることはない。先の爆撃で全て尽きた。魔力に、体力。この船の原動力もまた。

 

 「ウィンター様――――!」

 

 だから彼女は、祈って、叫んだ。風に乗って、声は届くだろうか。いいえ、届く。オフェーリアは、確信していた。

 今まさに、地と天を繋ぐ黄金の嵐がそびえ立つ瞬間に、オフェーリアは、祈っていた。黄金の嵐に、届け。

 

 ――貴女に、勝利を。

 

 長い付き合いとは、言えない。全てを分け合ったわけでも何もかもを見せあったわけではない。それでもオフェーリアは、勇者ウィンター・ツイーンドリルルの勝利を信じている。

 

 『聞こえたかい、ウィンター!』

 

 『ええ! ええ! 聞こましたわよ!!』

 

 祈りは、届いた。

 

 「この声に、わたくしは、応えなければなりません……!! 魔王、貴女には、ここで負けていただきます!」

 

 「私が貴様に負ける道理がない。理屈がない。理由がない」

 

 淡々と魔王は、事実を述べる。三度の敗北は、間違いなくあったこと。過去は変わらない。それを魔王は、突きつける。

 

 「この問答も、戦いも無駄だ。大人しく飾られて、私の帰りを待っていればいいものを」

 

 故に、抵抗は無意味だ。敗北は決まっている。至極当然と魔王は、傲慢に言い切る。だからこそウィンターは、食らいつく。

 

 「わたくしの心が折れない限り、敗北には、なりませんわっ!」

 

 「なら、手折ってやろう」

 

 壮絶な笑みと共に、魔王の全身からチェインソーが突き出た。皮膚や衣類を突き破り、世界を狂わす改造コードそのものが剥き出しにされ、大気、空間、次元ごと切り刻んでいく。破壊そのものがウィンターに迫りくる。

 

 「再び花瓶に戻れ、勇者」

 

 「嫌です。お断りです。却下です」

 

 駄々をこねる子供のような口ぶりだった。だが、これが必要だった。

 

 「わたくしは、そういう不条理を拒絶するために、勇者となったのです! 貴女は、何故魔王になったのですか!?」

 

 「私が何故魔王に? 決まっている。それは――」

 

 それは……それは……。邪念が浮かぶ。魔王は、振り払った。

 

 「破壊だ。森羅万象尽くを破壊する。人も魔も尽くの一切合切を」

 

 「ッ……! 人を滅すると叫ぶのならまだ分からなくもありません! しかし、何もかもを壊す? ふざけたことを言いますのね、エレオノーラ・チェイン・ピースメイカー!!」

 

 蹴り足とロールに力を込めて、ウィンターは、声を張り上げた。

 

 「その台詞、貴女が絶品だと笑ったオレンジジュースもオムレツも否定するのですよ! 分かっていますの!?」

 

 「……それは」

 

 言葉が喉で詰まった。魔王は、二の句をつげれなかった。そのせいか脳髄で暴れる破壊衝動がやや緩慢になった。

 

 「貴女の原動力が何かは知りません。憎悪や嫌悪が魔王へと駆り立てたのかどうかなんて、知りません。しかし、その言葉は、間違っていると言い切れます!」

 

 「私は、魔王として……壊す」

 

 「魔王として!? そこに貴女の意思はあって!? わたくしと勇者は、イコールです! この行動、力の行使、迷いはありません! だからわたくしは、折れない!」

 

 矢継ぎ早に、ウィンターは、言葉を叩きつけ問うた。

 

 「貴女は、どうですの!」

 

 「私は、壊す。平和のため、二度と壊されることがないように――!!!!」

 

 そこで初めて、魔王の笑みが剥がれ落ちた。歯を剥いて、怒りを顕にする――チェインソーがその刃の数を増した。次々と現れ、伸び、ウィンターへと向かう。

 改造コードが魔王を食らいつくしつつあった。チェインソーへの信仰と力への欲求。そういった明確で分かりやすい感情を元にした改造コードが魔王をこのように仕立て上げた。

 だからこそウィンターは、魔王の根本に触れられた。

 

 「ああ、貴女は、ずっと……」

 

 増殖し、その切っ先を伸ばすチェインソーと笑みを捨てた魔王を見て、ウィンターは、ぽつりと呟いた。

 

 「怒っていたのですね」

 

 チェインソーが、ウィンターに触れる。触れられれば終わりだ。今度こそ復活はありえない。

 

 「ならばその怒り」

 

 一際強く早く、ツインロールが回転した。

 

 「ここに、置いていきなさい」

 

 紫と緑のオッドアイが強く輝き、渦を巻く! それと共に、ウィンター自らが回転を始めた。彼女の姿も刹那の内に、黄金の渦の内側に消えていった。

 

 「っ……!!」

 

 怒りに燃える魔王の瞳が見開いた。触れたチェインソーが逆に折られていた。

 伸ばす、折られる。伸ばす、折られる。伸ばす、折られる。伸ばす、折られる。伸ばす、折られる。

 繰り返し、繰り返す。

 

 「何故だ。何故、こんなことが……!?」

 

 魔王は、目の前の光景が信じられなかった。チェインソーが砕かれていく。信じ続けた刃が粉々になる。極熱も極低温を叩きつけても拡散されて形をなさない。

 あらゆる手段が目の前の黄金の螺旋に負けていた。

 いつの間にか膝をついていた。腕が震える。ウィンターの攻撃を魔王が支えられなくなっていた。

 

 「私は、魔王エレオノーラ・チェイン・ピースメイカーだ……! 並み居る魔王候補を殺し尽くし、従わぬものを殺し、何もかもを壊し、壊す!! そして、平和を――」

 

 壊す――最初の私は、そう願ったのだっただろうか。魔王の思考に生まれたほんの小さな隙間に、疑問が浮かんだ。走馬灯のように、幼きあの日へ魔王の意識は、流れつき。

 

 「――――ぁ」

 

 怒りの向こう側に眠っていた喪失への悲しみを思い出した。今の今まで、忘れ果てた感情が魔王を鈍らせた――懐かしいメロディが彼女にだけ聞こえた。

 

 「さようなら」

 

 それこそが敗北への一歩となった――黄金の螺旋が魔王を呑み込んだ。氷原がついに粉砕された。ひび割れが海底深くまで届き、粉々に。高速でしかも細かな振動が氷を水へと帰す。海が蘇った瞬間だった。

 そして、黄金の螺旋は、その最中を一直線に突き進んでいった。深く、深く。海の底よりさらに深くへ。

 

 穏やかさが海に戻った後も勇者と魔王が海上へ戻ることはなかった。彼らは、海深くに消えていった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。