没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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最終話です。


第二十五話 ウィンター・ツイーンドリルルの明日はこれからも続きますわよ!

 

 

 

 懐かしい――魔王は、内心で呟いた。どことも知れぬ場所。暗く、冷たい。しかし、どうにも込み上げるこの懐かしさ。まどろみが思考を停滞させ、暖かな懐古の腕の中で揺れている。

 私は、どうなった? 涙を流しそうなほどの懐かしさの中、魔王の中で、疑問が浮上する。

 記憶をたどる。いまいち上手く辿り着けない。私は、戦っていた? 眠っていた? 歌っていた? 食べていた? わからない。

 何より、ここはどこなのだろう。

 暗く、冷たい。けれど、懐かしく、暖かい。

 けれど魔王は、この場所の名を知らない。

 

 「やあ、我が魔王」

 

 ――ブラック、どこにいる。いや、いい。ここはどこだ。私はどうしてここにいる。答えろ。

 魔王の問を受けたブラックは、暫し沈黙した。

 

 「ふむ……。そうだね。一つずつ答えて構わないかな」

 

 ――構わん。

 

 「では、まずここはどこかだが……私の中だよ。魔王よ」

 

 ――……どういうことだ。

 

 「次の答えでわかるよ、我が魔王」

 

 ――…………続けろ。

 

 「貴女は、負けた。勇者に、敗北したのだよ」

 

 ――そうか。

 

 「……随分あっさりじゃないないか、我が魔王」

 

 ――負けてしまったものは、しょうがない。怒りも悲しみも無意味だ。

 

 「そうかい。それでは、どうする?」

 

 ――……暫く、眠ろう。どうしてかたまらなく、眠い。

 

 「ああ、ああ。いいとも。私が傍に居よう、我が魔王。瞼を閉じ、休むがいい」

 

 ――なんだ。導くだけじゃないのか。

 

 「矜持を曲げることも在るのだよ、我が魔王」

 

 ――ああ……。そうしよう。

 

 「我が名は、ブラック。我は、暗黒にして常闇。虚空にして無明。そこにあり、そこにない。我こそは、真なる黒」

 

 ――…………。

 

 「故に、我が腕に眠れ。またいつか目覚める時まで」

 

 ――おやすみ。

 

 「――ああ、」何か言葉に詰まり、「我が魔王。良い夢を」ブラックは、そう言った。

 

 そして、静寂が満ちた。

 

 

 

 +++

 

 

 

 ウィンター様が消息を絶って、一年となります。

 国内の復興。国境の整備。色々やることずくめで、気づけばもうこんなに時間が経っていました。私も探して回りたかったです。しかし、これでも姫で騎士団長。暇ではないです。各地の騎士や兵に捜索を任せ、私は、一足早く王都へ帰還しました。

 それからはもう復興作業、書類作業、復興作業、書類作業、復興作業、書類作業、復興作業、書類作業……とお仕事三昧の日々でした。いえ、不満は全くありません。これもまた王族としての騎士団長、一介の騎士としての責務。一つ一つ、大切な仕事です。

 だからといって、私の中からウィンター様が消えたわけではありません。

 日々送られてくる書類の一つである調査報告には、毎回、隅々まで目を通していました。

 芳しくない結果ばかりでした。騎士や兵の怠慢とはいいません。只々、生存の確認や何か手がかりがどんなに小さくても見つかればいいと思い、募る日々が続いていました。

 それももう一年経とうとしています。

 

 「……捜索隊の規模縮小、ですか」

 

 執務室のデスク。座りなれた椅子と使い慣れたデスクに挟まれて、私は、溜息を抑えきれませんでした。

 

 「いずれやってくる事ですが……流石に、受け止められないですね」

 

 今のこの国に欠乏しているのは、人材、資金。捜索というのは、実にお金がかかります。手もたくさん必要ですから人も駆り出されるわけです。それに、ウィンター様が消息を絶ったのは、かなりの沖合ですからそこまで魔導蒸気船を動かすとなるとそれはもう膨大です。魔法使いに、船乗り。更に、燃料、各種資材食料。もう上げればきりがありません。

 ただそこに関しては、私の方でどうにかしてましたが……底が見えてきました。

 

 「もう限界ですね……。これ以上いくとちょっと手を出してはいけない領域になってしまいます。それだけはいけません」

 

 縮小後の捜索範囲は、海流から予測された漂流先の海岸沿い巡回のみ。船もいくらか時間を開ければ出せないこともありませんが、その頃には、もっと範囲縮小されているでしょう。

 

 「当たり前です。海中に沈んだ人間を捜索すること自体がまともでないのですから……」

 

 生きている可能性を考えるのすら無駄です。あの時の海中は、とんでもない水温になっていたでしょう。その海に落ちてしまったとすれば普通なら海流に打ちすえられ、低音に藻掻き。最後には、海の藻屑となっているでしょう。熟達の魔法使いに、騎士。水泳やサバイバルのスペシャリストでも運命から逃れることはできません。

 そう、普通なら。

 

 「普通じゃないことに、これほど苦しめられる日が来るなんて……。本当に、思いもしませんでしたわ」

 

 本当に、全く……。私は、紅茶を口に含みました。

 

 「ん……冷めている。今、何時です……?」

 

 確か紅茶を入れたのが夜12時ですから……。

 

 「やってしまいましたね……。本当に、気をつけなければ……」

 

 時針の指したのは、6時丁度。溜息がまた出てしまいました。最近、書類に集中してしまうと時間を忘れてしまうのです。

 冷めた紅茶を飲み干し、ティーポットへ熱の魔法を。味は落ちますが就寝前の一杯ですから構いません。新たに注いだ紅茶を手にして、私は、椅子から腰を上げました。そのまま後ろのガラスドアを開け、テラスへ。

 夜明けの王都の景色が見たかったのです。

 この景色だけは、飽きません。紫と緋色に青。三色にグラデーションされた空、日と影のコントラスト。日差しに輝く街並み、川や森といった自然。動き始めた人々と動物。

 

 「綺麗……」

 

 言い表すのには、この一言だけで十分でしょう。

 

 「……結局、一緒に見れたのは夕日だけでしたね」

 

 ぽつりと呟いて、何故かぼやけた視界を拭いました。書類仕事のしすぎでしょうか? どんどんぼやけて、拭っても拭ってもどうにもならなくなった時。

 

 「………あれは?」

 

 何かが視界で光りました。空です。街ではありません。飛行訓練中の魔法使い? いえ、あんな高い所、飛べるはずが――。

 はっと気づいた時には、私の目の前へとやってきていました。私は、思わず両手を広げました。

 

 

 

 +++

 

 

 

 『それにしてもめちゃくちゃ寝坊しましたわね……』

 

 『ああ、まあ一緒になって海底で寝てた僕も悪い……。よく一年海底で寝て無事だったな……』

 

 なんで貴女が分からないんですの……。

 

 『それでウィンター。本当に、構わないのかい?』

 

 『何度も言ったでしょう? 構いません。ダメだと言えば、貴女の行く宛がなくなるじゃありませんか』

 

 『いや、そうだけどさあ……』

 

 『ブラックがまだ去っていないのでしょう? なら勇者が必要な時が来るかもしれません。この姿で居る意味があります』

 

 『それでも同化し続けるのを許可するのは、どうかと思うよ?』

 

 『……まあ、それはいずれどうにかする方法を見つければいいじゃありませんか』

 

 『本当に、君という人は……。君がいいのならお言葉に甘えさせてもらうよ』

 

 『では、これからもよろしくお願い致しますわね』

 

 『うん、よろしく。とりあえずほら、抱き締めてあげなよ。そうそう、元に戻ったら僕もお願いね? 盛大に頼むよ』

 

 『では、その時は、めちゃくちゃにして差し上げます! あ、ていうかわたくしもちゃんと元に戻してくださいね!?』

 

 『はいはい。分かってる分かってる』

 

 『本当に分かってますの……!? まったく……』

 

 零しそうになった嘆息を噛み殺して、わたくしは、降り立つとともに飛び込んできたオフェーリアを受け止めました。

 

 「おかえりなさい、ウィンター様……!!」

 

 海底にはなかった人の温もりを、匂いを感じながら、強く強く、彼女を抱き締めて。

 

 「ええ、ただいま。オフェーリア」

 

 

 

 

 

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