没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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マモレナカッタ……(故郷も家族も性別も)


第三話 ウィンター・ツイーンドリルルと等価交換の法則?!

 目を覚ました時、何か違和感があった。何かが違う。俺は、そう思ったんだ。ぐっと上半身を持ち上げた。ベッドの上、窓の外は暗い。夜ではない。丁度、真横にあった窓のカーテンを捲り、外を見ると日差しが微かに見えた。夜闇じゃなく、あまりにも黒く、濃い煙が空に蓋をしているんだ。いやでも違う。もっと大きな違和感……。

 

 「違和感……なにかしら……」

 

 ……………かしら? かしら? 今のは、誰の声だ? 俺の声が聞こえない。今のは、女の声だ。あんな高くて綺麗な声は出せない。出せるはずがない。声変わりなんてとうの昔に終えた話だ。喉仏だって出てたし、毛も生え揃っている。

 

 「つるつるですわね」

 

 指先は、するっと喉を通り抜けて、ぽよんと何かとても質量を感じるものにあたった。ぽよん。ぽよよん。楽しい感触。嬉しい感触。

 

 「おっぱい」

 

 おっぱいだ。おっぱい。ぽよよんばよよんぶるるんおっぱい。でかい。まったく手に収まらない。でかいですわよ。とってもでかいですわね。

 

 「……ですわね?」

 

 何かおかしい。全部おかしい。いやおかしいでしょ。なんでおっぱいあるのさ。待てよ。おっぱいがあるならもしかして。俺は、ぐぐっと視線が下に……おっぱいしか見えませんねえ!! でっか! でかいな! すげえ谷間だ……。いや、そうじゃなくて。うわ、太ももムチムチつるつるじゃん。めっちゃスケベかよ。なんて思いながら間に手を滑り込ませて……。

 

 「あー……うーん……」

 

 無い。ぶら下がってるあいつが居ない。首を傾げた。傾げても何も変わらない。さわさわ……。つるつるだ。剃った様子もない。天然物ですね。

 

 「寝よ……」

 

 夢の中で寝ると覚めるって言わない? 俺は今そう思いました。おわり。おやすみ。

 

 「おー! 起きたかー!!!!」

 

 文字通りどかーんって音がして、ばたーん!って音がした。毛布を頭まで被ってるのに、鼓膜がびりびりするくらいの衝撃だ。……夢だよな? これ。そうだと言ってくれ。こんな現実受け止められない。覚めろ~~。覚めてくれ~~。許してたも~~。

 

 「おーい。二度寝かー? 二度寝はいかんよ~~。ぐだぐだ二度寝は、昼を通り越して夕方に起きて、休みを完全に無駄にしたことを後悔する前準備だぞ~~」

 

 「それに、」とぺたぺた足音たてて歩いてきて、ぐらぐらと体を揺り動かしながら声の主は、言葉を続ける。

 

 「君の故郷どころか国が滅びちゃうぞ~~。起きて~~」

 

 「それどういう事でして!?」

 

 「おっ! 起きた」

 

 毛布を跳ねのけ、勢いよく俺は、起き上がって、今の言葉の意味を問い詰めようと言葉を発しようとして、目を見開いた。

 

 「おお? どうしたの? おーい、お腹痛いのー?」

 

 絶世の美少女がいた。開きっぱなしの扉から差し込む光に照らされて、輝く桃と銀の髪。全身を首までぴったりと覆う奇妙な服装は、小さくスレンダー、かつ柔らかな曲線のボディラインを強調していて、ヘソの位置も丸わかり。思わず俺は、ごくりと喉を鳴らしていた。不思議そうに見つめる大きな瞳に、はめ込まれたのは、一級品のエメラルド。数多の、キラキラと輝く感情を固めて、磨いたようだ。

 

 「え、ええ、申し訳ありません。ちょっと驚いてしまって……」

 

 「ああ! まあ、そうだよね」

 

 美少女が神妙な顔で、うんうんと頷く。うつくしい……。はっ、見惚れていた事がバレてしまう! 俺は、言葉の選択を間違えたのに気づいた。これは、まずい。つっと背中を冷や汗が伝った。

 

 「故郷が滅びてるなんてねぇ……」

 

 「そ、そうですわね! どういう事ですの?!」

 

 「どうもこうも。魔王軍の四天王の攻撃を受けて、焼け野原になったんだよ。君も焼かれてたじゃん」

 

 その一言で、俺は一気に思い出した。

 

 「わ、わたくし、確かあの怪物に会って、逃げて……それから……」

 

 ちょっと曖昧だ。どうなった? 確か急に眠くて、寒くなって……あ、そうか。俺は、ようやく現状を理解した。

 

 「わたくし、死んだのですね……」

 

 となるとここは、天国だろうか。どうやら唯一天神様は、俺みたいな不信仰者にも慈悲を与えてくれるらしい。なんたってこんな綺麗な天使を遣わせてくれるんだからな。

 しかし、この口調はなんだろう……。それにこの体も……。人は死んだら女になるのだろうか? いやもしかして俺も天使に……? 嬉しいがこの胸どうにかならなかったのか。貧乳の方が好みなんですけど? いや、贅沢は言ってられないか……。

 

 「あ、君死んでないよ」

 

 「はい?」

 

 「死んでないよ」

 

 「え?」

 

 「いや、だから、死んでないんだよ」

 

 ……そうなの? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまった。

 

 「いや、一回死んだようなもんかなぁ……。蘇らせたわけだし」

 

 「うーん……???」

 

 分からない。この女の子は、一体何を言いたいんだ。さっきまでの仮説が吹き飛んで、困惑のハテナマークが脳内の隅々まで占領していく。

 

 「え、じゃあ、この体は一体なんでしょうか……?」

 

 「えー。それはねえ……」

 

 女の子は、にまにまと笑顔を浮かべた。なんだろう。嫌な予感がする。

 

 「君、頭以外が焼失しててさ。しょうがないから僕の予備ボディを用意したんだ。だから女の子にしたのさ!」

 

 「は……? え? 予備? そもそも何故女の子に? どういうことかしら?」

 

 体に予備? どういうこと? 混乱する俺を尻目に、あははと少女は、笑って。

 

 「ま、気にしないでよ。ほら、生きてるだけで丸儲けじゃん? これからは、女の子として頑張ってね!」

 

 「めちゃくちゃ言いますわね!?!?!?!??!!!!」

 

 「え? そうかな……? 女の子、可愛いよ? 可愛い服とか着れるし、おっぱいあったほうが嬉しいよ? おっぱい大きくていいよ? 揉んでいい? 揉ませて? さきっちょだけだから!」

 

 「いや、揉ませませんし、そういうことじゃなくてですね……。わたくしの男としての心とか……騎士としての心構えとか。ああ、家族にどう説明すれば……」

 

 ――違う。もっと重要な事があった。俺自身の事情は、とりあえずいい。それはいつでもいいんだ。だけど、今は……こほんと俺は咳払いをして、話を切り替える。

 

 「貴方、先程、わたくしの故郷が滅びたとおっしゃりましたね? 夢では、無いのですね? 今のこの現状も、まとめて全部」

 

 「夢じゃない」と彼女は断言した「非常に申し訳ないんだけど僕は、ちょっと間に合わなかった」

 

 「まるで、貴方がいれば大丈夫だったみたいな口調ですわね」

 

 今のは、ちょっと癇に障ったから刺々しくなってしまった。実際、俺たちには、立ち向かう手段がなかった。皆皆、鎧袖一触ってくらい簡単に殺されてしまった。でも大人気ないっていうか格好悪い口調になってしまった。

 

 「僕、一応魔王軍の侵攻を止めに来たんだ。いや、正確には、魔王軍が侵攻するに至ったきっかけをどうにかするために来たんだよね」

 

 「きっかけ……前兆があったってことでしょうか?」

 

 「まあね。それを察知して、駆けつけたんだけどこの世界に(・・・・・)入り込むのに、だいぶ時間食っちゃってたみたいでさ。入れた時には、だいぶ時間が経っちゃっててさ、もう始まっちゃってたんだよね。

 そこで、君を見つけたってわけ。なんだか運命的だよね~~」

 

 「あの、ちょっと、待って頂けます?」

 

 いや、なんだろう。ちょっとというか色々聞きたいことがある。俺は、ぱっと彼女に掌を出して、ストップをかけた。

 

 「ん? なに?」

 

 「まず聞いていいかしら。貴方、王都から派遣された魔法使いとかでは無いのでしょうか……?」

 

 「違うよ」

 

 「違うのですか……?」俺は眉を顰め、「では、貴方は?」

 

 「うーん、説明してる時間がないね。割と長くなりそうだし。座って、紅茶とケーキ片手にじっくりことこと膝突き合わせて、話す時間はないかなー」

 

 「時間、と申しますと?」

 

 俺が怪訝と問いかけたら彼女は、窓の方を指差した。開けろということだろうか。大人しくカーテンを引いて、外を見た。曇天は相変わらずで、昼か夜か判別が難しい。ただ遠くに光が見える。街や都市のものではなさそうだ。

 

 「君の故郷を燃やしたやつ、今、王国の中央に向けて直進してるんだよ。目につくもの全てを燃やして殺してね。あれがその残り火。つまり、君の故郷だね。あれが今、王国の全土に広がりつつあるんだ」

 

 自然と手を握りしめていた。蘇る怒りと情けなさが元々の手よりずっと細くて柔らかくて白い指をさらに真っ白と染まっていく。

 

 「どう思う?」

 

 「どう思うって、随分、分かりきったことを訊くのですね……!!」

 

 俺は、キッと彼女を睨みつけた。神経を逆なでする言いぶりに、大人気なく怒りを剥き出しにしてしまう。

 

 「訊くまででもないのは分かってたけど一応ね。確認って大事じゃない?」

 

 彼女は、肩を竦めると傍の椅子を引き寄せて、腰掛けた。

 

 「君があれをどうにかできる、あの怪物に勝てる方法があるって言ったらどうする?」

 

 「……できるのですね?」

 

 「君が望むなら……っていうかやってくれないと結構困る。僕戦うの得意じゃないし。多分、勝てないし」

 

 本当だろうか。俺は、この少女を信用しきれていない。死の淵から助けてくれたのは、事実だろう。しかし、これが悪魔との契約である可能性は捨てきれない。謎が多い。話されていないことが多い。だけど時間がないのは、きっと事実だ。少女は、困ったように笑っている。胡散臭さは、消えていない。

 

 「やります。やりますわ。やってやりますわよ」

 

 ――だけど、俺の声に答えてくれた人だ。死の淵から掬い上げてくれた人だ。だから間違いじゃないと信じたい。

 

 「そっか。よかった」

 

 ほっと安堵する顔に見惚れてしまった辺り、きっと俺の負けなんだ。

 

 「で、どうすればいいんですの……ところで、この喋り方どうにかなりません?」

 

 「真っ直ぐ行くよ。戦い方は……やってみればわかるよ、うん。え? 君の趣味なんじゃないの?」

 

 「こんな趣味ありませんがっ!?」

 

 もう一つあまりにも無体な言葉があったが、後者の方に全力で、ツッコミを入れれてしまった。アイデンティティ的に聴き逃がせなかったんだ。う~んと腕を組んで少女が考え込んだ。え、なにそれ。不安になるから止めて欲しいんだけど。

 

 「まったく心当たりが無いんだよね~~。どうしてお嬢様口調なの? 僕が聞きたいくらいなんだけど。ほんとに趣味じゃない? 見た目的にはぴったりだけどさ」

  

 「ありませんわよ……。どうにかなりません? 気持ちが締まりませんし、ちょっと気持ち悪いですわ」

 

 話す分には、問題ない。伝えたい内容を言葉には、できている。ただ口調や言葉のチョイスどうにかならないのか? 自動的に変換されてるのだろうか。

 

 「うーん、頭の中いじるのはちょっとやだなー……。怖いし……壊れちゃうとちょっと治すのがね……。治るとも限らないし」

 

 「あ、頭の中をいじるのですか……!?」

 

 神妙に頷く少女に、俺は、たじろいだ。体が傷つくのは、慣れたものだ。だが流石に頭となると……。頭に傷を負って、前線どころか生活に支障をきたした人を見たことがある。

 

 「と、とりあえずこれで頑張りますわ! わたくし、強く生きますの!」

 

 「そうしてくれると助かります。そんじゃはい」

 

 ぐっと両手でガッツポーズ。とりあえずの決意を固めたのであった……。と少女に差し出されたものに、俺は、首を傾げた。

 

 「……これは?」

 

 「ドレスだけど? って君、素っ裸だよ? それで出ていく気なの?」

 

 「いや、ちょっと流石に無いですけれど……」

 

 受け取ったドレスは、黒で、大きく肩が出てるし、スカートのスリットも深い。動きやすさ重点かな。でもこれ足丸出しにならない……? セクシー過ぎないか?

 

 「もっとこう、大人しめの格好とか……。ズボンとか無いんです? こんなひらひらした服では、敵の攻撃を喰らってはひとたまりもないと思うのですが……」

 

 「大丈夫大丈夫。そのへんはどうにかなるよ。なんたって、君、選ばれてるしね」

 

 「貴方、本当によく分かりませんわね……」

 

 「いいのいいの! ほら、さっさと着て! 時間無いよ!」

 

 「ちょ、ちょっと待ってください! 着方分かりませんわよ!」

 

 「あ、これもちゃんと着けてね」

 

 ぽんと投げ渡されたのは、白くて丸まった布。なんだこれ。まじまじと俺は見てしまう。

 

 「なにまじまじ見ちゃってー。女物の下着くらい見たことあるでしょー?」

 

 「え? 下着? これが? 女性の下着とか初めてみましたわね……」

 

 あ、ほどくと下着だ……。レースがついててふわふわで、シルクがつるつるでなんか男のやつとは違うな……。ほー。はえーっと口を丸くして、下着を見ていると、にやにや笑ってる少女に気づいた。

 

 「……なんですの」

 

 「もしかして:童貞」

 

 「サジェストめいて差し込むんじゃないですの! 五月蝿いですし、余計なお世話ですわ~~!!」

 

 「はいはい。童貞乙」

 

 「キー!! 許しがたい侮辱でしてよ~~!!」

 

 やっぱり慣れねえな……。俺は、自身の口から飛び出る言葉に苦々しく思い、足を通した下着のフィット感で、今度は、微妙な顔になった。傍に姿見があるのを見つけて、ようやく俺は自分を再確認した。

 ……可愛いな。いや、綺麗? 鏡に映っている自分の姿に、思わず惚れ惚れしてしまった。

 長く、ウェーブのある金髪に、大きく濃い紫の瞳。目鼻立ちは、整っていて、あれほど訓練でつけた傷が肌に一つも見当たらない。大きな胸に細い腰、続く臀部もまた大きい。なんともまあナイスバディだ。

 そんな体へどうにか渡されたドレスを身に着けながら俺は、背後の少女を見て、ふと思った。

 

 「ところでですけれど、貴方、お名前は?」

 

 「あ、そういえば言ってなかったね。ホワイト。ただのホワイト」

 

 「わたくしは、ウィンター・ツイーンドリルルでしてよ。よろしくお願いしますわね、ホワイトさん」

 

 「なんだか。くすぐったいなあ……。ホワイトでいいよ」

 

 「わかりました。ホワイト」

 

 俺の差し出した手をホワイトは、はにかんで握った。にぎにぎ……手ちっさい……。なんか握手長いな……。と俺は、ホワイトの視線がどこに伸びているのか気づいた。その直後、視線が合ったホワイトが頬を赤らめ、上目遣いに。

 

 「……揉んじゃだめ?」

 

 「駄目ですわよ?」

 

 「えー? 減るもんじゃないじゃん」

 

 「高貴ですので、駄目です」

 

 不敵な決め顔をした――唇を尖らせる顔も可愛いな、とも俺は思った。

 

 

 

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