没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

4 / 25
第四話 ウィンター・ツイーンドリルルと魔王四天王、ですわ!

 

 

 

 「助けて……助けて……。お願い、です……助けて、くださ」

 

 最後まで言い切れず、声が止んだ。嫌な音の後、赤と白と黄が周囲に散らばった。サラマンドロスの足裏が女の頭を踏み潰したからだ。

 

 「ギャハハ!!」高らかにサラマンドロスは嗤い、「玩具としては微妙だなぁ、おい」

 

 急にテンションを下げたと思うと溜息を零した。鷲掴みにしていた男を遠くに投げ捨てると積み重ねた死体の上に腰掛けて、ぼうっと空を見上げた。黒煙が青と日を覆い隠している。サラマンドロス好みの空だが今は憂鬱に映る。

 

 「あー駄目だな。こういう時は何しても駄目だ……。乗らねえ。やってらんねえな……。寝るか」

 

 死体の山に横になった彼は、大きくあくびをした。彼がこうなった原因は、ただ一つ、賢者モードだ。サラマンドロスは、いくらなんでも出しすぎた。竜族の子孫である彼は、通常の魔物や人間と比べると数百倍の精力のあるが限界も一応ある。早い話が萎えぽよだった。タツものも立たない。

 

 「だけど寝るわけにもいかねえよな」

 

 そう、サラマンドロスは、一応仕事中だ。仕事=セックスみたいな男だがこう見えて、真面目でもある。一番槍を勝って出たのもその生真面目さ所以だ。フラストレーションが溜まっていたのも事実。しかし、四天王随一の忠誠心もまた事実。

 思えば即座に、サラマンドロスの瞼で蘇るあの美しく、麗しい黒髪。星を散りばめ、赤く煌めく双眸。白雪の如し肌。彼ら魔族の中でもいと美しき人。

 彼は、あの美しい魔王に、人類の天敵にして彼らの王にベタぼれなのだ。届かぬ愛、身の丈には合わないとは知っている。だからこそと捧げた忠誠に迷いはなく、淀みはない。

 

 「あン?」――かの魔王に思い馳せるサラマンドロスに、水塊が直撃した。じゅわりと大きな蒸気が上がった。

 

 鬱陶しげに白く煙った向こう側に、サラマンドロスは、列を成した人を見た。フードを深く被って、呪文を呟く者。その周囲には、大盾を構えた騎士や剣を構えた騎士が控えている。前者は、魔術師だろう。先の水塊は、あの魔術師達の仕業だ。

 

 「魔法の手を緩めるな! 属性図ならば火属性を主とするヤツの弱点は、水! 効果はあるはずだ!!」

 

 次の魔術が展開される。無数の水塊が浮かぶ。まとめ上げる魔力とまとめられた水量。彼らの腕が一流であるのは、明白。なによりこの魔法使い達の魔法は、次の瞬間には、サラマンドロスに襲いかかるだろう。一刻の猶予もない。が、

 

 「おーお可愛いこと」サラマンドロスは、嘲笑い「ギャハハハ!! よお、糞ども!!」

 

 爆風とともに彼らの前に出現した。悲しいことに魔法は、全てサラマンドロスが先程まで居た場所に突っ込んでいった。土煙と瓦礫、死体が空に舞い上がり、水流に粉砕されていく音が辺り一面に響き渡った。

 

 「死ね」

 

 囁くようなサラマンドロスの言葉が先か後か。騎士と魔法使いの足元から炎が大きく吹き荒れた。サラマンドロスは、大口を開け、哄笑を空高く響かせる。

 

 「ぎゃああああああああ!! いや、やめて、痛い! 痛い! 痛い!」

 

 「助けてくれ! 助けて!! 炎が! 炎が! 炎に溺れる!!」

 

 「いや! いやああああああああああ!!!! だすけで! だず――」

 

 「はは! つまらねえなぁ!! もうちょっと捻った悲鳴上げられねえのかよ!」

 

 人型の松明が乱立するさながら地獄模様。暴れまわりのたうつものの彼らに灯った炎は消えない。衣服や鎧を溶かし、皮膚に髪に、臓腑を焼け焦がす。その真ん中に嗤うサラマンドロスは、つまらないとうそぶくけれど実に愉しげだ。

 本日この日、サラマンドロスによって、これが繰り返されてきた。サラマンドロスに慈悲はない。容赦もなく、嗜虐心と指命感が彼を突き動かす。

 

 「そこまででしてよッ!」

 

 「あぁん?」

 

 その時、サラマンドロスは、微かに目を見張る――あれは、殺さなければならない、と。熱風に揺らめく金の髪、紫の瞳。揺れる黒のドレス。可憐な容姿と裏腹にも発する覇気は、強く、目の当たりにした彼は、心の底からそう思ったのだ。

 アレは、魔王に対するものだ。ここで摘むべきだと直感的に、サラマンドロスは悟った。

 しかし、それはそれとして、口の端を歪める。面白いものが出てきた。美しいものが出てきたとあの体を焼き、犯し、内臓を炙ってやればどんな悲鳴を漏らすだろう。愉しみのあまりに剛直するのを感じた彼の唇は、実に勢いよく滑り出し、いつものように戯言と挑発をばら撒いた。

 ――その時のサラマンドロスには、一つ未来が見えていた。犯し犯し、果てに殺す未来だ。

 そして、この国を自分の色で染め上げる。すなわち、炎の海へと変える。あらゆるものが彼の炎の下、灰燼と化す。改造魔法(カスタムマジック)は、確実に、この心地よい未来予想図へと導いてくれる。サラマンドロスは、溢れ出る暴力の心地よさ酔っていた。

 なによりもその先の栄光。魔王より賜るであろう圧倒的な信頼に、名誉。微笑み。妄想でしかないこれだけで既に、サラマンドロスは、二、三回絶頂していた。

 だからこそ、彼は想像しなかった。一欠片も思考の余地すら必要ないと見向きもしなかったのだ――こんな未来を。

 

 「ギャハハハハ、ギャ!? ギ、ガガガガガガガガガガガガガガガ!!」

 

 目を剥き、絶叫する。サラマンドロスは、絶頂しそうだった。あまりの痛み。内蔵を直接、固く回転するものが破壊していく。これは、なんだ? この女は、なんだ? 理解できない。女とは犯し、焼き、殺すものだ。気に入らない風のあいつや、いと高き方、美しい魔王という例外を除いて。

 痛い。痛い。痛い。ひたすら苦痛がサラマンドロスに襲う。死が手招きする。犯した罪を贖えと彼の殺した顔も知らぬものが糾弾する。黄金の回転が――ツインテールのドリルがサラマンドを裁く。

 世界から遠のくサラマンドロスは、賢明に手を伸ばす。ここではないどこかに行ってしまいそうだったから伸ばしたのだ。だがドリルは、彼を無慈悲に突き放す。指先から巻き込まれ、血煙に変換された。

 

 「ギャ、ガガ! ギャ! ヤ、ヤ、ヤややめ! やめてく、く! くくくくくくくくくくく――――?!?!?!!!」

 

 ドリルの発する振動が体を伝い、言葉すら許さない。回転が勢いを増したようにサラマンドロスは、肌で感じ、奇妙な感覚を味わった。浮遊感だ。振動が遠のく。地上から体が開放されたような。感じたことのないものに彼は、包まれていた。同時に、彼は、解放されていた。忠誠心も指命感も、底なしの欲望も性欲からも。何もかもが消えていく。

 けれどそれに何も感じないものだから、サラマンドロス・エコーフィアーは、怪訝と首を捻って――死んだ。

 

 

 

 +++

 

 

 

 炎が猛る戦場であったと、後に、生き残った兵士の一人は、語った。

 命をただくべるだけの、生産性を欠いたあまりに無慈悲な場所だったと、一人の女は、すすり泣いた。

 只々、生きる喜びを知る一時だったと、一人の老人は、祈りを捧げながら呟いた。

 お爺ちゃんお母さんお父さんお兄ちゃんと、一人の少年は、虚ろな瞳で家族を呼んだ。

 

 そして、皆一様に絶望を塗り替える一撃に出会った。

 

 あの日、あの炎の地獄に、明けぬと思った夜を斬り裂く黄金の閃光を見たと。そう言う彼らの瞳には、今もなお感謝という残光が焼き付いていた。 

 

 かくして、魔王への対抗存在たる勇者の誕生が王国、魔王領全土に知らしめられることとなった。

 ――やや伝承と違う性別(カタチ)になったが、誤差だよ誤差。

 

 

 

 +++

 

 

  

 魔王領最深部、魔王城。玉座の間。等間隔につけられた燭台が暗がりをほのかに照らしていた。

 

 「――サラマンドロス、残念だ。お前の忠誠に期待していた」

 

 同胞の死を感じ取った女が一人、暗い玉座で、赤く輝く双眸を閉じ、吐息混じりに呟いた。

 

 「フン、まったく……これだから馬鹿は……。本当に」

 

 玉座の両脇に等間隔と立った柱にもたれた緑髪の女は、呆れたように首を振った。

 

 「シャーシャッシャッシャッシャーク! シャーククククク!! かー! トカゲちゃんはこれだからよぉ! やってくれるもんだぜ、なあ?!」

 

 床に寝転がったまま、手足のある鮫頭は、けらけらとサラマンドロスを嘲り笑い。じわじわと目を潤ませたと思うと目尻から大粒の涙を零し、

 

 「馬鹿野郎……。俺は、これから誰と喧嘩をしろってんだトカゲちゃんよぉ……」

 

 男泣きを始めた。人目など気にせず、おうおうと声を上げて、鮫頭は、泣いていた。

 

 「デュルルル。若者が先走りおってのう」

 

 暗闇に、しゃがれた声が床を這うように低く響いた。その声の主の視線が玉座に腰掛け、肘で杖つく女に伸ばされる。他の二人も同様だ。じっとある種の期待を込めた視線だった。

 

 「それで、どうされるのじゃ? 魔王よ」

 

 女――魔王の星々を散りばめた紅玉が細く開かれる。魔王城の玉座に腰掛ける彼女こそ今、王国を震え上がらせる存在だ。人類の天敵。そして、勇者の対抗存在。彼女の視線が一点に向けられ、薄紅の唇が開かれた。

 

 「シルフィーリベア・メランコリックボルト。行ってくれるかな」

 

 「ええ、勿論。我が王の仰せのままに」

 

 うやうやしく頭を下げたのは、緑髪の女――シルフィーリベア・メランコリックボルト。風の四天王。四属性の風を司る精霊にして、魔の属性を併せ持つ異端者だ。故に追放された彼女は、溢れる力を持て余して流れ着いた魔王城を襲撃、魔王の座を簒奪しようとしたものの、その魔王に返り討ち。その強さに惚れた彼女は、軍門に下り、改造魔法(カスタムマジック)に適合。晴れて、四天王に選ばれた。

 頭をたれた彼女の周囲に風が吹き荒れたと思った次の瞬間には、その姿は、玉座の間から消え失せていた。

 

 「必ず、魔王様のお気に召す結果をお見せしましょう!」

 

 玉座の間の隅々まで響く、言葉を残して。

 

 「お前達は、待機だ。シルフィーリベアの結果次第で、また指示を下す」

 

 魔王も残った二人へ告げると玉座から腰を上げた。頭を垂れたままの影と既に踵を返した鮫頭を横目で見、魔王は、執務室のある廊下へと足を向けた。カツカツカツカツと彼女のヒールが床に響き、職務中の召使いや兵達は、彼女の羽織るマントの裾に、長い長い黒髪の端が廊下の角へ消えるまで、うやうやしく頭を下げていた。

 執務室の前に来れば扉の横に控えている兵が頭を下げ、ぎぃと低く音を立てて、観音開きの扉が開いた。

 

 「ご苦労」

 

 「はっ……」

 

 兵に一声かけ、執務室に入った魔王の背後でゆっくりと扉が閉じていく。彼女は、そのまま奥のデスクに腰掛けて。

 

 「私の魔王、どうやらホワイトが来たようだ。はは、社長出勤も良いところだと思わないか?」

 

 魔王の前、何者かが文字通りデスクに腰掛けていた。黒と赤の乱れたショートヘア。それに覆われた中にある金色の瞳は、常に笑っているようだ。真っ黒なローブを身に纏い、体は細く、小さい。少女のようで少年のよう。中性的だった。なにより整った風貌だがどこか胡乱だ。

 

 「なるほど。サラマンドロスを下したのは、それが見出した者か」

 

 問いかけを無視し、魔王は、納得したように口ぶりでそう言った。

 

 「そうなるね。君を殺せるのは、君と同じもの。人界の魔王さ」

 

 「勇者と言え。分かりにくい。ブラック、貴様は、いつもそうだ。胡乱で、煙を巻き、判然とせず、抽象的でもある。読み解くこちらの身になれ」

 

 「はは、それは失礼した。以後改めよう」

 

 鋭い視線を受けたブラックは、申し訳ないモーションはしてみせるが、誠意を欠片も感じられない。しかし、魔王は、さして気にした様子もなく言葉を続ける。面倒なのだろう。

 

 「そうなれば、シルフィーリベアの前にも立ち塞がるか……勝算はどうだ?」

 

 「五分五分ってところかな。あ、勿論、サラマンドロスにだって勝ち目は合ったよ? 彼がもっと距離をとっていればなんとかなった。彼の炎なら焼けたはずだ。たぶんね。ああ、そんな睨まないでくれ。改造魔法(カスタムマジック)への適正は、同値だったんだあの二人。故に、シルフィーリベアも五分五分というわけだ」

 

 道化のようなおどけと饒舌なブラックに、魔王は、諦めたような溜息を吐いた。

 

 「まあ、いい。殺せようと殺されようとどちらでも構わん。勝てば行幸。負けても責めぬさ」

 

 肘掛けに肘をつき、魔王は、薄く嗤う。瞳が赤く輝き、周囲が揺れる。彼女の纏う覇気がこの空間を、この城を、ここら一帯を揺らしているのだ。城中の魔族が震え慄き畏れ、ひざまずいた。

 

 「なに、どうせ最後に勝つのは、私だ。私がいれば負けはない」

 

 「そうでなくっちゃ。流石私の魔王」

 

 「……いつも言っているが、私は、貴様のものになった覚えはない」

 

 「はは、いつかものにした時に備えての予行演習さ。気にしないでくれ」

 

 「まったく……不敬だ。断頭台にでもかけてやろうか。存分に苦しませるため、首を折らないよう絞首刑にしてもいい」

 

 「斬首に、絞首かい? はは、あれらは、中々気持ちいいぞぉ……。いや、中でも最も気持ちよかったものがあるんだ。あれは忘れられない……。聞きたいかな? 聞きたい? 聞きたいよね。よ~し、話しちゃうぞ~」

 

 「黙れと言って、黙った試しがあるか? 貴様」

 

 「ここに来る前の話なんだけどね」

 

 「勝手に話し出すな……」

 

 めちゃくちゃ苦々しい表情をした魔王の前で、満面の笑みを浮かべたブラックは、喜々として語りだした。

 

 「私は、下劣で、品性の欠片もない野蛮なやつらに捕まってたんだ。いや、わざとだよ? 未開の地の拷問方法がちょっと気になったんだ。本気を出せば余裕だったさ。撫でるだけで地形を変えて、ミンチにしてやったね。ただね、知的好奇心には勝てなかったんだよ。仕方ない。そう思わないか? そう思うよね。続けるよ」

 

 続けるな。と魔王は心の底から思った。口にしても意味はないので、むすっと黙り込んだ。

 

 「そこの野蛮なやつらは、乳首に非常にご執心だったんだ。男に女、全員上半身裸でなんとも言語化の難しい乳首ピアスをしていてね。いやあ、あれは興奮した。それでね。ついに拷問の時間がやってきたんだ。むしむしとした牢獄に閉じ込められた私は、とっても暇を持て余していてね。準備を始めた時には、もうそれだけでイッてしまった……。粗相までしてしまって笑われた時には、もうもう堪らなかったよ……。あれも忘れられない……」

 

 感慨深げに首を振り、ブラックは、両手で肩を抱くとぶるぶると大きく震えた。頬が蒸気していて、少し、汗ばんでいた。

 

 「本番だ……。ここからが重要なんだ。ここで、私は、乳首の素晴らしさを知ったんだ……。ああ、もう記憶と感覚が紐付いていてヤバいんだ……。魔王よ、聞いているかな?」

 

 視線の温度は、絶対零度。実際、執務室は、凍りつつ合った。ブラックからすっと視線を逸した魔王は、唇をひん曲げて、小さく小さく呟いた。

 

 「……気持ちが悪い」

 

 「うーん、グッドだ……。我が魔王……」

 

 罵倒を受け、恍惚と震えるブラックに、変態につける薬は無いなと魔王は、残念そうに溜息をついた。

 

 

 




???「流石我が魔王」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。