没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

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第五話 ウィンター・ツイーンドリルル、勇者になりますわ!

 

 

 

 「『やってみれば分かる』……確かにその通りでしたけれど、あんまりではありませんか?」

 

 炎の勢いが弱まり、日差しも弱く差してきた空を見上げてから俺は、膝をついて何やら棒みたいなもので、地面に転がるトカゲモドキだったものを突っつくホワイトを見下ろした。

 

 「出来たならいいじゃん?」と事も無げに言ってから「っていうかそれよりだよ!」

 

 「え、ええ……なんですの……」

 

 ばっと勢いよく頬を膨らませたホワイトに、ぴっと指を突きつけられた俺は、この娘が何にそんなにも怒っているのか分からなかった。

 

 「もうちょっと綺麗に殺せなかったの!? ぐちゃぐちゃのミンチじゃん~~。しかもウェルダンだよ~~。しっかり火が通ってんじゃんー。ぎゃートカゲくさい~~! 生臭い~~!」

 

 「ええっと……何か問題有りましたかしら?」

 

 「問題有ったからキレてるんですけど????」

 

 「まあ、そうですわね……。失礼しました」

 

 「うむ、わかればよろしい」

 

 自明だった。我ながらバカっぽい質問をしてしまったな……と俺は、反省した。……いやでも何も言われてないぞ。倒してこいくらいしか言われてないし。バラバラミンチにするなって言われてないし。やっぱり俺悪くなくね??

 

 「あー無いなあ。おかしいなあ。中にあるはずなんだけどなあ……。ちょっと反応散らばってて分かりにくいな~~。誰かさんがぐちゃぐちゃのむちゃむちゃにしちゃったからだな~~」

 

 俺は、辺りに散らばったトカゲモドキの欠片をつつきながら、横目にチラチラ見てくるホワイトに、思わず溜息をついた。

 

 「あのですねえ……。もう少しはまともな頼み方はありませんの?」

 

 言うとホワイトは、頬を膨らませて、じーっとジト目で見てくる。俺のせいだって? 俺は、また溜息が出た。やれやれだ。

 

 「しょうがありませんわね。で、トカゲモドキの肉片でいいのは分かりますが、どんなものを探せば良いのでしょうか」

 

 「えっとだね。この感じだと破片じゃなくて大きめの部位かな。でも胴体にとか腕とかぐっちゃぐちゃにしちゃってたから後は、頭かなあ。だけど見当たらないんだよねえ」

 

 「なるほど……」

 

 俺が周囲を見回すと瓦礫の山と死体の山。確かに、ぱっとでは見つかりそうにない。

 

 「そもそもですが、どうしてそんなものを?」

 

 「そりゃって……ああそっか」ホワイトは、思い出したように呟いて「説明してなかったこと説明しよっか」

 

 「先程は、急ぎでしたので聞きそびれてしまった貴方のことですね」

 

 そうだ。仲良くお話してるが俺は、ホワイトのことを何も知らない。この奇抜な髪色に、人形みたく整った容姿。見慣れない服。どう考えても普通じゃない。何より俺をこんな姿にしたのもホワイトだ。この姿も可愛いには、可愛いし、もし町中出会ったなら一目惚れしてもおかしくない。だけど俺は、ナンパしたい方。なりたくなんて無い。

  

 「そうそう。とりあえず、僕が何者か伝えとこうか」

 

 「世界の外から来たとおっしゃっていましたね。あれは……?」

 

 「よく憶えてるね」感心したようなホワイト「そうだよ。僕は、この世界の住人じゃない。この世界の外からやってきた魔法使いってわけ」

 

 「世界の外……?」

 

 世界の外。どういうことかがいまいち要領得ない言葉だと思った。

 

 「つまり、この空の向こうとかそういう話でしょうか……? この大地の果てのまた海の先には、断崖絶壁があり、海は一度落ち、また雨となり帰ってくる……と聞いています」

 

 遥か昔、何もなかったこの世界にやってきた彼、唯一天神が一つの大地を作って、浮かべたらしい。常識だ。家庭教師との授業でも、教会の神父の話でも聞いた。子供でも知ってる。

 

 「ああ、天動説ね。久々に聞いた。ここってどうだったかな……まあいっか」

 

 独り言めいて呟いてから肩を竦めたホワイトは、言葉を続ける。

 

 「あのね、僕が言ってるのは、物理的な世界の切れ目じゃないんだ。世界ってのは、例えると池なんだよ。一つ池が有って、中に魚が一匹いるとする。その隣にまた別の池がある。ここにもまた魚がいる。二つの池に繋がりはなくて、独立したものとする。池の一つ一つが僕の言う世界さ」

 

 「……なんとなくですが理解できました。では、貴方は?」

 

 「僕を例えるなら池を自由に移動するカエルだね。飛んで跳ねて、おっぱい巡って世界を回ってるってこと」

 

 余計な一言がついていたが俺はスルーすることにして、浮かんできた疑問を口にした。

 

 「王国の国教である唯一天神教の唯一神は、この大地ではないところからやって来られたと聞いております。もしかして」

 

 「どうだろう。昔々は、ややこしいルールも僕らみたいなのもいなかったからそういうこともあるかも」

 

 「ルール?」

 

 また新しい内容が出てくるなこれは……と俺は思いつつも尋ねずにはいられなかった。分からないままのほうがよっぽどまずくて、気持ちが悪い。なによりこれは今後に関わる情報だ。訊いておいて損はない。

 

 「不干渉のルールさ。過ぎた干渉は毒になる。異物が混ざれば必ず何か反応がある。今回みたいにね」

 

 「……今回、つまり、あの魔王軍の侵攻――もしかして炎の四天王サラマンドロスも貴方の干渉があってということでしょうか?」

 

 少し、いやかなり棘を含んでしまう。

 

 「違うよ。あれは、僕じゃない。

 言ったよね。こうなる前兆を見て、僕は、ここに来たんだってさ。まあ、間に合わなかったし、僕も結果として干渉になってしまったけどさ」

 

 そうだった……。ホワイトが言っていたことを思い出した俺は、息を吐き、肩の力を抜き、頭を冷ます。頭に血が上って、喧嘩っ早くなってしまった。とんだ失態だ。

 

 「申し訳有りません。そうでしたわね」

 

 「いーよ。気にしないで。お……? あっちのほうにも反応が……」

 

 そう呟き、一直線に歩いていくホワイトの後を俺は黙って追っていく。炎もかなり収まっていた。あれだけ消えずに燃え盛っていたのに、トカゲモドキが死んだのを合図に沈静化の一途をたどっていた。ただの炎ではないのは、明白だった。老若男女の死体と周囲一面に広がる瓦礫の山。自然と怒りが募り、爪が掌に食い込む。

 

 「この辺のはずだけど。あ、あった。スゴイ飛んでたねー。炎とか破片がチャフみたいになってたせいかな。探知が難しかったね」

 

 ホワイトが持ち上げたのは、サラマンドロスの頭部。目を剥いていて、だらんと舌を出した死に顔は、壮絶だ。殺しておいて言うのもなんだけどな。

 

 「これをどうするんですの?」

 

 「中にあるものを取り出すんだよ」

 

 言ったと同時に、ホワイトの片手の周囲を白く輝く円がいくつか浮かび上がって、回転を始めた。その指先をサラマンドロスの額に向けて、一気に突き刺した。肉を潰す音とか引き裂く音はしなかった。すり抜けてるみたいだ。不思議そうに見つめる俺の前で、ホワイトは、手首までサラマンドロスの頭に埋めて、何かを探すように手を動かしている。何が出てくるんだろう。次の瞬間、俺は、思わず顔を引き攣らせた。

 

 「おっとっと」

 

 ズルズルと音をたてて、サラマンドロスの頭から出てきたのは、赤黒くて、細長い何か。うねうね蠢いていて生物的だ。こういう虫とか魔物は見たことがある。ホワイトの真っ白な手で掴まれてるから余計黒々して見える。正直、気色悪い。

 抜き出されたサラマンドロスの頭は、さらさらと砂のようになって、形を失っていった。あのうねうねがサラマンドロスを生かしていたのか……?

  

 「こ、これが探しものですか……? き、気持ち悪いですわね……」

 

 つい口にしてしまった。するとホワイトも苦笑い。

 

 「うん、そう。これは、コード(・・)。元々は、地面とか空気とか空とか木とか、万物を構成するものなんだ。君の体ってそうだよ? 今の体も、前の体も細分化し続ければいずれコードが現れる」

 

 「え、わたくしもそんなイモムシなんですの……?」

 

 震え声の俺に、苦笑いのまま「違うよ」と首を振って否定する。ちょっと安心した。あんなのが這い回ってるなんて思うと生きていけない。

 

 「これはちょっと特別なんだ」

 

 ぱっとホワイトの表情が一変した。笑みが引っ込んで、苦々しさが残り、忌々しさが現れた。

 

 ぐしゃりとホワイトは、それを握りしつぶし、憎々しげに言った。

 

 「これの名前は、改造(・・)コード。今、現在進行系で、この世界を犯して、壊してるものだよ」

 

 「……ええっと、改造、ということは最初のコードとは、また別のもの? 属性的な違いでしょうか……?」

 

 「まあ、ろくでもないものとでも思ってもらえればいいよ。あっ、ちなみに君をおっぱい大きな女の子にしたのもコードの力だよ」

 

 「コードろくでもないですわね!? ということは、貴方も使えるのですね?」

 

 「僕のは、改造じゃないよ? 合法だよ。どう違うかは……ちょっと説明が難しいなー」

 

 「構いませんわ。『貴方のものでは無い』ということは、つまり、貴方のような人が魔王の方にもいるということでしょうか?」

 

 「うん。ブラックって言ってね。忌々しいやつさ。僕は、そいつをずっと追いかけてるんだ。つまりそいつが干渉してるってこと」

 

 ……おっぱいじゃないんだな。シリアスの傍ら、俺の思考が横道に入ってしまう。

 

 「あ”ー!! 思い出すとめちゃくちゃ腹立ってきた~~!! ぺったんこの癖ほんと生意気なんだよ!! ちょーっと年上だからってなにさ! もー!! ほんとっ、むかつく!」

 

 ぷんすか怒るホワイトを見て、内心思う。君も十分ちっぱいだぞ。俺は、ばいんと胸を揺らした。当てつけではない。無駄にでかいから動くと勝手に揺れるだけだ。

 

 「今、なんか失礼なこと思わなかった?」

 

 「いえ? まったく。少しも。これぽっちも」

 

 「ならいいけど……」

 

 向けられたジト目に、にっこり爽やかお嬢様スマイルを浮かべて、俺は対応する。この短期間でだいぶ慣れてきたな。非常に不本意だ……。

 

 「あら、少し騒がしいのが来ていますね」

 

 ふっと聞こえた音の方へ俺は視線をやる。蹄が地面を叩く音と甲冑の揺れる音。多いな。どこかの騎士団か? とか思ってると視界がぐっと拡大した。うお、気持ち悪……気持ち悪くないけど心象的に、気持ち悪い。視界には、耳の通り、騎兵に歩兵と装備も潤沢な一団の姿がある。それぞれの盾や甲冑に記された紋章に、俺は、見覚えがあった。

 

 「あれは、王国の……?」

 

 王都にしか咲かない花、桜と槍に剣。王国騎士団が来たんだ。王都との距離を考えれば、随分早い。かなり飛ばしてきたか。近くに居たかのどちらかだろう。

 

 「おっと、これはちょっと会いたくないな……。僕、隠れてるね。都合良くなったら呼んでよ」

 

 「へ? え? ちょ、ちょっと待って下さい! わたくしも王国騎士団に会いたくありませんわよ!? 状況説明ができませんもの!! 嫌ですわよ!? 男から女になったって真面目に説明してから、髪振り回して、魔王の四天王を殺したって真顔で言うの!! 嫌ですわよ!? 重要なので2回言いましたわ!!」

 

 「はいはい。大丈夫だよ大丈夫。ノーマンタイ。君なら出来るさ――」ホワイトは悪戯に笑って「――勇者様」爆弾を残していった。

 

 「は?」

 

 俺の思考が固まった。勇者? 俺が? イッツミー勇者? は? なんて混乱のまた混乱の中の俺をいつの間にか到着した騎士団が囲んでいた。武器は向けられていない。むしろ膝をつかれている。え? どういう状況? きょろきょろする寸前、俺は、奥の方からやってきた美女を見て、いよいよ限界を迎えそうだった。ああ、卒倒しそう。くらくらする。

 

 「貴方が、勇者殿ですか……!!」

 

 ひざまずき、感極まった表情で、俺を見上げるおっぱいの大きな銀髪を複雑にまとめ上げた彼女は、第1王女にして騎士団長、オフェーリア・メルティ・アンブレラ。

 この国――アンブレラ王国の最高権力者に近しい人が俺の前にひざまずいてる……吐きそう。込み上げる胃液の苦さに辟易しながら、俺は、この現状をどうにかしなければと自分に鞭を打った。

 

 「王女様、おやめください。お召し物が汚れてしまいます。皆様もわたくし如きに膝をつかないでください」

 

 俺は、ひざまずいてる王女に合わせて膝をつく。うっわめっちゃ顔がいい。まつげなっが。青い目が綺麗。なんかいい匂いする。強行軍だから風呂とか入ってないはずなのに、なんでだ……? やっぱ顔がいいと違うな。

 

 「しかし! 貴方が居たからこそこの国は、まだ健在なのです!! 敬意を示させてください……!」

 

 「いえ、わたくしは、守れませんでした。わたくしの故郷を、両親を、友を、民が焼かれるのを前に、何もできませんでした」

 

 「勇者様……」

 

 「いえ、わたくしは、勇者などというたいそれたものではありません。勇者になれる大層な器では、ありません」

 

 「そんなことはありませんっ!! こうして、勇者様は……!!」

 

 必死に擁護してくれる王女に、俺は、微苦笑を浮かべた。

 

 「わたくししか居なかったのです。臆病と幸運が功を奏し、生き残ったわたくしは、天使様から啓示を受け取りました。力を得て、魔王を討て、と」

 

 目を見開く王女様に、俺は、頷く。

 

 「わたくしは、ウィンター・ツイーンドリルル。ツイーンドリルル辺境伯の長女、ツイーンドリルル家唯一の生き残り――ただの、復讐者です」

 

 俺は、「しかし、」と一つ前置きして。

 

 「人がわたくしを勇者と呼ぶならば、わたくしは、きっと勇者なのでしょう。貴方も勇者と呼んでくださります。だからわたくしは、期待に答えたい」

 

 王女の手を取り、俺は、立ち上がる。周囲で見守ってる兵や騎士、集まってきた民を見回した。期待、不安、悲しみ、怒り。様々な感情がマーブル模様に浮かんだ瞳が俺の周りにある。皆一緒だ。俺だって、そうだ。だから勇者なんて言う肩書きは、凄まじい重責だ。勇者と呼ばれるからには、魔王を倒さなければならない。戦いの日々になる。

 

 でも、もし俺が戦わなかったら? 俺が逃げ出せば? きっと王国中の騎士が魔王軍とあの四天王、そして、魔王と戦うことになるだろう。その時、人は勝てるだろうか。分からない。でもサラマンドロスのようなものがまだ三人いる。王国の精鋭達を物ともしない怪物だ。事実、ここまで誰も止められなかった。

 

 俺だけがどうにかできた。俺だけが立ち塞がることができて、倒せた――……俺は、やるしかないのか? やれるのか? 自問自答がぐるぐると回る。期待が視線を媒介して突き刺さる。背中を伝う冷や汗を嫌に意識してしまう。

 

 『君ならできるさ。勇者様』

 

 ホワイトの声がリフレインした。たく。軽く言ってくれるもんだよ。その時、ぎゅっと王女と握ったままの手に力がこもったのを感じた。ふと視線をやるとまた王女と視線が合った。

 

 『私は、いつだってやれることをやるだけさ。ノーブレス・オブリージュなんて言葉あるだろう? 言葉面ほど立派で大層な事はできないだろう。しかし、私はできることがしたいんだ』

 

 『私は、家族を友を民を守りたい。この故郷を守りたい。ウィンター、勿論、お前もだ』

 

 『こんな風に、いつかお前にもやるべきことと、やりたいことが生まれるだろう。交わらない道かもしれない。真逆の方向かもしれない。選ばなければならないかもしれない』

 

 『ただ一つ、後悔だけはするな。後悔しない道を選べ』

 

 蘇るのは、いつのかの青い空の下。剣術訓練の合間、俺に語った兄貴の顔を憶えている。その背中は、憧れだった――だけどもう、見ることはない。……兄貴、分かったよ。俺は、軽く肩から力を抜き、言った。

 

 「――わたくしは、勇者として魔王を討ちます」

 

 

 

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