没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!! 作:クルスロット
第八話 ウィンター・ツイーンドリルルと王都壊滅《デストロイ》?!
甲高く、そして、低く唸る風に、私は、ボロ布の如く翻弄されていました。ぐるぐる視界が周ります。自分の声すら聞こえず、叫んでも微かにしか聞こえない。悲鳴を上げてはいましたが、途中で止めました。無駄でしたから。
いつの間にか私は、空にいました。気づいたらもう空の上でした。さっきまで、ベッドの中に居たはずなのに……。空が綺麗な青空ならばどれだけよかったでしょう。蒼天に、ぽつんと浮かぶ点。心地の良い風に揉まれ、あそばれる。空の一部になるような爽快感。そうであるならどれだけよかったでしょう。現実は、美しくなく、私の望みをくんではくれませんでした。
砂埃と雹。瓦礫に、その破片。生き物、その一部。地上にあるものは、根こそぎ引き上げ、引きちぎり、巨大な巨大な腹の中に収めようとしています。猛獣の檻、魔物の巣。陳腐な例えがほんの一瞬、私の中に浮上しました。けれどどれもこれも大人しすぎる。
――災害。人類史に、巨大な爪痕を残すかずたずたにしてしまうほどの自然の破壊者。
そうとしか私には、形容できませんでした。
などと呑気に考えてる時間もそろそろ終わりのようです……風が死を運んできました。
先程まで全身を打っていた破片や雹とは桁違いに巨大な瓦礫。赤黒く染まったそのさまは、唯一天神様の語った地の底の底にあるという地獄の欠片を彷彿させました。今まで以上の恐怖が押し寄せてきたのは、言うまでもないでしょう。
これでも私は、王女で騎士団長です。家庭教師には、魔法と肩書に相応しい剣技を収めています。剣に魔法。私は、両方の天武を持ち得たからこそ王女で騎士団長なんていう馬鹿げた肩書が許されたのです。
ですが……これは、少し斬れないですね。地もなく、剣もなく。風の翻弄は、私の力のほとんどを削ぎ落としていました。風の魔法には、風を操るすべがあります。何故使わないか?となりますよね。ええ、悲しいことにこの風は、私の手を受け付けませんでした。破壊衝動で一面塗りつぶされていて、手綱を握ることすら許してくれない。悔しくて歯噛みしようにもここまで明確に天と地ほどにも実力差があるのを見せつけられると溜息をこぼすくらいしかできません。
あの時の炎。炎の四天王の生み出した炎のようでした。あれもまた人の手を拒み、あるがままに振る舞っていました。つまり、破壊です。癒やしを受け付けず、鎮火もままならない。そういう炎でした。だとするとこれもまた四天王の仕業? 風の四天王? 私は、ようやくこれを何なのかに気づきました。攻撃です。災害ではなく人類への明確な攻撃だったのです。天災と見間違うばかりに強烈な攻撃。気づいたところで、どうともなりませんが。
ああ、なんと無力なんでしょうか――私は、最期を目の前に、目をつぶりました。騎士団長として、将来、国を統べる人間として
も失格にあたる行動。
でもだって、しょうがないじゃありませんか。こんなの、どうすればいいのです。言い訳が走馬灯代わりに思考を埋め尽くしていきます。止められない言い訳と時間。刻一刻と死は、迫って、もう目と鼻の先。
「……たす、けて」
こぼれた言葉は、あまりにも情けなくて。すがるように脳裏へ浮かんだ人に手を伸ばしていました――――。
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「スーパースクランブルトルネードリルキークッッッッ!!!!!!!!」
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「寝起きの一撃かましてやりましたわっ!! わたくしの睡眠時間を奪ったのは、†罪†、いいえ! †大罪†でしてよっ!!」
背中を押すツインロールの速度をぶち乗せて、ぶちかました飛び蹴りの爽快感は、堪りませんわねえ! ああー!! 言語回路めちゃくちゃだー!! でもなんだか気持ちいいし、いっか! ちょっと癖になってんな……困ったもんだ。とか言いつつわりと楽しくなってきているところはある。人間って、適応する生き物だから……と俺は、自己弁護を張り巡らせつつ、お姫様抱っこ(二重の意味で)した王女様に微笑んだ。
「ご無事でしょうか、オフェーリア。遅くなってしまって申し訳ありません」
「……ウィンター様? ウィンター様、ですよね?」
「ええ、ウィンター・ツイーンドリルル。ツイーンドリルル辺境伯が次男にして、勇者! わたくし、ウィンター・ツイーンドリルルは、ここにいますわ!」
ぼんやりとさだまらない視線と言葉を投げてきたオフェーリアに、俺は、頷き答える。きっと死を目の前にしたのもあって現実味に欠けているのだろう。俺だってそうだった。こういう時は、戻ってこれるように安心させてあげるのが一番だ。
「ウィンター様」
ぐっと顔を近づけてきたオフェーリアに、俺は、目を丸くしてしまう。こんな事をしている場合ではないのに、立ち止まっている。ちなみに、体、というかツインロールは、勝手に動いて、飛び交う岩やらなんやらを粉砕している。どうやら浮く分は、片方だけで済むらしい。戦闘の幅が出る気づきだ……。活かせるな……。
「私の王子様になって頂けませんか?」
「……王子様?」
「ああいえ、違います。
「…………うん?」
なんだこの流れ。私だけ? ホワイ? ちょっとよくわからない。
「お友達から段階踏んでいこうと思ったんですけど、さっきので我慢効かなくなりました。酷いです。ちょっとカッコよすぎです。犯罪ですよ。あんなの。不敬です不敬。責任取らないと重罪で牢に閉じ込めてしまいそうです。あ、いいですね。私だけの秘密の牢屋……素敵です……」
「お友達からではいけませんか……!?」
「駄目です」
「あ、そ、そうですわ。今、わたくし、男ではないので王子様――「却下です」あっ、はい……」
「ふふ、決まりですね……!!」
満面の笑みで言われてもなーー……!! と俺は、苦笑いの中、打開策を探して、頭を巡らせる。……しまったな。逃げるしか思いつかない。いや、そもそもそんな事をしている場合じゃないぞ、俺!
「と、とりあえずこれをどうにかしないことには、どうにもなりませんわ! オフェーリアには、安全な場所に避難頂いて……っとお!!」
言い切る前、突然飛来した風の砲弾としか言いようのないものを俺は、全力で回避した。密度が高すぎる。ドリルで弾くには、厳しいし、真正面からぶつかるとオフェーリアが危険だ。ッ! 二、三、四!! 次々と襲ってくるのは、薄緑色をした風の砲弾。砲撃よりもこの精密さは、狙撃に近い。そして、何よりも。
「どこから撃ってますの……!?」
言った傍から四、五、六とおかわり! ついでに、こっちを絡め取ろうとトルネードがその巨躯をうねらせてくる。
「あーもう!! なんなんですの!!」
オフェーリアをホワイトの所へ連れて行く暇もない! 回避し続けるので精一杯だし、なによりオフェーリアを傷つけないようにしないと。俺は、多分これくらい食らっても大丈夫。だけど普通の人間には、無理だ。
王都の街もぐちゃぐちゃだ。見下ろして微かに見える街並みは、昨日の夜通りすがった時、俺が感銘を受けた姿は一つとして残っていない。街の光も街の活気も歩く人々の日々も。皆、諸共風に砕かれてしまった。
許しがたい。俺は、また目の前で、人と街を失うのか。失ったのか?
「ウィンター様、邪魔でしたら……私を、捨てて……」
「邪魔なんかじゃありませんっ……!!」
っとしまったな……。噛み付くみたいに答えちゃったよ。違うんだ。違うんだよ、オフェーリア。
「申し訳ありません。少し、気が立っていました」
俺は、謝罪を口にしてから真正面から来た風の砲弾をローリングでかわし、その機動を読んだかのような時間差で、左右挟み込むように来た砲弾をまたもやローリング――今度は、ツインロールを振り回す形で――して、やり過ごした。
「決して、邪魔などではありません。逆です。貴方が居るからわたくしは、戦える。貴方という重みがわたくしに、無限の強さをくれるのですわ」
誰かを失うなんてもう懲り懲りだ。二度と失ってたまるかよ。とまで思って、誰かが誰かを失う悲しみを今、味わってる。俺は、それを防げなかった……。
『ウィンター。君は、神様じゃないよ』
分かってるさ。分かっているさ。だけどそれでも……って、ホワイト?! どうしてこんなところに!?
「貴方、こういうのできるんですの!?」
「ど、どうかいたしましたか……? ウィンター様」
『頭の中で喋る感じ。口に出さなくていいよ』
『先にそういうことは言いなさい……!! 頭おかしくなったと思われるでしょう……!!」
な、なんでもありませんわよ~~。オホホ~~。と下手くそな誤魔化しを入れながら俺は、ホワイトに苦情を入れた。『あはは、ごめんごめん』と苦笑いのホワイトの声が聞こえて。
『なにかようですの? 内容によっては、おっぱい揉ませて上げなくもなくってよ』
『でじま!!?!? あ、そうそう、敵の居場所、分かったよ』
「どこですのっ!?」
『上さ! 王国上空、約四十五キロメル地点、成層圏!! 人類未到達領域だよ!!」
「なっ、嘘でしょうっっ!?」
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「キャハ、キャハハハハハハッッ!!!! ばーっか! ばぁぁか! そんなんで、このあたしを、この風の四天王、シルフィーリベア・メランコリックボルトを捉えられるはずがないじゃんっ!!」
空を睨んだウィンターがオフェーリアを傷つけぬよう大事に抱きしめながら回避するのを見下ろすシルフィーリベア・メランコリックボルトは、冷笑を浮かべていた。
彼女は、今、――成層圏に居た。正確には、王国上空、約四十五キロメル地点。人類未到達領域にて、青と緑の彩る星に浮かぶ大地を見下ろしたシルフィーリベアは、サディスティックに口端を上げ、両方の眉根を上げていた。
現在、王国を蹂躙するトルネードは、シルフィーリベアの仕業だ。
「キャハハハハ!! 踊れ踊れ! 落ちろ落ちろ! 惰弱で脆弱! くだらない人の身で抗うなんて、なんとまぁ、お可愛い!」
弓引くように両手を構えた彼女の周囲に浮かぶのは、ウィンターを圧殺、轢殺せんと唸る風の砲弾。ただの人ならば触れなくとも余波にばら撒かれるかまいたちに引き裂かれるだろう。直後、次弾が放たれる。ウィンターへと風の砲弾は、唸りを上げて、地上へと向かっていく。シルフィーリベアの視線の先では、ウィンターが風の砲弾に翻弄されているのが見えた。彼女の愉悦が深まる。
「ブラックの言ってたことは本当だったようね。なるほど。近くで相手をするのは、馬鹿らしいわね」
狙撃とトルネード。二つの手法で、シルフィーリベアは、ウィンターを殺しにかかっていた。彼女は、近接に使用するリソースを全て遠距離に注ぎ込んでいる。サラマンドロスが出力配分を近接に重きを置いていたのに対して、真逆だった。
『きぃー!!!! 芋スナとは卑怯ですわよ!! さっさと顔だして正面から殴り合いなさーい!! マナーがなってませんわよ!!』
「はっ! あんたみたいな野蛮なやつとだーれが真正面からやるっつーの!」
風を司る彼女は、長距離でも声を正確に捉えられる。嘲笑を唇に浮かべ、トルネードの回転を上げた。のたうつ風から懸命に逃れようとするウィンターに、シルフィーリベアは、腹を抱えて笑い、目尻に涙を浮かべた。
「キャハハハハ!! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねえええええ!!!!!」
それまでと比べ物にならないほどの多量の風が周囲で圧縮され――ウィンター目掛け、いいや、逃げ場ごと押しつぶさんと落ちていった。
「――死んじゃえっ」
ウィンクと同時に生み落とされた風の砲弾を遥かに上回り、巨大という言葉が陳腐に聞こえるほどに巨大な風塊、風の隕石とでも言うべきそれを引き連れて。
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直後、王都上空を埋め尽くす雲を一方で薙ぎ払い、一方で飲み込みつつ現れたのは、風の隕石。王都を押しつぶさんとするそれは、絶望の二文字がよく似合った。