没落TS勇者令嬢ウィンター・ツイーンドリルルは、魔を切り裂き、光をもたらすのですわっ!!   作:クルスロット

9 / 25
第九話 ウィンター・ツイーンドリルルとポニーロール、そして、時々シュシュ

 

 

 

 「な、なんですかあれ!!」

 

 「なんですのあれ?!」

 

 同時に、声を上げた俺たちの視線の先には、これまでとあまりにもスケールがかけ離れた風の、なんだ……? なんだあれは? わからない。何が来ている? 何が起きている?

 

 『ホワイト! なんですのあれ!!』

 

 『ええ~~。なにあれ~~』

 

 『現実逃避している場合じゃなくってよ!! さっさと分析しなさーい! さっさと情報寄越しなさーい!』

 

 あまりのことに、ほうけた声を出すホワイトへ気付けとばかりに声を張り上げた。

 

 『え、あ、そうでしたー!! ちょっと待ってて!!』

 

 我に返ったホワイトが何やら忙しそうに独り言を言うのを聞きながら俺は、再び空を見上げた。でかい。王都が丸々射程に入ってるんじゃないか? やばいな。どうする? 上にいるっていう風の四天王を叩くか? だけど四十五キロメル? そんなのありかよ。あんまりにも遠すぎる。行けるのか? どうだろう。これには、確証が持てなかった。行ったことのない場所、想像もつかない領域。やれる気がしない。

 

 そう思うとどうにもツインロールの回転が鈍っているようにも感じた。でかい壁にぶち当たってる感じだ。硬くて分厚い壁。ツインロールの先が通らないくらいに。いつの間にか基準がツインロールになってるのやばくないか?

 

 「どうすれば……」

 

 『分かったよ!! 仮称、風の隕石! あれは、本質的に風の砲弾と変わらない。ただその密度、規模が桁違いなんだ! 着弾すればここら一帯、つまり、王都が丸ごと瓦礫の山になる!! それだけじゃなくて、着弾と同時に暴れまわって、何もかもを巻き上げるんだ。

 すると、どうなると思う?』

 

 『もったいぶってないで、さっさと話しなさい!』

 

 『オッケー! あれが着弾すれば巻き上がったチリが空を埋め尽くして、日の光を遮断する! 世界中の天候がめちゃくちゃ! その他色々大災害盛りだくさんだ! 風属性の仕業というよりこりゃもう改造魔法(カスタムマジック)の事象改変に近くなってる。天候を決めるサイコロに細工されちゃってるよ! デイ・アフター・トゥモローかっての!』

 

 「なんですのそれ!! ああもう、めちゃくちゃですわね……!!」

 

 苦々しく呟く今もタイムリミットは、刻々と近づいてきている。上空の圧も増し、トルネードの規模も変わらない。狙い撃ってくる風の砲弾もどれもこれも一部の隙を見せれば、俺とオフィーリアを粉々にしてしまうだろう。

 しかし、どうする。成層圏とは、どんな場所なんだろうか。この空の先、四十五キロメル地点には、どんな風景が広がっているのだろうか。少し想像してみる――駄目だな。さっぱり分からない。

 

 「……ウィンター様、あれは、一体、なんなのでしょうか」

 

 「へ? あっ、そうでしたわね。説明がまだでした」

 

 盛り上がった心を冷静にさせながらホワイトから受けた説明を掻い摘んで、オフェーリアに話していると見る見るうちに彼女の顔が青ざめていく。

 

 「なんて、そんな……」

 

 あーまあ、そうなるよな。なんと励ましたものか……。しかし、打開策がない以上、励ますも何もないよな……。あーでもないこーでもないと俺は、内心ぼやき――あれは、俺は、ある一点を見て、目を見張ると加速した。向かう先は、下だ。瓦礫の山。街中、家屋があったであろう場所。

 

 「オフェーリア、振り落とされないよう掴まっていてくださいね!」

 

 「もう掴まっています!!」

 

 風に遮られないよう俺は、叫び、風の手を振り切るように加速した。顔を打つ風に、目を細めていたオフェーリアもどうやら俺が何に向かって加速していたのか気づいたのだろう。表情が変わった。俺が何に向かっているのかに気づいたみたいだ。

 今にも吹き飛びそうな人々がいた。家屋の残り滓みたいな瓦礫の下に隠れ、しがみついている。俺が向かっているのは、勿論、彼らを助けるためだ。

 

 「オフェーリア! 守れますかしら!?」

 

 「剣と鎧無くとも私は、王国騎士ですっ! やりましょう!!」

 

 一部も迷いの無い目と声だった。俺は、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 「承りましたわよ!!」

 

 オフェーリアの体が淡く輝きだした。赤と茶。恐らく火と土の魔法だ。やはり王女で騎士団長をやっているだけある。詠唱抜きでの二属性の使用。超一流の証だ。実際の俺、男の俺なら手も足も出ないだろうな。悔しいというかなんというか。この体でなくちゃ、俺は、彼女と肩を並べることもなかった。

 ……そう思うと、この体も悪くないのかもしれない。

 

 「私が保護します! 投げたりできます?」

 

 「投げっ……!? いえ、かしこまりましたわっ!」

 

 大胆な提案だったものだから一瞬、驚いたがぐるんと体を回し、勢いをつけて、オフェーリアを地上へと投げた。ぐんと遠ざかる彼女の背中に揺れる髪、尾を引く赤と茶のラインがオフェーリアの足跡みたいだ。無事に辿り着くところまでは、見守らなかった。多分、問題ない。オフェーリアならやれる気がする。

 

 「だからわたくしは、わたくしの仕事を――」

 

 目の前にやってくる巨大な壁――これは、城壁だ。外縁部を囲っていた城壁が丸ごと引っこ抜かれてきたんだ。このまま行けば、オフェーリアの勇気も無駄になる。気合い入れていくぜ。

 

 「しますわよっ!!」

 

 ツインロールを同時に叩きつけ――俺は、目を見開いた。先端は、何も触れなかった。空振った!? 割れた?! 振りかぶったままの体勢で、俺は、城壁のズレに生じた亀裂へと突っ込んだ。その先には、無数の風の砲弾。背後で、亀裂の閉じる微かな音。やばい、これは――。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「罠ってこと♪」――――四十五キロメル上空、シルフィーリベア・メランコリックボルトは、嘲笑う。

 

 

 

 +++

 

 

 

 ――飛び込んでしまった以上、退路はない。背後を塞がれているため、回避する先がない。今、この場で、どうにかするしかない。負けを認める選択肢はない。毛頭ない。最初から選択肢に入れていない。俺は、迫る風の砲弾の壁を睨む。巻き込まれれば、一巻の終わりりだ。

 

 通すわけには行かない。この後、瓦礫や風の砲弾が襲いかかるのは、オフィーリアや無辜の人々だ。猶予はない。今この瞬間、加速する思考の中で、答えを見出すしかない。最適解を引き出すしかない……左右同時に攻撃して、両方をまとめッ――なんだ!? 俺の思考を中断するような軽い衝撃。一、二、三……次々と来る。何かは、すぐに理解した。風の砲弾よりもさらにさらに小さな風の玉とでも言うべきものだ。それが瓦礫と砲弾の合間を行き交い、反射している。致命的ではないし、大したダメージにはならないが数が数だ。うっとおしいし、集中が乱れる。

 

 「性格っ悪い、ですわよッ……!!」

 

 なんて悪態をつくと風の玉の数が倍になったような気がする。地獄耳め!! なにはともあれ移動を、捉えられないように細かな移動を。このままじゃ何もできないままだ。

 しかし、それすら読んでいたのか俺の進路をさえぎるように、並ぶ風の砲弾が一つ、ズレた。続けてその周囲の風の砲弾もズレていくる。囲まれる、圧殺される。冷や汗が背中を伝った。加速する、脱出しなければと鼻先に風の玉がばしんと叩きつけられた。

 

 「っ……!!」

 

 軌道がぶれる。風の砲弾に突っ込みそうになるのを急停止で、俺は、どうにかしのいだ。が、目の前で道は閉ざされた。

 

 「……まずいですわね」

 

 もう時間がない。ラッシュで、全て消し飛ばす? 多分、駄目だ。手数が足りない。ラッシュにも限度がある。だったらどうする? どうすればいい? なぜラッシュではだめか? 手数が、足りない。二本しかないからだ。

 

 「ハァッ! 考える、時間くらいくれてもいいじゃないでしょうかっ!」

 

 不意をうってきた風の玉をツインロールで、受ける。回転で簡単に消し飛ばせる。最初からそうしておけばよかった。

 

 なら、増やせば? 増やす……複雑な事になる。手間取りそうだ。今即座に行うのは、難しい。だったら、まとめる? その時、脳裏に過ぎったのは、オフェーリアの姿。シャワーを受けて、背中に張り付く髪、風になびく髪、出会った時の綺麗に編まれた髪――なるほど、そうすればいいのか。ひらめきに笑みを浮かべた。

 

 活路が見えた。瓦礫を蹴る! 前に出る! きっと罠を仕掛けた本人は嘲笑ってるに違いない。だけど次にお前が作るのは、吠え面だ!

 

 「かんんんっぜんっに!」

 

 手数ではなく、愚直に貫くもの。小さな二ではなく、大きな一。大は小を兼ねる。故に、俺が作るのはっ! 巨大な、一振りのロール! 眼前に構えたツインロールを合わせ、捻じり、回る! 回転! 回転! 回転だ! ツインロールの時と同様のローリング。だけどこれは、回避行動なんかじゃない。攻撃だ。風の砲弾の壁を物ともしないパワー! 

 

 「理解しましたわよっ!!」

 

 絶望そのものだった風の砲弾が回転するロール巻き込まれていく。風への干渉と強制を回転力で上回ったんだ。

 

 「パワーイズジャスティス! これこそが力! 力こそパワー! ですわよ!!」

 

 周囲の瓦礫、城壁もロールへと引き寄せられ、瞬く間に粉砕! 粉砕! 大粉砕! 首を振って、俺は、ポニーテイルを払う――ポニーテイル、否! これは、ポニーテイルではない! これが、これこそが!!

 

 「ポニーロール、でしてよっ!」

 

 俺は、金に輝く巨大なポニーロールを空に掲げ、叫んだ――宣戦布告ですわよ。空の向こうに、笑みを向けてやる。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「い、意味分かんない……」――シルフィーリベア・メランコリックボルトは、呆然と呟いて――鼻で笑った。

 

 「それがどうしたっていうのよ! これをどうにかできなきゃ、意味ないんだから!!」

 

 シルフィーリベアの眼下には、彼女の放った風の隕石は、依然として、健在。勝敗未だ揺らがず。シルフィーリベアの手中に、勝利有り。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。