突如として封印の間に広がった白い霧のような現象。
この現象を俺は良く知っている。
「…………デジタル……………フィールド………………!」
デジモンが
デジモンが現実世界に現れる際、デジタルワールドの自分の
だが、それが意味する所はただ一つ。
「皆! 集まれ!!」
俺は咄嗟に叫んだ。
「大士君………!?」
「ど、如何したの黒騎………?」
突然叫んだ俺に戸惑うすぐ傍に居た葵さんと園部さん。
だが、説明している暇はない。
「話は後だ! 1ヶ所に集まれ! ハジメ! 早くしろ!」
俺の呼びかけに普通では無いと感じたのか、ハジメはユエを背負ってこちらに駆け寄ってくる。
ハジメを治療しようと傍に行こうとした白崎さんも戻ってくる。
「どういうことだ、大士? この霧のような現象と何か関係があるのか?」
ハジメが問いかけてくる。
「これはデジタルフィールド! 簡単に言えば、デジモンが現れる時の兆候だ………!」
「何っ!?」
「えっ!?」
俺の言葉に驚く面々。
俺は前を見ると、霞がかった視界の先に大きな影が浮かび上がった。
「気を付けろ…………! デジモンが………リアライズする…………!」
俺の言葉と共に、その影が完全な形を成し、
「キシャァアアアアアアアアアッ!!」
その姿を現した。
その姿はまるで先程の巨大蠍と同じように蠍を模した姿をしている。
しかし、先程の巨大蠍が鉱石の様な甲殻に覆われていたのと違い、目の前のデジモンはまるで骨そのものが蠍の形を成したようなデジモンだ。
「こいつは…………!」
俺は見覚えのあるデジモンに声を漏らす。
直ぐにDアークを取り出してその情報を確認した。
「スコピオモン 完全体 データ種 昆虫型デジモン。必殺技は、尻尾の先にある猛毒針『ポイズンピアス』……………くっ、やっぱり完全体っ……!」
記憶通りだったスコピオモンの進化段階に俺は冷や汗を流す。
スコピオモンは、額も含めて3つの目を怪しい黄色に光らせ、俺達を見据える。
すると、先程の巨大蠍の鈍重な動きとは違い、軽快な素早い動きで俺達に接近し始めた。
スコピオモンは腹部に4本の爪の様な足を持ち、大きな後ろ脚による脚力と腹部の爪の様な足の補助で軽快に動く。
途中眼前に会った先程の巨大蠍の死骸を前腕による一撃で粉々にする。
「あの巨体が一撃で粉々だと!?」
ハジメがその威力に声を上げる。
「くっ!」
ドン、ドンっとハジメがドンナーを放つが、スコピオモンの骨の様な甲殻の前にあっさりと弾かれた。
「くそっ! あんなに軽快な動きで硬いなんてそんなのありかよ!?」
先程の巨大蠍はまだ動きは鈍重だったからまだマシだが、目の前のスコピオモンは骨の様な見た目も相まって軽そうな雰囲気を見せる。
「ドルガモン!」
「ギンリュウモン!」
俺と葵さんはパートナーに呼びかける。
2体は空中へ飛び上がり、
「パワーメタル!!」
「徹甲刃!!」
ドルガモンが鉄球を放ち、ギンリュウモンが鋼の槍を飛ばす。
2つの必殺技がスコピオモンに直撃し、スコピオモンは足を止める。
だが、
「キシャァアアアアアアアアアッ!!」
多少の痛みは与えたようだが、それが逆にスコピオモンを怒らせる結果となった。
スコピオモンは頭をドルガモン達に向ける。
そして口を開いた瞬間、
「離れろ! お前達!!」
俺は瞬間的に叫んだ。
「ッ!?」
ドルガモンは俺の声に咄嗟に反応して、翼を大きく羽ばたいて後方に退避したが、ギンリュウモンは一瞬反応が遅れる。
次の瞬間、スコピオモンの口から黒い霧状の毒液が吐き出された。
ギンリュウモンはそれに巻き込まれる。
「ぐわぁあああああああああっ!?」
苦しむ声を上げるギンリュウモン。
「ギンリュウモン!?」
葵さんが悲鳴のような声を上げる。
直後、毒霧の中からギンリュウモンが力無く落下していく。
その途中、ギンリュウモンは光に包まれて退化し、リュウダモンに戻ってしまう。
「リュウダモン!」
葵さんは慌てて駆け出して落下して地面に倒れたリュウダモンを抱き起こす。
「リュウダモン! 大丈夫!? リュウダモン!?」
「ぐぐ………ふ、不覚………」
苦しそうに呻きながらそう呟くリュウダモン。
ダメージは大きいようで、今日はもう戦えないだろう。
「嘘………鎧を纏ってるギンリュウモンを一撃で………!?」
園部さんがギンリュウモンが一撃でやられた事に驚愕する。
ギンリュウモンの防御力はドルガモンより上だ。
即ち、現状のメンバーの中では一番の防御力を持っている。
そのギンリュウモンが一撃でやられた事が信じられないのだ。
「これが………デジモンの完全体の強さなの………?」
白崎さんが実際に見る完全体の強さに戦慄する。
「糞が………チートにも程があるだろ………!」
「んっ……多分、最上級魔法でも倒せない…………!」
ハジメがそう漏らし、ユエが同意する様にハジメにしがみ付く。
スコピオモンがこちらに向き直る。
それを見て、ハジメ、白崎さん、園部さん、ユエが身構える。
敵わないとはいえ、ただでやられるつもりは無いらしい。
そんな彼らの前に出て、俺は手を横に広げて制する。
「大士………?」
「黒騎君……?」
「大士君………」
「黒騎………?」
それぞれが怪訝そうに呟く。
「ここは、俺達に任せてくれ………!」
俺はそう言う。
「大丈夫なの…………?」
葵さんが心配そうにそう呟く。
そんな彼女に俺は笑みを浮かべ、
「忘れたのか? 俺は地球を救ったデジモンテイマーの1人なんだぜ?」
1枚のデジモンカードを手に取りながらそう言った。
俺は前に向き直ると、
「ドルガモン!!」
「ああ!」
俺の呼びかけに力強く答えるドルガモン。
「俺達で護るんだ! 仲間達を!!」
「おう!」
俺達の決意。
その決意に応えるように、手に取った1枚のデジモンカードが光を放ち、その見た目が変わっていく。
普通のデジモンカードのデザインが、透き通るような青一色のカードへ。
「変わった…………」
「カードが…………青く…………」
光を放ち、青く輝く1枚のカード――ブルーカード――にそれぞれが声を漏らす。
俺はDアークとブルーカードを構え、
「行くぞ! ドルガモン!!」
「ああ! 大士!!」
ブルーカードをDアークの側面の溝へ通していく。
「カードスラッシュ!!」
そのカードは、更なる進化へのカギ。
「マトリックスエボリューション!!」
そのカードをスラッシュした瞬間、
――MATRIX
EVOLUTION――
その文字がDアークの画面に表示される。
それと同時にDアークが光を放ち、その輝きに呼応してドルガモンも光に包まれた。
「ドルガモン進化!」
その輝きの中、ドルガモンは更に巨大化。
完全な4足歩行となり、体毛は紺色から紅色へ。
更に黒いラインが各所に入る。
鼻先に鋭いブレードが現れ、背中には2対4枚の黒い翼。
獣寄りの姿から、ドラゴンの因子が強くなり、更に竜の姿に近付いた獣竜型デジモン。
「ドルグレモン!!」
全長20m、全高10mに匹敵する巨体がその場に現れた。
この部屋の大きさは縦横50m、高さは15mほどしかない。
その中で見るドルグレモンの巨体は、実際はともかく、感覚的に部屋の体積の4分の1ほどを占めているように思える。
「で、でけぇ………!」
「これが………ドルモンの完全体………!」
ハジメがドルグレモンの大きさに驚き、葵さんが初めて見る完全体に呆けた声を漏らす。
葵さんがDアークを取り出し、その情報を読み上げた。
「ドルグレモン 完全体 データ種 獣竜型デジモン。必殺技は、その巨体の10倍以上の大型にして超高質量の鉄球を放ち、敵を一網打尽にする『メタルメテオ』」
その姿を見て、それぞれが呆然とドルグレモンを見上げる中、スコピオモンは一瞬怯んだ様にその場で足踏みしていたが、やがて覚悟を決めた様に、
「シャァアアアアアアアアッ!!」
ドルグレモンに駆け出した。
それに対し俺は、
「動くな! ドルグレモン!!」
その場を動かないように指示した。
「なっ!?」
「どうして!?」
ハジメと園部さんが驚愕する。
だがその瞬間、スコピオモンが振り上げた鋏の一撃がドルグレモンの頬に直撃。
「ぐう………!」
体の大きさの差はあれど同じ完全体。
その一撃はドルグレモンにも十分なダメージを与える。
更に、
「ぐっ………!?」
同時に俺の頬に痛みと衝撃が走り、俺はよろめく。
「えっ?」
「どうしたの?」
俺の様子に怪訝な声を漏らす園部さんと白崎さん。
「シャァアアアアアアアアアッ!!」
スコピオモンは動かないドルグレモンに対し、両方の鋏で次々と殴りつける。
「ぐっ……ううっ………くっ………!」
そうされても俺の指示通り耐えるドルグレモン。
それと同時に俺にも次々と痛みと衝撃が来る。
「がっ………!? ぐっ………!? うっ………!?」
ドルグレモンが殴られるたび、ドルグレモンの殴られた個所と同じ場所に俺にもダメージが入る。
「お、おい大士!? いったいどうしたって言うんだ!?」
俺の尋常でない様子にハジメが駆け寄ってくる。
すると、背中に背負われていたユエが俺とドルグレモンを交互に見つめ、
「…………あの竜が殴られた場所と同じところにダメージを受けてる」
その事実に気付いた。
「何ッ!?」
「どうして!?」
ハジメと葵さんが声を上げる。
「デジモンを完全体まで進化させるとっ………! パートナーとテイマーはっ………! 一心同体に近くなるっ………!」
俺は次々と走る痛みに耐えながらその事実を口にする。
「そんな………!」
園部さんが悲痛な声を漏らすが、
「まだだ………! まだ耐えるんだ………ドルグレモン………!」
俺は痛みに耐えつつそう口にする。
俺がドルグレモンを動かないように指示する理由。
それは偏にドルグレモンが持つその巨体とパワーにある。
ドルグレモンはその巨体に恥じない完全体トップクラスのパワーを誇る。
必殺技のメタルメテオは元より、このような狭い地下空間ではドルグレモンが少し激しく動くだけで地面を陥没させ階層を崩落させるだろう。
それを防ぐためには一瞬で、そして一撃で敵を葬るしかない。
「ぐっ………まだ………まだ耐えれる…………!」
ドルグレモンと共有する痛みに耐えながら、俺は一瞬のチャンスを待つ。
「大士君………」
「黒騎…………」
後ろから葵さんと園部さんの心配そうな声が聞こえる。
その時、ドルグレモンがクリーンヒットを受け、今まで以上の衝撃に俺は足を縺れさせ、倒れそうになった。
「くっ………!」
俺は倒れる痛みに耐えようとして、
「大士君!」
「黒騎!」
その身体が支えられた。
「大士君、しっかり!」
「あれだけカッコいい事言ったんだから、最後までカッコつけなさいよ!」
「ッ…………! 葵さん!? 園部さん!?」
倒れそうになった俺の身体を支えた2人に俺は思わず声を上げた。
「一緒に戦える力は無いけど、大士君を支えることは出来るよ!」
「背中は支えてあげるから、黒騎は前だけ見てなさい!」
2人の言葉。
「葵さん………園部さん………ありがとう…………」
不思議と気力が湧いてくる。
男は単純な生き物だ。
美人な女の子にちょっと応援されただけでやる気を出す。
俺もそんな単純な男の例に漏れなかっただけの話だろう。
例え2人に、『そう言う意味』が無かったとしても。
俺は気合を入れ直して前を向き、自分の足でしっかりと立つ。
再びドルグレモンが殴られ、その衝撃で俺はよろけるが、2人の手がしっかりと俺を支えてくれている。
それだけで、俺はいくらでも耐えられそうな気がした。
やがてスコピオモンはトドメを刺そうと体の前方を持ち上げ、同時に尾を振りかぶる。
必殺技のポイズンピアスを放つつもりなのだろう。
だが、それこそ俺が耐え忍んで待っていた一瞬。
「ドルグレモン!! 今だ!!」
俺は全力で叫ぶ。
俺と同じく耐え忍んでいたドルグレモンが目を見開き、スコピオモンの攻撃に耐えながら貯えていた力を爆発させる。
「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」
頭を掬い上げるような動作で全力で振り上げた。
それは必殺技を放つために力を溜めていたスコピオモンが尾を振り下ろすよりも早く、ドルグレモンの鼻先のブレードがスコピオモンの胴体を貫く。
「シャ………ア…………!?」
ドルグレモンの得意技、『ブラッディータワー』。
本来はこの状態から空高くに投げ飛ばし、血の雨を降らせてその名の通り
それに、今回はその必要もない。
スコピオモンが何が起きたのか理解できないと言わんばかりに硬直し、その身体をデータ粒子に分解させていく。
やがて完全に消え去ると、
「はぁ~~~~~~っ…………!」
俺は大きく息を吐いた。
安全を確保するためとはいえダメージを受け過ぎた。
ドルグレモンも疲れた表情をしている。
「ドルグレモン。悪かったな、無茶させて…………」
俺はドルグレモンに謝る。
「ううん。皆を護るためだったんだ。仕方ないよ」
ドルグレモンは頭だけをこちらに向けて首を振りながらそう言う。
その言葉に互いに笑みを浮かべる。
すると、
「はい、これ」
すぐ傍に神水の入ったハジメお手製の試験管が差し出される。
差し出したのは葵さん。
「お疲れ様」
そう言って微笑んでいる。
その微笑みが綺麗で俺は照れ臭くなり、
「あ、ありがとう………」
試験管を受け取ると誤魔化すようにすぐに神水を飲む。
「ふう……」
腰を落ち着けながら一息つくと、目の前に影が掛かり、
「ん?」
俺が顔を上げると、
「やるじゃん。見直したよ、黒騎!」
葵さんとはまた違った魅力ある笑みを浮かべて園部さんが言った。
「ッ………!?」
顔が熱くなって思わず顔を逸らす。
ああくそ。
この2人にそんな気は無いって分かってるのにどうしても意識してしまう。
葵さんは元々学校で『三大女神』と呼ばれた1人だし、園部さんも葵さん達ほどではなくとも十分に美人と言える顔立ちだったのが、魔物の肉を食べた時の影響で葵さんに負けないほどの魅力を得ている。
対して俺はデジモンテイマーという特異性は持ってはいるが、日本ではデジモンという幼稚な趣味をもつオタク程度にしか思われないだろう。
別にデジモンテイマーになった事に後悔など微塵も無いが、俺は女子から好かれるような性格では無いだろう。
タカトはデジモンに理解のある女の子と仲良しだし問題ないだろう。
一体ジュリとルキ、どっちと引っ付くことやら。
俺達は戦いが終わった後、ユエから話を聞いていた。
「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」
「「「「……マナー違反」」」」
「ノーコメント」
ハジメの言葉に女性4人がジト目で同時に突っ込み、俺は口を噤む。
内心ハジメと同じ事を思ったのは秘密だ。
ハジメは苦笑いしながら巨大蠍の一部から肉をはぎ取っている。
「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」
「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」
「不死身の固有魔法か………」
「……うん」
「ところで、ユエはここがどの辺りか分るか? 地上への脱出の道とか……」
「……分からない。でも、この迷宮は【反逆者】の1人が作ったと言われている」
「反逆者?」
「神が治めていた時代に、神に挑んだ、神の眷属の事………」
「神に逆らった奴がいたのか?」
「世界を滅ぼそうとしたと伝わってる………目論見外れて反逆者達が逃走した場所が【大迷宮】………」
「じゃあここ、【オルクス大迷宮】も………」
「うん………大迷宮の一番深い所に、反逆者の住処があるみたい………」
「奈落の底の最深部………か………」
「そこなら、地上への道があるかも…………」
「なるほど、神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていても不思議じゃない」
少なくとも地上への道筋が見えたことは間違いない。
ハジメは先程から何か錬成でカチャカチャとやっているが、明らかに今までとは大きさの違うそれは、スナイパーライフルだ。
どうやら巨大蠍とスコピオモンとの戦いで攻撃力不足を実感したらしい。
すると、ユエが口を開いた。
「…………ハジメ達は、どうしてここにいる?」
「………そうだな、あまり面白くは無いが………聞くか?」
「………んっ!」
ハジメの言葉にユエは頷く。
ハジメは今までの事を掻い摘んで話し、俺達もちょくちょく補正を入れる。
大体話し終わった時、ユエはグスッと泣いていた。
「いきなりどうした?」
「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」
「気にするなよ」
「…………それにカオリ達もすごい…………生きてるか分からないハジメの為にこんな所まで来るなんて、普通できない………」
それを聞くと、白崎さんは俯く。
「全然すごく無いよ…………ハジメ君と再会する時まで、私は黒騎君と葵ちゃん………ドルモン君とリュウダモン君に頼りっぱなしだった………2人が居なかったら、ハジメ君とは再会できなかった…………」
俯きながらそう言う白崎さん。
だが、
「そんなことはない………カオリはハジメの事を大切に思ってる………だから力が無くてもハジメを探すことを決めて………こんな場所までタイシ達についてきた………だからカオリは間違いなくすごい………」
「ユエちゃん…………」
「ユエの言う通りだ。少なくとも俺は探しに来てくれて嬉しかったし、お前がいなかったら、俺は今以上に荒んでいたのかもしれない。それに、俺が生きると決心したのもお前に会いたかったからだ。だから、そんな事言うな……」
「ハジメ君……!」
いつの間にやらピンク色の空間を撒き散らす2人に俺は呆れつつ少し俯いた。
「大士君? どうしたの?」
そんな俺の様子に気付いたのか、葵さんが問いかけてくる。
「ああ、どうしてデジモンがこの世界に現れたのかと思ってさ………」
「でも、ドルモンとリュウダモンがこっちの世界に現れたんだから、他のデジモンが現れても不思議じゃないんじゃない?」
「いや、ドルモンとリュウダモンはパートナーとしての繋がりがある俺達がこちらの世界に来たことでそれに引っ張られたと説明することは出来るんだが………元々デジモン………デジタルワールドは人間世界………リアルワールドのデジタルネットワークの情報が元になって出来た地球と隣り合わせの世界なんだ…………だから地球にデジモンが出現することはあり得る話なんだが、この世界にはデジタルネットワークどころか電気すら普及していない、デジタルワールドとは縁の無い世界の筈なんだ…………」
それを聞いて、葵さんはハッとする。
「そっか、その縁の無い世界にデジモンが現れた事が不思議なんだね?」
「ああ」
「………偶然じゃないの? もしくはドルモンとリュウダモンがこっちに来るときに偶々こっちに引き込まれたとか………」
園部さんがそう言う。
「ならいいんだけどな………」
偶然であれば、デジモンが現れるのは今回だけだろう。
でももし、もう一度デジモンが現れるような事があれば…………
それは偶然ではなく何か理由があるという事だろう。
とりあえず俺は、その考えは置いておくことにした。
ハジメ達を見れば、元の世界に帰る時にユエも連れて行くみたいな話になってた。
っていうか、ユエのハジメを見る目がもう恋する乙女なんだが………
ハジメの奴既に白崎さんという清純派の恋人が居るにも関わらず、金髪ロリっ子吸血鬼も墜としたか。
ハジメが異世界に来てハーレム野郎になろうとしている。
「ハジメ、爆発しろ」
俺は再びその祝福の言葉を送っておいた。
「そろそろ飯にするか! 園部、頼む」
ハジメが作業を中断してそう言うと、園部さんが予め血抜きをしていた魔物の肉を切り揃えながら塩を降り掛け、火にかける。
「…………そう言えば、ユエは魔物肉って食べれるのか? そうでなければ俺らの食料を分けるしかないわけだが………」
俺が思い出したようにそう言う。
「そういやそうだな………吸血鬼だから大丈夫なのか?」
ハジメがユエに聞くと、ユエはフルフルと首を横に振り、
「食事は要らない」
とそう言った。
「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」
「感じる。……でも、もう大丈夫」
「大丈夫? 何か食ったのか?」
ハジメが聞き返すと、ユエは何故かハジメを指差し、
「ハジメの血」
「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」
「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」
すると、ユエがハジメににじり寄りながら舌なめずりをした。
「……何故、舌舐りする」
「……ハジメ……美味……」
「…………は?」
「……熟成の味……」
「な、何言ってんだ?」
「ハジメの血………何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープ………」
「俺魔物の肉を食べ過ぎて不味そうだが……」
「………濃厚で深い味わい………!」
そう言いながらハジメに圧し掛かって押し倒す。
「おわっ!?」
「………いただきます」
そのままユエがハジメの首筋に噛みつこうとして、
「ちょーーーーっと待とうかユエちゃん!」
白崎さんに首根っこを掴まれて引っ張られた。
「わざわざハジメ君から直接吸う必要は無いでしょ!? 血が必要だったら私達からも分けてあげるし、ハジメ君ばっかりから吸わないで!」
「………でも………ハジメ、美味しい…………」
「なら私達の血も味見してみればいいでしょ!」
「あの、香織? それ、私達も入ってる?」
園部さんが勝手に突っ走る白崎さんの言葉に突っ込む。
しかし、聞き入れては貰えず、結局世にも奇妙な血の飲み比べという若干ホラーな催しが開催された。
ハジメが錬成で作った御猪口程のコップに、それぞれが血を入れ、ユエの前に並べている。
もちろん俺や葵さんも。
ユエは一番端のコップから手に取る。
「先ずはハジメの血から………」
それを口に含むとまるでソムリエのように口の中で何度も血を転がす様に味わい、やがてゴクンと飲み込む。
「ハジメの血………何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープ………味も濃度も抜群………やっぱり美味しい………」
ユエは満足そうに頷く。
そうして水を口に含んで一度口の中を洗い流すと、2番目のコップに手を伸ばした。
「次………カオリの血………」
それを先程と同じように口に含み、味わいながら呑み込む。
「…………………」
白崎さんは緊張した面持ちでその結果を待つ。
「……………カオリの血………とても芳醇な香り漂う高級な紅茶…………お茶の時間に最適………!」
そう言ってグッとサムズアップをする。
白崎さんは複雑な表情をする。
「次………ユウカの血…………」
それを飲み終えると、
「年代物の高級葡萄酒…………クセになりそう…………」
「ああ………そう…………」
半ば強引に血を取られた園部さんは割とどうでも良さそうだ。
「…………アオイの血…………」
それを飲み終えると、
「……………とても澄んだ天然水…………ほのかに感じる甘みがアクセント…………後味スッキリ…………時々飲みたくなる味…………」
「喜んで良いのかなぁ…………?」
苦笑する葵さん。
「………最後にタイシ……………」
俺の血を口に含むと、
「…………………………………………………………………………………………………水」
「悪かったな!」
長い沈黙の後に呟かれた言葉に俺は思わず突っ込むのだった。
第9話です。
ドルモン完全体進化の回………だったんだけど。
後半ちょっと流すつもりだった筈が思った以上に長くなってしまった件。
何故か血液飲み比べ大会が開かれました。
味の感想は、それぞれ何となくで決めました。
主人公が水なのは最初から決めてたことですが。
タイトル詐欺になりそうな………?
因みにスコピオモンだった理由は蠍繋がりで丁度完全体だったというだけの話です。
最初っから究極体で行けば問題無かったのでは?
という質問は無しでお願いします。
では、次回もお楽しみに。
それにしてもIS×ネプの小説が中々書けん………………