ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第8話 ありふれた裏切り

 

 

 

雲海の中を抜け、王党派しか知らない秘密の軍港から城の中へと入った俺達は、ウェールズ皇太子の案内で彼の居室に通された。

ウェールズ皇太子は机の椅子に腰かけると、机の引き出しを開け、宝箱の様に装飾された小箱を取り出した。

ウェールズ皇太子が首に下げていたネックレスを外すと、その先に付いていた鍵を、小箱の鍵穴に差し込み、その小箱を開ける。

 

「宝箱でね」

 

そう言いながらその中から何度も読まれたと伺わせるボロボロの手紙を取り出した。

ウェールズ皇太子はその手紙に愛おしそうにキスをすると、最後にもう一度だけ目を通し、その手紙を折り畳むと机の上にあった蝋燭の火にその手紙を翳した。

 

「なっ!?」

 

ワルドが驚いた声を上げる。

その間にも、手紙に火が燃え移り、あっという間に燃え尽きた。

 

「…………これが姫から頂いた手紙だ。この通り、確かに処分したぞ」

 

「ありがとうございます。確かに確認いたしました」

 

ウェールズ皇太子の言葉に、ルイズが頭を下げる。

 

「ど、如何いう事だねルイズ? 君の任務は手紙の回収では………?」

 

ワルドは知らなかったのか、動揺する声で問いかけた。

 

「最初は姫様も回収のおつもりでしたが、タイシに諭されて手紙の処分へと変更したのです」

 

ワルドが一瞬忌々しそうな目で俺を見た。

俺はその目に気付かない振りをする。

 

「そ、そうだったのか………取り乱してすまない。知らなかったのでね」

 

ワルドは何とか平静を装う。

まあ、内心任務が遂行できなくて荒れ狂ってるのだろうが。

 

「明日の朝、非戦闘員を乗せたイーグル号がここを出港する。君達はそれに乗ってトリステインへ帰りなさい」

 

ウェールズ皇太子がそう言うと、

 

「あの………殿下。王軍に勝ち目は無いのですか?」

 

ルイズがおずおずと尋ねる。

その問いに、

 

「無いよ。我が軍は300。相手は5万。万に一つの可能性もあり得ない。我々に出来ることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せつける事だけだ」

 

「殿下の………討ち死にされる様も………その中に含まれるのですか?」

 

「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」

 

ウェールズ皇太子が平然と答えた。

すると、ルイズは深々と頭を下げ、

 

「…………殿下、失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたいことがございます」

 

「なんなりと申してみよ」

 

「先程処分なさった手紙の内容………それは………」

 

ルイズは一瞬躊躇したようだが、すぐに顔を上げると、

 

「この任務をわたくしに仰せつけられた姫様のご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じる様な…………それに、先程の小箱の内蓋には、姫様の肖像が描かれておりました。手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい、もしや、姫様とウェールズ皇太子殿下は………」

 

「恋仲…………と言いたいのかね?」

 

その言葉にルイズは頷く。

 

「そう想像いたしました。とんだ御無礼を、お許しください。してみると、先程の手紙の内容とやらは……」

 

ウェールズ皇太子は言うか言うまいか悩んだ様だが、手紙自体は処分したので、さほど問題無かろうと判断したのか、すぐに顔を上げた。

 

「恋文だよ。君が想像している通りのものさ。確かにアンリエッタが手紙で知らせた様に、この恋文がゲルマニアの皇室に渡っては拙いことになる。なにせ、彼女は始祖ブリミルの名において、永久の愛をこの私に誓っているのだからね。知っての通り、始祖に誓う愛は婚姻の際の誓いでなければならぬ。この手紙が白日の下に晒されたならば、彼女は重婚の罪を犯すことになってしまうであろう。ゲルマニアの皇帝は、重婚を犯した姫との婚約は取り消すに違いない。そうなれば同盟はならず、トリステインは一国で、あの恐るべき貴族派に立ち向かわねばなるまい」

 

「とにかく、姫様は殿下と恋仲であらせられたのですね?」

 

「昔の話だ」

 

遠回しだが否定しないウェールズ皇太子。

 

「殿下! 亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」

 

ワルドがルイズに寄って、その肩に手を置く。

ワルドの制止のつもりだったのだろうが、ルイズは構わずに続ける。

 

「お願いでございます! 私達と共に、トリステインにいらしてくださいませ!」

 

「それは出来んよ」

 

ウェールズ皇太子はそう笑いながら言った。

 

「殿下! これはわたくしの願いではございませぬ! 姫様の願いでございます! 姫様の手紙には、そう書かれておりませんでしたか? あの姫様がご自分の愛した人を見捨てる訳がございません! 仰ってくださいな殿下! 姫様は、多分手紙の末尾であなたに亡命をお勧めになっている筈ですわ!」

 

だが、ウェールズ皇太子は首を振る。

 

「そのような事は、1行も書かれていない」

 

「殿下!」

 

ルイズがウェールズ皇太子に詰め寄るが、

 

「私は王族だ。嘘は吐かぬ。姫と、私の名誉に誓って言うが、ただの1行たりとも、私に亡命を進める様な文句は書かれていない」

 

ウェールズ皇太子は苦しそうにそう言うが、そもそもあの頭お花畑な王女サマが、亡命を促さないわけがない。

 

「アンリエッタは王女だ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」

 

優先させちゃうんだよなこれが。

ウェールズはルイズの肩を叩く。

 

「君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、良い目をしている」

 

ルイズが寂しそうに俯くと、

 

「忠告しよう。そのように正直では大使は務まらぬ。しっかりしなさい」

 

ウェールズ皇太子はそう言うと、机の上の時計を見つめ、

 

「そろそろパーティーの時間だ。君達は、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席して欲しい」

 

その言葉で、俺達は部屋から退室するが、ワルドだけはその場に居残り、ウェールズ皇太子と何やら話していた。

 

 

 

 

俺達は、最後のパーティに全員で出席していた。

その中で、アルビオンの王、ジェームズ一世は臣下達に言った。

 

「諸君、忠勇なる臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行なわれる。この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない。恐らく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが傷つき、斃れるのを見るに忍びない。したがって、朕は諸君らに暇を与える。長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。明日の朝、巡洋艦『イーグル号』が、女子供を乗せてここを離れる。諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」

 

しかし、誰も返事をしない。

1人の貴族が、大声で王に告げた。

 

「陛下!我らは唯一つの命令をお待ちしております!『全軍前へ!全軍前へ!全軍前へ!』今宵、うまい酒の所為で、些か耳が遠くなっております!はて、それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」

 

その言葉に、集まった全員が頷いた。

 

「おやおや!今の陛下のお言葉は、なにやら異国の呟きに聞えたぞ?」

 

「耄碌するには早いですぞ!陛下!」

 

王は、目頭を拭い、「ばかものどもめ・・・・・」、と短く呟くと、杖を掲げた。

 

「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である!重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく、飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」

 

辺りは喧騒に包まれた。

そんな中、

 

「嫌だわ………あの人達、どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。姫様が逃げてって言ってるのに………恋人が逃げてっていてるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」

 

ルイズが俺、葵、優花、ドルモン、リュウダモン、ハックモンの前で吐き出すようにそう呟く。

 

「それは俺達には分からない。だが、人が護りたいものは人それぞれだ。俺はそれを間違っていると否定するほど偉くは無い」

 

ルイズは俯く。

すると、

 

「……………ねえ………もし………もしもよ…………? あんた達が反乱軍と戦ったら、あんた達は勝てる?」

 

ルイズが遠慮がちにそう問いかけてきた。

 

「………………勝てる勝てないで言えば、ほぼ確実に『勝てる』」

 

俺はそう断言する。

その言葉を聞くと、パッと顔を輝かせた。

 

「じゃあ………!」

 

「先に言っておくが、やる気は無い」

 

俺はそう言ってルイズの出掛かった言葉を止める。

 

「どうしてよ!?」

 

ルイズが叫ぶように問いかけて来るが、

 

「なら聞くが、お前は俺達に、300人の命を救う為に5万の人間を殺せと言いたいのか………!?」

 

俺は言葉に力を込めてそう聞く。

 

「ッ…………で、でも、恥知らずな反乱軍に味方する様な連中なんて……………」

 

「お前は『貴族派』、『反乱軍』という括りで一纏めにしているのだろうが、実際は軍なんてものは上層部の決定で動いているだけだ。兵士の多くは『戦争』という理由で各地から集められ、上からの命令で動いているだけの立場が殆どだ。そいつらは『王党派』も『貴族派』も関係ない。ただ、生きる為に必死なだけで、上の連中に巻き込まれただけの被害者だ。そんな奴らを一方的に虐殺する様な真似はしたくない」

 

「だ、だけど、ウェールズ皇太子の命を助ける為には…………!」

 

「お前は忘れているかもしれないが、俺達の居た所では、『平等』が原則だ。命に上も下も無い。ウェールズ皇太子の命も、そこらの雑兵の命も、俺達にとっては『平等』な価値ある命。お前達『貴族』にとって、『平民』の被害なんて減れば補充するだけの机上の数字………『資源』の1つでしか無いんだろうが、俺達にとって、その数字1つ1つがとても重い命の数なんだよ。そして、その『平等』の中から優劣を決めるのは、個人の優先順位。もし、王党派の中に俺の『大切』………例えば、葵や優花の命が含まれていたとするなら、俺は5万の人間の命を犠牲にしたとしてもそっちを助けただろうが、ウェールズ皇太子含めた王党派の人間も、貴族派の人間も、俺からすればどちらも『赤の他人』。300人の赤の他人を救う為に、5万人の赤の他人を殺すような真似などする気は無い。虐殺を楽しむ様な趣向は持ってないんでね」

 

俺の言葉にルイズは俯く。

 

「…………………だったら、ウェールズ皇太子だけでも連れ出せない?」

 

「…………本人にその気があればそれでも良かったが、本人にその気が無ければどうしようもない。第一、ウェールズ皇太子を連れ出せば、貴族派がトリステインに攻め入る口実を与えることになるぞ」

 

「き、貴族派にバレない様に連れ出せば………!」

 

「連れ出す時にバレなくとも、遺体が見つからなければ血眼になって探すだろうし、見つからなかったら見つからなかったで、適当に皇太子はトリステインに亡命したとかという理由をでっちあげて攻めてくると思うけどな」

 

「………………じゃあ、どうすればいいのよ…………?」

 

「ウェールズ皇太子を穏便に連れ出す事は不可能だ。彼が皇太子である限り、『死ぬ』しかない」

 

「ッ……………!」

 

「少なくとも、貴族派は皇太子が『死んだ』事を確認しない限り、追手を緩める事は無いだろうし、諦めないだろう」

 

「ッ…………………!」

 

ルイズは涙ぐみながら走り去る。

俺はそれを見送ると、

 

「どうするの?」

 

葵がそう聞いてきた。

 

「どうもこうも、皇太子には死んでもらうしかない。皇太子にはな………」

 

俺の呟きに葵は何処か嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。

俺達はルイズの事はそっとしておき、ギーシュ、キュルケ、タバサ達と合流する。

 

「ルイズは如何したの?」

 

キュルケがそう聞いてくる。

 

「ウェールズ皇太子を助けられない事がショックで塞ぎこんでる」

 

「そう………男って馬鹿な生き物よね…………」

 

キュルケがつまらなそうに呟く。

 

「さてな」

 

すると、ワルドが近付いて来て話しかけてきた。

 

「ちょっといいかな?」

 

「なんですか?」

 

ワルドは、その場にいる俺達を見回すと言った。

 

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」

 

「え?」

 

その言葉にギーシュは固まった。

 

「こんな時に、こんな所でですか?」

 

キュルケが尋ねる。

 

「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を上げる」

 

俺達からすれば不自然すぎる行動だが、貴族にとっては同意出来る部分もあるのだろうか?

 

「それで、君達も出席するかね?」

 

ワルドが問いかけてくる。

 

「わたくしは出席いたしますわ。宿敵の結婚式なんですもの」

 

キュルケが答え、ギーシュは少し考えていたが、

 

「そうですね…………学友のよしみで僕も出席します」

 

そう答え、

 

「同じく」

 

タバサも同意した。

 

「君達は如何するね?」

 

ワルドは俺達にも話を振る。

 

「まあ、使い魔(仮)として出席させてもらいますよ」

 

俺の言葉に葵や優花、デジモン達も頷く。

 

「そうか。分かった。席を用意しておくよ」

 

ワルドはそう言って立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ルイズ】

 

 

 

 

 

 

翌日。

私はワルドと一緒に礼拝堂に居た。

あの後、突然ワルドから『結婚式を挙げよう』と言われた時には驚いたけど、私はウェールズ皇太子を助けられない事を嘆いていた私は、縋る様にその申し出に頷いていた。

礼拝堂の並べられた席には、タイシ、アオイ、ユウカ、ドルモン、リュウダモン、ハックモン、ギーシュ、キュルケ、タバサ以外の姿は無い。

皆、戦の準備で忙しいのだろう。

礼装に身を包んだウェールズ皇太子の前に、私達は立つ。

でも、私は何故か素直に喜べず、顔を俯かせたままだった。

ワルドは、幼い頃からの憧れの方で、婚約が決まった時には喜びもあった。

だけど、久し振りに会って、ここ数日行動を共にしている時から私は違和感を感じていた。

 

「では、式を始める」

 

考えが纏まる前にウェールズ皇太子が式の開始を告げてしまう。

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」

 

「誓います」

 

ワルドは迷いなく、そして重々しくうなずいて、杖を握った左手を胸の前に置いた。

ウェールズ皇太子はにこりと笑って頷き、今度は私に視線を移す。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール………………」

 

私の名が読み上げられる中、私は先程の違和感が大きくなるのを感じていた。

一体何なの?

この違和感は………?

 

「新婦?」

 

ウェールズ皇太子にが声をかけられ、私はハッとなって顔を上げる。

 

「緊張しているのかい?仕方が無い。初めての時は事が何であれ緊張するものだからね」

 

にっこりと笑って、ウェールズ皇太子は続けるけど、そうじゃない。

私が感じている違和感はそんなものじゃない。

 

「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味が有る。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において…………」

 

そう読み上げるウェールズ皇太子。

ウェールズ皇太子は、たとえ離れ離れになっていようと、一途に姫様を想っていた事は感じられた。

 

「この者を敬い……………」

 

そして、恋人であるというタイシ、アオイ、ユウカの3人。

複数の女性を囲うのは正直納得いかない部分があるけど、彼らが本当に互いを愛し、想い合っているのはよく分かった。

 

「愛し……………」

 

なら、私は…………?

私はワルドの言葉を思い返す。

 

『久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!』

 

『相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだね!』

 

『婚約者だからな。当然だろう?』

 

『良いぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ』

 

私を褒め、称える言葉。

だけどそれらの言葉からは、ウェールズ皇太子やタイシから感じていた、相手を想う気持ちなどを感じる事は出来なかった。

 

「…………ッ!」

 

「そして夫と……………」

 

私はそのことに気付いた時、首を振っていた。

 

「新婦?」

 

「ルイズ?」

 

2人が怪訝な顔で私の顔を覗き込む。

私はワルドに向き直った。

悲しい表情を浮かべ、再び首を振る。

 

「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」

 

「違うの。ごめんなさい…………」

 

「日が悪いなら、改めて…………」

 

「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、私、貴方とは結婚できない」

 

突然の私の言葉に、ウェールズ皇太子は首を傾げる。

 

「新婦は、この結婚を望まぬのか?」

 

「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」

 

ワルドの顔に、さっと朱がさした。

ウェールズ皇太子は困ったように首を傾げ、残念そうにワルドに告げた。

 

「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」

 

しかし、ワルドはウェールズ皇太子に見向きもせずに、私の手を取った。

 

「…………緊張しているんだ。 そうだろルイズ。 君が、僕との結婚を拒むわけが無い」

 

その言葉は、まるで私の心を決めつけている様な言い方だ。

 

「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うわ」

 

私は謝りながらそう言うけど、ワルドは今度は私の肩をつかんだ。

その目が吊り上がり、恐怖を感じた。

表情がいつもの優しいものではなく、何処か冷たい、トカゲか何かを思わせるものに変わる。

熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。

 

「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」

 

豹変した彼に恐怖を感じながら、私は否定の意味を込めて首を横に振った。

 

「……………私、世界なんかいらないもの」

 

ワルドは両手を広げると、私に詰め寄り、

 

「僕には君が必要なんだ! 君の能力が! 君の力が!」

 

ワルドの剣幕に恐れを感じ、私は思わず後ずさる。

 

「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか! 君は始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう! 君は自分で気付いていないだけだ! その才能に!」

 

その言葉に私は、タイシが使わせてくれたステータスプレートに表示された『虚無』の項目を思い出した。

 

「ワルド、あなた…………」

 

あの事は誰にも言っていない。

私が『虚無』であることを知っているのはタイシ達以外ではタバサぐらい。

だけど、タバサがワルドに情報を漏らすとは思えなかった。

私に対するワルドの剣幕を見かねたのか、ウェールズ皇太子は、間に入ってとりなそうとした。

 

「子爵………、君はフラれたのだ。 いさぎよく………」

 

が、ワルドはその手を撥ね退けた。

 

「黙っておれ!」

 

「ワルド!?」

 

私は思わず目を疑った。

滅亡寸前とは言え、一国の皇太子の手を跳ね除けるなんて、貴族としてあるまじき行為!

ウェールズ皇太子は驚きから立ち尽くす。

ワルドは構わず私の手を握った。

だけど、その手からは暖かさは感じず、蛇に絡みつかれた様な気分になる。

 

「ルイズ! 君の才能が僕には必要なんだ!」

 

「私は、そんな、才能のあるメイジじゃないわ」

 

「だから何度も言っている! 自分で気付いていないだけだよルイズ!」

 

ああ、ようやくわかった。

ずっと感じていた違和感の正体が………!

私はワルドの手を振りほどこうとした。

でも、物凄い力で握られていたから振りほどくことが出来ない。

痛みで顔を顰めながら、私は叫んだ

 

「そんな結婚、死んでも嫌よ。あなた、私をちっとも愛してないじゃない。分かったわ、あなたが愛しているのは、あなたが私にあるという魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」

 

私は何とか掴まれた手を振りほどこうと暴れる。

ウェールズ皇太子が、ワルドの肩に手を置いて引き離そうとした。

しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。

突き飛ばされたウェールズ皇太子の顔に赤みが走る。

立ち上がると、杖を抜いた。

 

「うぬ、何たる無礼! 何たる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

 

ワルドは、そこでやっと私から手を離した。

どこまでも優しい笑顔を浮かべる。

だけど、その表情からは私に対する想いなど微塵も感じられない。

 

「こうまで僕が言ってもダメかい?ルイズ。僕のルイズ」

 

その言葉を聞いて沸き上がる感情は、怒り以外に無い。

 

「嫌よ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」

 

ワルドは天を仰いだ。

 

「この旅で、君の気持ちをつかむために、随分努力したんだが…………」

 

両手を広げて、ワルドは首を振った。

 

「こうなっては仕方ない。ならば目的を1つ達成する事だけで満足しよう」

 

何かを諦めた様にそう言った。

 

「目的?」

 

私は首を傾げる。

ワルドは禍々しい笑みを浮かべ、

 

「そうだ。この旅における僕の目的は3つあった。その1つが達成できるだけでも、よしとしなければな」

 

「達成? 1つ? どういうこと?」

 

私の胸中に不安が広がりながらも問いかける。

ワルドは右手を前に出すと、人差し指を立てて見せた。

 

「先ず1つは君だ。ルイズ。君を手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」

 

「当たり前じゃないの!」

 

私は思わず叫ぶ。

次にワルドは、中指を立てた。

 

「2つ目の目的は、アンリエッタの手紙だ。これも燃やされてしまったから達成は不可能になってしまった」

 

私はハッとする。

 

「ワルド、あなた…………」

 

「そして3つ目…………」

 

私より早く全てを察していたウェールズ皇太子が、杖を構えて呪文を詠唱した。

でも、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、先に唱え始めていたウェールズ皇太子より早く呪文の詠唱を完成させた。

 

「貴様の命だ!ウェールズ!!」

 

ワルドは風のように身を翻させ、青白く光るその杖でウェールズ皇太子の胸を貫いていた。

 

「き、貴様…………『レコン・キスタ』…………」

 

ウェールズ皇太子の口から鮮血が溢れる。

私は思わず悲鳴を上げる。

胸を貫いていた杖が引き抜かれると、ウェールズ皇太子がドサッと音を立てて倒れた。

 

「ウェールズ皇太子!?」

 

私は慌てて駆け寄るけど、ウェールズ皇太子は心臓を一突きにされており、既に事切れていた。

 

「ワルド! あなた貴族派! アルビオンの貴族派だったのね!」

 

私はワルドをキッと睨み付けながら叫ぶ。

 

「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」

 

ワルドは冷たい、感情の無い声で言った。

 

「どうして!? トリステインの貴族である貴方がどうして!?」

 

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境は無い」

 

ワルドは再び杖を掲げた。

 

「ハルケギニアは我々の手で一つとなり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」

 

「昔は、昔はそんなふうじゃなかったわ。何が貴方を変えたの?ワルド・・・・・」

 

「月日と、数奇な運命の巡り会わせだ。それが君の知る僕を変えたが、今ここで語る気にはならぬ。話せば長くなるからな」

 

ワルドは杖を構える。

そのままワルドは呪文を唱え、私に向かって風の魔法を放った。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

ルイズがワルドの魔法によって巻き起こった砂煙に巻かれて見えなくなる。

だが、

 

「まったく、思い通りにならないと思ったらこれ? 在り来たりすぎて、呆れて物も言えないわ」

 

俺のすぐ横で優花の声がした。

その脇にはルイズが抱えられており、反対側にはウェールズ皇太子の遺体も抱えられていた。

 

「ユ、ユウカ…………」

 

ルイズは優花に抱えられている事に気付くと、

 

「ッ………! アオイ! ウェールズ皇太子を助けて!」

 

ルイズが葵に向かって懇願する様に叫ぶ。

葵は駆け寄ってウェールズ皇太子の状態を確認するが、首を横に振り、

 

「残念だけど、もう死んでる………再生魔法じゃ死んだ命は蘇らない………」

 

ウェールズ皇太子の胸に手を置きながらそう言った。

 

「そんな…………」

 

ルイズは悲痛な顔で項垂れる。

その所為で、葵の手が一瞬淡い光に包まれた事には気付かなかったようだ。

 

「そ、そんな………魔法衛士隊の隊長であるワルド子爵が裏切り者だったなんて………」

 

ギーシュはショックから顔を青くしている。

 

「…………つまらない男だと思っていたけど、予想以上につまらない男だった様ね………!」

 

キュルケも女として許せない一線があるのか、目付きを鋭くしてワルドを睨む。

 

「………………」

 

タバサは相変わらず冷静で、警戒はしている眼差しでワルドを見つめている。

 

「さてと………」

 

その様子を横目で見つつ、俺は立ち上がった。

それからワルドを見据える。

 

「貴様ら………」

 

ワルドが忌々しそうに俺を睨む。

俺は背中のデルフを抜くと、

 

「さて、ワルド。お前は俺達の護衛対象であるルイズを攻撃した。つー事で、裏切者って事でいいな?」

 

確認する様に問いかけた。

 

「何だと………?」

 

「お前は俺の『敵』という事でいいな? と言っているんだ」

 

すると、ワルドは余裕の笑みを浮かべ、

 

「おや? 君は争い事は嫌いでは無かったのかな?」

 

俺を馬鹿にするような仕草で問い返してくる。

 

「ああ。出来ることなら戦いたくはないさ。だけど、『敵』と戦うために力を振るう事を躊躇うつもりはないさ」

 

「唯の平民が大きく出たな」

 

「さて?」

 

俺がはぐらかすと、一瞬の静寂が流れる。

そして、

 

「ライトニング・クラウド!!」

 

一瞬で呪文を唱え、杖の先から電撃が放たれる。

まともに喰らえば、常人なら命は無い。

まあ、今の俺なら耐えられるだろうし、ハジメ謹製の戦闘服を着てるから生身でも死なんだろうが…………

俺はデルフを前に突き出し、

 

「吸い込めデルフ!」

 

「おうよ!」

 

俺の言葉通りにその電撃がデルフの刀身に吸い込まれる。

 

「魔法が吸収された!?」

 

ワルドが驚愕の声を上げる。

 

「吸魔の魔剣デルフリンガー。生半可な魔法じゃ吸収されるだけだぜ?」

 

煽る様にそう言ってやる。

すると、ワルドは薄く笑った。

 

「ならばこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を教育いたそう」

 

そう言うと杖を構え、呪文を唱える。

 

「ユビキタス・デル・ウインデ…………」

 

呪文が完成すると、ワルドの身体はいきなり分身した。

本体と合せて5人のワルドが俺を取り囲む。

 

「分身か………」

 

「ただの『分身』ではない。風の偏在(ユビキタス)………風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する。しかも、一つ一つが意思と力を持っている」

 

更にワルドは呪文を唱え、杖を青白く光らせる。

ウェールズ皇太子を貫いた呪文だった。

 

「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことは出来ぬ!」

 

杖が細かく震動し、回転する空気の渦が、鋭利な切っ先となる。

偏在で作り出された4人のワルドが、一斉に襲い掛かって来た。

だが、俺に焦りは無い。

 

「くだらない手品だ」

 

俺はデルフにデジソウルを宿し、その刃を伸長させ、デジソウルの刃を作り上げる。

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

そして、その剣を大きく横に薙ぎ払った。

4人のワルドは防御しようとしたが、それを紙の如く打ち破って全員を両断する。

ワルドの偏在は空気に散る様に消えた。

 

「何だと!?」

 

ワルドが驚愕の声を上げる。

 

「多少は腕に覚えがあるようだが、その程度の『力』じゃ欠伸が出るな」

 

ワルドの強さは、トータスのステータスプレートで表せば、魔力と魔耐が大体500~600。

他が平均50前後って所だろう。

俺の生身よりは強いだろうが、奈落に落ちて再会した頃のハジメにも劣る。

今の俺の敵ではない。

 

「ば、馬鹿な………!?」

 

俺の実力が予想以上だったのか、ワルドの顔から余裕が消える。

 

「さて、予想が外れて残念だったな。覚悟を決めたらどうだ?」

 

「ぐぬ…………!」

 

ワルドは悔しそうな顔で歯を食いしばる。

その時だった。

 

「…………………? 何だ………?」

 

ゴゴゴ、っと地鳴りの様な音が響いてきた。

 

「大士! 下から何か来るわ!」

 

優花が警告を飛ばす。

その音は徐々に大きくなり、地鳴りはやがて地響きとなり、俺とワルドの間の地面が爆発する様に噴き上がった。

 

「何だ!?」

 

俺は降り注いでくる瓦礫から手で顔を庇いつつ口にする。

巻き起こった砂煙が晴れると、そこには、鼻先にドリルを付けた巨大なモグラの様な怪物の姿。

それはまさしく、

 

「ドリモゲモン!?」

 

成熟期デジモンのドリモゲモンだった。

 

「これは…………!」

 

ワルドも目を見開く。

更に、礼拝堂の壁を破壊して、巨大な鶏の様な姿の巨鳥が現れる。

 

「コカトリモン!?」

 

最後に礼拝堂のステンドグラスを突き破りながら、その身体を漆黒に染めた邪竜が現れた。

 

「デビドラモン!?」

 

いきなり3体もの成熟期デジモンが現れたことに、俺は驚愕してしまう。

すると、

 

「まさか………これはドクター・クラタの差し金か………!」

 

ワルドは驚いた表情をしながらもそう口にする。

 

「ドクター・クラタ………?」

 

何となく覚えのある名前が聞こえた俺はよく思い出そうとしたが、その前にドリモゲモン、コカトリモン、デビドラモンが迫ってくる。

 

「ッ………!」

 

俺は考える事を後回しにして、そのデジモン達を警戒した。

 

「…………残念だが、私はここで引かせてもらおう。ウェールズの命を奪えた今、最低限の目的は果たした…………」

 

ワルドがそう言いながらルイズを見つめる。

 

「どうかなルイズ。君が僕の花嫁となるなら、君だけは助けてあげよう」

 

そう言うが、

 

「ふざけないで! 友達を見捨てて助かるぐらいなら死んだほうがマシよ!!」

 

ルイズは即答した。

ワルドは首を振る。

 

「残念だ…………」

 

ワルドはそう言って踵を返す。

 

「待ちなさい! ワルド!」

 

「もう会うことも無いだろう。さらばだ」

 

ルイズは叫ぶが、ワルドは振り向く事すらせずに呪文を唱えると宙に浮き、デビドラモンが突き破ったステンドグラスの穴から飛び去って行った。

 

「ワルド!」

 

ルイズは反射的に追いかけようとしたが、3体のデジモンが立ち塞がったためにルイズは足を止めてしまう。

ルイズは悔しそうな顔で俯く。

 

「……………タイシ、アオイ、ユウカ。あんた達なら、この状況を何とか出来るでしょ?」

 

ルイズは問いかけるようにそう呟くが、その言葉は確信を持っている様だ。

 

「お願い………! ここに居る皆を助けて!!」

 

ルイズはワルドを追いかけるのではなく、この場に居る者達を救う為に俺達の力を求めた。

俺はその言葉に笑みを浮かべ、

 

「お安い御用だ!」

 

そう叫んだ。

 

「葵! 優花!」

 

俺は2人の名を呼びながら1枚のカードを取り出す。

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

葵と優花も頷きながらその手に1枚のカードを持った。

 

「ドルモン!」

 

「うん!」

 

「リュウダモン」

 

「承知!」

 

「ハックモン!」

 

「うむ!」

 

俺達の呼びかけに、パートナーデジモン達は心強く頷く。

 

「「「カードスラッシュ!」」」

 

俺達はDアークの側面の溝にカードを通し始める。

Dアークがカードの情報を読み取り、そのデータをデジモンへと転送する。

そのカードは、

 

「「「超進化プラグインS!!」」」

 

デジモン達を進化させるキーカード。

 

――EVOLUTION

 

Dアークにその文字が表示され、光を放つ。

その光が輝くとともに、デジモン達が光に包まれた。

 

「ドルモン進化!」

 

「リュウダモン進化!」

 

「ハックモン進化!」

 

光の中で成長期のデータが分解され、新たに再構築される。

更に大きく、更に強く。

成長期から成熟期へと変貌を遂げる。

そして、

 

「ドルガモン!!」

 

「ギンリュウモン!!」

 

「バオハックモン!!」

 

3体の成熟期デジモンがその場に降り立つ。

ドルガモンがデビドラモンと。

ギンリュウモンがコカトリモンと。

バオハックモンがドリモゲモンと相対する。

その迫力にキュルケ達は驚愕の表情をしていた。

 

「な、何だいあれは!? 彼らが連れていた使い魔が怪物になった!?」

 

メンバーの中で、唯一デジモンの『進化』を見たことが無いギーシュが盛大に驚いている。

 

「リュウダモンやハックモンも、ドルモンと同じように『進化』出来たのね!」

 

「可能性はあった」

 

キュルケは純粋に驚き、タバサはどうやら予想はしていたようだ。

その時、デビドラモンが長い腕の先にある爪を光らせてドルガモンに襲い掛かる。

 

「避けろ! ドルガモン!」

 

ドルガモンが飛び上がってその一撃を避けると、その爪は背後にあった石柱をあっさりと切り裂く。

デビドラモンの必殺技『クリムゾンネイル』。

まともに喰らえばドルガモンでも危うい。

だが、

 

「パワーメタル!」

 

ドルガモンの放った鉄球がデビドラモンの無防備な背中に直撃する。

デビドラモンの攻撃は爪による直接攻撃しかない。

四眼で睨まれると金縛りにあってしまうが、それにさえ気を付ければ、近付かれなければ敵ではない。

 

「パワーメタル!!」

 

追撃で放たれた鉄球を頭部に受け、デビドラモンは倒れた。

 

 

 

コカトリモンと相対するギンリュウモンは、泳ぐ様に宙を舞う。

 

「コケーーーーッ!!」

 

コカトリモンが口から必殺技の『ペトラファイヤー』を放つが、ギンリュウモンは木の葉が舞うようにその技を避ける。

コカトリモンは巨鳥型のデジモンだが、翼は退化しているために空は飛べない。

故に、石化能力を持つ必殺技にさえ注意すれば、空を飛べるギンリュウモンが断然有利。

 

「徹甲刃!!」

 

ギンリュウモンが口から放った鋼の槍がコカトリモンを貫いた。

 

 

 

ドリモゲモンが鼻先のドリルを回転させながらバオハックモンに向かって行く。

ドリモゲモンの必殺技のドリルスピン。

ドリルなだけあって、強固な装甲にも穴をあける威力を持つが、それもやはり直接攻撃。

正直、バオハックモンの運動能力なら、地上に出てきたドリモゲモンを翻弄するのは簡単な筈だが、バオハックモンは、あえて正々堂々相手の土俵で勝負した。

 

「ティーンブレイド!!」

 

尻尾の刃を軸に回転させ、相手に突貫する。

ドリモゲモンのドリルとバオハックモンの回転する刃がぶつかり合う。

ギャリギャリと激しい音と火花が散り、激突の凄まじさを物語る。

しかし、流石は地中を掘り進めるデジモンというだけあるのか、ドリモゲモンのドリルが徐々にバオハックモンの刃を圧し始めた。

やはり、同じ土俵ではドリモゲモンの方に分があるらしい。

しかし、ドリモゲモンには居ないが、バオハックモンには『テイマー』がいる。

 

「カードスラッシュ!」

 

優花が1枚のカードをスラッシュした。

 

「強化プラグインW!!」

 

カードの力により、バオハックモンの力が強化され、ドリモゲモンのドリルを押し返していく。

そしてついに、ドリモゲモンのドリルを砕き、その身体を貫いた。

 

 

 

3体ほぼ同時に倒した俺達は、ルイズに向き直る。

 

「さて、終わったぞルイズ」

 

「うん………ありがとう………」

 

ルイズはそう言うが、その顔は晴れない。

ルイズの視線は、事切れているウェールズ皇太子に向けられていた。

 

「ワルドが裏切り者だったなんて………姫様に何て報告すればいいの…………?」

 

ルイズはそう呟く。

俺は葵に視線を向けると、葵は頷いて倒れているウェールズ皇太子に歩み寄る。

 

「アオイ…………?」

 

先程、再生魔法では生き返らせることは不可能と聞いたルイズが怪訝な声を漏らす。

葵はまずウェールズ皇太子の体に触れると、再生魔法を発動させて胸の傷を治す。

しかし、それだけではただ綺麗な死体になっただけ。

葵は続けて魂魄魔法を発動させた。

先程葵がウェールズ皇太子の身体に触れた際、魂魄魔法を行使してウェールズ皇太子の魂を繋ぎ止めておいたのだ。

その繋ぎ止めていた魂を、再生魔法で再生させた体に、再び魂魄魔法で定着させれば………

 

「…………ぅ………」

 

ウェールズ皇太子は息を吹き返した。

 

「ウェールズ皇太子!!」

 

ルイズが思わず駆け寄った。

まだ意識は戻らない様だが、確かに自分の力で呼吸し、その鼓動も感じる。

ルイズは如何いう事だと、半分睨み付けるように俺達を見た。

 

「別に葵は嘘は言って無いぞ。確かに再生魔法では死者蘇生は不可能だ。再生魔法〝だけ〟ではな」

 

「そ、それって………」

 

「魂魄魔法…………」

 

驚愕するルイズを他所に、タバサが答えた。

 

「その通り。魂が完全に昇天する前に魂魄魔法で再び身体に定着させれば、生き返らせることが可能だ」

 

俺がそう言うと、

 

「………呆れるほど何でもありねあなた達って……………死人も生き返らせるとか………」

 

キュルケが呆れた様に言った。

 

「タバサは驚いて無かった様だけど、知ってたの?」

 

キュルケがタバサに訊ねると、

 

「聞いたわけじゃない。何となく予想はしていた。第一、勘の良いあなた達が、みすみす皇太子を死なせた時点で何かあるとは思っていた」

 

ジッと俺を見つめてくるタバサに降参の意を込めて両手を挙げる。

 

「タバサの言う通り、1回ウェールズ皇太子を死なせたのはワザとだ」

 

俺がそう答えると、

 

「何でそんなことしたのよ!?」

 

当然ながらルイズが怒鳴りかかって来た。

 

「言っただろ? ウェールズ皇太子を連れて帰りたいなら、皇太子が『死ぬ』しか無いって」

 

「えっ………?」

 

「ワルドが………貴族派の人間が、自分の手で『皇太子を殺した』。間違いなくな。ここに居るのは皇太子でも何でもない、唯の『ウェールズ』だ。早々にバレる事は無いだろう」

 

「あ………あんた達……………もしかして、私の頼みを叶える為に………?」

 

「主人の願いを叶えるのは、使い魔(仮)の役目の範疇だしな」

 

「ッ…………………ありがとうっ」

 

ルイズは感極まった様に涙を流し、礼を言った。

その時、外から大勢の兵士の声が聞こえて来た。

 

「拙いわね。もうすぐ大群が押し寄せてくる…………前にここが崩れそうね」

 

先程の成熟期同士の激突で建物自体に多大な影響を与えている。

崩れるのも時間の問題だろう。

 

「…………バオハックモン、この礼拝堂に火を放ってくれ」

 

「わかった。バーンフレイム!」

 

バオハックモンが火炎を吐き、瞬く間に礼拝堂を火の海にする。

 

「ちょっと! 何やってるの!?」

 

ルイズが叫ぶと、

 

「これでウェールズ皇太子の遺体は焼失。見つからなくても問題無い」

 

「あっ………じゃなくて。どうやって脱出するつもりよ!」

 

「心配するな。優花!」

 

俺はそう言って優花に呼びかける。

 

「ええ、〝界穿〟」

 

優花が空間魔法を発動させ、目の前の空間に穴をあけた。

その空間の穴の向こうには、別の景色が広がっている。

 

「とりあえず、シルフィードを迎えに行かなきゃいけないから、ラ・ロシェールの近くに繋げたわ」

 

優花がそう言うが、他のメンバーは口をあんぐりと開けていた。

 

「何よ………これ………?」

 

「空間魔法の1つでこの場所と別の場所を繋げる門を作り出す魔法だ。お前達に分かりやすく言うなら、サモン・サーヴァントのゲートを任意の場所に作り出して、自由に行き来できる魔法だな。時間が無いから説明は後だ。さっさと潜った潜った!」

 

俺は全員にゲートを潜るように促す。

そして全員がゲートを潜った後にゲートが閉じると、まるでタイミングを合わせたかのように礼拝堂が崩壊を始めるのだった。

その場に残されていた3つのデジタマが瓦礫に埋もれて行くことに気付くことなく………

 

 

 

 





ゼロ魔クロスの第8話です。
さて、結構駆け足になりましたがアルビオン到着からワルドの裏切り、そして決着まで来ました。
過去作のコピペが所々………
ウェールズ皇太子は死んだ………と思わせておいて神代魔法で生き返らせました。
しかも脱出が空間魔法だから証拠も残らないという。
まあ、学院に通ってることが分かれば、ルイズ達が生きている事は即行で分かると思いますが。
で、何故か登場のデジモン達。
ワルドが言ったドクター・クラタとはいったい何者なのか!?(すっとぼけ)
次回もお楽しみに。

タバサをヒロインに格上げするか否か?

  • ヒロインにしてしまえ!!
  • しない。初恋とは散るものである
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