ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第9話 ありふれた発明

 

 

 

 

優花の〝界穿〟により、ラ・ロシェール近郊に転移してきた俺達。

 

「嘘………本当にラ・ロシェールの近くじゃない…………」

 

ルイズが遠くに見えるラ・ロシェールの街を見て呆然と呟く。

その時だった。

 

「…………うっ………私は…………?」

 

俺が肩で担いでいたウェールズが目を覚ます。

 

「気が付いたか?」

 

俺がそう聞くと、

 

「君は…………ッ!? わ、私は確かワルド子爵に………!?」

 

ウェールズはハッとなって自分の胸に手を当てる。

 

「傷が…………無い…………?」

 

貫かれたはずの胸に傷が無い事に、ウェールズは呆然と呟く。

 

「ウェールズ皇太子!」

 

ルイズが慌てて駆け寄る。

 

「ラ・ヴァリエール嬢…………? 私は一体どうなったのだ………? 何故生きている………?」

 

ウェールズがそう聞くと、

 

「アオイの力です………! 彼女の使う魔法により、ウェールズ皇太子は一命を取り留めました!」

 

ルイズがそう言うと、

 

「ッ……………! 何故助けた!? 私が生きている事が知られれば、必ず貴族派共は追手を放つ! そしてトリステインに居る事がわかれば、奴らがトリステインに攻撃する恰好の口実になってしまうでは無いか!」

 

ウェールズは責めるような口調でそう叫ぶ。

 

「その心配はない」

 

俺はそう言う。

 

「正確に言えば、アンタは一命を取り留めたわけじゃない。確実に一度死んだんだ。それはルイズも、そしてワルドも確認している。そして、『皇太子を殺した』ワルドはあの場から去っていった。その後にあんたを生き返らせたんだ。少なくとも、貴族派は確実に皇太子を始末したと認識したはずだ」

 

「だ、だが、私の亡骸が発見できなければ…………」

 

「その点も心配ない。あの場所には火を放っておいた。その後に崩落しただろうから、皇太子の亡骸は焼失して行方不明と判断されるだろう」

 

「ッ……………………」

 

ウェールズは言葉を失う。

すると、

 

「ウェールズ皇太子………いえ、ウェールズ様…………トリステインへいらして下さい……………姫様の為に…………」

 

「だ、だが………いくら死んだという情報が流れていても、トリステインで私を見たという噂が立てば、必ず真偽を確かめようと奴らは動くはずだ。何処へ匿おうと、必ず足は付く………!」

 

ウェールズが尤もな意見を言う。

だが、その事についても既に対策は講じている。

というか、よく考えれば別に悩む事でも無かった。

 

「優花」

 

俺は優花に呼びかけた。

 

「ええ。もう出来てるわ」

 

優花が掌に乗せた指輪を差し出す。

 

「これは………?」

 

ウェールズが不思議そうに尋ねる。

 

「認識阻害の効果があるアーティファクト………マジックアイテムよ。これを付けていれば、あなたを誰もがウェールズ皇太子だと認識できなくなるわ」

 

忘れがちだが、優花は〝概念魔法〟を会得している為、〝生成魔法〟も当然だが使えるのだ。

元々〝生成魔法〟は適性バッチリなハジメがいた為使う機会は少なかったが、ハジメほどでは無いにしろ優花も〝生成魔法〟の適性はそれなりにはあったのだ。

〝昇華魔法〟で適正レベルを引き上げられる現在では、ハジメが作るような複雑なアーティファクトは無理でも、効果が1つ2つ付くだけの物なら、優花でも作れるのだ。

因みに〝生成魔法〟は使えても〝錬成〟は使えないので、指輪自体はニューカッスルの城にあった物をちょろまかした物である。

まあ、あのまま放っておいても瓦礫に埋もれるか略奪されるかの二択だから、別にいいよね?

 

「ッ……………だが……………」

 

それでもウェールズはその指輪を受け取ることに戸惑いを覚えている様だ。

多分、王族としての義務と自分の幸せを望む間で揺れ動いてるんだろうな。

 

「………気休めかもしれませんが、俺は、アンタが既に王族としての義務は果たしていると思っている」

 

「…………なんだって?」

 

俺の言葉にウェールズは驚いた表情を向けた。

 

「少なくとも、アンタは王族としての義務を全うする為に城に残っていて、例え不意打ちと言えど、『皇太子として敵に殺された』。この時点で、俺はアンタの王族としての役目は終わったと考える。本来ならそこで終わってた人生だ。今は、俺達の身勝手な理由で生き返らせられ、生き恥を晒しているだけ。それなら、これからは自分の為に生きたとしても、別にバチは当たらないと思うが?」

 

「ッ………………………」

 

ウェールズは戸惑うように俯いた。

だが、暫くして顔を上げると、

 

「…………私は、王族としての自分を捨てるつもりはない」

 

「ウェールズ様っ!」

 

ルイズは尚もウェールズが死を選ぼうとしていると思っているのか、声を荒げた。

 

「………だが、こうして生き残ったのも『運命』だろう。そして、貴族派が私を始末できたと思っているのなら、身を隠し、再起を図る事も可能だ…………!」

 

そう言いながら、ウェールズは優花の手から指輪を取り、

 

「いつか必ず………アルビオン王家復興という悲願を叶える為に…………今は生き恥を晒そう」

 

そう言いながら、右手の小指にその指輪を嵌めた。

そして、その効果はすぐに現れた。

 

「ッ…………!? ウェールズ様…………ですよね?」

 

ルイズが信じられないと言った表情で問いかけた。

 

「信じられないわ! すぐ傍で見ていたのに、気を抜けばすぐにウェールズ様だと分からなくなりそう………!」

 

キュルケもその効果に驚いている。

 

「これが認識阻害の効果だ。傍目には本人だと認識されなくなる。まあ優花レベルの感知技能を持ってれば話は別だが。この世界には早々そんなレベルはいないだろう」

 

俺がそう言うと、くいくいと裾が引っ張られた。

振り向くと、タバサが俺を見上げている。

 

「そのマジックアイテムは、まだ作れる?」

 

「え? ああ…………優花なら作れるが…………」

 

タバサの質問に思わずそう答える。

そこで、俺はタバサの意図に気が付いた。

 

「ああ………例の話か…………」

 

俺の言葉にタバサがこくりと頷き、

 

「2つ必要」

 

「了解だ。その時までには用意してもらおう」

 

「お願い」

 

必要最低限な言葉だけで意思疎通すると、タバサは離れた。

 

「何の話よ?」

 

ルイズが怪訝そうな声で尋ねてくる。

 

「タバサの個人的な事情だ」

 

それだけ言って余計な情報を与えないようにする。

その時、空からシルフィードが降りてくる。

 

「きゅいきゅい~」

 

「シルフィード………!」

 

タバサが予め呼んでいたようだ。

 

「一刻も早くお城に戻るべきなんでしょうけど、どうするの? 全員はシルフィードに乗れないわよ」

 

キュルケがそう言うと、

 

「………………タイシ。お願い」

 

ルイズの言葉で、俺は宝物庫から魔力駆動四輪を出す。

それを見て、

 

「今更なんだけど、一体どうやって持ち歩いてるのかしら?」

 

キュルケが半ば呆れた様な口調で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

それから半日ほど車を走らせて城下町に到着する。

シルフィードもドルモンと一緒に居たかったのか、目の前で人の姿になった物だから、ギーシュとウェールズにシルフィードが韻竜であることがバレてしまい、口止めをお願いする羽目になった。

特にギーシュには念入りに。

そのまま王宮へ向かったのだが、城下町に戦争が近いという噂が立っている所為で、王宮もピリピリしており、門の所で一悶着あった訳だが、丁度様子を見に来た王女サマのお陰で事なきを得た。

その後、王女サマの居室にルイズとその使い魔(仮)である俺、葵、優花、ドルモン、リュウダモン、ハックモンが通され、他のメンバーは待合室に残されるが、ルイズの強い希望でウェールズも同席させることにした。

王女サマは認識阻害の影響で、その人物がウェールズである事は気付いていない。

念の為に、優花が更に認識阻害の空間を作り出したうえで話が始まった。

道中、キュルケたちが合流した事。

ラ・ロシェールの宿で、傭兵たちの襲撃を受けたが返り討ちにした事。

アルビオンへ向かうための船に乗ったら、空賊に襲われた事。

その空賊の頭がウェールズだった事。

ウェールズに亡命を進めたが断られた事。

ワルドと結婚式を挙げるために、脱出船には乗らなかった事。

結婚式の最中、ワルドが豹変し、ウェールズの胸を刺し貫いた事。

それを聞いて、王女サマが悲嘆にくれた。

 

「あの子爵が裏切り者だったなんて…………まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて…………」

 

「姫さま…………」

 

「裏切り者を使者に選ぶなんて、わたくしはなんという事を…………これでは、わたくしがウェールズ様のお命を奪ったようなものだわ…………」

 

王女様は俯きながら涙を零す。

すると、

 

「アンリエッタ、それは君の所為じゃない」

 

ウェールズがそう言った。

 

「……………あなたは?」

 

王女サマが顔を上げる。

王女サマからすれば、今のウェールズは見知らぬ男性と認識している事だろう。

 

「………………………」

 

ウェールズは何も言わずに認識阻害の指輪を外した。

 

「ッ…………!? ウェ、ウェールズ様っ……………!?」

 

王女様は信じられないと言った表情でその名を呼ぶ。

 

「久し振りだね。アンリエッタ………」

 

ウェールズは優しく声を掛ける。

 

「………嘘よ、嘘…………だって、ウェールズ様はワルド子爵に…………!」

 

王女サマは信じられないのか首を振って否定する。

 

「姫様……! あのですね…………!」

 

ルイズが説明しようとした時、ウェールズに手で制された。

そして、優しい笑みを浮かべながら、

 

「風吹く夜に………」

 

その言葉を紡ぐ。

王女サマが目を見開き、

 

「………水の誓いを」

 

震える唇でその続きを紡いだ。

恋人同士の合言葉だろうか?

 

「ウェールズ様っ!!」

 

王女サマがウェールズの胸に飛び込む。

 

「アンリエッタ………!」

 

ウェールズも王女サマをしっかりと受け止め、抱きしめた。

それをしばらく眺めていると、王女サマは現状を思い出したのか、顔を赤くしながらウェールズから離れる。

 

「お恥ずかしい所をお見せしました………」

 

王女サマは気を取り直しながらそう言うと、

 

「ルイズ、どうしてウェールズ様は生きていらっしゃるのですか? あなたは先程ワルド子爵に胸を貫かれたと………」

 

「はい、姫様。確かにウェールズ様は一度胸を貫かれ、致命傷を………いえ、正確には、一度お亡くなりになられました」

 

王女サマの質問にルイズは口を開く。

 

「でしたら何故………?」

 

「それは私の使い魔の1人である、アオイの力です。彼女の使う魔法は、例え殺されても、死んだ直後であれば蘇生すら可能という代物です」

 

「そのような魔法が存在するのですか!?」

 

その言葉には王女サマも驚愕する。

 

「はい。その魔法により、ウェールズ様は息を吹き返され、事無きを得たのです」

 

「そうだったのですか…………アオイさん………でしたね? ウェールズ様を救ってくださり、ありがとうございます」

 

王女サマは深々と頭を下げた。

 

「あ~………あはは………」

 

葵はどう反応していいいか分からず苦笑した。

 

「姫様。現在、ウェールズ様は、レコン・キスタには確実に死亡したと伝わっている筈です。裏切り者のワルドがその手にかけたのですから………ワルドも、アオイの魔法については知らない筈です。そして、先程の認識阻害のマジックアイテムがあれば、ウェールズ様本人と気付かれることは無いでしょう」

 

「なるほど………」

 

すると、アンリエッタはウェールズに向き直る。

 

「申し訳ありませんが、ウェールズさまには、暫く身を潜めていただかなければなりません。不自由をおかけすることになりますが………」

 

「ああ、私もその心算だ。私は本来死んでいる身だ。贅沢を言うつもりはないよ」

 

「申し訳ありません。ウェールズさま」

 

だが、俺はそこで大事な事を口にする。

 

「言っておくが、俺達の力の事は、他言無用だ」

 

「ッ? どうしてですか? そのような力があるなら…………『国』の為に………」

 

王女サマが思った通りの事を口にする。

 

「俺達はルイズの召喚で呼ばれた言わば『余所者』。こっちの面倒ごとに深く首を突っ込むつもりは無いし、この地に骨を埋めるつもりもさらさら無い。ただ、迎えが来るまでの『暇潰し』としてルイズの使い魔の真似事をしていると思ってくれ。正直、こっちの貴族達が葵の力を知れば、それを得ようと躍起になるはずだ。そんな面倒事は勘弁だ」

 

「それは…………そうですね……………」

 

王女サマは一瞬否定しようとしたようだが、否定できる要素が無かったのか言葉のトーンを落としながら肯定する。

 

「忠告だが、俺達は売られた喧嘩は漏れなく買うし、喧嘩を売ってきた相手に容赦はしない。その所為でこの国が傾こうが知ったことじゃない。それだけは覚えておいてくれ」

 

「ッ…………!」

 

王女サマは俺の視線に気後れしたのか、一歩下がる。

王族がこの程度の睨みで臆したらいかんだろ?

 

「わ、わかりました。あなた達の力については公言しない事を誓います」

 

「私も誓おう」

 

王女サマとウェールズがそう言った。

話が一段落した所で、ルイズが切り出した。

 

「姫さま。これ、お返しします」

 

ルイズは、ポケットから王女サマに貰った水のルビーを取り出した。

しかし、王女サマは首を振る。

 

「それは貴女が持っていなさいな。せめてものお礼です」

 

「こんな高価な品を頂くわけにはいきませんわ」

 

「忠誠には、報いるところがなければなりません。いいから、とっておきなさいな」

 

王女サマにそう言われ、ルイズは水のルビーを受け取る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

――ニューカッスル城跡地

 

戦が終わった2日後。

ワルドと他数人が礼拝堂のあったであろう場所に来ていた。

ワルドはルイズ達の死を確認しに来ていたのだ。

ワルドは杖を振り、小型の竜巻を発生させると、瓦礫を飛び散らせる。

礼拝堂の床が見えてくると、激しく焼け焦げた跡があちこちに見て取れた。

 

「礼拝堂から火の手が上がったと報告は受けていたが、まさかこれほどとは………」

 

これでは死体の確認は難しいかと、ワルドが思っていると、

 

「ふ~む…………」

 

近くの瓦礫で白衣を着た人物が何かを持ち上げた。

 

「ドクター・クラタ。何か見つけたのか?」

 

「ええ、ワルド子爵。このような物を見つけましてね」

 

ドクター・クラタと呼ばれた人物が振り向くと、その手には大きなタマゴを持っていた。

しかも、その1つだけではなく、傍らにも2つのタマゴが転がっている。

 

「それは………」

 

「おそらく、私が差し向けたデジモン達でしょう。やられてしまってタマゴの姿に戻ってしまったようですね」

 

「ならば!?」

 

「ええ、おそらくワルド子爵の言っていた者達は生きているでしょう」

 

「くっ……! ルイズの使い魔達は、それほどの力を持つというのか…………!」

 

ワルドは悔しそうに手を握りしめる。

すると、ドクター・クラタは掛けていたメガネをギラリと光らせ、

 

「……………私なら…………あなたに『力』を授ける事が可能です」

 

そう口にした。

 

「何だと………? あのルイズの使い魔を倒せるほどだというのか?」

 

「ええ。しかしながら、危険は伴います。設備が不十分な事もありますし、あなたの身体がそれに耐えられるかが問題なのですが………」

 

ドクター・クラタはこれ見よがしにワルドに目をやる。

すると、ワルドは自信たっぷりな笑みを浮かべ、

 

「面白い…………奴らを倒せるというのなら多少の危険など構わん!」

 

「わかりました………では、承諾という事で宜しいですね?」

 

ドクター・クラタはクククと怪しい笑みを浮かべると、ワルドを伴って何処かへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

アルビオンから帰って来た翌日。

 

「ううっ…………」

 

ルイズは困った様に『水のルビー』を見つめていた。

 

「図らずとも、虚無の目覚めに必要なカギの1つが手に入ったな」

 

俺はそう言う。

 

「もうっ! 私にどうしろっていうのよーっ!」

 

ルイズは思わず叫ぶ。

だが、驚くのはまだ早い。

もうすぐ『始祖の祈祷書』も来るから。

そんなルイズを他人事のように眺めていた。

 

 

 

トリステイン魔法学院ではいつも通り授業が行われていた。

俺達はルイズの横に、優花、俺、葵の順で座っており、更に後ろの席にはタバサとキュルケが座っている。

今日の授業は、コルベール先生の授業だった。

彼は嬉しそうに、どんっと机の上に妙なものを置いた。

俺はそれを見て、そう言えばこんな話もあったなと、原作を思い出していた。

 

「それは何ですか?ミスタ・コルベール」

 

生徒の1人が質問した。

この世界の基準からすると、それは妙な物体だった。

長い、円筒状の金属の筒に、金属のパイプが延びている。

パイプはふいごのようなものに繋がり円筒の頂上には、クランクがついている。

そしてクランクは円筒の脇に立てられた車輪に繋がっていた。

そして更に更に、車輪は扉の付いた箱に、ギアを介してくっついている。

一体何の授業を始める気なのか? と、生徒たちは興味深くその装置を見守った。

コルベール先生はおほん、ともったいぶった咳をすると、語り始めた。

 

「えー、『火』系統の特徴を、誰かこの私に開帳してくれないかね?」

 

そう言うと、教室を見回す。

教室中の視線が、キュルケに集まる。

ハルケギニアで『火』といえば、ゲルマニア貴族である。

キュルケは授業中だというのに、爪の手入れをしていた。

ヤスリで磨く爪から視線をはずさず、気だるげに答えた。

 

「情熱と破壊が『火』の本領ですわ」

 

「そうとも!」

 

自身も『炎蛇』の二つ名を持つ、『火』のトライアングルメイジであるコルベールは、にっこりと笑って言った。

 

「だがしかし、情熱はともかく、『火』が司るものが破壊だけでは寂しいと、このコルベールは考えます。諸君、『火』は使いようですぞ。使いようによっては、いろんな楽しいことが出来るのです。いいかねミス・ツェルプストー。破壊するだけじゃない。戦いだけが『火』の見せ場ではない」

 

「トリステインの貴族に、『火』の講釈を承る道理がございませんわ」

 

キュルケは自信たっぷりに言いはなつ。

コルベール先生は、キュルケのイヤミにも動じず、にこにことしている。

 

「でも、その妙なカラクリはなんですの?」

 

キュルケはきょとんとした顔で、机の上の装置を指差す。

 

「うふ、うふふ。よくぞ聞いてくれました。これは私が発明した装置ですぞ。油と、火の魔法を使って、動力を得る装置です」

 

クラスメイトはぽかんと口を開けて、その妙な装置に見入っている。

コルベール先生は続けた。

 

「まず、この『ふいご』で油を気化させる」

 

コルベール先生はしゅこっ、しゅこっ、と足でふいごを踏んだ。

 

「すると、この円筒の中に、気化した油が放り込まれるのですぞ」

 

慎重な顔で、コルベール先生は円筒の横に開いた小さな穴に、杖の先端を差し込んだ。

呪文を唱える。

すると、断続的な発火音が聞こえ、発火音は、続いて気化した油に引火し、爆発音に変わった。

 

「ほら!見てごらんなさい!この金属の円筒の中では、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」

 

すると、円筒の上にくっついたクランクが動き出し、車輪を回転させた。

回転した車輪は箱に付いた扉を開く。

すると、ギアを介して、ぴょこっ、ぴょこっと中から蛇の人形が顔を出した。

 

「動力はクランクに伝わり車輪を回す!ほら!するとヘビ君が!顔を出してぴょこぴょこご挨拶!面白いですぞ!」

 

生徒たちは反応薄げにその様子を見守っている。

だが、俺達は違う。

 

「ね、ねえ、あのカラクリって………?」

 

優花が驚きながら口にする。

 

「ああ。エンジンの原型だな」

 

俺はその言葉に頷く。

 

「やっぱりそうだよね………! 凄い…………!」

 

葵が感心した声色で呟いた。

だが、

 

「で?それが如何したっていうんですか?」

 

この世界の人間には、その凄さが理解できない様だ。

コルベール先生はおほん、と咳をすると、説明を始めた。

 

「えー、今は愉快なヘビ君が顔を出すだけですが、例えばこの装置を荷車に載せて車輪を回転させる。すると馬がいなくても荷車は動くのですぞ! たとえば海に浮かんだ船の脇に水車をつけて、この装置を使って回す! すると帆がいりませんぞ!」

 

うんうんとコルベール先生が言った事に葵と優花は同意する様に頷く。

 

「そんなの、魔法で動かせばいいじゃないですか。なにもそんな妙ちきりんな装置を使わなくても」

 

生徒の1人がそう言うと、皆もそうだそうだと言わんばかりに頷きあった。

その言葉を聞いた葵と優花は、ガクッと首を項垂れさせる。

 

「ああ………だからこの世界の文明レベルって低いんだ………」

 

「中途半端に魔法が便利な物だから、困った時は魔法に頼るって考えが抜けないのね」

 

2人は呆れた様に呟く。

すると、

 

「ね、ねえ………今ふと思ったんだけど、あんた達が使ってる、あの馬の要らない馬車って………」

 

ルイズがコルベール先生の言葉を聞いて思い当たったのか、俺達に聞いてくる。

 

「ああ。俺達が使ってる奴は違うが、元々はあのコルベール先生が見せたカラクリの発展型が乗せてあって、その力で動いている」

 

ルイズは何度か魔力駆動四輪に乗っているので、コルベール先生が言った言葉で気付いたようだ。

 

「そうなの………じゃあやっぱりミスタ・コルベールって凄いのかしら?」

 

「少なくとも、俺達の視点からすれば凄い発明家だ。何の前知識も無しに、あの機構を考え付いたのは、紛れもなく天才と言っていい」

 

俺はそう言う。

俺達は別だが、予想以上に反応の薄い生徒達にコルベール先生はガックリと肩を落とす。

その時、

 

―――パチパチパチ

 

1つの拍手が教室に響き渡った。

手を叩いたのは当然俺だ。

 

「素晴らしい発明です。コルベール先生」

 

手を叩きながらそう言う。

 

「何と………君はこの発明の素晴らしさを分ってくれるのかね?」

 

「ええ…………ですので、無用と思いますが1つ助言を」

 

「助言?」

 

その言葉に俺は頷き、

 

「その発明を、魔法を使わずに使えるようにしてください。そうすればあなたは、間違いなくこの世界の歴史に名を残す偉大な発明家として後世に語り継がれる事でしょう」

 

「…………そ、その理由を聞いてもいいかね………?」

 

コルベール先生は感極まった表情で、声を震わせながら問いかけてきた。

 

「まあ、上手く説明できるかは分かりませんが…………先程、コルベール先生がこの発明の使い道を説明した時、誰かさんは魔法を使って動かせばいいと言いました」

 

「事実じゃないか。絶対に魔法を使った方が早い!」

 

俺の言葉の途中で口を挟んでくる生徒が1人。

 

「確かにメイジであれば同じことをすることは可能だ。だが、仮にメイジ全員が同じことを出来たとして、メイジは国の人口の何%だ?」

 

俺の予想だが、全人口の1%未満では無かろうか?

 

「そ、それは…………」

 

「そんな限られた人間しか使えない魔法とは違い、コルベール先生の発明は、魔法を使わずに動くようになれば、メイジにしか出来ないことが、平民にも出来るという事になります。才能に左右される魔法より、使い方さえ覚えれば、誰でも一定の効果を得られるコルベール先生の発明の方が、確実な国力の増加を見込めます」

 

そう言った時、コルベール先生が興奮した面持ちで激しく拍手をした。

 

「素晴らしい! まさしくその通りだ! 現在ではメイジにしか出来ないことが平民にも出来るようになれば、それはまさしくこの『国』にとって大きな利益になるに違いない!」

 

ま、そうなると貴族優位の立場が揺らぐから、それに反対する輩も出てくるんだろうけどな。

これ以上首を突っ込む気も無し。

俺はキリの良い所で着席する。

 

「ありがとう。君のお陰で私はまだ頑張ることができそうだ」

 

この授業を聞いて、コルベール先生に対する評価が改まったかは定かではない。

 

 

 

 

 






第9話です。
とりあえず余り見どころは無し。
事後の云々のみ。
後はついでにコルベールの発明品。
強いて言うならミスター・クラタがワルドに与える『力』かな?
とにかく次もお楽しみに。



タバサをヒロインに格上げするか否か?

  • ヒロインにしてしまえ!!
  • しない。初恋とは散るものである
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