【Side 三人称】
ハルケギニアの某所。
暗い部屋の中で、白衣にメガネを掛けた男が何やら作業をしていた。
その部屋の中には、大士達で言う中世世代のハルケギニアには似つかわしくない、コンピューターや機械類が設置されており、コード類が床の至る所に伸びて、それらの機械を繋げていた。
そして、そのコード類が集中しているのが、この部屋の中央に立つ、人1人が丸々入れる位の大きさのガラスで出来たポッドだった。
その中には何かの液体が満たされており、更にその内部には人影も見える。
白衣にメガネを掛けた男………ドクター・クラタと呼ばれる男は、コンピューターのキーボードを操作しながら呟いた。
「…………この世界に飛ばされた時にはどうなるかと思いましたが、偶然にも支援車両が数台巻き込まれていて助かりましたねぇ。こんな原始時代にも等しい文明レベルの世界では、このような機材を揃えるのに、一生かけても時間が足りませんからねぇ………」
この世界の文明を馬鹿にしつつも、そのキーボードを操作する手は止まらない。
すると、
「よし、これで完成だ」
キーボードのエンターキーを押すと、ガラスのポッドの中の液体が抜けていき、ポッドの中の人影が露になってくる。
液体が完全に抜けると、その中の人影がポッドの中から出てくる。
「気分は如何ですか? ワルド子爵?」
ドクター・クラタがその人影、ワルドに問いかけた。
「…………最高の気分だ…………力が満ち溢れているのを感じるよ…………」
ワルドは裸である事も気にせずに、クックックと気分良さげな笑いを零す。
「そうですか………私としては、少々不満なのですがね」
「不満とは?」
「正直、設備が十分でないのです。出来ることも限られていますし、今回行った実験も、過去に一度成功し、とある理由で再抽出したデジモンのデータを使った為に、かつてより幾分か弱体化してしまっています」
「弱体化…………これほどの力があるのにか………!?」
「ええ。ですが、成熟期デジモン程度は束になって掛かろうとも一蹴出来る力はあります。ご心配なく」
「フフフ………それを聞いて安心した。ルイズの使い魔…………次に会うのが楽しみだよ………!」
ワルドは怪しい笑みを零すのだった。
【Side Out】
ある日の朝。
王女サマの結婚式の為にゲルマニアへ向かう馬車をルイズや俺達が待っていると、切羽詰まった様子で馬を走らせてきた、王宮からの使者がやって来た。
その使者は、ルイズに学院長の居場所を尋ねると、早足にかけ去っていく。
その様子が気になったルイズは後を追い、俺達もそれについて行く。
そのまま学院長室の前で聞き耳を立てると、やはり俺の知る原作通りにアルビオンがトリステインに宣戦布告。
タルブの草原に陣を張り、戦艦十数隻と兵力3000が上陸。
トリステインの主力艦隊は既に全滅しており、現在はかき集めた兵力2000でアルビオン軍と睨み合っているらしい。
しかも、トリステイン軍の指揮を執っているのが、あの王女サマときたものだからルイズにとっちゃ驚きだ。
尚、同盟関係にあるゲルマニアに応援を要請はしたらしいが、戦陣が到着するのは3週間後らしい。
明らかに見捨てる腹積もりだろう。
まあ、簡単に言えばトリステインの敗色濃厚と言う訳だ。
正直俺達からしてみれば、どっちが勝とうが余り関係無いわけだが、ルイズにしたらそうはいかない。
自国が滅びるかどうかの瀬戸際なのだ。
ルイズは暫く俯いていたが、ギュッと『始祖の祈禱書』を抱きしめると、
「あんた達、ちょっと来て!」
ルイズは俺達について来るように言うと駆け出す。
俺達がその後をついて行くと、ルイズは人気のない広場に来た。
そして、俺達に向き直ると、
「お願い! 私をタルブに連れて行って!」
そう言い出した。
「アルビオンと戦う気か?」
俺は問い返す。
「そうよ! 何の因果か、私には『虚無』という『力』がある! この『力』を手に入れた時には、何で私がとも思ったけど、私が『力』を授かったのは、きっとこの時の為だわ!」
ルイズはそう言い放つ。
だが、俺はその言葉に、あの天之河と同じ危うさを感じていた。
「…………お前は………『力』があるから戦うのか………?」
俺はそう問いかける。
「そうよ! 『力』を持つ者には、それを振るう義務があるわ!」
ルイズは自身を持ってそう言い切る。
だが、
「………………駄目だ」
「ッ…………!?」
俺はルイズの要望を拒否した。
ルイズは、断られるとは思ってなかったのか、驚愕で目を見開いた。
「どうしてよ!?」
叫ぶように聞き返すルイズ。
「『力があるから戦う』。そんな程度の『覚悟』しかないお前を、戦場へ連れて行くわけにはいかない」
「だからどうしてよ!?」
理解できなかったのか、ルイズは再び問いかけてくる。
「偉そうに説教するつもりは無いが………『力があるから戦う』。それは逆に言えば、状況に流されているだけのあやふやなモノだ。それはいざという時に迷いを生み、致命的な隙となる。更に、状況に流されるままに戦い、自分の行った事を正確に理解せずに、後からそのことに気付き、潰れてしまう事だってある。少なくとも、そんな『覚悟』で戦って取り返しのつかない事をした男を1人知っている」
「ッ…………………」
「『戦う』というのなら、まずは何の為に戦うかを、戦ってでも為したい事を自分の意志で決めろ。そして、自分の意志を貫き通すために戦う『覚悟』を持て。その為に殺される事も………そして、殺す事すらも『覚悟』して戦場に立て。その覚悟が無ければ無駄死にするだけだ」
「何の為に戦うか…………戦ってでも為したい事…………」
「それは他人の命を奪ってでも貫き通したい事なのか如何かだ」
「他人の命を………奪ってでも…………」
ルイズは俯く。
「……………………………」
しばらく葛藤していたようだが、
「……………正直、今の私にはアンタの言う『覚悟』が持てるとは思えない」
ルイズはそう絞り出す様に言う。
「でも!」
ルイズはバッと顔を上げると、
「私は姫様を…………大切な友達を助けたい! それに、前にも言ったけど私は『貴族』よ! 貴族には国民を守る義務があるわ! その為なら私の『命』ぐらい安いものよ!」
ルイズはそう言い放った。
その言葉を聞き、
「…………………まあ、あの勇者(笑)よりかはまだマシか」
軽く息を吐きながら俺はそう零した。
「ただ、自分の命を安く見積もるのは止めろ。お前が死ねば悲しむ者も居るだろう。お前が大切に思っている相手とかな」
「タイシ…………」
「まあ、その事については心配するな。死なない程度には守ってやるから」
ルイズはその言葉を聞いて、驚いた表情を浮かべた。
「一緒に来てくれるの?」
「別にこの国の為じゃない。タルブの村には宝探しの時に一日だけだが世話になったし、シエスタとも一応知り合いだ。まあ、俺達の故郷には一宿一飯の恩義って言葉もあるんだ。世話になったからには、その恩は返すさ」
「…………ありがと」
ルイズは小さくつぶやいた。
すると、
「……それで? さっきからコソコソと覗いてるあなた達は何か用かしら?」
優花が本塔の影になっている所に呼びかける。
するとそこから、タバサ、キュルケ、イルククゥの3人が現れた。
「あんた達! 聞いてたの!?」
ルイズが叫ぶ。
「偶々よ。それで、戦争だって?」
キュルケがそう言うと、
「そうよ。ゲルマニアの同盟も当てにならない。トリステインは捨て駒にされたのよ!」
ルイズはキュルケを責めるような言い方をする。
「ルイズ。ゲルマニアの決定にキュルケは関係ない。それに、どんな時でも自国を優先するのは当然の事だ。十分に準備も整わないままにトリステインに応援を送り、いたずらに戦力を消耗するぐらいなら、トリステインが時間を稼いでいる間に戦争の準備をする方が勝率が上がるという判断なんだろ? もしトリステインが逆の立場でも同じ選択をした可能性は高いぞ」
「それは………」
ルイズは言葉に詰まる。
「もう、私を恥知らずな上の連中と一緒にしないで頂戴」
「えっ?」
「………ルイズの事を心配してる」
キュルケの言葉に意味を計りかねていたルイズに、タバサがボソッと呟く。
「タバサ!?」
顔を赤くするキュルケ。
「な、何言ってるのよ!? 私はあくまでゲルマニア貴族として、同盟国のトリステインの危機に立ち向かう義務が………!」
キュルケは取り繕ったようにそう言うが、いつものキュルケの態度を見てると、そこまで愛国心がある様には思えない。
単なる口実なんだろう。
「確かにタバサとキュルケ、それにイルククゥは頼りになる。付いて来てもらえるなら、頼もしいぞ」
「ま、まあ………それは否定しないけど………」
何だかんだでルイズもタバサやキュルケの実力を認めている様だ。
「行くなら早く行こうよ! こうしている間にも、戦いは始まってるんだし!」
葵の言葉に俺達は頷いた。
【Side 三人称】
トリステイン軍は、ラ・ロシェールに立てこもっていた。
しかし、反撃は難航していた。
敵に制空権を奪われ、満足な反撃が出来ない。
竜騎士隊や、グリフォン隊を向かわせるも、アルビオンの竜騎士隊に歯が立たない。
次々と全滅していった。
そして、アルビオン軍はラ・ロシェールに立てこもっているトリステイン軍に向けて、砲撃する準備を進めていた。
そして、タルブの草原には3000ものアルビオンの兵士が集結している。
砲撃を行なった後、全軍で突撃する作戦だろう。
ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍からも、アルビオン軍の様子は見て取れた。
マザリーニは呟く。
「砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう。とにかく迎え撃つしかありませんな」
「勝ち目はありますか?」
アンリエッタが聞き返した。
「…………3分~4分と言ったところでしょうな」
マザリーニはそういったが、勝機は殆ど無い。
圧倒的に戦力が違いすぎるのだ。
「竜騎士さえどうにかなれば、もっと勝率が上がりますが…………」
と、そこで言葉が途切れた。
バサッ、バサッと、力強い羽搏きの音が聞こえてきたからだ。
同時に、トリステイン軍の上空を大きな2つの影が通過していく。
アンリエッタ達が空を見上げると、影の1つには羽音の通りに翼を持つ竜だったのだが、もう1体は翼が無く、空を泳ぐ様に飛んでいる。
「あ、あの2匹の竜は…………?」
その2匹、ドルガモンとギンリュウモンは、その背に大士と葵を乗せ、アルビオン軍の竜騎士隊へ向かって行く。
「2騎とは、舐められたものだな」
向かって来るドルガモンとギンリュウモンを迎え撃つため、竜を迎撃に向かわせた騎士が呟く。
「見慣れない形をした竜だが………この『火竜』のブレスを喰らえば、ただでは済むまい」
この竜騎士は今日既に2騎の竜騎兵を撃墜している。
更に撃墜数を伸ばせると考えていた。
騎士の駆る火竜の口から炎が漏れる。
そして、次の瞬間にはその口から炎のブレスが放たれた。
これを喰らえば人間など丸焦げになる威力。
それがドルガモンに向かって飛んでいく。
そしてそれは、狙い違わずドルガモンに直撃し、爆煙に包んだ。
「これで3騎目………今日は運がいい………」
しめしめと、手柄を立てる事を喜ぶ騎士。
だが、その直後に爆煙を切り裂いてドルガモンが飛び出してきた。
「な、何ッ!?」
火竜のブレスを喰らって無事とは欠片も思っていなかった騎士は驚き戸惑う。
次の瞬間、
「パワーメタル!!」
ドルガモンが口から巨大な鉄球を放った。
高速で飛んでくる鉄球を竜騎士は避けることが出来ず、火竜の胴体に直撃。
強靭な鱗に包まれている筈の竜の皮膚を砕き、骨や内臓すらも圧し潰され、火竜は絶命する。
落下していく中、竜騎士は思った。
「今日は………不運だ……………」
前言を撤回し、そのまま地上へと墜落していった。
「徹甲刃!!」
ギンリュウモンの放つ鋼の槍が火竜を串刺しにし、また1体を撃墜する。
ギンリュウモンの纏う鎧は、火竜のブレスを難無く弾き、メイジの魔法も意に介さない。
アルビオンの竜騎士にとって、正に悪夢だった。
同じ頃、タルブの村の村民達は、近くの森に避難していた。
村の家々は燃やされ、村民たちは恐怖で震えている。
その中にはシエスタの姿もある。
兄弟達と抱き合って恐怖が過ぎ去るのを待つ。
だが、
「アルビオン軍が迫ってくるぞ!!」
アルビオン軍の様子を伺っていた村民の1人が叫んだ。
アルビオン軍は100人規模の隊を組み、タルブの村の村民達が隠れている森に向かって行進してきていた。
おそらく捕虜に………
最悪の場合は皆殺しにするつもりだろう。
すると、村の男衆が無いよりかはマシと護身用に持ち出した農具を手に持ち、
「お前達は隠れていなさい」
シエスタを含めた女子供達にそう言い聞かせ、アルビオン軍の方を向く。
「お父さん!」
その中にはシエスタの父の姿もあり、シエスタは叫ぶ。
当然だが、タルブの村の男達は戦いの経験など皆無であり、今は家族の為に勇気を振り絞っているが、その身体は恐怖で震えている。
相手は軍人。
おそらくメイジも居るだろう。
タルブの村の男達には万に一つも勝ち目はない。
それでも男達は立ち向かう事を選んだ。
少しでも家族が生き残れるようにと、そう願って。
男達が森の境目に並び、手に持った農具を構える。
それに対し、鎧などで完全武装した100人規模の騎士達がズラリと並ぶ。
馬に乗った指揮官らしき騎士が杖を振り上げ、号令を下すように前に振りかざした。
それと同時にザッザッと足音を踏み鳴らしながら騎士達が迫ってくる。
その様子にタルブの男達は冷や汗を流しながらも立ち向かおうと、足に力を込める。
その瞬間だった。
「バーンフレイム!!」
突如として火炎がアルビオンの騎士達に向かって浴びせられ、巻き込まれた騎士達が慌てふためきながら隊列を崩した。
その様子に呆気に取られていたタルブの男達だが、その前にドシンと音を立てながら巨大な影が降り立つ。
突然現れた巨大な影に、タルブの男達は腰を抜かしたり、勇敢にも立ち向かおうと農具を構える者もいたが、
「どうやら間に合ったみたいね」
聞こえてきた少女の声に、ハッとなった。
その巨大な影、バオハックモンの背には、優花が乗っていたからだ。
「ユウカさん!?」
森から様子を伺っていたシエスタが声を上げる。
その声に気付くと、
「シエスタも無事だった様ね。良かったわ」
そう言って笑みを浮かべる優花。
「ユウカさん………どうして………?」
シエスタがどうしてここに居るのかと問いかけると、
「一宿一飯の恩義を返しに来たわ」
優花は笑みを浮かべたまま、そう言った。
すると、優花は腕を振り被り、
「はっ!!」
〝風爪〟を放ってアルビオンの騎士達の前の地面に一直線の傷を付ける。
その一撃にアルビオンの騎士達は戸惑うが、
「その線を一歩でも越えたら命は要らないと判断するわ。もし来るなら命を捨てる覚悟で来なさい………!」
優花は〝威圧〟を発動させながら言い放つ。
騎士達の多くはその〝威圧〟に圧倒されてその場を動けずにいたが、
「何を怯えている!? たかが小娘1人だと翼の無い竜が1匹だぞ!!」
馬に乗った隊長らしき男がそう叫ぶ。
「た、隊長………しかし………」
部下の騎士が言い淀む。
格下を制するには使い勝手のいい〝威圧〟だが、効果の無い場合が2つある。
1つは相手が使用者と同等以上の力を持つ場合。
そしてもう1つは、相手が余りにも鈍すぎる場合だ。
そして、その隊長は……………
「ならば私が手本を見せてやる!!」
隊長は足で馬の横腹を蹴ると、馬を前に進ませる。
隊長は堂々とした姿勢で馬を進ませ、遂に馬の脚が優花の記した線を踏み越えた。
そして、
「どうだ! 何も出来んだろう! くだらんハッタリだ!」
隊長の騎士は笑いながらそう言う。
しかし、
「たっ………隊長…………!?」
部下の騎士は震えた声で呟く。
隊長が怪訝に思った瞬間、ボトリと何かが落ちる音が聞こえた。
「ん?」
その音が聞こえた方向、目の前を見ると、ある筈の馬の頭が無かった。
そのまま目線を下に下げると、胴体から伸びた首がすぐそこで途切れている。
そこからは血が止め処なく流れ出ており、更に視線を下げると、馬の頭が地面に転がっていた。
「え……………?」
隊長が声を漏らした瞬間、隊長の意識が急激に遠くなっていく。
「な、何が………?」
同時に力が入らなくなった隊長は首の無い馬の背から崩れ落ち、地面に落下した。
隊長の意識は、何が起こったのか理解することも出ずに闇に呑まれた。
「ひ、ひぃっ………!」
近くでその光景を見ていた騎士が腰を抜かしながら後退る。
目の前の隊長の死体には、どてっ腹に風穴が空いていたからだ。
隊長の馬が優花の記した線を踏み越えた瞬間、優花は苦無を投擲。
その苦無は隊長の乗っていた馬の首を貫通し、その衝撃で馬の首が引きちぎられ、そのまま苦無は隊長の胴体を貫通。
その命を奪ったのだ。
隊長はその出来事を知覚することが出来ずに成す術無く殺された。
どうやら、隊長の評価は後者だったようだ。
「さあ、あなた達はどうする?」
優花が残った騎士達に向かって、先程よりも強い〝威圧〟を掛けながら問いかける。
「ひっ………ひぃいいいいいいいっ!!」
1人が恐怖に耐えきれずに逃げ出すと、それが切っ掛けになったのか、次々と逃げ出していき、最終的に全員が逃げ出してしまった。
その大士達の様子を、少し離れた所からシルフィードに乗ったルイズ、タバサ、キュルケが見ていた。
「凄いわ………! 天下無双と謳われたアルビオンの竜騎兵が、まるで相手にならない………!」
キュルケが驚きを含んだ声で呟く。
「………もう最後」
タバサの呟きの通り、最後の竜騎兵がドルガモンのパワーメタルによって撃ち落とされた。
「きゅいきゅい! 流石ドルガモン様なのね!」
シルフィードが嬉しそうにそう言うが、
「きゅい!?」
ゴンッ!と良い音を立てて、タバサの杖によって頭を殴られた。
「喋っちゃ駄目。ここは人目が多すぎる」
そう注意するタバサ。
「きゅ、きゅい………」
注意されたシルフィードは涙目で人語を話すのを止めるのだった。
空中戦で大きな優位に立っていたアルビオン軍は、突如現れた2体の竜に竜騎士隊が全滅させられたことに慌てふためく。
だが、レコン・キスタの旗艦、『レキシントン』号の甲板からワルドが落ち着いた様子でその様子を見ていた。
「フフフ…………まさかこんなに早く雪辱を果たせる時が来るとはな………!」
ワルドはニヤリと笑みを浮かべる。
するとマントを翻し、風竜の元へと向かうのだった。
【Side Out】
竜騎士達を全滅させた俺達は、ルイズ達の乗るシルフィードの元へ戻った。
「さてルイズ、お膳立てはしておいた。次は、お前の番だ」
「ッ…………!」
ルイズは『始祖の祈祷書』を一度抱きしめると立ち上がろうとして、
「大士! 上ッ!」
葵の声に俺は上を向く。
その瞬間、上空から竜巻が襲い掛かって来た。
「デルフ!!」
俺は背中のデルフを抜きながら叫ぶ。
「おうよ!」
デルフがその竜巻を吸い込んだ。
すると、1匹の風竜がゆっくりと降りて来た。
その背中には、見覚えのある羽根帽子を被った長身の男が跨っている。
「ワルド………!」
「久し振りだね、ルイズ………そして使い魔の少年」
ワルドは俺達を見下ろしながら笑みを浮かべる。
「ワルド……! あなた、何でここに!?」
「忘れたのかい? 私は『レコン・キスタ』の一員だよ。この場に居るのはおかしくないだろう?」
嘲笑うようにそう言うワルド。
「……………で? 何しに俺達の前に出てきた?」
俺はそう聞く。
実力の差は前の戦いで十分に分かったと思ったが?
「それはもちろん、君に受けた屈辱を晴らしに来たのさ」
勿体ぶった仕草でそう言うワルド。
正気かコイツ?
「……………まさか、こんな短期間で俺達に勝てるようになったとでも?」
いくら以前の出来事から特訓を繰り返したとて、普通の人間では俺達のレベルまで強くなることは不可能だ。
「ククク………そのまさかだよ…………! 私は手に入れた! 最強の『力』を!!」
気分が高揚しているのか、ワルドの声の調子が上がってくる。
「『力』だと………?」
ワルドは風竜の背の上で立ち上がると、
「見せてやろう! 私が手に入れた『力』を!!」
ワルドが左腕を前に突き出すと、手首に付けられていた物がせり出し、手に収まる。
それは長方形に液晶画面の様な物が付いた、何処かデジヴァイスを思わせる物だ。
更にワルドが、紫色のデジソウルに似た光に包まれる。
そして、右手をその機器に翳した。
「ハイパーバイオエボリューション!!」
「何ッ!?」
ワルドの口から放たれた言葉に、俺は思わず驚愕の声を漏らした。
ワルドの身体が光に包まれ、その姿を変えていく。
そして、その光が収まった時、
「バイオサンダーバーモン!!」
ワルドは蒼き巨鳥に姿を変えていた。
「嘘…………人間がデジモンに………!?」
葵もその事実に驚愕の表情を浮かべている。
「バイオデジモンだと!?」
俺は驚愕し、それと同時に以前ワルドが漏らした、『ドクター・クラタ』という名前を思い出した。
「ドクター………『クラタ』……………クラタって……………まさかっ!?」
俺は信じられないと思いながらも、目の前に居るワルドがバイオデジモンに進化したことが、その予想が事実であることを伝えてくる。
「あの………『倉田』なのか…………?」
デジモンセイバーズの中盤辺りに主人公達の敵として出てきた人間で、デジモンの抹殺を企てた科学者だ。
ギズモンやバイオデジモンなどのデジモンを殺すための研究を重ね、最終的にベルフェモンと融合するも、バーストモードを発動したシャイングレイモンに倒された。
だが、時空振動爆弾の使い過ぎによりデジタルワールドと人間界の境界を曖昧にして消滅の危機を引き起こした張本人で、その本人は時空の狭間に呑み込まれて行方不明になった人物だ。
「大士………?」
ドルガモンが声を掛けて来てハッとなる。
「すまん、少し呆けていた!」
俺は気を取り直す。
考えるのは後だ。
今はこの場をどうにかするのが先決!
「驚いたかね。フフフフフ………」
バイオサンダーバーモンとなったワルドは不敵に笑う。
ルイズ達も驚いているのか、声も出ない様だ。
「これが私が手に入れた力だ!」
「………ワルド、その力をお前に与えたのは誰だ?」
俺はそう聞く。
「フッ、君達が知る必要はない」
「そうかよ…………」
まあ、どうせ教えてくれないと思っていたから落胆は無い。
そして、
「ドルガモン!」
「パワーメタル!!」
ドルガモンに呼びかけ、先手必勝とばかりに攻撃を仕掛ける。
「徹甲刃!!」
それを合図に、ギンリュウモンも必殺技を放った。
巨大な鉄球と鋼の槍がバイオサンダーバーモンへと向かう。
だが、
「フンッ!」
バイオサンダーバーモンが翼を一度力強く羽搏かせると、乱気流が巻き起こり、2つの必殺技を弾き飛ばした。
「嘘ッ!? ドルガモンとギンリュウモンの必殺技が!?」
キュルケが驚愕の声を上げる。
「きゅいきゅい!?」
シルフィードも信じられない様だ。
「フハハハハハ! その程度の攻撃、私には通用しない!」
高笑いを挙げると、
「今度はこちらの番だね………!」
バイオサンダーバーモンがこちらを見据える。
そして何度も翼を羽搏かせ始め、
「拙い! ドルガモン!!」
「ッ!」
ドルガモンが咄嗟にシルフィードを庇うように立ちはだかる。
次の瞬間、
「サンダーストーム!!!」
雷を伴う竜巻が発生する。
「うっ……ぐっ………! うわぁあああああああああああっ!?」
「くぅうううううううっ!?」
「ぐわぁああああああああああああっ!?」
「きゃぁああああああああああああっ!?」
ドルガモンとギンリュウモンがその雷を纏う竜巻に吹き飛ばされた。
そのまま大地に叩きつけられる。
「タイシ!? アオイ!?」
ルイズが吹き飛ばされた俺達に向かって叫ぶ。
「ッ! シルフィード………!」
「きゅいっ!」
タバサがシルフィードに呼びかけ、俺達の元へ飛んでくる。
「くっ………つぅ~~~………! 大丈夫か………ドルガモン?」
「な、何とか………」
「ギンリュウモン………無事?」
「う、うむ………」
俺と葵の言葉に、ドルガモンとギンリュウモンは立ち上がる。
「大士! 葵! 無事!?」
吹き飛ばされた俺達に気付いたのか、バオハックモンに乗った優花が駆けつけてきた。
「優花!」
「あいつは一体………?」
優花がバイオサンダーバーモンを見上げて呟く。
「簡単に言えば、あいつはワルドだ」
「ワルド!? あれが!?」
優花はその事実に驚愕する。
その時、
「タイシ、アオイ、ユウカ!」
ルイズ達の乗ったシルフィードが降りてくる。
何とか無事だったようだ。
だが、同時にバイオサンダーバーモンもゆっくりと降りて来た。
「どうかねこの『力』は? 素晴らしいだろう? 以前私を圧倒した君達が、まるで赤子の手を捻るかのようだ………!」
ワルドは、まるで力に酔ったようにそう言う。
だが、俺はふと気になる事があった。
たしか、アニメで見たことのあるバイオサンダーバーモンは、完全体を優に超えるほどの力を持っていた筈だ。
だが、今のバイオサンダーバーモンは、成熟期に大ダメージは与えているが、アニメで見たほどの強さを感じない。
理由は分からないが、今のバイオサンダーバーモンは、アニメの時よりも弱体化している様だ。
「これこそが究極の『力』! 私は最強となったのだ!!」
バイオサンダーバーモンとなったワルドは高らかに叫んだ。
だが、
「……………笑わせるな」
俺はそう言う。
「………何だと?」
「そんなのは、究極でも無ければ、ましてや最強でもない」
俺は言い放った。
「負け惜しみを………!」
バイオサンダーバーモンがそう言った瞬間、俺は全身にデジソウルを纏って地面を蹴った。
一瞬にしてバイオサンダーバーモンの目の前に移動し、
「なっ!?」
「うぉらぁあああああああああああああああああっ!!!」
渾身の力を込めて、バイオサンダーバーモン頭部に拳を繰り出した。
「ぬぐぁああああああああああああっ!?」
バイオサンダーバーモンは叫び声を上げて地面に墜落する。
「な、何だと!?」
バイオサンダーバーモンは身体を起こしながら驚愕の声を漏らした。
「俺達の力がこの程度と思っていたのなら、大間違いだ!」
俺、葵、優花は1枚のデジモンカードを手に持つ。
「見せてやる! 俺達の更なる『力』を!!」
そのカードをDアークにスラッシュする。
「「「カードスラッシュ!」」」
その途中で、そのカードがブルーカードへと変化していき、
「「「マトリックスエボリューション!!」」」
スラッシュしきった瞬間、Dアークが光を放った。
――MATRIX
EVOLUTION――
ドルガモン達が光に包まれる。
「ドルガモン進化!」
「ギンリュウモン進化!」
「バオハックモン進化!」
デジモン達が光の中で完全体へと進化する。
「ドルグレモン!!」
巨大な体躯を持つ紅の獣竜。
「ヒシャリュウモン!!」
鎧を纏いし龍。
「セイバーハックモン!!」
両手両足尻尾に計5本の刃を持つ竜人。
完全体となって降り立つ3体のデジモン達。
「バカなっ!? 何だ、その姿は!?」
ワルドはデジモン達の事をよく知らないのか、驚愕の声を上げる。
「『進化』さ。お前とは違う……な」
俺はそう言うと、前に手を翳す。
「行け! ドルグレモン!!」
「おおっ!!」
ドルグレモンは鼻先のブレードを向けながら翼を羽搏かせ、バイオサンダーバーモンに突進する。
「舐めるな!」
ドシィッと重い音がして、ドルグレモンとバイオサンダーバーモンが組み付く。
「ぬぅぅ………フンッ!!」
バイオサンダーバーモンは若干押されたが、力を込めてドルグレモンを振りほどく。
ドルグレモンは軽く吹き飛ばされたが、空中で体勢を立て直した。
「ふん、少しは強くなったようだが、まだ私の方が上だ!」
バイオサンダーバーモンの言う通り、ドルグレモンの一番秀でているパワーですら、あちらが上回っている様だ。
「確かにその通りだ………だが」
俺はフッと笑みを浮かべる。
その瞬間、
「成龍刃!!」
巨大な剣となったヒシャリュウモンがバイオサンダーバーモンに向かって突撃する。
「ぐわっ!?」
その一撃を躱そうとしたが躱し切れず、腹部に傷が出来る。
更に、
「トライデントセイバー!!」
時間差で追撃してきたセイバーハックモンの3つの刃がバイオサンダーバーモンを切り裂く。
「ぐわぁあああああああああああっ!!」
大ダメージを受けるバイオサンダーバーモン。
「俺達は1人で戦っているわけじゃない。『力』を合わせれば、個々で劣っていても、強大な敵に勝つことだってできる………!」
その言葉と共に、ドルグレモンが超巨大な鉄球を生み出した。
「なっ!? ま、待て………!」
バイオサンダーバーモンは慌ててそう言うが、止まる気など更々無い。
「メタルメテオ!!」
「ぐわぁあああああああああああああああああああああああっ!?!?」
バイオサンダーバーモンは超巨大な鉄球に圧し潰された。
大地に半ば埋まり、鉄球の大きさのクレーターが出来上がる。
それから鉄球がデータ粒子に分解されていくと、クレーターの中央に人間の姿に戻ったワルドがいた。
「はぁ………はぁ………おのれ………!」
ワルドは忌々しそうな目を俺に向ける。
その時だった。
ワルドが何かに気付いたようにピクリとする。
すると、
「ここで引けというのか!?」
突然そう叫ぶ。
俺は怪訝に思ったが、ワルドは何やら小型のイヤホンの様な物を付けていることに気付いた。
「まさかあれは、通信機か!?」
俺がその事に驚いていると、
「クッ、分かった………ここは引こう」
ワルドはそう言うと風竜を呼び、そのまま飛び去って行く。
俺は一瞬追撃しようとも思ったが、奴の背後に居るドクター・クラタが、本当にあの倉田なのだとしたら、下手に追うのは危険だろうと思った。
今は一先ず、あの艦隊をどうにかするのが先だ。
俺は再びルイズの元へと戻る。
「さて、色々聞きたいことがあるとは思うが、今は先にやるべきことがあるだろう?」
俺の言葉に、ルイズは力強く頷く。
すると、ルイズはシルフィードの背の上で立ち上がり、『水のルビー』を嵌めて『始祖の祈禱書』を開いた。
そして、そこに掛かれた呪文を読み上げていった。
【Side 三人称】
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ…………」
ルイズの口から紡がれる詠唱。
「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド…………」
「何………この詠唱? 聞いた事無いルーンだわ」
すぐ傍でルイズの詠唱を聞いていたキュルケが呟く。
「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ………」
「………………………虚無」
ルイズの秘密を知るタバサが小さく零した。
「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル………!」
長い詠唱の後、呪文が完成した。
その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を理解した。
巻き込む。
全ての人を。
自分の視界に映る、全ての人を、己の呪文は巻き込む。
選択は2つ。
殺すか、殺さぬか。
破壊すべきは何か。
ルイズは己の衝動に準じ、宙の一点目掛けて、杖を振り下ろした。
直後、太陽の如き光球が敵の旗艦であるレキシントン号を中心に全ての艦隊を飲み込んだ。
ただし、その光は艦隊を爆破し、風石を消滅させはしたものの、誰一人として殺すことはなかった。
その様子を見ていたキュルケが呟いた。
「信じられない。あの『ゼロ』のルイズが…………」
タバサも、ルイズのエクスプロージョンを見つめ続けていた。
すると、ルイズが力を使い果たしたのか、シルフィードの背に倒れる。
キュルケが慌ててルイズを支えると、
「凄いじゃない! 何なの今の!?」
キュルケは思わず問いかけた。
「伝説よ」
「伝説?」
「説明は後で、疲れたわ」
ルイズはそう言って意識を手放す。
「ちょっと!」
キュルケが煮え切らない気分で声を掛けるが、ルイズは起きそうにない。
そして同じ頃、トリステイン軍が突撃を仕掛け、奇跡的に大勝利を収める事になるのだった。
ゼロ魔クロス第11話です。
まあ、なんつーか…………
ワルドのリベンジ失敗の巻。
って感じですかね。
まあ皆様分かってたかと思いますが、ドクター・クラタはセイバーズで行方不明になった倉田です。
支援車両も巻き込まれた来たというご都合設定で何とか納得してください。
そんでワルドがバイオサンダーバーモンに。
他のアーマー体のバイオデジモンにしようかなとも思ったのですが、ワルドのイメージに合うのがサンダーバーモンしか思い浮かばなかった。
なので、聖から再抽出したバイオサンダーバーモンデータを流用してワルドに使ったという事で。
そのお陰でパワーダウンしとりますが。
さて、次回はいよいよタバサの出番です。
因みにもうヒロイン決定で良いよね?
次もお楽しみに。
タバサをヒロインに格上げするか否か?
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ヒロインにしてしまえ!!
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しない。初恋とは散るものである