ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第12話 ありふれた秘密

 

 

 

 

 

タルブでの戦いから数日後。

トリステインの城下町、ブルドンネ街では派手に戦勝記念のパレードが行なわれた。

数で勝るアルビオン軍を破った王女サマは、『聖女』とあがめられ、そして、王女サマは女王サマとなった。

それに伴い、女王サマのゲルマニア皇帝との婚約は解消されることになる。

女王サマの戴冠式が終わってから数日後。

俺達は、女王サマに呼ばれたルイズについて王宮に来ていた。

女王サマの待つ部屋に入る。

その瞬間、

 

「ルイズ、ああ、ルイズ!」

 

女王サマが駆け寄り、ルイズを抱きしめた。

顔を上げず、ルイズは呟いた。

 

「姫さま………いえ、もう陛下とお呼びせねばいけませんね」

 

「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、最愛のお友達を取り上げてしまうつもりなの?」

 

「ならばいつものように、姫様とお呼びいたしますわ」

 

「そうして頂戴。ああルイズ、女王になんてなるんじゃなかったわ。退屈は2倍。窮屈は3倍。そして気苦労は10倍よ」

 

女王サマはつまらなそうに呟いた。

しかし、仮にも国の頂点に立つ人物が、ルイズだけならともかく、余所者の俺達がいる前でそんな事を言うのは問題だと思うが………

それからルイズは、黙って女王サマの言葉を待った。

しかし、女王サマはルイズの目を覗き込んだまま、話さない。

仕方なくルイズは、

 

「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」

 

と、言ってみた。

当たり障りの無い話題のつもりだったが、女王サマは思うところがあったらしく、ルイズの手を握った。

 

「あの勝利はあなたのおかげだものね。ルイズ」

 

ルイズは女王サマの顔を、はっとした表情で見つめた。

 

「わたくしに隠し事はしなくても結構よ。ルイズ」

 

「私、なんのことだか………」

 

それでもルイズはとぼけようとした。

だが、動揺が丸わかりだ。

女王サマは微笑んで、ルイズに羊皮紙の報告書を手渡した。

それを読んだあと、ルイズはため息をついた。

 

「ここまでお調べなんですか」

 

「あれだけ派手な戦果をあげておいて、隠し通せるわけないじゃないの」

 

それから、女王サマは、今まで蚊帳の外だった俺達の方を向いた。

 

「ルイズの使い魔さん方。敵の竜騎士隊を撃滅したとか。厚く御礼を申し上げますわ」

 

女王サマは俺達にも感謝の意を伝えてくる。

 

「別にこの国の為に戦ったわけじゃない。タルブの村の人達に恩を返しただけだ」

 

俺はそう言う。

 

「ですが、そのお陰で我々が助かったのは事実です。重ねてお礼申し上げますわ」

 

「さいですか………」

 

「あなた方は救国の英雄ですわ。特に使い魔さんたちには、できれば貴族にしてさしあげたいぐらいだけど…………あなた方に、爵位を授けるわけには参りませんの」

 

女王サマはそう言う。

そういやトリステインでは、メイジでない者が貴族になることは出来ないんだったな。

 

「まあ、貴族になれと言われても全力でお断りしますが」

 

俺はそう言っておく。

 

「多大な…………本当に大きな戦果ですわ。ルイズ・フランソワーズ。あなたと使い魔達が成し遂げた戦果は、このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類をみないほどのものです。本来ならルイズ、あなたには領地どころか小国を与え、大公の位を与えてもよいくらい。そして、使い魔さん達にも特例で爵位を授ける事ぐらいできましょう」

 

「わ、私はなにも…………手柄を立てたのは、使い魔で………」

 

「だから爵位なんて要らねえって………」

 

ルイズはぼそぼそと言いにくそうに呟き、俺は思わずツッコミを入れる。

 

「あの光はあなたなのでしょう?ルイズ。城下では奇跡の光だ、などと噂されておりますが、わたくしは奇跡など信じませぬ。あの光が膨れ上がった場所に、あなたたちが乗った竜が飛んでいた。あれはあなたなのでしょ?」

 

ルイズは女王サマに見つめられ、それ以上隠し通す事ができなくなったのか、渋々と口を開く。

 

「実は…………」

 

と切り出すと、ゆっくりと語り始めた。

女王サマから任務を受ける前に、俺達の持つステータスプレートで、自分が『虚無の担い手』であると知った事。

デルフの知識により、虚無の覚醒には『水のルビー』と『始祖の祈祷書』が必要だった事。

そして、偶然にもその2つが手元に揃い、『水のルビー』を嵌めて『始祖の祈禱書』を開いた所、文字が浮かび上がって呪文を覚えた事。

その呪文をタルブ戦の際に唱えたら、あの光が発生した事。

それを聞いた女王サマは目を瞑った後、ルイズの肩に手を置いた。

 

「ご存知、ルイズ?始祖ブリミルは、その3人の子に王家を作らせ、それぞれに秘宝を遺したのです。トリステインに伝わるのがあなたの嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」

 

「ええ…………」

 

「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家に現れると」

 

「私は王族ではありませんわ」

 

「ルイズ、何を仰るの。ラ・ヴァリエールの祖は、王の庶子。なればこその公爵家なのではありませんか」

 

ルイズは、はっとした顔になった。

確か公爵の位は、王族の血が流れて無いとなれないんだったか?

この世界がどうなってるのかは知らんが。

 

「あなたも、トリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」

 

女王サマはそう言うと、溜息を吐いた。

 

「これであなたに、勲章や恩賞を授けることが出来なくなった理由はわかるわね?ルイズ」

 

「その力を危険視したり、手に入れようとする輩が出て来て、ルイズの身が危険になるから………ですよね?」

 

女王サマは頷く。

 

「敵は空の上だけとは限りません。城の中にも………あなたのその力を知ったら、私欲のために利用しようとするものが必ず現れるでしょう」

 

ルイズはこわばった顔で頷いた。

 

「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これは、ここにいるわたくしたちだけの秘密よ」

 

それからルイズは暫く考え込んでいたが、決心したように、口を開いた。

 

「おそれながら姫様に、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」

 

「いえ………いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ」

 

「神は………姫様をお助けするために、私にこの力を授けたに違いありません!」

 

しかし、女王サマは首を振る。

 

「母が申しておりました。過ぎたる力は人を狂わせると。『虚無』の協力を手にしたわたくしがそうならぬと、誰が言い切れるでしょうか?」

 

ルイズは昂然と顔を持ち上げた。

自分の使命に気付いたような、そんな顔であった。

しかし、その顔はどこか危ういと感じる。

 

「わたしは、姫さまと祖国のために、この力と体を捧げたいと常々考えておりました。そうしつけられ、そう信じて育って参りました。しかしながら、私の魔法は常に失敗しておりました。ご存知のように、ついた二つ名は『ゼロ』。嘲りと侮蔑の中、いつも口惜しさに体を震わせておりました」

 

ルイズはきっぱりと言い切った。

 

「しかし、そんな私に神は力を与えてくださいました。わたしは自分が信じるもののために、この力を使いとう存じます。それでも陛下が要らぬと仰るなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」

 

女王サマはルイズのその口上に心打たれたのか、あっさりと決めたことを覆した。

 

「わかったわルイズ。あなたは今でも………一番の私のお友達。ラグドリアンの湖畔でも、あなたはわたくしを助けてくれたわね。私の身代わりに、ベッドにはいってくださって………」

 

「姫さま」

 

ルイズと女王サマは、ひし、と抱き合った。

俺はその様子を三文芝居を見ている様な気分で見ていた。

 

「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」

 

「当然ですわ、姫さま」

 

「ならば、あの『始祖の祈祷書』は、あなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。決して『虚無』の使い手という事を、口外しませんように。また、みだりに使用してはなりません」

 

「かしこまりました」

 

ルイズは頷くが、

 

「ちょっと待った」

 

俺は口を挟む。

ルイズが、何よと言いたげに、睨むように俺を見て来るが、

 

「ルイズの『虚無』の力を隠す事はともかく、せめてルイズの家族には伝えておくべきだ」

 

俺はそう伝える。

 

「ルイズは女王サマの力になると言ったが、それはつまり、そう遠くない内に始まるアルビオンとの戦争に参加するという事だろう?」

 

「勿論よ!」

 

「ルイズの家族からすれば、何の力もない『ゼロ』である娘を死地に送り出すことになるんだぞ? 真面な感性の持ち主であれば、絶対に戦争の参加は許可しないと思うけどな」

 

「うっ………!」

 

その事が簡単に予想出来たのか、ルイズは言葉に詰まる。

 

「それもそうですわね………ラ・ヴァリエール公爵であれば信用にも足るでしょうし………ルイズ、自分の家族には『虚無』であることを伝えてくれて構いません」

 

あっさりと許可を出す女王サマ。

…………自分で言っておいてなんだが、最高機密情報の開示を、そんな簡単に許可するなよ………

俺は思わず呆れる。

 

「これからあなたは、わたくし直属の女官ということに致します」

 

女王サマは羽ペンをとると、さらさらと羊皮紙になにかしたためた。

それから羽ペンを振ると、書面に花押がついた。

 

「これをお持ちなさい。わたくしが発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外へのあらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ仕事もしにくいでしょうから」

 

ルイズは礼をすると、その許可証を受け取った。

 

「あなたにしか解決できない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。表向きは、これまで通り魔法学院の生徒として振舞ってちょうだい。まあ言わずともあなたなら、きっとうまくやってくれるわね」

 

ハッキリと言いたいが、こいつにそんな任務は向いてません!

原作でも才人が居なければまともに任務が遂行できたとは思えない。

この相変わらず頭お花畑な女王サマは、もう少し人を見る目を養った方が良いと思う。

その後、女王サマは俺達に金貨を差し出してきたので、トリステイン軍を救った褒賞という事で受け取っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

それからまた数日後。

今度は俺達は馬車に乗っていた。

同乗者は俺達以外ではルイズ、タバサ、キュルケの3人。

シルフィードは空を飛んで馬車の後を追ってきている。

それでも馬車の中に居る人数は、割と大人数なので大型の馬車を用意して貰った。

で、

 

「気持ちワリィ………」

 

いつもの如く俺は馬車酔いでダウンしていた。

魔力駆動四輪を使えればいいのだが、今回に限っては止めておいた方が良いと判断した。

何故なら、今向かっているのはタバサの実家。

そう、俺達はあのオルレアンの屋敷に向かっているのだ。

事は王宮に呼ばれた日の翌日。

タバサが俺達を尋ねて来て、任務の為に実家に戻ると伝えてきたのだ。

それにキュルケも付いて来ると言い出したため、長期休暇までの日数を考えると、長期休暇で俺達を招待すると、今まで誰も家に招待しなかったタバサが、短期間に実家に人を招待すると不審に思われる可能性があり、可能ならルイズも招待して、今回でタバサの母親と執事のペルスランを連れ出したいと言って来たのだ。

匿う所は、認識阻害の指輪があれば何処でもいいため、トリステインの城下町の宿屋にでも匿おうと思っているらしい。

タバサとしては、母親とペルスランの安全さえ確保できれば、これ以上ガリアに従う必要は無い。

本格的に反旗を翻すことになり、命を狙われる可能性だってある。

その事を聞くと、『こっちで何とかする。迷惑はかけない』と言って、意志を曲げようとはしなかった。

結局タバサの願い通り、今回の任務が完了した時点でタバサの母親を治し、空間魔法でトリステインに連れて行くことになったのだ。

すると、

 

「相変わらず乗り物に弱いのねぇ………」

 

キュルケが呆れた様に呟く。

因みに俺の体勢は葵の膝枕である。

 

「けどびっくりしたわ。突然タバサが、『友達として実家に招待したい』なんて言うなんて」

 

ルイズがそう言う。

 

「そうよねぇ。私だけならともかく、ルイズ達までなんて」

 

「アンタ〝だけ〟って何よ。〝だけ〟って!?」

 

キュルケの物言いにルイズが噛みつく。

 

「だって、私は割と以前からタバサと付き合いはあるけど、ルイズ達は使い魔の召喚の儀式の後からじゃない」

 

「そ、それはそうだけど…………わ、私だってタバサの事はもう大事な『友達』って思ってるわよ!」

 

キュルケの言葉に、ルイズは少し恥ずかしそうにそう言った。

 

「…………………!」

 

その言葉に、じっと本を見ていたタバサが僅かに反応するのに気付いたが俺は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

馬車に揺られ続けて、2泊した旅路は、ラグドリアン湖の水が溢れて街道が水没し通れなくなったため迂回した以外は、おおむね順調だった。

そして漸くタバサの実家の屋敷が見えてきた。

旧い、立派なつくりの大名邸である。

門に刻まれた紋章を見て、ルイズとキュルケは息を呑んだ。

交差した2本の杖、そして“更に先へ”と書かれた銘。

それはガリア王家の紋章。

葵達には、予め俺が説明してあるのでそこまで驚いてはいない。

だが、近付くとその紋章にはバッテンの傷がついていた。

不名誉印だったか?

それは王族でありながらその権利を剥奪されている事を意味しているらしい。

玄関前の馬周りにつくと、1人の老僕が近付いてきて馬車の扉を開けた。

この人がペルスランだな。

ペルスランは恭しくタバサに頭を下げる。

 

「お嬢様、お帰りなさいませ」

 

出迎えたのはペルスランただ1人。

タバサが降りると、続いて俺達も馬車を降りた。

俺達はペルスランに連れられ、屋敷の客間へと案内された。

手入れが行き届いた綺麗な邸内だったが、シーンと静まり返って、まるで葬式が行なわれている寺院のようだ。

タバサを除いた俺達はホールのソファに座る。

キュルケがタバサに言った。

 

「まずはお父上にご挨拶したいわ」

 

しかしタバサは首を振る。

もう居ないという意味なのだろう。

すると、

 

「ここで待ってて」

 

と言い残して客間を出て行った。

 

訳を知らないルイズとキュルケがぽかんとしていると、ペルスランが入ってきてワインとお菓子を置いた。

それには手をつけずに、キュルケはペルスランに尋ねた。

 

「このお屋敷、随分と由諸正しいみたいだけど。なんだかあなた以外、人がいないみたいね」

 

「私も思ったわ…………失礼だけどこの屋敷、綺麗なんだけど寂しいって言うか………」

 

キュルケの言葉にルイズが同意する。

ペルスランは恭しく礼をした。

 

「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランでございます。おそれながら、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」

 

全員が頷く。

と、その時、ルイズが気付いたように言った。

 

「オルレアン………? オルレアン家っていえば、ガリア王の弟の、王弟家じゃ………」

 

キュルケもはたと気付く。

 

「どうして王弟家の紋章を掲げずに、不名誉印なんか飾っておくのかしら」

 

「お見受けしたところ、外国のおかたと存じますが…………お許しがいただければ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」

 

「トリステインのラ・ヴァリエール」

 

「ルイズの使い魔(仮)の大士」

 

「同じく葵だよ」

 

「同じく優花」

 

「俺はドルモン」

 

「某はリュウダモンという」

 

「私はハックモンだ」

 

それぞれが名乗ると、キュルケが尋ねた。

 

「ところでいったい、この家はどんな家なの?タバサは何故偽名を使って留学してきたの?あの子、なにも話してくれないのよ」

 

キュルケがそう言うと、ペルスランは切なげなため息を漏らした。

 

「お嬢様は『タバサ』と名乗ってらっしゃるのですか………わかりました。お嬢様が、お友達をこの屋敷に連れてくるなど、絶えてない事。お嬢様が心許すかたなら、かまいますまい。皆様を信用してお話しましょう」

 

それからペルスランは深く一礼すると語りだした。

 

「この屋敷は牢獄なのです」

 

俺達はペルスランの話を聞いていた。

ペルスランはまず、タバサは継承争いの犠牲者だと語った。

 

「継承争いの犠牲者?」

 

キュルケがそう問い返すと、ペルスランは頷いた。

 

「そうでございます。今を去ること5年前………先王が崩御されました。先王は2人の王子を遺されました。現在、王座についておられるご長男のジョゼフさま、そしてシャルロットお嬢様のお父上であられたご次男オルレアン公のお2人です」

 

「あの子は、王族だったのね」

 

「しかし、ご長男のジョゼフさまはお世辞にも王の器とは言いにくい暗愚なおかたでありました。オルレアン公は王家のご次男としてはご不幸なことに、才能と人望に溢れていた。したがって、オルレアン公を擁して王座へ、という動きが持ち上がったのです。宮廷は2つに分かれての醜い争いになり、結果オルレアン公は謀殺されました。狩猟会の最中、毒矢で胸を射抜かれたのでございます。この国の誰よりも高潔なおかたが魔法ではなく、下賎な毒矢によってお命を奪われたのです。その無念たるや、私などには想像もつきかねます。しかし、ご不幸はそれにとどまらなかったのです」

 

ペルスランは胸をつまらせるような声で続けた。

まあ、ペルスランやタバサには悪いが、これって先王が後継者にジョゼフを指名したんだよな。

タバサの父であるシャルルは、確かに魔法の才能はあったのかもしれないが、ただそれだけ。

人望は根回しで味方に付けただけだし、ジョゼフは魔法が使えなかっただけで、王としての資質はジョゼフの方が遥かに上だったというだけだ。

 

「ジョゼフさまを王座につけた連中は、次にお嬢様を狙いました。将来の禍根を断とうと考えたのでありましょう。連中はお嬢様と奥様を宮廷に呼びつけ、酒肴を振舞いました。しかし、お嬢様の料理には毒が盛られていました。奥様はそれを知り、お嬢様を庇いその料理を口にされたのです。それはお心を狂わせる水魔法の毒でございました。以来、奥様は心を病まれたままでございます」

 

ルイズとキュルケは言葉を失い、呆然とペルスランの告白に耳を傾けた。

 

「お嬢様は………その日より、言葉と表情を失われました。快活で明るかったシャルロットお嬢様はまるで別人のようになってしまわれた。しかしそれも無理なからぬこと。目の前で母が狂えば、誰でもそのようになってしまうでしょう。そんなお嬢様はご自分の身を守るために、進んで王家の命に従いました。困難な・・・・・生還不能と思われた任務に志願し、これを見事果たして王家への忠誠を知らしめ、ご自分をお守りになられたのです。王家はそんなシャルロットお嬢様を、それでも冷たくあしらわれました。本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にも関わらず、シュヴァリエの称号のみを与え、外国に留学させたのです。そして心を病まれた奥様を、この屋敷に閉じ込めました。体のいい、厄介払いというわけです」

 

口惜しそうにペルスランは唇を噛んだ。

 

「そして!未だに宮廷で解決困難な汚れ仕事がもちあがると、今日のようにほいほい呼びつける!父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇にまるで牛馬のようにこき使われる!私はこれほどの悲劇を知りませぬ。何処まで人は人に残酷になれるのでありましょうか」

 

まあ、コンプレックスを拗らせに拗らせた事と、シャルルが最後まで強がって素直にならなかった結果なんだよな。

どうして兄弟でそこまで争えるんだか。

だが、タバサ本人からしてみれば、父親を殺され、母の心を壊された。

復讐を考えるのは当然だろう。

『雪風』、彼女の二つ名。

彼女の心には冷たい吹雪が吹き荒れ、今もやむ事がないのだろう。

 

「お嬢様は、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」

 

俺達は頷く。

 

「奥様は、お忙しいかたでありました。幼い頃のお嬢様はそれでも明るさを失いませんでしたが………随分と寂しい想いをされたことでありましょう。しかし、そんな奥様が、ある日、お嬢様に人形をプレゼントなさったのです。お忙しい中、ご自分で街に出でて、下々の者に交じり、手ずからお選びになった人形でした。そのときのお嬢様の喜びようといったら!その人形に名前をつけて、まるで妹のように可愛がっておられました。今現在、その人形は奥様の腕の中でございます。心を病まれた奥様は、その人形をシャルロットお嬢様と思い込んでおられます」

 

ペルスランは一息つく。

 

「『タバサ』。それはお嬢様が、その人形にお付けになった名前でございます」

 

すると、丁度扉が開いて、タバサが現れた。

ペルスランは一礼すると、苦しそうな表情を浮かべ、懐から一通の手紙を取り出した。

 

「王家よりの指令でございます」

 

タバサはそれを受け取ると、無造作に封を開いて読み始めた。

読み終えると軽く頷いた。

 

「いつごろ取りかかられますか?」

 

まるで散歩の予定を答えるように、タバサは言った。

 

「今日から」

 

「かしこまりました。そのように使者に取り次ぎます。ご武運をお祈りいたします」

 

そう言い残すと、ペルスランは厳かに一礼して部屋を出て行った。

タバサは皆の方を向いた。

 

「ここで待ってて」

 

これ以上はついてくるなと言いたいのだろう。

しかし、

 

「ゴメンね。さっきの人に全部聞いちゃったの。だからあたしもついていくわ」

 

キュルケが、

 

「私も行くわ。あそこまで聞いちゃったら、黙って見送るだけなんて出来ない」

 

ルイズが、

 

「まあ、乗り掛かった舟だ。俺達も手を貸そう」

 

俺もそう言った。

 

「危険」

 

「余計に、あなた1人で行かせるわけにはいかないわね」

 

タバサの言葉にキュルケがそう言う。

タバサは答えない。

ただ、軽く下を向いた。

 

 

 

 

 

俺達はラグドリアン湖へ向かっていた。

シルフィードだけでは全員乗せられないので、ドルモンに進化して貰い、ドルガモンの背に、俺、葵、優花、リュウダモン、ハックモンが乗る事にした。

ただ、

 

「きゅいきゅい♪」

 

シルフィードはドルガモンと並んで飛ぶことが出来て嬉しそうだ。

因みに任務の内容だが、『湖の水を増やす水の精霊を退治して来い』という原作通りのモノだった。

 

「水の精霊ねぇ………」

 

俺はポツリと呟く。

確か水の精霊は、基本的に決まった形はしておらず、意志のある水の様な存在だ。

基本的に水に触れなければ、水の精霊は無力ではあるが、水に触れた途端心を奪われるらしい。

生物の生命と精神を操るのは、水の精霊にとって呼吸する事と同じくらい簡単な事だと言う。

ぶっちゃけ質の悪い魂魄魔法のエキスパートだよな。

だが、俺はふと思った。

 

「なあ葵。水の精霊って事は、もしかしてアクアの眷属なのか?」

 

俺が思いついた事を葵に聞くと、

 

「アクアのって言うより、『水を司る神』の眷属かな?」

 

葵はそう答える。

 

「なら、葵が説得できないか?」

 

「よっぽどプライドの高い精霊じゃ無ければ聞いてくれると思うけど………」

 

「なるほど、試してみる価値はあるって事か」

 

事を穏便に済ませそうなので、俺はホッと息を吐いた。

 

 

 

 

 

ラグドリアン湖に着くと、見ただけで確かに水位は上がっていると分かった。

水面から顔を出す木々や、村だったであろう家の屋根がチラホラ見えている。

俺は早速切り出した。

 

「なあ、ここに来る最中にちょっと試したいことを思いついたんだ。上手くいけば、水の精霊を穏便に鎮める事が出来るかもしれない」

 

俺がそう言うと、ルイズは期待無さげに口を開いた。

 

「タイシ………別の世界から来たアンタは知らないでしょうけど、基本的に水の精霊っていうのは人を見下してるの。まあ、長い時を生きてる精霊からすれば、人間の寿命なんてあっという間でしょうから仕方のない事かもしれないけど………人の頼みなんて普通は聞いてくれないのよ。例外として、古い盟約で結ばれたトリステイン王家の交渉役である貴族ぐらいね」

 

ルイズはそう言う。

 

「まあ、物は試しだ。葵、頼む」

 

「うん」

 

俺の言葉に葵は頷くと、歩き出して湖に足を踏み入れる。

 

「ちょ、ちょっとアオイ!」

 

キュルケは止めようとしたが、俺はそれを手で制した。

 

「いいから葵に任せておけ」

 

俺はそう言うと、葵の後ろ姿を見つめる。

葵は膝下位の深さの所まで歩いていくと立ち止まった。

そして目を瞑ると、

 

「『水を司りし神の眷属よ…………我が声に応え、その姿を現せ………』」

 

葵は僅かに『神力』を解放し、『神力』を声に乗せて飛ばす。

 

「「「ッ…………!?」」」

 

その神力を乗せた声に当てられたのか、ルイズ、タバサ、キュルケの3人は息を呑んだ。

すると、岸辺から30m程はなれた水面の下が眩いばかりに輝く。

水面が盛り上がるとグネグネと形を変え、葵の姿を模したように女性のシルエットを象った姿となった。

 

「お初にお目にかかります。大いなる魂を持つ者よ………お会いできて光栄の至りにございます」

 

水の精霊は水面に跪きながらそう言った。

その光景に、ルイズとキュルケは目を丸くし、タバサも驚愕で目を見開きながら見入っている。

 

「『水の精霊よ、あなたに聞きたいことがあります。何故湖の水位を上げているのですか? 水辺に生きる数多の『命』が影響を受けています』」

 

葵は言葉を続ける。

 

「はっ、実は月が30ほど交差する前の晩の事です」

 

大よそ2年前だな。

 

「我が暮らす最も濃き水の底から、数えるほども愚かしいほど月が交差する時間の間、我が守りし秘宝を、単なる者が盗んだのです。我はその行方を知るために全てを水で満たし、その在りかを探していたのです」

 

改めて聞くと、何とも気の長い話だ。

第一、 秘宝である『アンドバリの指輪』は、現在アルビオンにあったはずだ。

いくら水位を増やしても見つけるのは無理だろう。

 

「『秘宝とは?』」

 

「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」

 

「『偽りの生命を死者に与えるという指輪ですね』」

 

「その通りです」

 

因みに葵が知ってるのは俺が教えたからだ。

 

「『その指輪を盗んだ者の名は分かりますか?』」

 

「確か個体の1人がこう呼ばれていました。『クロムウェル』と」

 

「『分かりました。その秘宝の件、この私にまかせて貰えないでしょうか?』」

 

「お、大いなる魂を持つ御方が直々に………!?」

 

水の精霊は大層驚愕している様だ。

 

「『その代わり、この湖の水位を元に戻して欲しいのです。人間だけではありません。草や木、虫や動物達と言った、数多くの『命』に影響を与えてしまうのです』」

 

「はっ! 大いなる魂を持つ者のお望みとあらば!!」

 

水の精霊は即答で了承する。

 

「『お願いしましたよ。水の精霊』」

 

「はっ!」

 

葵がそう言い終えると、水の精霊は湖の中へと消えていった。

すると、葵は『神力』を止め、普段の雰囲気に戻る。

 

「これで大丈夫なはずだよ」

 

振り返った葵は笑顔でそう言った。

 

「ああ、お疲れ様だ」

 

俺はそう言って労う。

 

「ちょ、今のどういう事よ!? 何で水の精霊がアオイに跪いてるの!? って言うか、さっきの葵の様子は一体何よ!?」

 

ルイズが先程の『神力』に当てられた空気から解放された影響か、一気にまくし立ててくる。

 

「まあ、タバサに秘密があった様に、俺達にも秘密があるんだよ。悪いがその秘密については、俺達にとって『大切』な存在位にならないと教える気は無いからな」

 

クラスメイトは成り行き上知ってしまったが、葵が女神の生まれ変わりである事はそうそう教える気にはならない。

カズマはアクアという葵の女神としての同僚が居たので序にバラしてしまったが。

 

「むぐぅ…………」

 

ルイズは煮え切らないという表情で口を噤む。

 

「ところで、さっき水の精霊が言ってた『クロムウェル』って名前だが………」

 

「聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」

 

「流石に考え過ぎじゃない? 同じ名前なんて一杯居るわよ?」

 

キュルケの言葉にルイズはそう言うが、

 

「ルイズはそうやって初めから可能性を否定する癖は止めた方が良い。逆に考えてみろ。クロムウェルが指輪を盗んだのは2年前。『レコン・キスタ』が活動を活発にしたのはその後ぐらいからなんじゃないか?」

 

「そう言えば………アルビオンの内乱が始まった時期的にも合うわね………」

 

ルイズがハッとなる。

 

「王党派だった貴族が貴族派に寝返ったことも、アンドバリの指輪の存在で説明が付くと思うが?」

 

「……………王党派から寝返った貴族は、実は暗殺されていて、アンドバリの指輪によって偽りの生命を吹き込まれて操られていた?」

 

タバサが気付いたように呟いた。

 

「まぁ、あくまで予想だがな…………」

 

「それが当たっているのだとしたら、とんでもない奴らね」

 

「そんなの悪魔の所業じゃない! アルビオンの国王陛下達は、そんな奴らに……!」

 

ルイズも憤慨する。

 

「まあ、何にせよ。これで俺達もアルビオンの戦争に参加する理由が出来ちまった訳だ」

 

俺の言葉にルイズが驚いた表情をする。

 

「葵が指輪を取り返すって約束したからな」

 

そう言うと、

 

「………ごめんなさい」

 

突然タバサが謝って来た。

 

「何でタバサが謝るんだ?」

 

「私が巻き込んだ所為で、あなた達は関係のない戦争に巻き込まれることになった………」

 

タバサは申し訳なさそうな表情で俯く。

 

「気にするな。元々アルビオンには用があったしな」

 

ドクター・クラタが俺の考えている『倉田』と同一人物なのだとしたら、デジモンの悪用や抹殺を考えている筈。

流石に放っておく気にはならない。

それに下手をすれば、また時空振動爆弾をポンポン作って世界の消滅に自分達の世界も巻き込まれる可能性がゼロとは言えないからだ。

俺は何となく俯いていたタバサの頭をポンポンと撫でた。

タバサは驚いた顔で頭を上げる。

 

「あっ! 悪い! 女の子の頭を撫でるなんて失礼だったな………!」

 

自分でも何でこんな行動を起こしたのかは分からない。

ただ、本当に何となくだった。

すると、ちょっと冷たい視線を背中に感じた。

ジトーッと葵と優花がジト目で見つめてくる。

 

「な、何だ………?」

 

背中に冷や汗を掻きつつそう聞くと、

 

「「何でもないよ/わよ………!」」

 

明らかに何かありそうな声色で否定された。

 

「……………ねえ優花。大士ってもしかしてタバサの事………」

 

「……………まだ『好意』までは行ってないと思うけど、気にかけてはいるみたいね………」

 

「…………大士って巨乳派だから、平気とは思うけど…………」

 

「…………一応注意しときましょう………」

 

2人で何やら小声で話し合っていたが俺には聞こえなかった。

 

 

 

 

 







ゼロ魔クロス第12話です。
タバサの出番とか言っておきながら葵が出張ってしまいました。
ごめんなさい。
でも、お陰で水の精霊とのやりとりはすんなりと。
水の精霊を跪かせるゼロ魔の小説は今までにあったでしょうか?
少なくとも自分は知りません。(読んでる量はそこまで多くありませんが)
で、タバサがヒロイン決定したので早速フラグの片鱗が。
それで、最初に予告した通りにタバサはいろんな意味で魔改造されます。
そこでお聞きしたいのですが、タバサの魔改造のタイミングです。
やろうとすれば、すぐにでも出来ます。
どうやって魔改造されるかは予想出来てる人もいると思います。
若干ご都合は入りますがその辺は許容していただけるとありがたいです。
ただ、魔改造しないという選択肢は無いのでご容赦を。
では、投票お願いします。





タバサの魔改造はいつ?

  • すぐに魔改造しちゃいましょう!
  • もう少し今のままのタバサで!
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