水の精霊の問題も一段落し、俺達はオルレアンの屋敷に戻って来た。
執事のペルスランが出迎える。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お早いお帰りですが………何か必要な物でも?」
ペルスランの言葉にタバサは首を横に振る。
「終わった」
「は………? 今何と?」
タバサの言葉に素っ頓狂な声を漏らしながらペルスランは聞き返す。
「任務は終わった」
「さ、左様でございますか………流石はお嬢様です」
水の精霊の退治という事を知っているのか、流石に長年執事を務めてきたペルスランでも信じられない様だ。
「私じゃない。アオイのお陰」
タバサはそう言うと、一度俺達に振り返り、何かを訴える様な視線を向けてくる。
「…………私の感知範囲には魔力反応や怪しい気配は無いわ………今なら大丈夫よ」
優花の言葉にタバサは頷くと、ペルスランに向き直った。
「母様とあなたに必要な最低限な物を纏めておいて」
「は……? 何故でしょうか?」
タバサの言葉にペルスランは思いがけず聞き返す。
「今から母様の治療を行う。母様が治ったら、2人には身を隠してもらう」
「お、奥様の治療を!? 可能なのですか!?」
「可能性の話………でも、その可能性は限りなく高いと思っている」
何気にタバサの信頼が高い。
「わ、分かりました………! 直ちに!」
ペルスランは屋敷の奥へと向かって行く。
すると、タバサは俺達に向き直り、
「こっち………」
俺達についてくるように言うと、先導する様に歩き出した。
暫く廊下を歩いていき、とある扉の前で立ち止まる。
どうやらここがタバサの母親の部屋の様だ。
タバサは扉に手をかける。
だが、中々開けようとはしない。
本当に治るか不安なのだろう。
そんなタバサに声をかける。
「タバサ、大丈夫だ。タバサの母さんはきっと治る。それに、もし再生魔法や魂魄魔法で治らなくても、とっておきの『薬』もあるから心配するな」
タバサは一度俺の目を見ると、コクリと頷く。
因みにとっておきの薬とは言わずもがな『神水』の事だ。
俺、葵、優花の分として、1本ずつ………合計3本の『神水』が宝物庫の中に入っている。
本当なら葵と優花にそれぞれ持たせるはずなのだが、2人は再生魔法が使える為、自力での回復手段を持たない俺が持っておくべきだと、半ば強引に押し付けられたのだ。
タバサは扉を開ける。
部屋の中は殺風景だった。
ベッドと椅子とテーブル以外、他には何もない。
その椅子に座っていた青い髪の女性がこちらに気付く。
この人がタバサの母親だろう。
タバサの年齢からの計算上30代後半辺りの筈だが、その顔はやつれ、60歳以上と言われても頷ける程に老けて見えてしまう。
タバサの母親は、その腕に人形を大事そうに抱きかかえていた。
目を爛々と光らせて冷たく言い放つ。
「下がりなさい無礼者。王家の回し者ね? 私からシャルロットを奪おうというのね? 誰があなたがたに、可愛いシャルロットを渡すものですか」
タバサの表情は、無表情に見えたが、その実、悲壮に暮れているのを感じた。
「おそろしや………この子がいずれ王位を狙うなどと………誰が申したのでありましょうか。薄汚い宮廷のすずめたちにはもううんざり! 私達は静かに暮らしたいだけなのに…………下がりなさい! 下がれ!」
母親はタバサに、テーブルの上のコップを投げつけた。
タバサはそれを避ける素振りを見せない。
その姿が、この出来事がほぼ毎回繰り返されている事だと痛感させられる。
「ッ!」
俺は思わずタバサの前に出ると、タバサに当たる前にそのコップを手で受け止めた。
「…………………辛かったな、タバサ」
「ッ……………!」
俺の言葉に、僅かに反応を見せる。
ルイズやキュルケも、タバサの母親の姿に、口に手を当てるほどに驚愕と悲壮感を感じていた。
「タバサ、もう苦しまなくていい。後は任せろ」
俺はそう言う。
「葵」
「うん」
葵が前に出ると、葵の瞳が澄んだ碧眼になる。
『神眼』でタバサの母親の魂の様子を見ているのだろう。
「うわっ………思ったよりも酷い………魂が薬の魔力に囚われてるから、魂に連なる精神が、正常に機能して無いんだね…………」
葵はタバサの母親の状態を口に出す。
「治るか?」
「…………うん、問題無いよ。魂を捕えているのはあくまで薬の魔力だから、再生魔法で体内から薬を取り除いちゃえば治ると思う」
葵は笑みを浮かべて頷くと、
「〝鎮魂〟」
まずは怯えて警戒心を剝き出しにしているタバサの母親を魂魄魔法で落ち着かせる。
タバサの母親の精神が落ち着いた所で、
「〝絶象〟」
再生魔法を発動させた。
タバサの母親の身体が光に包まれる。
時間が経つにつれ、輝きを失っていたタバサの母親の目に光が戻っていき、再生魔法の光が消えると、ハッとしたように顔を上げた。
一瞬、ここが何処かとキョロキョロと辺りを見回したが、その際に視線がタバサの姿を捕える。
そして、
「…………………シャルロット?」
「ッ…………!?」
タバサは、母親の口から紡がれたその名に、一瞬信じられないと目を見開き、直後にいつもの無表情が信じられないぐらいに表情を崩して、大粒の涙をボロボロと零し始める。
そして、ついに我慢が出来なくなり、母親に抱きついた。
「母様! 母様ぁ!! うわああああああああっ!!」
今まで押さえていた感情が一気に溢れ、タバサは母親の胸の中で泣いた。
ルイズは感動で目を潤ませており、キュルケは優しい笑顔でタバサを見守る。
葵と優花、デジモン達も笑みを浮かべていた。
その様子を見た俺は微笑むと、皆に部屋を出るよう促す。
皆もそれに従い部屋を出た。
「タバサ、嬉しそうだったわね」
優花がそう言う。
「だな。長い間狂っていた母親が治って、自分の名前を呼んでくれたんだ。そりゃ嬉しいだろう」
俺も頷く。
暫くすると、
「お、奥様っ!?」
廊下からペルスランの驚く声が聞こえた。
少しして、間のドアがガチャリと開き、タバサとタバサの母親とペルスランが現れた。
「あら、もっと甘えていてもよかったのに」
キュルケがタバサを見て、クスクス笑いながらそう言った。
タバサは顔を真っ赤にして俯く。
すると、タバサの母親が口を開いた。
「大まかな事情はこの子から聞きました。皆様には厚く御礼を申し上げます」
そう言って頭を下げる。
「そんな、気にしないでください」
そう言うのは葵。
「いえ、シャルロットを手助けして頂いたご友人の方々には、いくら御礼を申し上げても足りないぐらいです」
そして、タバサに向き直ると、
「そしてシャルロット、あなたはジョゼフさまに復讐を考えているだろうと思います」
タバサは、ピクリと動揺する。
「正直に言います。私としては、復讐などという愚かな事は止めて欲しい。しかし、私には止める権利も、資格もありません。ですが、あなたが復讐を続けると言うならば、知っておかなければならないことがあります」
「え?」
「あなたの父の事です」
「父様の?」
タバサは少し驚いた顔をする。
タバサの母は、俺達に視線を向ける。
「席、外しましょうか?」
俺は念のためそう尋ねる。
しかし、
「いえ、シャルロットのご友人の方々にも聞いて欲しいのです。この先もシャルロットを支えてくれる皆様には」
タバサの母は、椅子に腰掛ける。
タバサもその隣に座る。
「皆様は、シャルル様の事についてはどのように?」
タバサの母は、そう尋ねる。
「えっと…………ペルスランから聞いた話では、才能と人望に溢れていましたが、継承争いの時に、ジョゼフ派の人たちによって謀殺されたと………」
ルイズが少し言いにくそうに答えた。
「そうですか…………」
タバサの母は、一度言葉を区切ると、話し出した。
「真実は少し違います」
その言葉に、俺達以外の全員が驚いた。
「今から話すことはシャルル様が謀殺される前に、私に打ち明けてくれた事です」
俺達以外の全員が息を呑む。
「先王が倒れたとき、先王はジョゼフ様とシャルル様を枕元に呼びました。次の王を選ぶためです」
その言葉を聞いて、ルイズやキュルケ、タバサ、ペルスランはシャルルこそが次の王に相応しいと思っているんだろう。
「そこで、先王は次王にジョゼフ様を選びました」
「え!?」
「なんですと!?」
タバサの母の言葉にタバサとペルスランは驚愕の声を漏らした。
ルイズとキュルケも驚いた表情をしている。
「先王が何故ジョゼフ様を選んだのかは分かりません。しかし、次王にジョゼフ様を選んだ事は真実なのです」
彼女達は呆気に取られている。
「それまでシャルル様と比べられてきたジョゼフ様にとって、それは喜ばしい事だったと思います。ジョゼフ様は、シャルル様の悔しがる姿を想像したでしょう。ですが、シャルル様がジョゼフ様に言った言葉は全く逆のものでした。シャルル様から出た言葉はジョゼフ様を祝福する言葉だったのです」
「なんと…………シャルル様らしいことです」
ペルスランがそう言う。
「私が思うに、恐らくそれがきっかけっだたのでしょう。ジョゼフ様のシャルル様に対する嫉妬が、強い憎しみに変わったのは……………」
「溜めに溜め続けたコンプレックスが、その時に爆発したのね……………」
キュルケがそう呟く。
「恐らくそうだと思います。そして、シャルル様は毒矢で射られ、殺されました。おそらく、ジョゼフ様が直に命令した、もしくは、直接手を下したのだろうと思います」
「父様……………」
タバサは俯く。
「あの時…………シャルル様が自分の心を偽らなければ、もしかしたら、そんな事にはならなかったのかもしれません」
その言葉に、タバサは驚いたように顔を上げる。
「母様?それは一体!?」
「シャルル様は、心の内では悔しがっていたのです。ジョゼフ様を祝福する言葉は、自分の嫉妬を見せまいとする、あの人の必死の抵抗でした……………」
皆は意外な言葉に驚愕する。
「シャルル様が殺される前日……………あの人は私に全てを語ってくれました。今話したことも、家臣たちを味方に付けるために根回しをしていたことも………………」
「えっ…………?」
「信じられません! シャルル様がそのような事を!?」
タバサとペルスランの2人は、タバサの母親の言った言葉に驚愕する。
「あの人も、認められるために必死だったのです。兄であるジョゼフ様に勝つために、自分の方が優秀であると証明するために………」
「父様……………」
母親の言葉にタバサは俯く。
すると、
「やはり私には信じられません! 奥様! お嬢様に復讐を止めていただくためにそのような虚言を申しているのでしょう!?」
シャルルに長年仕えてきたペルスランにとって、タバサの母親の口から語られた出来事は信じがたい様だ。
「私も信じられないわね………ペルスランから聞いた限りでは、オルレアン公が次王に指名されなかった事は不自然だし………」
「私もそう思うわ」
キュルケとルイズもペルスランと同意見の様だ。
とりあえず、まずはタバサの母親の言葉が真実だという事を信じてもらわなければならないが…………
俺がその方法を考えていると、
「ちょっといいかしら? 公爵夫人が、オルレアン公からその話を聞いたのはこの屋敷での事かしら?」
優花がそう質問した。
「え? ええ………そうですが………」
優花の質問の意図を計りかねていたタバサの母親は、怪訝に思いつつも頷く。
「なら、その部屋に案内して欲しいわ」
そこまで聞いて、俺は漸く優花が何をしようとしているのかを理解した。
「なるほど、『あの方法』か」
「ええ、真実かどうかを知る為には、実際に見た方が手っ取り早いでしょ?」
「「「「「?」」」」」
俺達以外の全員が首を傾げた。
タバサの母親に案内された場所は、先程までタバサの母親がいた部屋とは違う寝室だった。
優花はそこで、再生魔法の1つを発動させる。
「〝過去再生〟」
すると、部屋の中に半透明の人影が浮かび上がる。
その人影は2人。
1人は、今のやつれた顔ではなく、幾分か若く、健康的な見た目のタバサの母親。
もう1人は、青髪の男性。
「これは………!?」
「母様と………父様…………?」
「シャルル様………!? 何故…………!?」
タバサの母親、タバサ、ペルスランの順で驚愕の声を漏らす。
この青髪の男性がタバサの父親であるシャルル・オルレアンのようだ。
「こいつは再生魔法の一種で〝過去再生〟というものだ。その場で過去に起こった出来事を垣間見ることが出来る」
俺はそう説明する。
すると、突然シャルルがタバサの母親に縋り付くように泣き崩れた。
その口から懺悔の様に語られるのは、先程タバサの母親が言っていた事そのもの。
曰く、倒れた先王である父に呼ばれ、そこで次の王にジョゼフを指名すると言われた事。
曰く、内心悔しくて仕方なかったが、それを悟られないよう精一杯強がりを見せた事。
曰く、この日の為に色々と手を回していたのに無駄になった事。
曰く、家臣たちに自分の味方になるように、時には裏金も使って根回しをしていた事。
その一連の流れを、タバサとペルスランは呆然と見ていた。
「父様…………」
「シャルル様…………」
先程のタバサの母親の言葉は真実であると突き付けられた2人は呆然と声を漏らす。
それは、ルイズとキュルケも同じだった。
4人は、半分放心状態になりながら客間に戻ると、
「今でも信じられないわ………タバサのお父様があんな事を…………」
キュルケが呟く。
「何より、どうして先代のガリア王は、後継者にオルレアン公を指名しなかったのかしら?」
ルイズもそれが不思議そうだ。
「……………俺の考察で良ければ聞くか?」
俺はタバサに向かってそう告げる。
「ッ」
タバサは驚いたように俺を見たが、一瞬躊躇しながらもコクリと頷いた。
「なら、最初に断っておくが、俺達はこのハルケギニアからすれば余所者だ。だから、これから話す事は客観的な立場から見た俺の考えであり、タバサの父親を馬鹿にするつもりも、ジョゼフを擁護するつもりでもない事は、予め承知しておいて欲しい」
俺はそう前置きすると、タバサは再び頷く。
「まず最初に、タバサの父親………オルレアン公の評価についてだが、ペルスランから聞いた話では、オルレアン公は『魔法の才能』と人望に溢れていた………と言う事でいいな?」
俺はペルスランに確認を取る。
「相違ございません」
ペルスランは頷く。
「それなら、俺が最初に言いたいことは、王様に必要な能力に魔法は全く関係ないという事だ」
俺の言葉に、ハルケギニア出身の人間は目を見開く。
「何言ってるの!? 貴族とはメイジ! その貴族を束ねる王族に魔法が必要無いなんて………!」
当然ながら、ルイズがいの一番に食いついてくる。
「じゃあ聞くが、王様に魔法が必要な時ってどんな時だよ?」
「そ、それは……………戦の時とか…………」
ルイズは尻すぼみになりながらそう言う。
「王様っていうのは、一番後方でどっしり構えていなきゃいけないんだろ? その王様が魔法を使ってまで戦わなきゃいけないときなんて、とっくに大勢が決まってチェックメイト寸前以外になんかあるのか? まあ、暗殺者に対抗するぐらいの力は持ってた方が護る方としても安心できるのかもしれないが、それだと部下達も無能の烙印を押されるからな」
「うっ…………」
ルイズは言葉に詰まる。
「あと、オルレアン公のもう1つの長所である人望も、根回しで味方に付けた部分が多そうだしな」
「………………………」
「逆に、ジョゼフの場合、ペルスランは魔法が使えないから暗愚と決めつけていたようだが、それ以外ではどうだ?」
「…………それ以外?」
タバサが聞き返す。
「例えばだが、チェスの様なゲームをジョゼフとオルレアン公はしていなかったか?」
「……………2人でよくチェスをしてたのを覚えてる」
「勝敗は?」
「……………………ッ!?」
タバサは暫く考え込んでいたようだが、思い出したようにハッとなった。
「父様が勝っていた記憶が無い…………?」
タバサが信じられないと驚愕した表情を見せる。
「チェスっていうのは、軍の采配をゲーム化したものだ。勿論実戦とは違うだろうが、それだけでも、司令官の才能の有無の大きな指針にはなる」
「ッ…………!」
「更に、チェスで全勝できるほどの思慮深さを持つなら、それを国政に応用できる頭脳を持っていた可能性も否定できない。つまり、王に必要な資質はオルレアン公よりもジョゼフの方が上だった可能性は十分にあり得る。そしてそれを、先代のガリア王が見抜いていたのだとしたら?」
「先王がジョゼフを次王に選んだのは、間違いでも何でもない…………?」
「あくまで可能性だ。実際は分からないさ」
俺はそう付け足しておく。
「父様……………」
タバサは俯く。
「………………で? これからどうするつもりなんだ?」
俺は今後のタバサの方針を聞く。
「それは…………」
「復讐を続けるのか? それとも、母親やペルスランと共に、ひっそりと暮らしていくのか?」
俺はもう一度、よりハッキリと尋ねた。
「タバサ! 復讐なんて駄目よ! 復讐は何も生まないわ!」
ルイズがそう叫ぶ。
「タバサ、私も同じ意見よ。復讐なんてやめて。これからの幸せに目を向けるの………!」
キュルケも反対派の様だ。
「…………………」
だが、俺は何も言わない。
「タイシ! 何で黙ってるのよ!? アンタも何か言いなさい!」
ルイズはそう言うが、
「…………俺は復讐を止めろと言うつもりはない。言う資格も俺には無い」
「なっ!?」
「ッ!?」
俺の言葉にルイズは驚愕で声を漏らし、タバサも目を見開く。
「…………どうして?」
タバサがそう問う。
「……………俺は以前、目の前で俺にとって『特別』で『大切』な存在を殺された事がある」
それは、エヒトに一度殺された葵の事だ。
「その瞬間、俺は殺した相手を殺す事だけで頭が一杯になった。どんな犠牲を払おうとも、そいつだけは塵も残さず消滅させなければ気が済まない。そんな気持ちだった」
あの時の絶望感と、怒りと憎しみ。
それは俺の心を全て塗りつぶした。
「そして俺は実際に、邪魔する者を全て薙ぎ払ってそいつを殺そうとした。実際に、ある国の首都を丸々消滅させた。その犠牲者は、少なくても数万人……………もしかしたら、10万人を超えていたかもしれない。俺は、その全ての『命』を薙ぎ払った」
だが、
「でも、俺はその事を後悔してはいない。『反省』はしているけどな。それほどまでに大切な存在を失うという事は、自身の心に大きな遺恨を残す。復讐を果たしたとしても、何も返っては来ない。それを理解していても、俺は止まる事は出来なかった…………」
まあ、俺の場合は、葵が『女神』だった事で最悪の状態は免れたが………
「だから俺は復讐を否定しない。肯定もしないが、復讐が間違っているとは俺には言えない」
「…………………………」
タバサは俺の話を聞くと、意外そうに俺を見つめた。
「どうした?」
「意外だった………あなたなら、そんな状況でも自分を御せると思っていた」
「買い被りだな。俺は何処までも自分の事しか考えない『自己中』さ。無暗に『命』を奪う快楽殺人者のつもりは無いが、自分の『大切』なモノの為なら、俺は何処までも残酷になれる人間だ」
「自分の為…………」
「復讐も言い換えれば自己満足さ。ただ、その復讐は成し遂げなければ前に進めないのかって事だな。あと、成し遂げた後にやりたいことはあるのかって事ぐらいか………」
「私は…………」
「ジョゼフに復讐したとして、その後にお前は如何する?」
「私は………母様と静かに暮らしたい…………」
「それならそれも良いさ。だが、必ずお前を王に推す者達が現れる。そうなった時、お前は如何する?」
「私は、王位に興味なんか無い………」
「お前はそうだろう。だが、おそらくお前を王に推す者達はこう言うだろう。『あなたが王にならなければ、争いが起こり、多くの血が流れることになる』。こう言われたら、お前は如何する?」
「それ………は…………」
俺だったら知った事かで済むが、タバサはそうもいかないだろう。
「その状況に流されて王になった結果、お前は若く、未熟な王として君臨することになる。それを狙って、私欲にまみれた家臣や、未熟な所を着け狙う周辺諸国。一番厄介なのが、ロマリアが介入して来る事か? そう言う事に、お前は巻き込まれることになる」
「ッ………………!」
「それを踏まえると、ジョゼフは王としてそれなりにやってると思うぞ。周りには無能と思われているのかもしれないが、実際は他国の介入を許さず、結構キッチリ国を治めているように思えるが?」
まあ精神を半ば病んでるせいで、ハルケギニアを盤としてリアルゲームをしているらしいが……………
つか、改めて思うと、ジョゼフのやってることってエヒト並みなんだよな。
悠久の時を生きていたエヒトと同等の事をするジョゼフ。
こう聞くと、ジョゼフの有能さが凄まじい。
その有能さを別方向に使ってるのがあれだが。
「話が脱線したが、タバサにはこの国の国民達を巻き込んでまで復讐を選ぶのかって事だ。それでも復讐がしたいというのなら好きにすればいい。俺は反対はしない」
「わた………しは…………」
タバサは俯く。
そして、少しすると顔を上げ、
「……………私には、まだ決められない」
タバサはそう言った。
「母様が言った事が本当だとしても、私には知らない事が多すぎる」
確かにタバサには、知らない事が多すぎるだろう。
「だからまずは確かめたい。ジョゼフが………伯父様が何を思って父様の命を奪ったのか…………」
「シャルロット………」
タバサの母親が、タバサの本当の名を呟く。
「それで、具体的には如何するつもりだ? オルレアン公爵夫人を治した事で、お前の裏切りは直ぐにジョゼフに伝わると思うが」
「まず、以前決めた通りに母様とペルスランには認識阻害の指輪を嵌めて貰って身を隠してもらう。匿う場所は、一先ずトリステインの宿を取ろうと思う」
すると、そこでキュルケが口を出した。
「それならあたしの実家は如何かしら? 病み上がりの公爵夫人に宿暮らしはキツイでしょう? あたしが紹介状を書いて、賓客として持て成して貰うようにするわ」
「だけど………」
「タバサ、これはあたしがやりたいからやるの。迷惑なんて考えなくてもいいのよ」
「ッ………………貸し一つ」
「だからいいって言ってるのに」
キュルケは苦笑する。
すると、タバサは立ち上がって俺達の前に歩いてくると、突然跪いた。
「タバサッ!?」
ルイズが驚愕する。
曲がりなりにも王族であるタバサが、庶民である俺達に跪いた事が信じられないんだろう。
「あなた達にお願いがある」
タバサはそう言う。
「目的の為に手を貸せと言うのなら断らせてもらうぞ。流石にそこまでする義理は………」
「わかってる。そうじゃない…………」
俺の言葉を遮ってタバサは続ける。
「あなた達が、そこまで強くなった方法を私に教えて欲しい」
タバサが言った言葉は、俺の予想の斜め上だった。
力を貸して欲しいと言ってくる事は予想していたが、まさか、強くなった方法を聞かれるとは思ってなかった。
「目的を果たすためにも、母様たちを護る為にも、力は必要………だけど、関係の無い人達を巻き込むつもりはない」
タバサが正当な王位を主張すれば、賛同する者達も出てくるだろう。
だが、そうすると、ガリアを真っ二つに二分する内戦に勃発し、数多くの犠牲が出る事だろう。
タバサはそれを懸念しているのだろう。
「そう言われてもな…………」
とはいえ、俺のデジソウルは発現条件が良く分からないし、葵の強さは『女神』だからだ。
それに優花は…………
「……………あ」
そこで俺は思い出した。
「優花が強くなった方法なら可能っちゃぁ可能か…………」
俺は思わず呟いてしまった。
「その方法は………!?」
その言葉を聞き逃さなかったタバサが詰め寄ってくる。
「ちょっと待て! まずは話を聞け!」
詰め寄って来たタバサを引き離すと、
「先ず言っておくが、強くなると言っても、得れる力は、おそらく優花の1割から2割。それを多いと捉えるか少ないと捉えるかはタバサ次第だが、その為には地獄の苦しみともいえる痛みを乗り越えなきゃいけないんだ。生半可な覚悟で臨めば、確実に心が先に壊れる。実際、優花も下手をすれば廃人だったんだからな」
タバサは優花を見る。
「本当よ。あの時は本気で心が壊れる寸前だった。もし大士が傍に居なかったら、私は今頃廃人になって死んでいたでしょうね」
優花は真剣な顔でそう呟いた。
「そしてもう1つ。この方法を取る為には、とても貴重な『薬』を使わなければいけないんだ。ストックは3つしか無いし、もう二度と手に入らないだろう物だ。正直、これをタバサに使っても良いものかどうか迷っている。以前と比べれば親しくなっているとは思うが、それでもまだ………な」
すると、タバサは跪いた状態から更に床に座り込むと、土下座の体勢を取った。
「んなっ!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を漏らす。
「お願い……………今の私には、『力』が必要…………!」
何の迷いもない、真っ直ぐな瞳でタバサは言い切った。
「だぁあああっ!? 分かった! 分かったから、土下座は止めてくれ!!」
流石に居た堪れなくなった俺は反射的にそう言ってしまう。
「本当?」
「本当! 本当だから! 土下座を止めてくれ!」
そう言ってようやく土下座を止めたタバサに、俺はホッとする。
思わず了承してしまったが、ここまでさせてやっぱ無しというのも駄目だろう。
「はぁ、思わず頷いちまった…………」
俺はそう零す。
「ホント、意外よね?」
優花がそう言うと、
「いつもの大士なら、土下座されても『神水』を使うなんて言わないと思うんだけど?」
葵も、そう言う。
「い、いや、流石に女の子に土下座されると男として……………」
すると、葵と優花はコソコソと話し合いだした。
「……………ねえ優花。大士ってやっぱり………」
「…………でしょうね。でなきゃ、貴重な『神水』を使うなんて言わない筈よ………」
「………タバサの事も、『女の子』って、やけに意識してるしね…………」
「…………タバサの方はよく分からないけど…………」
「…………少なくとも、大士の『異性に好かれ難い』って言う因果はまだ残ってるから、急に進展することは無いと思うけど…………でも、最近は異世界召喚の連続で、因果の綻びが大きくなってるから、前ほど確実じゃないよ………」
「…………正直気は進まないけど…………覚悟位はしといたほうが良いのかしら………?」
コソコソと話し合った後、2人は揃って溜息を吐いた。
「まあ、大士がそうするって決めたのなら、私達は反対しないよ」
葵がそう言う。
「だけどタバサ。本当に覚悟しておくことね。あの苦しみは尋常じゃないわよ」
優花の真剣な言葉に、タバサも真剣な表情で頷くのだった。
はい、ゼロ魔クロス第13話です。
毎度おなじみ過去作のコピペが結構使われとります。
ちょっと話にまとまりが無かったと思う。
タバサ母、あっさりと復活。
でもって早速タバサ魔改造フラグが立ちました。
タバサに甘いのは大士が無意識に惹かれているって事で。
次回は魔改造開始。
さて、タバサは一体どうなってしまうのか!?
タバサの魔改造はいつ?
-
すぐに魔改造しちゃいましょう!
-
もう少し今のままのタバサで!