ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第10話 彼女達の心

 

 

「なあ、何かおかしくねえか?」

 

唐突にハジメが言った。

 

「何であの恐竜たちはコイツの姿を見てもビビらずに特攻ばかりしてくるんだ? しかも、何で頭に花を咲かせてるんだ………!?」

 

ユエと出会った場所からまた十階層ほど降りた現在。

この階層は天井が30mほどもあり、何故か密林が広がっていた。

そして、その密林に足を踏み入れた瞬間から頭に花を咲かせたラプトルの様な恐竜型モンスターにしつこく襲われていた。

そして今も絶えず恐竜型の魔物から襲われ続けているのだが、俺達にはこうして相談する余裕まである。

何故なら、

 

「………見て、魔物がゴミの様……………」

 

ユエが魔物達を見下ろしながら呟く。

今現在俺達が居るのはドルグレモンの背の上。

大量の魔物達相手にハジメ達は大丈夫なのだろうが、俺と葵さんがヤバかったので、ドルグレモンに進化させてその背に乗って進むことにしたのだ。

この階層のレベルの魔物になると、大軍相手では成熟期では厳しかったし、この階層は広く、天井も高いのでドルグレモンが歩いても問題ない。

ただし、普通に歩いているだけで木々を薙ぎ倒し、恐竜たちを蹴散らすその姿はこの階層の魔物達にとって災害と言っていいだろう。

目の前に飛び掛かっている恐竜達があっさりとドルグレモンに返り討ちに遭って全滅する。

これで暫くは静かになるかと思ったが、

 

「………また100体ぐらい近付いてきてるね」

 

気配察知で気付いた園部さんがそう進言してくる。

 

「またか…………ハジメの言った通りおかしいな…………野生の生物でも………いや、野生の生物だからこそ絶対の脅威には近付かない筈だ………なのに、こいつらはしつこくドルグレモンに向かって来る………」

 

「あのさ、私さっきから思ってたんだけど、あの花って…………」

 

「……寄生」

 

「ユエもそう思うか?」

 

俺の言葉に葵さんが口を開き、それにユエが続いてハジメも同意する。

その推測を肯定するようにユエがコクンと頷く。

 

「……本体がいるはず」

 

「だな。あの花を取り付けているヤツを殺らない限り、俺達はこの階層の魔物全てを相手にすることになっちまう……………つっても、普通にこのまま全滅させそうな勢いだがな」

 

新しい群れもあっさりと蹴散らされるその光景を見てハジメは脱力する。

 

「そうなると………ドルグレモン、魔物達の抵抗が激しい方へ向かってくれ、多分そこにボスがいる」

 

「分かった」

 

ズズゥンと重い足音を踏み鳴らしながらドルグレモンは進んだ。

 

 

 

暫く探索していると縦割れの洞窟を発見した。

俺達はドルグレモンから降りると、

 

「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

 

ハジメが警戒しつつ洞窟に入る。

二番目にユエ、白崎さんと続き、葵さん、リュウダモン、俺、退化したドルモン、園部さんの順で狭い洞窟の中を進む。

しばらく道なりに進んでいると、大きな広間に出た。

広間の奥には更に縦割れの道が続いている。

ハジメ達の気配感知には何も引っかからない様だが油断は出来ない。

警戒しながら俺達が広間の中央辺りに来た時にそれは起こった。

後方から緑色のピンポン玉みたいなものが飛んできたのだ。

 

「………危ない!」

 

ユエが風魔法でそれらを薙ぎ払うが、その緑色の弾が弾けて中にあった粉のような物が辺りに広がる。

それらが俺達を包んだ時、

 

「ッ…………!?」

 

自分の体に異変を感じた。

体が金縛りにあったかのように動かないのだ。

その瞬間、

 

「……にげて……ハジメ!」

 

ユエの手がハジメの方を向き、魔法を放った。

ハジメが咄嗟に飛び退き、その魔法を躱す。

俺はユエを挟んで反対側にいた為被害を受けることは無かったが、自分の体が自分の意思とは無関係に動き出し、

 

「おわっ!?」

 

「えっ………?」

 

ユエに注意が向いていた園部さんを拘束する様に抱きしめたのだ。

ふと頭に違和感を覚える。

え?

俺、もしかして寄生された!?

そしてさらに言えば、園部さんを後ろから抱きしめている俺の右手が、柔らかい部分をがっちりと掴んでいる。

言うまでもなく、園部さんの胸を鷲掴みにしているのだ。

 

「……………………………」

 

それに気付いた時、背筋が凍った。

園部さんの首がゆっくりと俺の方を向く。

その頬は赤く染まっており、目には涙を浮かべ、しっかりと抱きしめているためプルプルと震えている感覚が良く分かる。

ハッキリ言って、一般人と変わらない俺のステータスで園部さんを拘束しようとするなど、蜘蛛の巣でライオンを拘束しようとしているようなものだ。

俺は思った。

あ、死んだ、と。

 

「………………………………あの、園部さん」

 

「…………………………何?」

 

俺の言葉に答えるその言葉がやけに重々しい。

 

「言い訳はしないけど…………その……………………………手加減して?」

 

俺は最後の望みを口にする。

その直後、頭に響く衝撃と共に俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………はっ!?」

 

気が付いた俺は飛び起きる。

 

「あ、起きた?」

 

葵さんが声を掛けてくるが、

 

「………………生きてる?」

 

自分の手を見ながら思わずそう零す。

 

「あはは………まあ、気持ちは分からなくもないけどちゃんと生きてるよ」

 

俺の言葉に葵さんは苦笑する。

 

「………ッ! そうだ! 園部さん………!」

 

そこで俺は園部さんに謝ろうとその姿を探す。

すると、

 

「ツーン……………」

 

「よしよし、ユエは泣いて良い…………」

 

「あはは……………」

 

ユエが膝を抱えながらハジメからふくれっ面で顔を逸らし、そんなユエを抱きしめながら頭を撫でつつ園部さんが非難の目をハジメに向け、そんな彼女達を見つつ白崎さんは苦笑している。

 

「どういう状況?」

 

俺は首を傾げる。

 

「あ~、それはね…………」

 

葵さんが簡単に説明を始める。

どうやら俺が操られた花の主は所謂アルラウネの様な魔物で、俺が操られたのと同じように葵さんとユエも操られたらしい。

ハジメ、白崎さん、園部さんは耐性があったらしく操られはしなかった。

ドルモンとリュウダモンは、元々生物的構造が違うためか操られなかった。

尚、葵さんは白崎さんを拘束しようとしていたが、そこはステータスの差でやんわり振りほどかれて逆に動きを封じられたそうだ。

ユエは、主級魔物であるエセアルラウネに人質にされ、こちらの動きを制限していたが、その時ユエが『ハジメ! ……私はいいから……撃って!』と物語のヒロインのようにそう言ったらしい。

普通ならそこで戸惑うなり、カッコいいセリフでヒロインを助けるだろう場面なのだが、ハジメは、『え、いいのか? 助かるわ』と躊躇なく発砲したらしい。

一応その弾丸はユエを操ってた寄生花を撃ち抜き、直後に呆然となったユエと同じように固まっていたエセアルラウネを仕留めたらしいのだ。

全員無事助かったのだが、ユエはそんなハジメの反応にご立腹らしい。

それを聞いた俺は、

 

「ハジメ」

 

ハジメに呼びかけた。

 

「ん?」

 

ハジメがこちらを振り向いた時、

 

「………ないわ~」

 

「ぐっ………! でも、最終的には撃つ気だったし。狙い撃つ自信はあったんだぞ。流石に問答無用で撃ったらユエがヘソ曲げそうだし、今後のためにならんだろうと配慮したんだぞ?」

 

「いや、狙い撃つ自信はあって、最終的に撃つ気だったとしても、そこはせめて、『ユエ、俺を信じろ………』とか言って、安心させてからユエが目を瞑った後に撃つべきだろ?」

 

俺の言葉にユエが何度も頷き、

 

「激しく同意………!」

 

「女心の解らない奴は馬に蹴られて死ねばいいのよ………!」

 

俺の言葉に同意するユエと辛らつな言葉を投げる園部さん。

 

「ぐぅ…………」

 

呻くハジメ。

すると、

 

「ユエ、私が許すわ。南雲から思いっきり血を吸っちゃいなさい!」

 

「えっ!? ちょっと優花ちゃん!?」

 

園部さんの言葉に白崎さんが反応するが、ゆらりとユエが立ち上がる。

その目がキュピーンと光って獲物を見る眼でハジメを狙っていた。

 

「はっ!? ちょ、ちょっと待て! ユエ!」

 

ハジメが狼狽える。

 

「させないよ! ユエちゃん!」

 

白崎さんが慌ててユエを止めようと立ち上がる。

が、

 

「させないのはこっちよ!」

 

その前に園部さんが立ちはだかった。

 

「優花ちゃん!?」

 

「悪いけど今回はユエの味方よ! あれは紛れもなく南雲が悪いわ!」

 

立ちはだかる園部さんに白崎さんは攻めあぐねる。

白崎さんは治癒師としては高い戦闘力を持っているが、園部さんは元からバリバリの戦闘職だ。

直接的なステータスは園部さんの方が圧倒的に高い。

その直後、

 

「ア――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!??」

 

ハジメの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

ハジメが気を失うまで血を吸われた後、俺は園部さんに謝るタイミングを逃し、傍に居ずらくなって皆から少し離れた場所にいた。

元々ここで一泊するつもりだったので、出入り口はハジメが予め錬成で塞いだため魔物の心配はない。

 

「はぁ…………」

 

時間が経てば経つほど謝り辛くなるので俺は溜息を吐く。

そしてあの事を謝る事ばかり考えていた所為か、園部さんを抱きしめた時の感触を鮮明に思い出してしまった。

年頃の女の子を抱きしめたのは、前世も含めてあれが初めてだ。

 

「…………………女の子の体って、あんなに柔らかいんだ…………」

 

俺は思わず呟く。

園部さんは俺よりステータスはかなり高い筈だが、その抱き心地は本当に柔らかかった。

すると、

 

「何言ってるのよ………バカ………!」

 

いきなり後ろから声がしたので慌てて振り向くと、そこには頬を染めて気まずそうに顔を背ける園部さんの姿があった。

 

「そ、園部さん………!?」

 

思わず驚くが、その直後に自分の言った言葉を思い出した。

あれでは確実に変態の烙印を押される。

俺は即座に行動に移した。

 

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

地面に膝を着き、頭を地面に擦り付ける全力の土下座。

 

「ちょ、何やってるのよ!?」

 

「謝って済む問題でないことは重々承知していますが、なにとぞご容赦を!!」

 

俺に出来ることはこの頭を地面に擦り続けることだけだ。

 

「だからやめなさいって!」

 

「打擲ならいくらでも受けます故、命ばかりはお助けを!!」

 

「話を聞けっ!!」

 

園部さんから良い一撃を貰うのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ………落ち着いた?」

 

「…………すまん。取り乱した………」

 

園部さんの一撃で正気に返った俺はそう言う。

すると、俺は園部さんに向き直り、

 

「園部さん、改めてすまなかった…………操られていたとはいえ、園部さんに破廉恥な事を……………」

 

改めて頭を下げた。

園部さんはその時の事を思い出したのか少し顔を赤くし、

 

「べ、別に気にしてないわよ…………操られてたんなら不可抗力でしょ?」

 

「そうだとしても、好きでもない男に抱き着かれたんだ…………嫌悪感は半端じゃなかっただろうし……………」

 

「べ、別に恥ずかしかっただけで、嫌だったわけじゃ……………」

 

何かボソッと呟いたようだが何を言っているか聞き取れなかった。

く俺に対する恨み言だろうか?

 

「重ねて言うが、本当にすまなかった!」

 

俺は三度頭を下げた。

 

「ああもう! 分かったわよ! その謝罪は受け入れるから、もう謝るのは止めなさい! 次謝ったら逆に怒るから! はい! これでこの話はもうおしまい!!」

 

園部さんは強引にその話を終わらせた。

 

「……………園部さん」

 

だが、最後に俺は言っておきたかった。

 

「何?」

 

謝ると思っていたのか苦無取り出して睨む様な視線を向ける。

だが俺は、

 

「…………ありがとう」

 

感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

 

「…………………………」

 

何を思ったか顔を赤くして顔を背けた。

呆れたのだろうか?

すると、

 

「そ、そういえば、前から気になってた事があるんだけど………!」

 

突然園部さんはそう言った。

 

「何? 園部さん」

 

俺がそう聞くと、

 

「それよ」

 

「それって………どれ?」

 

言葉の意味が解らなかった俺は聞き返す。

 

「…………その私の呼び方。いつまで『園部さん』なんて他人行儀な呼び方してるの?」

 

「えっ? いや、でもそこまで親しい訳じゃないし…………」

 

「何言ってるのよ!? こんな生きるか死ぬかの奈落の底の底を共に生き抜いて来てるのに、それが唯の他人なわけないでしょ!?」

 

「お……おぉ?」

 

「それとも何? 黒騎にとって私は仲間にすらなれないどうでもいい存在なわけ?」

 

「そんなことは無い!」

 

思わず強く反対してしまった。

 

「少なくとも、俺は皆と同じように園部さんを仲間だと思ってるし、心から信頼してると言い切れる!」

 

「ッ……………!」

 

余りにも強く言い過ぎたのか、園部さんは目を見開いて固まっている。

 

「あ、ご、ごめん………」

 

俺は謝る。

すると、園部さんはハッとして、

 

「そ、そう思ってるなら、ちゃんと仲間らしく呼んでよね!」

 

そう言って来た。

『仲間らしく』。

その言葉に俺はデジモンテイマーの仲間を思い出した。

タカト、ジェン、ルキ、ヒロカズ、ケンタ、ジュリ、リョウ……………

全員仲間だと思っていたし、全員を名前で呼んでいた。

まあ、ルキはタカトと一緒に『ちゃん付けしたら蹴っ飛ばす』って言われたからだが。

それを思い出して、俺は自然と笑みを浮かべた。

 

「ああ………確かにその通りだな…………それじゃあ…………優花さん?」

 

俺は名前で呼んでみる。

小学生の頃はともかく、年頃の女の子をいきなり呼び捨てにする度胸は無い。

 

「何かまだ遠いわね…………」

 

「……………優花ちゃん?」

 

「背中がムズムズするんだけど…………」

 

「………………園部」

 

「また遠くなった」

 

ここまで来るともう一つしかない。

 

「じゃ、じゃあ…………優花………」

 

俺は思い切って呼び捨てで呼んでみる。

 

「ッ…………………」

 

僅かに息を呑んだ。

 

「やっぱり戻すか?」

 

俺がそう聞くと、

 

「う、ううん! それでいいわよ!」

 

首を振って否定する。

 

「なら、これからは、ゆ、優花って呼ぶな?」

 

「う、うん。代わりに私も大士って呼ばせてもらうわ」

 

「ああ、構わない」

 

俺はその言葉に頷く。

 

「じゃあ、そろそろ戻ろっか、た、大士………!」

 

若干まだ呼び慣れてないみたいだな。

 

「ああ、優花………」

 

俺はそう言って優花と一緒に皆の所へ歩いて行った。

 

 

 

「お帰り~、ちゃんと謝れた?」

 

戻ると同時に葵さんがそう声を掛けてきた。

 

「ああ………って、優花が俺の所に来たのって…………!」

 

「うん。私がそう言ったの。早めに謝った方が良いと思ったから……………」

 

「そ、そうか…………まあ何せよ助かったよ。ありがとう葵さん」

 

「どういたしまして…………って、あれ?」

 

葵さんは何か引っかかることがあったのか疑問の声を漏らす。

 

「どうした?」

 

「今、大士君、優花の事名前で呼んだ?」

 

「え? ああ、優花から言われたんだ。仲間なのにいつまで他人行儀な呼び方をしてるんだってね。優花も俺の事を名前で呼ぶようになったぞ」

 

「………………………ふ~ん」

 

葵さんはどこか不満そうな、それでいて意味ありげな視線を向けてくる。

すると、

 

「なら大士君。私の事も呼び捨てで呼んでよ。私もこれから大士って呼ぶから」

 

「はい?」

 

唐突にそう言われた俺は困惑した。

 

「何でいきなり?」

 

「いいでしょ? 優花だけ不公平じゃない。私の事も呼び捨てで呼んでよ。それとも、私は『仲間』じゃない?」

 

涙目+上目遣いのコンボで俺に迫る。

その威力は強烈だ。

それが例え…………

 

「わ、わかった…………葵………」

 

「やった! これからもよろしくね、大士!」

 

演技だと分かっていたとしても。

葵さん………葵はそう言って嬉しそうに女子用の寝床に戻っていく。

因みに今更だが、今までの寝床はハジメが錬成で毎回用意してくれていた。

もちろん、女子と男子は別だ。

白崎さんは最初ハジメと寝たがっていたようだが、そうなれば確実に最後までヤってただろうし、そうなると俺達の精神衛生上良くないので断固拒否した。

男子用の寝床には、既にハジメが寝ている………というより、血の吸われ過ぎで気を失っている。

俺はハジメから少し離れた所に仰向けに寝転がる。

目を瞑りながら俺は考えた。

葵と優花。

俺は間違いなくこの2人に惹かれている。

葵に関しては元々一番近くに居た女性という事もあって惹かれていたのは自覚していたが、彼女には既に好きな人が居ると聞いていたので、自分なりの一線を引いて一定以上踏み込まないようにしていた。

それが異世界に召喚されて、同じデジモンテイマーである事を知り、済し崩し的にこうやって毎日近い距離にいるため、前以上に強く惹かれる様になってしまった。

優花はそれほど接点は無く、髪も染めていたので少し不良っぽい女子のイメージを持っていたのだが、俺が冤罪で責任を押し付けられ、ハジメや白崎さん、八重樫さん、愛子先生以外のクラスメイトを信じられなくなる中、たった一人自分から謝罪を行ってくれた根が真面目な優しい女の子だと気付き、俺達に同行を申し出てこうやって一緒に迷宮攻略を行って行くうち、彼女の葵とはまた違った魅力に惹かれていった。

 

「はぁ~~~~~~……………」

 

そして深い溜息を吐いた。

葵には先程言った通り既に好きな相手が居るし、優花は恐らくハジメに気があるのだろう。

でなければ、『謝りたい』という理由だけでこんな奈落の底の底まで来ない筈だ。

2人に惚れる俺にも問題はあるが、その惚れた2人が2人とも別の男の方を向いているのもキツイ。

元々俺は女子に好かれるような性格でも無いし、どちらにせよ友達以上にはなれないと思うが………………

改めて自分の気持ちを自覚しつつ、報われない恋をした事に心の中で涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 優花】

 

 

 

 

大士の謝罪を受け入れて寝床に戻ってきた私。

何故か女子達が集まって女子会のような物が開かれようとしていた。

 

「で? 何が聞きたいの?」

 

話をしたいと言い出した張本人のユエに向かって、私は思わず呟く。

すると、

 

「んっ………ずっと気になってた……………ユウカとアオイはどっちがタイシの恋人………?」

 

「はいっ!?」

 

思い掛けない質問に私は思わず声が裏返った。

 

「な、何でそんな話になるの!? タ、タイシとはまだそんな関係じゃ…………!」

 

私は咄嗟に言い返す。

 

「…………“まだ”って事は、ユウカはタイシの事が好き…………?」

 

「えっ? あっ! いや、ちょっと待って……………!」

 

ユエの容赦ない質問に私は頭の中がごちゃごちゃになる。

よし、一旦整理しよう。

大士に責任を押し付けて心苦しかった時に謝ったらちゃんと許してくれたし、ベヒモスに怯えていた私を気に掛けてくれて、宣言通り倒してくれて、庇われて命を救って貰った事もあったし、約束通り南雲に謝る事も出来た。

学校の成績は特別いい訳じゃなかったけど、意外と頭も切れるし、それに…………

魔物の肉を食べて苦しんでいる時、香織は南雲という縋る存在があったけど、私には居なかった。

このままじゃ痛みで死ぬと思った時、不意に大士が手を握ってくれたのだ。

 

『大丈夫だ。俺がここにいる』

 

『頑張れ、園部さん!』

 

私は思わずその手に全力で縋ってしまった。

その時は気付かなかったけど、私は大士の手の骨を握り砕いてしまっていたらしい。

それを後で葵に聞いたとき、私は思わず謝ろうとした。

だけど、

 

『このまま彼にカッコつけさせてあげて』

 

葵にそう言われた、

私に何も言わないのは彼なりの男の意地だったらしい。

それに、ドルグレモンに進化させたとき、ダメージを受けても絶対に屈しようとはしないあの背中。

私は咄嗟にその背を支えたいと思い、手を出した。

葵も一緒だったけど。

それに、案外情けない所もあるけど、それがまたちょっとギャップがあって可愛いと言うか………………

 

「わ、私は大士の事なんて………! そりゃ危ない所を助けてもらった事はあるし、意外と頼りになるところあるし、頼もしい背中だなーって思った事あるし、情けないところもあるけどそれがまた逆に可愛いって言うか……………」

 

「惚れる要素バリバリ……………」

 

ユエの鋭いツッコミ。

 

「え…………? えっ?  私、大士の事好きなの…………!?」

 

「無自覚の恋…………」

 

「香織と一緒だね~」

 

「あ、あはは…………」

 

「ええっ~~~~~~~っ!? 嘘よね!? 違うわよね!?」

 

自問自答する様に繰り返す私。

 

「あはは、優花にはまだ少し早かったみたいだね」

 

困惑する私を他所に笑う葵。

 

「…………そう言うアオイは…………?」

 

ユエが葵に訊ねる。

 

「私? そうだね…………好きか嫌いかって言えば間違いなく『好き』だよ」

 

葵、それは友達としてって付け加えて逃げる作戦ね!

私はそう思った。

でも、

 

「うん。本来なら、大士と恋人になっても良いって思えるぐらいには好きだね」

 

まるで自分に確認する様に頷きながらそう答えた葵。

 

「「えっ!?」」

 

その言葉に、私と香織は驚いた声を漏らした。

 

「ちょ、ちょっと待って葵! あなた好きな人が居るんじゃなかったの!?」

 

私は思わず問いかけた。

香織も言いたいことは同じようだ。

 

「うん。だから『本来なら』って言ったんだけど…………」

 

「どういう意味………?」

 

香織が意味が分からず訊ねる。

すると、葵は表情を僅かに曇らせながら俯き、

 

「うん…………自分で言うのもおかしいんだけどさ、私の初恋………簡単に言えば一目惚れなんだけどさ…………ハッキリ言って、絶対に一目惚れはする筈がないの…………」

 

「一目惚れだけど、一目惚れするはずがない………? どういう事?」

 

「…………意味分からない」

 

「葵の好きな人って、黒い騎士様みたいな人って言ってたよね?」

 

香織、ユエ、私の順で訊ねる。

 

「……………正確には人じゃない」

 

「「「えっ?」」」

 

「あの黒い騎士様は、きっとデジモン…………」

 

「「「デジモン!?」」」

 

「うん………身長は大体4mぐらい。金の縁取りがある黒い鎧を纏ってて、背中に裏表で青と白の色違いのマントを羽織ってた、多分騎士型のデジモン…………6年前のデ・リーパー事件の時に、私が避難してた地区にエージェントが襲ってきたの………その時はまだリュウダモンも自由に進化出来なかったからどうすることも出来ずに逃げ遅れた私は殺されそうだった…………そんな時に現れたのがその黒い騎士型のデジモン…………そのデジモンはあっという間にエージェントを全滅させて去っていった。だけど私は、そのデジモンを一目見た瞬間に一目惚れ………ううん、そんなものじゃない。運命と言うべきモノ………私はこの人に会うために生まれてきたんだって事を感じてしまったの……………」

 

「異種族の恋…………! 私は否定しない………!」

 

ユエはハジメとの種族の違いからそれを肯定する。

だけど、葵は更に俯き、

 

「異種族の恋を否定するわけじゃないけど……………明らかに私のその時の感情はおかしいの。姿形がかけ離れていても、時間を掛けて心が通じ合うとか、ユエみたいに姿形が人間に近い種族ならまだ分かるよ…………だけど、明らかに人間じゃないって種族を一目見て憧れを感じるならともかく、運命を感じるとかあり得ると思う?」

 

漸く葵の言いたいことが分かりかけてきた。

 

「まるで………この想いが予め植え付けられてたみたいに……………自分でもおかしいって分かってる…………! なのに好きだって気持ちが止まらないの………! あり得ない、あり得ないって何度も自分に言い聞かせても、あの黒い騎士様を想う気持ちが止められない! 偽物の恋心かもしれないのに………! こんなの気持ち悪いのに…………! どれだけ大士を好きなっても…………! 本物の想いは偽りの想いを越えられない…………! こんな気持ち欲しくなかった………! こんなの運命じゃなくて呪縛だよ…………! 普通に大士と出会って、普通に好きになって、普通に恋人になりたかった………! なのに………なのに………!」

 

「葵!!」

 

気付けば私は葵を抱きしめていた。

だけど、泣いてる葵を見て私は放っては置けなかった。

 

「葵………ごめん…………これ以上話さなくていいから……………辛い事聞いちゃったね……………」

 

私は葵を抱きしめながらそう言う。

 

「…………私からもあやまる…………アオイ、ごめんなさい…………」

 

「優花…………ユエ…………」

 

私達の名を呟いた葵は、心に負担が掛かったのかそのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 雫】

 

 

 

 

 

黒騎君が香織達を連れて城を離れた日の翌日。

城内は騒然となった。

ステータスも低く、連れていたドルモンも勇者たちには及ばないだろうという理由(推測)で全ての責任を押し付けられた黒騎君が、ドルモンをベヒモスもかくやという竜の様な姿(多分進化)にして城を飛び出してしまったという報告が駆け巡ったのだ。

もともと、役立たずって事で責任を押し付けたのでしょうけど、それが勇者を超えるチートだったんだから今更になって後悔してるって所ね。

黒騎君の話が本当なら究極体に進化出来るって話だし、ついてった3人はまず大丈夫でしょうけど………

南雲君は無事かな………?

香織の為にも生きててほしいわ。

それで、その場を目撃した光輝なんだけど、またとんでもない解釈を始めた。

 

「香織は黒騎に南雲が生きていると騙されて迷宮に連れて行かれたんだ! 俺は香織を助けに行く!!」

 

正直何言ってるんだろうと思ったわ。

香織は自分の意思でついて行ったにも関わらず、それを黒騎君に騙されて連れて行かれたと解釈したのだ。

何で私コイツの幼馴染やってるんだろう?

まあ結局それが切っ掛けで迷宮による実戦訓練が再開されることになったんだけど、愛ちゃん先生の頑張りで、参加するのは志願者のみとされることになった。

結局迷宮攻略に参加するのは、香織を除いた光輝率いる勇者パーティーと、檜山率いる小悪党組パーティー、永山重吾のパーティーだけとなった。

正直、檜山が無罪放免なのは気に食わない。

彼の所為で黒騎君がクラスメイトのほぼ全員に愛想を尽かしてしまったのだ。

もちろん光輝に流されて反論しなかったクラスメイト達にも責任はある。

でも、黒騎君に冤罪で責任を押し付けなければ、南雲君の生死に関わらず戻ってきて皆を護ってくれたのかも知れなかった。

最低でも一国を滅ぼせる力を持った究極体の力が味方に付く。

そうすれば皆が生き残れる可能性が大幅に上がっていたことは間違いない。

でも、彼は戻ってくる気は無いと言っていた。

なら、自分の身を護るのは自分しかいない。

だから私は戦う。

強くなるために!

そう思って私は今日も迷宮を進む。

皆のトラウマとなっていたベヒモスを撃破したのは、この日の午後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 





第10話です。
こっちはこんなにサクサクかけるのにもう一つが全く書けないって何ででしょう?
はい、とりあえずVSエセアルラウネかと思いきや、大士君ラッキースケベ?をかまして昏倒させられました。
まあ、エセアルラウネを倒す流れは原作と殆ど変わりありません。
その後ハジメに非難轟々でした。
ユエに味方する女性陣が多いので。
で、その後優花と大士の仲が進展。
序に葵も呼び捨てに。
でも、葵の苦悩が明らかに…………
あれで意味が皆様に理解できますかね?
あとは序とばかりに雫サイドも少々。
あんまり考えてなかったのでちょっと脈絡が無かったり……………
さて、次回はいよいよ最下層。
お楽しみに。
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