【Side 三人称】
大士達が『魅惑の妖精亭』で働いている頃、トリステイン魔法学院では3人の少女が暇を持て余していた。
キュルケとシャルロット、それにイルククゥだ。
キュルケは、あられもない格好で、シャルロットの部屋のベッドでぐったりと横たわっている。
キュルケは熱さを好んだが、暑さは苦手のようだ。
「ねえシャルロット。お願いよ。さっきみたいに風を吹かせてちょうだい」
シャルロットは、本を読みながら指を立てて振った。
シャルロットはそれだけで、氷の粒が混じった風を発生させる。
そんな雪風が、キュルケの体を冷やしていく。
「あー、気持ちいい………」
「すずしいのねー」
キュルケに便乗してイルククゥも涼む。
キュルケはふとシャルロットを見つめる。
シャルロットはいつもの様に本を読んでいるが、その眼がいつもより寂しげに思えた。
「シャルロット? どうかしたの?」
気になったキュルケが尋ねると、
「……………タイシが居ないから、少し寂しい」
その言葉を聞くと、キュルケは優し気な笑みを浮かべ、
「仕方ないわよ。誰だって愛しい人に会えないのは寂しい事だわ………」
まるで諭すようにそう言う。
「それにしても、タイシもタイシよね! シャルロットをほっといてヴァリエールのお守りなんて………!」
続けて憤るようにキュルケはそう言うが、
「それは仕方ない。タイシは(仮)とは言えルイズの使い魔。形だけでもルイズに傅いておく必要がある。それが契約をしていないタイシ達がこの学院の世話になる条件」
「それはそうかもしれないけど、あなたもちょっとぐらい我儘言ってもバチは当たらないんじゃないかしら?」
「タイシを困らせる事はしたくない…………それに、ちゃんと埋め合わせはしてくれるって約束した………」
シャルロットの言葉に、キュルケは溜息を吐く。
その時だった。
「きゃぁあああああああああああああああああっ!?!?」
階下から悲鳴が聞こえて来た。
キュルケは杖を握って、部屋を飛び出す。
シャルロットとイルククゥもその後を追った。
悲鳴が聞こえてきたであろう部屋の扉を、キュルケは勢いよく開け放つ。
そして彼女達の目に飛び込んできたのは…………
ギーシュにベッドに押し倒されたモンモランシーの姿だった。
「…………なんだ、取り込み中だったの」
モンモランシーと目が合ったキュルケがため息交じりにそう言う。
ギーシュが真顔になって立ち上がり、優雅な仕草をしながら、
「いや、モンモランシーのシャツの乱れを…………直しておりまして」
言い訳の様にそう言った。
だが、
「………押し倒して?」
キュルケの横に並ぶシャルロットが鋭いツッコミを放つ。
「………直しておりまして」
ギーシュは同じ言葉を繰り返す。
だが、その頬には冷や汗がタラリと流れていた。
「もう! いい加減にしてよ! 頭の中はそればっかりじゃない!」
モンモランシーの言葉にギーシュは顔を赤くする。
「あなた達、随分とやっすい恋人ね………何もこんな暑っ苦しい寮なんかでしなくても」
「何にもしてないわよ! っていうか、あんた達こそ何してんのよ。今は夏季休暇よ」
「一応実家には顔見せに戻ったわよ。まあ実家に居てもやる事無いし、すぐに戻って来たけど………あんた達は?」
「私達は、その…………」
キュルケの言葉にモンモランシーはモジモジとする。
実はモンモランシーは、ギーシュと一緒に禁断のポーションを作っていたりする。
だが、そんな事は言えないので、
「ま、魔法の研究よ」
苦し紛れにそう言った。
「ったく。何の研究してんだか。ねえ?」
「変な研究したがったのはギーシュよ! まったく、暑さで頭がいかれちゃったの? 少しは冷やしてよね!」
モンモランシーにそう言われ、ギーシュはしょぼくれる。
すると、
「そうね」
と、キュルケが呟いた。
「何がそうね。なのよ」
「出かけましょ。こんな暑い所に居たら、頭がおかしくなっちゃうのも無理ないわ」
「へ? 何処に?」
「街にでも出かけましょ。居残り組同士、ま、仲良くやりましょ。休暇は長いんだし」
「言われてみれば、冷たいものが飲みたいな………」
ギーシュも便乗して頷く。
モンモランシーも考えを巡らせた結果、出かける事に同意する。
「飲んだら頭、たっぷり冷やしてよね」
「冷やす。神にかけて」
「で、そっちの転入生は如何するの?」
「………私も行く」
「きゅいきゅい! 私も行くのね!」
モンモランシーに話を振られるとシャルロットは頷き、イルククゥも喜びながら同意する。
すると、そこでモンモランシーは気付いたようにハッとなった。
「そういえば、街に行くのは良いけどどうやって行くの? もしかして馬? 私は嫌よ、こんな炎天下の中で、3時間も馬に乗るなんて………」
その言葉に答えたのはギーシュだった。
「何を言ってるんだいモンモランシー? 馬に乗らなくてもシルフィードで行けばいいじゃないか?」
「ギーシュこそ何言ってるのよ? タバサはもう学院に居ないんでしょ? だったらシルフィードだっている筈ないじゃない!」
そのやり取りを聞いて、キュルケとシャルロットがハッとなる。
「おいおい、シルフィードはミス・シャルロットの使い魔ブフォッ!?」
そう言いかけたギーシュが突然ぶっ飛ばされた。
シャルロットが無詠唱でエア・ハンマーを放ってギーシュをぶっ飛ばしたのだ。
勿論手加減してだが…………
しかし、モンモランシーはギーシュの言葉を聞き逃しては居なかった。
「シルフィードがシャルロットの使い魔………?」
ぶっ飛ばされたギーシュに目もくれず、モンモランシーはシャルロットの顔をジッと見つめた。
髪の色も違う、目の色も違う、髪の長さも違う。
何より、身長や体格が全く違う。
それでも、その顔には『タバサ』の面影が僅かながら見て取れた。
「……………も、もしかして…………シャルロットって、タバサ?」
モンモランシーは、信じられないという表情をしながらも、その真実に気付いた。
キュルケはあちゃ~、っと顔に手を当てる。
「……………迂闊だったわ………あのマジックアイテムの誓約に、こんな抜け道があったなんて…………」
「………油断した」
キュルケとシャルロットはそう呟く。
ギーシュの指輪に施された誓約は、『シャルロット=タバサであることを特定の人物以外には伝えない事』、及び、『イルククゥ=シルフィードである事を特定の人物以外には伝えない事』だ。
先程のギーシュは、『シルフィードはシャルロットの使い魔』と言っただけなので、アーティファクトの機能が働かなかったのだ。
「じゃ、じゃあやっぱりタバサなの!?」
モンモランシーがそう確認すると、
「他言無用………!」
シャルロットは〝威圧〟を掛けながらそれだけを言った。
モンモランシーはその威圧に震えながら、コクコクと頷く。
「ギーシュの馬鹿が迂闊な事を口走っちゃった所為でバレちゃったけど、どうする?」
キュルケがシャルロットに問うと、
「ある程度は説明してギーシュのフォローに回って貰う」
今回の事で、ギーシュは、いくらアーティファクトの効果があると言っても、信用できないと判断された様だ。
シルフィードに乗って街へ向かう道すがら、シャルロットは必要な事は隠しつつ、自分がタバサと同一人物であることを説明した。
「はぁ~…………シャルロットがタバサだって事にも驚いたけど、まさかシルフィードが風韻竜だったなんてね………」
モンモランシーは、シルフィードの背の上でそう呟く。
モンモランシーは、あのちんちくりんなタバサが、どうやって今の様なナイスバディを手に入れたのかも聞きたかったが、
「知らない方が良い」
の一言で黙らされた。
トリスタニアの城下町にやってきた一行は、ブルドンネ街から一本入った通りを歩く。
と、その時、
「おね~~~さま~~~~!」
人間形態に変身したシルフィード……………もとい、イルククゥが一行を追いかけてきた。
「きゅい!お姉さま、イルククゥも一緒に行くのね!」
イルククゥがシャルロットに言う。
「………正体バレない様に気を付けて」
軽く溜息を吐きながら許可を出すシャルロット。
時刻は、夕方に差しかかったばかり。
うっすらと暮れゆく街に、魔法の明かりを灯した街灯が彩りを添えていく。
ブルドンネ街がトリスタニアの表の顔なら、このチクトンネ街は裏の顔である。
いかがわしい酒場や賭博場なんかが並んでいる。
モンモランシーは眉をひそめたが、キュルケは気にした風もなく歩き続ける。
どの店にしようか、と、一行は相談しながら歩く。
「知っている店はないの?」
キュルケはギーシュに尋ねた。
すると、ギーシュはにやっと笑って、
「そういや、噂の店があってね。一度、行ってみたいとおもってたんだが…………」
「変な店じゃないでしょうね?」
その声の調子に、いかがわしい何かを嗅ぎつけたモンモランシーが釘を刺すようにそう言うと、ギーシュは慌てて首を振った。
「全然変な店じゃないよ!」
「どういう店なの?」
モンモランシーにそう問われると、ギーシュは黙ってしまった。
「やっぱり変な店じゃないのよぉ~~~~~~!言って御覧なさいよぉ~~~~~~~!」
モンモランシーがその首を絞める。
「ち、違うんだ!女の子が、その、可愛らしい格好でお酒を運んで・・・・・・ぐえ!」
「変じゃない!何処が違うのよ!」
「面白そうじゃない。そこ」
キュルケが興味をひかれたらしく、ギーシュを促した。
「そこに行ってみましょうよ。ありきたりの店じゃつまんないし」
「なんですってぇ!」
モンモランシーが喚く。
「まったくどうしてトリステインの女はこう、そろいもそろって自分に自信がないのかしら?嫌になっちゃう」
キュルケが小ばかにするような声で言ったので、モンモランシーはいきり立った。
「ふん!下々の女に酌なんかされたらお酒がまずくなるじゃないの!」
しかし、キュルケに促されたギーシュが跳ねるような調子で歩き出したので、仕方なくモンモランシーは後を追いかけた。
「ちょっと!待ちなさいよ!こんなとこに置いていかないで!」
「いらっしゃいませ~~~~~~!」
店に入ると、背の高い、ぴったりとした革の胴着を身に着けた男が出迎えた。
「あら!こちらはお初? しかも貴族のお嬢さん! まあ綺麗! なんてトレビアン! 店の女の子が霞んじゃうわ! 私は店長のスカロン。今日はぜひとも楽しんでってくださいまし!」
そう言って身をくねらせて一礼。
キモい店長だが、とりあえず綺麗と誉められたのでモンモランシーの機嫌がよくなった。
髪をかきあげ、
「お店で一番綺麗な席に案内して頂戴」
と、モンモランシーはすまし顔でそう言う。
「当店はどのお店も、陛下の別荘並みにピカピカにしておりますわ」
スカロンは一行を席へと案内する。
一行が席につくと、桃色がかったブロンドの少女が注文を取りに来た
慌てた調子で、咄嗟にお盆で顔を隠す。
全身が小刻みに震え始めた。
「何で君は顔を隠すんだね?」
ギーシュは不満げに問いかけた。
その少女は答えずに、身振り手振りで「注文を言え」と示す。
その少女の髪の色と身長で、キュルケがすぐに何かに気付き、この夏初めて見せる特大の笑みを浮かべた。
「このお店のお勧めは何?」
お盆で顔を隠した少女は、隣のテーブルを指差す。
そこには蜂蜜を塗って炙った雛鳥をパイ皮につつんだ料理が並んでいた。
「じゃあ、この店のお勧めのお酒は?」
少女の傍のテーブルで給仕をしている女の子が持った、ゴーニュの古酒を指差す。
「なら…………」
どうしても声を出そうとしないその給仕にキュルケが更なる質問をしようとした時、
「何やってんだよ? お前」
その言葉と共に、ヒョイと顔を隠していたお盆を取り上げられた。
【Side Out】
この『魅惑の妖精亭』で働き始めてから暫く。
いつもの様に皿洗いをしていると、
「いらっしゃいませ~~~~~~!」
スカロン店長の来客を告げる声が響く。
だが、そこから先はいつもと違っていた。
「あら!こちらはお初? しかも貴族のお嬢さん! まあ綺麗! なんてトレビアン! 店の女の子が霞んじゃうわ! 私は店長のスカロン。今日はぜひとも楽しんでってくださいまし!」
俺はそれを聞いて、貴族のお嬢さん?と軽く首を傾げた。
俺は気になって厨房から店内を覗くと、スカロン店長が見覚えのある5人の少年少女達に応対していた。
「あ~、そう言えばこんなイベントもあったか…………」
情報収集任務期間のイベントと言えば、王宮内の裏切者を炙り出すために女王様が単独で王宮を抜け出してくるというものの印象が強く、キュルケ達がこの店を訪れるというイベントを忘れていた。
しかも、その席に選ばれた給仕がルイズなものだから、ルイズはお盆で顔を隠しながら注文を受けようとしていた。
流石にそれは無理があるので、俺はしょうがないと思いつつ、口を出す事にした。
因みに、シャルロットに会えるという喜びが大部分を占めている事は秘密だ。
「何やってんだよ? お前」
俺は、ルイズが顔を隠すために使っていたお盆を取り上げながら話しかける。
「あっ! な、何するのよ!?」
ルイズが思わず声を上げるが、
「「ルイズ!?」」
その露にされた顔を見て、ギーシュとモンモランシーが驚きの声を上げた。
キュルケはニヤニヤ笑っており、シャルロットは目を見開きながら俺を見ていた。
「よっ、奇遇だな」
俺は片手を上げて挨拶した。
「タイシ………!」
シャルロットが驚きの表情から嬉しそうな表情に変わり、軽く声を上げる。
「何してるの? あなた達?」
キュルケが意地が悪そうに聞いてくる。
「まぁ、簡単に言えばアルバイトだな」
「だから何でアルバイトしてるのかって聞いてるんだけど?」
キュルケが尚も問いかけてくる。
すると、キュルケの前にスッと手が差し出され、制された。
その手を差し出したのはシャルロットだ。
キュルケが不思議そうにシャルロットを見ると、
「………タイシを困らせないで」
静かに、それでいてやや強い言葉でキュルケに言った。
因みにシャルロットは俺達が情報収集任務に就いている事を知っている。
キュルケは困った様に表情を崩し、
「あなた、随分と変わったわねぇ………嬉しい変化だけど」
フッと微笑んだ。
「まあ、理由は言えないのは悪い。だから………」
俺は宝物庫から金貨を取り出して、10エキュー程をポンとテーブルの上に置く。
「ここは俺の奢りで勘弁してくれ。あと、ここの店は宿屋も経営してる。泊まるつもりだったら部屋も取っておくが?」
「そうね………今から帰るのも面倒だし泊まっていくわ」
「了解」
俺はキュルケの言葉に了承する。
すると、
「タイシ…………」
シャルロットから声を掛けられ、何かを期待する様な眼差しで見つめられる。
俺はその意味を理解すると、
「わかった、部屋は別で取っておく」
「ん………」
自身の真意を正しく理解した俺に、シャルロットは微笑んだ。
すると、店に新たな客が現れた。
見た目麗しい貴族達だった。
広いつばの羽根つき帽子を粋に被り、マントの裾から剣状の杖が覗く。
王軍の仕官達のようだ。
きな臭い昨今、軍事訓練に明け暮れていたのだろう。
陽気に騒ぎながら入ってくると、席について辺りを眺め始めた。
口々に店の女の子について品評を始める。
いろんな女の子が入れ替わり立ち代り酌をしたが、どうにも気に入らない様子であった。
1人の士官がキュルケ達に気付き、目配せをした。
「あそこに貴族の子がいるじゃないか! 僕たちと釣り合いが取れる女性は、やはり杖を下げていないとな!」
「そうとも! 王軍の士官様がやっと陛下に頂いた非番だぜ? 平民の酌では慰めにならぬというものだ。きみ」
口々にそんな事を言いながら、こっちに聞えるような声で誰が声をかけにいくのかを相談しあう。
よくいる自信過剰な貴族たちの様だ。
キュルケはこういう事に慣れっこなのか、平然とワインを口にしている。
しかし、ギーシュなどはすでに気が気ではない。
一応男なので女性をエスコートする立場なのだが、連隊長か親衛隊の隊員を務めているような貴族相手に、強気になれようはずもない。
叩きのめされるのがオチだろう。
そのうちに声をかける人物が決まったらしい。
1人の貴族が立ち上がる。
20歳を少し超えたばかりの、なかなかのイケメンだ。
自信たっぷりに口ひげをいじりながらキュルケに近づくと、典雅な仕草で一礼した。
「我々はナヴァール連隊所属の士官です。恐れながら美の化身と思しき貴女を我らの食卓へとご案内したいのですが」
キュルケは其方を眺めもせずに答える。
「失礼、友人たちと楽しい時間を過ごしているところですの」
仲間たちから野次が飛ぶ。
ここで断られては面子が保てないと思ったのだろう。熱心な言葉で貴族はキュルケを口説きにかかる。
「そこをなんとか。まげてお願い申し上げる。いずれは死地へと赴く我ら、一時の幸福を分け与えてはくださるまいか?」
しかし、キュルケはにべもなく手を振った。
貴族は残念そうにするが、それでもその場を立ち去らなかった。
すると、
「では、そちらの白い髪の貴女はどうだろうか?」
今度はシャルロットに声を掛け始めた。
流石にそれは黙って見ている気にはならない。
「そっちの彼女は俺の恋人だ。悪いが諦めてくれ」
俺はそう口を出す。
その貴族の男は俺をジロジロと眺めると、
「ふん! 何処にでもいる平民の小僧では無いか! 貴様の様な小僧が彼女の様な貴族の令嬢と釣り合う訳が無かろう! 立場を弁えるが良い!」
俺を見下したようにそう言う。
その時、ピリピリと僅かな殺気を感じる。
俺が目をやると、シャルロットの眼が怒りに染まっており、身体から魔力が漏れ出しているのか髪がザワッと逆立ち始めていた。
その様子に、キュルケやギーシュ、モンモランシー、イルククゥは思わず身を引いた。
「誰と付き合うか決めるのは本人達だろ。お前達が口を出す事じゃない」
俺は構わずにそう言うと、
「ふん、貴様の様な下賤な男より、我々の様な素晴らしい士官の貴族の方が、彼女により幸せな未来が待っている。そんな事も分らんのか!?」
「自惚れるつもりは無いが、お前達よりも俺の方が彼女を幸せに出来ると言い切れるね!」
それだけは自信を持って言える。
ピキッとその男の額に青筋が浮かび上がるのが見えた。
「よかろう! 貴族に対する礼儀を知らぬ下賤な平民に、この私自ら制裁を加えてやろう!!」
そう叫びながら杖を抜いたので、
「じゃ、遠慮なく」
俺は瞬時にその杖を掴んで奪い取ると、相手の懐に踏み込み、肘を腹部に叩き込んだ。
「ぐふっ!?」
その男は呻き声を上げて悶絶し、そのまま崩れ落ちた。
「杖を抜いたのはお前が先だからな。これは正当防衛だぜ?」
ほいっと、その男の前に奪った杖を放り投げた。
「貴様!?」
この貴族の連れだろう他の2人の貴族達が、叫びながら立ち上がった。
「おいおい。人の彼女に手を出そうとしたのはそっちが先だぜ? 男なら、自分の女が他の男に口説かれる所なんて、見たくは無いよなぁ?」
俺は煽るような口調で同意を求める。
因みに、シャルロットはその俺の言葉で先程の怒りがなりを潜め、顔を赤くしてモジモジとしていた。
『人の彼女』とか『自分の女』っていう言葉に反応したんだろうか?
「舐めおってからに………決闘だ!!」
1人の男がそう叫んだ。
1分後、俺は何事も無かったかのように皿洗いの仕事に戻っていた。
店の外には3人の気絶した貴族達が転がっている。
簡単に言えば、決闘が始まった瞬間に近付いて、それぞれを一発KOしただけだ。
多少は騒がれたが、すぐに店の奥に引っ込んだため、すぐに騒ぎは収まった。
だが、それから暫くして、再び先程の貴族達が顔を見せた。
「先程の男は何処だ?」
なんか指名されたので俺は顔を見せる。
「何の様だ?」
「いやなに、是非とも我ら、先程のお礼を申し上げたいと思ってな。しかし、我らだけでは十分なお礼が出来そうも無いので、ほら、かのように一個中隊引っ張って来た」
指差された方に顔をやると、店の外に何百人もの兵隊がズラリと並んでいるのが見えた。
「かしらぁ~~~~~~~っ! 右っ!!」
先頭にたった士官が号令をかけると、兵隊たちは見事な整列を決める。
「ああ………所謂お礼参りって奴ね…………」
俺は半ば呆れる。
『平民』に秒で沈められた上に、その『平民』に対して一個中隊引っ張ってくるなんて、こいつ等には恥の上塗りという考えが無いのだろうか?
面倒だがこのまま店の中に居ると、店に迷惑をかけてしまう為、俺はやれやれと肩を落としながら外へ踏み出そうとした。
すると、
「私が行く………」
シャルロットが俺を制しながらそう言った。
「シャルロット?」
「さっきはタイシが私を護ってくれた。だから、今度は私がタイシを護る番………!」
シャルロットの眼を真剣だ。
俺は軽く溜息を吐き、
「気を付けろよ」
「ん」
因みに、今の『気を付けろ』という言葉は、シャルロット自身に対してではなく、『やり過ぎないように』という意味を込めている。
出てきたのが俺ではなく、声を掛けていたシャルロットだったという事に何やら文句を言っていたようだが、
「〝エア・ハンマー〟!」
シャルロットが放った巨大な空気の塊によって、並んでいた兵隊たちは吹き飛んだ。
店の前の通りを埋め尽くすように綺麗に並んでいた兵隊たちが、巨大な空気の塊によって一気に吹き飛ばされる様は、まるで、ボウリングの球に撥ね飛ばされるボウリングのピンの様だった。
なので、
「ストラーーーーイク…………!」
その光景を見た俺は、思わずそう言ってしまった。
因みに、葵が撥ね飛ばされた兵隊を確認した所、数人だが心肺停止状態に陥っていた為、こっそりと再生魔法と魂魄魔法で蘇生させるという事があった。
因みにその夜は、葵と優花が自分達から遠慮し、シャルロットと2人きりの夜を過ごした。
何があったのかは言うに及ばず。
尚、シャルロットだが、やっぱり俺と離れるのは寂しいらしく、やや強引にこの『魅惑の妖精亭』で働くことにした。
因みに仕事内容だが、俺の発案で氷魔法の腕を活かして氷を生み出し、それを飲み物などに使用する氷製造役を担うことになった。
それがこの暑い時期に客の反響を呼び、店の売り上げが爆上がりすることは余談である。
ゼロ魔クロス第18話の完成。
過去作コピペに色々と追加してみた。
アンリエッタ襲来までやろうと思ったが、中途半端な長さになってしまったので一旦切ります。
今回はシャルロット襲来?
大まかな流れは原作と一緒。
因みに街に来る上でモンモランシーが一緒じゃないと話が進まないのでやや強引にシャルロットの正体バレ。
まあギーシュよりは口は堅いでしょう。
そんでシャルロットのチート炸裂。
エアハンマー一発で数百人をぶっ飛ばしました。
それにしても、デジモンを含めた他のメンバーに出番が無い………
次こそは女王様襲来。
因みに次もシャルロットが活躍する…………?
お楽しみに。