【Side 三人称】
エレオノールとカトレアが魔法学院に来て暫くたった
とある日の早朝。
魔法学院の上空、まだ星が見える真っ暗な空を、1つの巨大な鳥の影が飛んでいた。
それは、ワルドが進化したバイオサンダーバーモン。
そしてその背には、複数の人影が見える。
「さて、本当にここまで来れるなんてな」
複数の人影の1人、大柄な男のメンヌヴィルが呟く。
「私を舐めて貰っては困る。見つからなかったのは運が良かったが、見つかったとしても、全て薙ぎ払ってここまで辿り着くことは出来たさ」
バイオサンダーバーモンに進化しているワルドがそう言うと、
「感謝するよ。アルビオンに戻ったら、何か奢らせてくれ、子爵」
「余計な事を考えずに、生き残る事を考えるんだな。私も以前よりパワーアップしているとはいえ、あの3人を最後まで引き付けていられる保証は無い」
「舐めた口をきくな小僧。ここで灰にしてやろうか?」
メンヌヴィルは杖を抜くが、
「その『力』を手に入れられたのは、私のお陰だという事を忘れるな」
「冗談だよ子爵。そう睨むな」
ワルドの言葉にメンヌヴィルはニヤッと笑うと、バイオサンダーバーモンの背から飛び降りて空中に身を躍らせた。
バイオサンダーバーモンはそれを確認すると、しばらく時間を置いてから、自身も魔法学院に向かって下降を始めた。
―――同刻、大士達に宛がわれた部屋。
「……………………ッ!?」
眠っていた優花が突如として目を覚ました。
気配感知に反応があったのだ。
すぐに隣に居る大士と葵の身体を揺する。
「大士! 葵! 起きて!」
「……んあっ? な、何だぁ………くあっ………」
「ううん……………どうしたの…………?」
大士と葵が寝ぼけ目で身体を起こす。
「ふわぁ………何………?」
「………何事だ………?」
「………何かあったのか?」
ドルモン、リュウダモン、ハックモンも騒ぎに気付いて起き出した。
「気配感知に反応があったわ! 誰かがこの魔法学院に潜入したみたい!」
「「「「「ッ!?」」」」」
その言葉で、大士と葵、デジモン達は瞬時に意識を覚醒させる。
すぐに服を着ると、
「人数は?」
「人数は13人。たった今、銃士隊が駐屯してる塔の前に集まってるわ。見張りの2人はやられたわね」
「そうか………」
優花の言葉に、殺された銃士がいる事を悟る大士。
すると、
「やつら、3つのグループに分かれたわ。1つはそのまま銃士隊の居る塔に入ったわ。もう1つは本塔に。残りは寮塔に向かったわ」
大士はその動きで、原作知識にある1つの出来事を思い出した。
「学院の生徒を人質に取って、アルビオンから軍を撤退させる気か………」
「どうする? この使用人が使ってる塔には手を出してこないみたいだけど………」
大士は少し考えると、
「シャルロットとルイズは?」
「シャルロットも潜入に気付いて行動を起こしてるみたい。キュルケとルイズにも声を掛けたみたいよ」
「そうか………一先ず、シャルロット達と合流しよう」
その言葉に皆が頷いた。
同じ頃、アニエスも与えられた寝室で侵入者を撃退していた。
次に、隣の部屋にいた隊員たちが飛び込んできた。
「アニエス様!大丈夫ですか!」
と尋ねられ頷く。
「平気だ」
「我々の部屋にも、2人ばかり忍び込んできました。片付けましたけど………」
「アルビオンの狗のようだな」
アニエスは侵入者達のなりを見て、呟く。
メイジばかりで構成された分隊だ。
間違っても物取りの類ではない。
アルビオンが雇った小部隊に違いない。
そこでアニエスは、外の状況が気になった。
今、学院には女子生徒しかいない。
「2分やる。完全武装して、私に続け」
とアニエスは部下に命令した。
シャルロット達は、寮塔のすぐ近くにある茂みの中に隠れていた。
とは言え、優花の感知技能で居場所はすぐに分かったが。
シャルロット達と合流した大士達が、どうするかを話し合おうとした時だった。
「ッ!?」
いち早く異変に気付いた優花がバッと空を見上げる。
〝夜目〟と〝遠見〟を使って空を確認すると、近付いてくる巨大な影に気付いた。
「あれはっ………!」
優花がそれを確認した瞬間、大きな影が魔法学院の上空を横切った。
それと同時に突風が襲い掛かる。
「くっ!?」
「きゃあっ!?」
「一体何っ!?」
それぞれが声を上げる。
大士が空を見上げると、そこには蒼い巨鳥の姿があった。
「バイオサンダーバーモン!? ワルドか!」
大士にとってこれは予想外だった。
学院の襲撃という事は分かっていたが、ワルドが直接手を出して来るとは思っていなかったのだ。
バイオサンダーバーモンは上空を旋回して再び向かって来る。
「くっ…………!」
大士は咄嗟に思案する。
そして、
「俺達でワルドを止める!」
葵と優花は頷く。
それからシャルロットの方を振り向くと、
「こっちはお前達に任せる! いざという時はコルベール先生を頼れ!」
大士はシャルロットが頷いた事を確認すると、ドルモン達を完全体へと進化させ、ワルドに向かって行った。
魔法学院を奇襲した部隊を率いるメンヌヴィルは、難無く女子寮を制圧した。
貴族の娘たちは、賊が侵入してきただけで怯え、全く抵抗のそぶりを見せなかった。
寝間着のままの女子生徒たちの杖を取り上げ、一箇所に閉じ込める為に食堂まで連れて行った。
その数、おおよそ90人。
途中で、本塔へ向かった連中と合流する。
連れた捕虜に中に学院長のオスマンの姿を見つけ、メンヌヴィルは微笑んだ。
食堂に捕虜たちを集めたメンヌヴィルは、後ろ手に全員を縛り始めた。
隊員の誰かが唱えた魔法のお陰で、ロープが動き手首に絡み付いていく。
女ばかりの教師や、生徒はただ震えるのみであった。
優しい声でメンヌヴィルは一同に呟く。
「なあに、むやみに立ち上がったり、騒いだり、我らが困るようなことをしなければ、お命を奪う事はありません。ご安心めされい」
誰かが泣き出した。
「静かにしなさい」
それでも、その女生徒は泣き止まない。
メンヌヴィルは近付き、杖を突きつけた。
「消し炭になりたいか?」
その言葉が脅しではない事が理解できたのだろう。
女生徒は泣き止んだ。
オスマンが口を開いた。
「あー、君たち」
「なんだね?」
「女性に乱暴するのは、よしてくれんかね。君達はアルビオンの手のもので、人質が欲しいのだろう?我々を何らかの交渉のカードにするつもりなのじゃろう?」
「どうしてわかる?」
「長く生きていれば、そいつがどんな人間で、何処から来て、何を欲しがっているのかわかるようになるものじゃ。とにかく贅沢はいかん。この老いぼれだけで我慢しなさい」
「じじい、自分の価値をわかってんのか?」
傭兵達は大声で笑った。
「じじい1人のために、国の大事を曲げる奴ぁいねえだろ? 考えろ」
オスマンはやはり無理かと首を竦めた時、
「それでは私では如何?」
強気な声が聞こえた。
メンヌヴィルがそちらに視線を向けると、
「私はラ・ヴァリエール家の長女! 父は国を動かす貴族の1人。文句はない筈よ!」
他の生徒達と同じように寝間着姿のまま手を縛られたエレオノール。
そして、
「私も人質になりましょう。だから、生徒さん達は放してあげて」
妹であるカトレアもそう言って他の生徒達を解放する様に懇願する。
だが、
「心意気は買うが2人では足りぬ。生徒全員が必要なのだ! 国中の子女の命が関わっているとなれば、アンリエッタ女王も考えざるを得まい」
メンヌヴィルはそう言ってその話を蹴る。
オスマンは、その間にアルヴィーズの食堂に集められた人間を見渡した。
ここにいて欲しくない、メイジの顔が見えない。
ふむ、とオスマンは思った。
「じじい、これで学院の連中は全部か?」
オスマンは頷いた。
「そうじゃ。これで全部じゃ」
傭兵達は、そこで火の塔に向かった連中が戻ってこない事に気が付いた。
手間取っているのなら、一旦引いて増援を仰ぐだろう。
そのぐらいの判断は出来る連中なので、メンヌヴィルは分派したのだ。
食堂の外から、声が聞えた。
「食堂に篭った連中! 聞け! 我々は女王陛下の銃士隊だ!」
メンヌヴィル達は顔を見合わせた。
どうやら、火の塔に向かわせた連中はやられたらしい。
だからといって、顔色一つ変えるような連中ではなかった。
1人の傭兵がオスマンを睨み付ける。
「おい老いぼれ。『これで全部』じゃねえじゃねえか」
「銃士は数には入れとらん」
とオスマンは涼しい顔。
メンヌヴィルは笑みを浮かべると、食堂の外の連中と交渉するために、入り口に近付いていった。
塔の外周を巡る階段の踊り場に、アニエス達は身を隠して様子を窺っていた。
食堂の入り口に、メンヌヴィルが姿を見せた。
雲の隙間からの月明かりに、ぼんやりとその姿が浮かぶ。
そのメイジに向けて銃を構えた銃士をアニエスは制する。
「聞け! 賊共! 我らは陛下の銃士隊だ! 我らは一個中隊で貴様らを包囲している!人質を解放しろ!」
アニエスは『一個中隊』とはったりをかました。
本当は10人ほどに過ぎない。
げらげらと食堂から笑う声が聞えてくる。
「銃兵ごときが一個中隊いても痛くもかゆくもないわ!」
「その銃兵に、貴様らの4人は屠られたのだぞ。おとなしく投降すれば、命までは取らぬ」
「投降?今から楽しい交渉の時間ではないか。さて、ここにアンリエッタを呼んでもらおうか」
「陛下を?」
「そうだ。とりあえず、アルビオンから兵を引くことを約束してもらおう。我が依頼主は、土足で国土を汚されることが嫌いらしいのでな」
通常、人質程度で軍が引き返すことは無い。
しかし、流石に貴族の子女が90人も人質としてとられれば、話は別だ。
本当に侵攻軍の撤退もあるかもしれない。
自分の責任だ、とアニエスは唇を噛んだ。
教練に来ただけであったが、失態は失態だ。
アニエスの耳元で、銃士が囁く。
「…………トリスタニアに急使をとばして、増援を頼みましょう」
「…………無駄だ。人質をとられている以上、どれだけ兵がいても無意味だ」
そんな相談を見咎めてか、メンヌヴィルが叫んだ。
「おい、覚えておけ。新たに兵を呼んだら1人につき、1人殺す。ここに呼んでいいのは、枢機卿かアンリエッタだけだ。いいな?」
アニエスは返答につまった。
すると、メンヌヴィルが怒鳴った。
「5分で決めろ。アンリエッタを呼ぶのか、呼ばぬのか。5分たっても返事が無い場合、1分ごとに1人殺す」
銃士の1人が、アニエスをつつく。
「アニエス様………」
アニエスは唇を痛くなるほどにかみ締めた。
その時、後ろから声が掛けられた。
「隊長殿」
振り返るとコルベールが立っていて、呆然とした様子でアルヴィーズの食堂を眺めようとした。
「首を出すな」
と言って、アニエスは壁の影に、コルベールを引き込んだ。
「あんたは捕まらなかったのか」
「私の研究室は本塔から離れておってな。一体何事だ?」
のん気なコルベールに、アニエスは腹を立てた。
「見て分からぬか。お前の生徒が、アルビオンの手のものに捕まったのだ」
コルベールはひょいっと顔を出して、食堂の前に立ったメイジの姿に気付き、顔面を蒼白にした。
「よい。下がっておれ」
うるさそうに、コルベールを下がらせる。
「ねえ、銃士さん」
ついで後ろから声をかけられた。
キュルケとシャルロット、ルイズの3人組みが立っていた。
「お前たちは、生徒か? よくもまあ、無事だったな」
「ワルド………先程現れた蒼い巨鳥には私の使い魔達が対処してるわ。そっちは心配しなくても大丈夫」
ルイズがそう言うと、
「ねえ、あたしたちにいい計画があるんだけど…………」
キュルケがそう言う。
「計画?」
「そうよ。早いとこ皆を助けてあげないとね」
「どうするんだ?」
キュルケは、アニエスに自分たちの計画を説明した。
聞き終わったアニエスは、にやっと笑った。
「面白そうだな」
「でしょ?これしかないと思うのよね」
話を聞いていたコルベールが反対した。
「危険すぎる。相手はプロだ。そんな小技が通用するとは思えん」
「やらないよりはマシでしょ。先生」
軽蔑を隠さずに、キュルケが言い放つ。
アニエスなどは、もうコルベールを見ていない。
「あいつらはあたしたちの存在を知らないわ。奇襲のカギはそこよ」
キュルケは、シャルロットと自分を指差して、呟いた。
すると、シャルロットはコルベールに近付く。
「シャルロット?」
キュルケが怪訝な声を漏らす。
「…………タイシはいざという時は先生を頼れと言った」
「!」
シャルロットの言葉にコルベールは目を見開く。
「………先生は他の教師とは違う。あなたが唯のメイジではなく、特殊な訓練を受けた人であることは、何となく気付いていた………多分、元軍人」
シャルロットの言葉に、ルイズが驚く。
「本当なの!?」
シャルロットは確信を持った目で頷く。
「………タイシは根拠の無い事は言わない」
「私は………」
コルベールは俯く。
「先生………あなたにこの状況を切り開く『力』があるのなら、その力を私達に貸して欲しい」
シャルロットはそう言う。
だが、コルベールは震えながら拳を握りしめる。
「………私は昔、過ちを犯した…………」
「過ち?」
キュルケが呟く。
「それ以来、私は決して魔法で人を殺めぬと誓ったのだ…………!」
「ッ!?」
その言葉は何よりも重く、コルベールがその過ちを酷く悔いている事を思わせた。
そしてキュルケは、同時に何故コルベールが軍に志願しなかったのかを理解した。
キュルケはコルベールを臆病者だと思っていた。
しかし、コルベールにはコルベールなりの信念があったのだ。
コルベールがいつも言っている『火の見せ場は戦いだけではない』という言葉も、その過ちが元になっているのだろう。
「………………先生の思いは理解した」
シャルロットは呟く。
その上で続けた。
「でも、その誓いは、先生が『今』大切にしているものを捨ててまで貫き通すもの?」
「えっ………?」
「先生が本当に生徒思いな先生な事はよく知ってる。だから、その生徒思いな先生が、自分の誓いを優先して生徒達を死なせてしまった時、その過ちを犯した時の様に後悔する事にならない?」
その言葉にコルベールはハッとなる。
「先生が本当に生徒達の為を思うのなら、その誓いを破っても、私達に協力して欲しい」
「ミス・シャルロット…………」
コルベールは一度俯いて目を伏せる。
自分の中で葛藤しているのだろう。
だが、次に顔を上げて眼を開けた時、その眼に迷いは無かった。
「わかった…………生徒達の為に、私も全力を尽くそう………!」
心強いコルベールの言葉に、シャルロットはフッと笑みを浮かべる。
「しかし、今は時間が無い。一先ず君達が言った策で行く。だが、先程も言ったが相手はプロだ。瞬時に対応されるという事前提で考えて動いて欲しい」
今のコルベールには先程まであった気弱な教師という空気はない。
ただ、頼りになる男という空気が漂っていた。
「……………………」
雰囲気の変わったコルベールを、キュルケは意外そうな目で見つめていた。
その頃、魔法学院からそれなりに離れた場所で、3体の完全体とバイオサンダーバーモンが戦いを繰り広げていた。
「メタルメテオ!!」
「サンダーストーム!!」
ドルグレモンが放った超巨大な鉄球を、バイオサンダーバーモンの雷を纏った竜巻が粉砕し、ドルグレモンに迫る。
「くっ!」
ドルグレモンは翼を羽搏かせてそれを躱す。
「以前よりパワーアップしてるのか………?」
ドルグレモンの背に乗る大士はそう漏らす。
バイオサンダーバーモンは明らかにパワーアップしており、完全体が3体掛かりでも押し切れないでいた。
だが、それと同時に大士は違和感を感じていた。
「バイオサンダーバーモンの動きがおかしい?」
大士はそう口にする。
ワルドの性格なら、新しい力を手に入れて自分達を倒そうというのなら、もっと果敢に攻めて来てもいい筈なのだ。
しかし、今のバイオサンダーバーモンの戦い方は、まるで大士達を魔法学院から引き離すような動きだ。
「……………陽動?」
大士はすぐにその結論に辿り着く。
「……………………」
しかし、事が原作通りに進んだとしても、コルベールは重傷を負うが、銃士を除いて犠牲者は出なかった筈だ。
大士はそこまで慌てる必要は無いと思った。
だが、
「………………何だ………? 何か引っかかる…………」
心の片隅に何かが引っかかる感じがあり、それが気になった。
「ッ…………………!」
どうしてもその引っ掛かりが気になった大士は、一計を案じる事にした。
椅子に座ったメンヌヴィルは、テーブルに置かれた懐中時計を見つめた。
針がかちりと、動いた。
「5分たったぞ」
その声で生徒たちが震え上がる。
5分経ってアニエス達から『アンリエッタを呼ぶ』との言葉がなければ、1人殺すとメンヌヴィルは言ったのだ。
「恨むなよ」
と言いながら、メンヌヴィルは杖を掲げた。
「わしにしなさい」
とオスマンが呟いたが、メンヌヴィルは首を振る。
「アンタは交渉のカギとして必要だ。おい、誰がいい? お前らで選べ」
なんとも残酷な質問だった。
唖然として、誰も答えられない。
そう思っていた。
「私にしなさい」
エレオノールが気丈に振る舞いながら立ち上がった。
「先程も言った通り、私はラ・ヴァリエールの長女よ。私が殺されれば、父も考えを改める他無いでしょう。父への人質なら、まだ妹が居るわ」
「エレオノールお姉様………!」
カトレアが心配そうに呟く。
「わかった。ならお前にしよう。恨むなよ」
と、メンヌヴィルが言った瞬間、食堂の中に小さな紙風船が飛んできた。
全員の視線がそこに集中した瞬間、その紙風船は爆発して、激しい音と光を放つ。
中にはたっぷりと黄燐が仕込まれた、紙風船であった。
それを風を使って食堂の中に飛ばしたのはシャルロットであり、着火させたのはキュルケの『発火』であった。
女生徒が悲鳴を上げる。
まともにその光を見てしまったメイジが何人か顔を押さえる。
そこに、キュルケとシャルロット、マスケット銃を構えた銃士が飛び込んだ。
炎と風が、目を眩ませた傭兵を薙ぎ払う。
ルイズはその隙に皆を解放しようとする。
作戦は成功するかに見えた。
だが、キュルケ達目掛けて、炎の弾が何発も飛んできた。
「ッ!?」
キュルケは咄嗟に炎で壁を作りながら飛び退る。
次の瞬間、炎の壁に当たった炎の弾が爆発した。
「きゃあっ!?」
その衝撃波で吹き飛ばされる。
キュルケは床に身体を打ち付けるが、コルベールの忠告に従って心構えが出来ていたので何とか対処でき、ダメージは最小限で済んでいる。
シャルロットについては余裕で対処したようで、いつの間にかキュルケを庇うように立ちはだかっていた。
「大丈夫?」
「え、ええ………先生の忠告が無かったら、間違いなく直撃してたわ………」
コルベールに感謝しつつ、キュルケは身体を起こす。
しかし、他の銃士はそうはいかず、炎に包まれてのた打ち回っている者も居る。
「ッ…………!」
キュルケは悔しそうに歯を食いしばる。
白煙の中からメンヌヴィルが姿を現した。
メンヌヴィルの動きにはまるでよどみが無く、先程の閃光が効いている様子が無かった。
「どうして………?」
キュルケは怪訝な声を漏らす。
「おしかったな………光の弾を爆発させて視力を奪うまではよかったが…………」
そう言って、メンヌヴィルは微笑む。
「……………目」
シャルロットの呟きでキュルケは気付いた。
メンヌヴィルの眼球がピクリとも動かない事に。
「あなた、もしかして………目」
メンヌヴィルは目に指を伸ばした。
何かを取り出す。
義眼であった。
「俺は、瞼だけでなく目を焼かれていてな。光がわからんのだよ」
「ど、どうして…………」
メンヌヴィルの動きは、目の見えるもののそれだ。
「蛇は、温度で獲物を見つけるそうだ」
にやっと、メンヌヴィルは笑った。
「熱源感知………」
シャルロットは、自身の技能の中の似たようなものの名を口にする。
「俺は炎を使ううちに、随分と温度に敏感になってね。距離、位置、どんな高い温度でも、低い温度でも数値を正確に当てられる。温度で人の見分けさえつくのさ」
キュルケはぞわっと、髪の毛が逆立つ恐怖を覚えた。
「お前、怖いな?怖がっているな?」
メンヌヴィルは笑った。
「感情が乱れると、温度も乱れる。なまじ見えるより温度の変化はいろんなことを教えてくれる」
思い切り香りを吸い込むようにして、メンヌヴィルは鼻腔を広げた。
「嗅ぎたい」
「え?」
「お前達の焼ける香りが、嗅ぎたい」
キュルケは震えた。
生まれて初めて感じる、純粋な恐怖だった。
その恐怖は、
「やだ…………」
と、この炎の女王から、まるで少女のようなつぶやきを漏らさせた。
だが、
「そうはさせんぞ………!」
その恐怖を塗りつぶすような、頼もしい声が聞こえた。
メンヌヴィルの恐怖に全く動じず、堂々とした歩みでキュルケの前に出るコルベール。
「わたしの教え子から離れろ」
何かに気付いたように、メンヌヴィルは顔をあげた。
「おお、お前は………お前は! お前は! お前は!!」
歓喜に顔を歪め、メンヌヴィルは別人のようにわめいた。
「捜し求めた温度ではないか! お前は! お前はコルベール! 懐かしい! コルベールの声ではないか!」
コルベールの表情は変わらない。
かたくなにメンヌヴィルを睨んでいる。
「俺だ! 忘れたか? メンヌヴィルだよ隊長殿! おお! 久しぶりだ!」
メンヌヴィルは両手を広げ、嬉しそうに叫んだ。
コルベールは眉をひそめた。
「貴様………」
「何年ぶりだ?なあ!隊長殿!20年だ!そうだ!」
隊長殿?どういうことだ?と生徒たちの間に動揺が走る。
「なんだ? 隊長殿! 今は教師なのか! これ以上おかしい事はないぞ! 貴様が教師とはな! 一体何を教えるのだ? 『炎蛇』と呼ばれた貴様が……………は、はは! はははははははははははははははッ!!」
心底おかしい、とでも言うようにメンヌヴィルは笑う。
「君達に説明してやろう。この男はな、かつて『炎蛇』とよばれた炎の使い手だ。特殊な任務を行なう隊の隊長を務めていてな…………女だろうが子供だろうが、かまわずに燃やし尽くした男だ」
「先生が………!?」
キュルケはコルベールを見つめた。
「そして俺から両の目を…………光を奪った男だ!」
メンヌヴィルは杖を向けながら叫んだ。
「…………ミス・ツェルプストー、ミス・シャルロット。ミス・ヴァリエールと一緒に皆を逃がしなさい」
「は、はい……!」
キュルケはその言葉に素直に返事をした。
だが、シャルロットはその場を動かない。
「ミス・シャルロット………!」
コルベールはシャルロット促すが、シャルロットは首を横に振った。
「私も戦う………」
シャルロットは静かに呟いた。
「しかし………」
「足手纏いにはならない………」
迷いなくそう言い切ったシャルロットに、
「……………危なくなったら逃げなさい」
コルベールはそれだけを呟き、戦いが始まった。
ルイズは縛られた姉達を助けようと縄を解く呪文を唱えようとしていた。
「ルイズ! 早く!」
エレオノールが急かす。
「え~っと、縄を解く魔法は………!」
呪文を思い出しながら杖を振った。
「えいっ!」
すると、縛られていたエレオノールとカトレアの縄が解かれた。
「やった!」
ルイズは魔法が成功したことに喜ぶが、
「マグレじゃないの………?」
エレオノールの言葉にカッとなり、
「えぇいっ!」
もう一度杖を振ると、残りの生徒達の縄が解かれた。
それに喜ぶ生徒達。
ルイズはドヤ顔を決める。
するとカトレアが立ち上がり、
「よく出来たわ、ルイズ」
純粋にルイズを褒める。
ルイズはその言葉に照れ臭くなって頬を赤くした。
シャルロット、コルベールとメンヌヴィルの戦いは、食堂の壁を破壊して外の広場へと戦いの場を移していた。
温度で全てを把握するメンヌヴィルにとって、夜の闇も全く影響が無い。
対してコルベールは夜の闇の中、相手を把握する方法は殆ど無い。
だが、
「先生、2時の方向」
「はぁっ!」
シャルロットの言葉でコルベールがそこに炎を放つ。
「くっ!?」
そこに居たメンヌヴィルは咄嗟に転がってその炎を避ける。
シャルロットは、夜の闇でも目が効く〝夜目〟。
相手の気配を感知する〝気配感知〟。
メンヌヴィルと同じく温度で相手を把握できる〝熱源感知〟。
更には魔力の動きを把握できる〝魔力感知〟を持っている。
優花ほどの感知範囲は持っていないが、戦っている広場だけなら十分に感知範囲なのだ。
メンヌヴィルの動きは、シャルロットに全て筒抜けだった。
コルベールの炎とシャルロットの氷によって、メンヌヴィルは追い詰められている。
だが、メンヌヴィルの口は笑みを浮かべていた。
「ははは! これは驚きだ! 隊長殿ならまだしも、こんな小娘にすら追い詰められるとはな!」
その言葉にも、内容はともかく、声に悲壮感や焦燥感は全く感じられない。
「貴様………何故笑っていられる………?」
怪訝に思ったコルベールが問いかけた。
「何! 嬉しいだけさ! 本気を出さずに殺してしまっては呆気ないからな!」
メンヌヴィルはそう咆える。
「何だと?」
コルベールは訝しむ。
メンヌヴィルの炎の威力は、威力だけなら20年より遥かに上がっている。
それでも尚本気を出していないとは信じられない。
単なるハッタリとも取れるが、その様なハッタリをする男では無い事も分かっている。
「……………なら、本気を出す前にやる」
シャルロットが呟いた瞬間、〝縮地〟を使ってメンヌヴィルの懐に飛び込んだ。
「なっ!?」
メンヌヴィルが驚愕で声を漏らした瞬間、
「〝風爪〟………!」
右手に風の爪を纏わせ、シャルロットは薙ぎ払った。
「ッ…………!?」
その3つの風の刃は、確実にメンヌヴィルの胴体を捉えた。
同時に、メンヌヴィルの後方にあった塀も切り裂く。
それを見たコルベールが息を呑んだ。
「ッ………やってしまったか…………」
コルベールは少し残念そうな表情で呟く。
「………できるだけ先生に誓いを破って欲しくなかった」
「ッ……!? すまない………」
シャルロットの言葉に、コルベールは頭を下げた。
だが、
「フフフ…………」
突然笑い声が聞こえた。
シャルロットは咄嗟に振り向き、コルベールは驚愕の視線を向ける。
その視線の先でメンヌヴィルは立ち上がる。
「素晴らしい威力だ。少し前の俺だったら、間違いなく体が分割されて死んでいた」
「バカな………!? あの威力の攻撃を受けて生きているだと………!?」
コルベールはメンヌヴィルを見ながらそう言った。
「言った筈だぞ隊長殿………俺はまだ本気を出していないと………!」
ニヤリと笑うメンヌヴィル。
その身体には、多少のダメージは入ったようだが、致命的な傷は見て取れなかった。
「そして見せてやろう! 俺の本気を!」
メンヌヴィルはそう言うと、左手を前に突き出す。
手首に付けられていた特殊なデジヴァイスがせり出し、手に収まる。
更に紫色の疑似デジソウルに包まれ、右手をその機器に翳した。
「ハイパーバイオエボリューション!!」
メンヌヴィルが光に包まれ、その姿を変える。
「バイオボアモン!!」
それは、全高4m、全長8mほどの、燃え盛る炎の鬣をもった、朱い巨大な猪の様な姿をしていた。
「な、何だその姿は!?」
コルベールは驚愕する。
しかし、
「………ワルド子爵と同じ」
「ふっ、そっちの小娘は知っている様だな。これが俺の『力』だ!」
バイオボアモンとなったメンヌヴィルは鼻から大きく息を吸い込む仕草をする。
「ッ!?」
嫌な予感がしたシャルロットは、咄嗟に前面に氷の壁を全力で展開した。
次の瞬間、
「ノーズブラスター!!」
バイオボアモンの鼻から高熱の鼻息が放たれた。
その高熱の鼻息が氷の壁に接触した瞬間、氷の壁は一瞬にして融解。
更には一瞬で蒸発し、水蒸気爆発を起こした。
「くっ………!?」
「うぉおおおおっ!?」
その衝撃でシャルロットとコルベールは本塔前まで吹き飛ばされる。
だが、その爆発のお陰でノーズブラスターは四散し、本塔に影響は無かった。
しかし、
「何っ!? 今の音!?」
突然の巨大な爆発音に、様子を見に来てしまった者達がいた。
それはルイズとキュルケ、エレオノール、そしてカトレアだった。
救出側だったルイズとキュルケ。
高位貴族の義務感の強いエレオノール。
家族思いのカトレアは、他の生徒達を全員避難させるため、最後まで食堂に残っていたのだ。
4人はバイオボアモンを目撃する。
「何あれ!?」
キュルケが叫ぶ。
「ぐぐぐ………あれはメンヌヴィルだ………!」
コルベールが杖を支えにしながら立ち上がる。
しかし、爆発の影響でかなりのダメージを負ったようだ。
「ワルド子爵と同じ………」
シャルロットも立ち上がりながらそう言った。
「えっ? じゃあ、あれもバイオデジモンって奴なの!?」
ルイズも驚いた。
「ふはははははは! どうだね隊長殿? この俺が手に入れた『力』は!?」
バイオボアモンは高笑いを上げる。
コルベールは歯を食いしばると、
「皆は逃げなさい………ここは私が、命を懸けても食い止める!」
コルベールは杖を構えようとするが、ぐらりと身体が傾く。
慌ててキュルケが支えた。
「無茶よ、コルベール先生!」
「無茶は承知の上だ………! 君達は私の大切な生徒…………! 『命』を懸けるには十分な理由だ………!」
コルベールは尚も立ち上がろうとする。
「先生…………!」
その姿にキュルケは胸に燃え上がるものを感じた。
「次は逃がさんぞ! この俺が直接叩き潰してくれる!」
バイオボアモンは、前足で数度地面を擦ると、弾丸の様に一気に駆け出してきた。
「ッ!?」
キュルケが息を呑む。
その瞬間、シャルロットがキュルケとコルベールを抱えて飛び退く。
ルイズ、エレオノール、カトレアも慌てて逃げだそうとした。
だが、
「あっ………!?」
カトレアが躓く。
カトレアは、病が治ったとはいえ、今まで碌に運動をした事が無いのだ。
咄嗟の事と、『走る』という慣れない行動を取ったため、足を縺れさせてしまったのだ。
その場に倒れ込むカトレア。
「ちいねえさま!?」
「カトレア!?」
そのことに気付いたルイズとエレオノールが叫ぶ。
「ッ…………あっ…………」
カトレアが顔を上げた時、バイオボアモンは目前に迫っていた。
そして、
「ちいねえさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ルイズの悲痛な声が響いた。
同じ頃、バイオサンダーバーモンであるワルドは、相変わらず3体の完全体デジモンを相手に戦っていた。
「成龍刃!!」
「レッジストレイド!!」
ヒシャリュウモンとセイバーハックモンの攻撃を躱すバイオサンダーバーモン。
だが、先程から違和感を感じていた。
それは、
(何故だ………? 奴め、先程から何故攻撃してこない………?)
同じ場所で先程から滞空しているだけのドルグレモン。
ヒシャリュウモンとセイバーハックモンは、先程から果敢に攻撃しているのに対し、ドルグレモンは、ある時からピタリと攻撃を止めてしまった。
(私の隙を伺っているのか? いや、攻撃する隙なら何度もあったはず………一体何故………?)
バイオサンダーバーモンが怪訝に思っていると、1羽のコウモリが羽搏きながら近くを通過する。
バイオサンダーバーモンが何気なくそのコウモリを視線で追っていくと、そのコウモリはそのままドルグレモンに近付き…………すり抜けた。
「なっ!? まさか!?」
バイオサンダーバーモンは目を見開きながら翼を大きく羽搏かせ、
「サンダーストーム!!」
滞空しているドルグレモンに向かって必殺技を放った。
サンダーストームにドルグレモンは呑み込まれ、一瞬にして掻き消えた。
「ッ!? おのれ! 幻覚か!!」
バイオサンダーバーモンはしてやられたと言わんばかりに叫ぶ。
先程までここに居たドルグレモンは、エイリアスのカードで出現させた、ただの分身だったのだ。
「あらら、バレちゃった」
葵が軽い調子で呟く。
「遅いぐらいだったから別に良いんじゃない?」
優花はバイオサンダーバーモンに対する皮肉を込めて言う。
「きっ! 貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
謀られたバイオサンダーバーモンは、怒りの声と共に一気に襲い掛かるのだった。
【Side Out】
【Side カトレア】
目前に迫る巨大な猪の怪物。
その瞬間がとてもゆっくりに感じる。
私はここで死ぬの?
せっかくアルオイス様から新しい『運命』を貰ったのに?
今まで出来なかった事、やりたかった事もいっぱいあるのに?
全てここで終わってしまうの………?
「…………………嫌………」
そんなのは嫌………!
私はまだ死にたくない!
草原を動物達と駆け回る事も…………
領地の外へ出て色んな物を見て回る事も…………
パーティーで踊ることも…………
何も叶えていないのに………!
それに…………
『恋』だってしていないのにっ!
「ッ………………!」
ずっと秘めていた私の夢。
『運命』の男性の『お嫁さん』になる事。
だけどそれは叶わない夢だった。
身体が弱かった私では、子供を産む負担に耐えられないと何度も聞いた。
それは自分でもわかっていた。
だけど、無理だと分かっているからこそ余計に憧れた。
それが唐突に叶う夢になった。
嬉しかった。
いつか現れる『運命』の相手も今まで以上に思い描くようになった。
だけど、やっぱりそれは叶わない夢だったの?
猪の怪物はもう視界一杯に広がっている。
私の命も、もうあとほんの僅か。
私は思わず目を瞑る。
そして私は最期に祈った。
―――アルオイス様、最期のお願いです。
―――せめて、一目だけでも…………
―――私に、『運命』の男性の姿を見せてください。
何とも無茶な願いだと自分でも思いました。
今の状況から、そんな願いを聞き届けるのは、きっと神様でも無理。
そして、
―――ドゴォッ!!!
何かがぶつかり合う音が響きました。
一瞬私は、自分が撥ね飛ばされた音だと思った。
でも、私の身体には痛みも何も無い。
私はそっと目を開ける。
その目に映ったのは…………
「うぉおおおおおおおおおおおおおっ…………!!」
金色の光を纏った、大きな背中。
「えっ………?」
私は目を見開く。
それはルイズの使い魔であるという男性。
そして同時に、アルオイス様の恋人であるお方。
その男性が、金色の光を纏った状態で、猪の怪物の鼻先に拳をぶつけて猪の突進を受け止めている姿だった。
「………ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおらぁああああああああっ!!!」
「なっ、何ッ!?」
その方は、声を上げて右腕を振り切る。
猪の怪物は、驚愕の声を上げながら、大きく頭が跳ね上げられ、そのまま仰向けに倒れました。
「タイシ!!」
ルイズが叫びます。
私も体を起こしました。
だけど、
「何奴!」
起き上がった猪の怪物が、鼻から高熱の炎を噴き出しました。
その炎は、私達を飲み込もうとします。
「ちぃっ………!」
その方は突然私を胸に抱きしめました。
「!?」
その瞬間、ドクンッと私の心臓が強く脈打つ。
彼は私を胸に抱きしめたまま、炎に背を向けます。
そして、私を先程の金色の光で包み込みました。
次の瞬間、私達は炎に呑み込まれます。
「ぐっ…………!」
彼は苦しそうな声を漏らしました。
ですが、私を抱きしめた手は、決して私を放そうとはしません。
ドクッドクッと心臓が強く脈打ち続けます。
痛いほど心臓が脈打ちますが、不思議とそれは苦になりませんでした。
むしろ、何処か心地よくすら感じます。
不謹慎ですが、このまま彼に抱きしめられ続けたいとも思ってしまっている自分が居ます。
やがて炎が収まります。
不思議と私の身体には、火傷1つありませんでした。
ですが、
「ぐっ………!」
彼は苦しそうな声を漏らして膝を着きそうになりました。
でも、足に力を入れてそれを堪えます。
そして、
「大丈夫だったか………?」
彼は優しそうな笑みを向けて、私にそう声を掛けました。
「ッ………は、はい………」
私は何とか返事を返しました。
「そうか………良かった………」
すると、彼は嬉しそうな笑みを浮かべる。
その笑みを見た瞬間、私は顔に血が上るのを感じます。
顔が熱くなり、火が出そうなほどの熱を感じました。
私は自分の反応に戸惑いましたが、
「あ、あのっ………助けていただき、ありがとうございました!」
私は精一杯の感謝を込めて、そうお礼を言います。
「………あんたを死なせるわけにはいかないからな」
彼はそう言うと、猪の怪物に向き直りました。
そして、今気付いたのですが、上空には巨大な紅い竜が飛んでいます。
私は一瞬驚愕しましたが、
「ドルグレモン! 一旦戻れ! この場所はドルグレモンじゃ大きすぎる!」
彼がそう叫ぶと、紅い竜が光に包まれ、縮んでいきます。
そして、彼が以前連れていた、珍しい獣の姿になったのです。
すると、彼が懐から白い機器を取り出すと、右手に金色の光を宿しました。
「行くぞ! ドルモン!!」
「おう!」
彼の言葉にあの子が答えます。
そして、
「デジソウル………!」
彼が右手を天へ掲げると、金色の光が立ち昇って天を衝くほどに輝きます。
「………フルチャージ!!」
その光を右手の1点に集め、先程の機器に勢い良く叩きつけます。
その瞬間、その機器から眩い光が放たれました。
その光を受け、あの子が光を放ちます。
「ドルモン進化!」
その子は、光を放ちながら大きく姿を変えていきます。
そして、光が消えると、
「グレイドモン!!」
そこに居たのは金色の人型の竜と言うべきものが存在していました。
それは、両手に剣を持ち、青いマントを纏う騎士のようです。
「行くぞ! グレイドモン!!」
「おおっ!」
グレイドモンと呼ばれたそれは、地面を蹴って猪の怪物に向かって行きます。
「舐めるな!」
猪の怪物は鼻からは炎を噴き出します。
ですが、
「グレイドスラッシュ!!」
グレイドモンの一閃がその炎を切り裂きます。
更に、その切り裂いた炎の間を潜り抜け、彼が猪の怪物の懐に飛び込み、
「はぁあああああああああっ!!」
拳をしたから振り上げ、猪の怪物の顎を下から打ち上げました。
「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」
猪は後ろ足で立ち上がる様に大きく仰け反り、無防備なお腹をさらけ出します。
そこへ、
「クロスブレード!!」
グレイドモンの二刀の剣が、十字架を描くように振るわれます。
「ぐあぁあああああああっ!?」
その剣は、猪のお腹に、大きな十字の傷を付けます。
すると、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………!」
彼が右手を腰だめに構えて振り被り、その拳に金色の光を集中させました。
そして、
「うぉらぁああああああああああああああああああっ!!!」
グレイドモンの剣で十字に傷付いたその中心に、渾身の拳の一撃を放しました。
「ぐぼぉぁあああああああああああああっ!?!?!?」
金色の輝きが猪の怪物の胴体を突き抜け、背中から噴き出します。
その瞬間、猪の怪物が光に包まれ、縮んでいくと、あの大男の姿となり、ばたりとその場に倒れました。
彼はそれを確認すると、笑みを浮かべてグレイドモンに向かって親指を立てます。
丁度その姿を、昇って来た朝日が照らしました。
「………………」
その姿を見て、私の心臓は再びドクンと高鳴ります。
「私の………この気持ちは…………」
私は胸に手を当て、心臓の鼓動を感じます。
そのまま彼を見ると、手に直接感じられるほど、心臓が強く脈打っていました。
「私の………『運命の
私は彼に向かって一歩踏み出しました。
私の心に生まれた、この
【Side Out】
ゼロ魔クロス第22話です。
カトレアフラグ成立!
強引過ぎましたかねぇ………?
アニエスのイベントも突っこもうかと思いましたが、この後に入れると雰囲気壊しかねんと思いましたので、すっ飛ばさせていただきました。
まあ、それでも過去作のコピペが大量に。
そこはスルーしてください。
そんでグレイドモンが久々の登場。
グレイドモンの大きさはアルファモンよりも若干小さい位なので、狭い所ならこっちの方が有利です。
ドルグレモンが『力』の進化なら、グレイドモンは『技』の進化って感じですかね?
カトレアは身体が弱いのでこんな憧れもあるんじゃないかなぁっと思って書きました。
皆様の反応が怖いです。
それでは、次回も頑張ります。