戦争が終わって暫く。
この間は特に事件も無く、のんびりと過ごしている。
木陰でデジモン達と昼寝をすることが最近のお気に入りだ。
勿論、その中にはシャルロットとイルククゥの姿もある。
因みにマサルだが、最初の頃にギーシュと決闘騒ぎを起こしたこともあった。
結果は言うまでも無くギーシュの惨敗。
つーか、デジソウル使ってない筈なのに、青銅製のワルキューレを素手でボコボコにするのは如何なんだろうと俺は不思議に思った。
デジタルワールドで5年旅を続けていたので、素の身体能力も大幅に上がっている様だ。
原作では、才人が死にかけてガンダールヴじゃなくなって、ルイズやシエスタが才人を探しに来て、ミョズニトニルンのシェフィールドとやりあったりして、なんやかんやイベントてんこ盛りだったのだが、俺達はそのあたりのイベントを全部潰したからなぁ………
つーか、シェフィールドと遭遇して無いんだが、その辺どうなんだろう?
少なくとも、ルイズが人間を召喚したことは知れ渡っているだろうし、その内接触があると思ってたんだが、今の所その様子も無し。
因みに原作との相違点だが、もう1つある。
それは、
「あらあら、気持ちよさそうですね?」
ふんわりとした桃色の髪を揺らしながら、俺達を覗き込む鳶色の瞳。
ルイズと同じ髪と瞳の色だが、もちろんルイズでは無い。
それは、
「カトレア…………」
ルイズの姉であるカトレアだった。
戦争が終わったことで、上の姉であるエレオノールは元のアカデミーへ戻ったのだが、何故かカトレアはこのまま魔法学院に残り、教員見習いになっていた。
本人曰く、戦時中にこの学院にいる間にも運動は行っており、大分体力も付いてきたため、今まで出来なかった事を色々と体験してみたいからだそうだ。
ヴァリエール公爵にも許可は貰ったらしい。
その事にルイズは喜んだそうだが、何となくカトレアはルイズよりも、俺達の方を気にかけている様な気がしないでもない。
因みに、俺のカトレアの呼び方が呼び捨てなのは、そう頼まれたからだ。
これが普通の男だったら、『自分に好意を持っている』と勘違いしそうなものだが、残念ながら俺には『異性から好かれない』という因果を持っているのでそんな勘違いはしない。
「何か用事でも?」
俺がそう聞くと、
「はい。学院長からの言伝ですが、今夜行われる『スレイプニィルの舞踏会』にタイシ様達も参加しても宜しいとのことです」
「スレイプニィルの舞踏会…………?」
原作では如何いうものだったかなと首を傾げる。
「『スレイプニィルの舞踏会』は、『真実の鏡』というマジックアイテムを使い、自分の理想の姿に化けて行う仮面舞踏会です。私も初めて参加する事になるのですが、匿名性を帯びていて、学園内ではみな平等ということを印象付けるための行事だそうです」
「ふ~ん。平等なのは貴族の間だけっていう事がなければ、もうちょい素直に感心出来るんだがな」
俺はそう愚痴る。
「まあいいや。了解した」
そういえば、この舞踏会でもなんかあった気が……………?
その夜。
俺達は生徒に混じって『真実の鏡』の前に並んでいた。
パピヨンマスクを付けたシュヴルーズ先生が雰囲気を盛り上げる様なセリフを言っているが、俺は自分が誰に変身するのかを考えていた。
俺の憧れと言うと、デジモンシリーズの主人公の誰かかな?
可能性が高いのは一番身近に居たタカトか?
そんな事を考えていると、いつの間にか俺の番になっていた。
誰が誰に変身したか分からないように、カーテンで区切られている。
まあ、ルイズが誰に変身したかぐらいは分かるが。
俺は楕円形の鏡の前に立つ。
「いいですか? 自分の理想の姿を思い浮かべるのです。誤魔化しても仕方ありませんよ? この鏡は心の深い部分までを覗き込み………あなたをその姿にしてしまうのです」
シュヴルーズ先生の声が聞こえる。
俺が黙って鏡を見つめていると、虹色の光に覆いつくされ、俺は思わず目を瞑った。
やがて光が収まったのを感じ取り、俺はゆっくり目を開ける。
そして、目の前の鏡に映し出されたその姿を見て…………………
「……………グフッ!?」
俺はその場で崩れ落ち、膝と両手を床に突いた。
何故なら、鏡に映った自分の姿はハジメ。
しかも、トータスを旅していた頃の、白髪、眼帯、黒コート、左手は金属の義手の、厨二病全開バージョンだったからだ。
「…………………………俺って厨二病だったのか……………」
自分の心の奥底の願望をさらけ出された気がして項垂れる。
「………………………」
俺は、ズーンと気落ちしたまま立ち上がると、そのままホールの方へ歩いていくのだった。
ホールに出た所の近くで項垂れていると、
「大士………だよね?」
目の前にドルモンが居た。
一応ドルモン達も真実の鏡を受けたようだが、やはりデジモン達には効かなかったようだ。
「ああ…………」
俺は項垂れたまま答える。
「大士、ハジメの姿になったんだ」
「おう…………」
ドルモンから素直な感想が出る度、自分が厨二病だと突き付けられている気がしてならない。
「…………大士?」
すると、葵の声が聞こえた。
俺が顔を向けると、そこには葵の姿があった。
「……………葵?」
「うん、私だよ」
「……………鏡の効果は?」
「あはは………あれも魂魄魔法を応用してるみたいで、心を覗かれる時点で無効化しちゃったみたい」
葵があははと笑いながら答える。
そう言えば、葵は魂魄魔法に類する事に対しては、絶対的な耐性があるんだったか。
まあ、『神の魂』を持っているからなんだろうが。
つか、相変わらずこの世界の魔法は神代魔法級がごろごろしてるな。
あの鏡も、魂魄魔法と変成魔法の合作みたいだし。
少しするとリュウダモンが。
更にその後に、再び葵の姿が現れた。
「私………?」
葵が首を傾げる。
「優花よ。葵の姿になっちゃったわ。大士の正妻って事に、やっぱり憧れがあったのかしら?」
葵の姿をした優花は、自分の姿を眺めながらそう言う。
すぐ後にはハックモンも出てきた。
「それにしても、大士は南雲の姿なのね。しかも、トータスに居た頃の」
「言わないでくれ。自分でも結構ショック受けてるんだ」
自分が思った以上に厨二病だった事を未だに信じたくない。
多少厨二の気はあったとは自覚している。
でも、別にハジメの姿が格好悪いとは思っていないが、ここまで露骨な厨二病を持っているとは思っていなかった。
すると、
「タイシ達…………?」
首を傾げながら、もう1人葵の姿の人物が現れた。
「……………シャルロットか?」
俺は何となくそう思った。
その葵の姿をした人物は、コクッと頷く。
「シャルロットも葵になったのか………」
理由は多分優花と一緒だろう。
「ん、同じ顔が3人」
「私は鏡の効果が効かなかったから、本物だけどね~」
シャルロットの言葉に葵がそう言う。
すると、次に出てきた人物を見て、俺は目を見開いた。
何故なら、俺達の後に出てきたのは、蒼銀の髪に碧眼の瞳。
翼は無いが、女神アルオイスの姿をした人物が現れたからだ。
「女神姿の私………?」
本物の葵が呟く。
そのアルオイスの姿をした者は俺達に歩み寄ると、ニコリと笑い掛けた。
え~っと、俺達以外でアルオイスの姿になりそうなのは…………
「あっ………! カトレアか?」
俺はそう予想する。
「はい、その通りです。あなたはタイシ様ですね」
ほぼ確信を持ってそう言うカトレア。
「まあ、そうだが………ドルモンも横にいるし、これだけ葵の姿をした人物が集まってれば、そりゃ分るか」
俺がそう言うと、アルオイスの姿をしたカトレアは首を横に振った。
「いいえ。例えあなたが1人でいようと、見た瞬間に分かりましたよ」
「ッ……………!?」
そう言ったカトレアの言葉に一瞬ドキリとした。
「あ~~~、カトレア? 余りそう言った事は男には言わない方が良いぞ? 男っていうのは勘違いしやすい生き物だからな」
俺は忠告の意味も含めてそう言う。
すると、カトレアはクスクスと笑い、
「勘違いしてくださって構いませんよ?」
「…………………は?」
「では、失礼します」
「あっ、おい! ちょっと…………!」
俺は呼びかけるが、カトレアはそのままパーティー会場の中へ行ってしまう。
「……………揶揄われたのか?」
俺が呟くと、
「「「はぁ…………」」」
3人の葵が一斉に溜息を吐いた。
俺がその意味を問おうとした時、
「すっげー! 本当に姿が変わってらぁ!」
「アニキ! アニキの父さんそっくりだ!」
興奮した男の声が聞こえて来た。
見れば、マサルに似た40~50代位の男性が自分の姿を見て騒いでいる。
あの姿は…………大門 スグル?
って事は、マサルか。
まあ、隣にアグモンが居るから一目瞭然だが。
その所為で3人に問うタイミングを失ってしまった。
すると、
「ううっ……………こんなのって無いよ……………何かの間違いだよ………」
ホールに入ってくると同時に床に崩れ落ちたのは、何故か俺の姿をした人物。
「美姫ちゃんだね」
「美姫ね」
「ん、ミキ………」
3人が満場一致で断言した。
その後、すぐにオスマン学院長の話が始まり、舞踏会が開始された。
カトレアの反応に悶々としながらも、舞踏会を楽しむことにする。
葵、優花、シャルロットの順でダンスを踊る。
まあ、全員葵の姿だが。
すると、
「次は私と踊って頂けますか?」
アルオイス姿のカトレアがそう言って来た。
「えっ………?」
俺は思わず3人を見た。
3人は特に驚いておらず、何処か仕方なさげな表情をしている。
「あ、ああ………喜んで…………」
差し出された手を取り、ダンスホールにエスコートしていく。
「お恥ずかしいのですが、私はダンスを踊るのは初めてなのです。至らぬところもあると思いますが、ご容赦ください」
カトレアの言葉に、そう言えば、カトレアは身体が弱かったので、ダンスの練習も出来なかったんだろうと思った。
「初めてのダンスの相手が俺でいいのか?」
俺はそう聞く。
「はい。あなたがいいんです!」
カトレアは笑みを浮かべながらハッキリとそう言った。
その笑みは、アルオイスの物の筈なのに、その奥にあるカトレアの素顔がハッキリと分かった気がした。
「…………………!」
その笑みに、ドキリと心臓が高鳴るのを感じる。
……………おいおいマジか?
この感覚は、シャルロットの時にも感じた感覚だ。
つまり、俺はカトレアに惹かれてるって事なのか!?
恋人が3人いるくせに、これ以上別の女に惹かれるのかよ!?
俺は内心荒れ狂う。
ダンスが始まるが、カトレアは言葉通り不慣れなようで、足取りが覚束ない。
「ご、ごめんなさい………!」
足を踏まれる度に謝られている。
そんな不安そうな彼女を見ていると、何とかしてやりたくなる気持ちが膨れ上がってくる。
俺は軽く息を吐くと、カトレアをぐっと抱き寄せた。
「きゃっ………!?」
カトレアは小さく悲鳴を上げる。
俺は大きくステップを踏む。
カトレアを抱きしめているため、カトレアもそれにつられる。
ちょっと大げさにターンやスピンを決め、会場の注目を引き付ける。
すると思った通り、楽士達もそれにつられる様に軽快な音楽を奏で始めた。
多少のミスなど気にしない。
勢いで全て乗り切れ。
そんな気持ちで俺はカトレアをリードする。
カトレアは、最初は戸惑っていたようだが、やがて楽しそうに笑みを浮かべ、ダンスに没頭し始めた。
俺に身を任せるようにステップを踏み、振り回されないように身を寄せる。
カトレアは必死に、だがそれでいて本当に楽しそうに踊っていた。
やがてダンスが終わると、カトレアは疲れたのか、少し荒く息を吐いていた。
だが、その顔は決して辛そうでは無く、何処か清々しそうな表情だった。
すると、
「ありがとうございました」
カトレアは再び俺に微笑みながら言った。
「とても楽しいひと時でした」
「あ、ああ………どういたしまして?」
何となく照れ臭くなって疑問形で返してしまった。
カトレアはクスクスと笑う。
俺はカトレアを休ませようと、パーティー会場の方まで連れて行こうとした時、突然彼女の姿が、アルオイスのモノから元のカトレアの姿に戻ってしまった。
「えっ…………?」
俺は思わず声を漏らす。
気付けば、自分の姿も元の俺の姿に戻っていた。
それはもちろん俺達だけでは無く他の皆も一緒だ。
「うわ! 魔法が解けた!?」
「まだ舞踏会は終わっていないぞ!」
他の生徒達が騒ぎ始める。
その瞬間思い出した。
スレイプニィルの舞踏会の途中で、ルイズがミョズニトニルンのシェフィールドに攫われそうになることを。
原作では、シャルロットが一時的に敵に回ったが、この世界ではそんな事などあり得ない。
ならどうなるかと予想していると、
「きゃぁああああああああっ!?」
ルイズの悲鳴が響いた。
見れば、人型の身体に羽根が付いた様なものにルイズが抱えられ、連れて行かれようとしていた。
「ルイズ……!!」
カトレアが叫ぶ。
「ガーゴイル……!」
同時に、シャルロットがそう言う。
その時、無数のガーゴイルがパーティー会場に侵入し、参加者に襲い掛かろうとしていた。
参加者はほぼメイジだが、舞踏会というだけあり、杖を持ち込んでいる者は殆ど居なかった。
だが、
「〝ウィンディ・アイシクル〟!」
杖無し無詠唱で魔法を使えるシャルロットが氷の矢でガーゴイルを串刺しにし、
「ハッ!」
優花が宝物庫から手裏剣と苦無を取り出して投げ放ち、ガーゴイルを砕く。
「たあっ!」
葵が二刀でガーゴイルを切り裂き、
「オラァッ!!」
マサルが素手でガーゴイルを殴り壊す。
しかし、ルイズを捕らえたガーゴイルは、外への脱出を許してしまう。
「チッ! ドルモン!」
俺はドルモンに呼びかけつつ、会場の外へと駆け出す。
外へ飛び出すと同時に俺は右手にデジソウルを宿し、
「デジソウル………チャージ!」
それをDアークに翳し、進化の光を放つ。
「ドルモン進化!」
ドルモンが成熟期へ進化する。
「ラプタードラモン!!」
ラプタードラモンに進化するのと同時に、俺はその背に飛び乗った。
空へ舞うラプタードラモン。
見れば、ルイズを捕らえたガーゴイルは、一際巨大なガーゴイルにルイズを受け渡したところだった。
「行かせるか!」
俺はカードを取り出す。
「カードスラッシュ! 高速プラグインH! ハイパーアクセル!!」
ラプタードラモンの移動速度を上げるカードをスラッシュした。
猛スピードでガーゴイルに追い縋るラプタードラモン。
小型のガーゴイルがラプタードラモンを迎撃しようと襲い掛かってくるが、
「クラッシュチャージ!!」
ラプタードラモンはそのまま突撃する。
ラプタードラモンに接触するごとにガーゴイルは砕けていく。
ラプタードラモンの妨げにはならない。
ラプタードラモンはそのまま巨大なガーゴイルに追いつき、
「アンブッシュクランチ!!」
ルイズを捕らえている腕を噛み砕いた。
「きゃあっ!?」
落下するルイズを拾うと、一旦ガーゴイルから距離を取った。
すると、
「あんた、一体何者よ!」
ルイズが叫んだ。
すると、別のガーゴイルの背に、黒ローブを纏った人物が乗っているのに気付いた。
「はじめまして。ミス・ヴァリエール。偉大なる“虚無の担い手”」
黒ローブはそう名乗る。
声からして女。
つまり、
「何者なの?」
ルイズが叫ぶと、
「私は“神の頭脳”ミョズニトニルン。あらゆるマジック・アイテムを扱えるのよ」
そういうと、黒ローブの女は、すっとローブをずらした。
その額には文字が光っている。
やはりミョズニトニルンか………
「とは言え、今日の所は退き上げさせてもらうわ。どうやらあなたの使い魔は思った以上に厄介そうだしね」
「(仮)だがな」
俺は一応突っ込んでおく。
「また会える日を楽しみにしているわ」
そう言って、ミョズニトニルンもといシェフィールドは何らかのマジックアイテムで姿を消した。
残されたガーゴイルを即行で片付けた後に、俺達は学院へ戻る。
その際に、コルベール先生とキュルケが乗る『オストラント号』に遭遇したのだが、その2人から驚愕の報告を聞くことになる。
それは、シャルロットの母親が攫われたという事であった。
第29話です。
対ビダーシャルに行くとか言っておきながら全然そこまで行きませんでした。
そう言えばこんな舞踏会もあったなぁ~と思いながら書いてたら、カトレアとの距離が急接近してしまいました。
そして大士君、自分の中の厨二病を自覚して大ダメージです。
後の変身は何となくです。
次こそ対ビダーシャルに行くと思う。
お楽しみに。