ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第31話 ありふれた新学期

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

ガリアの某所。

オルレアン夫人が救出された事を、シェフィールドが知ると、その事を主に報告する。

 

「ビダーシャル卿がしくじったようです」

 

「あっけないものだな。それで? シャルロットは現れたのか?」

 

シェフィールドが報告した人物、ガリア王であり、シャルロットの伯父であるジョゼフがそう聞き返した。

 

「いえ、報告ではそれらしき人物は………オルレアン夫人を助け出したのは、灰銀の巨大な竜を連れた、黒髪の男と女、栗色の髪の女、小竜の様な生き物が2匹。そして、白い髪の160サント程の少女だったと…………」

 

シェフィールドの報告に、ジョゼフはふむ、と首を傾げる。

 

「母親を人質に取れば、姿を現すと思ったのだが…………当てが外れたか…………」

 

「オルレアン夫人はいかがいたしますか?」

 

「放っておけ。今はそれよりもこちらに興味がある」

 

ジョゼフが見下ろした先には、無数のガラス製のポッドが並べられた、ハルケギニアの文明レベルとは逸脱した光景。

ジョゼフはそれを見て面白そうに笑みを浮かべる。

 

「………………お言葉ですが、あのドクター・クラタと名乗る男、信用できるのですか?」

 

「余のミューズよ。お前から見てあの男はどう映る?」

 

ジョゼフの質問に、

 

「失礼ながら、決して信用は出来ない相手かと…………しかし、その知識には目を見張るものがあるのも事実………あの男の知識は、この私やエルフの技術ですら、足元に及ばぬほどのものであると実感しております。利用価値はあるかと………」

 

「ならばいい。俺を楽しませてくれるのなら、信用など無くて良い」

 

「ジョゼフ様…………」

 

「さあ、この退屈を紛らわしてくれ………!」

 

ジョゼフはこれから起こる事に期待を膨らませるように笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットの母親を助けた俺達は、魔法学院に戻ってきていた。

 

「皆さま、この度はもう何とお礼を申し上げてよいか………」

 

オルレアン夫人が礼を述べてくる。

 

「いいえ、気にしないでください。シャルロットの為ですから」

 

俺はそう言う。

 

「そう言う訳にはいきません。今回の事も含め、皆様には、返し切れない御恩があります。何の見返りも無いというのは、元とは言え、公爵家の名折れとなります」

 

オルレアン夫人の言葉に俺は苦笑する。

ホント、そこまで気にしなくてもいいんだが…………

そうだ。

それなら………

 

「そうですね………では、1つ欲しいものがあります」

 

俺はそう言った。

 

「何でしょうか?」

 

オルレアン夫人は真剣な表情で聞き返す。

 

「…………………シャルロットを頂きます」

 

「ッ!」

 

俺の言葉に、シャルロットは目を見開いた。

 

「まあ!」

 

オルレアン夫人は、口に手を当てて驚く。

でも、何か声がわざとらしいのは気の所為か?

すると、

 

「構いませんよ。ぜひ貰ってくださいな」

 

即答でそんな風に答えやがった。

 

「母様!?」

 

母親の言葉にシャルロットが声を上げる。

 

「ふふふ。シャルロット、あなたの気持ちに気付いて無いと思った?」

 

オルレアン夫人は笑みを浮かべ、シャルロットに向かってそう言う。

 

「ううっ…………」

 

「私としては、是非ともあなたに娘を貰って欲しかったので、渡りに船です」

 

予想外の反応に俺は戸惑ったが、

 

「……………では、娘さんは頂いて行きます」

 

とりあえず、嘘では無いので遠慮なく貰っておく。

 

「ええ、ちゃんと幸せにしてあげてくださいね」

 

「それはもちろんです」

 

何か予想外な事になったが、結果オーライという事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまたしばらくの時が流れた。

オルレアン夫人を取り返しに来る可能性も考慮して、暫く警戒していたのだが、そんな様子は全く無く、平穏な日々が続いている。

そして、俺はと言えば、

 

「おらぁっ!」

 

「なんのっ!」

 

「せいっ!」

 

「でやっ!」

 

マサルを相手に喧嘩………というか、模擬試合を行っていた。

デジソウルを纏う俺とマサルは、身体能力はほぼ互角だが、戦闘経験という差で、マサルに軍配が上がる。

俺がデジソウルを使い始めたのは、トータスでの旅の終盤辺りだし、実質俺の戦闘経験はそこまで多くない。

対するマサルは、我流の喧嘩殺法だが、DATの隊員として戦ってきたことに加え、デジタルワールドの厳しい自然の中で5年間戦い抜いてきた実績がある。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐふぅっ!?」

 

隙を突かれて顎に入ったアッパーカットで打ち上げられる。

そのまま放物線を描き、

 

「ぐえっ!?」

 

地面に頭から落ちた。

 

「へへっ! 俺の勝ち!」

 

マサルはドヤ顔を決める。

だが、その顔は決してこちらを見下すものでは無く、悔しかったら何度でも掛かって来いと言わんばかりの、自身に満ち溢れた表情だ。

 

「あ~~~畜生! また負けた~~~~!!」

 

俺は地面に大の字になりながら声を上げる。

そんな俺に向かって、マサルは手を差し出した。

 

「また勝負しようぜ!」

 

マサルは清々しい笑みを浮かべてそう言ってくる。

 

「次は負けないからな!」

 

そう言いながら、俺はその手を取る。

引き起こされながら立ち上がると、葵が近付いて来て、俺達に再生魔法を掛けた。

模擬戦の中でついた傷だけでは無く、破れてしまった服も元通りになる。

 

「お~………! やっぱり魔法ってすげえな!」

 

感心した声を漏らすマサル。

まあ、再生魔法は神代魔法と呼ばれるほどの高等魔法だからな。

 

「タイシに勝つって、マサル、化物…………?」

 

その様子を眺めていたシャルロットがポツリと呟く。

 

「まあ、私も大士に勝とうと思えば勝てるけど、真っ向勝負をする気にはならないわね………」

 

優花も同意する様に呟く。

ぶっちゃけ、優花のスピードには追いつけないから、今の俺でも勝つのは無理だ。

正面衝突で負ける気は無いが、元々優花はスピードでかく乱して遠距離攻撃で仕留めるタイプだ。

近接オンリーの俺では相性が悪すぎる。

あとは、デジソウル全開で動ける時間はそう長くは無いので、持久力の差で負ける。

 

「お兄ちゃんが生身でも非常識に………」

 

美姫は何やら困惑してるが。

とまあ、今日の訓練も終わり、俺達が部屋に戻ろうとしていると、

 

「ミス・ウエストウッド! クルデンホルフさんは無いでしょう? あなたの目の前におられるお方は、クルデンホルフ大公国姫、ベアトリス殿下なんですのよ!」

 

そんな声が聞こえて来た。

俺達が振り向くと、テファが数人の女子生徒に囲まれている。

因みに、テファは認識阻害のイヤリングで耳を誤魔化しているので、原作の様に鍔の広い帽子は被っていない。

だが、そのお陰で、テファの困っている表情が見て取れた。

一応、テファの身の安全を保障すると宣言している手前、無視する気にはならなかった。

 

「お前達、何やってんだ?」

 

俺は声を掛けながらその集団に歩み寄り、テファを護るような立ち位置になる。

 

「タ、タイシ………!」

 

テファは困惑したような表情で俺の背に隠れる様な形になる。

 

「どうしたのテファ!? いじめられてたの!?」

 

美姫が心配そうにテファに声を掛けた。

だが、

 

「お前達! お前達ですって! 皆さん聞きました!?」

 

「聞きましたわ! 『お前達』とはずいぶんな言い草ですわね!」

 

テファを囲んでいた取り巻きと思われる女子生徒達が喚き始める。

ああ、コイツらめんどくさいタイプの令嬢だ。

俺はそう察した。

 

「あなた、こちらの方をご存じ?」

 

取り巻きの女子生徒の1人が、真ん中に立っている一番背の低い金髪のツインテールの少女に手を差し伸べながら言った。

あー、この流れは確か………

俺は記憶を掘り起こす。

 

「クルクルなんちゃら大公国のお姫様だったか?」

 

「クルデンホルフ大公国ですわ! そしてこの方は、クルデンホルフ大公国の姫君であらせられる、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ殿下ですわ! この方を知らないなんて、何処の田舎者かしら?」

 

おーおー、随分な言われようだな。

 

「………………で?」

 

俺はそう聞き返す。

 

「は?」

 

取り巻きの女は、意味が分からないと言わんばかりに声を漏らした。

 

「その大公国のお姫様だから如何だっていうんだ? お姫様だから、他人を虐めてもいいなんて理由にはならない。むしろ、お姫様なら節度を守り、器の大きさを見せるべきだろ? それが、いくらテファが美人で、他の男子生徒の人気を独り占めしてるからって、気に食わないという理由で虐める様な姫が継ぐ国に、未来は無いと思うがな」

 

ヘイトを俺に向ける為に、煽りまくってそう言う。

 

「なっ!? 何ですって!?」

 

ベアトリスと呼ばれたお姫様が顔を真っ赤にする。

 

「ぶっ、侮辱よ! この男が私を侮辱したわ!!」

 

俺を指差しながら叫ぶが、

 

「そこで怒るって事は、少なからず自覚があるって事だろ?」

 

俺は更に煽ってやる。

 

「わ、私の生まれたクルデンホルフ大公家は、現トリステイン女王陛下であらせられる、アンリエッタさまと、縁の深い関係ですのよ!」

 

ん?

確かこいつの縁って…………

 

「縁が深いって、どの程度?」

 

俺は一応聞いてやる。

その台詞で俺が恐れ戦いたと思ったのか、尊大な態度を取り戻し、

 

「聞いて驚きなさい! 先々代のフィリップ三世の伯母の嫁ぎ先の当主の兄弟の直系なのよ!」

 

「トリステイン王家と血縁関係!」

 

取り巻きの1人が叫ぶと、

 

「「「「「トリステイン王家と血縁関係!」」」」」

 

残りの取り巻き達が唱和する。

 

「……………なんだそりゃ?」

 

それを聞いたマサルが、呆れた表情をする。

 

「その程度の縁って、私達の所じゃ『赤の他人』って言うんだけど」

 

優花も溜息を吐きながら呟く。

つーか、王家との血縁関係ならテファはアルビオン王国の国王になったウェールズの従妹だし、女王サマとも一応従妹の関係にあるんじゃなかったか?

 

「…………んで? だからどうした?」

 

正直、家の力をひけらかすだけの子供に、何の脅威も感じない。

 

「つまり、私をないがしろにすることは、トリステイン王家を蔑ろにするのと同義!」

 

「いや、全く関係無いと思うが」

 

一応突っ込むが、自分に酔っているのか話を聞く素振りすらない。

 

「彼女、アルビオン育ちだから大陸の事情に疎いのは無理なからぬことだけど、礼儀はきちんと弁えないとね」

 

「その言葉、ある意味ブーメランだと俺は思うが」

 

要は身の程を知れと言いたいんだろうが、そっちこそ身の程を弁えた方が良いと思うが…………

金貸し貴族だから、トリステイン国内の貴族の多くに金を貸してるから、国内の貴族相手には優位に立てるんだったか?

 

「口の減らない男ね。余り調子に乗ってると、痛い目を見ることになるわよ」

 

ベアトリスが手を挙げると、突如として影が差す。

見上げれば、竜に跨った騎士達が空中を取り囲んでいた。

 

「私の近衛騎士団、『空中装甲騎士団(ルフトパンツァーリッター)』よ。彼らを相手にしたくなければ、この私には逆らわない事ね!」

 

襲い掛かってきたら返り討ちにするつもりだったのだが、ベアトリスは高笑いすると踵を返し、立ち去っていった。

竜騎士達もそれに続いて姿を消す。

 

「…………何だったんだ一体?」

 

俺は思わず首を傾げる。

 

「一体何なのあの女!」

 

美姫がいきり立つ。

 

「テファ、今度あの女に何かされたら遠慮なくお兄ちゃん使っていいから! お兄ちゃんなら、あんな奴らぶっとばしてくれるから!」

 

美姫は勝手にそう言う。

まあ、約束した手前、相手が騎士団だろうが軍隊だろうが戦うつもりではいるが。

だが、テファは、唇を噛んで首を振った。

 

「いいの。タイシ達に迷惑がかかったら大変だし………気持ちは嬉しいけど、自分で何とかするわ」

 

テファは そう言う。

 

「テファ………」

 

美姫は心配そうにテファの名を呼ぶが、

 

「ホントにいいの。やっぱり嘘はよくないわ」

 

何か決心したように、ティファニアは頷いた。

 

「心配かけてほんとうにごめんなさい」

 

小走りでティファニアは駆けていく。

 

「テファ………」

 

美姫はその後姿を心配そうに見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

ある時、バリーンと、1年の教室から、窓ガラスが割れる音が響いた。

ティファニアは、自分の教室でハーフエルフであることを明かしたのだ。

当然、教室は大混乱に陥った。

そんな中、ベアトリスが異端審問を行なうと言い出し、お抱えの『空中装甲騎士団』でティファニアを捕らえたのだ。

ティファニアは、騎士団の天幕の前の地面に乱暴に転がされ、杖を突きつけた騎士たちに囲まれた。

 

「…………私を如何する気?」

 

騎士たちの輪が割れて、ベアトリスが姿を現した。

左右に垂れた金髪を弄りながら、楽しそうな声でベアトリスはティファニアに尋ねた。

 

「異端審問を知ってる?」

 

ティファニアはぶるぶると首を振った。

 

「あなた、言ったわよね。『始祖ブリミルを信じている』って。エルフの血が混じったあなたが“信仰”を口にしたのよ。私たちハルケギニアの民の神を信じている、って言ったの。だからそれを証明してもらうわ。『自分は異端ではない』ということを、始祖と神の代理人たる司教の前で、証明するの。それが異端審問よ」

 

その目の色でティファニアは気付いた。

このベアトリスは、自分がエルフだから、痛めつけようとしているわけではない事に。

自分が気に入らないから、痛めつけるのだ。

なぜなら、その目に憎しみの光はない。

かつて『エルフだから』という理由で母を殺した騎士たちの目には、消しようのない仇敵に対する憎しみの炎が宿っていた。

だが、このベアトリスの目に光るのは、『歓喜』だ。

自分を痛めつける理由を見つけたから、彼女は喜んでいるのだ。

 

「…………可哀想な人」

 

「なんですって?」

 

「全部が自分の思い通りにならないと、気がすまないのね。子供なのね、あなた」

 

ベアトリスの顔が真っ赤に染まった。

乾いた音が響く。

ティファニアの頬を、ベアトリスが叩いたのだ。

だが、ティファニアはベアトリスに目を向けると、

 

「タイシの言った通りだわ。自覚があるのね、あなた」

 

ベアトリスは更に顔を赤くしたが、ティファニアの言葉を無視して口を開いた。

 

「さて、異端審問を執り行うわ。煮立った釜の中に、1分間つかるの。もし、あなたが本当に始祖ブリミルのしもべなら、その湯は丁度いい湯加減に感じるでしょう。でも、あなたが忌まわしい異教徒なら、茹で肉になってしまうでしょうね」

 

騎士の1人が呪文を唱えると、天幕のそばにあった大釜に火が入る。

強力な魔法の炎で、大釜の水はぐらぐらとすぐに沸騰を始めた。

もちろん、ブリミル教徒だろうが、異教徒だろうが、そんなにだった湯につかれば命はない。

異端審問とは、つまり宗教を利用した処刑なのだった。

そのとき、騒ぎを聞きつけた学院の生徒たちが駆けつけてきた。

生徒たちは、竜騎士に恐れをなし、遠巻きにベアトリスたちを見つめた。

観客がそろったことを確認すると、ベアトリスは勝ち誇った顔で叫んだ。

 

「クルデンホルフ司教ベアトリスの名において、今から異端審問を執り行います!敬虔なるブリミル教徒の皆さん、よくご覧になってくださいまし!」

 

生徒たちからざわめきが起こる。

その時だった。

 

「何をしている?」

 

大士が現れ、そう口を開いた。

ティファニアの顔が一瞬輝いたが、すぐに曇る。

 

「異端審問よ」

 

「異端審問ね………」

 

大士はそう呟いただけで、ティファニアに近付こうとした。

しかし、すぐに後ろから羽交い絞めにされた。

振り向けば、ギーシュとマリコルヌが必死に大士を止めていた。

 

「やめろ、タイシ」

 

「何故だ?」

 

「拙いんだよきみ。実に拙い」

 

マリコルヌとギーシュがそう言う。

 

「きみ、わかっているのか? 異端審問だぞ!」

 

マリコルヌが何時になく真剣な声で叫んだ。

 

「で?」

 

「ここで庇ったら、君まで異教徒という事になっちゃうんだよ! そうなったら洒落ではすまないんだ! 家族だけじゃない、親類一同まで累が及ぶんだ!」

 

ギーシュはそう捲し立てる。

大士は、ギーシュが自分の為を思って説得している事は感じられた。

そんなやり取りをする一同を見て、ベアトリスはにっこりと笑った。

それからティファニアに向き直る。

 

「ミス・ウエストウッド。あなたが羨ましいわ。あなたの奉仕者に免じて、一度だけチャンスをあげる。すぐここを出て、あなたの田舎にお帰りなさいな。そうしたら、今までの無礼を全部忘れてあげる」

 

しばしの静寂が流れた。

だが、ティファニアは頷かなかった。

彼女は昂然と顔をあげると、ベアトリスに言い放った。

 

「いや。絶対にいや」

 

「…………な!」

 

「私、外の世界を見てみたいって、ずっと願ってた。そこにいるタイシたちが、私のそんな夢を叶えてくれたの。だから帰らない。あなたみたいな卑怯者に、帰れといわれて帰ったら、タイシたちに合わせる顔がないわ」

 

ティファニアのその言葉で、周りに集まった生徒たちから歓声が沸いた。

確かにその長い耳には驚いたが、ティファニアはどうにも邪悪と恐れられた砂漠のエルフには見えなかったのだ。

それに先程の口上は、なんとまっすぐであろうか。

大士もその言葉に笑みを浮かべる。

その上、家柄を傘にきて威張る一年生に、反感を覚えていた生徒たちは少なくなかった。

 

「離してやれよ!」

 

「そうよ!オスマン氏から、きちんと事情を窺ってからにしたら!」

 

浴びせられるそんな言葉に、ベアトリスの顔がひくついた。

 

「空中装甲騎士団!お望みどおり、審問さしあげて!」

 

空中装甲騎士団がティファニアに近付き、手を伸ばした。

次の瞬間、大士を掴んでいたギーシュとマリコルヌの視界が1回転した。

2人は大士の腕を掴んでいたが、それぞれ片手で振り回され、大士の前に転がった。

 

「ギーシュ、マリコルヌ。俺はお前達の事は別に嫌いじゃない。俺の事を心配して止めようとしている事は分かっている。けどな、俺はテファを『理不尽な理由で傷付けようとする輩からは、責任をもって護る』と約束しているんだ。それをわが身可愛さで反故にしようなんて、カッコ悪いだろ?」

 

大士はそのまま前に進み出る。

 

「そこまでだ」

 

大士がティファニアに手を伸ばそうとしていた騎士の手首を掴んで止める。

空中装甲騎士は、さっとベアトリスの前に出て、杖を大士に突きつけた。

再び生徒たちから歓声が上がる。

 

「…………またあなたなの? あなた、自分が何をしているのかお分かり?」

 

「言った筈だ。俺はテファを理不尽に傷付けようとする輩から護ると」

 

「これは異端審問よ! 正義はこちらにあるわ!」

 

ベアトリスが叫ぶが、

 

「『理不尽』とは、俺が判断して理不尽と感じる事だ。俺が理不尽と判断したからには、俺は何者からだろうとテファを護る。たとえその相手が貴族だろうと…………姫だろうと…………『神』だろうとな!!」

 

大士はそう言い放つ。

 

「ッ!?!?」

 

その気迫にベアトリスだけでなく、見ていた生徒達は圧倒され、押し黙った。

 

「………………………!」

 

尚、大士の後ろでは、ティファニアが頬を赤らめて大士の後姿を見つめていたが、大士はそれに気付いていない。

 

「よっしゃ! 良く言った大士! それでこそ『漢』だ!!」

 

遅れてやって来たマサルが、大士を称賛する様に叫ぶ。

 

「ッ……………! 『空中装甲騎士団(ルフトパンツァーリッター)』、前へ!!」

 

ベアトリスは遂に我慢の限界に来たのか、騎士団へ命令を下した。

 

 

 

 

 

 

 

1分後。

20人ほどの鎧で完全武装した騎士達が全員叩きのめされてその場に転がっていた。

大士、マサル、葵、優花、更にはシャルロットも加わり、一方的に蹂躙して終わっただけであった。

 

「な、な、な……………!」

 

ベアトリスは、驚愕で口をパクパクさせている。

 

「さて、ご自慢の騎士団は御覧の有様だが?」

 

大士がそう聞くと、ベアトリスはわなわなと震えている。

すると、そんな彼女に向かって、シャルロットが近付いた。

 

「あなたに聞きたいことがある」

 

そう口をひらいた。

 

「な、なによ」

 

「司教の免状は?」

 

シャルロットのその言葉に、ベアトリスの顔が青くなった。

実は、ベアトリスはそんな物持ってはいない。

クルデンホルフ大公国の司教の資格、というのも嘘だ。

トリステインの貴族なら事情は知るまいと思っていたのだが、シャルロットは鋭かった。

 

「ええと、その、実家にあるのよ!」

 

シャルロットの目が細くなる。

 

「ウソついてる」

 

「え? ウソじゃなくってよ! 何を仰るのかと思えば…………はん!」

 

「異端審問には、司教の免状だけでなく、ロマリア宗教庁の審問認可が必要なはず。それも知らないなんて、どういうこと?」

 

シャルロットがそう言うなり、周りの生徒達の目つきが変わった。

異端審問、という響きで頭の中が真っ白になっていたが、言われてみればシャルロットの言うとおりである。

ベアトリスの言葉には怪しい部分が多すぎた。

 

「おい! ベアトリス! 始祖ブリミルの名を使って気に入らない女の子を苛めるなんて、それが貴族のやり方か!」

 

「トリステインで司教を騙れば、火刑だぞ!」

 

生徒たちはベアトリスににじり寄った。

ベアトリスは震えながら膝をついた。

頼みの空中装甲騎士団は、いずれも伸びている。

このままでは吊るされてもおかしくない空気に包まれた時、ティファニアがベアトリスに駆け寄ってきた。

1人の生徒がティファニアに声をかけた。

 

「ミス・ウエストウッド。あなたには彼女を裁く権利がある。あなたに流れる血の釈明より先に」

 

ティファニアはベアトリスの前に進み出た。

その場の全員がティファニアの言葉に注目した。

これだけの侮辱を受けたのである。

普通なら、殺されてもベアトリスに文句は言えない………はずであった。

しかし、ティファニアの言葉は、みんなの予想を裏切っていた。

なんとティファニアは、膝をついてベアトリスの手を取ると、

 

「お、お友達になりましょう」

 

といったのである。

その場にいた生徒全員が、余りの言葉にすっ転んだ。

まるで予想外で、拍子抜けしたのである。

大士も深く溜息を吐く。

 

「人が良いにも程があるだろ…………」

 

大士はボソッと呟く。

 

「ミス・ウエストウッド?あなたには、彼女を裁く権利があるのですよ?」

 

生徒の1人が呆れた顔でティファニアに言った。

しかし、ティファニアは首を振った。

 

「ここは学院でしょう? 学び舎で裁くの裁かないの、なんておかしいわ」

 

「でも…………でもですね! 如何考えてもですね!」

 

「それに私…………ここにお友達を作りに来たの。敵を作りに来たんじゃないわ」

 

ティファニアは、何か覚悟を決めた顔で言った。

その言葉に、誰も何も言えなくなってしまった。

その沈黙を破ったのは、ベアトリスの泣き声だった。

 

「ひ…………ひう。ひっぐ」

 

恐怖の緊張の糸が切れ、安心した瞬間、涙がどっとこぼれてきたらしい。

まるで小さな子供のようにベアトリスは泣いた。

 

「う、うう、うえ゛~~~~~~~~ん!」

 

無防備な泣き声だけが響く。

生徒たちは、その泣き声に当てられて、これ以上糾弾する気も失せてしまった。

 

「終わったかの?」

 

生徒達の壁をかき分けて、学院長のオスマンが現れた。

オスマンは白い髭を擦ると、にっこりと笑った。

それからほぼ学院生徒全員の前で、ティファニアの肩に手を置き、こう告げた。

 

「あー、先程彼女は命を賭けて、ここで学びたいと言った。その言葉から学ぶところは大きい。よいか諸君、元々学問というのは命がけじゃ。己の信じるところを貫き通すためには、時に世界を敵に回さねばならぬときもある忘れるでないぞ」

 

生徒たちは、今頃出てきて何言ってるんだ、という顔つきになったが、とりあえず頷いた。

オスマンは満足げに頷くと、言葉を続けた。

 

「しかし、何時も命がけでは息が詰まる。喧嘩も息抜きの一つかもしれんが、人死にが出てからでは遅い。それになにより面倒じゃ。こんな騒ぎはもうこれきりにして欲しい。よいか、彼女の後見人はこのわしじゃ。その上、ティファニア嬢は、女王陛下からよしなに頼まれた客人でもある。今後彼女に侮辱的な……………その血筋について何か講釈を垂れたい生徒がいたら、王政府を敵に回す覚悟で述べなさい。よいかね」

 

生徒たちは驚愕し、一斉に緊張した顔つきになった。

まあ、女王陛下ゆかりの人物だと言われれば当然だろう。

生徒たちはティファニアに近付き、握手を求め始めた。

 

「よろしく。エルフって初めて見たけど、綺麗なもんだね」

 

「私、オーク鬼みたいな生き物を想像してたのよ」

 

「それに、随分と真面目で真っ直ぐな考え方をするんだね。人間の貴族よりも貴族らしいや」

 

ティファニアは感動した面持ちで一人一人と握手を交わした。

大士はそれを遠巻きに見ていたが、何という掌返しと半ば呆れていた。

すると、オスマンが周りを見渡して言った。

 

「さて、仲直りがすんだら、怪我人を医務室に運んで、ここの後片付けをしなさい。あんまり散らかってはおらんがの」

 

生徒たちは頷くと、すっかり忘れ去られてぶっ倒れていた空中装甲騎士団の騎士たちを運び始めた。

オスマンはそれを見て頷くと、傍らのティファニアに顔を向けた。

 

「助けが遅くなってすまなかったの。ただ、普通に助け舟を出しては、なかなか真の友というのは作りづらいからのう。特にお前さんのような、エルフの血を引くものではの」

 

「いえ…………」

 

人見知りするティファニアは顔を伏せた。

オスマンは、こほんと席を一つすると、そこで真顔になった。

 

「さて………最後に一つ、お前さんにたずねたい事がある」

 

「はい?」

 

不安げな表情を浮かべ、ティファニアは首を傾げた。

 

「非常に大事な質問じゃ。学問というのは正に命がけじゃのう…………わしの全存在をかけて質問するぞ。きちんと答えるのじゃ」

 

「はい」

 

真剣な顔で、ティファニアは頷いた。

オスマンは、堂々と指を突きつけた。

巨大な、という形容詞が陳腐に思えるほどのティファニアの胸に。

臆したところは微塵も感じられない。

威厳さえ感じさせる、落ち着き払った態度でオスマンは質問を発した。

 

「それはホンモノかの?」

 

ティファニアの顔が真っ赤に染まる。

 

真剣な質問らしいので、仕方なくティファニアは消え入りそうな声で答えた。

 

「…………はい。そうです」

 

オスマンは耳に手を当てると、ティファニアの顔に近づけた。

 

「もっとはっきり、この年寄りに聞こえるように言ってはくれんかの。歳をとると、耳が遠くなっていかん」

 

ティファニアは、更に頬を赤くさせた。

俯き、唇をかみ締め、

 

「ほ、ほんものです!」

 

「ワ、ワンモアじゃ」

 

オスマンが軽く頬を染めてそう呟いた次の瞬間、オスマンは宙を舞った。

大士のアッパーカットが炸裂したのだ。

流石に黙って見ている事は出来なかったらしい。

そして、宙を舞ったオスマンは、空中で巨大なゴーレムの手に捕まえられた。

それはトライアングルクラスのゴーレム。

それを作ったのは、ロングビルもとい、ティファニアの姉的存在であるマチルダであった。

 

「マチルダ姉さん!」

 

「このエロ爺は私がお灸をすえとくから、安心しな」

 

マチルダはティファニアに向かってそう言う。

すると、

 

「よく今まで我慢してたな?」

 

ずっと姿が見えなかったマチルダに大士が問いかけた。

 

「別に、いつでも助け出せるところには待機してたよ。それに、あんたの言葉が本当かどうか確かめさせてもらったし」

 

マチルダは笑みを浮かべて大士を見る。

 

「で? 俺の評価は?」

 

「ああ、文句無しに合格だよ。嘘とは言え、『異端審問』を前にして、『神』を相手にしてもティファニアを護ると啖呵切るなんて、誰にでも出来ることじゃないよ」

 

「そうかい」

 

マチルダの言葉に大士は頷くが、その後ろでティファニアがその時のセリフを思い出して顔を赤くしている事など大士には知る由も無かった。

だが、

 

「………………5人目?」

 

「いや、でも、今回は流石にチョロ過ぎない?」

 

「あ~~ティファニアは美姫ちゃんを召喚した時点で自分の運命変えちゃってる感じだからね。その所為かも」

 

「彼に負い目を感じて意識してる所にあの言葉ですからね。『神』が相手だろうと護ると言われてしまえば、ときめくのも無理ありませんわ」

 

いつの間にか来ていたカトレアを含めた恋人達には、筒抜けだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 






ゼロ魔クロス第31話です。
後半は相変わらず過去作のコピペでした。
前半では、ガリアで不穏な動きが……………
でも次回は流れから行くと風呂覗き編だけど…………
一体どうなる?
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