【Side 葵】
「嫌ぁああああああああッ!! 大士! 大士ぃ!!」
私は無我夢中で亀裂の中に消えた大士を掘り起こそうと素手で地面を掘り始めた。
そんな事無駄だと頭では理解していても、認めたくなかった。
「大士! 今………今助けるから!!」
眼から涙が止め処なく溢れ、地面を濡らしながら私は地面を掘り続ける。
「大士………嘘………だろ………?」
「黒騎………君……………?」
「…………タイシ…………」
南雲君達も呆然と呟いている。
それでも私は地面を掘り続ける。
指の皮が剥がれ、血が滲んでも私は気にしない。
気にする暇がない。
早く、早くしないと……………
でもその時、
「葵! やめろ! そのままでは葵の手が壊れてしまう!」
リュウダモンにその手を止められる。
「離して! 早く、早くしないと、大士が………大士がぁ……………!」
「落ち着け葵…………! おそらく、2人はもう……………!」
リュウダモンはそう言いながら亀裂に視線を落とす。
南雲君は崖から落ちただけだったから奇跡的に助かった。
でも、大士は割れた地面の亀裂に呑み込まれ、更にその亀裂が閉じてしまっている。
落下で生きていたとしても、その後の地面の閉じる圧力は数百トンから数千トンに及ぶだろう。
生身の大士が生きていられるはずが無かった。
その現実を認識した時、
「あっ…………うあっ…………あああああああああああああああああああっ!!??」
私は泣き声を上げる。
「やっと………! やっと自分の心と向き合おうと思ってたのに…………! こんなの………! こんな別れ方って無いよっ……………!」
大士が消えた亀裂に縋り付く。
その時、
「……………………よくも………」
今まで黙って俯いていた優花がゆっくりと立ち上がった。
「……………ッ! よくも大士をぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
顔を上げた優花の目からは涙が流れ続けている。
優花はボルトモンを見据え、背中の槍を掴むと思い切り振りかぶって全力で投げつけた。
付加された炎が槍を包み、ボルトモンに直撃して爆煙に包む。
「うぁあああああああああああああああああああっ!!!」
優花は止まらずにありったけの苦無と手裏剣を投げつけた。
少しして手持ちの武器を全て投げつけると、
「はぁ………はぁ………はぁ…………」
優花は肩で息をしていた。
ペース配分も考えずに全力で投げつけたからそうなるのも当然だ。
優花はまだ煙が上がっている着弾地点を見つめる。
やがて煙が晴れていき…………………
無傷のボルトモンがそこに佇んでいた。
優花は涙を流し続けながら悔しそうに歯軋りをして、
「畜生………………畜生っ!!」
言葉使いが汚くなっているが、それだけ本当に悔しいんだろう。
ボルトモンはゆっくりとバトルアックスを持ち上げ、大きく振りかぶった。
「トマホークシュタイナー………!」
そのバトルアックスが剛腕によって投げつけられた。
単純なバトルアックスの投擲に見えるそれ。
でも、それは生半可な力では止められない、究極体の必殺とも言うべき攻撃。
例え今出来る全ての防御方法を構築したとしても、その全てを紙の如く切り裂いて、あの攻撃は私達に届くだろう。
「こんな………所で…………!」
最後の足掻きと言わんばかりにボルトモンを最後まで睨み付ける優花。
「葵!」
私を護ろうと前に立ちはだかるリュウダモン。
数瞬後には、この場にいる全員の命が奪われるだろう。
その瞬間、最後に思い浮かんだのは………………
黒い騎士様ではなく、大士だった………………
「………………………ッ!」
私は自然と笑みを浮かべた。
最期の最後に本当の想いが偽りの想いを超えることが出来た。
だから私は口にする。
「大士…………………………大好き………………!」
その瞬間、回転しながら飛んできたバトルアックスが私達に襲い掛かった。
そして………………
ガィィィィィィン!とけたたましい音が鳴り響いた。
そして来るはずだった絶対の『死』はいつまで経ってもやってこない。
「………………………えっ?」
私は声を漏らす。
「…………………これは?」
優花も呆然とした声を漏らした。
私が目を開けて前を向くとそこには私達を護るように空中に光で描かれた魔法陣が浮かび上がっていた。
でも、その魔法陣はこのトータスに存在する物じゃない。
存在する物じゃない。
全く別の、デジ文字で描かれた魔法陣だった。
弾かれたバトルアックスがボルトモンの手に戻っていく。
すると、私達を護っていた魔法陣が消え、その瞬間、地面の亀裂から光が溢れた。
「何だ!? この光は!?」
リュウダモンが警戒する。
溢れる光が地面を粉砕し、光によって岩が巻き上げられる。
溢れる光と共に、何かが地下から上昇してきた。
その姿が徐々に露になっていく。
まず見えたのは光の勢いによって上に向かって靡く裏表で色の違う青と白のマント。
背中にあるV字の突起。
金の縁取りがされてある黒の重厚な鎧。
そして4mほどもある身長。
その姿は紛れもなく、私の記憶にあり、私の想いを支配していたあの黒い騎士の姿だった。
光が収まり、その黒い騎士は私達の前に降り立った。
「あなたは……………?」
私は思わず問いかけてしまう。
その黒い騎士は、首を少し動かして視線だけを私達に向けると、
「俺の名は、アルファモン」
「アルファモン…………」
私は自然とDアークに視線を移す。
「アルファモン 究極体 ワクチン種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『聖剣グレイダルファー』と『デジタライズ・オブ・ソウル』………」
私はDアークに表示された情報を読む。
アルファモンは私達から視線を外し、ボルトモンを見据えると前に歩き出した。
私がその背を見ていると、
「葵、もしかしてあのデジモンが………?」
私から話を聞いていた優花が気付いたのか、そう問いかけてきた。
「うん……………あれが昔、私を助けてくれた黒い騎士………」
「やっぱり…………でも、どうしてここに………?」
「それは………わからないけど………」
あのアルファモンはボルトモンには負けない。
そんな確信があった。
アルファモンが一定の距離に近付くと、ボルトモンは再びバトルアックスを振りかぶり、アルファモンに向けて投げ放った。
でも、アルファモンは左手を前に突き出すと、そこに私達を護ってくれた魔法陣と同じ魔法陣を発生させると、微動だにせずにそのバトルアックスを防ぎ、弾き返した。
アルファモンはその魔法陣を消すと同時に左手を下げた。
そして、
「うおおおおおおっ!」
右手にエネルギーを集中させながら前に突き出すと魔法陣が展開される。
「デジタライズ・オブ・ソウル!!」
その魔法陣から緑色の光弾が放たれ、ボルトモンの肩に当たると体の破片を撒き散らせながら後ろに後退する。
かなりのダメージは与えたようだけど、それだけでは致命傷には至らない。
だけど、それが秒間数十発という速度で無数に撃ち放たれれば話は別。
無数に撃ち放たれる光弾は、抗おうとするボルトモンを無意味とばかりに貫き、砕き、瞬く間に粉砕していく。
数秒後にはボルトモンは完全に跡形もなくなり、身体の破片だけが地面に散らばった。
「…………………究極体を瞬殺かよ…………」
南雲君が香織とユエに肩を貸して貰いながら私達の所に歩いて来て呆然と呟く。
南雲君の体には無数の怪我があり、ヒュドラとの戦いがいかに激しかったかを物語っている。
更に南雲君の右目は失われており、香織が治癒を続けているけど、神水でも治すことは出来ない。
それでも意識はハッキリしており、受け答えも出来る。
ボルトモンの残骸がデータに分解されたのを確認すると、アルファモンがこちらを振り向いた。
南雲君は警戒を解かずに手に持ったドンナーを握りしめる。
すると、アルファモンはゆっくりとこちらに歩いてくる。
「味方………で、良いのかな?」
香織が呟く。
「………わからない………警戒はしておくべき………」
ユエも警戒は解かない。
ガシャッ、ガシャッと鎧特有の足音を響かせながら私達に歩み寄ってくる。
そのまま私達の2mほど手前で立ち止まると、私達を見渡し、
「……………無事か?」
そう問いかけてきた。
その問いに私達は沈黙する。
南雲君達は敵か味方か分からないからだと思うけど、私の理由は違う。
アルファモンを直接見た所為か、再び偽りの想いが大きくなり始めて、それを抑えるのに必死だったから。
だけど、
「……………どうして………?」
優花が呟いた。
「………どうしてもっと早く来てくれなかったの…………!?」
優花の言葉は責めるような声色だ。
優花は涙を浮かべ、
「あなたがもっと早く来てくれれば…………大士は………大士はぁ…………!」
その名を口に出す。
優花自身それが八つ当たりだと分かっている。
やり場のない思いを目の前のアルファモンにぶつけているだけ。
その思いを痛いほどに理解できる私は俯く。
正直、目の前にいるのがアルファモンじゃなかったら、きっと私も同じ事をしてたと思う。
今の私は大士を喪った喪失感と、アルファモンに再び会えたという偽りの喜びの感情がせめぎ合って何も言えない。
その時だった。
『大丈夫だ…………!』
「「「「「「ッ!?」」」」」」
その声に私は思わず顔を上げた。
その声は紛れもなくもう二度と聞けないと思っていた声。
優花は目を見開き、南雲君達も驚愕の表情を浮かべている。
私達の視線が集中すると、アルファモンは光に包まれて徐々に縮んでいく。
それはまるで、ドルモンやリュウダモンが退化する時の光景にそっくりだった。
その光はやがて二つに分かれ、人の形と獣の形を取る。
そして光が消えると、
「俺は………ここにいる………!」
大士とドルモンがそこにいた。
「た………大士……………?」
優花が呆然と呟く。
「ああ」
大士は頷く。
「ど、如何なってるの………?」
香織が困惑しながら呟くと、
「アルファモンは、俺とドルモンが一つとなって究極体に進化した姿だ」
その言葉を理解するのに私は少し時間がかかった。
アルファモンは…………大士とドルモンが進化した姿…………?
私が運命を感じたのはアルファモンで……………
でも、私が自分の意思で好きになったのは大士で………………
だけど、アルファモンも実は大士(+ドルモン)で……………?
結局私は、同一人物の別の姿の間で葛藤していた…………?
「……………………ッ!」
それを理解した瞬間、私の心は完全に
運命を感じたアルファモンへの想いと、自分自身で好きになった大士への想い。
それらは片方に抑え付けられながらも、膨らみ続け、片方もそれに負けじと更に膨らむ。
そうして片方を抑え、抑えられ続けられて来た想いはこれ以上無いほどに高まっている。
そして今、その競うように高まっていた想いが同じ人へと向いていたと知った。
今まで互いに溢れないように塞き止められていた想いが、抑えつけられていた反動と、別方向を向いていた想いが同じ向きを向いた事も相まって相乗効果を生み、濁流となって私の理性を心の彼方へ押し流す。
溢れる想いが爆発する、炸裂する。
そんな月並みの言葉では言い表せないほどに彼を求める衝動が私の体を突き動かした。
次の瞬間、
「…………大士っ!!!」
私は彼に向かって飛び掛かっていた。
【Side Out】
進化を解いて、アルファモンが俺とドルモンの究極進化である事を説明した時、
「…………大士っ!!!」
突然葵が飛び掛かってきた。
「おわっ!? 葵っ……………って!」
俺は突然の事に支えきれずに後ろに倒れ、床に背中を打ち付ける。
「ッ~~~~~~~!? あ、葵っ!? いきなり何するんむっ………………!?」
いきなり押し倒された俺は、飛び掛かってきた葵に少し文句を言おうとして口を開いた瞬間、口を塞がれた。
「!?!?!?!?!?!?!?」
俺は何が起きたか一瞬分からなかった。
目の前には、視界一杯に広がる目を瞑った葵の顔。
塞がれた口には柔らかい感触。
葵に押し倒されながらキスをされている状況を理解するのにしばしの時間を要した。
「ッ!!!!????」
その事実を理解した瞬間、猛烈に頭に血が上り、顔が熱くなるのを感じる。
更には葵の舌が俺の口の中に割り込んで来て舌を絡めとる。
「んぐっ…………!?」
初めての感覚に俺が戸惑っていると一旦唇が離れて葵が俺を見下ろす。
その顔は上気していて、乱れる息と相まって妙にエロい。
葵は、はぁ、はぁと数回息を整えると、
「………………好き!」
真っ直ぐに俺を見下ろしながらそう言った。
「えっ……………?」
その言葉に俺は理解が追い付かず、呆けた声を漏らす。
しかし、葵はそのまま、
「好き……………大好き!!」
再びその言葉を口にして俺と唇を合わせてくる。
俺が驚愕と困惑と興奮に混乱していると、
「か、神代…………?」
「あ、葵ちゃん…………!?」
「アオイ…………大胆…………」
「葵……………」
「わ~…………」
「あ、葵…………?」
近くから困惑した声が聞こえてくる。
だが、葵はそんな声など聞こえていないように俺の唇を貪るように吸っている。
突然の葵の行動に思考停止していた俺の頭が徐々に再起動してきて、俺は漸く我に返った。
俺は葵の両肩を掴んで強引に引き離し、上半身を起こす。
「…………ッ! あっ…………」
唇が離れる瞬間、葵は寂しそうな声を漏らした。
俺は息を整え、
「はぁ………はぁ………落ち着け、葵!」
うるさく鳴り響く心臓を落ち着けながら、葵にそう言う。
「えっ…………?」
葵は困惑した表情を見せる。
「一体どうしたんだ? 俺にいきなり………その…………こんなことをするなんて………?」
俺はそう問いかける。
「えっ? だって私、大士の事が好きだから」
葵は、何を当然のことを?と言わんばかりにきょとんとしていた。
「いや………だからそこからおかしいだろ!? 葵には好きな相手が居た筈だろ!? ほら、例の黒い騎士様みたいな人が……………?」
俺がそう言うと、
「その黒い騎士様って言うのが、あなたが進化したアルファモンだったのよ」
そう答えたのは優花だった。
葵の変わりように驚いたのか、頭を軽く押さえている。
「えっ?」
その言葉に俺は声を漏らした。
「6年前に葵は、アルファモンにデ・リーパーから助けてもらった事があったらしいわ。覚えてない?」
優花の言葉に俺はそれらしき思い当たる記憶があった。
「それって………東京がデ・リーパーに占拠された時に、個人的に街を見回ってデ・リーパーに襲われてた人を助けたことが何回かあったけど…………その時か?」
「おそらくね。葵はその時に運命を感じたらしいわよ? で、更に言えば、この迷宮探索の中で葵は大士自身にも好意を持ってたらしいわ」
「はい?」
「思い出のアルファモンと現実の大士との間で揺れ動く想いに葵は悩んでたみたいだけど、それがどっちも同じ人だったから、抑えつけられていた想いが一気に解放されて箍が外れちゃったんでしょうね」
優花はそう言って溜息を吐く。
「大士………♪」
葵は嬉しそうな声で俺の名を呼んで顔を近付けてくる。
「だ、だからちょっと待った!!」
俺は再び引き離す。
「葵! いいか!? お前の気持ちは恐らくつり橋効果って奴だ! だから落ち着け! なっ?」
俺は迫ってくる葵を落ち着かせようとそう言うが、
「大士、アルファモンへの想いはそうかもしれないけど、葵のあなた自身への想いは、この迷宮探索の中で葵自身の心が培ってきたものよ。それは否定しないで………!」
優花が少し怒ったような表情でそう言って来た。
「優花………?」
「葵は間違いなく大士の事が好きなの。その想いを受け入れるかどうかは大士次第だけど、否定はしないで」
「………………!」
俺は葵を見る。
葵は上気した顔で俺を見つめ続けている。
明らかに恋する乙女の顔なのだろう。
「…………………わかった、否定はしない。だけど、今はちょっと待ってくれ。いきなり過ぎて戸惑ってるし皆の前だ。それに皆も戦いが終わったばかりで休息が必要だ」
俺がそう言うと、
「うん、わかった。大士が言うなら我慢するね」
葵は笑みを浮かべてそう言った。
思った以上にあっさりと納得してくれたことに少し呆気にとられた。
【Side ??????】
―――
―――脅威度を最大レベルへ上方修正
―――これより情報の収集を優先する
【Side Out】
あの後、白崎さんの治癒魔法と神水で全員の治療をした後、開いた扉の先へ足を踏み入れた。
そこは今までの洞窟の様な迷宮とは違い、明らかに自然に近い環境が整えられていた。
「ここが………反逆者の住処?」
俺達が周りを見渡すと、屋敷の様な建物が見えた。
一先ず屋敷の周りを探索すると、裏庭に風呂を見つけた。
「まんま、風呂だな。こりゃいいや。何ヶ月ぶりの風呂だか」
ハジメの言葉に、女性陣は顔を輝かせる。
水で身体を拭くぐらいはしていたが、やはり風呂には入りたかったのだろう。
そこに、
「……入る? 一緒に……」
ユエがすかさず提案する。
その言葉に白崎さんがムッと顔を顰めるが、
「1人でのんびりとな?」
「むぅ………」
ハジメがそう言うと、ユエは剥れた。
そのまま屋敷内の探索に入るが、扉の殆どは封印されており、ハジメの錬成でも開けることは出来なかったので仕方なく上の階の探索を先に行う。
すると、3階にそれはあった。
3階には一部屋しかなく、直径7、8mの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれており、その奥に椅子に座ったまま白骨化した躯があった。
「……怪しい……どうする?」
ユエが呟くと、
「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。皆は待っててくれ。何かあったら頼む。」
「気を付けてね、ハジメ君」
白崎さんは心配そうに声を掛ける。
ハジメはそれに微笑んで応えると、魔法陣の中央に足を進めた。
魔法陣が光り輝くと、ハジメの前に黒衣の青年が立っていた。
若干ぼやけたような光を纏っており、よく見れば半分透けている。
『試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』
「あいつが………反逆者………?」
パッと見た感じ優しそうな雰囲気を持つ青年で、反逆者と言われるような男性には見えない。
『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを』
そこで語られたのは、聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされており、人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。
領土拡大、種族的価値観、支配欲など様々だが、その一番は〝神敵〟だから。
今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。
その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。
それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。
それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。
そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。
何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。
〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集め、神に反旗を翻した。
彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止め、〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人を中心に、彼等は神々に戦いを挑む。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。
何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。
結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。
最後まで残ったのは中心の7人だけだった。
世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。
そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを』
オスカーは微笑みながらそう言うと、そのまま記録映像はフッと消えた。
それと同時にハジメが頭を押さえる。
先程言っていた『力』を授けられているんだろうか?
魔法陣の光が収まると、ハジメはゆっくり息を吐いた
「ハジメ、大丈夫か?」
俺はハジメに声を掛ける。
「ああ、平気だ……にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」
「どうするの?」
白崎さんがそう聞くと、
「うん? 別にどうもしないぞ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるのか?」
余りにもバッサリと切り捨てた言い方に俺は少し力が抜けたが、まあ、言っていることはおおむね間違ってはいない。
俺も実際今の所この世界の為に命を賭けようとは思えないしな。
それでもハジメは念のためにこの世界の住人であるユエに意見を聞いた。
ユエは僅かな躊躇も無く首を横に振った。
「私の居場所はここ……他は知らない」
ユエはそう言い切った。
「……そうかい」
ハジメは軽く微笑むと、
「あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだ」
「……ホント?」
「何かこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る? みたいな」
「だ、大丈夫なの?」
白崎さんが心配そうに尋ねるが、
「おう、問題ない。しかもこの魔法……俺のためにあるような魔法だな」
ハジメは平気そうな表情でそう言う。
「……どんな魔法?」
「え~と、生成魔法ってやつだな。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ」
「それって、アーティファクトが作れるようになったって事か?」
俺はその言葉からそう推測した。
「ああ、そういうことだな。皆も覚えたらどうだ? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」
「……錬成使わない……」
「まぁ、そうだろうけど……せっかくの神代の魔法だぜ? 覚えておいて損はないんじゃないか?」
「……ん……ハジメが言うなら」
「まあ、一応?」
それぞれが魔法陣の中に入る。
生物として根本的に違うドルモンやリュウダモンは当然ながら覚えられなかったのだが、俺と葵さんは試練を突破したとは認められなかった。
まあ、基本的に戦いはパートナーや皆に全部任せてるようなもんだし。
優花やユエ、白崎さんは覚えることは出来たのだが、ハジメほどの適性は無い様だ。
まあ、オスカーの長話が再び始まった事に、ちょっと台無し感があったが。
しかし、俺は少し気になることがあった。
「大士? どうかしたの?」
俺の様子に気が付いたのか、葵が声を掛けてくる。
「ん? ああ、少し気になると言うか…………単なる可能性の話なんだが……………」
「可能性?」
優花も首を傾げる。
「狂った神………つまりエヒトって、俺達を地球から召喚したんだよな?」
「そう言われてるわね」
俺の言葉に優花が頷くと、
「って事は、エヒトって地球に干渉出来るって事じゃないのか?」
「「「「ッ!?」」」」
俺の言葉に地球出身者達が息を呑む。
「あと、デジタルワールドに関する何かもこの世界にあると俺は考えている」
「そう言えば、さっきもデジモンが現れた………!」
ドルモンの言葉に俺は頷く。
「ああ、メガドラモンとギガドラモンまでならまだ偶然で片付けることも出来た。だが、その直後にボルトモンが現れたことは明らかに異常だ」
地球ですらデジモンがリアルワールドに迷い込むことは稀だったのに、この世界でほぼ同時に2回デジモンが現れることはまずあり得ない。
「少なくとも、普通ではない何かが起こっていることは確かだ………」
スーツェーモンが配下であった
「つまり大士が言いたいのは、もしこの世界の神をほっといて地球に帰っても、いずれ地球にも干渉してくるかもしれないと………?」
「あくまで可能性だけどな? もし干渉してきたとしても、俺達が生きている間に干渉してくる可能性はかなり低いんじゃないか?」
「チッ………なるほど…………少なくとも俺達を召喚したんだ。その神が他の世界に影響を与えることを全く気にしてねえのは明らかだしな………」
ハジメはそう言うと、
「まあごちゃごちゃ考えるのは後回しだ。先ずは地球へ帰る方法を見つける。神をどうするかはその時に決めれば良いだろ?」
「…………それもそうか」
「先ずは1つの目標に向かって動くって事だね?」
ハジメの言葉に皆が同意する。
すると、
「あ~、取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」
「ん……畑の肥料……」
「いや、せめて埋葬と言えよお前ら」
慈悲の無いハジメとユエの言葉に俺は思わずツッコんだ。
オスカーの躯を畑の肥…………畑の片隅に埋葬した俺達は、館の探索を再開した。
オスカーの躯が付けていた指輪によって扉の封印が解けるようになり、探索の幅が広がったからだ。
まず、書斎では俺達の一番の目的である地上への脱出の方法が書かれた資料が見つかった。
先程の魔法陣がそのまま地上への転送陣となるらしい。
指輪が無ければ機能しない様だが。
更に他の迷宮を攻略すれば、創設者の神代魔法が手に入る事も書かれていた。
その中に、地球に帰る事が出来る魔法があるかもしれないという事で、俺達の次の目的は他の七大迷宮の攻略と定めた。
この部屋の他にも、工房や倉庫などがあり、それらは錬成師であるハジメにとって宝の山だった。
それを見て何か考え込んでいたハジメが口を開いた。
「う~ん、なあ皆………しばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」
ハジメの提案に、
「確かにここならハジメの錬成で色々な武器や便利な道具が作れそうだからそれもアリだと思うし、食料も結構自生してるものがあるから俺や葵たちでも暫くは困ることは無さそうだし、俺は構わないが?」
「大士が良いなら私も良いよ!」
俺の案に即答で賛成する葵に少し心配になる。
「……………私も良いわよ。どうせならバイクとか自動車とか、武器だけじゃなく便利な移動手段とかも作ってくれるとありがたいわ」
優花もそう言う。
「私はハジメ君のやりたいことを応援するよ!」
「……ハジメと一緒ならどこでもいい」
白崎さんとユエも賛成の様だ。
こうして、俺達は今しばらく奈落の底に留まる事になった。
【Side ハジメ】
その日の晩。
ユエが話があるという事で、俺と香織は寝室でユエと向き合っていた。
「…………で? 話しって言うのは何だ? ユエ」
俺がそう聞くと、ユエは真っ直ぐに俺の方を向き、
「ハジメ…………私はハジメの事が好き………」
そう告白してきた。
「ッ~~~~~~! はぁ………………」
その告白に一瞬恥ずかしくなるが、大きく溜息を吐く。
「なあユエ? お前の好意には気付いていたし、その気持ちは正直嬉しい。でも、俺にはもう香織って言う心に決めた奴がいるんだ…………だからお前の想いには………」
答えられない。
そう言おうとした時、
「分かってる…………! ハジメの一番はカオリ…………悔しいけど、それは変わらない………」
「だったら…………」
「でも……………! だからカオリにお願いがある…………!」
ユエを決意をした目で香織を見た。
「何かな………? ユエちゃん」
香織はまるで言われることが分かっているかのように堂々と聞き返した。
「…………私を………ハジメの傍に居させて欲しい…………!」
「…………………!」
その言葉に香織は目付きを鋭くしてユエを見つめる。
「お、おいユエ? 何言って………!」
「私はハジメが好き………! カオリからハジメを奪う事も考えた………! だけど…………今は奪いたくない……………もし奪えばカオリが悲しむ…………私はカオリが悲しむ所も見たくない……………私は………カオリの事も好きだから……………」
「ユエちゃん…………」
「一番はカオリでいい………! 二番目でも構わない………! だから…………私をハジメの傍に居させてください…………!」
ユエは目に涙を浮かべながらそう言った。
「……………そうは言ってもな…………!」
俺は恐る恐る横目で香織の表情を窺う。
俺は香織が怒っていると思っていたのだが、その予想に反して、香織は優しい笑みを浮かべていた。
「ユエちゃん……………」
「カオリ……………?」
「私もずっと考えてたんだ…………ユエちゃんがハジメ君を好きな事は、ずっと前に分かってた事だから……………ユエちゃんはハジメ君を私と同じぐらい好き…………愛してる…………だから私も、ユエちゃんの気持ちは良く分かるよ…………それに私も、ユエちゃんの事が大好きだから…………!」
「カオリ…………それって……………」
「か、香織!?」
「ユエちゃんなら…………私は構わないよ」
香織は信じられないことを口にした。
「カオリ…………!」
ユエは感極まった声で香織の名を呟く。
「お、おい!? 本気か香織!?」
俺が思わず聞くと、
「私もユエちゃんが悲しむ所は見たくない。それに、ユエちゃんなら絶対にハジメ君を裏切らないって信じられるから…………………」
「…………………」
確かにユエなら俺を裏切る事など無いと断言できるだろう。
「で、でもいいのか!? 俺が他の女と……………!」
「他の女じゃないよ……………他の誰でもないユエちゃん………ううん、ユエだから良いの。ユエなら私と一緒にハジメ君を支えてくれる。そう確信してるから…………」
「カオリ……………約束する。絶対にハジメとカオリを裏切らない…………!」
「うん、これからもよろしくね、ユエ」
「よろしく、カオリ、ハジメ」
な、何か俺を差し置いて話しが纏まってしまったんだが…………?
すると、
「それはともかく、さっきちょーっと気になる言動があったんだけど?」
香織がにこやかな笑顔で、それでいて俺でも感じるほどの凄みを見せながらユエに迫った。
「さっき、ハジメ君を奪えばって言ったよね? それって、ユエがその気になれば私からハジメ君を簡単に奪えるって聞こえたんだけど………?」
香織のその言葉を聞くと、ユエはニヤリと笑い、
「そのつもりで言った…………私が本気を出せば、カオリからハジメを奪う事は簡単………」
その言葉で香織の眉がピクリ揺れる。
「へ~…………そんな幼児体系で私からハジメ君を奪えると思ってたんだ…………?」
香織はユエの小さな胸を見ながら胸を強調する様に持ち上げる。
魔物肉喰ってから更にスタイルが良くなったからな、香織は。
今度はユエの眉がピクリと揺れた。
「そんな脂肪の塊より、私の大人の魅力の前にハジメはメロメロ…………!」
「言ったわね~…………! そこまで言うなら試してみる…………!?」
「望む所……………!?」
そう言った2人の視線が同時に俺の方に向いた。
「あ、あの………お二方…………? 何故そんな獲物を狙う様な眼で俺ににじり寄ってくるんでしょうか………!?」
背中に悪寒を感じた俺は後退ろうとする。
しかし、
「逃がさない!」
「観念する………!」
香織とユエに同時に飛び掛かられ、衣服をはぎ取られていく。
「ちょ、まて、あっ、アッーーーーー!!!」
この日俺は、大人の階段を登ってしまった。
【Side Out】
ハジメでも誘って風呂に行こうとした俺は、ハジメに割り当てられた部屋の前でとんでもない声を聞いてしまった。
「あっ………やっ………………ハジメくっ…………んんんっ………………!」
「ハジメ…………私もっ……………!」
ノックしようとした手が扉の前で止まる。
「……………………………………」
いや、まあ、そういう事をしている自体には別に驚きは無い。
こんな生きるか死ぬかの瀬戸際で戦い続けてきたハジメや白崎さんにとって、性欲は溜まりに溜まっていただろう。
こうして一段落した今、そう言う関係になっても不思議ではない。
でも、何でユエまで一緒なんだよ!?
あれか!
彼女公認のハーレムか!?
俺に対する当てつけか!?
若干心の中で恨みの声が漏れたが、これ以上ここにいるのは色々と拙いだろう。
「はぁ…………風呂行くか…………」
俺はトボトボと風呂へ向かう。
因みにドルモンは進化の連続で疲れたのかもう部屋で眠っている。
俺は久々の風呂にゆっくりと浸かりながら考え事をしていた。
それは葵と優花の事について。
葵は信じられないが俺の事が好きらしい。
学園で『三大女神』と呼ばれていた葵が俺に惚れるなど天地が引っ繰り返ってもあり得ないと思っていたんだが、異世界召喚された先で惚れられるとは思って無かった。
葵は俺の事が好きで、俺も葵の事は好きだ。
それは間違いない。
ならさっさと付き合っちまえと言いたいだろうが、優花の存在が俺の心に歯止めをかけていた。
そもそも2人を好きになること自体が不純なんだろうし、葵から告白された今、優花の事はスッパリ諦めて葵と付き合えば良いのかもしれないが、優柔不断な事に、俺は葵と優花、2人の事が同じぐらい好きなのだ。
どちらかと付き合ってどちらかを諦める。
そんな選択を俺は選べなかった。
だから葵の想いに応えられないでいる。
俺は湯船の中に潜ると、息の続く限り潜ってから顔を出す。
「ああくそ! 我ながらここまで最低ヤローだったとはな…………!」
こんな俺が彼女達と付き合う資格なんかない。
世の中には俺よりいい男なんて腐るほどいる。
彼女達にはそう言う男達と一緒になった方が絶対幸せだ。
俺は前世と同じく独り身で居るべきなんだと思うことにした。
俺がそんな最低の決心をした時、何故かヒタヒタと足音が聞こえてきた。
「…………………ん?」
俺は何だと首を回すと、
「気持ちいい?」
一糸纏わぬ姿の葵がそこにいた。
タオルすら巻かず、その抜群のスタイルを惜しげも無く晒している。
「………………………………」
一瞬沈黙する俺。
次の瞬間、
「あ、葵何がぼごぼがぼ…………!」
叫ぼうとした俺は足を滑らせて湯船の中ですっ転んだ。
俺は慌てながらも立ち上がると、
「何やってるんだ!? 葵!!」
目を瞑りながら大声で叫んだ。
「一緒に入ろうと思って」
楽しそうな声でそう言う葵。
「い、一緒にって……………! と、ともかく俺は先に出るから!」
俺は極力葵の裸体を見ないように薄目を開けて湯船から出ようとする。
しかしその瞬間、
「待って! 大士!」
葵に後ろから抱き着かれ、密着する肌と背中に感じる二つの丸い膨らみの柔らかさが俺の身体を硬直させる。
「あ、あの………葵………さん…………? その………当たってるんですけど…………?」
俺は思わずさん付けで呼んでしまう。
「当ててるの…………! って言うのが普通なんだろうけど、大士を逃がさないためだよ…………!」
更にギュッと強く抱きしめられる。
「ッ~~~~~~~~~~~~~~~!!??」
俺はその感触に固まるが、
「……………真面目な話、大士とちゃんと話がしたいの…………!」
真剣な声色でそう言う葵。
その言葉に俺は幾分か落ち着きを取り戻した。
「ま、真面目な話なら風呂から出た後でも…………」
「ここじゃないとダメ」
俺の提案はあっさりと却下される。
俺は仕方なく再び湯船に沈み、葵の話を聞くことにした。
「…………それで、真面目な話って?」
「うん。私は、大士の事が好き。これは私自身の本当の想いだよ」
「ッ………!? あ、その…………あ、ありがとう…………」
面と向かって再び『好き』と言われた俺は恥ずかしくなってしまう。
「私と、結婚を前提としたお付き合いをしてください!」
『結婚』という言葉まで使って真っ直ぐにそう言った葵の姿はとても綺麗で思わず先程の決意が揺らぎそうになる。
「ッ…………………………!」
しかし、俺は俯くに留めた。
「……………………俺なんて、碌な人間じゃないよ」
「どうして?」
「…………その……………俺って結構スケベだし………」
「私、今すぐにでも大士に抱かれたいって思ってるよ?」
「……………誰かを幸せに出来るとは思えないし…………」
「私は大士と一緒に居られるだけで幸せだよ?」
「……………俺って面倒くさがりだから、基本的に必要最低限以外はやる気の無い人間だし…………」
「大丈夫! 私って、『大士に尽くし尽くすタイプ』だから!」
『俺に尽くし尽くすタイプ』って何だよ!?
「………………他にもいい男なんていくらでもいるだろ?」
「私って、大士には盲目的だから、他の男なんて目に入らないんだよ?」
「……………………………」
俺が他の言葉を探そうとした時、
「大士………大士は…………私の事嫌い?」
ストレートにそう聞いてきた。
俺は俯く。
「……………………………………………好きだよ」
俺は本音を呟く。
「じゃあ、どうして私を受け入れてくれないの?」
「…………………………………………好きだから…………俺みたいな最低ヤローと一緒に居るべきじゃないんだ………」
「最低って?」
葵は更に踏み込んでくる。
「……………………………確かに俺は葵の事が好きだよ…………………でも同時に………優花の事も好きなんだ……………!」
「……………………………」
葵は黙って俺の話を聞いている。
「2人を同時に好きになるだけでも最低なのに…………俺はどちらかを選ぶことすら出来なんだ………………どっちも同じくらい好きで……………どっちも手放したくないと思っている……………こんな最低ヤローが、お前達と居ていい筈がない…………!」
俺は全ての本音をぶちまけた。
俺は軽蔑された事を覚悟してもう一度葵の方を向いた。
すると、
「要するに大士は、私と優花のどちらかを諦める状況が嫌って事だよね?」
きょとんとした表情で、何でもないようにそう言った。
「あ、ああ………………そうだよ…………!」
そんな葵の表情に呆気にとられながらそう答えると、
「なら何も問題ないね!」
葵はあっさりとそう言った。
すると、俺の後ろの方に視線を向ける。
つられる様に後ろを向くと、
「あ…………た、大士………………!」
そこにはバスタオルを巻いただけの優花が立っていた。
恥ずかしそうに頬を染めながら顔を逸らしている。
「ゆ、優花…………!?」
俺は狼狽えた。
いつからそこに居たかは分からないが、おそらく先程の優花が好きだと言った言葉は聞かれているだろう。
「あ………その………優花…………俺は…………!」
何て言ったらいいか言葉が出てこない。
「待って! 何も言わないで!」
優花の叫びに俺は言葉を止められる。
これは嫌われたな…………
そう思って居ると、優花は呼吸を整え、
「大士…………」
呼ばれたので優花の顔を見る。
すると、
「大士……………あなたが好きよ」
「……………えっ!?」
思い掛けない言葉に俺は声を漏らした。
「だから、あなたの事が好きって言ったの! 何度も言わせないでよ…………!」
「ちょ…………ま、何で……………?」
「理由が無きゃ好きになっちゃいけないの!? 仕方ないじゃない! 好きになっちゃったんだから……………!」
優花はそこまで言うと恥ずかしそうに俯く。
「大士が亀裂に呑み込まれた時、私気付いたの…………大士は私にとって無くてはならない存在だって……………!」
「優花……………」
すると、葵がニッコリと笑って、
「これで何も問題ないよね?」
「え? ちょ、どういう事だよ!?」
余りの展開に俺はついて行けない。
「どういう事って? 私は大士の事が好きで大士も私の事が好き。優花も大士の事が好きで、大士も優花の事が好き。何か問題でも?」
「いやいや! 問題大ありだろ!? 俺がお前達2人と付き合うって、どっちにも失礼だろ!?」
「えっ? 私は問題無いよ。これは私達2人で決めたことだし…………」
「私も………相手が葵なら許せるわ…………他の女は絶対ダメだけど…………」
「いや、でも、日本じゃ結婚は1人だけって決まってるだろ!?」
「別に無理に結婚しなくてもいいんじゃないかな? 最終的に私達3人で同居すればいいんだし。最悪私は使用人扱いで愛人にでもしてくれれば…………」
葵がそう言った時、
「待ちなさい! 言ったはずよ、正妻はあなた! 愛人は私よ!」
優花が割り込んでそう言う。
「優花………でも、私は気にしないよ?」
「私が気にするわよ! いい? アンタは実質6年以上も大士を思い続けてきたのよ? それをぽっと出の私が正妻を堂々と名乗れるわけないじゃない!」
「優花……………」
「それに、大士ならどっちかを特別扱いするなんて…………ううん、どっちも特別扱いしてくれるわよね?」
「そ、それは………まあ……………」
話が急すぎて返事が曖昧になってしまう。
「じゃあ、そう言う事で改めて……………」
そう言うと葵が近寄ってきて右腕に抱き着く。
「あ、葵!?」
肌の温もりと柔らかな感触を直に感じる。
優花が湯船に入ってきて左腕に抱き付き、
「女の子にここまでさせて何もしないなんて事、無いわよね?」
同じように密着してくる。
「えっ…………そのっ…………………2人ともっ……………!?」
迫る2人に俺は押し切られ、
「ア―――――――――――――――――ッ!!!」
この日、俺は前世含めて約50年続けた童貞を卒業した。
第12話の完成。
確実にタイトル詐欺になったな。
タイトルの割にアルファモンが最初しか出ていない。
ボルトモン相手にあまり時間を掛け過ぎるのもあれだと思ったのもありますが。
亀裂から光が溢れた瞬間にテイマーズ究極進化のBGM『one vision』が始まる感じです。
1コーラスで止めまで行く流れです。
そしてアナライズ機能を使われなかったボルトモンのデータをここで紹介しておきます。
『ボルトモン 究極体 データ種 サイボーグ型デジモン。必殺技は『トマホークシュタイナー』
以上です。
後は葵の好感度が限界突破したり、ハジメと大士がリア充爆発しろしたりです。
とまあ、最初の山場までサクサク来れました。
あと、今週まで(自分にとって)異常な投稿スピードで出来ましたが、おそらく来週からは週一に戻ると思います。(コロナ対策で仕事が半分だったので)
では、次も頑張ります。