ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第36話 ありふれた膠着

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

アルファモン達に敗北した倉田は、とある研究室でモニターに向かいながらキーボードに指を走らせていた。

 

「くっ! 何なのですか! あいつらのパワーは………! バーストモードを使った様子も無いのに、その力はバーストモード並です………!」

 

悪態を吐く倉田の視線の先のモニターにはアルファモン、オウリュウモン、ジエスモンの3体が映し出されている。

 

「特にこの2体………何処となく他のデジモン達とは違う感じがするのは気の所為でしょうか………? 気になりますね…………」

 

倉田はキーボードを操作し、アルファモンとオウリュウモンを拡大する。

倉田は一旦息を吐き、心を落ち着かせる。

 

「もしこのデジモン達の強さの秘密が明らかになれば、『アレ』にも更なる力が与えられるかもしれません………」

 

クイッとメガネの位置を直す倉田。

怪しく光るメガネが向いた視線の先には、一際大きなガラス製のシリンダーと、その内部に静かに浮かぶ、大きなタマゴの形をしたモノがあった。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎街道での戦いから2週間後。

女王サマは『聖戦』を止めるべく、一旦トリステインに帰国した。

一方ロマリア軍は、ガリアの両用艦隊とガリア各地の諸侯達の反乱により、スムーズに進攻することが出来ていた。

まあ、結構前から根回しをしていたんだろう。

明らかにタイミングが良すぎる反乱だ。

現在は、ガリア南西部に位置し、王都リュティスから400km程離れた中規模の城塞都市『カルカソンヌ』まで攻め込んでおり、カルカソンヌの北を流れるリネン川を挟んでガリア軍9万と睨み合う状態が続いている。

既に3日ほどにらみ合いが続いているが、その間、相手を罵倒する言葉が飛び交っていた。

 

「おーい! ガリアのカエル食い! 聞こえるかぁ!?」

 

「聞こえるぞ! 腐れ坊主共!」

 

「お前の国は、ホントに不味い物ばっかりだな! パンなんか粘土みたいな味がしたぜ! おまけにワインの不味さときたら! 酢でも飲んでる気分だな!」

 

「坊主の口には勿体ねぇ! 待ってろ! 今から鉛の玉と、炎の玉を食わせてやるからな!」

 

「おいおい! 怖気づいて川1つ渡れねえ野郎が良く言うぜ!」

 

「お前達こそ泳げる奴が居ねえんだろ!? いいからとっとと水練を習ってこっちに来やがれ! 皆殺しにしてやる!」

 

罵詈雑言が飛び交う。

俺達は安い挑発の応酬だと思っていたのだが、そこは沸点の低い貴族達。

あれよあれよという間に、川の真ん中にある中州で一騎討ちの決闘が始まった。

勝った者が自軍の軍旗を立て、自軍の士気が上がり、負けた方は悔しがり、すぐに次の挑戦者が現れるといった具合だった。

原作では、酔っぱらったギーシュが決闘に参加しようとして、それを止めようとした才人が済し崩し的に決闘することになり、10人以上の貴族を抜く一大イベントとなった訳だが、ギーシュ達水精霊騎士団だったメンバーはこの場に居ないため、俺には決闘には出る理由も、必要も無いと思っていた。

そう思っていると、わっ、とガリア側の兵士達が湧きたつ。

見れば、再びガリア側の貴族が勝った様だ。

 

「中々やるわね。今ので6人目かしら?」

 

士気が上がっていくガリアに対し、ロマリア軍の士気は駄々下がりだ。

まあ、ロマリア軍の士気がどれだけ下がろうとも、俺達には関係ないと思っていたのだが………

 

「………ねえ………もしかしてあれって………」

 

葵が何かに気付いたように、中州に向かおうとする小舟を指差した。

そして、その小舟の上には、見覚えのありすぎる青年と、黄色い爬虫類型のデジモン。

 

「………マサルとアグモン」

 

やっぱりかぁ~~~~!!

 

「何やってんだよ!?」

 

俺は思わず駆け出す。

デジソウルで脚力を強化して跳ぶと、そのままダイレクトで小舟の上に着地した。

その衝撃で小舟が激しく揺れて、船頭が必死に転覆しないように操船していたが、

 

「何やってんだよマサル!?」

 

俺はマサルに問いかけた。

 

「おう、大士じゃねえか! やっぱ見てるだけなのは性に合わねえと思ってな。体が疼いて仕方ねえぜ!」

 

マサルは暢気にそんな事を言う。

根っからの喧嘩番長なマサルには、見ているだけなのは我慢できなかったんだろう。

 

「下手に活躍したら、功績利用されるの分かってんのか?」

 

「その辺の難しいことはお前に任す。俺もそろそろ暴れたりねえと思ってた所だしな」

 

「お前………」

 

俺は呆れた声を漏らす。

まあ、確かにマサルならこの程度の相手如何って事は無いだろうが。

なんやかんやしているうちに、小舟が中州に到着する。

すると、船に乗っていた俺達を見て、

 

「なんだ? 勝てぬからといって、今度は2人か? 使い魔まで連れ出しおって。 流石は臆病者のロマリア人だけのことはあるな!」

 

煽り口調でそんな事を言ってくる。

 

「心配すんな! 相手は俺だけだ! あと、ロマリアとは関係ねぇ!」

 

マサルが握り拳を作ってそう言い返す。

 

「何だ? どこぞの傭兵か? ロマリアの腰巾着め! よおしかかって来い! ガリア花壇騎士、ピエール・フラマンジュ・ド・ソワッソンが相手をしてやる!」

 

ピエールと名乗った貴族が杖を構えて名乗りを上げると、

 

「日本一の喧嘩番長! 大門 マサルだ!」

 

マサルもそう名乗り返した。

 

「ヘンな名前だな。まあよい。いざ!」

 

相手の貴族は風の刃を放つ。

だが、マサルは臆することなく駆け出し、風の刃を躱しながら拳を振り被る。

 

「おらぁっ!」

 

マサルは拳を繰り出すが、相手の貴族はふわりと浮かびながら拳を躱すと、間合いを離す。

距離を離しながらちまちまと魔法で攻撃してくる相手に対し、マサルは思うように攻撃できないでいた。

だが、マサルは一旦足を止め、一度大きく深呼吸すると目を見開き、駆け出した。

相手の貴族は、マサルの足を止める為にマサルに対して氷の矢を放つ。

しかし、マサルは真っ直ぐに駆け抜ける。

氷の矢がマサルの額を貫くと思われた瞬間、マサルは首を傾けてその氷の矢を躱した。

 

「なっ!?」

 

今のタイミングで躱されると思っていなかったのか、相手の貴族は驚愕で一瞬動きを止めてしまった。

そして、それが勝負の分かれ目だった。

 

「はぁあっ!!」

 

貴族の男の腹に、強烈なボディブローが突き刺さる。

 

「ぐふぁっ!?」

 

貴族の男は大きく息を吐き出すと、白目を剥いて気絶してしまった。

 

「流石だな………」

 

相手もかなりの手練れだったが、デジタルワールドで5年も生き抜いてきたマサルの方が上手だったようだ。

 

「よっと」

 

マサルが立てられていた軍旗を引き抜き、

 

「ほらよ」

 

相手側の船の船頭に投げ渡した。

続いて、こっち側の船頭が軍旗を持ってマサルに立てるように渡そうとするが、

 

「そんなものはいらねえよ」

 

マサルはそう言って断る。

 

「ロマリアもガリアも関係ねぇ! 俺は喧嘩番長、大門 マサル! 俺からこのシマを奪いたい奴は、どっからでも掛かって来い!!」

 

なんかとんでもないことを言い出した。

単純に溜まっていた鬱憤を、暴れて吐き出したかっただけの様だ。

そんなマサルに対し、ガリアは元より、ロマリアからもマサルの物言いに我慢できずに決闘を吹っ掛ける貴族が出てきた。

まあ、どちらも全員一撃で沈められていたが。

合計で30人近い貴族を沈めたマサルは、

 

「ふう、スッキリした。やっぱり喧嘩は良いもんだな!」

 

マサルが満足気な声で笑う。

1人も殺していないのは当然だが、それらを全て拳一つで決めたのも大概である。

マサルがそろそろ終わるかとぼやき始めた時、ガリア側から1人の貴族が現れた。

鉄仮面を被り、粗末な革の上衣を着こんだ見ずぼらしい格好をしている。

一応マントをしているようで、貴族な事は確かなようだ。

そこで、俺はふと原作知識を思い出した。

俺の記憶が確かなら、こいつは確か………

 

「………マサル、こいつは俺に相手させてくれ」

 

「大士?」

 

「頼む」

 

「…………わかった、任せる」

 

俺はこの鉄仮面の相手を代わって貰うようにマサルに頼んだ。

マサルは少し怪訝そうな顔をしたが、俺の頼みに頷いた。

俺は鉄仮面の前に出る。

 

「突然だが選手交代だ。あんたの相手は俺がしよう」

 

俺はそう言いながらデルフを右手に呼び出す。

 

「よう相棒。いつから歌劇の主役を張るようになった? 大した観客じゃねえか」

 

「まあ成り行きでな。とりあえず、相手は一流だ。気を抜くなよ」

 

相手は黙って俺達のやり取りを見ていたが、文句は無いのか杖を抜いて構える。

やはり一流なのか、相手には隙が無い。

が、それは常人の話。

俺はデジソウルで身体能力を強化すると、正面から斬りかかる。

 

「ッ!?」

 

鉄仮面もブレイドの魔法を発動させて剣を受け止める。

鍔迫り合いのまま俺を押しのけようとしてきたので、俺はそれに逆らわずに後ろに跳ぶ。

その瞬間、間髪入れず鉄仮面が斬りかかって来た。

俺は鉄仮面の杖を剣で受け止めると、再び鍔迫り合いの状態になる。

鉄仮面が押し切ろうとずいと顔が近付いてくる。

その時、

 

「…………このまま鍔迫り合いを続けろ」

 

仮面の奥から小声が響いた。

 

「………………」

 

その言葉に視線だけで返す。

 

「ロマリアは関係無いと言ったな………ならばトリステイン人か?」

 

「現状トリステインに住んでいるのは違いないが?」

 

「ならばシャルロット………いや、タバサ様を知っているか?」

 

「……………『シャルロット』なら近くに居る」

 

「ッ! そうか………私が負けたら身代金を要求しろ。身代金の袋の中に手紙が入っている。お渡ししてくれ」

 

「……シャルロットに渡す事はする。あんたが望んでいる結果になるかは保証しないが」

 

「十分だ」

 

俺は相手の杖を跳ね上げ、返す刃で首筋に寸止めする。

 

「参った!」

 

鉄仮面はあっさりとそう言うと、そのまま立ち去ろうとする。

だが、

 

「おいおい、俺はマサルと違ってタダで開放するつもりは無いぞ? ちゃんと払うものは払ってもらわなきゃな」

 

俺がそう言うと、鉄仮面は肩を竦め、従者に合図を送る。

従者は革袋を運んで俺の前に置いた。

中身を確認すると、大量の銅貨の中に手紙がある事が確認できる。

 

「確認した」

 

俺はその革袋を担ぐ。

鉄仮面はガリア式の礼をして去って行った。

 

 

 

 

 

 

中州での決闘を終えた俺は、シャルロットを始めとした恋人達を呼んで鉄仮面から受け取った手紙をシャルロットに渡した。

中身は見ていないが、正当な王として即位を宣言して欲しいという内容だった筈。

正直、今のシャルロットがその要請を受けるとは思えないが、一応見せた方が良いと思ったのだ。

 

「それで、手紙の差出人は誰なの?」

 

葵がそう聞く。

鉄仮面の正体は、カモステだったかカステラだったか。

 

「カステルモール」

 

全然違った。

 

「知ってる人?」

 

優花の言葉にコクリと頷く。

シャルロットは掻い摘んで説明した。

手紙の送り主、バッソ・カステルモールは、亡き父の信奉者でスクウェアのメイジ。

最近のガリアの陰謀に憤りを感じ、決起した事。

ヴェルサルテイルのジョゼフを襲ったが失敗した事。

その際に、東薔薇騎士団は壊滅した事。

運よく生き残れたカステルモールは、生き残りの兵士数名と共に、傭兵の振りをしてガリア軍に潜り込んでいる事。

そして、“正当な王として即位を宣言されたし”と自分に言っている事。

そうすれば、ガリア王軍の中からも離反者が続出する。

その彼らを纏め上げ、自分の元に参戦すると。

 

「どうされるのですか?」

 

カトレアがシャルロットに訊ねると、

 

「私は王になる気は無い」

 

シャルロットはハッキリとそう言った。

 

「王になったら、私はタイシとは居られない。だから王にはならない」

 

シャルロットは続ける。

 

「カステルモールには悪いと思う。だけど、カステルモールが求めているのは、『王』としての『シャルロット』。それなら私が王にならなくてもいい。それに、カステルモールが求める『王』としての『シャルロット』なら、ロマリアが用意している」

 

「それでいいのか?」

 

俺は念のために確認する。

 

「構わない」

 

シャルロットは迷いなく頷いた。

 

「そうか…………」

 

シャルロットの選択は、ある意味忠臣やガリア国民達を裏切る行為なのだろう。

だが、それでも尚俺を選んでくれたことを嬉しく思っている自分が居る。

だから、その思いを素直に行動で表した。

俺はシャルロットを抱きしめる。

 

「ありがとう」

 

それから耳元でそう囁いた。

 

「ん…………」

 

シャルロットは嬉しそうにその抱擁を受け入れた。

 

 

 

 

 

それから暫くして、突然ジュリオが俺の下を訪ねて来た。

 

「やぁタイシ」

 

屈託のない笑顔で話しかけてくるジュリオ。

 

「…………何の用だ?」

 

俺は警戒心を隠さずに聞き返した。

 

「用ってほどの事でも無いよ。お勤めご苦労様です。先だって中州での活躍は聞いているよ。敵の士気を挫いてくれたってね。従って、教皇聖下から、君達にこれを是非、と頼まれてね」

 

ドンと机の上に袋を置くと、それをぶちまけた。

中身は大量の金貨だ。

金での懐柔は基本だが、それをおくびも無くやるとは。

 

「受け取ってくれたまえ。神からの祝福さ」

 

ジュリオはそう言うが、

 

「要らねえよ。あんたらの信じる神は、俺の信じている神とは別物だからな」

 

「そう言わずにとっておきなよ。金はあっても困らないだろう?」

 

「金はあっても困らないが、借りがあると困りそうだからな」

 

「随分と嫌われたものだね?」

 

「自分達の行いを見返して、好かれると思っているのなら大したもんだ」

 

「君が大事な人達を護る為なら何でもするように、僕達も聖地を回復する為なら、何でもする。それと同じ事だよ」

 

「なるほど。そう言うなら否定はしない。だが、その『何でもする』中に、俺の大切を傷付けるような事があるのなら、俺は容赦なくお前達を潰す………! 『何でもする』とは他者を顧みないという事だ。それによって他者から恨まれる可能性がある事は忘れるなよ?」

 

「心配ないよ。僕達は『正しい』事をしている。最後にはそれが分かるさ」

 

「そうかい。そう思うなら勝手にしてくれ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「ああ、そうそう。最後に言っておくけど、お前らにとって『正しい』事も、俺達にとってはそうじゃない事だってある。俺は別に正義の味方じゃないし、自分がやっていることが絶対に正しいなんて傲慢な考えは持ち合わせちゃいない。俺はただ『自分の大切なモノを護る』。それだけは肝に命じておけ」

 

「了解だ」

 

余り本気には受け取っていない様な素振りで返事をするジュリオ。

自分達が正しいという自信を持っているのだろう。

それならそれで構わない。

敵対したら容赦しないだけだ。

 

 

 

 

 

 

そしてその数日後、『シャルロット姫殿下』が正当な王位継承者を名乗り、事態は大きく動くことになる。

 

 

 







ゼロ魔クロス第36話です。
やや半端な長さになってしまった。
決闘騒ぎはスルーすると思いきや、趣味でマサルが参加。
済し崩し的に大士もちょっと参加。
カステルモールが居たなぁと思い出して、やや強引に参加していただきました。
でもシャルロットの決心は堅いので変心はしない。
とりあえず次回でガリア編は決着かなぁ?
お楽しみに。




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