この日、リネン川の手前の草原は、騒然としていた。
『敬虔なるブリミル教徒の皆さんに、本日はこのわたくし、嬉しい知らせを携えて参りました』
ロマリア軍の中央に大きな櫓が立てられており、そこでヴィットーリオが演説を行っていた。
ヴィットーリオの登場に沸き立つ兵士達に混じって、俺達は集まって様子を伺う。
『対岸に居る、狂王に忠誠を誓うガリア軍の皆さんにも、是非とも聞いていただきたい』
拡声の魔法により、ヴィットーリオの声は遠くまで響く。
その声が聞こえたガリア軍の反応は、
「なんだぁ! 説教ならいらねえぞ! 間に合ってらぁ!」
「とっとと国に帰ってブタに祈りでも聞かせてやれ!」
やはり聞く耳持たないと言った感じでヤジが飛ぶ。
しかし、ヴィットーリオはそのヤジを普通にスルーすると、
『ガリア軍の皆さん。あなた方は間違っている。あなた方が王と抱く人物は、このガリアの正統なる王ではありません』
「いや、先王がジョゼフを次王に指名したんだから普通にジョゼフが正当な王位継承者だろ?」
ヴィットーリオの言葉に、俺はボソッと呟く。
『あなた方が王として忠誠を捧げている人物は、次期王と目されたオルレアン公を虐し、玉座を奪い取った強盗の様な男です。あなた方は、そんな男に忠誠を誓おうというのですか? それは神と始祖への重大な侮辱である事を理解していただきたい』
「それっぽい事言ってるけど、真実を知っている身からすれば、口から出まかせにも程があるわよね」
キュルケが呆れた様にぼやいた。
「そうだとしてもくそ坊主め! お前に言われる筋合いはねえや!」
「わざわざ人の国に土足で上がり込んできた奴の言うセリフかよ! 強盗はお前達じゃねえか!」
言い返すガリアの兵士達の言葉に、ごもっとも、と納得してしまう。
だが、そう言う言葉こそヴィットーリオの待っていた言葉なのだろう。
『わたくしは強盗ではありません。あなた達を支配する為にこの地にやって来たわけでもありません。それどころか、あなた方の祖国に正当な王を戴かせる為にやってきたのです。神と始祖の僕たるわたくしは、異教徒と手を組んだあなた方の王を、王と認める訳には行かないのです。それは、敬虔なるブリミル教徒である皆さんも、よくご存じの事です』
「要は自分達の意に沿わない王は要らないから、自分達の思い通りに動いてくれる王を置かせて貰うって事でしょ?」
今度は優花が突っ込んだ。
本当にヴィットーリオの言葉にはツッコミ所があり過ぎる。
『あなた方が抱くべき、正当な王をご紹介いたします。亡きオルレアン公が遺児、シャルロット姫殿下です』
壇の下から神官たちを取り巻きに、1人の少女が姿を現した。
豪奢な王族の衣装に身を包んでいるが、その顔は、魔物肉を食べる前のシャルロットと、顔も体格も瓜二つだった。
「……………………あの子が………私の妹……………」
シャルロットが感慨深そうな声で呟く。
「やっぱり双子ってだけはあるわね。以前のシャルロット………『タバサ』に瓜二つだわ」
ルイズも実際に見て、軽く驚いている。
俺達の言葉は、沸き上がった歓声にかき消される。
「シャルロット様だと!?」
「まさか! あの折に暗殺されたはずでは?」
「いや、身分を剥奪されて、トリステインに御留学されたと聞いたが………」
ガリア軍に動揺が広がる。
「偽物を用意してどうしようというのだ!?」
怒りに我を忘れて中州まで飛んできたのは、先日マサルと最初に戦った貴族の男だった。
「今は亡きオルレアン公の遺児を騙るとは! 不届き千万! 我々をそこまで愚弄するか!」
中州からそう叫ぶ。
『では、偽物か如何か、確かめられては如何かな?』
ヴィットーリオは余裕の表情でそう言うと、ガリア軍の何人かの貴族が名乗りを上げた。
おそらく、かつてのシャルロットを知る者達なんだろう。
その貴族達は、小舟でロマリアの陣地内に来ると、壇上に引き上げられる。
その貴族達は、ジッと『シャルロット姫殿下』を見つめた。
すると、1人の貴族が杖を取り出して『ディティクト・マジック』を唱えた。
探知魔法によって何の魔法も掛けられていないことを理解すると、彼らは一斉に膝を着いた。
『お懐かしゅうございます………シャルロット姫殿下!』
涙を流しつつ絞り出すような声でそう言う。
その言葉は拡声の魔法によってガリア軍まで届き、割れんばかりのどよめきが湧いた。
我先にと中州に飛び出してきた貴族達の中には、俺が戦った鉄仮面を被ったカステルモールの姿もある。
「私は東薔薇騎士団団長、バッソ・カステルモールと申す者! 故あって傭兵に身をやつしていた次第! 私はここにシャルロット様を玉座に迎えての、ガリア義勇軍の発足を宣言する! 我と思う者は、シャルロット様の下へと集え!」
ガリア軍が混乱しているのが見て取れる。
そこにヴィットーリオが畳み掛けた。
『忠勇なるガリア軍の諸君。君達の聡明で勇敢なその頭脳で考えたまえ。君達の無垢で善良なるその良心に問うのだ。この旧い、由緒ある王国に相応しいのは誰か? リュティスで今も尚惰眠を貪る、弟を殺して冠を奪った無能王か? それとも…………』
ヴィットーリオは『シャルロット姫殿下』の肩に手を添え、
『ここにおられる、これからこの聖エイジス三十二世自らが戴冠の儀式を執り行う予定の、才気あふれる若き女王か? よく考えたまえ。時間はある。だが、無限と言う訳では無い。今にここに、両用艦隊がやって来る。シャルロット女王陛下となられた国王をお乗せして、
その言葉によって、カステルモールの下に集う貴族や兵士達の数が加速度的に増えていく。
「……………………………」
その様子を、俺の横に居るシャルロットは何とも言えない表情で見つめていた。
「大丈夫か?」
俺は思わず声を掛ける。
シャルロットは頷き、
「大丈夫。ただ、彼らが求めているのは『私』じゃなくて、『シャルロット姫殿下』であることを、再認識しただけ」
声は平静を装ってはいるが、俺には何処となく寂しそうに思えた。
「………安心しろ。俺達はずっと一緒だ」
そう言ってシャルロットの肩を抱く。
「………………うん」
その時、ヴィットーリオは空の一点を指差す。
そこには大艦隊の影が見え始めていた。
【Side 三人称】
その日の前日、アンリエッタは、ウェールズと共に、アニエスだけを護衛につけ、ジョゼフの下を訪れていた。
そして、とある提案を持ちかけた。
それは、ハルケギニア列強の全ての王の上位として、ハルケギニア大王という地位を築き、そして、ロマリア以外の他国の王はそれに臣従する。
といった内容であり、ジョゼフには、エルフと縁を切る代わりに、そのハルケギニア大王に推薦するとも書かれていた。
そして、その場でウェールズもその提案に賛成している事を明かし、信憑性を高めたのだ。
だが、2人の誤算は、ジョゼフの目的が世界征服などという欲深いものではなかった事だ。
ジョゼフの目的は、かつて弟のシャルル・オルレアンを殺害した時から全く感じなくなった『悲しみ』という感情を取り戻したいだけであった。
そのために、手段を厭わないだけであり、ジョゼフはアンリエッタ達の提案に乗ることはなかった。
ヴィットーリオが『シャルロット女王』の即位を宣言すると、それに反応するかのように大艦隊が現れた。
それはロマリアの計略により、この度の『シャルロット女王』の即位によって、正当なガリア王国両用艦隊として名乗りを上げたのだ。
だが突然、その艦隊が巨大な火の玉に包まれた。
半径5リーグにも及ぶ、超巨大な火の玉であった。
それに巻き込まれ、艦隊の約半分が消滅する。
それを目撃した両軍は、一斉に声を失った。
その原因は、『火石』であった。
ジョゼフは、エルフのビダーシャルに火の精霊の力を結晶化させた『火石』を作らせた。
本来なら、冬に街を暖めたり、街灯に明かりを灯すような使い道しかないものを、ジョゼフは己の虚無を使い、火の精霊の力を閉じ込めている結界に亀裂を入れ、内部に存在する火のエネルギーを一気に解放させ、半径数リーグを焼き尽くしたのだ。
両軍が、余りの光景に声を失っていた時、再び火球が発生する。
それは、先程よりも規模が大きく、残った艦隊を焼き尽くした。
そこで、漸く事態を飲み込めた兵士達は恐怖し、そして、誰もが我先にと逃げ出し始めた。
【Side Out】
「何よあれ………」
キュルケが震えた声で呟く。
「ひ、酷い………」
美姫も、
「何てことを………」
テファも怯えた様に呟く。
「虚無よ! あれはガリアの虚無! 間違いないわ!」
ルイズが思わずそう叫ぶが、
「違うのね! あれは………あれは精霊の力の解放なのね! おそらく『火石』が爆発したのね! 人間達の魔法じゃ、手も足も出ないのね! きゅい!」
イルククゥが訂正する。
「…………許さねぇ………!」
マサルが握り拳を作ってわなわなと震える。
義憤によるものだろう。
「……………まあ、流石にあんなものが近くで爆発したら、俺達以外は防ぎようが無いからなぁ」
俺は冷静にそう分析する。
俺は少しの間考えを巡らせると、
「優花、ハックモン。お前達は、この場で皆の護衛を頼む」
「分かったわ」
「任せよ」
俺の言葉に2人は迷いなく頷く。
「俺とドルモン、葵とリュウダモン、マサルとアグモンで攻めに出る」
「うん」
「承知」
「当然だぜ!」
「よっしゃぁ!」
それぞれが返事をする。
すると、
「………伯父様は、私に任せて欲しい」
シャルロットがそう発言した。
「シャルロット…………」
「お願い………!」
シャルロットの真剣な眼を見て、
「わかった、気を付けろよ」
「うん」
俺達は進化すると、アルファモンはオウリュウモンの背中に飛び乗り、シャイングレイモンと共に空へと飛び立った。
遠くに発見したフリゲート艦に向かっていると、こちらに向かって来る影が見えた。
それは、
『バイオメルクリモン!? ワルドか!』
バイオグリフォモンの背に乗ったバイオメルクリモンの姿。
「ここから先へは行かせんぞ!」
そう宣言するバイオメルクリモン。
「………たった2体で俺達を止められると思っているのか?」
「フッ………流石にあれだけやられた後で、私とバイオグリフォモンだけで貴様達を止められるとは思っていない。だが………!」
バイオメルクリモンがそう言った瞬間、別方向から攻撃が来た。
「何ッ!?」
「くっ!?」
思った以上の威力に俺は声を漏らした。
そちらを向くと、
「バイオクロスモン!」
「バイオグランクワガーモン!」
「バイオヴァルキリモン!」
「バイオラフレシモン!」
4体のバイオデジモンがそこに居た。
しかも、全て究極体のバイオデジモンだ。
「フフフ………究極体と適合したのが、我々だけと思っていたのかね?」
『………………シャルロット』
合計6体の究極体バイオデジモンを前に、
【Side 三人称】
一方、フリゲート艦の上では、消え去った艦隊を何の感慨も感じずに見つめるジョゼフと傍らに控えるシェフィールド。
更には、両手を縛られ、身動きが取れないアンリエッタ、ウェールズ、アニエスの姿があった。
「………貴様は……何という事を………」
一瞬にして灰と消え去った艦隊を見て、震える声でウェールズが呟く。
「あれだけの艦隊……何人の……何人の人間が乗り込んでいたとお思いですか!? 一万……いや数万です! あなたはそれだけの数の人間を、一瞬で灰にしてしまったのです! あなたは……あなたは何も感じないのですか!?」
アンリエッタが感情のままに叫ぶ。
「お前に何が分かる。 お前に、俺の心の深い闇の何が分かる? 輝かしい勝利の中、全てに祝福されながら冠を被ったお前に、一体俺の何が分かるというのだ?」
ジョゼフは、憎々しげにアンリエッタを踏みつけ、そう言葉を吐く。
アンリエッタは、これから起こるであろう悲劇を前に、涙を流す。
「悲しんでおるのか? お前は……胸が痛むのか? 羨ましい事だ」
ジョゼフはそう言ってアンリエッタの頬を掴んで持ち上げると、
「お前のその哀しみを俺にくれ。俺にくれよ。そうすれば、お前の望むものをなんでもやろう。全てだ。この王国も、世界も、全てをお前にくれてやろう」
感情の篭っていない、だが、真面目な声でそう言った。
「神よ………どうか、どうかこの男を止めてください。後生です。世界が無くなってしまう前に。すべてが灰に沈む前に……」
「ならば神に見せてやろう。その世界が灰になるさまを」
ジョゼフは、『火石』の最後の1個であり、一番大きい物をシェフィールドから受け取ると、呪文を唱えようとした。
その瞬間、
「ぬおっ!?」
氷の矢がジョゼフの手から『火石』を弾いた。
『火石』が甲板の上を転がる。
その直後、上空から何者かが降下して来て、ジョゼフの前に着地した。
セミロングの白い髪を靡かせ、顔の下半分を布を巻いて隠したその人物は、赤い瞳でジョゼフを見据える。
「何者っ!?」
シェフィールドが額のルーンを輝かせてガーゴイルに命令を送る。
しかし、その人物が右手を横に伸ばし、一振りすると、近付こうとしたガーゴイルと、アンリエッタやウェールズ達を捕えていたガーゴイルを一瞬で4分割した。
「なっ!?」
シェフィールドが驚愕の声を漏らす。
白い髪の人物は、再びジョゼフを見据える。
だが、シェフィールドはすぐに余裕の表情を取り戻した。
何故なら、分割されたガーゴイルの体がそれぞれ近付き、粘土人形のようにくっ付いて再び立ち上がったからだ。
「このガーゴイルは唯のガーゴイルじゃない。水の力に特化させたんだよ。正に不死身に近い。どれだけ切り裂こうが、無駄というものさ!」
シェフィールドは自信を持ってそう言う。
「………………………」
白い髪の人物は、赤い瞳を一度シェフィールドに移すと目を伏せた。
その瞬間、復活したガーゴイルが一斉に襲い掛かる。
しかし、その人物が目を見開いた瞬間、再び腕を振った。
その瞬間、一瞬にしてガーゴイル全てが凍り付く。
「いくら不死身だろうと、動けなくしてしまえばそれで充分」
「バカな……!? 何故………!? 詠唱もしていないのに………!」
シェフィールドは驚愕で目を見開く。
「ほう………白い髪の少女。お前が報告にあったシャルロットの母親を助けた者か………」
ジョゼフはさして驚いた素振りも見せず、淡々と言葉を紡ぐ。
「…………ジョゼフ王。あなたに問いたい。あなたは何を思ってオルレアン公を殺したの? そこまであの人が憎かったの?」
そのジョゼフに対し、白い髪の少女、いや、シャルロットは問いかけた。
「憎い? 確かに憎かったさ。だが、初めから憎かったわけでは無い。あいつは自慢の弟だよ。魔法の才能もあり、人望もある。俺が無いモノをすべて持っていたあいつは、俺の自慢の弟だ」
「それなら何故殺したの?」
「確かにあいつは自慢の弟さ。それ故に、俺自身の無能さが浮き彫りになった。魔法も碌に使えず、人望も無い俺は、王族として『出来損ない』だった。だからこそ何か一つでもいい、俺はあいつを超えたかった。シャルルの悔しがった顔を………俺に対しての、ほんの少しの劣等感の欠片でも見えたら…………俺は満足だった」
「………………………」
「そしてあの時が来た。父王が俺を後継者に選んだのだ。何故俺を選んだのかは俺にも分からん。もしかしたら耄碌していただけなのかもしれん。それでも俺は嬉しかった。漸くシャルルの悔しがる顔を見られると、俺は期待に胸を膨らませた。だが、あいつはそれでも尚笑っていた! 『兄さんが王になってくれて、本当に良かった』と、屈託のない笑顔でこの俺に言ったのだ!! その瞬間俺は打ちのめされたよ………『俺は何一つお前には勝てない』。そう言われた気がした」
「ッ………………!」
「俺はもう止まれなかった。その時生まれた憎しみは、シャルルをこの手に掛けた。それからだよ、何をしても『退屈』と感じるようになったのは。どれだけ愚かな事をしようとも、『悲しい』とは感じなくなった。どれだけの命を奪おうとも、シャルルの愛する家族を不幸のどん底に突き落とした時も、何も感じる事が出来なかった」
「あなたは…………!」
「この心の『虚無』を埋める事は、誰にも不可能だ。それが出来るのはシャルルだけ。そのシャルルも俺がこの手に掛けた。もう誰も、俺を止める事など出来ん………!」
「ッ……………止める。あなたにこれ以上過ちを繰り返させないためにも………!」
シャルロットはジョゼフを見据える。
次の瞬間、シャルロットは甲板を蹴ってジョゼフに肉薄する。
ジョゼフを昏倒させて無力化するつもりだ。
だが、次の瞬間ジョゼフはその場から掻き消えていた。
「ッ!?」
シャルロットは目を見開く。
「中々速いな。だが、俺の方が速いようだ」
シャルロットは咄嗟に後ろを振り向く。
そこにはいつの間にかジョゼフが居た。
「この呪文は『加速』というのだ。 虚無の1つだ。 何ゆえ神は俺にこの呪文を託したのであろうな。 皮肉なものだ。 まるで『急げ』と急かされているように感じるよ」
ジョゼフはそう言葉を発する。
「ッ!」
シャルロットは〝天歩〟の派生技能である〝縮地〟を発動。
先程よりも更に速く踏み込むが、
「ほう? 先程よりも更に速いな。だが、それでもまだ俺の方が速い様だ」
ジョゼフは、今度はマストの上に移動していた。
「ッ!?」
シャルロットは続けて何度も〝縮地〟を発動させるが、ジョゼフの『加速』の前には一歩及ばない。
気付けば、ジョゼフの手には『火石』が握られている。
シャルロットは、〝魔力感知〟によってそれに内包された魔力量を感じ取り、その『火石』が先程の巨大な火の玉の源であると察した。
「諦めろ。お前では俺は止められん」
「諦めない………! これ以上過ちを繰り返させないためにも………!」
シャルロットは迷いなく言い返す。
「迷いの無い姿だな………自分を信じ、己の正義を貫く眩しい姿だ」
どこか懐かしむように、言葉を紡ぎだしていく。
「俺にもお前達のような頃があったよ。己の中の正義が、全てを解決してくれると思っていた頃が………大人になれば、心の中の卑しい劣等感は消えると思っていた。分別、理性……なんだろう? そういったものが解決してくれると信じていた。だが、それは全くの幻想に過ぎなかった。歳を取れば取るほどに、澱のように沈殿していくのだ。自分の手で摘み取ってしまった解決の手段が………いつまでも夢に出てきて、俺の心を虚無に染め上げていくのだ。迷宮だな。まるで。そしてその出口は無いと俺は知っているのに………」
次の瞬間、ジョゼフは船首に居た。
「俺はもう戻れぬ。出口の無い迷宮を、俺は彷徨い続けるのだ」
そう言ったジョゼフは、振り上げた杖を『火石』に振り下ろそうとした。
「止める! 必ず!」
シャルロットは叫ぶ。
このタイミングでは、〝縮地〟でも間に合わない。
だが、シャルロットは諦めない。
ジョゼフに、伯父に、これ以上過ちを犯して欲しく無いから。
シャルロットは目を見開く。
そして次の瞬間、
「……………何?」
今正に振り下ろされようとした杖が止まった。
何故なら、『火石』を持っていた筈の左手から、『火石』が無くなっていたからだ。
そして、
「………………………」
ジョゼフのすぐ後ろに、シャルロットが居た。
その手には、ジョゼフから奪い取った『火石』が握られている。
「お前………!」
シャルロットはこの時、〝天歩〟の最終派生技能である〝瞬光〟に目覚めた。
ジョゼフが『火石』を奪い返そうと『加速』を発動しようとした瞬間、右手にはめた土のルビーが輝きだした。
【Side Out】
「ミスティックブレイク!!」
「ディメンションシザー!!」
「アウルヴァンディルの矢!!」
「バレエガン!!」
「スーパーソニックボイス!!」
次々と必殺技を放ってくる究極体バイオデジモン達。
「ちぃ!」
「くそっ! こいつ等!」
それぞれが互いの隙を埋めてくるように攻撃してくるため、中々反撃できないでいる。
さらに厄介なのが、こいつらは後方にいる軍人の事など気にしないで必殺技を放ってくるため、カトレアや美姫達が巻き込まれないように立ち回るのにも苦労していた。
それに加え、
「スピリチャルエンチャント!!」
バイオメルクリモンが、手に持った剣で空間に切れ目を作り、そこから異世界の魔物を召喚してくる。
ここで時間を取られていれば、予想外の事に対応できないかもしれない。
それに、強くなったとはいえ先行させたシャルロットの事も心配だ。
「……………オウリュウモン、やるぞ」
「ッ! 心得た!」
――BLAST
EVOLUTION――
「アルファモン!」
「オウリュウモン!」
「「ブラストエボリューション!!」」
俺達は1つとなり、
「アルファモン王竜剣!!」
究極戦刃王竜剣を持つ、アルファモン王竜剣となった。
「おおっ!? 何だそりゃ!? すげえじゃねえか! まだ奥の手があったのかよ!?」
マサルが驚いたように声を上げる。
「アルファモン王竜剣。オウリュウモンを剣と化し、攻撃力に特化させた形態だ」
「へっ! だったら、こっちも負けてられねえな! 行くぞシャイングレイモン!!」
「おおっ!」
――BURST
EVOLUTION――
「チャージ………! デジソウル………バースト!!」
マサルがデジヴァイスバーストに手を翳し、更なる光がシャイングレイモンを包む。
シャイングレイモンの身体が真紅に染まり、右手に炎の剣。
左手に炎の盾。
そして背中には炎の翼。
シャイングレイモンが限界を突破した姿。
「シャイングレイモン バーストモード!!」
シャイングレイモンBMが姿を現す。
「ッ! コケ脅しを!!」
バイオメルクリモンが、召喚した魔物を俺達に襲い掛からせる。
「…………はぁあああああああああっ!!」
一気に横に薙ぎ払った。
放たれる一閃。
襲い掛かろうとした魔物達は、同時に動きを止める。
そして、一瞬遅れて襲い掛かった衝撃波によって、跡形も無く吹き飛ばされた。
「何ッ!?」
バイオメルクリモンが、驚愕の声を上げる。
「行け! シャイングレイモン!!」
シャイングレイモンBMの肩に乗るマサルが叫ぶと、炎の翼を広げてシャイングレイモンBMは飛翔する。
「アウルヴァンディルの矢!!」
「バレエガン!!」
バイオヴァルキリモンとバイオラフレシモンから放たれる必殺技。
「ふんっ!」
シャイングレイモンBMは左手の盾でそれを受け止めると、
「はぁあああっ!!」
思いきり腕を振り回すと同時にかき消す。
「「ッ!!」」
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
左手の炎の盾を消すと同時に、炎の剣を具現させ、炎の剣の二刀流で斬りかかる。
それぞれが散開するようにその攻撃を躱すが、上に避けたバイオメルクリモンが乗るバイオグリフォモンに影が掛る。
「ッ!?」
バイオメルクリモンが見上げると、そこには
「究極戦刃……………!」
「くっ!?」
バイオメルクリモンが、咄嗟にバイオグリフォモンの背から飛び降りた。
次の瞬間、
「…………王竜剣!!」
王竜剣による一閃が、バイオグリフォモンを真っ二つに切り裂いた。
「グェエエエエエエエエッ!?!?!?」
まるで獣の断末魔の様な声を上げて、バイオグリフォモンは消滅していく。
バイオメルクリモンは、そのまま重力に引かれて落下していく。
すると、バイオグリフォモンが消滅した後に残った人間をバイオクロスモンが拾う。
それから、
「………………撤退する」
バイオクロスモンがそう言うと、残りの3体のバイオデジモンは、特に反論することも無く、撤退し始めた。
「あっ! 待ちやがれ!!」
マサルは思わず後を追おうとしたが、
『マサル。今はさっきの爆発を止める事が先決だ。深追いするな』
俺がそう言うと、
「………チッ!」
逃がした事を悔しそうに舌打ちしつつ、フリゲート艦へと向かう事にした。
【Side 三人称】
ジョゼフは夢を見ていた。
いや、正確には、ヴィットーリオの虚無呪文、『
それは、ジョゼフに衝撃を与えた。
ジョゼフの弟であり、シャルロットの父であるシャルル・オルレアンの本当の気持ち。
シャルルは本当は悔しがっていた事。
自分を祝福する言葉は、シャルルなりの必死の抵抗だった事。
ジョゼフよりも認められるために必死で努力し、家臣を味方に付けるために根回しをしていた事などを知った。
膝をついて、ジョゼフは顔を両手で覆った。
「シャルル……俺達は、世界で一番愚かな兄弟だなあ」
そう呟き、自分が泣いている事に気付いたジョゼフは、笑みを浮かべる。
「なんだ。 俺は泣いているじゃないか。 ははは……あれほど疎ましく思っていた虚無が出口を見つけるとは、あっけなく、なんとも皮肉なものだ」
ジョゼフは涙を流しつつ、そう呟いた。
「…………………………」
シャルロットは、突然膝を着いて涙を流し始めたジョゼフを怪訝に思ったが、〝魔力感知〟によって外部から何らかの干渉があった事には気付いていたのでそれを辿っていくと、遠くに風竜が飛んでいるのが見えた。
ジュリオの風竜アズーロだった。
シャルロットは、〝遠見〟の技能を使ってその背に乗る人物を確認すると、風竜を操るジュリオ。
そして、その後ろに乗るのはヴィットーリオであることを確認した。
「…………………………」
シャルロットは、突然のジョゼフの変心はヴィットーリオの虚無魔法であると確信する。
その時、上空からアルファモン王竜剣が降りて来て、着地の寸前に退化してそれぞれに分離した。
因みにシャイングレイモンとマサルは、ガーゴイルと戦っていた、ペガサスに乗った聖堂騎士達を援護しに向かった。
「大丈夫か?」
大士がシャルロットに声を掛ける。
「大丈夫」
シャルロットはすぐに頷き、視線をジョゼフに戻す。
「これは…………ヴィットーリオの『
大士がボソッと呟く。
すると、シャイングレイモンのお陰でガーゴイルを振り切ることが出来た聖堂騎士達が乗ったペガサスがフリゲート艦の甲板に降り立ってくる。
そしてその中には、『シャルロット女王』の姿もあった。
「………………」
シャルロットはジッと『シャルロット女王』を見つめる。
『シャルロット女王』はシャルロットの視線には気付かずにジョゼフの前に進み出た。
ジョゼフは、憑き物が落ちたかのような満足気な表情で『シャルロット女王』を見上げる。
だが、その直後、その表情が訝しむ様な表情に変わっていく。
「………………シャルロット………? いや違うな。シャルロットでは無い。何者だ、お前は?」
その言葉に、『シャルロット女王』はびくりと身体を震わせる。
驚くことにジョゼフは一目で『シャルロット女王』がシャルロットでは無いことに気付いた。
「何を世迷いごとを!? 命惜しさに出鱈目を抜かすか!」
聖堂騎士の1人が杖を抜く。
「シャルロット様、ご命令を! 即刻この者の首を刎ねて御覧に入れます!」
そう言いながら聖堂騎士がジョゼフに近付く。
『シャルロット女王』の命によって、狂王を裁く。
その体裁は取りたいのだろう。
「……………」
だが、その前にシャルロットが片手を振り上げると、連なる氷柱が聖堂騎士の前を遮る。
「ぬおっ!? 貴様! 何の真似だ!? シャルロット様に逆らう逆賊か!?」
聖堂騎士がシャルロット達に杖を向ける。
「…………私の話は、まだ終わってない」
シャルロットはそう言うと、葵に視線を向け、
「………葵、お願い」
そう言うと、葵がシャルロットの頭に手を翳し、〝再生魔法〟を発動させた。
魔物肉を食べた影響で、白く変色していた髪が、鮮やかな青い色を取り戻していく。
魔法を発動し終えた葵が手を退かす。
そしてシャルロットが目を開くと、その瞳も元の色を取り戻していた。
シャルロットは持っていた『火石』手放すと歩き出し、同時に先程の氷柱も消すと、ジョゼフと『シャルロット女王』の中央で立ち止まる。
そして、顔に巻いていた布を取り去ると、『シャルロット女王』に向かって礼をした。
「初めまして、『シャルロット陛下』。私はシャルロット。只のシャルロットです」
そう言って顔を上げたシャルロットの顔を見て、『シャルロット女王』は思わず息を呑んだ。
その顔は、体格や肉付き、髪の長さの差はあれと、自分と瓜二つだったからだ。
するとシャルロットは、ジョゼフの方に向き直り、
「そしてお久しぶりです。伯父様…………」
ジョゼフにも礼をした。
「……………シャルロットか?」
シャルロットに対しては、驚いた表情はしているものの、疑っている様な節は無い。
「はい」
シャルロットが頷くと、
「……………クックック。少し見ぬ間に随分と見違えたものだ。これではいくら探しても見つからぬ筈だ」
ジョゼフは呆れた様に。
だがそれでいて、何処か嬉しそうにそう呟く。
それから改めてシャルロットの姿を見つめると、
「随分と美しくなったものだ。天国のシャルルも喜んでいるだろうよ」
ジョゼフは冠を脱ぐと、それをシャルロットの足音に置いた。
「長い事、大変な迷惑をかけた。まことにすまなく思う。詫びの印にもならぬが………受け取ってくれ。お前の父のものになるはずだったものだ」
その様子を怪訝に思ったシャルロットは、首を横に振った。
「それは違う。その冠は間違いなく貴方の物だった。先代の王がそう決めたのだから」
「先ほども言ったが、それは耄碌していたからかもしれんぞ?」
「私はそうは思わない。伯父様の王としての資質は、明らかに父様よりも上だった」
その言葉に、ジョゼフは目を見開く。
「何故だ? シャルルはメイジとしても優秀で、人望もあった」
「…………逆に言えば、父様にはそれだけしか無かった」
「ッ!?」
「そしてそれは、父様自身もきっと気付いていた。だから裏金を使って根回しをしてまで、家臣たちを味方に付けようとした」
「ッ!? 知っていたのか!?」
「母様から聞いた」
「……そうか……お前の母は全てを知っていたのだな………」
「今思えば、伯父様に魔法を諦めないように励ましていた事も、もしかしたら魔法以外を学ぶ時間を削りたかったのかもしれない。伯父様が魔法を諦め、他の事に時間を費やしたとしたら、それだけ父様との差が広がっていくから」
「フフフ、随分と買い被ってくれるものだ」
「私はまだ過小評価かもしれないと考える」
ジョゼフは笑みを浮かべると、シャルロットの前に首を差し出した。
「この首をはねてくれ。 それで、本当に全て終わりだ」
その言葉に対し、シャルロットは、
「………私にはもう、あなたの命を奪う理由が無い。そして、王になる気も無い」
そう言って踵を返す。
「ッ!?」
ジョゼフは目を見開く。
「私はもう自分の居場所を見つけた。だから私は、『只のシャルロット』でいい。家臣たちが欲する『シャルロット女王』なら、そこに居る」
シャルロットは『シャルロット女王』に視線を向ける。
「私はあなたが『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』になる事は別に否定しない。だけど、国民達を不幸にするような真似だけはしないで欲しい」
シャルロットはそう言って大士達の方へ歩いていく。
だがその時、誰にも注意を払われていなかったいなかったシェフィールドが、先程シャルロットが手放した『火石』を拾い上げた。
「ミューズ!?」
予想外の行動に、ジョゼフは声を上げる。
が、当のシェフィールドは、『火石』を両手で持ったまま、涙を流していた。
「ジョゼフ様………あなたはどうして最後までこの私を見てくださらなかったのです? どうしてこの私を御手にかけてはくださらなかったのです? 私はただ少女のように、それのみを求めていたというのに………」
搾り出すような声で、シェフィールドは言った。
すると、シェフィールドの額のミョズニトニルンのルーンが輝きだすと共に、それに共鳴するように、『火石』もその力を解放しだした。
「何をする気だ!?」
聖堂騎士が叫ぶ。
「私は全ての魔導具を操るミョズニトニルン。 この、『火石』をただ爆発させるだけなら可能だ」
すると、シェフィールドは、寂しそうな表情で、
「ジョゼフ様、最後のお願いです…………一緒に死んでください」
その言葉と共に、『火石』が輝きを増し、
「『散りなさい』」
その一言によって、『火石』に集まっていた火の精霊の力は、何も無かったように霧散し、消え去った。
「なっ!? 一体何が!?」
シェフィールドは驚愕の声を上げる。
気付いたのは大士の仲間内だけだったが、葵が『神言』を使って精霊の力を拡散させたのだ。
「ヤンデレ拗らせると危ないっていうのは、本当だね」
葵がちょっと呆れた様に呟く。
出来ることが無くなったシェフィールドは俯く。
「ミューズ………何故こんな事を……?」
ジョゼフがそう問いかける。
「ジョゼフ様………私は………」
シェフィールドが口を開こうとした。
その時、
「ぐぅ!?」
ドスッと貫く様な音と共に、ジョゼフが苦しそうな声を漏らした。
何故なら、ジョゼフは背中から聖堂騎士の杖によって、胸を貫かれていたからだ。
「ジョゼフ様っ!?」
シェフィールドが悲鳴を上げる。
崩れ落ちるジョゼフを受け止めるが、急所を貫かれたジョゼフは既に事切れていた。
「…………………」
大士がジョゼフを貫いた聖堂騎士に目を向ける。
「神罰は下った。これにより、正式にガリアは『シャルロット女王』の下で統治される!」
そんな事を言っているが、おそらくヴィットーリオの息が掛かった騎士なんだろうと大士は予想する。
「あ………ああ、ジョゼフ様との繋がりが…………」
見れば、
そして、程なくして完全に消えてしまった。
「………………………」
その事が余程ショックだったのか、シェフィールドは虚ろな目をしたまま動かなくなってしまった。
すると、シャルロットは指笛を吹いてシルフィードを呼ぶ。
シルフィードが甲板に降りてくると、シャルロットはジョゼフの亡骸とシェフィールドにレビテーションを掛ける。
「彼の亡骸と彼女の身柄はこちらで引き取る」
シャルロットは有無を言わさずに2人をシルフィード乗せに乗せる。
続いて、自身と大士、ドルモン、葵、リュウダモンもシルフィードの背に乗ると、シルフィードは甲板から飛び立つ。
「…………………伯父様」
そう呟くシャルロットの隣では、葵が仄かに光る手をジョゼフに翳している所だった。
その様子を遠くから双眼鏡で窺っていた倉田は、
「やれやれ、また新しいスポンサーを探さねばいけませんねぇ………」
少々ガッカリした様子で呟いた。
「やはり次の候補は…………」
その双眼鏡の先には、白い風竜の姿が映っていた。
ゼロ魔クロス第37話です。
ガリア編決着です。
まあ、最後はご都合?
過去作のコピペ所々。
シャルロットが元の髪色と瞳を取り戻しました。
ジョゼフなら一目でジョゼットとシャルロットの違いを見破ってもいいんじゃないかなって思いましたので。
デジモンはまあ、オマケみたいな感じで。
今回の主演はシャルロットなので。
でもって、バイオグリフォモンとバイオメルクリモン以外のバイオデジモンの正体は誰なんでしょうねぇ。
因みにバイオグリフォモンはモブです。
次回は……………どうしよう?
でもって余談になりますが、最近発表されたスパロボ30の参戦作品を見て一言。
グリッドマン出る位ならデジモン出たっていいだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
まあ自分はグリッドマンのアニメ版は見た事無いんで何とも言えないんですけど………(昔やってた特撮の方はちょいちょい見てました)
因みにデジモンアドベンチャー:になって究極体が巨大化したのは、スパロボに出るための前準備段階だと勝手に予想してたり。(予想と言うか願望ですが)
完全体以上ならスパロボ世界でも張り合えるでしょうし。
宇宙はまあ、デジタル生命体なので酸素関係無しッてことで。
以上、勝手な駄弁りでした。