シルフィードに乗ってフリゲート艦から離れる俺達。
シェフィールドが自爆しようとすることは予測できたが、まさか聖堂騎士が戦意の無い相手を後ろから刺す事は予想外だった。
とりあえず、優花が認識阻害の空間を作って外部から察知されないようにし、シルフィードは地上に降りる。
シェフィールドはシルフィードから降ろされたが、何の反応も見せずにジョゼフの亡骸の傍らで俯き続けているだけだ。
すると、
「アオイ………お願い」
「いいの?」
シャルロットからの頼みに葵は一度聞き返すと、シャルロットは頷く。
「もう彼に恨みはない」
シャルロットの言葉に葵は頷くと、地面に横になっているジョゼフの亡骸に歩み寄る。
そして片膝を着いてジョゼフの身体に手を添えると、〝再生魔法〟と〝魂魄魔法〟を発動させた。
ジョゼフの胸の傷が塞がり、淡い光に包まれ、その光が消えると、
「………う………俺は…………?」
ジョゼフがゆっくりと目を開けた。
「ッ…………!? ジョゼフ様ッ!?」
今まで何の反応も示さなかったシェフィールドが、驚愕の声と共にジョゼフに縋り付いた。
「ミューズ…………?」
ジョゼフが怪訝な声を漏らしながら身体を起こすと辺りを窺う。
その視線がシャルロットを捉えると、
「シャルロット………? 俺は一体…………?」
ジョゼフ自身も何が起きたのか理解できずにそう漏らす。
「あなたはロマリアの騎士に後ろから心臓を貫かれた」
シャルロットがそう言うと、
「心臓を………!? だが………」
ジョゼフは自分の胸を確認するが、傷どころか服に穴すら開いていない。
葵の〝再生魔法〟によって服も修復されたからだ。
「それはアオイの魔法のお陰………彼女達の使う魔法はこの世界の『外』の魔法。死んだ直後なら死者蘇生も可能」
「そのような事が…………」
ジョゼフはそこでハッとし、
「まさか、アルビオンの皇太子が生きていたのも………!」
ジョゼフの言葉にシャルロットは頷く。
「アオイのお陰」
「そうか…………」
ジョゼフは悟ったように俯く。
「だが、何故俺を生き返らせた? 俺はお前の父の仇だ。このまま死なせても良かったのではないか?」
それから疑問に思った事を口にすると、
「あなたはここで死なせるには惜しい人材。これからどうなるにせよ、何も知らない『シャルロット女王』では、家臣やロマリアの言いなりになるのが目に見えてる。伯父様には、そんな『シャルロット女王』を補佐する立場について欲しい」
「ロマリアが俺を生かしておくとは思えんのだが?」
「その辺りは認識阻害のマジックアイテムを付けてもらう。ウェールズ王や、母様が身を隠す時に使っていた物」
「どのように『シャルロット女王』に近付く?」
「伯父様の手腕なら、1からやり直しても、重役になるのにそこまで時間は掛からない筈」
「簡単に言ってくれるな…………保身しか考えていない貴族共の中で成り上がるなど、簡単な事では無いぞ?」
「そこで『不可能』と言わない伯父様に、私は期待している」
「………………ククク、何とも買い被ってくれる」
「父様が負けを認めた人だから」
「そうか……俺はシャルルに勝っていたのだな…………」
ジョゼフは、その言葉を噛み締めるように目を伏せ、天を仰ぐ。
それから目を開くと、
「よかろう。他ならぬお前の頼みだ。この愚王の力、存分に振るわせてもらおう」
「お願いする」
その後、優花にリュティスの宮殿までひとっ飛びして貰い、イザベラを回収して来てもらった。
そして、ジョゼフはシャルロットの伯父のジョセフとして。
シェフィールドは、ジョセフの妻のミューズとして。
イザベラも、ジョセフの娘、ベラとして名を変え、暫くは身を潜めて貰うことなった。
序にシェフィールドのミョズニトニルンのルーンだが、ジョゼフを生き返らせても戻らなかったため、既に虚無の力は受け継がれてしまった後という事が判明した。
そして俺達だが、戦後のゴタゴタが一段落した後、ヴィットーリオに呼び出された。
「…………………」
「…………………」
長いテーブルを挟んで向かい合う俺達。
因みにシャルロットは正体を隠す必要が無くなったため、元の青髪のままで席に着いている。
ヴィットーリオは平然としつつも、その視線はシャルロットに向いていた。
「で? 何の用だ?」
俺はそう切り出す。
「いえ、ガリア攻略の協力に対するお礼を述べたかったのです。本当にありがとうございました」
ヴィットーリオはそう言って頭を下げる。
毎度思うが、こいつは教皇という肩書の割には簡単に頭下げるよな。
上に立つ者が頭を下げるという事は、とても重い意味を持つのだろうが、コイツの場合、簡単に頭を下げるからそこまで重要な事とは思えない。
「別に礼などいらない。前にも言ったが俺達にも目的があったから協力したまでだ。その目的も達成したから、こちらとしては損は無い」
俺はシャルロットを見ながらそう言う。
「そうですか…………所で、そちらのミス・シャルロットはもしや………」
「お察しの通りシャルロットだ。『本物』のな…………」
「左様ですか………いくら探しても見つからぬはずです」
「別に元から替え玉に挿げ替えるつもりだったんだろうから別に良いだろ?」
「………何故そう思うのです?」
「シャルロットが王になったとしたら、『聖地』奪還には絶対に協力しないからだ」
「我々がそのような暴挙に出るとお思いですか?」
「思う」
俺は即答する。
「そこのジュリオが言っていた事だ。お前達は、『聖地を回復する為なら、何でもする』とな。都合のいい替え玉を用意して挿げ替える位簡単にするだろ? 実際替え玉を使って戦争を有利に進めたわけだし」
「……………………」
「まあ、替え玉と言っても、彼女は正当なガリア王族の血を継いでいるんだ。女王になる資格は十分にあるだろう。『王の資質』があるかは別問題だがな」
「……………その口振りでは、彼女が何者か知っているようですね?」
「ああ。シャルロットの妹だろ」
「…………その通りです」
ヴィットーリオは否定せずに頷く。
「ですが、彼女を女王の座に就かせたのは、決して傀儡となる王が欲しかったからではありません」
「彼女が虚無の後継者である可能性が高いからか?」
「ッ…………!?」
ヴィットーリオは、僅かに動揺した表情を見せた。
「…………何故………その事を………?」
「俺には俺の情報源があると言っておこう」
それが前世の記憶なんて、夢にも思わないだろうけどな。
「それで、俺達を呼び出した理由だが…………これだろ?」
俺は掌に乗せた『土』のルビーを見せる。
「王家の指輪は虚無の担い手を目覚めさせるために必要なファクター。こいつの行方を聞き出そうとしてたんだろう? 流石に死者の墓を暴かれるのはいい気分じゃないからな。俺には倫理的に無理だが、お前らなら遠慮なくやりそうだから一応回収しといたんだよ」
ロマリアへの非難を織り交ぜつつでっち上げた理由を口にする。
「まあ、別に俺達には必要な物じゃないからこいつはやるよ」
『土』のルビーを指で弾いてヴィットーリオの傍に控えていたジュリオに飛ばす。
これをロマリアに渡すのは、ジョゼフ達の行方を捜索させないためだ。
「そいつを使って何をするかはそっちの勝手だ。だが、以前から言っている通り、俺の『大切』に手を出すつもりなら容赦はしない………!」
脅しを含めてそう言うと、
「肝に命じておきます」
そうは言うが、多分分かってないんだろうな。
「要件はこれだけか? それなら俺達はそろそろお暇させてもらうが?」
「いえ、もう1つ伺いたいことがあります」
「何だ?」
何か聞かれる事でもあったか?
「虎街道の戦いの折、あなた方は、異教の女神の使徒と名乗りましたね」
「………ああ」
『異教の女神』という言い方に引っ掛かりを覚えたが俺は頷いておく。
「今後はそのような物言いは控えていただきたい」
「………何故だ?」
「我がブリミル教の信者の中にも、あなた方の力を見て、『異教の女神』を崇拝する声が少なからず出てきているのです。現在、我々は『聖地』を奪還する為に1つにならなければならない時。異教の教えを流布して足並みを乱さないで頂きたい」
ヴィットーリオはキッと目付きを鋭くして俺を睨みつけてくる。
その威圧感は大したものだが、ぶっちゃけ上級神様に比べれば月とミジンコなので特に何とも思わない。
「勘違いしている様だが、別に俺は『女神アルオイス』を敬えと言った覚えはない。あくまで俺達が『女神アルオイス』を信じているだけで、それを他者に強制するつもりも無い。それに、『女神アルオイス』は、自分の他に信じる神や宗教を持つ事を禁じてはいない。『女神アルオイス』を称える声が出てきたとしても、『ブリミル教』を敬う心を持つなら、今まで通り『ブリミル教』を信じてくれるはずだ。それでも尚離れる信者がいるというのなら、それは『ブリミル教』そのものに疑問を持っていたに他ならない。それを俺達の責任にして貰っちゃ困る」
「ッ………………」
「そもそも『信仰』とは心の拠り所だ。信者の心が安らげる場所でなければ、信者の心が離れていくのは当然だろう。俺達に責任を押し付ける前に、自分達の行いを見直す所から始めたらどうだ?」
俺はこれ以上は話すつもりは無いと言わんばかりに立ち上がる。
「最後にもう一度忠告しておくが、俺達は『聖地』奪還にもお前達が何をしようとしているのかにも興味は無い。俺達が望まないことに俺達を巻き込もうとしているのなら、『敵』と認識されるのを覚悟しろ。俺達は『敵』に容赦はしない」
俺はそう言ってヴィットーリオに背を向ける。
「………………ジュリオ、彼らを送って差し上げなさい」
「かしこまりました」
ヴィットーリオの言葉にジュリオが返事をする。
ジュリオが俺達の方に歩いてくると、
「送っていくよ」
「別にいいぞ?」
「そう言うなよ。聖下としても体裁って奴があるのさ」
ジュリオは笑いながらそう言って、俺達を先導するように歩き出した。
【Side三人称】
大士達が部屋を出て行った後、
「さて、もう1人のお客をお出迎えせねばなりませんね」
ヴィットーリオがそう言って別の扉に目を向けると、その扉が開かれた。
すると、
「お初にお目にかかります聖下。私は、倉田というものです」
メガネを掛けて白衣を着た男、倉田が、怪しい笑みを浮かべて立っていた。
【Side Out】
【Side ティファニア】
私がタイシ達について大聖堂を出ようとした時、
「ミス・ウエストウッド」
ジュリオが私を呼び止めた。
「はい? 何でしょうか?」
私が振り返りながらそう訊ねると、
「……………やっぱり君には教えておこうと思ってね」
「何の事?」
私は首を傾げる。
「使い魔の召喚の事さ」
「ッ……………」
『使い魔の召喚』と聞いて、私は胸に刺さるものを感じた。
タイシの大事な妹のミキを私が召喚した所為で、リーヴスラシルという命の危険のある虚無の使い魔にしてしまった事が原因だった。
「『
「『運命』?」
『運命』によって使い魔が召喚されるなら、ミキを召喚したのは『運命』だからだというの?
すると、ジュリオが再び口を開く。
「そして、もう1つが『愛』だ」
「『愛』………?」
その言葉を聞いて、私の脳裏に1人の男性の顔が思い浮かぶ。
直後に顔が熱くなるのを感じた。
「そ、それが何……!?」
私は熱くなった顔を誤魔化すように聞き返す。
「別に何も? ただ、君には教えておいた方が良いと思っただけさ」
ジュリオは悪びれもせず、ただ笑みを浮かべたままそう言った。
「わ、私……! もう行くから!」
私は慌てて踵を返す。
でも、私の脳裏にはジュリオの言葉が離れなかった。
使い魔を呼び出す理由は『運命』と『愛』。
でも、私は既にミキという『使い魔』を召喚してる。
今更そんな事言われても私には関係無い………!
私は走りながらそう考える。
でも、ふと脳裏にひらめきが過る。
ミキは、アオイの力で使い魔では無くなろうとしている。
もしミキが使い魔でなくなったら、私はまた使い魔の召喚を出来るのだろうか?
そして、もし召喚したとしたら、今度は……………
そこまで考えて首を振る。
私が召喚したら、きっとまたリーヴスラシルにしちゃう。
例え召喚できたのが彼だとしても、そんなものにしたくない。
でも、だけど………………
私は使い魔の召喚の事が頭から離れないまま、彼らを追いかけた。
そしてトリステインに戻ってしばらくした時………………
ミキが使い魔から解放された。
ゼロ魔クロス第38話です。
寝違えたかなんかで首と肩が滅茶苦茶痛くて執筆に集中できないまま書きました。
短いですが、一応話としては入れたかった部分なのでここで投稿です。
さて、これは何の伏線何でしょうか…………?
次をお楽しみに。