鈴の転入から暫く。
織斑は未だに鈴を怒らせているようで、まともに口を利いてもらえていない様だ。
その鈴だが、前回のような別れ方をしたにも関わらず、何故か愚痴を聞かされる間柄になった。
なので、呼び方も鈴と呼ぶようになっている。
そして今も、
「ちょっと聞いてよ!」
バンッと部屋の扉が勢い良く開けられる。
「あいつ、私の事『貧乳』って言いやがったのよ!!」
開口一番そう叫ぶ鈴。
「…………………それは言いに来る相手を間違っているのでは?」
俺はそう言いながら葵と優花に視線を移す。
「………………………」
鈴もそれにつられて視線を移すと、たわわに実るHカップとGカップの巨乳がたゆんと揺れる。
「……………………………ち、畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
鈴は泣きながら悲鳴を上げて走り去った。
「何だったのかしら?」
「持たざる者の宿命だな」
俺は大きく溜息を吐いた。
更に時が流れてクラス対抗戦当日。
俺は、葵と優花。
そして、ドルモン、リュウダモン、ハックモンと共に、アリーナの観客席で試合を観戦していた。
試合が始まり、鈴が連結させた青龍刀を振り回し、序盤から積極的に攻めに入る。
織斑も何とか凌いでいたが、一旦距離を取ろうとしていたが、
「甘いっ!」
鈴の言葉と共に、織斑が何かに殴り飛ばされたように吹っ飛んだ。
「今のは………見えない弾丸か?」
俺はいきなり吹き飛ばされた織斑を見て、そう推測する。
「そうみたいね。織斑が吹き飛ぶ前に、鈴の周辺で空間が圧縮されてたわ。空間そのものを圧縮させて、その時に生じる衝撃を弾丸として放ってるみたいよ」
神代魔法の中で、最も空間魔法に適性のある優花が、鈴の攻撃のカラクリを説明する。
「弾丸は唯の衝撃波だから、目には見えないと………」
その上、オルコットさんのスナイパーライフルと違い、銃口が見えないから狙っているタイミングが分かり辛い。
これって織斑詰んだんじゃね?
あいつに見えない銃身から発射される弾丸を避けれるほどの経験があるとは思えないが………
とは言え、あいつは才能の塊だから、時間さえかければ可能性はあるか。
それまでに決着がつかなければの話だが。
「よく躱すじゃない。衝撃砲『龍砲』は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」
鈴の言葉通り、織斑は見えない攻撃を何とか凌いでいる。
まあ、鈴が少し油断している事も理由の1つだろうが、織斑の才能が大きいのが大半だろう。
すると、織斑が一旦距離を置いた。
そして、
「鈴」
真剣な表情で鈴に呼びかける。
「なによ?」
「本気で行くからな」
「な、何よ………そんな事、当たり前じゃない………とっ、とにかくっ、格の違いって奴を見せてあげるわ!」
鈴は織斑の真剣な表情と言葉に狼狽える。
「鈴ちゃん、あの程度で照れちゃうの?」
葵が若干呆れたように呟く。
次の瞬間、鈴に向かって織斑が猛スピードで突っ込んだ。。
鈴が不意を突かれ、織斑の刃がその身に届く…………
その瞬間、
―――ドゴォォォォォン!!
と言う音と共にアリーナ全体に衝撃が響いた。
「何だ!?」
俺は思わず叫び、反射的に警戒態勢に入る。
葵や優花、ドルモン、リュウダモン、ハックモンも気を引き締める。
何かがアリーナのシールドを突き破って、アリーナの中央付近に激突した様だ。
爆煙がモクモクと上がっている。
だがその直後、アリーナのシェルターシールドが閉まり、俺達の視界は閉ざされた。
【Side 三人称】
「何事だ!?」
ピットで試合の様子を窺っていた千冬が叫ぶ。
「わ、分かりません! ですが、何かがアリーナのシールドを突き破って侵入した模様!」
真耶はそう言うとすぐに一夏達に通信を繋げる。
「織斑君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」
『いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます』
一夏がそう発言する。
それは、シールドを突破してきた相手から観客の生徒達を護るための判断だ。
「織斑君!? だ、ダメです! 生徒さんにもしものことがあったら………」
真耶はそう言い掛けた瞬間、
―――ドゴォォォォォォォォン!!
と、2度目の衝撃が走る。
「今度は何だ!?」
千冬が叫ぶと、
『ああっ!? 観客席がっ………!?』
鈴音の悲痛な声が通信から聞こえた。
真耶が慌ててモニターを操作して、その場所を映し出すと、観客席のシェルターの一角が破壊され、アリーナ中央と同じようにモクモクと爆煙が上がっている光景があった。
「ああっ………!?」
真耶も悲痛な声を漏らす。
更に状況を調べると、観客席にもアリーナ中央と同じく、正体不明のISの反応がある事が分かった。
「そんな………! 正体不明のISがもう1機………!?」
真耶の表情が絶望に染まる。
『やばい………! 早く助けに行かないと、皆が………!!』
一夏が観客席の方を優先しようと、振り返ろうとした瞬間、アリーナ中央から強烈なビームが発射される。
それを慌てて避ける一夏と鈴音。
『くそっ! 邪魔するな!!』
『一夏! また来る!』
再びのビーム攻撃に2人は回避行動を取る。
『ビーム兵器かよ………しかもセシリアのISより出力が上だ………!』
その攻撃力を、ISを通して目にする一夏。
今のビーム攻撃によってアリーナ中央の爆煙が吹き飛ばされ、敵ISの姿が露になった。
煙が晴れて現れたのは、深い灰色をしたISだった。
腕が以上に長く、普通に立っていても足より長い。
その腕には左右合計で4つの砲口が付いている。
そして、何よりもそのISは『全身装甲』だったのだ。
ISはシールドエネルギーによって防御が行われている。
その為、防御特化でもない限り、装甲はあまり意味をなさない。
なので、殆どのISは大なり小なり肌が露出している。
そのため、目の前の『全身装甲』のISは見たことが無かった。
すると、今度はビームの出力を落とし、マシンガンのように連射してくる。
一夏と鈴音はかろうじてそれを避けるが、
『くそっ! こうしている間にも、観客席の皆が………!』
観客席の方に救援に行くことが出来ないもどかしさが、一夏を焦らせる。
だがその時、
「えっ!?」
真耶が思わず声を漏らした。
「どうした!?」
千冬が問いかけると、
「…………観客席の方にあった、正体不明のIS反応が消失しました………」
真耶が呆然と報告する。
「……………なんだと?」
千冬は、聞き間違いかと問い返す。
「観客席の方にあった、正体不明のISの反応が消失したんです! 何度も確かめたので、間違いありません!」
真耶が自分も信じられないと言わんばかりにハッキリと叫ぶ。
「………一体何が起こった?」
「わかりません。所属不明のIS以外にISの反応はありませんでした。他の生徒による鎮圧では無いようですが………」
千冬も真耶も怪訝に思う。
『千冬姉! 一体何があったんだ!? 観客席の皆は無事なのか!?』
一夏が通信で叫ぶ。
「何が起こったのかは分からん。だが、観客席に居たISの反応は消失した! お前達は目の前の敵に集中しろ!」
『えっ……!? わ、わかった……!』
一夏は一瞬混乱するが、ISの反応が消えた事だけは理解する。
一夏は一先ず、千冬の言う通り目の前の敵に集中する事にした。
【Side Out】
【Side ?】
今日はクラス代表戦。
私も代表候補生で、名目上専用機持ちと言う理由でクラス代表に選ばれた。
だけど、今日のクラス代表戦には出場しない。
専用機が完成していないという理由で、棄権を申し出たからだった。
訓練機である打鉄やラファールで出場するべきという声もあったけど、私はそれを断った。
理由は、訓練機では実力を出し切れないという事。
だけど、それは本当は建前だって自分でもわかっている。
本当の理由は織斑 一夏。
自分が『量産機』を使っているのに、彼が『専用機』を使っているという事実を突き付けられ、自分が惨めになる気がしたから。
私は本当なら、今頃専用機を受け取っている筈だった。
優秀な姉さんと比べられ、勝手に期待されて勝手に落胆される。
それでも期待に応えようと努力を続けて、代表候補生の座を勝ち取り、専用機が貰えることも決まった。
やっと私の努力が報われる時が来た。
そう思っていた。
だけど、私の専用機の開発が始まった直後、世界初の男性IS操縦者である織斑 一夏が発見された。
日本政府はすぐに織斑 一夏の専用機の開発を指示。
白羽の矢が立ったのが、私の専用機開発を受け持っていた『倉持技研』だった。
指示を受けた『倉持技研』は、織斑 一夏の専用機の開発を急ピッチで進める為に、私の専用機の開発を無期限で凍結。
技術スタッフを全て織斑 一夏の専用機に回した。
その事を伝えられた時、私は報われたと思った努力が水の泡にされた気がして絶望した。
だけど、姉さんもISを1人で組み上げたと聞いた。
だから、私も専用機を自分で組み上げて見せる。
そう自分を奮い立たせて、私の専用機のパーツをすべて引き取り、空いた時間は全て専用機の組み上げに費やす事に決めた。
だから、クラス代表戦は辞退したから、今日1日は丸々専用機の開発に時間を使うつもりだった。
それなのに………
「かんちゃ~ん! 今日のクラス代表戦見に行こうよ~! ドルドル達にも紹介したいしさ~!」
昔から更識家に仕える布仏家の娘で私専属のメイド、布仏 本音に、クラス代表戦を見に行こうと誘われた。
私は断ろうとしたけど、本音の言葉の中に気になる単語があった。
「…………ドルドルって何?」
私は思わず聞き返した。
「ドルドルは、ドルモンって言うデジモンだよ~。くっきー達は、本物のデジモンテイマーだから~。かんちゃんもデジモンに興味あるでしょ~?」
本音の言葉に、私は物凄く興味を引かれた。
もしかしたら、7年前に私達を助けてくれた、あの黒い騎士の様なデジモンと、何か関係があるかもしれないとも思った。
結局私は、自分の好奇心に負けて、クラス代表戦の観戦に行く事にした。
正直ガッカリした。
もう1人の男性IS操縦者である黒騎 大士を見て、私はそう思った。
本音を言えば、黒い騎士の様なデジモンと関係があったり、物語のヒーローの様な存在を期待していた。
でも、私達とは少し離れた席に座っている彼を見た瞬間、私は悟った。
『彼は無い』と。
デジモンを連れている様だけど、彼はヒーローでも何でもない。
直感だけでそう思った。
正直、もうここに居る意味は無いと思ってたけど、折角連れて来てくれた本音に悪い気がして、1試合だけは見ていこうと思った。
そして、その試合は1組対2組。
あの織斑 一夏が出場する試合だった。
その試合内容は、正直落胆しか無かった。
折角の専用機なのに、そのポテンシャルを全然引き出せていない。
素人だから仕方ないかもしれない。
突然IS学園に放り込まれて、彼自身も困惑しているのかもしれない。
だけど、この程度の実力者の為に、私の努力を水の泡にされた事に納得がいかなかった。
私は自然と拳を握りしめる。
悔しかった。
泣きたかった。
叫びたかった。
感情が抑えきれない。
それが限界に達しようとした時、異変が起こった。
何かがアリーナ中央辺りに激突し、警報が鳴り響く。
観客席のシェルターシールドが閉まり、観客席は、非常灯の光で赤く染まる。
「な、何………!?」
「かんちゃん………!」
私は思わず隣にいる本音と身を寄せ合う。
周りの生徒達は、我先にと避難を始めた。
「かんちゃん……! 私達も……!」
「う、うん………!」
本音に促され、私達も避難を始めようと席を立った。
その時、
―――ドゴォォォォォォォォン!
何の前触れもなく、シェルターシールドによって覆われた天井が爆発した。
爆発と共に天井の瓦礫が降り注ぐ。
私達は、咄嗟にその場に伏せた。
「きゃぁああああああああっ!?」
「ぎゃっ!?」
「いやぁああああああああああっ!?」
「何よこれぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
周りからは瓦礫に巻き込まれたと思われる悲鳴が響いた。
運良く大きな瓦礫は私の上には落ちなかったようで、小さな破片で負ったかすり傷と砂埃で埃まみれになった程度だ。
少しして、天井の崩落も収まり、私は顔を上げる。
そこには、
「あ………ああ………!」
目の前にはモクモクと立ち昇る爆煙。
そして、瓦礫の崩落に巻き込まれた生徒達が血を流しながら倒れている。
中には、大きな瓦礫の下敷きとなり、絶対に助からないと分かるほどの量の血溜まりが広がっている所もあった。
すると、目の前の爆煙の中に、怪しく光る赤い光を目撃した。
その得体のしれない光に、私は恐怖を感じる。
「ひっ………!」
思わず口から悲鳴が零れた。
煙が晴れていくとそこに現れたのは、深い灰色をした全身装甲のISだった。
バイザーに取り付けられている、5つのカメラアイが、怪しい赤い光を放つ。
「ひっ………に、逃げないと………ほ、本音…………本音っ!?」
私はすぐ傍に伏せている筈の本音と一緒に逃げようとした。
でも、
「………かん………ちゃん…………」
返って来たのは力無い返事。
私は本音に振り返る。
その瞬間絶句した。
本音は、大きな破片が当たったのか、頭から血を流しており、更に本音の下半身は大きな瓦礫に挟まれていた。
状況から見て、潰されてはいない様だけど、完全に挟まれて身動きが取れない状況だった。
「ほ、本音……!」
私は本音を引っ張り出そうと手を引っ張る。
だけど、本音の下半身は完全に瓦礫で挟まれていて、抜ける気配が無い。
次に私は、本音を挟んでいる瓦礫を退かせないかと思い、瓦礫に手を掛ける。
「んんっ………!」
力を入れて瓦礫を持ち上げようとするけど、ビクともしない。
その時、ガシャン、と正体不明のISが一歩踏み出した。
私は思わずそちらを振り向く。
バイザーに付けられているカメラアイは、確実に私の姿を捉えていた。
「う、ううっ………!」
私は急いで本音を助け出そうと瓦礫を退かす事を試みる。
だけど、先程と同じようにビクともしない。
「は、早く……早くしないと………!」
一歩一歩近付いてくる正体不明ISの足音に、私の心に焦りが広がる。
だけど、状況は変わらない。
その時、
「か、かんちゃん………私の事はいいから………逃げて………」
本音がか細い声でそう呟く。
「駄目………! 本音を置いて行けない……!」
私は反射的に首を振る。
「かんちゃん……早く………あいつが来ちゃう…………」
本音は尚も私に逃げるように言う。
正直、とても怖い。
今すぐにでも逃げ出したかった。
だけど、私は本音を置いて逃げる事は出来なかった。
「かん………ちゃん………」
「本音………!」
そして、ガシャンと言う音がすぐ傍で聞こえて止まった。
私が恐る恐るそちらを見ると、すぐ傍で私達を見下ろす巨躯。
「あ………あ…………あ…………!」
感じるのは圧倒的な恐怖。
腰が抜けて立つ事も出来ない。
そのISがゆっくりと右腕を振り被っていく。
恐怖で震えが止まらず、カチカチと歯が音を立てる。
「だ……誰か………助け……………」
私は情けなく助けを乞うことしか出来ない。
だけど、この状況で私達を助ける事が出来る存在が居ない事も、頭の冷静な部分が理解していた。
それでも助けを乞わずにはいられない。
ISの右腕が、完全に振り被られる。
あの拳が振り下ろされれば、私は死ぬ。
本音も死ぬ。
皆死ぬ。
「し、死ぬ……………?」
死ぬ。
紛れもなく死ぬ。
確実に死ぬ。
100%死ぬ。
頭の中に、『死』が駆け巡る。
その果てに辿り着いた答えは、
「………………い、嫌………」
『死』への拒絶。
「死にたくない……………!」
『生』への渇望。
「助けて…………誰か………助けてよぉ………!」
『救』いを求める声。
だけど、ISの目の前の腕が振り下ろされ始める。
死の間際の所為か、その拳の動きがゆっくりに感じる。
でも、走馬灯すら見る暇もない。
私は救いを求め続ける。
「お願い…………」
私を………
本音を………
この死の『運命』から救って…………
私の…………
「私のヒーロー……………」
そして…………
ISの拳が私の眼前に迫り………………
次の瞬間、目の前のISが横殴りに吹き飛ばされた。
「…………………………え?」
私はしばらく呆然とした後、気の抜けた声を漏らした。
私達に絶対の『死』を与える筈だった正体不明のISは、左肩部を拉げさせて壁にめり込んでいた。
そして、その代わりに私の前に立っていたのは…………
「………………大丈夫か?」
右の拳に金色の光を宿した男性。
先程、『彼は無い』と判断していた黒騎 大士だった。
「あ………はい…………」
私は呆然と頷く。
その時、ガラガラッと瓦礫が崩れる音がして、さきほどのISが立ち上がろうとしていた。
「……………あっ………!」
私は先程の恐怖が思い起こされる。
でも、
「安心しろ。すぐに終わらせる」
彼はそう言って、私を庇うように立ちはだかった。
金色の輝きを宿す拳と、大きな背中。
「…………………ヒーロー」
私は思わずそう呟いた。
でも、彼は立ち上がったISに意識を向けていた。
「………あれだけのダメージを負ってあんな動きは人間に出来ない筈…………もしかして無人機か?」
彼が怪訝そうに呟くと、ISが右腕を此方に向ける。
すると、右腕に備え付けられていた砲口から光が溢れ、ビームが放たれた。
「ッ……!?」
私がそう認識した瞬間、思わず息を呑む。
だけど、
「フン……!」
彼がくだらないと言わんばかりに鼻を鳴らしながら金色の光が宿った右手を払うと、放たれたビームはあっさりと弾かれて四散した。
そして次の瞬間、彼が右の拳を握りしめると腰だめに構え、
「はっ!」
地面を蹴ったかと思うと、彼は一瞬でISの懐に飛び込んでいた。
そして、
「はぁあああっ!!」
金色の光が宿った拳をISの胴体に叩き込んだ。
普通であれば、人の拳でISを殴ったってビクともしない。
寧ろ拳の方が壊れる。
それなのに………………
目の前で起こったのは…………………
ISの上半身が木端微塵に吹き飛んだ光景だった。
その現実感が全く無いその光景は、私の心に衝撃を与えた。
ドクンドクンと心臓が高鳴りそうになる。
痛いほどに高鳴る心臓。
でも、それが何処か心地いい。
だけど、不思議な事に、その想いが急速に冷やされるような感覚を受けて心臓が落ち着いていく。
でも、目の前の光景を見るたび、心臓が高鳴りそうになり、それでも冷や水を掛けられたように落ち着かされる。
それを何度も繰り返している内、いい加減鬱陶しくなった。
再び高鳴る心臓。
そして、再び冷や水を掛けられた様な気分になるその瞬間、
―――何か知らないけど、折角人がいい気分に浸ろうとしているのに、邪魔するな!
私は強く、強くそう思った。
そして、
―――バキンッ!
と何かが砕けるような感覚がした。
そして、もう冷や水を掛けられるような感覚はしなくなった。
高鳴る心臓は収まりを知らず、破裂しそうな程。
それでも心地いい気分が胸に広がる。
彼の姿が………
在り方が………
私がずっと求めて止まなかったものと一致する。
「見つけた。私のヒーロー………!」
求めて止まなかった、『私のヒーロー』だと。
彼がこちらを振りかって歩み寄ってくる。
「平気か?」
彼はそう言って私に手を差し出す。
「あ、はい……!」
私はその手を取って立ち上がった。
さっきまで腰が抜けて立てなかった筈だけど、不思議と立ち上がることが出来た。
その時私は、本音の事を思い出した。
「本音!」
私は振り返って本音を確認する。
本音は先程のままだけど、気を失っていた。
「布仏さんか………!」
彼はそう言うと、本音の下半身を抑え付けていた瓦礫に手を掛けると、
「フッ!」
先程私がいくら頑張っても退かす事が出来なかった瓦礫を軽々と持ち上げた。
「今だ! 引っ張り出せ!」
「は、はい!」
私は本音の上半身を抱えると、瓦礫の隙間から引っ張り出した。
「本音!」
「………う………」
私が呼びかけると、本音は僅かに反応を示す。
その事に幾分かホッとした。
「早く……早く治療を……!」
でも、傷の具合が心配。
私はすぐに本音を運ぼうと思ったけど、
「落ち着け。一先ず怪我人はこっちに集めろ」
彼はある方向に促す。
そこには、多くの怪我人が集められていた。
彼らのデジモン達も、怪我人に手を貸している。
正確には、怪我人だけじゃなくて、明らかに手遅れ………死んでいると分かる人たちもいる。
「うっ………!」
私はその光景に思わず吐きそうになった。
すると、
「そっちは大丈夫だった?」
さっき彼と一緒に居た女生徒の1人が声をかけてくる。
確か彼女は園部 優花さん。
彼女は血みどろで損傷の激しい女子生徒の遺体を、何でもないように担いでいた。
彼女は集めていた怪我人の近くにその遺体を寝かせる。
「これで怪我人は全員よ」
優花さんがそう言うと、
「そうか。なら葵、頼む」
彼がもう1人の女生徒である神代 葵さんにそう言うと、
「わかったよ!」
彼女はそう言って手を翳すと、辺りが光に包まれた。
「きゃっ!?」
私は思わず目を庇う。
その光はすぐに収まり、目を開けると、
「えっ……………?」
信じられない物を目にした。
先程まで、重傷者や死亡者までいた筈のそこには、怪我どころか、服に傷一つ無い生徒達が横たわっていたからだ。
「な、何が………?」
私は思わず葵さんの方を見たけど、葵さんは唇の前に人差し指を立て、
「ひ・み・つ♪ ねっ?」
色っぽい仕草でそう言い、私は頷く事しか出来なかった。
「さて、外はどうなってるかな?」
彼がそう言うと、先程ISが突き破って来た天井の穴に向かって跳躍した。
普通の人間では絶対に届かない高さを、軽々と飛び越える。
すると、葵さんと優花さんも、彼に続いて天井から外に跳躍していった。
【Side Out】
いきなり現れた正体不明のISを破壊した後に、死傷者を葵の再生魔法と魂魄魔法で治療した後、俺達は外の様子を窺う為に外に出てきた。
尚、魂魄魔法を掛けた際に、記憶の改ざんも行っており、天井の崩落直前からの記憶は消してある。
アフターケアと言う奴だ。
真面な神経なら、絶対にトラウマものだしな。
そして、もう1機の正体不明ISだが、ただいま絶賛バトル中だった。
正確には織斑と鈴が押され気味だが。
しばらく様子を窺っていると、何やら作戦を立てたようで、気合を入れ直して動き出そうとした。
その瞬間、
『一夏ぁぁぁぁっ!!』
スピーカーから大音量の篠ノ之さんの声が聞こえてきた。
『男なら………男なら、そのぐらいの敵に勝てなくてなんとする!!』
見れば、篠ノ之さんが中継室からマイクに向かって叫んでいた。
敵ISが中継室の方を向く。
そして、篠ノ之さんのいる中継室に右腕の砲口を向けようとしていた。
織斑たちも、行動を開始している。
だが、タイミング的にギリギリだろう。
「拙い! 優花!」
俺は咄嗟に優花に呼びかける。
優花は、〝宝物庫〟から苦無を右手に出現させ、
「ったく! 何やってんのよ、あの子………はっ!」
敵ISに向かって投擲した。
投擲された苦無は、アリーナのシールドを紙の如く貫き、一瞬にして敵ISの右腕を貫く。
そしてその直後、
「はぁあああああああああああっ!!」
猛スピードで突っ込んできた織斑が敵ISの右腕を切断した。
だが、あのISも無人機らしく、その事に何の反応も見せずに左腕で織斑を殴り飛ばした。
「ぐっ!」
織斑が地面に叩きつけられる。
織斑が敵ISを見ると、左腕の砲口を織斑に向けていた。
「一夏っ!!」
鈴が悲鳴に近い声を上げる。
だが、今度は俺達は何もしない。
何故なら、
「狙いは?」
一夏は不敵な笑みを浮かべながら呟く。
『完璧ですわ!』
織斑の言葉に続き、オルコットさんの声が聞こえた。
その瞬間、敵ISにレーザーが雨のように降り注ぐ。
ブルー・ティアーズの一斉射撃だ。
体勢を崩す敵IS。
「決めろ! セシリア!」
『了解ですわ!』
アリーナの観客席上部から、スナイパーライフルを構えたオルコットさんの姿。
そして、狙いを定め、引き金を引いた。
ビームは一直線に敵ISに向かい、その腹部を撃ち抜いた。
地上に倒れる敵IS。
「ふう、ナイスだセシリア」
立ち上がる織斑。
「無茶をしますわね。 間に合わなかったらどうするつもりだったんですの?」
オルコットさんが織斑の近くに降り立ち、そう言った。
「セシリアを信じていたからな」
「そうですの………スナイパーとしての腕を信じていただけるのは、誇らしい事ですわ」
オルコットさんは胸を張ってそう言う。
それを見ていた俺達だったが、優花は〝宝物庫〟から槍を取り出すと、
「ったく、健闘を称えるのは構わないけど、詰めが甘いの……よっ!」
倒れている敵ISに向かって投げ放った。
その直後、敵ISが再起動する。
織斑達もそれに気付いて慌てて対処しようとしたが、それよりも早く優花が投げた槍が敵ISに直撃し、粉々に粉砕した。
優花は技能で投げた槍を回収すると、
「さて、バレると厄介だから、お暇するとしますか」
誰にも悟られないように、その場を後にするのだった。
【Side 三人称】
IS学園の地下50メートル。
限られた権限を持つ者しか入れない隠された空間で、正体不明ISの解析が進められていた。
学園を襲撃した2機のIS。
「織斑先生」
真耶が千冬に話しかける。
「あの2機のISの解析結果が出ましたよ」
「ああ、どうだった?」
「あの2機は………無人機です」
無人で動くIS.
遠隔操作、独立機動共に、どちらも完成していない技術だ。
「どの様な方法で動いていたかは不明です。どちらも機能中枢が粉々でしたので………修復も不可能です」
「コアは如何だった?」
「観客席に現れた方は完全に破壊されていて確認できませんでしたが、織斑君達と戦った方は、何とか確認は取れました…………それは、登録されていないコアでした」
「やはりか…………」
「何か心当たりがあるんですか?」
「いや、無い。今はまだ………な」
千冬はモニターに顔を戻した。
すると、
「それにしても、観客席に居た生徒達は運が良かったですね! あれだけの爆発にも関わらず、軽傷者が数名で済んだんですから! 私は死者が出ることも覚悟しましたよ!」
今だから笑って言えることだが、当時は気が気でなかった。
「まあな…………本当に不思議なものだ…………」
「不思議と言えば、観客席を襲撃したISは、一体誰に倒されたんでしょうね?」
「わからん。だが、あのISはあの場に現れてから、1分と立たずに反応が消失していた。ほぼ瞬殺されたと言っていいだろう」
「それだけの実力を持つ生徒さんがいるって事なんでしょうか?」
「もう1つ不明な事がある。あの場には他にISの反応は現れなかった。という事は、かなり高いステルス性を持ったISと言うことになる」
「…………何処かのスパイが潜り込んでいるという事ですか?」
「可能性だがな。だが、警戒するに越した事は無いだろう」
「そうですね。それに、結果的には生徒さん達を護ってくれたって事なんですから!」
「あくまで自衛の為に倒しただけの可能性が高いと思うがな………」
千冬は、正体不明の何者かに頭を悩ませるのだった。
IS編第4話です。
ゴーレムを1機増やして大士と戦わせました。
パンチ2発で終わったけどね。
因みに一撃目は、人が乗ってると思って手加減したため、あの程度ですみました。
その気だったら1発で終わります。
簪はつり橋効果にブーストかかったみたいな感じです。
強引過ぎました?
普段からヒーロー求めていて、死の寸前に救われたら、運命位ぶち破っても………
やっぱり強引な気がしてきた。
で、巻き込まれで死傷者多数。
葵のお陰て無かったことになりましたが。
次回は転校生の回。
お楽しみに。
シャルロットとラウラはどうすべきか?
-
原作通り一夏に好意を持つ
-
シャルロットだけ好意を持つ
-
ラウラだけ好意を持つ
-
好意を持たない