6月も中旬に入り、月末の学年別トーナメントの為に訓練に精を出す生徒が増え始めた頃。
俺はいつも通り、放課後の自主練を美姫の指導のもと行っていた。
最近は、時々簪さんも短い時間だが訓練を見てくれる時がある。
そして今日は、美姫も打鉄を借りられたので、自分の訓練と並行して俺の訓練を見てくれている。
そんな中、俺達と同じようにアリーナで訓練している生徒達の中に、目立つ2人が居る事に気付いた。
それは、俺達の様な量産型のISではなく、専用機を纏う2人。
オルコットさんと鈴の2人だ。
どうやら2人は模擬戦をするようで、互いに飛び出した瞬間、2人の間が突然爆発した。
2人が思わず模擬戦を中断すると、その場に黒い専用機を纏ったボーデヴィッヒさんが現れた。
どうやらボーデヴィッヒさんが挑発したようで、オルコットさんが諫めようとするも叶わず、鈴が感情のままにボーデヴィッヒさんに突っ込んでいった。
仕方なくオルコットさんもボーデヴィッヒさんとの戦闘に突入するが、そこで不思議な現象を目撃した。
青龍刀を振り被って突撃した鈴に、ボーデヴィッヒさんが右手を翳すと、振り下ろされた青龍刀がピタリと止まったのだ。
「ッ……!? バリアか………!?」
俺は一瞬、シールドバリアとは別のバリアによって止められたと思ったのだが、よく見れば青龍刀が止められたわけではなく、鈴の動きそのものが止められているようだった。
「いや………拘束か!」
俺はそう呟く。
次の瞬間、ボーデヴィッヒさんのISの右肩に装着されていた砲身が前を向き、轟音と共に火を噴いた。
爆発に呑まれて吹き飛ぶ鈴。
オルコットさんが援護の為に狙い撃つが、ボーデヴィッヒさんは分かっていたように回避する。
不利なはずの2対1の筈なのに、ボーデヴィッヒさんは終始有利に戦いを進めていく。
「あの子………戦い慣れてるわね………」
俺と共にその様子を見ていた優花が呟く。
「ああ………技術的にはオルコットさんや鈴も負けていない筈だが、『戦い』の経験値が圧倒的に違う」
ボーデヴィッヒさんは、オルコットさんや鈴、デュノアの様な、訓練で磨いた『技術』だけじゃない。
実戦の中で磨かれる『戦いの勘』というものが2人より上回っているように感じた。
「やっぱりラウラちゃんって軍人なのかな?」
葵がそう呟く。
それは俺も感じていた。
転校してきた時の自己紹介の時にも、織斑先生を『教官』と呼んでいたし………
もしかしたら、織斑先生は昔軍隊に在籍していて、ボーデヴィッヒさんはその教え子なのかもしれない。
そう思いながら彼女達の戦いを眺めていたのだが、だんだんと雲行きが怪しくなってきた。
俺は、ボーデヴィッヒさんはオルコットさんや鈴のISのデータを取る為に戦いを吹っ掛けたと思ったのだが、ボーデヴィッヒさんは完全に決着が付いているにも関わらず、攻撃の手を緩めようとしない。
ただ単純に、相手を『力』で叩き潰す。
その行為自体に愉悦を感じているようにさえ思えた。
その時、
「…………駄目………! それ以上は………!」
その様子を見ていた美姫が我慢できなくなったのか、彼女達に向かって飛び出した。
「そこまでだよ!」
美姫が間に割り込んで戦いを止めようとする。
「それ以上はやり過ぎ! もう決着は付いたでしょ!?」
ボーデヴィッヒさんに向かってそう叫ぶ。
「何だ………? 貴様は………?」
ボーデヴィッヒさんは空中から見下すように問いかける。
「そんな事はどうだっていいでしょ!? 私はあなたがやり過ぎだと思ったから止めただけ!」
美姫がそう叫ぶと、ボーデヴィッヒさんは美姫の纏っている打鉄を見て、
「ふん………専用機も持っていない雑魚が私の前に立ちはだかるか…………」
ボーデヴィッヒさんは腕を組んだままレール砲を美姫へ向けて発射する。
「ッ!?」
俺は思わず反応してしまったが、どうやら威嚇だったようで、美姫のすぐ傍の地面に着弾した。
「きゃあっ!?」
だが、爆風に煽られて美姫は悲鳴を零す。
「退け。雑魚に要は無い」
ボーデヴィッヒさんはそう脅しをかける。
「………ッ! 退かないよ! これ以上彼女達を傷付ける意味なんて無い!」
それでも美姫は退かなかった。
勇気を振り絞ってボーデヴィッヒさんの前に立ちはだかる。
「………甘いな。戦いとは相手を完全に叩き潰すまで終わらん。この程度でやり過ぎとは温いにも程がある………!」
ボーデヴィッヒさんはワイヤーブレードを伸ばして美姫をの身体を縛り付けた。
「ッ!? これって………!」
次の瞬間、美姫の身体が振り回された。
「きゃぁああああっ!?」
そのまま地面に叩きつけられる。
「あぐぅっ!?」
「雑魚の癖に、私の前に立ちはだかった愚かさを悔いるが良い……!」
ボーデヴィッヒさん………ボーデヴィッヒは尚も美姫を振り上げようとする。
だが、それを黙って見ていられるわけは無かった。
「そこまでだ」
俺は声をかけてボーデヴィッヒの行動を止める。
ボーデヴィッヒは俺の方を向くと、
「貴様は………もう1人の男の操縦者か…………織斑 一夏とは違い、専用機も貰えなかった取るに足らぬ存在………貴様も甘い戯言でこの私の前に立ちはだかるか」
同じように見下した目でそう言い返してくる。
「………………戦いとは相手を完全に叩き潰すもの………別にそれを否定する気はない」
「……ほう?」
ボーデヴィッヒは若干意外そうな声を漏らした。
「だが、その叩き潰す相手によっては、別の誰かの怒りを買うことも………解ってるんだろうな………?」
「フン…………なら、怒りを買った奴諸共、叩き潰せばいいだけの話だ」
「そりゃごもっとも…………だっ!!」
俺はそう返すと同時にボーデヴィッヒに向かって突っ込んだ。
「くだらん」
ボーデヴィッヒは右手を前に翳す。
すると、身体中が何かに縛り付けられたように動かなくなった。
「今のは奇襲のつもりか………? せめて
「ッ………これがさっきの拘束技か………!」
「このシュヴァルツェア・レーゲンの慣性停止結界の前では何者も有象無象に過ぎない。貴様も………あの織斑 一夏もな……!」
ガコンと言う音と共に、レール砲の砲口が俺に向けられる。
「……………これは試合じゃない」
「………ん?」
俺の零した言葉にボーデヴィッヒは反応する。
「この『戦い』に、『
「良く分かっているではないか。だからどうした?」
俺の言葉にそう言い返すラウラ。
「…………つまり……俺を縛るものは………何もない………!!」
俺はデジソウルで身体能力を強化する。
「うぉおおおおおおおおっ………!」
俺の身体能力が拘束力を超え、俺の身体が動き出す。
「馬鹿な!? 慣性停止結界の中で動けるはずが!?」
ボーデヴィッヒは驚愕の声を漏らす。
慣性停止結界とやらで拘束されている俺の身体。
なら、拘束する力以上の『力』なら動けるのは道理!
俺は拳を握り、デジソウルを宿した一撃を見舞おうとした瞬間、
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
アリーナを覆っていたバリアが破られ、白式を纏った織斑が突っ込んできた。
「ッ!?」
思わぬ横やりにボーデヴィッヒは咄嗟に飛び退き、俺は拘束から解除させられる。
俺も肩透かしを食らったような気分になり、デジソウルを消した。
織斑は俺達の前に護る様に立ちはだかる。
「織斑 一夏………!」
ボーデヴィッヒは憎々し気にその名を呟く。
「丁度いい………! 貴様もその雑魚諸共叩き潰してやる!」
ニヤッと笑みを浮かべて突撃しようとした。
その瞬間、再び影が割り込み、甲高い金属音と共にボーデヴィッヒの動きを止めた。
「やれやれ………これだからガキの相手は疲れる………」
それは、織斑先生だった。
しかも、ISもISスーツも着ておらず、いつもの授業中に着ているスーツ姿だった。
だが、その手にはIS用の近接ブレードを持っており、そのブレードでボーデヴィッヒの一撃を受け止めていた。
「織斑教官………!?」
ボーデヴィッヒは相手が織斑先生だと分かると、途端に大人しくなった。
「模擬戦をやるのは構わん……が、アリーナのバリアまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は、学年別トーナメントでつけて貰おうか」
「教官がそう仰るなら」
ボーデヴィッヒはそう言ってあっさりとISを解除した。
「織斑、黒騎、お前達もそれでいいな」
「あ、ああ………」
「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
織斑先生に突っ込まれる織斑。
「俺はあっちが敵対してこなきゃ戦う理由は無いので」
あくまで美姫を傷つけようとしたから戦ったまでの話だ。
「では、学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁止する。解散!」
織斑先生が一度強く手を叩いた。
その後。
オルコットさんと鈴を織斑が保健室に運ぶついでに、美姫も検査をして貰うために、俺も付き添いで着いて来ていた時だった。
ドドドッ、と何故か地響きが聞こえてくる。
次の瞬間、ドアが吹き飛ぶ。
すると、大勢の女子がなだれ込んできた。
そして、あっという間に織斑とデュノアの周りに集まる。
「な、何なんだ?」
「ど、如何したの皆?」
訳の分からない織斑とデュノアはそう質問する。
すると、
「「「「「「「「「「これ!!」」」」」」」」」」
女子達が一斉に取り出したのは、1枚の紙。
織斑とデュノアがそれを読むと、
「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。 尚、ペアが出来なかったものは、抽選で選ばれた生徒同士で組むものとする』…………これって………」
織斑が内容を読み上げた所で、
「私と組も? 織斑君!」
「私と組んで! デュノア君!」
織斑とデュノア次々に迫られる。
まあ数少ない男(デュノアは実際女だが)と組みたがる女子は多いだろう。
すると、織斑はパンッと手を合わせ、
「皆悪い! 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
そう言った。
おそらく、デュノアの性別がバレないようにするために、咄嗟の思い付きだろう。
だが、その選択は間違っていなかったらしく。
「まあ、そういう事なら」
「他の女子と組まれるよりはいいしね」
「男同士っていうのも、絵になるしね」
女子達は、どうやら織斑とデュノアの事はあっさりと諦めたらしい。
すると、
「お、男が良いっていうのなら、まだ大士がいるじゃん………!」
織斑は女子達の矛先を変える為に、俺を生贄にしようとしたらしい。
「「「「「「「「「「………………………」」」」」」」」」」
女子達の視線が一瞬俺に向く。
だが、
「……………黒騎君は別にいいや」
「私もパス」
「そこまでして組みたいとは思わないかなぁ………?」
すぐに視線を外して口々に不満を漏らした。
「……………………………」
泣いてなんかないやい。
「あ、あれ………?」
織斑は女子達の反応が思っていたのと違ったらしく、怪訝な声を漏らした。
「それに黒騎君は、神代さんか園部さんと組むだろうし………」
「ああ、それ言えてる。あの3人、良く甘ったるい空気垂れ流してるし」
そんな空気垂れ流しだったの?
それは初耳だ。
そんな事を言いながら、保健室から出ていく女子生徒達。
織斑はその後、鈴から自分と組むように迫られたが、山田先生から鈴とオルコットさんのISはダメージレベルがCに達してしまったらしく、危険という事で学年別トーナメントへの出場は禁止されることになった。
尚、俺のパートナーは、公平なくじ引きの結果、優花に決まった。
その代わり、次にこういうタッグを組む時があった時は、葵が優先されるという条件付きだ。
そして、学年別トーナメント当日。
俺、織斑、デュノアは、男子専用に宛がわれた更衣室でISスーツに着替えていた。
「しかし、すごいなこりゃ」
織斑がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。
「3年にはスカウト。2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」
デュノアがそう説明する。
「ふーん、ご苦労なことだ」
織斑は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。
「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」
デュノアが織斑を見てそう言った。
「ん? あ、ああ。まあな」
「感情的にならない方がいいよ。ボーデヴィッヒさんは多分、1年の中でも最強に近いと思う」
「ああ、分かってる」
デュノアの言葉に織斑は頷く。
その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。
「あ、対戦相手が決まったね」
その言葉に、俺もモニターに目を向ける。
「ッ………!?」
俺は僅かに驚愕の声を漏らす。
何故なら、モニターに映し出されたトーナメント表には、『第1試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、神代 葵』と表示されていたからだ。
「まさか一戦目で当たるなんて…………しかも、ペアが神代さん………」
「丁度いいぜ……勝ち進む手間が省けたってもんだ!」
織斑は勇ましくそう言う。
「う、うん………そうだけど………」
デュノアは遠慮がちに俺に視線を向けた。
若干のやりにくさを感じているんだろう。
「別に遠慮はいらないぞ。確かに俺は葵の応援はするが、勝負に茶々入れるほどガキじゃない」
そもそも、何処まで行っても『試合』だしな。
『死合』なら話は別だが。
「…………なら、負けて泣かしても文句は言うなよ………?」
織斑が若干含みを持たせたような言葉で俺に行ってくる。
まだ俺に思う所があるようだ。
「たかだかISの試合で負けた程度で葵は泣いたりしねーよ」
俺達にとってはISなんて拘束具みたいなものだし。
拘束具付けた状態だから、真剣勝負とは程遠いし。
泣くほど真剣には打ち込めない。
因みに俺と優花は第2試合だった。
【Side 三人称】
葵がピットへ行くとそこには既にラウラが居た。
「フン。貴様がペアか」
腕を組みながら不遜な態度でそう言うラウラ。
それでも葵は笑みを浮かべ、
「ラウラちゃんだね。私は神代 葵! このトーナメントの間はよろしくね」
葵はそう言って握手の為に手を差し出す。
しかし、
「貴様と慣れ合う気は無い。私がペアを組むのはそれがルールだからだ。精々私の邪魔をしない様に隅で大人しくしていることだ」
ラウラは握手に応えようとせず、そう言って背を向ける。
「………………もう……!」
葵は困った顔をして、握られる相手が居なくなった右手を数回ニギニギと閉じたり開いたりした。
「私も出場するからには、出来るだけ勝ちたいんだけどなぁ………」
そう呟きながらカタパルトへ向かうラウラの背を眺める。
「……………どうしよっかな~………」
葵はラウラの背を眺めながら自分も準備を進めるのだった。
葵達がアリーナ内に行った後、次の試合の出場者である大士と優花がピットにやって来た。
傍らには、ドルモンとハックモン、そしてリュウダモンもいる。
「葵、面倒くさい相手と組まされたわね………」
優花が葵に同情するような視線を送る。
「まあ、抽選の結果だから仕方ないと言えば仕方ないんだが………」
大士はそう言うが、それでも心配そうな視線をモニターに向けている。
「…………で? あなたは何か用?」
優花がモニターに目を向けたまま突然そう言った。
すると、
「やっぱりわかる?」
柱の影から楯無が姿を見せた。
「楯無……いたのか?」
気付いていなかった大士はそう声を漏らす。
「大士が気付かないのは仕方ないわよ。分かりやすく言えば、遠藤が自己主張した時並に気配を消してるから」
「そりゃ凄いな」
優花の言葉に大士は感心した声を漏らす。
「……………あれ? 遠藤が誰だか知らないけど、何で私、『自己主張した時並』で感心されてるの?」
楯無が、優花と大士のやり取りに疑問符を浮かべる。
「それはともかく、何か用か?」
大士がそう聞くと、楯無は態度を改め、
「えっと………遅くなったけど、簪ちゃんを助けてくれて、ありがとう……!」
そう言って頭を深く下げた。
「おいおい、何やってるんだよ?」
いきなり頭を下げた楯無に大士は困惑したが、楯無は頭を下げたまま、
「クラス代表戦の時………2機目の無人ISが観客席襲った時………あそこは簪ちゃんと本音が居たエリア………奇跡的に死者や重傷者は居なかった………ううん、違う。きっと、少なくとも重傷者は居た筈………あれだけの被害で軽症者だけっていうのは奇跡でもあり得ない……! 君達……だよね? 助けてくれたの……?」
そう言った。
大士達に確認するような言葉だが、頭を上げて大士達を見つめるその目には確かな確信を持っていた。
「……………他の人達には黙っといてくれ」
大士は息を吐きつつ肯定の意を示す。
「やっぱり………! 重ねて言うけど、本当にありがとう!」
楯無は改めて頭を下げた。
「別に感謝されたいわけじゃない。あの場所に偶々いて、偶々何とか出来る術を持っていたから対処しただけだ。もし別のアリーナが襲われていたとしても、美姫が被害に遭っていなければ、俺達は特に何かすることは無かっただろう」
大士がそう言うと、
「そうは言っても、何かと理由つけて助けてただろうけどね」
優花がそう付け加える。
「おい………!」
「だってそうでしょ?」
「………………」
優花の言葉に何も言えなくなる大士。
それを見て、
「クスッ……!」
楯無が笑みを零した。
すると、
「ところで、そこのデジモン達が大士さん達のパートナーですか?」
楯無がドルモン達を見てそう聞いてくる。
「ああ、俺のパートナーがこのドルモン」
「俺、ドルモン!」
「私のパートナーがハックモンよ」
「私はハックモンだ」
「そして、こっちのリュウダモンは葵のパートナーだ」
「某はリュウダモンと申す」
それぞれを紹介すると、楯無は興味深そうに眺める。
「初めまして。私は更識 楯無よ………へえ~、どれも見た事無いデジモンね………」
「まあ、この3体はメディアとしては、表に出て来てないからな」
楯無の言葉に大士はそう答える。
「ところで、さっきの言い方からすると、やっぱり簪さんはお前の妹なのか?」
大士がそう聞くと、楯無は途端にバツの悪そうな顔をした。
「う、うん………そうだけど………」
「その様子じゃ、姉妹仲はやっぱり良くなさそうだな」
「ううっ………って、『やっぱり』?」
大士の言葉に反応する楯無。
「簪さんは、苗字で呼ばれたくないと言っていたからな。可能性が高いのは姉妹仲が良くないっていうのが一番可能性が高いと思っていただけだ」
「はうっ………!?」
大士の言葉がグサリと刺さったのか、ショックを受ける楯無。
涙目で恨めしそうに大士を睨む。
(…………何か可愛いな)
そんな事を思いながら大士は楯無を見ていた。
「あっ、始まるわよ」
モニターを見ていた優花がそう言う。
モニターの向こうでは、試合開始のカウントダウンが開始されていた。
「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」
ラウラが一夏に向かってそう言う。
「そりゃあ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」
一夏もそう言い返した。
試合開始のカウントダウンが開始され、ゼロになる瞬間、
「「叩きのめす!!」」
一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。
が、ラウラの発生させたAICで動きを止められる。
「くっ!」
「開幕直後の先制攻撃か。分かり易いな」
「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」
「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」
ラウラがそう言うと、肩に装備されたレール砲が一夏に向けられる。
だが、レール砲が放たれる寸前、一夏の頭上からシャルルが飛び出し、アサルトライフルを撃つ事で狙いをずらし、一夏へ放った砲弾は空を切った。
シャルルが高速切替で武装を呼び出し、両手にアサルトライフルを装備する。
「逃がさないっ!」
それをラウラに向かって放とうとしていた。
だが、その寸前、シャルルに影が掛かる。
「ッ!?」
シャルルが上を見上げると、打鉄を纏った葵が両手に2本の近接ブレードを持ち、シャルルに斬りかかろうとしていた。
「たぁああああああああっ!!」
「くっ!?」
シャルルは咄嗟に飛び退いてその一撃を躱すが、もう1本のブレードが横薙ぎに薙ぎ払われる。
「ッ!?」
シャルルは尚も飛び退いて掠める程度に抑えたが、着地した時の体勢が悪い。
葵は尚も追撃しようと飛び込む。
が、
「シャルル!」
一夏が葵の前に立ちはだかって雪片弐型で葵の一撃を止める。
「ッ!」
葵は即座に反対側のブレードを振り被ったが、その瞬間にはシャルルが体勢を立て直し、両手にライフルを展開して葵を狙っていた。
「あっ!」
葵が声を漏らし、一夏がニヤリと口元を吊り上げる。
その銃口から弾丸が放たれる瞬間、葵の打鉄の足にラウラのワイヤーブレードが絡みついた。
「へっ………? ひゃぁああああっ!?」
葵が上空に投げ飛ばされ、入れ替わるようにラウラが前に出てきた。
葵は思いがけぬ出来事に声を上げる。
結果的に弾丸からは逃れられたが、空中で振り回された。
「………っと!」
素人であれば、何が起きたか分からずそのまま地面に叩きつけられていたであろうが、葵は落ち着いていたので空中で制動を掛けてその場に留まる。
「もう、危ないなぁ……!」
葵はやれやれと言わんばかりに声を漏らす。
ラウラは両腕にプラズマブレードを発生させて一夏と切り結んでいる。
葵は気を取り直してラウラに加勢しようと向かったが、その前にシャルルが立ちはだかった。
「僕が相手だよ!」
シャルルがそう言いながら両手のライフルを連射してくる。
「……っと!」
葵はその弾丸を数発受けてしまう。
葵は何とか近付こうとするが、シャルルは得意の
「相性悪いなぁ………」
葵は大きく旋回しながらそう愚痴る。
おそらくこのまま戦ってもシャルルが勝つだろう。
葵はそう予測する。
「それなら…………」
葵はチラリとラウラと一夏に目をやると、
「強引にでも協力してもらおうかなっ!」
葵は大きく旋回したままラウラと一夏が戦っている場所に向かう。
「ッ! 行かせない!」
シャルルはその前に立ちはだかろうとして………
目の前に刃が迫っている事に気付いた。
「わぁあっ!?」
思わずシールドで弾く。
それは、葵が投げ付けた1本の近接ブレードだった。
葵は弾かれたブレードを空中で掴むと、そのまま一夏に向かって斬りかかった。
「なっ!?」
横から割り込んできた葵に、一夏は咄嗟にブレードを受け止めた。
「貴様! 邪魔をするか!?」
味方の筈のラウラが複数のワイヤーブレードを葵に向かって放つ。
「てやっ!」
葵はそのワイヤーブレードの切っ先を両手のブレードで弾き、その矛先を一夏とシャルルに向かわせる。
「「ッ!?」」
両者は同時に驚き、回避が遅れて掠めてしまう。
「ラウラちゃん! 撃って!」
「ッ!?」
ラウラは一瞬驚くが、反射的にレール砲を展開して体勢が崩れていた一夏に向かって放つ。
「ぐあっ!?」
一夏は辛うじて直撃は避けたものの、爆風によって吹き飛ばされる。
「一夏!」
シャルルがライフルを連射しながら一夏の救援に向かう。
葵はラウラを庇うように立ちはだかり、
「ラウラちゃん! ワイヤーブレード!」
「ッ!?」
ラウラはまたも葵の声に従ってワイヤーブレードを放ち、盾になっている葵を避けてシャルルを狙う。
「うわっ!?」
そのワイヤーブレードを避ける為に、シャルルは射撃を中断する。
「てやっ!」
その隙に葵はシャルルに斬りかかり、シャルルは咄嗟にシールドと呼び出したアサルトナイフで2本のブレードを防いだ。
だが、
「ラウラちゃん! 今ッ!」
葵が叫ぶと同時に急上昇し、同時に後方でレール砲を向けていたラウラが砲撃する。
「うわぁぁぁぁっ!?」
シャルルはその砲弾に直撃し、大きく吹き飛ばされた。
「ナイス、ラウラちゃん!」
葵はラウラに笑みを向ける。
「ッ………! フン!」
ラウラは葵から顔を逸らす。
だが、
(くっ!? 何故だ!? 何故私はこいつの言う事にしたがっている!?)
ラウラは自分の行動に困惑していた。
何故1人で戦えるはずの自分が葵の言葉にしたがっているのか。
そして、
(何より………何故それによって攻撃が上手くいったことを、『悪くない』と思っている!?)
ラウラは自分の心に芽生えたものに困惑していた。
因みにラウラが葵の言葉に従ってしまうのは、軍人としての反射と、葵の声に僅かばかりの『神言』が込められていたからだ。
『神言』とは言っても、多少意識を誘導する程度のものだ。
強制的に言う事を聞かせているわけではない。
あくまで切っ掛けを掴ませただけ。
あとはラウラの意思だ。
(なんだかんだ言って、ラウラちゃんも連携の大切さは分かって来てるんだね)
葵はそう思いながら意識を一夏達に向ける。
その時、一夏の雪片のエネルギーブレードが消え、通常の近接ブレードに戻ってしまった。
「しまった! シールドエネルギーが!」
『零落白夜』の使い過ぎで、白式のシールドエネルギーが尽きる寸前まで行ってしまったのだ。
それをチャンスと見たのか、ラウラが飛び出す。
「限界までシールドエネルギーを消耗してしまっては、もう戦えまい!!」
そう叫びながらプラズマブレードを発生させて一夏に向かって突撃する。
だが、その瞬間、シャルルが猛スピードでラウラに接近し、アサルトライフルを至近距離から連射し、次々と命中させる。
「
驚愕するラウラ。
「今初めて使ったからね!」
「この戦いで覚えたというのか!?」
シャルルの言葉に驚愕するラウラ。
尚も攻撃を当て続けるシャルル。
「ラウラちゃん!」
葵が咄嗟に応援に駆け付けようと向き直った時、銃声と共に背中に衝撃を受けた。
「あぐっ!?」
振り返れば、戦いの最中にシャルルが投げ捨てたスナイパーライフルを、一夏が拾って構えていた。
「織斑君が………射撃を………!?」
葵は以前一夏が訓練中にシャルルのライフルを借りて射撃の練習をしていた事を思い出した。
(そっか! あの時と同じ方法で………!)
一夏は続けて発砲し、ラウラに直撃させて隙を作る。
そして、その隙をシャルルは逃さなかった。
「この距離なら外さない!」
シャルルは左腕の実体シールドの中に装備されているパイルバンカーを露にする。
「シールドピアーズ!?」
ラウラが驚愕した瞬間、その切っ先がラウラの腹部に押し付けられ、
――ズドンッ!
という思い炸裂音と共に、ラウラが大きく吹き飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられた。
葵も援護に向かおうとするが、その間にも、次々とパイルバンカーが叩き込まれる。
見る見る減っていくラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギー。
(私は………負けるわけには………!)
減っていくシールドエネルギーの表示を見ながら、ラウラはそう思っていた。
その時、ラウラに声が聞こえた。
『願うか………? 汝、自らの変革を望むか………? より強い力を欲するか………?』
敗北の2文字が見えていたラウラは、迷わずにその声に飛びついた。
敵を倒すために。
何よりも憧れである千冬を、強く、凛々しく、堂々としている千冬の表情を優しい笑みに変えてしまう一夏の存在を叩き潰すために。
(寄越せ………力を………比類なき最強を………唯一無二の絶対を………)
「ラウラちゃん! 駄目っ!」
「ッ!?」
一瞬聞こえた声に、ラウラは僅かに踏みとどまるが、
(…………私に寄越せぇぇぇぇぇっ!!!)
ラウラは『力』を求めた。
Damage Level …………D.
Mind Condition …………Uplift.
Certification …………Clear.
≪Valkyrie Trace System≫…………boot.
その瞬間、
「ああああああああああああっ!!!」
ラウラのISが紫電を放つと共に衝撃が発生し、シャルルが吹き飛ばされた。
「何っ!?」
葵は思わず声を上げる。
すると、目の前でラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』がまるでドロドロと溶ける様に姿を変えていき、ラウラの姿を飲み込んでいった。
ラウラが変異したISに飲み込まれ、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだったものは、真っ黒なISを纏った女性の形へと姿を変える。
その間に、アリーナには警戒態勢が敷かれ、シェルターが閉まる。
すると、
「雪片…………!」
一夏が呟き、剣を正眼に構える。
すると、その動きに反応したかのように変異したISは一夏に襲い掛かった。
一撃目で一夏の剣を弾き、二撃目で一夏自身に攻撃する。
一夏はその剣を腕に受け、吹き飛ばされた。
その一撃でISが強制解除され、一夏の腕には刀傷が出来ていた。
だが、一夏は立ち上がると、そのまま生身でも向かって行こうとする。
「一夏!? 何やってるの!? 死ぬ気!?」
その一夏をシャルルが押し止めた。
「離せ! あいつ! ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」
一夏は激昂する。
何故なら、目の前の変異したISは千冬が現役自体に使っていた専用IS『暮桜』の模倣であり、千冬の剣技を使ったからだ。
そして、その剣技は一夏が初めて千冬から教わった『真剣』の技でもあった。
大その剣技を、何処とも知らぬ相手に真似された事が、一夏にとって許せることでは無かったのだ。
「どけよシャルル! 邪魔するならお前も……!」
「いい加減にして!」
ISを解除したシャルルが平手を見舞う。
「一体どうしたの!? 分かるように説明して!」
「あいつ……あれは千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」
それを聞いて、シャルルは若干呆れていた。
目の前の変異したISが、初代ブリュンヒルデである千冬のデータが使われている事は分かった。
だが、それを一夏が許さないというのはおかしな話だ。
世界最強のIS操縦者のデータが調べられるのは当然だし、その強さに至る為に、千冬の真似をするのも当然の事だ。
そんな事世界中の国で行われている事だろう。
一夏はそれを、自分の都合と感情で許さないと喚いているだけだ。
「理由は何となくわかったけど、今の一夏に出来る事は無いよ。白式のエネルギーも残ってないのに………」
「ぐっ」
さっき叩かれた事で、幾分か頭の冷えた一夏は現実に直面する。
「それに、すぐに教師たちの鎮圧部隊が送り込まれてくるよ。一夏がやらなくても状況は収拾される。だから………」
「だから、無理に危ない場所へ飛び込む必要はない、か?」
「そうだよ」
シャルルは肯定する。
だが、正論を言われた程度で一夏は止まらない。
「違うぜシャルル。俺が『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ。これは『俺がやりたいからやる』んだ。他の誰がどうだとか、知るか。大体、ここで引いちまったら、それはもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」
一夏はそう言い切る。
シャルルが言い淀んだ時、
「言いたいことはそれだけ? 自殺志願者さん?」
ISを解除した葵が歩み寄ってきてそう言った。
「何ッ!?」
「悪いけど、私は君を行かせないから。別に君が死ぬのは勝手だけど、近くに居た私達に責任押し付けられたら溜まった物じゃないし」
「か、神代さん!?」
シャルルがその言葉に驚く。
「………言った筈だぜ。他の誰がどうだとか、知るかってな………!」
一夏はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「うん、聞いたよ。だから私が言いたい事はね、『私も君の気持ちなんか知った事じゃない』って事だよ」
「なっ!?」
葵の言葉に一夏は驚愕する。
「………俺の邪魔をするなら、力付くでも………!」
一夏は鋭い目つきで葵を睨む。
だが、その程度の脅しでは、葵は全く動じない。
「そうだね。どっちも譲れないっていうのなら、後は力尽くしかない。だから私も、力尽くで君を止めるよ」
葵がそう言った瞬間、一夏の目の前に踏み込んでいた。
一夏がその事に驚愕する間もなく、
「ぐふっ!?」
一夏の腹に葵の拳が突き刺さっていた。
当然だが、一夏はそのまま気絶する。
「はい、自殺志願者確保♪」
葵はあっけらかんとそう言う。
「……………………」
シャルルはそんな葵を見て唖然としている。
だが、すぐに気を取り直して、
「えっと、これからどうするの? 下手に動くと危なそうだけど………」
シャルルがそう聞くと、
「ああ、大丈夫。そろそろ来ると思うから」
葵は全く心配して無さそうな声色でそう言った。
「へっ?」
シャルルが思わず声を漏らす。
その瞬間、ピットの出口から何かが飛び出す。
それは地を駆け、葵達の前に辿り着いた。
それは青いマントを翻し、金色の身体を持つ竜戦士。
「グレイドモン!」
葵が声を上げる。
「えっ? 何!? これって一体何!?」
グレイドモンを初めて見るシャルルはいい感じに混乱している。
「安心して。これはグレイドモン。大士のドルモンが進化した姿だよ」
葵がそう言うと、グレイドモンが双剣を抜いて構える。
その瞬間、それに反応したのか変異したISが動き出し、剣を構えてグレイドモンに斬りかかる。
「………………」
だが、グレイドモンは片方の剣でその一撃を軽く受け止めると、剣先で相手の剣を絡めとり、振り上げると同時に弾き飛ばした。
グレイドモンはそのまま双剣を上段に振り上げると、
「ハッ!」
一瞬にして振り下ろし、変異したISの両腕を斬り落とした。
「グレイドモン! そのISの胴体部分にラウラちゃんがいるから助け出して!」
葵の言葉にグレイドモンは頷くと、双剣を十字に構え、
「セイッ!」
目にも止まらぬ剣速で、正確にそのISの表面のみを切り裂いた。
そのISの胴体部分が十字に切り裂かれ、その傷口からラウラが力無く倒れてきた。
そんなラウラを葵が優しく受け止める。
「おかえり、ラウラちゃん………」
薄く目を開けたラウラと目が合った葵は、微笑みながらそう呟くのだった。
IS編第7話です。
中途半端な所で終わったけど力尽きました。
今回はAICを力尽くで破っちゃう大士君と、自殺志願者を殴って止める葵ちゃんの回でした。
そんでヒロインとか言いつつ中々出番の無い楯無さんの登場です。
あとはグレイドモンだしたけど、実際葵1人で瞬殺出来たんですけどね。
グレイドモンで倒したのは、騒ぎになるのを出来るだけ抑えるためっていうのがあります。
葵が生身で圧倒するよりかはマシでしょう。
とは言え、近いうちにバレますが。
次は戦後処理から福音戦の直前までかな?
お楽しみに。
福音戦が終わったら?
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このままIS編続行!(アニメ2期まで)
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オリジナル異世界編スタート!